この魔力使いに祝福を!   作:珈琲@微糖

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第十四話 - この剣の勇者に鉄槌を!

「あーるーはれたーひーるーさがりー、いちばーへつづーくみちー…」

 

湖の浄化と言うクエストを終え、カズマ達はギルドへと戻っていた。

馬車は既に町の住宅街まで入ったが、アクアは一向に檻から出ようとしない。 その異様な光景は町の住人の視線を集めるのには十分すぎた。

 

「お、おい…アクア…いい加減に檻から出てこいよ。もう町の中入ってるし、モンスターも襲ってこないから。」

 

「…嫌よ、外の世界は怖いもの…この檻の中だけが私の聖域…暫く出ないわ…」

 

カズマが外に出るよう促すが、アクアは体育座りをしたまま一向に檻から出ようとしない。

 

「…あぁ、うん。まぁ、このままギルドまで連れていくしか無いんじゃないか? シュワシュワでも奢ってやればいつもみたいに調子を取り戻すだろうさ。」

 

「…それで直ってくれたらいいんだけどなぁ…」

 

普段、割と毒舌なカズマもこの時ばかりはアクアを心配する。 …その時だった。

 

「め、女神様ァァ!? どうしてこんな所に!」

 

どこかからそんな声が聞こえると、青の鎧を身に纏った勇者風の男がアクアの乗る馬車の荷台に駆け寄ってきた。

 

「女神様!女神様じゃないですか!」

 

そう言うと、勇者風の男は()()()()()()()()()()

それを見たカズマ達は各々驚愕の声をあげる。

 

「何をしているのですか女神様!こんな所で…」

 

「…オイ、私の仲間に馴れ馴れしく触れるな。 …貴様、何者だ。」

 

勇者風の男の肩を掴みながら、ダクネスが睨みつつ男に問いた。

 

「…あれお前の知り合いだろう? 女神って言ってたし…」

 

「…もしかしたら過去に送った転生者かもな…アクア、見覚えはないか。」

 

ダクネスが男を引き付けている間、カズマとアキラは檻の中にいるアクアに男について聞く。 …それを聞いたアクアは、段々と目のハイライトを取り戻していった。

 

「女神…そうよ、女神よ私は!」

 

つい先程まで、自分のことを女神だと忘れていたかの様な口ぶりをしながら、アクアは調子を取り戻し檻の中から出てくる。 その後、荷台の上から男の前にふんぞり返りながら立った。

 

「さぁ!女神である私に何の用かしら? …アンタ誰?」

 

「僕です!ミツルギ キョウヤ(御剣響夜)です! あなたからこの〈魔剣グラム〉を頂き、この世界へ転生したミツルギ キョウヤです!」

 

「…へっ?」

 

「…は?」

 

「…えっ?」

 

アクア、カズマ、ミツルギの三人が声を上げた。

 

「…あぁ、居たわね、そんな人も!忘れてたぁ。 …結構な数の人間を送ったから、忘れてもしょうがないわよねぇ!」

 

「…カズマさん、あれは完全に忘れてましたね。」

 

「…あぁ、まぁそうだろうとは思ったがな。」

 

そう言ってアクアはミツルギを誤魔化す。

 

「え、えぇ…お久し振りです、アクア様。 あなたに選ばれし勇者として頑張っていますよ。 …所で、アクア様は何故、檻の中に閉じ込められていたのですか?」

 

本人曰く、外の世界は怖いから。だそうです。

 

 

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「はぁぁぁ!?!? 女神様をこの世界に引きずり込んでぇ!? しかも檻に閉じ込めて湖に漬けたぁ!? 君は一体何を考えて居るんですかぁ!?」

 

そう言ってミツルギはカズマに掴みかかる。 その横で、騒ぎの中心人物であるアクアがミツルギを制止にかかる。

 

「ちょっとぉ!私としては、結構楽しい日々を送ってるし、ここに連れてこられたことももう気にしてないし!」

 

「アクア様!この男にどう丸め込まれたかは知りませんが、あなたは曲がりなりにも女神ですよ!それがこんな…」

 

カズマに対し、言いたい放題言うミツルギに軽い憤りを感じていた。

 

「…めぐみんさん、ダクネスさん。あの男どう思います?」

 

「…そのさん付けはやめてください。 …まだ今日の分の爆裂魔法は放っていませんでしたよね?」

 

「やめておけめぐみん。確かに発言はアレだが、こんな町中で打ったら大変なことになる。」

 

イライラした様子を全面的に出すめぐみんと、冷静ではあるが軽く不快感を持っているダクネス。確かに、この個性的過ぎるパーティをまとめあげているカズマの苦労を知るこちらからすると、あのような発言は逆鱗に触れるような発言だろう。

 

