けど、戦ってはない?
誰かはサブタイで分かるな?
それは、ある日のHRだった。
「今日から1週間、特別教員が来る。その教員は道徳を担当するが、くれぐれも失礼のないように。では、お願いします」
千冬に言われて、入ってきたのは1人の男性、ダンディな印象を持つ人が多いだろう。しかし、その人の顔を見た一樹は…
「ブッ!!!?」
血を作るために、こまめに水分補給していたのが仇となった。一夏に向かって思いっきり麦茶を吹き出してしまった。
「な、なしてこうなる⁉︎」
「ゲホゲホッ!すまん…ケホッ」
雪恵から受け取ったタオルで口元を拭う一樹。自前のタオルで顔を拭く一夏は、その人物に気づく。
「え?
かつて一夏たちの通ってた中学で、担任を務めた男、『矢的猛』が教壇に立っていた。
「驚かせてしまったようだね櫻井君。話は後でゆっくりするとして…初めまして、矢的猛です。モットーは『一所懸命』。1週間という短い期間ですが、皆さんとは仲良くしたいと思っています」
「えぇ⁉︎矢的先生が学園に来たぁ!?」
昼休みの食堂では、鈴が驚きのあまり立ち上がっていた。
「ああ。それで一樹もびっくりしてたよ」
昼休み、一樹は屋上で1人ゼリー飲料を飲んでいた。ふと後ろを見ると、水筒の蓋が飛んできた。慌ててキャッチする一樹。
「ははは、良い動きだ」
「矢的さん…」
「こらこら、ここでは先生だろ」
「すいません…」
「どうした?レオ兄さんに聞いたが、最近は元気を取り戻したそうじゃないか。ウルトラの兄弟たちも喜んでいるぞ?『自分たちの息子』が元気を取り戻したとな」
「そっちこそゲンさんの本名言ってるじゃないですか…『エイティ』さん」
「ははは、そうだな。『ネクサス』君」
「…この地球では俺はウルトラマンです。ネクサスなんて名は、知りませんね」
「そう言うな。その呼び方だとハヤタ兄さんと被るからな」
「だから…はあ…もう良いや」
「どうした?疲れたのか?私特製のコーヒーでもどうだ?」
「…いただきます」
「…それにしても、今日はよく遅刻しませんでしたね?矢的先生といえば『遅刻』が代名詞なのに」
中学時代、生徒たちの遅刻合計数より矢的1人の遅刻回数が多かったのを思い出した一樹。そんな一樹に、矢的は笑って答える。
「おいおい、これでも教師をやってるんだ。大事な日くらいちゃんと来るさ」
「…本当は?」
「実は数分遅れた…はっ⁉︎」
やはり矢的は矢的だった。そこに、どこか安心している一樹だった。
「…矢的先生が言ってた学校、近いうちに統廃合で取り壊されるらしいですよ」
「…そうか」
かれこれ30年は経つだろうか。矢的が教師として、最初に赴任した学校から去ったのは…
「同窓会、行かないんですか?」
「…正直なところね」
屋上の手すりに寄りかかるようにしながら、矢的は話す。
「私は、どんな顔をして会いに行けば良いのか、分からないんだ」
「……」
「私は、生徒たちに何も告げずに去ってしまった。確かに理由はある。怪獣の出現頻度が急激に上がったというね…しかし、それでも思うんだ。何か言えたのではないかと、私を慕ってくれていた生徒たちに、何か残すことが出来たのではないかとね…」
「……」
一樹には分からない、矢的だけの想いがそこにはあるのだろう。
「…生徒さん達は、」
それでも、一樹は言う。
「生徒さん達は、先生に会いたいと思いますよ?確かに先生は遅刻の多い、お世辞にも模範的とは言えない先生でしたけど…」
一樹は思い出す。中学1年のとき、矢的がクラス担任だった時を。
「…誰よりも、
「……」
今度は矢的が無言になる番だった。
「学校の『思い出』って、大事だと思います。楽しい中学生活を送らせてもらえた先生って、後の人生に大きなきっかけをくれると思いますよ?」
「…そうかなぁ。私は、先生らしいことはひとつも…」
「…だったら、無意識にやってるんですよ。『人に教える』ってことを」
「……」
「…同窓会は1週間後です。それまでゆっくり、ゆっくりと考えても、バチは当たりませんよ。コーヒー、ご馳走さまでした」
一樹は矢的に蓋を返すと、屋上を後にした。矢的はしばらく、屋上から空を眺めていたのだった。
それから1週間、何事もなく過ごしていたのだが…最悪な事が起ころうとしていた。
ドックン
「ッ⁉︎」
