まるで…夢の中にいる気分だった。でも、朝が来ればどんな恐ろしい夢も呆気なく忘れてしまい、またいつもと変わらない日常が始まる。だから早く目覚めてくれ…俺は心の中で、何度も繰り返し叫んでいた。by一夏
「1年ぶりだな…ラウラ」
銃口を向けられているにも関わらず、親しい友人と再会した様に話す溝呂木。少しずつラウラに近付く。
「またこうして会えるのをずっと楽しみにしていた」
「ふざけるな‼︎」
ラウラは拳銃の最終セーフティを外す。
「…怖い目だな。まるで、あの櫻井とか言う男を初めて見た時と同じ目だ」
ラウラはそれには答えず、溝呂木に銃を向け続ける。
「俺とアイツを同じにするな。ラウラ、俺はお前の心を…」
「溝呂木」
ラウラは溝呂木に割り込む様に話し出す。
「そこで何をしている?」
ラウラに質問に、溝呂木は薄く笑うと答える。
「ゲームさ」
「ゲーム…だと?」
「そう、俺は今最高に面白い遊びをしている最中なのさ」
沙織の部屋にあった2人で撮った写真を見ていた一夏を、黒い影が覆っていく。一夏を影が完全に覆った瞬間、一夏の目が見開かれる。
「ウグッ!」
一夏の脳裏にある光景が浮かぶ。ビーストの巨大な爪がある一家を引き裂く光景が…
「ウワァァァ‼︎」
「どうした?撃たないのか?なら行くぜ」
ラウラに背を向け、何処かへ立ち去ろうとする溝呂木。ラウラはその背中目掛けて銃を撃つが、溝呂木は黒い棒状のアイテムでその弾丸を弾いた。
「それでこそ俺の仲間としてふさわしい」
「何?」
溝呂木はラウラに向かって黒い波動弾を撃つ。ラウラは右に転がりそれを避け、再び銃を向けるが、既に溝呂木は消えていた…
「クソ!逃げられた‼︎」
そこで、ラウラのISが鳴り響き、ビースト震動波を感知した…
一夏の白式もビースト震動波を感知していた。
「まさか…」
一夏の脳裏に、先程のビーストに襲われかけてる沙織が浮かぶ。
「沙織‼︎」
震動波を感知した場所の地下に、箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、そして千冬(打鉄装備)の姿があった。
「震動波を感知したのはこの辺りだ。皆、気を抜くなよ」
「「「「はい‼︎」」」」
千冬先導の元、少しずつ震動波の元へ近付く一向。そして、震動波を発している部屋に辿り着いた。
震動波を感知した場所へ一夏が急いでると、謎の声が一夏に語りかける。
《お前のせいで、斎藤沙織は消える》
「…誰だ?お前は誰だ⁉︎」
「よし、行くぞ!」
打鉄が扉を蹴破ると震動波に向けて突っ込む。
《お前のせいで、あの女の家族は消えた…そしてもうじき、あの女自身もな…》
「黙れ!黙りやがれ‼︎そんなの嘘だ…嘘に決まってる‼︎」
全員が突っ込むと、そこには震える男性がいた。
「「「「は?」」」」
「あ、あの!な、なんであなた達IS乗りが此処へ?」
男性は震えながら千冬達に聞く。
「貴様!何のつもりだ⁉︎」
千冬が胸倉を掴んで、男性を問い詰める。
「い、いや、私、昨日お酒飲みすぎちゃって、き、気付いたらここに…ほ、本当ですよ?」
「ふざけているのか⁉︎」
その時、男性の胸元から音が聞こえる。千冬がそれを取り上げると、そこには発信機が仕込まれていた。
「これは…」
「わたくし達…」
「一杯食わされた様ね」
「偽のビースト震動波に?」
箒、セシリア、鈴、シャルロットが言う中、千冬は男性に聞く。
「…誰に渡された?」
「し、知らないです!」
「思い出せ!」
再度胸倉を掴み、男性を問い詰める千冬。その途端、男性の声音が変わり薄い笑みを浮かべ、千冬、ラウラの知っている声になった。
《騙されてマジギレかい?織斑教官。そんなに俺が…怖いか?フフフフ…ハハハハハ‼︎》
「ッ⁉︎溝呂木!貴様ぁぁぁ‼︎」
「ヒィィ、ご、ごめんなさいごめんなさい」