「…因みにアクア様は、今何処で寝泊りをしているんです?」

 

「どこって…馬小屋だけど…」

 

それを聞いたミツルギは、カズマに掴みかかっている手の力を更に強める。

 

「おい、いい加減にその手を離せ!礼儀知らずにも程があるだろう!」

 

「…ちょっと打ちたくなってきました。」

 

「流石にそれはやめとけ、カズマ諸共爆裂しちまう。」

 

そう言ってめぐみんを制止する。 そうしていると、今度はミツルギはダクネス達の方を見る。

 

「君達は…"クルセイダー"に"アークウィザード"か…もう一人、"冒険者"も居るようだが。 パーティメンバーには恵まれているようだね。 …君はこんな優秀そうな人達が居るのに、アクア様を馬小屋で寝泊りさせて恥ずかしくないのかい?」

 

「…なぁなぁ、冬場とかならまだしも、冒険者に成り立てって馬小屋生活が普通じゃないのか?」

 

「あぁ、それね…恐らく、この男は特典で貰ったあの魔剣で、初めから高難易度クエストを受けていたんでしょうね。 …居るのよ、貰ったチートの力を自分の力だと思い込んで無茶する人。」

 

成程、と言って手を打つ。確かにそれなら、馬小屋生活なんて知らないだろう。 …労働者として生活していた俺やカズマ達は、どうしてこんな人に説教されなければいけないのだろうか。

 

「君達、これからは"ソードマスター"の僕と一緒に来るといい。 高級な装備品も買い揃えてあげよう。」

 

ミツルギがダクネス達に向かってそう言うが、言われた当人達は白い目をしていた。

 

「…ちょっと、ヤバイんですけど。あの人、本気で引くくらいヤバイんですけど。ちょっとナルシストも入ってて相当ヤバイんですけど。」

 

「どうしよう…あの男は生理的に受け付けない…殴られる方が好きな私だが、あの男だけは無性に殴りたいのだが…」

 

「…打ってもいいですか?打ってもいいですか?」

 

「えぇっと、俺のパーティの人達は、満場一致で貴方のパーティには行きたくないようです。それでは俺達はクエストの報告もあるので失礼します。」

 

そう言って穏便に立ち去ろうとするカズマ。 しかし、その前をミツルギが再度立ち阻む。

 

「待て!」

 

「…退いてくれます?」「…流石にこれ以上相手している暇はないんだが。」

 

軽く呆れるカズマと、普段の雰囲気をかなぐり捨てて、真面目な声を出すアキラ。

 

「悪いが、こんな境遇にアクア様を置いてはおけない。 …勝負をしないか? 僕が勝ったら、アクア様を僕に譲ってくれ。()()が勝ったら、なんでも言う事を聞こうじゃないか。」

 

()()って事は、二対一で勝負しようと言っているのか?」

 

「あぁ、そうだ。」

 

「よし乗った」「行くぞぉぉ!!」

 

そう言って、カズマは剣を出し不意打ちを仕掛ける。それに合わせ、アキラはナイフを出しながら後ろに回り込み、行動範囲を制限する。

 

流石、レベルが高い"ソードマスター"と言うべきか。カズマの奇襲と、アキラの行動を察知し、二つの攻撃を避けつつ剣を取り出す。

 

「今だ、カズマ!」「おう!《スティール》!!」

 

カズマが《スティール》を唱えると、ミツルギが手に持っていた魔剣が、カズマの手に渡る。

…その後、剣の面の部分をミツルギの頭に落とし、勝負は幕を下ろした。

 

「…言いたい放題言いやがって。」

 

そう言って、魔剣を地面に突き刺す。

刹那、どこかから女性の声がした。

 

「ひ…卑怯者…卑怯者卑怯者!」

 

「あんたら…こいつの仲間か。」

 

視線の先には、面積の小さい服を身につけた女性二人が、こちらを見ていた。

 

「そうよ!この卑怯者の最低男!」

 

…二対一とは言え、駆け出しの"冒険者"に勝負を挑む"ソードマスター"。どちらの方が卑怯者なのだろうか。

 

「グラムを返しなさい!その魔剣は、キョウヤにしか使えないんだから!」

 

「えっ、そうなの?」

 

「〈魔剣グラム〉はその痛い人専用よ。他の人が使っても、ちょっと切れ味のいい剣程度だわ。」

 

アクアがそう言うと、カズマは少し考え込む。

 

「…なぁ、アクア。"アークプリースト"のスキルに、魔力増強ってあるのか? あったらちょっと強めにかけて欲しいんだが。」

 

「そりゃ勿論あるけど…何に使うの?」

 

「ちょっとしたドッキリに。」

 

ふーん。と言うと、アクアはアキラに《魔力増強》を付与する。

 

