人と光の“絆”   作:フルセイバー上手くなりたい

90 / 150
タイラントを相手に、彼はどう戦うのだろうか…


Episode85 暴君-タイラント-

ドックン

「ッ!見つけた!」

漸く懐のエボルトラスターが反応を示した。反応の元へと駆け出す一樹。

 

 

その頃、学園のレーダーにも反応があった。

「…行くか」

格納庫へ向かって駆け出す一夏。

「一夏⁉︎」

「いっくん⁉︎」

 

『さあ!暴れろタイラント‼︎本能の赴くままになぁ!!』

とあるビルの屋上でブラックエボルトラスターを振るい、タイラントを呼び出すシャドウ。

《ギャオォォォォ!!!!》

右手の鎌、左手の鉄球を振り回して暴れるタイラント。

『ははは!良いぞ良いぞ!その調子で暴れて、奴を呼び出せ!』

嬉しそうに叫ぶシャドウの背中を、縛られたままの箒たちが見ていた。

「狂っている…!」

憎々しげに呟くラウラ。それを耳ざとく聞いていたシャドウ。

『忘れたか⁉︎あのタイラントは、お前たちの悪感情エネルギーから生まれたということを‼︎』

「「「「ッ!!」」」」

シャドウの言葉に、箒たちの体が震える。自分たちの悪感情が、アレを生み出したということに。

『さて、そろそろ奴が来る…』

シャドウの言葉は最後まで続かなかった。突如屋上の扉が吹っ飛び、シャドウへ激突した。

『グッ!!?』

土煙の中から放たれる6発の波動弾。シャドウはそれを避けるが、箒たちには全員1発ずつ命中。箒たちの中に潜んでいたシャドウの粒子を消滅させた。

『いきなりご挨拶だな、ウルトラマン』

マントに付いた土埃をはたきながら、シャドウは土煙を方を向く。

「ハア、ハア、ハア!」

土煙が晴れたそこには…息を切らし、壁に寄りかかった状態でブラストショットを構える一樹の姿があった。

「…どうやって、俺に気付かせずに出来た」

ブラストショットを構えたまま、一樹は聞いた。

一夏ならともかく、一樹にはエボルトラスターがあるのだ。シャドウの粒子なら、エボルトラスターが感知した筈なのだ。

『正直なところ、私もそれが分かっていない。ひとつの可能性としては、あくまで私の粒子であって、ビースト細胞では無かったから…というくらいか』

「屁理屈、と言いたいが…こっちにも否定する材料が無い。だが、あそこまで怨念を増幅する以上、お前の力が必要な筈だ」

『なにも常に増幅させているわけではない。貴様が以前私を倒してから、何度ウルトラマンとして戦った?』

その回数、5回。

「…まさか」

『そうだ。貴様らが戦っている時は、私の力を使ったところでビースト反応に差は無い。貴様が戦っていた戦闘の回数分、怨念の数値を2倍にしていただけだ』

つまり、2の5乗…

「32倍か…」

『そうだ!それだけ倍増させても、大した数値にならなかったのも2人いたが、他はいい具合に増えてくれたよ!おかげで私は、タイラントを呼び出して尚、力が有り余っている!!』

「……」

一樹にとって最悪のタイミングで、タイラントは現れた。こうしてる今も、タイラントは街を破壊している。

『貴様に対する怨念が集まった怪獣だ。今まで戦って来たどの怪獣よりも、貴様に対しては過去最強に凶暴で、凶悪だ!貴様はアレに勝てるかな?楽しませてもらうぞ!!』

そう言って、シャドウは闇に包まれて消えていった。

「……」

とりあえず、一樹は持ってた十得ナイフで箒たちの縄を切り始める。

「その…櫻井」

「…どうした」

悪感情エネルギーを吸い取られたダメージが残っているのか、弱々しく箒が話しかけて来た。

「すまない…私たちのせいで…」

「シャドウの粒子に気付けなかったのは俺だ。お前たちが気にする必要は無い」

「です、けど…」

「宗介に何言われたかは知らないけど、夏の件はお互い謝った。今回俺が追い出されたのは、お前らのせいじゃない」

あの時、個人回線で聞いた時、5人の言葉は共通していた。

『出て行けと思わなかった、と言えば嘘になるが、今はそこまででもない』

と…いくら一夏と言えど、自分の他に全く男子がいないと精神的に参ってしまう。

それに、専用機持ちたちは見ていたのだ。一樹とふざけている時の、一夏の満面の笑みを。自分たちでもそれを出すことは出来るだろう。だが、同性同士だから出来る話がある。出来る遊びがある。思春期の大切な時期に、それは大切な宝物になる。

「アタシたちは…なにをすれば良い?」

「何もしなくていい。強いて言うなら、安全なところへ逃げろ。その体じゃ、まともにチェスターも操縦出来ないだろうしな」

十得ナイフでは縄を切るのに時間がかかる。しかも下手に引っ張ると彼女たちの肌に痕が出来てしまう。それを気にする一樹の、何気ない優しさ…

「ありがとう…櫻井、君…」

「すまない、櫻井…」

他の3人に比べて、比較的意識ははっきりしているシャルロットとラウラ。

「…どういたしまして」

縄を切りながら、一樹はそう返したのだった。

 

《ギャオォォォォ!!》

街で暴れるタイラント。そこに、δ機が飛んで来た。

「…これ以上は行かせねえよ」

クアドラブラスターを放ち、タイラントを怯ませる。

《ギャオォォォォ!》

タイラントは数歩下がると、δ機に向かって炎を吐いた。

「ッ!」

咄嗟に操縦桿を横に倒して、火炎放射を避ける一夏。

 

 

ブチッ!

