「…さて、決闘の日だぞ」
「んー?まあ大丈夫だろ『国家代表』だったらわからないけど、あくまで『候補生』だし」
「その発言、頼むから他の人がいる時言わないでくれよ…」
ISスーツを着て準備運動をする一夏。その顔に、緊張の色は見られない。
「一応確認するが、この間俺が言った事は覚えてるか?」
「勿論」
『今日、千冬から専用機が渡される事は聞いたか?』
『ああ、データを取るために学園が用意するって…』
そこで不安げな顔をする一夏。モルモット扱いされるのを予想しているのだろうか。
『ここから先はオフレコな。お前の機体を作るのは『S.M.S』だから。データを取る、学園が用意する云々は建前だから安心しろ』
『あ、本当?なんかすげー安心した』
『だろうな。ただ、初期状態と
『…了解。ま、しょうがねえか』
「俺としてはオルコットをボッコボコにして貰ってここを退職したいんだけど…」
「辛勝を演出してやるから安心しろ」
「おいコラてめ話聞いてたか?」
「そっちこそ俺がわざわざ貴重な男友達を追い出させると思ってるのか?」
「…」
「…」
一瞬の静寂、そして…
「オルコットは不戦勝だ…対戦相手が消えるからな!」
「は!俺がいつまでもやられっぱなしだと思うな‼︎」
今にも戦いが始まろうとしていた…が
「あ、織斑君!専用機が届きました!」
麻耶が部屋に入って来たため、殴り合いには至らなかった。
「(次は無いぞ)」
「(次の機会があってたまるか)あ、すぐ行きます!」
「遅れてすいません!これが織斑君の専用機、『白式』です」
麻耶に案内され、一夏は『相棒』と向き合う。
「(よろしくな、白式)」
白式の表面をやさしく撫でる一夏。一夏の目は、とても優しい目をしていた。
「織斑、時間が無い。
「了解」
背中を預ける様にして白式を装着する一夏。
「(
装着してすぐに感じるのは、暖かさ。初めて装備するのに、
『行ってこい』
言葉に出さずとも、いつものアイコンタクトを使わなくても、一樹がそう思ったのが一夏には分かった。
「…ハイパーセンサー、脳波リンク完了。各システム、シールドエネルギー異常無し」
そこで一夏は一度目を瞑る。再び目を開けたその目に宿るは、決して折れぬという強い意志。
「織斑一夏、白式。行きます‼︎」
白式が、ピットから出撃した。
「あら?逃げずに来ましたのね。褒めてさしあげますわ」
アリーナ中央で待ち構えていたセシリア。相変わらずの態度だ。
「当たり前だろ。戦いもせずに逃げるなんて…そんなのはゴメンだね」
言い放つ一夏。その間に白式から目の前のIS、『ブルー・ティアーズ』の名が表示される。
「(主武装は…手に持ってるスナイパーライフルかな?他はパッと見は分からない)」
「さて、ここで提案ですわ?」
「ん?」
「ここで泣いて許しを乞えば、許してやらない事も無いですわよ?」
敵IS、スナイパーライフルの最終セーフティを解除。ロックされました。
白式から警告文が発せられる。一夏はそれを頭の片隅に入れながらセシリアと対峙する。
「知ってるか?そういうのは優しさとは言わないんだぜ?」
「なら…」
セシリアは素早くスナイパーライフル、『スターライトMK-Ⅱ』を構え…
「お別れですわ!」
引き金を引いた。だが、一夏は体を横に向けるだけでそれを躱す。
「なっ⁉︎」
「おいおい、いくら俺がIS初心者でもハイパーセンサーに教えてもらえればロックされてる事くらいは分かるぜ?」
とにかく、決闘は始まった。セシリアのスナイパーライフルの攻撃を舞うように避けながら、自分の武器を呼び出そうとする一夏。だが…
「(近接ブレードだけ、だと…一樹さんや、ハンデにしても極端過ぎやしないか?)」
文句を言ってもしょうがないので、渋々近接ブレードを呼び出す一夏。そんな一夏をセシリアは鼻で笑う。
「私のブルー・ティアーズは中距離射撃型…それなのに近接ブレードで挑んでくるのは、やはり猿には『間合い』というのが分からないようですわね」
「(んなこたぁ分かってんだよ!だけど武装がこれしか無いから他のを呼びようがないんだよ!)」
近接ブレードを右手に構え、ブルー・ティアーズと対峙する一夏。
「さあ、踊りなさい!私とブルー・ティアーズの奏でるワルツで‼︎」
セシリアは4機の移動型砲台、機体名でもある『ブルー・ティアーズ』と呼ばれるビットを射出。一夏を囲んで攻撃してくる。
