「櫻井君、気付いてるのでしょうか…」
IS学園の保健室では、レニを診察した保険医2人が話していた。
「何を?」
「あの宇宙生命体が万が一にも倒されたら、レニの命も消えてしまうって事を…」
レニは一樹に頼み、レニが通っていた専門学校に来ていた。一樹が飲み物を買いに行ってる間に、レニは新聞を読んでいた。
「宇宙ステーション、完成してたんだ…」
私はここで学び、宇宙ステーション開発スタッフに選ばれて。そして…あの宇宙生命体に…
「(何もかも思い出した…けど、何のために?まだ…私を生かしておくの?)」
レニはそこで視線を感じた。辺りを見回すと黒服サングラスの男が数人程確認出来た。レニは走ってその場を去る。黒服達はレニを追う。レニが立っていた場所には、レニが大切にしていたペンダントが落とされていた…
「おーいレニ。遅くなってごめん。自販機が混んでて…あれ?」
一樹はレニがいない事に気づく。足元を見ると、ペンダントが落ちていた。それを拾い上げると強く握りしめる。
「クソッ!俺の感覚も鈍ってるってか⁉︎」
一樹は猛ダッシュでレニを探し始めた。
レニは黒服達から逃げ続けていた。しかし、幾ら逃げても追いかけてくる。まるで蛇の様な執念さだ。距離を測るために回りを見たレニの視界に一樹が入った。
「(ウルトラマン…)」
小声でその言葉を口にするレニ。一樹もレニを見つける。次に後ろの黒服達を見ると、レニの手を取って走り出した。2人の前に一台の車が止まり、黒服の1人が掴みかかろうとするが…
「レニ!走り抜けろ‼︎」
投げ技で黒服の1人を後ろの仲間達のとこへ吹き飛ばす一樹。そのまま黒服が乗ってきた車に飛び乗り、アクセルを全開にして逃げ切った。
車のGPS、隠し発信機を壊し、5キロ走った小屋で2人は休んでいた。
「ねえ、学園には戻らないつもりなの?」
レニの問いに、一樹はしばらく黙る。そして…
「俺の考えてた事は…ただの、ガキが見る夢物語みたいな物だったのかもな。女尊男卑を失くす。その為に女尊男卑の象徴とされている所にいて、ISが使える男子をサポートしようとした、なんてな…」
いつに無く弱い口調の一樹。そんな一樹を見て、レニは優しく話しかけた。
「100年前までは…宇宙ステーションの建設だって夢物語だったんだよ?」
レニはポッケから写真を取り出した。一樹に見せ、話を続ける。
「これ、私でしょ…」
「そ、それは…」
「良いの。私、後悔してない。宇宙ステーション開発スタッフになった事を…聞いて。500年前までは、地球が丸いなんて、誰も考えた事も無かったんだよ?だから…誰もが船乗り達の、大陸を探すというのを、誰もが無理だ、夢物語だなんて言ってたんだよ。100年前にライト兄弟が初めて空を飛ぼうとしたのも、初めて宇宙に行こうとしたのも、誰もが夢物語だと言った。実現するまで全部、夢物語だったんだよ…それでも、多くの名もない人達が夢物語に憧れ、命を落とし、夢を継いできた。私達が宇宙ステーションを『時の娘』って名付けたのは、自分達が、夢を継いで行く1人だって、誇りがあったなんだよ。一樹…あなたの考えも、革命家達の夢と、少し似てるでしょ?だから、あなたも夢を継いでいる1人だよ…」
「……」
ドックン。
一樹の懐でエボルトラスターが鼓動を打つと同時に、例の光の玉が地面を攻撃、地面からびっくりした様子で『ガルバス』が現れた。
《きゅい⁉︎》
キョロキョロと回りを見るガルバス。光の玉は、そんなガルバスに紫の波動を放った。
《きゅい⁉︎きゅうううう…》
