彼女たちは、自分たちが行った所業を自分が受けたら、どうなるのだろうか。
ドォンッ‼︎‼︎
紅椿から放たれたエネルギー波が大爆発を起こす。爆煙が晴れたそこには…
「……」
ジャケットも、中に着てる服も、何もかもが血に染まりながらも、一樹は生きていた。木に寄りかかりながら立つ一樹に舌打ちをする箒、セシリア、鈴。
「……まだ生きてるか」
「本当、無駄にしぶといですわね」
「さっさと逝ってくれた方がそっちも楽だってのに」
これだけ殺意の込められた攻撃を喰らっているのに、反撃すらしない。いや、しないのではなく、出来ないのだ…一樹の体は、度重なる死闘の影響でいつ死んでもおかしく無い状態なのだ。今も、もはや痛みという感覚が無い。
「(血を…流しす、ぎたな…後どれくらいかな…俺の命は…)」
自分の現状にもはや笑うしかない一樹。一樹のその笑いが3人には余裕に見えたらしい。
「そうか。そんなに死にたいか」
「ならばお望み通りに」
「吹っ飛ばしてあげる‼︎」
紅椿の雨月、ブルー・ティアーズのスターライトMK-Ⅲ、甲龍の衝撃砲がそれぞれフルパワーで放たれる。一樹は死を悟り、目を閉じる…
「(…さよなら、雪…)」
3つの攻撃が、爆発した。
爆煙が上がると、攻撃した3人は歓喜の笑みを浮かべた。
「やった…」
「とうとうやりましたわ!」
「護衛なんて名ばかりの奴を倒せた!」
喜ぶ3人だが、爆煙の中から突如3人に向かって極太のビームが飛んできた。
「「「⁉︎」」」
急上昇してその攻撃を回避。爆煙が晴れたそこには…
「「「……」」」
厳しい表情を浮かべた一夏がビームマグナムを構えていた。シャルロット、ラウラも己の機体を完全展開し、一樹をそっと支えていた。
「お前ら、何してんだ?」
ドスの効いた声で一夏が聞く。普段聞かない一夏の低い声に、3人は固まる。だが、それが不味かった。
「何してんだって聞いてんだよ‼︎‼︎」
麒麟の一部を朱く発光させながら、一夏がビームマグナムを乱射する。乱射とは言うものの、それは驚くほど正確に3人を狙っている。
「シャル、ラウラ、一樹を急いで医務室に連れて行ってくれ。俺はアイツらに灸を据えてくる」
「うん」
「任せてくれ」
2人が了承すると、一夏は麒麟を上昇させる。そして、秘めたるシステムを起動させる。
「(悪い、一樹…もう、抑えきれねえ‼︎)」
心の中で一樹に詫びながら、一夏はシステムを起動させる。麒麟の装甲が変形していく…いや、それはもはや“変身”と言えるだろう…
NT-D
起動
システムが起動され、麒麟の真の姿が解放される。
「デストロイモード…麒麟のリミッターを取っ払ったモードだ。今までのリミッターがかかってる状態でも勝てなかったお前らが、デストロイモードの俺に勝てるか?」
瞬間移動かと思う程の速さで移動する麒麟。サイコフレームの輝きもあり、残像が見える速さに3人は思わず動きを止めてしまった。
「まずは一人‼︎」
1番近くにいた鈴の衝撃砲をビームサーベルで両断。これで最も厄介な武装を破壊した。
「嘘ッ⁉︎こんな簡単に⁉︎」
「次!」
鈴を蹴飛ばした次に、一夏は右手をビットに向けた。
「(俺に従え‼︎)」
するとビットがセシリアのコントロールから離れた。
「な⁉︎何が起こってますの⁉︎」
「こういう事だ‼︎」
ビットを操り、セシリアと鈴を攻撃させる。シールドエネルギーがギリギリ残る程度で攻撃を止めた。
「な、何で一夏さんが私のビットを扱えますの⁉︎」
「答える必要は無い‼︎」
一夏がセシリアと鈴を片付けると、残った箒が一夏に向けて空裂を振り下ろす。が、あっさりとビームサーベルで受け止められた。
「一夏!何故私達を攻撃する⁉︎」
「胸に手を当てて考えてみな‼︎‼︎」
単純なパワー勝負であっさり負けた紅椿は後方に飛ばされる。一夏は素早く近づいてシールドで叩きつける。シールドエネルギーが守れるギリギリの強さで叩きつけたため、箒自身へのダメージは無い。
「一夏さん!急に何をするんですの⁉︎」
急に暴れ出したと思っているセシリアがスターライトMK-Ⅲで一夏を狙撃するが、それはあっさりシールドのIフィールドで打ち消された。
「は?急に?」
かつてない程の殺気を一夏から感じた事に、3人だけでなく、一樹を運んでいたシャルロットとラウラも身震いする。
