人と光の“絆”   作:フルセイバー上手くなりたい

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後書きにお知らせがあります。


Episode49 暗部-ダークサイド-

「さて、今日も整備室に寄って行って…」

「ちょっとそこの君」

一夏が整備室に向かおうとすると、背後から声をかけられた。

「(まあ、いることは分かってたけどさ)はい?」

「君、織斑一夏でしょ?」

一夏の目の前に立つ少女のリボンの色は2年生の物だった。つまり、目の前の少女は(一応)一夏の先輩にあたる。

「そうですけど…」

「君の噂は聞いてるよ。1年の代表候補生を全て倒したってね」

少女が掲げる扇子には“無敗”の2文字。その文字を見て、一夏は苦笑する。

「いえ、俺はこの学園に来てから負けてばかりですよ」

「…それは護衛役の子に、って事かな?」

「まあ、そうですね」

直接戦った4月の2戦を含め、ペドレオン、バクバズン、ファウスト、ラフレイア、ノスフェル、ガルベロス、ゴルゴレム、クトゥーラ、そして…メフィスト。それらの戦いで一夏は一樹に助けられ続けていた。特に、ペドレオン、ファウスト、ノスフェル、メフィストの件で…

「…俺は、この先ずっとアイツに勝てないですよ」

一樹自身は、一夏の方が(実力ではなく、それ以外の心等の内面的な意味で)圧倒的に強いと言っている。雪恵が倒れてから、ずっと心に重しが乗っていた一樹に比べ、一夏は立ち直りが早かった。確かに沙織が死んだと分かった時は、一樹以上に絶望に陥っていた一夏。このままでは自分と同じになると思った一樹の言葉があったとは言え、絶望から立ち直れたのだ。それを後に、一樹は雪恵にこう語っている。

『アイツは、俺より格段に強い。ずっと“重し”が乗っていた俺と違って、アイツは自分の意思で“重し”をどける事が出来た…俺には、出来なかった事をな』

が、当の本人はその事を知らない。一夏は一夏で、一樹自身が気付いていない一樹の強さを認めている。結局は似た者同士なのだ。この2人は…

「…ええそうね。あなたは弱いわ」

 

「…ええそうね。あなたは弱いわ」

楯無は一夏にそう言い放つ。楯無にはある狙いがあった。

「(こういう男の子は正面から挑発されれば簡単に乗る筈。それは、強くなりたいと思えば思うほどに…)」

楯無は一夏をそう分析する。楯無は『暗部』として長く生きてきた。現状は情報収集だけの形だけの暗部だが、それでも()()()である一夏より強いという自信があった。何せ、自分は17歳にして、大国であるロシアの国家代表であるのだから…だが

「そうですね。俺は弱いですよ」

一夏は、楯無の挑発を受け流した。

「(なん…で?)」

楯無の予想とは全く逆の反応。楯無の表情の変化に一夏は苦笑しながら話す。

「…俺を挑発するなら、ブリュンヒルデを超えてから出直して下さいよ」

その発言に楯無はキレた。問答無用でIS『ミステリアス・レイディ』を展開し一夏に殴りかかる。が、一夏の方が速かった。麒麟を展開し雪片弐型でミステリアス・レイディを攻撃。シールドエネルギーがかろうじて残るミステリアス・レイディに対し、麒麟はエネルギー攻撃した分しか減っていない。2人の力量差は歴然だ。