波動を受けたガルバスはしばらく苦しんだが、目の色が変わり、都市部に向かって進み始めた。
学園ではガルバスが突如暴れ出した理由を探っていた。
「さっきの動作から見て、人に危害を加えるとは考え難い…つまり原因はあの紫の波動にあるはずだ…」
訂正、ほぼ一夏が1人で調べていた。
「…クソッ!あの怪獣の脳波が乱れてる!原因は…あの宇宙人か!!!!」
「恐らく町のタービンに向かったのだろう…近くにオルコットと凰がいた筈だ!現場に急行させろ!タービンを止めるんだ‼︎」
指示を受けた2人が現場に到着すると、扉のパスワードを入力しようとしてる一樹とレニがいた。咄嗟にそれぞれの射撃兵装を部分展開した2人。一樹もブラストショットを2人に向けた。
「レニさん…あなたが悪い訳では無いですが、そこを通す訳には行きません‼︎」
「…本当に悪いけど、どいてくれないかしら?」
しかしレニは、銃口を向けられているのにもかかわらず、2人の前に出た。
「私があなた達のどちらかでも、きっと同じ事をした…」
そこに、昼間逃げ切った黒服達が現れた。
「いたぞ!」
「(チッ!『暗部』まで来たか…)」
レニは黒服達を無視して続ける。
「だから…あなた達のどちらかが私でも、きっと同じ事をする筈よ…」
瞬間、セシリアと鈴は同時に攻撃した。レニの背後の扉を…
「早く行って下さい!」
「早く行って‼︎」
レニが先に入り、続いて一樹が入った。
「どういうつもりだ⁉︎」
黒服達が2人に銃を向けてくるが、2人は動じずに銃を向け返す。
「気が変わりましたの」
「気が変わったのよ」
タービン室に入った2人。2人とも専門家なので、阿吽の呼吸でタービン停止の動作を始める。
ガルバスは着々と都市部に近付く。そんなガルバスに、防衛軍が攻撃を始める。
『制御システム、解除しました』
一樹が持ち前のキーボード早打ちで制御システムを解除した。
「もう少し…もう少し…」
レニの方も…
『ラインに、アクセスしました。ラインに、アクセスしました』
「一樹!C2ラインをカットして!」
「ああ!」
ガルバスは都市部に入ろうとする。
「やめろ!そこに入ったらダメだ‼︎」
「一樹!メインスイッチを落として‼︎」
一樹は直ぐにメインスイッチのレバーを下ろした。
《きゅい?きゅい?》
タービンの電波が消えたからか、ガルバスは正気を取り戻した。ガルバスの動きが止まった事により、前に出る防衛軍。ガルバスは怯えて後ろに下がる。
「そうだ…頼む、戻ってくれ」
一夏達学園組が祈る。しかし、ガルバスの背後に光の玉が現れ、ガルバスの足元を攻撃する。まるで、早く行けとでも言う様に…
《きゅい…》
レニは一樹の肩を借り、現場近くの公園に移動した。到着と同時に、レニは座りこんでしまう…
「レニ…」
「行って…あの怪獣を助ける為には、あの宇宙生命体を倒すしか無い…」
「…俺には、出来ない…」
先程から、エボルトラスターがかつて無いほど強く鼓動を打っている。しかし、一樹は出来ない。あの宇宙生命体を倒せば、レニが…
「アイツを倒して、私を眠らせて…ウルトラマン…」
「………」
「あなたは優しいから、私が生きていれば、きっとアイツを倒すのを躊躇う…」
「………」
「初めて会った時から、あなたを知ってる様な気がしてた…でもそれはアイツが私に植えつけていた、偽の記憶だったんだ…」
レニの言葉を聞き、宙に浮かんでいる光の玉を見上げる一樹。
「アイツが仕掛けた、罠だったんだ…だけど、それでも私は、あなたに会えて嬉しかった…」
「レニ…」