「悪いが、踊りは盆踊りしか分からん‼︎」
しかし一夏は初見である筈のビットの攻撃を華麗に避ける。
「なっ!初見でこのブルー・ティアーズを避けるなんて⁉︎」
一樹はその戦闘の様子を待機部屋で見ていた。
「(悪いが、一夏をビットで倒そうっていうなら倍以上のビットの数とスピードが必要だぜ?)」
「(ビットを使ってくるから少し警戒したけど、まだまだ扱いきれてないな。数は4、スピードも遅い。何よりビット制御中、アイツは動けないときた。避けるのは簡単だけど…)」
余裕の表情でビットの攻撃を避け続ける一夏。しかし、接近しなければダメージを与えられない一夏。これでは埒があかない。
「よっと!」
近くを通り過ぎようとした1機を、ブレードで斬り、残りは3機。
「ッ⁉︎」
「(しっかし、ビット操作中は動けないって何だよ。アレか、動かせれるだけでも良いって感じなのかな)」
「(ビットのスピードは遅いし、操作中は動けない。相手に遠距離武装があればあっという間に本体狙われて終わりだな。機械で測った適正なんてそんなもんなのかもしれないけど…)」
一樹、一夏の思うところはほとんど同じだった。それだけ、2人のレベルが高いとも言える。
「ま、初戦だったら良いチュートリアルじゃねえかな?一夏」
「(フォーマット、及びフィッティングは今…8割方終わってるな。せめてそれが終わるまで待つか、もう終わらせるか…どうすっかな)」
また背後に来たビットをブレードで斬り、残りは2機。
「(『人』の死角を狙って攻撃してるつもりなんだろうな。確かにハイパーセンサーがあるとは言え、どうしても死角への反応速度は落ちるからな)」
しかしそれはあくまで普通の人ではの話だ。下手な軍人以上に鍛えている一夏からすれば、大した事はない。
「ラスト!」
最後に残ったビット2機の攻撃をバック転で避けると、そのまま横薙ぎに振るってまとめて破壊した。
「クッ…」
ビットを全て破壊し、近接ブレードの切っ先をセシリアに向ける一夏。
「さて、お前のとっておきはこれで終わりか?なら__」
一夏は白式を加速させ、ブルー・ティアーズに突進する
「終いにしようぜ‼︎」
セシリアの眼前に、ブレードが迫る…が、セシリアは不敵な笑みを浮かべた。
「おあいにく様、ブルー・ティアーズは6機ございましてよ‼︎」
両腰に搭載されている高誘導型ミサイルを白式に向かって放つ。
「近距離戦闘の備えが無いとは思ってねえよ」
一夏はスラスターの向きを調整し、進みながら僅かに高度を下げた。ミサイルをギリギリのところで避けると、その場で1回転、ミサイルの信管部分を切断した。
「甘いですわよ!」
それを予想していたセシリアはスターライトMK-Ⅱでミサイルを狙撃する。
「(避け…クソッ!反応が鈍い‼︎間に合わねえ‼︎)」
ドォォォォンッ!!!!
「随分粘られましたが、まあこんなもんですね」
ミサイルが爆発し、セシリアは勝利を確信する。
「終わったつもりか?残念でした」
一樹は悪戯っぽく笑った。
「(フィィ…やぁっと終わったぜ)」
「な⁉︎
「ま、そういう事だ」
爆煙が晴れたそこには、真の姿となった白式の姿があった。
「…(若干動きにラグがあるけど、さっきよりは全然マシだな。この速さで動くなら、さっきのミサイル程度なら反応出来る)」
左手を閉じたり開いたりをして
「近接ブレードは…なんだこれ?狙ってんのかな?」
初期状態では『近接ブレード』として登録されていた武装は『雪片弐型』へと変化していた。
「雪片…千冬姉が使ってた武装か。って事は、特製は確か」
「いつまで分析してますの⁉︎」
イラついたセシリアが狙撃してくるが、一夏はあっさり避ける。
「ああもう良いや!後でゆっくり調べよう!」
パレルロールを駆使してセシリアの攻撃を避け、すれ違うと…試合終了のブザーが鳴った。
『試合終了。勝者、織斑一夏』
「あー終わった終わった」
ピットに戻り、白式に解除の命令をだす。すると待機形態であるガントレットに変化し、左腕に残った。
「おかえり。白式の反応はどうだ?」
「
話しながらピットを出ようとする2人。だが___
『織斑、シールドエネルギーをチャージしてもう一度出ろ。相手は櫻井、お前だ』
今更ですが、作者はセシリアが嫌いな訳ではありませんよ?