この魔力使いに祝福を!   作:珈琲@微糖

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第十三話 - この汚れた湖に救済を!

「それで、今日は例の湖の浄化クエストの方か。」

 

ゾンビメーカーの依頼が失敗に終わった翌日、ギルドでパーティメンバーと合流し、残っていた湖の浄化のクエストを受けることにした。

 

「あぁ、そうなんだが…アクア、湖の浄化なんて本当に出来るのか?」

 

「馬鹿ね…この私を誰だと思っているのかしら。名前や外見からして、私が何を司る女神なのか分かるでしょう?」

 

「宴会の神様だろ?」

 

「ちっがーう! 水よ、この美しい水色の髪と瞳の色を見れば分かるでしょう!?」

 

「じゃあそれを受けろよ。 …お前1人で受ければ、報酬も経験値も独り占め出来るだろう?」

 

カズマとアクアの夫婦漫才を見ていたら、どこかおかしい点があることに気がついた。

 

「…めぐみん、ダクネス。聞きたいんだが、本当に目的はレベル上げなのか? …今、報酬がどうとか聞こえたような気がするんだが。」

 

「それなんだが、今回のクエストはアクアとカズマが決めたのだが…アクアがレベル上げと金策の両方を狙えるクエストを選んだみたいだな。」

 

「えぇ…」

 

「まぁ、湖の浄化でもプリーストとしては充分な経験値は貰えると思いますけど。」

 

「…ま、当初の目的を達成出来るならいいとは思うが…おーい。そこのお二人さん、結局どうやってクエストをこなすんだ?」

 

二人から事情を聞き終えた所で、カズマとアクアの夫婦漫才も丁度終わったようで、話の結論を聞く。

 

「あぁ、それなんだが…俺にいい考えがある。」

 

カズマさん、それ、ダメなやつです…

 

 

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「…ねぇ、カズマさん…私、これから売られていく希少モンスターみたいな気分なんですけど…」

 

アクア曰く、水に触れているだけでも浄化が出来るようなので、ギルドからモンスター捕獲用の借り、その中からアクアが水を浄化する。…と言うのがカズマの考えた策だ。

 

「と言うか、本当に大丈夫なのか? モンスター捕獲用とは言え、半日もかかるんだろう?」

 

「それについては問題ない。 もしもの時は檻を引き上げるし、どうしようもなくなったら爆裂魔法もあるだろう?」

 

「…それ、泉ごと吹っ飛んでまたクエスト失敗するやつだよな?」

 

恐らく、幸運値の高いカズマが決めた策だから、色々あってもクエストのクリア自体は可能だろう。 …アクアの幸運値が低いのが少し不安だが。

そんなことを考えていると、不意に声をかけられた。

 

「…そんなことは余程のことがない限り起きないから大丈夫だとは思います。 …所で、どうしてアキラは一人だけ荷台に乗って楽をしているんですか?」

 

…荷台の後ろに勝手に乗って楽をしているアキラに、めぐみんはとてもいい笑顔で言った。

 

「…そこに荷台があったから?」

 

「…まぁいいでしょう。 カズマー、今回のクエスト、アキラもこの檻の中に入りたいと言って…「いやぁ、こんないい天気の下歩くのも楽しいなぁ!」

 

めぐみんがカズマにそう言うと、アキラは多少食い気味で荷台から降り、そう言って歩き出す。

 

「…アキラの奴、完全にめぐみんに尻に敷かれてるな。」

 

「そうだな。 …だが、あのような幼げのある子に尻に敷かれるというのも…」

 

「あーもうだめだこのくるせいだー…」

 

…息を荒らげながら興奮するクルセイダー(ダクネス)と、それに呆れる冒険者(カズマ)の図がそこにはあった。

 

 

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「(…なんだろう、この図は。)」

 

檻に入れられ、湖に漬けられているアクアを木陰から四人で見守ると言う、非常にシュールな光景が広がっていた。

 

「アクアー、何かあったら言えよー、すぐに引き上げてやるからなー。」

 

半分虚ろな目をして、檻の中で体育座りをするアクア。 …恐らく本人は紅茶のティーパックか、鍋で出汁を取られている昆布のような気分だろう。

 

 

========

 

 

あれから、2~3時間は経っただろうか。

ブルータルアリゲーターが住み着いたと言う湖からは、一向にモンスターが現れず、穏やかに時間は経っていく。

 

「…モンスターは出てこないな。」「…そのようですね。」

 

「にしても、今日は一段と大人しいな、お前。」

 

そう言ってカズマはめぐみんの方を見る。それに気付き、ふぇ。と不意に声を上げた。

 

「いつもなら中二っぽいこと言って、湖ごとぶっ飛ばそうとするだろう?」

 

「確かに…」

 

カズマが言うことにダクネスが同意する。そうすると、慌ててめぐみんが修正する。

 

「二人は私にどのようなイメージを持っているんですか!…我が究極の爆裂魔法は、ワニ如きに使うものではないのです…」

 

「そうだぞー。最近は割と頭のおかしい爆裂娘と言うよりは、節度を知り始めた爆裂娘って言う方が正しいし、それにもう大きくて硬いものでしか満足できないだろう?」

 

「そうです…って、なんですかその不名誉なあだ名は!それに何言わせてるんですか!…確かに、あの古城に打ち始めてからは、あれくらい大きくて硬いものに打たなければもの足りませんが…」

 

