人と光の“絆”   作:フルセイバー上手くなりたい

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よしよし、今のところ順調だぞ!


Episode78 結成-フォーメーション-

「…ダメ。今日は調子が悪い。帰ってアニメでも見よ…」

簪の趣味、古今を問わないアニメ鑑賞。

ジャンルは決まってヒーロー・バトルもの。悪の軍団を主人公が打ち倒す。そのシンプルさがたまらない。

…決してこの前まで本物のヒーローがいただろとか、なんで気づかなかった?などと言ってはいけない。

「今日は、何を見ようかな…」

帰ってからの楽しみに、思いを馳せる簪。そして、たまに思い出すのが…

「カッコよかったな…あの時のウルトラマン」

自分達に向けてサムズアップをしてくれたウルトラマン。アニメでしか見た事がないような場面を、自分が経験するとは…

 

「よっ!」

「…」

一樹のいなくなった今、簪の専用部屋となりつつある第4整備室から出ると、そこには一夏がいた。

その手には、缶ジュースを持っている。

「緑茶とぶどうジュース、どっちがいい?」

「……」

そんな一夏を無視して、整備室を去る簪。その後を一夏は追ってくる。

「なあ」

「……」

「なあって」

「……」

「更識さーん」

ピタッ

「…苗字で呼ばないで」

「え、えと、簪さん」

「名前でも呼ばないで」

「じゃあ_____」

なんて呼べば良い?と続くであろう一夏を無視して、簪は歩く。

「私に、構わないで」

そう言い放つと、簪は歩き出す。

その半歩後ろを、一夏が追う。

「とりあえず、ジュースだけでももらってくれないか?俺2本は飲めないからさ」

「…なら、ぶどうジュースで」

「ああ、助かるよ」

それだけで、笑顔を見せる一夏。

「(ほんと、お人好し)」

 

『なあ更識さん、仲良くとは言わないが、一夏を認めてやってくれないか?』

2学期が始まってすぐの頃だろうか、一樹がそう言ってきたのは。

『…どうして?』

普段、あまりそういうのに関わらない一樹。その一樹がそう言うのが不思議で、簪は理由を問う。

『アイツさ、結構お人好しなんだ』

『それは、知ってる』

男装してまで近づいてきたシャルロットを助けた時点で、それは察せれる。

『だからさ…アイツ自身に悪気が無くても、アイツは自分が悪いって思うクチなんだ。自分じゃどうしようもない事でもな。きっと、幼い頃から千冬と比べられた事が影響してるんだと思う』

『……』

出来のいい姉と比べられる、それは簪にも経験がある。織斑一夏も、やはりそうだったのか。

『ま、アイツの場合はすぐ比べられることは無くなったけどな』

自嘲気味に笑う一樹。簪はそれだけで察した。一樹が今、学園で受けてる視線が、幼い頃から続いてることに。

『…アイツは比べられることは無くなったけど、きっと自分の中でずっと燻ってたんだと思う。千冬と自分との、出来の違いに』

ゲンに弟子入りした頃の一夏は、見てて痛々しかった。千冬との差を埋めるために、焦っていたあの頃は…

『それは、なんとなく分かる』

簪も、そうだから。

『俺は孤児だから…家族とか、兄弟とかは辞書的な意味でしか知らない。家族内で、比べられる辛さを知らない』

『…うん』

『だから…同じ姉を持つ者同士、一夏を認めてやってくれないか?』

自分の方がよっぽど辛いだろうに、一樹は一夏の事を心配してるのだった。

 

 

「(…櫻井君が言いたいことは分かる。けど、私はやっぱり、織斑一夏を認められないよ)」

たくさん自分を助けてくれた一樹の、たったひとつの願いを叶えられないことに、簪は罪悪感を覚える。

「…更識さんはさ」

「…?」

今までとは雰囲気が変わったことに、不思議に思った簪は、一夏に目を向ける。

「一樹に、戻ってきて欲しいか?」

「…どうしてそれを私に聞くの?」

それを聞くべきなのは、雪恵だと思う簪。

「一樹がいなくなる前日にさ、俺と雪恵以外の専用機持ちにセリーが言ったんだ。『一樹が助けを求めても、どうせ助けない人』ってな」

「……」

セリーとはあまり接点はないが、その評価は妥当だと思った。たまに食堂で見る一夏たちは、基本一夏を目当てに集まっている。そして、時折一樹に邪魔そうな視線を浴びせているのを見かける。