「(こ、この殺気は、アイツ以上だ…)」
一樹の殺気と比べた箒の反応だが、実際一樹が全力で殺気を放てばこんなもんでは済まない。
「俺にならまだ良い…自動的に白式が絶対防御を発動するからな。だが、一樹はどうだ?アイツにはそう言う身を守る手段が無いんだぞ?」
「何を言っている!アイツもISを持っているだろう‼︎」
「勘違いすんな。現段階ではISを扱える男は世界で俺だけだ。アイツのは…ISとは違う。アイツ流に言うなら、
サイコフレームが一層緋く光り、箒達に与える圧がさらに大きくなる。過呼吸気味になる3人に、一夏は容赦なくビームマグナムを向ける。
「どうだ?こんな恐怖の中銃口を向けられる気分は?」
「な、何がお前をそう変えてしまったんだ、一夏…」
「そ、そうよ…アンタ前はもっと優しかった、じゃない…」
昔の一夏を知ってる箒と鈴が悲しげに言う。だが、一夏は首を横に振るう。
「いや、俺は変わってない。変わらずに弱いままだ。今だって感情に任せて暴れてる。前までは俺を止められる人が多かったから分からなかっただけで、根っこは変わらない。それに、春から俺を見てても分かるだろ?俺は精々背が伸びたくらいで、2人と学校に通ってた頃と全然変わってない」
実際、春から同じクラスだった箒が違和感を感じてないので、根っこの部分は変わってないのだろう。
「どうした?お前らは3対1で一樹に攻撃をしてたんだぞ?全快の一樹なら大したこと無いだろうけど、生きてるのが不思議な程の大怪我状態なら、俺達戦いの素人でもボコボコに出来るだろうな」
「何を言うんですの⁉︎あの人は大したこと無いから私達に良いようにされてたのではないですか‼︎」
セシリアの声に、一夏は呆れた顔で言う。
「なら、クラス別トーナメントの時、大量の無人ISを倒したのは誰だ?学年別トーナメントの時襲いかかって来たドイツ軍を蹴散らしたのは誰だ?特に箒!福音戦の時、俺達が生きてるのは誰のおかげだ⁉︎」
「「「⁉︎」」」
「確かに、福音自体を倒したのは俺だ。でも、その後の無人ISの大部隊を相手に囲まれた時に助けてくれたのは誰だって聞いてんだよぉぉぉぉぉ‼︎‼︎」
一夏の叫びに呼応する様にサイコフレームが緋く光る。
「やめろ一夏‼︎落ち着くんだ!!!!」
シャルロットの連絡を受けて千冬が打鉄で3人と一夏の間に入る。だが、千冬を持ってしても一夏からのプレッシャーは捌ききれない。次々と教師陣がISを纏って一夏を囲むが、サイコフレームを操る一夏には、もはや量産機程度では止められない。次々教師陣のISがコントロールを奪われて落とされる中、殺気を直接放たれてる3人は腰が抜けてしまった。
「(わ、私は…ただ一夏の為を思ってやったのに…)」
「(それが、逆効果だなんて)」
「(なんなのよ、何がアイツを変えたって言うのよ⁉︎)」
教師陣が全員落とされると、一夏はその瞳を3人に向ける。3人はもう、恐怖で動けない。すると、いきなり一夏はシールドを真横に構えた。
ドォォォンッ‼︎‼︎
シールドに何かぶつかり、初めて一夏の体制が崩れた。物体が飛んできた方に全員が向くと…
「落ち着けよ…一夏」
ボロボロになりながらも、フリーダムを纏った一樹がいた。今の攻撃はレールガンを麒麟に向けて撃っていたのだ。
「何でだよ…コイツらはお前を殺そうとしてたんだぞ」
「よく考えてみろよ…コイツらが俺を攻撃する理由を。お前の護衛役としてこの学園に来たのに、ビースト相手に前線で戦ってるのはお前なのは確かだしな」
「何言ってやがる‼︎本当の前線で戦ってるのは「お前なんだよ‼︎コイツらの反応見れば分かんだろ⁉︎」ッ⁉︎」
傷だらけの体では話すでも辛いのに、レールガンを撃ち、更にそのまま会話する一樹。既に呼吸は安定していない…
「だから、わざわざお前が、『戦う』必要は無い…んだ…」
遂に力尽きたか、一樹は空中で意識を失い落ちていく。
「一樹!!!!」
「櫻井!!!!」
「「「「櫻井君!!!!」」」」
一夏と千冬が急ぎ瞬時加速で近づく。教師陣も受け止める為に急ぐが、どう考えても量産型のISでは間に合わない。可能性があるのは一夏だけ…
「間に合えェェぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼︎‼︎‼︎」