「あなたの手で、私を人間に戻して…あの宇宙に、『時の娘』を作ろうとしてた、レニに戻して…」
一樹は無言でエボルトラスターを取り出す。その瞳から、涙が落ちた。
「ッ!!!!」
泣きながらエボルトラスターを天空へ掲げ、ウルトラマンに変身した…ウルトラマンはレニの方を向いた。レニは頷く。それを見たウルトラマンはガルバスの元へ走る。光の玉がガルバスを攻撃しようとするが、ウルトラマンはその間に入り、アームドネクサスでその攻撃を受け流した。
「ヘェアッ!」
《きゅい…》
「(ごめんな…怖かったな…もう、大丈夫だよ)」
安心した声を出すガルバスに、テレパシーで伝えるウルトラマン。そして、光の玉へパーティクルフェザーを放った。
「シェア‼︎」
パーティクルフェザーは見事命中。光の玉からワロガが出て来た。それを見て、ウルトラマンはアンファンスからジュネッスにチェンジした。
「フゥッ!シェア‼︎」
メタ・フィールドを展開しようとするが…ワロガはすうっと消えてしまった。
「フッ⁉︎」
そして、ウルトラマンの背後に現れた。
《ハアァァ…》
「フッ⁉︎」
メタ・フィールドを展開させないためだろうか。ダダを上回る速さで現れたり消えたりを繰り返しているワロガ。ウルトラマンは止むを得ず、メタ・フィールドを展開せずに戦闘することを決めた。
「ハッ!」
ワロガへと走り出すウルトラマン。先制の右ストレートを放つが、ワロガの腕に受け止められ、空いた胴を蹴られるウルトラマン。
「グァッ⁉︎」
腹部の痛みに、思わず前かがみになった背中を殴りつけられる。
「グゥッ⁉︎」
続いてラリアットを喰らい、地面に、背中を強打するウルトラマン。起き上がり、直ぐに構えるもワロガのパンチをまともに喰らってしまい、再び背中を強打した。
「グォッ⁉︎」
足を高く上げた勢いで起き上がり、構えるが、ワロガは消えていく。
「フッ⁉︎」
周囲を警戒するウルトラマン。そんなウルトラマンの背後にワロガが現れ、ウルトラマンを羽交い締めする。
「グァッ⁉︎」
ピコン、ピコン、ピコン…
コアゲージが鳴り響くが、ウルトラマンはワロガの腕を掴んで羽交い締めから逃れると、そのままワロガを投げる。ワロガは一回転して衝撃を殺すと、再び姿を消した。
「フッ⁉︎」
レニはワロガが消えた瞬間、ある一点を見つめた。そこの水面にワロガが写ったと思ったら、実体を表した。レニがバイオチップによるシンクロ能力を利用したのだ。
「許さない…」
実体を表したワロガに向けて、ウルトラマンはパーティクルフェザーを放つ。
「フッ!シェア‼︎」
パーティクルフェザーは見事ワロガに命中。怯んだワロガに両腕でのパンチを叩き込むウルトラマン。
「デェア!」
続いてストレートキック。打たれ弱いのか、ワロガはもうフラフラだった…
「フゥッ!」
必殺技の構えをしたウルトラマン。再度レニに顔を向けると、レニは頷いた。構わずにやってと言う様に…ウルトラマンも頷き返すと、エネルギーを胸に集めて、コアインパルスを放った。
「フッ!フアァァァァ…トゥアァァァァ‼︎」
コアインパルスを受けたワロガは爆散していった…
レニは最後、星空を見上げながら笑って消えて行く…ウルトラマンとガルバスは、静かにそれを見送った…
翌日、その公園に一樹は来ていた。花束を持って…
「レニ…今後の宇宙がどうなるか、ゆっくり見守ってやってくれ。レニの仲間達が、頑張る姿を」
花を供えると、一樹はその場を去っていった…
『ありがとう、ウルトラマン』
次回もコスモスの敵出て来ます。その後、ネクサス本編に戻ります。