では、どうぞ!
セリーのテレポートを使って特別医務室に移動した一樹。今、その中にいるのは一樹と束だけだ。
「ゴボッ!!?」
「もう少しだから!頑張ってかずくん!」
かつてないほど神経を使って、一樹の体からバードンの毒を抜いていく束。
「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
「完全には抜けない…ごめんね、かずくん」
数時間後、何とか一命をとりとめた一樹は、普通の医務室へと移動させられた。
「…今、束さんが必死で薬を作ってるよ」
雪恵が、一樹にそう説明する。
「…そうか。なあ、お前の体は大丈夫か?」
「うん、私は実際に毒を受けた訳じゃないから」
「なら良かった…」
ホッとする一樹。これで雪恵が毒の影響を受けていたら、一樹は自分を許せなかっただろう。
「箒ちゃんが、『ごめんね』だって」
「ああ、そういえばあの生徒は無事なのか?」
「うん。織斑君の話だと、中学の同級生らしいんだけど…」
「…はぁ!!?」
「まさかお前もIS学園にいるなんて…言ってくれても良かったじゃないか。綾音」
「…恥ずかしかったんだもん」
「いやいや、女子からしたらIS学園に来るのって凄い大変らしいじゃん。代表候補とかじゃないとはいえ、実力で受かるのって凄いと思うぜ」
「…いっつもそうやって女の子を落とすんだから」
「訳わかりませんが!!?」
「……うん、あのやり取りをやるのは一夏と佐々木だ」
「……織斑君、幼馴染の私や箒ちゃん、鈴ちゃんと話す時みたいな感じだね」
「……いつも通りだろ?」
「…そうだったね」
遠い目をする雪恵に、苦笑する一樹。
「さて、とりあえず…雪、アレ取って」
「はい」
雪恵からブラストショットを受け取ると、一樹は一夏と話している綾音に向けて撃った。
「きゃっ⁉︎」
「おい一樹⁉︎いきなりはダメだろ⁉︎」
『ほう…私の粒子が埋め込まれてるのに気付かれたか。まあ良い、どうやらあの女は大してアイツに対して悪感情を持ってないようだしな。問題は…』
大熊山で傷を癒すのに集中しているバードンを見て、シャドウは呟く。
『この傷だらけのバードンだな。ここまでボコボコにやられるとは、正直想定外だ。面白くはなったがな…』
「綾音はやっぱりバスケ部なのか?」
「うん。これでもエースなんだよ」
中学時代と変わらず仲の良い2人、一樹は見慣れていたが、面白くないのは医務室のもう1人の住人だ。
「むぅぅ…一夏くん!私もかまいなさい!」
「あ、いたんですか楯無さん」
「さすがに酷すぎない⁉︎」
あまりの扱いに泣きそうになる楯無。
そんな一夏たちをスルーして、一樹は毒の激痛を耐えていた。
「かーくん、1週間は絶対安静だって。束さんが言ってたよ」
「…1週間」
絶対その前に動くことになるだろうな
一樹がそう読んでいたのを、雪恵は知らない。
数日後、大熊山からバードンが飛び出したとの連絡を受け、一夏たちは集合していた。
「良いか?今回はなんとしても我々で奴を倒さねばならん。しかし、奴の体内に毒があり、下手なところで爆破する訳にはいかないのも事実だ。そこで…」
中央のディスプレイに、地図が表示され、大熊山とIS学園を結ぶ線から少し逸れた島が映し出された。
「この島で奴を倒す。幸い、この島に人はいないからな。あまり気にせず奴を倒す事が出来る」
「しかし織斑先生、奴にはδ機の攻撃すら通用しなかったんですよ?」
実際に戦った一夏の言葉に、千冬は軽く頷く。
「確かにそうだ。その点は、開発者である束に直接エンジンを弄らせた。それで一応攻撃の威力と機動性を上げる事は出来たらしい…だが、かなりデリケート仕様になってしまったらしく、そんな長くは最大出力を出せないらしい」
「つまり…短期決戦って事か」
『ちーちゃんから聞いてると思うけど、今回の作戦はδ機であの怪獣の引き寄せた後、ウルティメイトバニッシャーでトドメ…かずくんは今動かせられないから、今回は絶対に成功させなきゃいけない…それを忘れないでね』
「「「「了解」」」」
出撃前の最終調整を行う一夏たち。
「織斑くん!」
「ん?綾音?どうした?」
δ機に乗り込もうとしていた一夏を呼び止める綾音。
「その…私は、前線に出れないから、無責任になっちゃうかもしれないけど…頑張ってね!!」
