人と光の“絆”   作:フルセイバー上手くなりたい

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Episode28 幻覚-ハルーシネイション-

「全部お前のせいだ』

一夏の目の前で、闇に包まれていく沙織。

「嘘だ……」

「お前のせいで、私はこうなった…』

闇に完全に包まれた沙織。闇が晴れると、等身大のファウストがそこにいた…

『私はファウスト…光を飲み込む、無限の闇だ』

 

『今日こそ貴様を倒し、私の一部として取り込む…』

「グッ!グォッ‼︎」

ピコン、ピコン、ピコン

ファウストに押さえつけられ、光を奪われていくウルトラマン。

「やめろォォォ‼︎」

麒麟のビームマグナムをガトリングモードでファウストに打ち込む一夏。

『織斑…君』

 

一夏の腕の中で、金色の光の粒となって消えて行く沙織…

「う、ウワァァァァァァァァァァァァ‼︎沙織ィィィィィィィィィィィィ‼︎」

 

世の中には、自分の力だけじゃどうする事も出来ない事がある…この残酷な現実に…俺はただ立ち尽くす事しか出来なかった…だけど、この時の俺はまだ知らなかった。これが、悪魔の戯れの、ほんの始まりでしかなかった事を。by一夏

 

沙織とのデートコースだった動物園で、一夏は悲しみに暮れていた。そんな一夏の後ろに、溝呂木がいるとも知らず…

 

IS学園の管制室では、束が専用機持ち達の前に立ち、画面に新しいクロムチェスターの合体形式を発表した。

「姉さん、これが新たに開発された対巨大ビースト対策形態ですか?」

『うん!その名も“メガキャノンチェスター”だよ!β機のメガビームキャノンにγ機のメタ・ジェネレーターを直結させることで、バニッシャーの威力をストライクチェスターよりも25%もアップする事が出来るんだ』

「しかしこの様な戦車タイプですと、機動力が落ちませんか?」

そう、ストライクチェスターが高速戦闘機状態なのに対し、メガキャノンチェスターは砲台が巨大な戦車タイプなのだ。

「要は使い分けだ。ビーストが強くなっている分、こちらも攻撃の選択肢は増やしておく必要があるからな」

千冬の言葉に、皆が納得している中、鈴があることに気づく。

「あれ?一夏はどこよ?」

「そう言えば見当たらないけど…」

「織斑なら特別休暇を与えている」

千冬の言葉に皆驚きの表情を浮かべる。

「…何故ですか、教官」

「織斑先生だ。お前達にも話しただろ?斎藤沙織の件について」

沙織の名が上がった途端、皆が何とも言えない表情になる。

「…今の織斑は戦える状態では無い。心を回復させる為にも、休んだ方が良いと判断した。以上だ」

「しかし溝呂木は!そんな心の隙を狙うんですよ⁉︎」

ラウラが反論するが、千冬は冷静に返す。

「しかし、調査上では溝呂木が斎藤沙織の件に、関わっている足をつかめなかった…」

「だから一夏に直接聞きたいんです!それに、我々だって一夏を助けたいと思っています‼︎」

 

一樹は、ストーンフリューゲルでここ最近の連戦の傷を癒していた。その頭には汗が滲んでいる。まるで、悪夢を見るかの様に…

「ウグッ!クゥゥ…」

 

動物園のベンチで座りながら、沙織に貰ったお守り、ガンバルクイナ君を見つめる一夏。

『お守りだよ、ガンバルクイナ君』

「…沙織」

(さやか)ー!」

「彩!ちょっと待ちなさい‼︎」

一夏の目の前を小学生くらいの女の子が走ってきた。キリンのコーナーに着くと嬉しそうに言った。

「やった!1着‼︎」

その後ろから家族と思われる人達が女の子に近づいた。

「急がなくても動物は逃げないよ彩」

「だって全部見るんだもん!ゆっくりしてられないよ‼︎」

「よーし、写真撮るぞ。並んで並んで」

父親らしき人物がその兄妹と母親らしき人物を写真に撮ると、一夏のとこへ近づいてきた。

「すみません、写真撮ってもらえませんか?」

「…ええ」

カメラを受け取り、一家に向ける一夏。

「はい、チーズ」

カシャッ

「これで良いですか?」

「はい、ありがとうございます」

「いえいえ」

一夏がカメラを返すと、一家は礼を言い、他の動物の所へ走って行った。その姿を見ながら、一夏は沙織との会話を思い出していた。

 