「織斑先生!落ち着いて下さい‼︎」
シャルロットが必死になって止めると、千冬はある程度落ち着きを取り戻した。まだ肩で息をしていたが…
「奴は…なんだってこんな手の込んだイタズラを…」
その疑問に、今までずっと黙っていたラウラが答える。
「ゲームです」
「ゲーム…だと?」
「はい、溝呂木は楽しんでいるんです。私達の怒りや、恐れを」
バイクで山道を突っ走る一夏の眼前に、何故か止まっているマイクロバスがあった。
「…なんだ、あのマイクロバスは?」
念の為、麒麟のビームマグナムをガトリングモードで展開し、バスに乗り込む。バスの中には誰もおらず、中にはただ定期入れと思われるケースが落ちているだけだった。一夏はそれを拾い上げ、中身を見ると、家族5人が、幸せそうな顔で写っている写真が仕舞われていた。
「(まさか…)」
背後に気配を感じた一夏が、後ろを振り向くと、以前ウルトラマンが倒した筈のペドレオンの小型体がいた。
「ウォォォォォォ‼︎」
ビームマグナムを一夏は乱射した。
「ハァ、ハァ、ウグッ!駄目だ、一夏…怒りに支配されてしまっては…ダメだ」
ファウストとの戦いの傷が癒えないまま、一樹は森に向かって急いでいた。
「ビースト‼︎また誰かを犠牲にするつもりか⁉︎」
ビームマグナムを構えながら、一夏は森の奥へ向かっていく。一夏の周りには、ペドレオンが大量に発生していた。
「その前に俺が!お前達を全滅させてやる‼︎」
一夏はペドレオンに向かって銃を乱射、ペドレオンは次々とまるで風船の様に破裂していく。
「砕け散れ…この世界から消えろ‼︎」
次々と現れるペドレオンに、一夏はビームマグナムを乱射する。
「消えろ…消えろ…消えろォォォォ‼︎」
「目ぇ覚ましやがれ一夏‼︎」
一夏の前に、一樹が立ち塞がる。
「お前が戦ってるのは、全部幻だぞ‼︎」
しかし一夏は、一樹の言葉に耳を貸さない。
「なあ…邪魔すんなよ…だって俺は…人の命の為に戦ってんだからよ…」
「しっかりしやがれ‼︎闇の波動に囚われたら…2度と戻ってこれねえぞ‼︎」
「うるせえな!邪魔すんな‼︎」
普段の一夏ならば、絶対にあり得ない事が起きた。なんと一夏は一樹に向かってビームマグナムを撃ったのだ。一樹は右に飛び込んで避けると、一夏の眉間目掛け、ブラストショットを撃つ。瞬間、黒い影が一夏から飛び出し、消滅した。
「一樹…」
正気に戻った一夏に、一樹は説明する。
「ビーストの一部がお前に憑いていた…奴らは人の怒りや憎しみを吸収し、幻覚を見せる」
「幻覚?」
「ああ…恐らく、誰かがお前を狙ったんだ」
「誰かって…」
「それは分からない。ただ…」
「織斑君…」
何処から現れたのか、沙織がすぐそばにいた。
「沙織!良かった。てっきり君が誰かに殺されたんじゃないかって…」
会いたかった沙織に会えたことで、一夏は喜びながら沙織に近付き、優しく肩を掴む。しかし、沙織はその手をまるでくっついた虫を払う様に一夏の手を振り払う。
「殺されたわ…」
「…え?」
「私も…私の家族も、織斑君のせいで殺されたのよ…」
「俺の…せいで?」
すると、沙織の声が不気味に低くなり、紫色の闇に包まれていく。そして、チカチカとファウストの顔が見えた。
「さっきも言っただろ?お前のせいで私は殺された』
一夏は目の前の光景に、思わず後ずさりする。
「操り人形として、利用される為に…』
沙織の体を闇が完全に包む。そして、闇が晴れると、そこには沙織の姿は無く、等身大のファウストが立っていた。
『私はファウスト……光を飲み込む、無限の闇だ』
「嘘だ…嘘だ…」
自分の恋人がファウスト…信じたくない現実を突き出され、呆然とする一夏。その状態を見た一樹は、痛む体に鞭を打ち、左胸ポッケからエボルトラスターを取り出す。
「なら俺が……その闇を打ち払う‼︎」