「…ねえ」

「ん?」

初めて、簪から一夏に声をかける。

「…夏休みに櫻井君が死にかけたって、本当?」

「……ああ、本当だよ」

「なんで?」

「ある事情で…体がボロボロの一樹を、箒やセシリア、鈴がISで攻撃したんだ」

「ッ!?」

「…それで一樹は1度死にかけたんだ」

「そん、なのって…」

簪が愕然とする。その反応を見ただけで、一夏は心の底でホッとしていた。

「(やっぱり、簪さんは優しい子だ)」

 

 

「ぶえっくしょん!」

『マスター、風邪ですか?』

「カズキ、熱計ってみて」

「ちょっと鼻がムズムズしただけだよ。そう簡単に風邪は引かねえよ」

そうは言うものの、最近の一樹の生活は温度差が激しいなんてものじゃない。灼熱の地獄の中で特訓をしたあとは、20度前後の本部内を歩き回ってるのだ。

『簡単にって言うけど、マスターじゃなかったら焼け死んでるからね?』

「私でも少し暑かった」

セリーですら暑く感じるのだ。一樹がどんな熱を感じたのかは、想像に難くない。

「んな事は良いよ。やぁっと技が完成したんだ。風呂に入りに行ってくるよ」

「カズキ、私も入りたい」

『マスターったら、私と入りたいなんて、大胆なんだから♪』

一樹は無言で首飾りを机の引き出しにしまい、セリーを女湯まで連れて行く。

『ちょ!マスター!置いてかないでえ!!』

あれ?デジャビュ?

「…なら黙ってついてこい」

『あい…』

 

 

「てな訳でさ…少しでも一樹を認めてくれる人がいると、俺も嬉しいんだ」

「…そう」

一樹に関する事は分かった。なら…

「なんで…そんなに私と組みたがるの?」

「え?えと、それは…」

しばらく悩む様子を見せる一夏。

2秒後、ぴこんと頭の電球が点灯した。

「簪さんの専用機を見てみたいから!」

「ッ!」

 

バシンッ!

 

「…へ?」

「……」

呆然とする一夏を置いて、今度こそ簪は去っていった。

 

 

「なんであの子は怒ったのか、分からない件」

「ねえ織斑君、そんなに私とゆーっくりO☆HA☆NA☆SHIしたいの?」

「全力で遠慮させていただきます!」

考えろ…考えろ!でなきゃ地獄を見るぞ…!

「織斑君が私をどう思ってるのか、ちょっと問いただしたい件」

「一樹の彼女」

「絶対他にも思ってるよね?」

なん…だと…雪恵が、ふにゃけない⁉︎

まさか、隠れヤンデレとか考えてるのがバレ…ハッ!

「お〜り〜む〜ら〜くぅぅぅぅぅん‼︎」

「ま、待って⁉︎落ち着い…ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

教訓、やはり雪恵は恐ろしい。怒らせないよう細心の注意をすべし。

俺、織斑一夏との約束だぞ。

とほほ…

 

 

簪は部屋でルームメイトの邪魔にならないよう、布団を頭で被って携帯端末のテレビを見ていた。

画面の中では今日もヒーローが悪の怪獣を倒している。

その画面を見つめる簪の顔は無表情だが、これでも本人は楽しんで見ている。

そう、普段なら。

「(殴っちゃった…)」

最初に会った時には耐えられた。けど、今回は無理だった。

「(私…彼に甘えてるの?)」

他人に能動的な行動をするのは、簪にとって甘えだった。

けれど、最近は他人に(簪的には)甘えることが多くなったように思える。

一樹にOSを調整してもらい、雪恵には組み立てを手伝ってもらい、最近は姉とも和解した…

「それでも、これは自分で完成させなきゃ」

思わず声に出してしまい、簪は慌てる。幸い、ルームメイトは起きた様子はない。

「(危なかった…気をつけなきゃ)」

それから終始、専用機の事を考えると、織斑一夏の事が何故か思い浮かび、顔を赤らめる簪であった。

 

 