「…ああ、行ってくるよ」
学園から、チェスター4機が出撃する。
『Set into strike formation‼︎』
ラウラの指示で、一夏の乗るδ機以外が合体、ストライクチェスターとなる。
「…雪恵、体は大丈夫なのか?」
α機の後部座席に座る雪恵に、一夏は聞く。
『私は大丈夫。ありがとね織斑君』
一樹が早めに『繋がり』を切ったおかげで、雪恵はそこまで衝撃を受けずに済んだ。だが、大分軽減されていると分かってても、あの衝撃は辛いものだった。一樹が『繫がり』を切るのがもう少し遅かったら、雪恵はショック死してたかもしれない…
「…無理はするなよ」
『織斑君もね』
「…ああ、そうだな」
『一夏、私達は島上空へと移動する…頑張ってくれ』
「了解。ラウラ、みんなを頼むな」
『任せろ』
ストライクチェスターが進路を変え、δ機と別れる。
一夏は、無意識のうちに操縦桿を強く握っていた。
「…俺たちが、倒すんだ」
前方に、バードンの反応があった。
「今度は逃さねえぞ…」
学園に向かおうとするバードンに向けて、強化されたクアドラブラスターを撃った。
《クゥゥゥアァァァァ!!?》
怒ったバードンはδ機に向けて火球を放つ。
「当たるかッ!」
素早く操縦桿を倒して回避すると、ストライクチェスターの待つ無人島に向けてバードンを誘導する。
《クゥゥゥアァァァァ!!》
「そうだ!こっちに来い!」
δ機を追うように、バードンは飛ぶ。
《クゥゥゥアァァァァ!》
時折火球を吐いてくるが、一夏はそれを紙一重で避けていく。
「無駄に進路を変えられない…何としてもみんなと合流しないと!」
ブースターの出力を上げ、近付いてきたバードンと距離を取ろうとするが、バードンは更にスピードを上げてきた。
「ッ!!?」
『一夏あと少しだ!頑張れ!!』
ラウラから通信が入ってくる。だが、今の一夏にそれは聞こえなかった。それだけ、バードンが肉薄してきたのだ。
「(こいつが、こんなに速かったなんて…!!?)」
「かずくん、気休めかもしれないけど、痛み止め持って、きた…」
束は愕然としていた。何故なら…
寝ている筈のベッドに、一樹がいなかったのだから。
「かずくん!!?まさか!!」
「くそぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」
『『『『一夏ぁぁぁぁぁぁ!!』』』』
もうδ機のすぐ背後にバードンは迫っていた。今にもその口からδ機に向かって、火球を吐き出そうとしている。
そんなバードンのすぐ上に、高速で飛んでくる物体…ストーンフリューゲル。
その中で、一樹はエボルトラスターを引き抜いた。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「シェアッ‼︎」
《クァッ!?》
ウルトラマンは現れると同時に、バードンの首に足を巻きつけた。
《クゥゥゥアァァァァ!!?》
バードンはいきなり現れたウルトラマンの重量によって進路を変えさせられ、一夏に火球を放つまでは行かなかった。
「一樹!!?アイツまた無茶しやがって!!!!」
『一夏!急いで合体だ!!!!』
「分かってる!Set into hyper strike formation!!!!」
「シュウゥゥゥゥ…!」
《クゥゥゥアァァァァ!》
ウルトラマンとバードンは空中で取っ組み合い、無人島に飛び込むように着地した。
ピコン、ピコン、ピコン…
「グゥッ…」
既にウルトラマンのエナジーコアが鳴り響いてる。まだ毒が抜けきってないのだ。その証拠に、胸元を抑えて苦しんでいる。
「すぐに終わらせる!ウルティメイトバニッシャー、シュート!!!!」
戦闘を早く終わらせようと、一夏はウルティメイトバニッシャーを放つ。だが…
《クゥゥゥオォォォ!!》
バードンの放った火球に、相殺されてしまった…
「なっ!!?」
《クゥゥゥアァァァァ!!》
「フッ⁉︎グッ!?」
バードンは翼を羽ばたかせ、ウルトラマンに向かって強風を送る。
毒が抜けきっていないウルトラマンは、その強風に耐えられずに吹き飛ぶ。
「グアァァァァァァ!!?」
背中を強打したウルトラマンに向かって、バードンはその毒の嘴を振り下ろしてくる。
ドンッ!ドンッ!!ドンッ!!!