エボルトラスターが、怪獣の出現を教える。その出現ポイントがなお問題だった。教室を飛び出そうとする一樹を、矢的が注意する。
「こらこら櫻井君、まだ授業中だぞ?」
「俺はここの生徒じゃねえ‼︎…ってそれどころじゃねえんだよ‼︎」
思わず強い口調で言ってしまう一樹。すぐに、緊急放送が流れて専用機持ち達が呼ばれる。
「矢的先生!すいません‼︎」
専用機持ち達が次々と教室を出て行く。のを、呆然と見ている矢的。気を利かせた静寂が矢的に説明してくれている。
「ああもうアレを呼んでる暇ねえ!一夏、後ろに乗せろ‼︎」
「一切承知‼︎」
男子2人は全力で走り、δ機に乗り込むと、先行出撃した。
時は少し遡る。取り壊しが決まった桜ヶ丘中学校の屋上では、矢的が初担任を務めた1年E組の生徒達の同窓会が行われようとしていた。
「…先生、来るかな?」
誰かが何気なく言うと、それが広がって行く。
「来てくれると良いな」
「先生がいてこその1年E組だからな」
同窓会の準備を進めていたその時だった…
怪獣、『ホー』が現れたのは。
δ機は現場に到着。ホーに先制のクアドラブラスターを放つ。しかし、攻撃はホーの身体をすり抜けた。
「なっ!!?」
一夏が驚愕してる間にも、ホーは桜ヶ丘中学校へと近づいていく…
「チッ!」
一樹は脱出レバーを引いてδ機から飛び出ると、エボルトラスターを引き抜いた。
「デェアァァァァ!!」
《グオォォォォォ!!?》
桜ヶ丘中学校に迫るホーに、ウルトラマンの飛び蹴りが命中した。
《グオォォォォォ!!》
「…シェアッ!」
どこか物悲しさを感じる鳴き声のホー。ウルトラマンはそれを感じながらも、桜ヶ丘中学校を守るために構える。
「お、おいあの怪獣は…」
「中野、またお前が…」
「ち、違う違う!俺じゃない‼︎」
「じ、じゃあ何が原因で…」
「グアッ⁉︎」
《グオォォォォォ‼︎》
ホーの怪力に、ウルトラマンは投げ飛ばされる。更にホーはボディプレスを仕掛けるが、ウルトラマンは横に転がることでそれを回避。
「シュウッ!」
起き上がったホーに、ダッシュの勢いを乗せた前蹴り。怯んだホーを投げ飛ばした。
「デェアァァァァ‼︎」
《グオォォォォォ⁉︎》
ホーが倒れている間に、ジュネッスへとチェンジするウルトラマン。
「フッ!シェアッ‼︎」
遅れて出撃したストライクチェスターも、δ機と合流した。
「織斑君、何で援護しないの?」
『したいのは山々なんだけど…さっき攻撃した時、怪獣の体をすり抜けたんだ。下手に攻撃すると周りに被害が出る』
「フッ!」
《グオォォ!》
メタ・フィールドを展開するためにも、ホーを桜ヶ丘中学校から離したいウルトラマン。だが、ホーは何故か桜ヶ丘中学校に固執している。両者は取っ組み合い、膠着状態になる。
「あのウルトラマン…この学校を守ろうとしてくれてる?」
「ウルトラマンはいつも守ってくれてるよ?」
「いや、そうじゃなくて…まるで、この学校を知り合いの宝物のように感じてるような…」
《グオォォォォォ!!》
「グアァァァァァァァ!!?」
取っ組み合いに勝ったのはホーだった。ウルトラマンを投げ飛ばすと、ウルトラマンにのしかかった。
《グゥオォォォォォォ!!!!》
そして、その瞳から硫酸の涙を流してウルトラマンを攻撃する。まるで、駄々っ子のように…
「グッ⁉︎グアァァァァァァァ!?」
その硫酸の涙に苦しむウルトラマン。しかし、ウルトラマンは確かに感じた。その、涙の意味を…
『矢的先生!ここなんですけど…』
『それはね…』
ある時の放課後、今より若い矢的に質問している生徒達…
『先生遅いね〜』
『流石はこのクラスの遅刻魔!』
『『『『あははははは!』』』』
『こらぁ!誰が遅刻魔だ!』
『げっ!先生!』
『同じ言うなら遅刻先生と言いなさい!』
『『『『それもだめでしょ!?』』』』
かなりの頻度で遅刻する矢的を慕う、優しい生徒達…
『先生、俺…』
『君は頑張ったじゃないか。それは先生も、クラスのみんなも知ってる』
『けど、俺のせいで…』
『人は失敗を恐れる。けど、もっと怖いものがある』
『…怖いもの?』
『それは孤独だよ。成功は勿論、失敗も分かち合える仲間がいないこと、それが1番怖いことだ。君には、失敗を分かち合える仲間がいるじゃないか』
ある時は、怪獣を生み出してしまった生徒に、優しく語る矢的の姿…
《グオォォォォォ!!!!》
「グゥッ⁉︎」