『ライオンも、ゾウもキリンも、沙織が描くのは、みんな家族ばっかだよな?なんでだ?』

『うーん…学校のテーマだから。“家族の肖像画”』

『家族の肖像画…か。いつか沙織の家族を紹介してほしいなあ…』

 

沙織との会話を思い出していた一夏。

「紹介したくても出来ないの。だって…あなたのせいでみんな死んじゃったんだもの」

一夏が声の方を向くと、そこには沙織がいた。

「沙織…」

沙織は一夏の方を見るも、何も言わずに立ち去ろうとする。

「沙織‼︎」

一夏はそんな沙織を追って走り出す。

「ハア、ハア、ハア…」

動物園にある芝生広場についた一夏。一夏の正面の木から沙織が出てきて、話す。

「2年前のあの日のことよ…私達家族が殺されたのは…ここであなたと出会った日の夜、私達家族はビーストに襲われて死んだの…全部、あなたのせい」

そう言うと沙織は消えて行った。一夏は沙織がいた所に駆け寄るが、当然沙織はいない。そこに…

「織斑一夏」

悪魔がいた。

「やはり心が弱い奴ほどいたぶり甲斐があるな」

季節外れの黒いコートを着た男が、一夏に近づいてきた。

「俺は溝呂木慎也だ…お前の姉の元同僚であり、お前の仇だよ」

 

「斎藤沙織は…俺の操り人形だったのさ」

「テメエが…沙織を…」

「面白かったぞ?お前達の恋人ごっこを見てたのは」

「テメエ…ふざけるな‼︎」

一夏は溝呂木に殴りかかるが、溝呂木はあっさり避けた。

「この!」

一夏は溝呂木の胸ぐらを掴む。が溝呂木はそれを振りほどき、一夏の胴を殴る。

「ガハッ!クソ…」

もう一度溝呂木の胸ぐらを掴んだ一夏。溝呂木に殴りかかるが、溝呂木の目から放たれた闇の波動を受け、動きを止める。溝呂木はそんな一夏を掴み、別時空へ飛び込んだ。

 

「ウグッ!いってえ…」

生活感も何も無い部屋の様な場所に一夏は飛ばされた。起き上がった一夏の背後の天井には、ダーク・フィールドが広がりつつあった…

「織斑君!来てくれたんだ!嬉しい‼︎」

どこからか沙織が出てきた。一夏は何の疑問も持たずに沙織についていく。再び時空の歪みを通ると、先ほどとは違って、可愛らしい部屋へと着いた。

「ここは…」

「さっきからどうしたの織斑君。悪い夢でも見たの?」

「…夢?」

「うん、夢」

沙織の言葉に、一夏が部屋を見渡すと、沙織が描いたと思われる可愛らしい動物達の絵が飾ってあり、中には制作途中と思われる絵もあった。

「…沙織、本物なんだよな?生きてたんだ!良かった〜」

沙織の肩に触れると、納得した様に呟く一夏。沙織はそんな一夏の手を引くと、リビングと思わしき部屋に案内した。

「パパ、ママ、いつも言ってた彼だよ」

「あ、どうも」

この時、一夏が正気だったなら気付いた筈だ。沙織が両親として紹介していたのは、マネキンだったことを…

「初めまして。俺、織斑一夏と言います」

しかし、一夏は気付かず、マネキンに頭を下げていた。挨拶が終わると、沙織の方を向いて微笑む一夏。沙織も笑っていたが、突如崩れる様に消えて行った。一夏はすぐに辺りを見渡す。すると、沙織が森の中で倒れていた…

「沙織!」

倒れてる沙織に駆け寄る一夏。沙織を起こす様に抱き抱えると、沙織は左手を伸ばしてきた。一夏はそれを掴むと、沙織の顔を見る。沙織は悲しげに笑うと

「ごめん…ね…」

目を閉じた…

「沙織、沙織!嫌だよこんなの!沙織!死ぬな!沙織‼︎」

一夏の周りが、闇に染まっていく…

 

ストーンフリューゲルの中で一樹は、一夏が徐々に闇に染まっていく様子を()()

「(一夏駄目だ!闇に惑わされては駄目だ‼︎)」

 

一夏が行ったと思われる動物園に、専用機持ちの5人がいた。どうやら一夏を探しに来た様だ。

「一夏〜!」

「返事して下さいまし〜!」

「どこにいるのよ一夏!」

「一夏!返事して‼︎」

「一夏!どこにいる⁉︎」

鬼気迫る5人、それもそうだ。先ほどまであった白式の反応が、急に消えたのだから…

 

「沙織!沙織‼︎」

何も感じない空間で一夏はばらばらのマネキン人形を沙織と呼んでいた…そんな一夏の頭を誰かが掴む。

「この弱虫が!」

バキッ!