何とか首を動かしてそれを回避するウルトラマン。しかし、このままではジリ貧だ。
「かーくん!!」
雪恵が、ウルトラマンを援護しようとバードンの背中にスパイダーミサイルを撃つ。
《クゥゥゥアァァァァ!!?》
背中にスパイダーミサイルが命中したことにより、バードンは怯んだ。
その隙に、ウルトラマンはバードンから離れてパーティクルフェザーを放つ。
「フッ!ハッ!」
バードンの喉元に見事命中するが、バードンはお返しとばかりに火球を連続で吐いてきた。
《クゥゥゥアァァァァ!!》
ウルトラマンはそれを両手を顔の前でクロスすることで受け止める。だが…
「グッ⁉︎グゥッ!?グアァァァ!!?」
3発目の火球に耐えきれずに、吹き飛ばされる。
《クゥゥゥオォォォ!!》
バードンは空中に上がり、急降下の勢いを乗せてウルトラマンに突進しようとする。
「フッ⁉︎シュアッ!!」
それに気付いたウルトラマンは、嘴を掴み、何とかバードンの突進に耐える。
「シュウゥゥゥゥ…デェアァァ!!」
そのまま大きく振り回し、バードンを投げ飛ばした。
《クゥゥゥオォォォ!!?》
そしてウルトラマンは、パーティクルフェザーをバードンの翼に向かって連射した。
「フッ!ハッ!シェアッ!」
《クゥゥゥアァァァァ!!?》
パーティクルフェザーの連発により、バードンの翼に切れ目が入り、飛べなくなった。
「シュウッ!ハァァァァァァァァァァァァァ……!!!!」
ウルトラマンは両手を胸の前でクロスし、ゆっくりと広げる。
すると、ウルトラマンの全身が赤く光り、超高温の炎がその身を包み始めた。
「かーくん!その技はダメェェェェェェェェェェェェ!!!!」
セリーから、その技の特性を聞かされていた雪恵が必死で叫ぶ…
「アァァァァァァァァ……!!!!」
ウルトラマンを包む炎が、あまりの温度に赤を通り越して白くなる。
《クゥッ!!?》
流石のバードンも、全身に炎を纏うウルトラマンを見て数歩下がる。
その手を、来るなと言わんばかりに振るう…
「シュウッ!!デェアァァァァァァァァァァ!!!!」
ウルトラマンは、全身に炎を纏ったままバードンに向かって突進。そして…
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!
かつてないほどの、大爆発が起きた。
あまりの爆発に、ハイパーストライクチェスターが大きく揺れる。
「クソッ!シャル!姿勢制御に全スラスターを使ってくれ!!!!」
『分かった!』
どうにかしてその爆発をやり過ごすと、そこには
「ッ!!?アイツは…!!?」
『一夏!前方十時の方向を見て!!』
鈴の言葉に、一夏がそこを見ると、光の粒子がゆっくりと集まり出し、ウルトラマンの姿となった。
「ファッ、フッ、フッ…」
しかしウルトラマンは膝をついて、倒れこむようにして消えてしまった。
「ッ!!?みんな!着陸してアイツを探すぞ!!」
『『『『了解!!』』』』
「ウグッ…あぁ…」
一樹はウルトラダイナマイトを使った影響により、その体に大ダメージを負ってしまった。
「ミオを連れてこなくて、正解だったな…ゲホッゲホッ、ガハッ!」
しかし、ウルトラダイナマイトの熱量によって、体内のバードンの毒はどうにか吹き飛ばせた。
一樹にも、一か八かの賭けだった。
「(これで毒は消えてませんでしたってなったら…どうしようも無かったからな…)」
……ず……い
「(ん?)」
か……く……ん
声がうっすらと聞こえる。恐らく一夏達が自分を探してるのだろうと一樹は判断したが、返事をする気力が無い。
「(ごめん……俺、落ちるわ……)」
ウルトラダイナマイトは一樹の想像以上にダメージが大きかった。
そして疲労も大きく、一樹は意識を手放したのだった…
参考までに、
一樹のウルトラダイナマイトは、タロウやメビウス以上に危険です。
下手したら1発やっただけで死にます。
だからあくまで切り札なのです。