そしてエボルトラスターを引き抜き、正面に構える。それを見たファウストは、黒いオーラに包まれ、巨大化していく。
「だぁっ‼︎」
一樹もエボルトラスターを天空へ掲げ、ウルトラマンに変身する。
「フッ!」
『デヤァ!』
その光景を、少し離れた所で溝呂木が見ていた。悪魔の様な、歪んだ笑みを浮かべて…
「始めようぜ…デスゲームを」
「ハッ!」
ウルトラマンはファウスト目掛けて走り、投げ技を仕掛けようと掴む。対するファウストも、ウルトラマンを掴む。
『デュア!』
ファウストはウルトラマンを投げようとするが、ウルトラマンは側転でその勢いを殺す。ファウストは続けて上段回し蹴りを放つが、ウルトラマンは屈んでそれを避けると、ファウストの左腕を掴み、ファウストの腹部に蹴りを入れる。
「シュ!」
『グォッ⁉︎』
続いてファウストの頭を掴み、投げ飛ばす。ファウストは受け身を取り損ね、地面に激突する。
「ヘェア!」
『グッ⁉︎』
その様子を見たウルトラマンは、エナジーコアにアームドネクサスを付け、ジュネッスにチェンジ、一夏を巻き込まない様、メタ・フィールドを展開する。
「フッ!フアァァァァ…シュ!ヘェア‼︎」
しかし、ファウストがダーク・フィールドを展開した。
『フンッ!デュアァァァ‼︎』
しかもウルトラマンが避けた一夏まで、ダーク・フィールドへ入っていた…
『ダアァァァァ‼︎』
「デェァァァァ‼︎」
2人の強烈なクロスカウンターが互いに決まった所で一夏は目を見開いた。互いに大きなダメージを受けた巨人2人は、片膝をつく。
『グゥ…ハァ‼︎』
先に立て直したファウストが、ウルトラマンを強烈なフックパンチで空中へぶっ飛ばす。
「グッ…シュ!デェァァァァ‼︎」
ウルトラマンは身を反らして体制を整え、空中からファウストに飛び蹴りを喰らわせようとするが、ファウストは側転で回避した。着地したウルトラマンはすぐにパーティクルフェザーをファウストに向けて連続で撃つ。ファウストは側転で続けて避ける。ファウストが立った瞬間を狙い、再度、パーティクルフェザーを撃とうとするウルトラマン。だが…
「フッ⁉︎」
ファウストの足元には一夏がいた為、攻撃出来なかった。
『やはり脆弱だな…フンッ‼︎』
「グアァァァ⁉︎」
ファウストはウルトラマンに闇の波動弾を撃つ。一夏に気を取られ、回避出来なかったウルトラマンはうつ伏せに倒れる。ファウストはウルトラマンを地面に押し付け、首を絞め上げる。
『今日こそ貴様を倒し、私の一部として取り込む…更に無敵となる為に…』
ファウストが言い終わると、ウルトラマンから次々光が抜け出され、ファウストに吸収されていく。
『ハハハハハ…ハッハハハハ』
「グッ⁉︎グォッ⁉︎」
『ハハハハハ』
「グアァァァァ!?」
ピコン、ピコン、ピコン
一夏は思い出していた。沙織と出会ってからの日々を…沙織との思い出を…
『私の絵、そんなに褒めてくれたの、織斑君が初めてだよ』
『織斑君!好きです!私と付き合って下さい‼︎』
『IS学園での生活、頑張ってね』
信じたくなかった。あの笑い声を上げてる巨人が、沙織だなんて…
「やめてくれ…ウルトラマンを…一樹を、これ以上、傷つけないでくれ…沙織‼︎」
無我夢中で、ビームマグナムをファウストに向かって撃つ一夏。ファウストの顔にそれは命中。傷こそつかなかったが、ファウストは一夏の方を向く。すると、ウルトラマンのエネルギーを吸っていたのが止まった。
「何をしている⁉︎早くウルトラマンの光を奪え‼︎」
ファウストの頭に、溝呂木の声が響くが、ファウストは聞いていなかった。思わずウルトラマンを離すファウスト。
『織…斑…君?』
「微かに記憶が戻ったか…ならこうするまでだ」
溝呂木が右人差し指と中指を眉間に当て念じる。
ダーク・フィールドにビーストが現れた。
「あのビーストは⁉︎」