「ねぇねぇ、そこの君達。あの人専用の魔剣って…こういうやつ?」

 

スキルの付与を確認すると、ローブの下から自分の特典を使い、〈魔剣グラム〉を複製する。

その様子を見て、女性達は驚愕の表情を隠せないでいる。

…やばい、魔力使いすぎて頭痛がしてきた。

 

「…なっ、ななっ…なんでアンタがその剣を持ってるのよ!それに本物はそこにもあるし…」

 

「んー、なんであるかって言われたら…内緒かな。それに、この剣も本物だよ?」

 

ローブの下から、普通のナイフを取り出し〈魔剣グラム〉を軽く当てる。…直後、ナイフはポッキリと折れた。

驚きで声も出ない女性達を横目に、〈魔剣グラム〉を魔力に戻す。

 

「おぉ、すげぇ。…こっちの剣もついでに貰っていくか。」

 

タネを知っているカズマは軽く反応すると、地面に刺さった魔剣を抜きギルドの方へと歩き出す。

 

「…ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」「こっ…こんな勝ち方、私達は認めない!」

 

魔剣を奪われまいと、怯えつつもカズマとアキラに言う。

…カズマが立ち止まった。

 

「…真の男女平等主義者な俺は、例え女性が相手でもドロップキックを食らわせられる男…手加減してもらえると思うなよ。 …公衆の面前で、俺の《スティール》が炸裂するぞぉ…」

 

手を変態のように動かしながら、黒い笑みを浮かべて女性達の方を見る。

自分達の格好と、カズマの手の動きからここで《スティール》をされたらどうなるか…。

結局、女性冒険者達は悲鳴を上げながら逃げていった。

 

「…カズマさん…流石にあれは…ちょっと…」

 

やっちまった。周囲の住民どころか、自分のパーティメンバーからも白い目(一人を除き)をされたカズマの顔は、そう言っているようでした。

 

 

====================

 

 

翌日、ギルドを訪れるとまたもやアクアがルナさんの胸ぐらを掴みかかり抗議をしていた。

曰く、ミツルギによって壊された檻の修理代が報酬から天引きされ、報酬が三分の一になってしまったらしい。

 

「あの男…今度会ったら必ず《ゴッドブロー》を食らわせてやるんだから…」

 

そう言った直後、背後から声がした。

 

「探したぞ!サトウ カズマ!コセキ アキラ!…君達の事はある盗賊の少女と、町の噂を、聞いたぞ。 パンツ脱がせ魔と、ロリコンだってね!」

 

…はい? いや、カズマがパンツ脱がせ魔だと言うのは分かる。 ロリコンってなんだ。

 

「他にも、女の子を粘液塗れにするのが趣味だったり、粘液塗れになった少女を背負って歩いていたなんて噂も聞いたな。鬼畜のカズマに、ロリコンアキラだってね!」

 

「お、おい待てぇ!それ誰が広めたのか詳しくぅ!」

 

そう言って否定はしようとしていないカズマを、ダクネスが期待するような表情で見つめていた。

…反面、アキラはめぐみんから白い目で見られていた。

 

「へぇ…アキラ、私以外にそんなことをしていたんですね…」

 

「いや、そんなことをする訳ないだろう!? 粘液塗れの子を運んだのもめぐみんの一回だけだし、そもそもこの町で親しい女の子なんてめぐみんくらいし…か……っ!」

 

必死になって否定している内に、アキラもめぐみんも噂になっているのが自分自身だと言うことに気が付き、顔を真っ赤にする。

 

「…その言葉、信じますからね…」

 

「…あぁ、嘘はつかない…けど…っ」

 

真っ赤になった顔を隠すようにめぐみんは帽子を深く被り、アキラはローブに付いているフードを深く被る。

 

…後ろの方のゴタゴタ騒ぎも落ち着いてきたようで、隣のアクアが上機嫌でシュワシュワを飲みながらカエルの唐揚げを頬張っていた。 恐らく、ミツルギから弁償代を請求したのだろう。

 

…恥ずかしすぎる、もう帰ろう。…そう思った時だった。

 

「緊急!緊急! 全冒険者は装備を整えて、至急正門前に集まってください! …特に、サトウ カズマさんとその一行は大至急でお願いします! …繰り返します───」

 

…嗚呼、この異世界ライフに、平穏は無いのだろうか。




色々と盛り込んでいたら、いつの間にか話が長くなっていた。珈琲@微糖です。
無事予定していたミツルギとの初邂逅まで終わらせられたのですが…いやぁ、今回も長くなった。
そして恐らく、ベルディア戦は更に長くなると思います。

と言うことで、特に後書きに書くこともないのでここら辺で終わりにしたいと思います。
ここまでの閲覧数ありがとうございました。また見ていただければ幸いです。

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