ホーが流す涙からは、1年E組の生徒達と矢的の思い出が溢れてきていた。それを、体を張って受け止めるウルトラマン。
「…グスッ」
そして、ウルトラマン=一樹と
「…雪恵?」
前部座席に座る箒が、急に泣き出した雪恵を心配げな瞳で見る。
「…大丈夫。きっと、大丈夫だから…」
誰に言ってるのか雪恵自身も分らなかったが、雪恵はそう言い続けた…
《グオォォォォォ!》
「…シェアッ!」
しばらくホーから流れる涙を受け止めていたウルトラマンだが、止むを得ずホーを投げ飛ばした。これ以上、硫酸の涙を受ける訳にいかない…
《グオォォォォォ!!》
「…フッ」
尚も泣き続けるホーに、止まる様に右手を伸ばすウルトラマン。
《グオォォォォォ!!》
しかしホーは、それを気にせずに進む。
「…シュ」
ウルトラマンは、ホーを止めるために構えた______が、ウルトラマンの隣に光の柱が立った。
「…」
光の柱を見たウルトラマンは構えを解く。
《?》
ホーも止まり、光の柱を見る。
「…シュアッ!」
光の柱から現れたのは…ウルトラ先生こと、ウルトラマンエイティだった。エイティを見た準備、ホーはおとなしくなった。
「…マイナスエネルギーから生まれた怪獣なら、私が倒す」
エイティは隣に立つウルトラマンに言う。ウルトラマンは、ただ静かに頷いた。
「シュアッ!」
エイティはバックルビームを放った。ホーはそれを受け、静かに消えていった…
「先生ー!」
ホーが消えたと同時に聞こえる、先生と呼ぶ声。誰を指しているかは明白だった。
「矢的先生ー!」
エイティが学校の屋上を見ると、1年E組の生徒達が、自分に向けて手を大きく振っていた。
「僕は今ー!先生と同じ教師をやっていまーす!!」
「私はもう結婚して!今は3人のお母さんでーす!」
「僕は!大学の研究員をやってまーす!!」
「自分は!信用金庫に勤めてまーす!!」
「俺は!実家のスーパー継いで頑張ってまーす!!」
矢的に会ったら、必ず伝えると決めたことを、それぞれが叫ぶ。全ての生徒の言葉を聞いたエイティは…
「…シュアッ!!」
空へと、飛び上がった。それを見送ったウルトラマンも、光に包まれて消えた…
「…君や、生徒には教えられたよ」
桜ヶ丘中学校の門で、一樹は矢的に話しかけられた。
「…矢的さん」
「ずっと、申し訳ないと思っていた。もっと彼ら、彼女らと学びたいと思っていた」
「……」
「…あの子達と過ごした時間は短かったが、楽しかった」
「……」
「私の、自慢の生徒達だ」
「…会って、あげて下さい。みんな、まだまだ話し足りないと思いますよ」
微笑みを浮かべて、一樹は矢的を送る。矢的もまた、微笑みを浮かべ…
「会ってくるよ…私の生徒に、私の、子供達に…」
矢的が門を越えた、それだけで。
「「「「矢的先生ー!!」」」」
暖かい声が、屋上から聞こえる。一樹はそれを見送ると、その場をゆっくりと離れていった。ここは、彼らの思い出の場所だ。思い出を語る時に、第三者がいるのは無粋だろう。それに、一樹には…
「おーい!一樹ー!!」
「一緒に帰ろー!!」
一樹の、帰る場所がある。
「あの怪獣は、きっと桜ヶ丘中学が呼んだんだ」
「学校が?」
学園に着いてから、一樹と一夏、雪恵とセリーは屋上で星を眺めていた。
「学校が、生徒と矢的先生を会わせたいと願ったから…あの怪獣は現れた。だから近くに矢的先生がいると分かったとき、戦うのをやめて、もう1人のウルトラマンの攻撃を素直に受けて消えていったんだ。もう、役目は終わったってね」
「……そっか」
一夏とセリーが、夕食のために屋上を去っていった。雪恵も行こうとすると、一樹に呼び止められる。
「なあ、雪」
「ん?なに?」
「…これからも、俺と【思い出】を作ってくれるか?」
一瞬、キョトンとした雪恵だが、すぐに満面の笑みを浮かべて言う。
「当然だよ!!!!」
雪恵も食堂に行き、1人になった一樹。何気なく空を見上げると、そこには…
「……気にしなくて良いのに」
ありがとう、という意味のウルトラサインが一樹にだけ見えるように輝いていた…
途中の「矢的先生ー!」の言葉が違う場合、作者の記憶が悪いですごめんなさい。
レオ=ゲンは一夏の武道の師匠。
エイティ=矢的は一夏達の中学時代の担任!?
我ながらぶっ飛んだ世界線だ。
普通に羨ましいぜちきしょう!自分も矢的先生のクラスで学びたかった!!!!