必死に手を伸ばす一夏。その一夏の想いに応える様にサイコフレームが緋から緑に変わる。サイコフレームの光が一樹に伸び、一樹の落下を止める。
「今だァァぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
無意識にISの操縦技術で最高難度の
「すみません!今すぐ医務室に急患を運びます‼︎道を開けてください‼︎」
「一夏‼︎こっち‼︎」
シャルロットが医務室の窓を開けるのを視認すると、一夏はそこに向かって一樹に極力負担を与えない様細心の注意を払いながら飛んだ。
「…かずくん」
一樹がIS学園にある手術室に運ばれていくのをモニターで見ながら束は呟く。
「もう…無理しなくて良いんだよ…これ以上戦い続けたら…」
先に続く言葉は束の口から出ることは無く、ただ部屋には束の嗚咽だけが響いた。
「ハア、ハア、ハア…」
その日の深夜、一樹は壁に手をつき体を支えながら、ゆっくりと歩いていた。
「一樹!」
そんな一樹の正面に、一夏が立ち塞がる。
「…よぉ一夏。部屋にいなくて良いのかよ?もうこんな時間だぜ?」
「その点は私が許可を出したから問題無い」
更に一樹の背後に千冬、束が来る。
「…そうか。こんな時間に用事とか大変だな」
普段と変わらない様子で話す一樹だが、壁に手をつけなければ体を支えられず、しかもその手も震えてる。一夏達には見えないが、おそらく顔は汗だらけな筈だ。
「…行かせないぞ。今回は」
「はて?俺が何処に行くってんだ?」
「とぼけんな。今のお前を戦いに出す訳にはいかない」
一夏は鋭い目で一樹を見る。一樹も気配でそれを察すると、壁を軽く押し、何とか自立する。
「はぁ?調子に乗ってんじゃねえぞクソ野郎。ちっとばかし強くなったからってお前程度で俺が止められるとでも思ってんのかぁ?」
体がボロボロであっても、放たれる威圧は昼間の一夏を超えていた。それに気圧される一夏だが、気力を振り絞り、一樹に対峙する。
「全快のお前なら全く歯が立たないだろうけどな…今のボロボロの状態なら俺でも止められる」
「…試してみるか?」
「…お前を死なせる訳にはいかないから…多少強引でもお前を止める」
麒麟のビームマグナム(ガトリングモード)を部分展開し、一樹に向ける一夏。一樹もブラストショットを一夏に向けた。
「ダメ‼︎」
そんな中、珍しく束が声を張り上げる。
「かずくんの体はかずくん自身が思ってる以上にボロボロなの‼︎本当なら身体中の神経が麻痺を起こして動けない筈なんだよ‼︎‼︎」
「……」
「もう一度戦えば…今度こそ死んじゃうかもしれない‼︎‼︎」
「……」
「だからかずくんは行っちゃダメ‼︎ここでかずくんが死んじゃったら…雪ちゃんが起きた時どうするの⁉︎」
「その心配はいらないですよ…仮に俺が死んだら、S.M.Sに所属してた人以外は俺の事を綺麗サッパリ忘れる。記憶喪失特有の喪失感も無く…ね」
まるで何度も経験したことのある様に話す一樹。だが、当然3人が納得出来る訳が無い。
「何を言っている!人が死んだら、その人を大切に想っていた人達は悲しみの檻に囚われる!それはお前が死んだ場合だってそうだ‼︎」
「…何か勘違いしてるみたいだから言うけど…俺は、命を無駄にするつもりは無い…」
「「「え?」」」
「つもりは無いけど…やらなきゃいけない事が、あるんだ」
ドックン
タイミング悪くエボルトラスターが鼓動を打つ。ビーストが現れたのだ…一樹はブラストショットをしまってエボルトラスターを取り出す。そして、力なく一夏達に笑いながら…
「それじゃ…後は、頼んだぜ…」
自分が
「「やめろォォぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」」
「やめてェェぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」
一夏達は一樹を止めようと走り出すがもう遅い。一樹は激痛の走り続ける体で、エボルトラスターを引き抜いた。
「だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎」
体が限界であっても、彼は戦い続ける…
『答え』を見つけるために。