一夏がビーストに取り憑かれていた時、脳裏に浮かんだビーストがそこに現れた。ビーストは一夏に近づいて行く。
「フッ⁉︎シェア‼︎」
ビーストが一夏を狙っているのに気付いたウルトラマンが、パーティクルフェザーをビーストに向かって撃つ。ビーストの爪に当たるが、大した効果は無いようだ。ウルトラマンは何とか立ち上がろうとするが、体が言うことを聞かない。その間にも、ビーストは一夏に近づく。
「ソイツはもう良い…消せ」
溝呂木の指示に従い、一夏に向かってその巨大な爪を振り下ろすビースト。
「うわっ!」
一夏も思わず腕で顔を覆う。が、いつまで経っても予測していた衝撃が来ない。
「何⁉︎」
溝呂木も驚く光景がそこにあった。
『グ、グォォ…』
ピコン、ピコン…
なんと、ファウストが身を呈して一夏を庇ったのだ。ビーストがその鋭い爪をファウストから引き抜くと、そこから光の血が吹き出す。ビーストは邪魔くさそうにファウストを蹴飛ばすと、再度一夏に爪を振り下ろそうとする。
「フッ!」
そこに何とかウルトラマンが間に合い、ビーストの両腕を掴み、一夏とファウストから離す。
「フオォォォ…ヘェア‼︎」
エルボーカッターでビーストの爪を破壊すると、そのまま横へ投げる。ビーストが一夏とファウストから充分に離れると、クロスレイ・シュトロームを放つ。
「フッ!シェアァ‼︎」
なんとかビーストを倒す。そこでダーク・フィールドは解除されて行き、ウルトラマンも片膝をつき、消えて行った…
ビースト震動波を察知した箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、千冬が森に着くと、一夏が少女を抱えていた…それを見て、血相を変えて一夏に飛びかかろうとする5人の前に、一樹が立ち塞がる。
「どけ‼︎」
「どいて下さい‼︎」
「どきなさいよ‼︎」
「どいて‼︎」
「どかんと撃つ‼︎」
しかし、千冬も無言で5人を止める。
「…今回は…よせ」
一樹は弱々しく言う。シャルロットが食ってかかろうとするが、ようやく一樹の状態に気付く。
「どうしたの櫻井君⁉︎身体中、血だらけだよ⁉︎」
もはや一樹の制服は、血で汚れていない所を探す方が困難な状態になっていた。しかし、一樹はその点には何も言わず…
「今回は……頼むから、下がってやれ…」
「……分かった」
背が高い千冬は後ろの惨劇が見えたのだろう。5人を引きずって、戻っていく。6人が戻って来ないと分かった途端、一樹は倒れた。
「沙織!死ぬな…死んじゃダメだ‼︎沙織‼︎」
沙織はゆっくりと目を開ける。
「織斑…君……私………後悔なんて……してないよ………織斑君と……出会えたこと……」
沙織は、ゆっくり、ゆっくりと一夏に手を伸ばす。一夏はその手を握る。その手は…氷の様に冷たかった…
「もっと………色んな事…………話し……たかった……な……」
「俺だって……まだまだ話足りねえ…話したい事が…一杯あるのに‼︎」
一夏の目から大粒の涙が流れる。感情はそれを否定したいのに、無駄に溜まってる知識は、それを理解しているのだ。沙織の手が、どんどん冷たくなっていくことを…
「ごめん…………………………ね…………」
沙織はそこで目を…閉じた
「沙織⁉︎沙織!沙織‼︎」
沙織の体が金色に輝き、美しい光の粒になって消えて行った…一夏の腕の中に、彼女はもういない…
「う、ウワァァァァァァァァァァァァ‼︎沙織ィィィィィィィィィィィィ‼︎」
一夏の絶叫が森に響く…
「ごめんな…一夏…間に合わなくて、ごめんな…」
もう少し早くビーストを止められれば、ファウストにあの爪は刺さらなかったかもしれない。あの時動けなかった自分を呪う一樹。顔が涙でぐしゃぐしゃになりながらも、ひたすら一夏に謝っていた…
…ネクサス見ながら書いたけど、やっぱりここら辺は辛いな…