「かーくぅん…助けてよぉ…」

『今度はお前か…何があった?』

「織斑君に断られた専用機持ちたちが怖いよ…」

一樹は一瞬、ハイライトオフ状態のお前の方が怖えよと言いかけたが、すんでのところで止まった。

『まあ…何とかなるだろ!頑張れ!』

「他人事だと思って…かーくんの鬼!鬼畜!ドS!」

『お前もそれを言うか⁉︎』

やはり仲の良い2人だった。

 

 

「更識さん、一緒に食堂に行こうぜ」

とある情報筋から、今日は購買の業者が来れないことを知った俺は、更識さんの手を握った。

「奢るからさ」

「い、いや…」

そうも怯えた子ウサギのように身を縮まらせると罪悪感が…

けど、これ以上はもう引けない。何せ〆切は今日の5時なんだ。

…決して雪恵が怖いからとかじゃないぞ。イチカウソツカナイ。

俺は多少_____どころか、かなり強引に更識さんを連れて行く事にした。

「きゃああっ⁉︎」

更識さんをお姫様抱っこ。よし、これで逃げられないぞ。

「更識さん、軽いなあ…ちゃんと食べてるのか?」

「う、うるさいっ…お、下ろして……」

「じゃあ、掴まってろよ!」

「⁉︎⁉︎⁉︎」

 

「到着!」

無事食堂に着いたぜ…って痛い痛い!

 

バシッ!バシッ!バシッ!

 

と更識さんに何度も繰り返し頭を叩かれる。

しかも、そのうちに脚まで暴れさせはじめた…ってゴッ⁉︎い、今顎に入ったぞ⁉︎

「わ、ばか、こら。暴れるなって」

「ふーっ…!ふーっ…!」

猫のような威嚇をしてくる更識さん。うーむ、仕方ない。

「そんなに暴れるとパンツ見えるぞ」

「⁉︎」

俺の指摘に、ようやく自分の行動に気付いたのか、更識さんは大人しくなった。

「…さない…許さない…許さない…!」

その代わりに、呪詛のような事を呟かれ続けたが。とほほ…

 

「更識さん、さっきのは俺が悪かったから、その瓶を下ろすんだ」

更識さんの手には、一味唐辛子の入った瓶。そしてその目は、俺の白米に向けられていた!

「…自業自得♪」

そして容赦無く、俺の真っ白だった白米は、真っ赤な赤飯へと化した。

「ノォォォォォォォォォォォ!!?」

「ふふ…」

 

「…で、あるからしてISの対空制御は」

時は進んで5限目、簪は久々に()()()()()昼食を思い出し、微かに笑っていた。

「(あんなに楽しいと思ったご飯は、久々かも…)」

正直、一夏に対する嫌悪は既に無くなっていた。それどころか、一夏と話していると胸が熱くなり、とてもドキドキする始末…

「(わ、分からない…一夏が、分からない…)」

もっと分からないのは、自分の気持ち。一体自分は、何をしたいのだろうか。

「(こんなこと、初めてで…自分が、分からない…何がしたいのか、分からない…)」

『分かんないなら、やってみれば良いじゃねえか』

「(えっ…?)」

聞こえたのは一夏の声。顔を上げると、いつもより凛々しく見える一夏の姿があった。

 

『俺と組もうぜ、更識さん』

い、いや…

『どうしてだ?』

だ、だって…分からないから。私は…分からないものは、いやだから…

『でも、そのままじゃわかんないままだぞ?』

そう…だけど…

『怖いことなんかないさ。俺に任せてくれ』

あ…ぅ…

 

いつも見ているヒーローアニメに出てきそうな言い回し。けれどそれが、何より心地よく感じた。

「な、俺と組もうぜ。更識さん」

「う、うん!」

いつになく興奮してるらしく、目の前の一夏の手を掴むと同時に立ち上がっていた。

「(…あれ?)」

ふと気づく。

目の前の一夏が消えないこと、そして外からはオレンジ色の夕日が差し込んでいた。

「…あれ?」

「やったぁぁ!組むって言ったな!早速登録しに行こうぜ!あと雪恵にも連絡しなきゃ!」

「…あれ?」

簪の意識が戻ったのは、タッグマッチの登録を終わらせ、第4整備室で待ち合わせをした後だった。




とうとうタッグを組むことになった一夏と簪!


一樹が知ったらどうなるかな…ガクブル











P.S感想はどの話に対しても大歓迎です!
読み直した結果、コレはこの伏線だったのか!と答え合わせとして使って下さい(笑)



いやほんと感想下さい切実に(泣)

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