先ほどの仕返しとばかりにからかうアキラと、それを肯定とも否定とも取れないような様子で受け取るめぐみん。

しかし、その会話を聞いていた二人は、顔を真っ赤にしていた。

 

「大きくて…硬いの…っっ」「ばっ…二人ともこんな昼間っからなんて会話してんだ!」

 

「何って…やっぱりド派手な魔法は標的が大きいもの程かっこいいだろう?」

 

「流石、毎日爆裂魔法を共に打ってきただけあります…アキラも爆裂道が分かってきましたね!」

 

そう言ってめぐみんとハイタッチをするアキラ。 …その様子を見て、ため息をついたカズマはアクアに声をかける。

 

「おーい、アクアー。湖の浄化はどんなもんだー?」

 

「浄化は順調よー。」

 

「水に浸かりっぱなしだと冷えるだろー? トイレ行きたくなったら言えよー。」

 

カズマさんから、ナチュラルなセクハラ発言が飛び出す。 …本人からすると気遣っているのが、余計にタチが悪い。

 

「っ! アークプリーストはトイレなんて行かないしー!」

 

そう言って否定するアクア。

 

「なんだか大丈夫そうですね。 …因みに、紅魔族もトイレなんて行きませんから。」

 

「お前らは一昔前のアイドルか…ついでに、アキラさん程、冒険者を極めた者もトイレには行かないからな。」

 

「そう言うお前も人の事言えねぇこと言うなよ。」

 

「…っぅ…わたしもぉ…クルセイダーだから…トイレは…トイレはぁ…うぅ…」

 

「ダクネスも対抗するな。…トイレに行かないって言うめぐみんや、アクアにアキラには、今度日帰りじゃあ終わらないようなクエストを受けて、本当にトイレに行かないか確かめてやるから。」

 

「やっ、やめてください!紅魔族はトイレなんて行きませんよ! …ですから、やめてください。」「はっ…俺は一体何を…さっき言ってたことが思い出せない…っ!」

 

そう言って、半ば先ほどの発言が嘘だったかのような反応をとる。 …その様子を、ダクネスは頬を赤らめながら見て

 

「…流石は私が見込んだ男だ…」

 

みたいな反応をしていた。

 

「しかし、何事も起きませんね。このまま何事も起きなければいいのですが。」

 

「…ここまで何も起きないなら、クエストはもう成功したも同然だな!」

 

「馬鹿っ!お前らその発言は…」

 

アキラとめぐみんが、そのような何か起きそうなこと言う(フラグを建てる)と突如、アクアの方から悲鳴が上がる。

 

「か、カズマぁぁぁ!!!なんか来た、ねぇ、なんかいっぱい来た!!かじゅま、かじゅまさぁぁぁん!!!」

 

突如、無数のワニが檻の周りを囲うように現れた。

 

それから、アクアは女神の浄化能力に加えて、一心不乱に浄化魔法を唱えている。

 

「《ピュリフィケーション》!《ピュリフィケーション》!《ピュリフィケーション》!ピュリフィ…ひぃぃぃ!!!《ピュリフィケーション》!《ピュリフィケーション》! …檻が、檻が変な音立ててるんですけどぉぉ!!!立てちゃ行けないような音を立ててるんですけどぉぉ!!」

 

「アクアー、ギブアップなら言えよー。鎖引っ張って、助けてやるからなー。」

 

「嫌よー!ここで諦めたら、報酬が貰えないじゃないー! …きゃぁぁぁ!!!メキッて言ったぁ!今さっきよりも鳴っちゃいけない音が聞こえたぁぁ!!」

 

あれ程必死なアクアを初めて見た、と思うアキラ。不意に、ダクネスからこんな声が聞こえた。

 

「…あの檻の中、少しだけ楽しそうだな…」

 

「…行くなよ?」

 

「…なぁ、助けなくてもいいのか?」

 

「…変に刺激して、あの檻が壊されたら大変だからな。一応、助けられるように準備はしておいてくれ。」

 

万が一の時の為、ローブの下でナイフを用意したが、それを使うことは無かった。

 

 

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「…浄化は完了したようですね。ワニ達もどこかに行ったようです。」

 

あれから七時間後、無事浄化を終えたアクアは檻の中で目を濁らせていた。

 

「アクアー、無事か?」「…アクア?」

 

声をかけられたアクアは、檻の中で泣いていた。 …確かに、あのワニの群れは相当なトラウマになるだろう。

 

「…なぁアクア、話し合ったんだが…今回の報酬は俺達は要らないから…」

 

「そうだぞアクア、30万エリスは全てアクアのものだ!」

 

「そうですね、今回は全てアクアの働きですから!」

 

「確かに、今回のクエストは俺達は何も出来なかったしな。」

 

カズマ達はそう言ってアクアを励ます。…が、一向に檻から出ようとしない。

 

「お、おい…もうワニは居ないから、早く出てこいよー…」

 

「…このまま連れてって…」

 

「…えっ?」

 

「…檻の外の世界怖い、このまま町まで連れてって…」

 

訂正、トラウマになるであろう。ではなくトラウマになっていた。

 




タイトルのネタが尽き始めました。珈琲@微糖です。
今回で出来ればベルディア前まで進めたいなぁと思っていたのですが、思いのほか量が多くなりました。

ここまで書いてアニメでは5話の半分、小説では1巻すら終わってないとはどれだけ掛かるのやら。

次回は御剣登場回〜ベルディア前までを予定しています。どれだけの長さになるかは分かりませんが。

と言うことで、次回以降もまた見ていただければ幸いです。

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