「…いきなり攻撃とは、ロシア国家代表の名が泣きますよ?更識楯無さん」

麒麟がユニコーンにならないギリギリの濃度の殺気を放つ一夏。一夏が楯無にトドメを刺さないのは単純で、楯無を倒した後の役職が面倒だからだ。

「…あなた、今ので勝ったつもり?私のISは」

「空間にナノマシンを散布して水蒸気爆発を起こす…でしたっけ?」

「⁉︎」

「…ISのハイパーセンサーにバッチリ反応されてますよ。そして、それはあなたの意思で爆発する…一種のビットだ。だけど…」

一夏は何気なく楯無に向かって手を伸ばす。その途端、楯無の顔が驚愕に包まれる。

「(ナノマシンのコントロールが…奪われた⁉︎)」

一夏は麒麟のシステムを使い、楯無のナノマシンのコントロールを奪ったのだ。

「悪いですけど、()()にあなたの常識は通じませんよ。現IS学園最強」

赤子の手をひねるかの如く、一夏は楯無を圧倒していた。しかも、楯無のシールドエネルギーをかろうじて残る様に。

「ふざ…けないで‼︎」

ミステリアス・レイディのスラスターを全開にして楯無は一夏に向かって飛ぶ。一夏は仕方なく雪片弐型を構える。だが…

「更識楯無。これ以上は見過ごせない」

一樹がフリーダムを装備して楯無のこめかみにルプスビームライフルを押し付けた。

「…生身の人間にISで攻撃しようとしたって時点で間違いなく犯罪級だ。一夏が『少し待ってくれ』と言うから黙っててやったが、流石にやり過ぎだ。今すぐISを解除しろ」

「何であなたの命令を「いい加減にしろよ小娘」ッ⁉︎」

「人が優しく言ってる内にやめろ。でなきゃ…ゴーレムを一撃で黙らせたビームを受ける事になるぞ?」

復活した一樹の殺気(しかし半分も出していない)は、一夏が以前箒達に発した殺気を大きく上回っていた。それを間近で受けた楯無の表情が見るからに青ざめていく。そこに…

「そこまでで良いぞ櫻井」

千冬が現れる。千冬の指示を聞き、一応一樹は矛を収める。

「…チッ」

フリーダムを解除し、一樹はその場を離れていった。

 

「更識、私が頼んだのはあくまで織斑の練習相手だ…まあ、お前では相手にならなかったがな」

「ッ…」

千冬の言葉が楯無に刺さる。一夏はそれをただ見ていた。

「…結局、織斑の相手が出来るのは櫻井だけか。学園長に言ってもう少し護衛役を増やしてもらうのも検討せねばな」

「…ません」

「ん?」

「私は、あの人を認めません!護衛役って言っておきながら碌な仕事をしない人なんか「それ以上一言でも言ってみろこのクソアマ」…え?」

楯無はいきなり一夏から殺気を向けられた事に戸惑いを持つ。が、一夏はすぐに殺気を仕舞うと千冬にアイコンタクトし、食堂へ向かった。

「なんで…織斑君が殺気を放てれるの?」

楯無に、ひとつの疑問を残して…それは千冬も前々から思っていたが。

 

「「あーイライラする‼︎」」

食堂では珍しく男子2人が揃っていた。一樹はただアイスコーヒーを飲みに来ただけらしいが、他のメンツは夕食を食べにだ。

「その、2人ともどうしたのだ?」

「かーくん、オーラが怖いよ?」

一夏の隣に座る箒(激戦であったのは言うまでもない)と一樹の隣に座る雪恵(もはや定位置)が恐る恐る聞く。2人の答えは…

「「ここの生徒会長マジ腹立つ!」」

「「「「生徒会長?」」」」

更識楯無…IS学園最強の意味を持つ生徒会長であり、度々全校朝礼でスピーチしているため、雪恵以外の皆顔は覚えている。が、いきなりその人物に腹を立てている理由まではわからない。

「じゃあ俺から…俺が苛立ってるのはこの間の箒達と同じ理由だ」

「「「「…生徒会長、生きて(るか)(ます)(る)(るの)?」」」」

理由を察した箒と代表候補生組みは楯無の命を案ずる。

「安心しろ。アレは発動出来なかった。俺的にはひじょーーーーーーーーに残念だけどな」

一夏は不本意そうな顔でカツ丼を頬張る。いつもより乱暴そうだが、今は美味いものでも食わないとやってられない気分らしい。次に一夏以外の全員の視線が一樹に向けられるが一樹は一言。