「よし、やっと切れた。あと少し待っててくれよ…っと」

結び目が切れた縄を5人から外す一樹。そして、落ちていた待機アクセサリーを渡す。

「すまない…」

ラウラが頭を下げるのを、一樹は止める。

「もう謝罪は良い。それより…」

一樹は後ろを向く。そこには、暴れるタイラントを止めようと奮闘するδ機の姿が…

「アイツを止めないと、な」

 

《ギャオォォォォ!!》

タイラントは、一樹たちのいるビルに向かって、鉄球からムチを飛ばした。

 

「「「「アアッ!!?」」」」

目の前にムチが迫り、思わず頭を抱える5人。一樹は、ムチを見据えながらエボルトラスターを引き抜いた。

 

「デェアッ!」

《ギャオォォォォ⁉︎》

光に包まれたウルトラマンが現れ、タイラントに突進。タイラントは吹き飛ばされ、大地に転がる。

ウルトラマンは握っていた右手を地面に近づけて、ゆっくり開いた。その手から、気絶していた5人が降ろされた。

 

「一樹…みんな」

δ機からそれを見ていた一夏。

「今は…コイツを止めないと」

 

《ギャオォォォォ!》

ウルトラマンを見つけたタイラントが、ムチを振り下ろして来た。

「シュッ!」

それを前に飛び込んで回避するウルトラマン。そのまま、タイラントの腹部に蹴りを入れる。

《ギャオォォォォ!》

しかしタイラントはビクともせず、逆にウルトラマンを蹴り飛ばした。

「グアッ⁉︎」

 

「簪ちゃん、無理しない方が…」

「大丈夫…私も、戦う…!」

γ機に搭乗しようとする簪を、雪恵は心配する。しかし、搭乗者が少ないのも事実なのだ。

『なら、最初からストライクチェスターで行く?』

「「それだ!」」

束の意見に、雪恵と千冬が賛同した。

 

「グッ、グゥッ⁉︎」

ピコン、ピコン、ピコン

いつになく、エナジーコアが鳴り始めるのが早い。一樹の体力が、それだけ消費されているという事だ。

タイラントのムチが首に絡まり、呼吸が出来ない…

《ギャオォォ!》

「グアッ!!?」

そんな状態のウルトラマンを、タイラントは鎌で殴り続ける。何度も、何度も。

《ギャオォォォォ!!!!》

「グアァァァァァァァ!!?」

最後に殴り飛ばすタイラント。だが、ムチはウルトラマンの首に絡まったままだ…

「ちくしょう!」

δ機も懸命にタイラントを攻撃するが、タイラントは全く意に返さない。δ機だけでは、火力が足りないのだ…

「どうすれば…」

一夏が戸惑っていると…

『織斑君!お待たせ!』

ストライクチェスターが飛んで来た。

「ナイスタイミングだ!すぐに合体するぞ!!!!」

『分かってる!』

ハイパーストライクチェスターとなって、タイラントに狙いを定める。

「喰らえ!」

ウルティメイトバニッシャーをタイラントに向けて撃つ一夏。それはタイラントに直撃したように見えたが…

「うそ、だろ…?」

タイラントは、腹部にある口でウルティメイトバニッシャーを吸収した。

《ギャオォォォォ!!!!》

 

『ははははは!良いぞタイラント!その調子でどんどん暴れろ!!!!』

少し離れた丘から、シャドウは戦いの様子を見ていた。

予想以上に暴れてくれるタイラントに、笑みを浮かべながら。

 

《ギシャァァァァ!!》

「フッ⁉︎」

タイラントは吸収したウルティメイトバニッシャーを自分の技として分析したのか、口から熱線を吐き出した。

「グアァァァァァァァ!!?」

強力な熱線をまともに喰らい、ウルトラマンは膝をついた。

 

『熱っ!!?』

「どうした⁉︎雪恵!」

 

「アッ、アァ…」

《ギャオォォォォ!!》

もはや力尽きようとしているウルトラマン。タイラントは、そんなウルトラマンを容赦なく叩きつける。

「グゥッ⁉︎」

エナジーコアの音が、どんどん早くなっている。

せめて一矢報いろうと、パーティクルフェザーでムチを切断した。

「シェアッ!」

《ギャオォォォォ!!?》

そして首からそれを振りほどき、念力で槍に変換、腹部の口に突き刺した。

「デェアッ!!」

《ギャオォォォォ!!?》

そして距離を取り、クロスレイ・シュトロームを放つ。

「シュアッ!!」

タイラントの腹部から爆発がおこる。

だが…

《ギャオォォォォ!!!!》

タイラントは、倒れていなかった。

「フッ、シュ…」

何とか立ち上がろうとするウルトラマンだが、体に力が入らない…

《ギャオォォォォ!!!!》

そんなウルトラマンに、タイラントは突進してくる。

「グアァァァァァァァ!!?」

その突進をまともに喰らったウルトラマン。吹き飛ばされてる中で、消えてしまった。

《ギャオォォォォ!》

『タイラント、一旦引くぞ』

シャドウの指示に従い、タイラントは闇の中へと消えた。

 

「ぐっ…ああっ…」

街にある小川に、一樹はいた。

体に力が入らず、うつ伏せに倒れてしまう。懐から、エボルトラスターが出て、川に流れていってしまった…




一樹の体はまたボロボロになっていく。

それでも、彼は逃げない。

大切なものを、守るために。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。