何者かに殴られた一夏。起き上がって誰かを見てみると、なんと千冬だった。千冬の後ろから、IS学園での仲間達が現れてくる。

「一夏、貴様は彼女が死んでた事に気付かなかったのか?呆れた奴だ」

「わたくしはこんな弱い人に負けたのですか?」

「アンタって相変わらず馬鹿ね」

「一夏ってそんなに馬鹿だったんだね。僕がっかりだよ」

「何故お前の様な奴に私は助けられたんだ?」

一夏を囲んで次々と一夏を攻撃する6人、更に千冬は一夏の顔を掴むと不気味に笑いながら言う。

「溝呂木も面白い遊びを考えたな。そうだろお前たち?」

「「「「「本当ですね」」」」」

 

一夏が闇の空間で追い詰められている頃、現実空間では5人が必死で一夏を探していた。そんな中、ラウラの頭にあの男の声が響く。

《やあラウラ。よく来てくれたな》

ラウラはその声がどこから発せられているのか、辺りを見渡すがどこにも溝呂木の姿は見えない。

「ラウラ?」

シャルロットが不思議そうに話しかけてくるが、ラウラは答えない。

《人間が壊れていく様を見るのは楽しいぞ、ラウラ》

「…何故一夏を?」

《俺は力を得た。悪魔…“メフィスト”の力をな…この力で、お前達全員をズタズタにしてやる》

「一体何故だ?」

ラウラの疑問に一夏は答える。

《お前の為だよ、ラウラ》

「何?私の為だと?」

《ああ。お前も早くこっちに来い》

「ふざけるな‼︎」

《ふざけてなんかいない。お前にはその資格がある。織斑一夏はお前にそれを気付かせる道具だ》

 

「俺は…駄目人間だ…誰も救えやしない…」

頭を抱える一夏の周りで仲間だった筈の皆が一夏を嘲笑う。いつの間にか一夏の周りの人達が消えると、一夏はダーク・フィールドにいた。一夏の背後から影が近づき、一夏を乗っ取ろうとする。

「ダメだ…ダメだ…俺は、ダメだ」

 

「(闇に囚われるな!一夏‼︎)」

痛む腕を伸ばし、エボルトラスターを掴む一樹。エボルトラスターは鼓動と同時に光り輝いた。

 

ダーク・フィールドに、ジュネッス形態のウルトラマンが現れた。

「シュ!シェアッ‼︎」

腕をクロスした後、その両腕を広げ、ダーク・フィールドを少しずつとは言え、光の空間であるメタ・フィールドに変換させていく。一夏を蝕みかけていた影はメタ・フィールドから発せられる光の影響か、一夏から離れていった。呆然とウルトラマンを見上げる一夏。

「光を失うな!一夏‼︎」

あと少しで一夏の元にメタ・フィールドが到達する…しかし…

《異層の干渉もそこまでだ》

溝呂木の言葉の後、広がりつつあったメタ・フィールドをダーク・フィールドが押し返すとウルトラマンも消えて行った。

 

光が一樹の元へ戻る。光が晴れると、鞘から抜かれていたエボルトラスターがあった。一樹は目を見開くと、上体を起こす。

「ハア、ハア、ハア…一夏…」

 

《フン、織斑一夏は返してやる。まだまだ遊び甲斐があるからな》

突如時空が歪み、そこから一夏が現れた。

「ウワッ!」

「「「「一夏‼︎(さん‼︎)」」」」

5人が一夏に駆け寄るが…

「ヒィィ⁉︎」

先程空間で責められた事により、5人に恐怖する一夏。

「しっかりしろ一夏!」

ラウラが一夏に平手打ち。一夏の目は漸く光を取り戻した。

「…あれ?皆?」

「一夏、お前の悲しい気持ちは分かる…だが、立ち止まっては駄目だ‼︎」

ラウラの言葉に続き、箒が話す。

「…本当に沙織とやらの事を思うなら、ビーストを憎め」

「…え?」

「その憎しみを、力に変えるんだ。良いな?」

そんな所に、ある家族が近づいて来た。

「あ、さっき写真を撮ってくれたお兄ちゃんだ。さっきはありがとう‼︎」

一夏もそれに気付くと、軽く頭を下げる。その子の両親も頭を下げると、楽しげに去っていった。

「…そうだな。あの子達の幸せを、俺達が守らなきゃな…」

その夜、ある一家の消息が絶たれた…


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