「あのアマの存在が腹立つ」

「「「「それどうしようもない⁉︎」」」」

「かーくんがここまで言うなんてよっぽどだよ…」

普段、一樹はよほどの事が無い限り人の悪口は言わないが、その一樹が言うのだ。楯無よ…君に生あれ。

「…ところでかーくん。ご飯は?」

「…先に食べた」

1杯のアイスコーヒーをゆっくり飲みながら一樹は言う。だが…

「さっき食堂のおばちゃんに聞いたけど、織斑君以外の男子は来てないって…それこそ、織斑君が入学してからずっと」

今一樹が飲んでいるのも、学園で割安で売られている缶のアイスコーヒーだ。一樹自身、学園の食堂を利用した記憶は無い。

「ん?だってここ生徒用だろ?」

「職員の人もここ使ってるよ」

「……」

「……」

「…あ、俺用事が」

「「逃がさ(ないよ)(ねえよ)」」

席を立とうとする一樹を雪恵と一夏が捕まえる。力ずくで振りほどく事も出来るが、それは面倒なのか一樹は仕方なく座り直す。

「ハァ…」

「ねえかーくん。本当のところは?」

「…ストーンフリューゲルで腹を満たしてるよ」

「え?そうなのか?」

あっさり一樹の言葉を信じかける一夏だが、『案内人(ナビゲーター)』の雪恵は違う。

「かーくん、私にその嘘が通じると思う?」

「…だよな…分かった分かった。俺は4月から碌に食べてねえよ」

「「「「ブッ⁉︎」」」」

箒と代表候補生組みは思わず吹き出す。何せ今は9月頭。単純計算しても5ヶ月近く碌に食べてないのだから驚くのも当然だろう。

「…何で?間食は別だけど、3食分は学園が支給してくれる筈だけど?」

「雪、生徒手帳を“ちゃんと”読んでみろ」

ちゃんと、を強調する一樹。雪恵はそれを訝しげに思いながらも生徒手帳を開く。そこには…

「『IS学園では、学園内で健康的な生活を送ってもらうために、“生徒には”毎日3食分の食券を配布しています』…え?」

「気付いたか?」

雪恵は何かに気付いた様だが、他は違和感を感じないらしい。それのどこに問題があるのだろうか。

「…さて、ここで根本的な話をしようか」

雪恵以外の頭上に?が大量に浮かんでいるのが見えた一樹が説明する。

「まず、一夏の立場は?」

「「「「世界で初めてISを扱える男性」」」」

「…そして、俺は?」

「「「「その男性の護衛」」」」

「そう…そして、俺はISを扱えるか?」

「「「「…あ」」」」

「気付いたみてえだな。そういうこった。()()からしてみたら俺はただの護衛役でしかない。ISを扱えない奴を生徒として認めないから…」

「一樹には食券が渡されない…」

「当たり。しかも、俺がここで食事を買おうとすると割高になるんだよな。具体的には80%程」

「「「「高ッ⁉︎」」」」

「だろ?…ほんと、良い性格してるぜ教頭」

「…ねえかーくん。この中で食べたいものある?」

「んぁ?」

雪恵が差し出したメモには幾つかメニューが載っていた。一樹は深く考えずに…

「じゃあ、全部」

「ん、分かった」

「「「「…え?」」」」

 

数分後…

「…なあ、雪」

「何かーくん」

「これ、何?」

一樹の目の前には、大量の料理が置かれていた。

「え?かーくんが食べたいって言ったやつだよ?」

「聞いてんのはそこじゃねえよ!何でこうなってんのかって聞いてんだよ‼︎」

「あ、お金の事なら気にしないで。だってかーくんが送ってくれたお金から出した奴だし」

「万が一の為にとっておけよぉぉぉぉ‼︎」

「良いじゃん別に。私がしたい事をしただけだもん。それに、かーくん私が起きてからも『慰謝料』として送ってきてるでしょ?」

「……」

「だから、私がしたい様にする。食べて」

「……分かったよ」

食べ始める一樹。夏休み初頭の田中宅以来のまともな食事は、あっという間に一樹のお腹の中へ消えたのだった。




次話から更新速度をおとさせていただきます。

正直な話、ハイペース投稿を続けすぎて書き溜めが底をついたので…

大変申し訳ありません。

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