人と光の“絆”   作:フルセイバー上手くなりたい

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あの要素はなるべく出さないようにしてましたが、ごめんなさい…

映画公開が決定してテンション上がって書き出したら、引き返せなくなったんです…


Episode141 琴-ソーズウーマン-

「はふはふ…やっぱ一夏のおでんは美味いよ。今度は蕎麦打ってくれよ」

「オッケー。季節はちょいと過ぎたけど月見で良いか?」

「一夏のやりやすいので良い。間違ってもそこのバカ共に手を出させるなよ。俺は死にたくない」

 

本来、男子だけで一夏お手製のおでんを食べる予定だったのだが、ハイエナの如く代表候補生たちが現れて何食わぬ顔で参加してるので、一瞬一樹の顔が般若の様になったのは別の話。

 

「ラウラさん、言われてますわよ」

「お前だセシリア。むしろ私はこの中で1番料理上手だと自h「寝言は寝て言えよ?」すいませんでした」

 

料理下手TOP2が醜い争いをしていたが、一樹の殺気により止まる。

それを他所に、雪恵がふと鈴に話しかけた。

 

「ねえ鈴ちゃん。エビチリの作り方教えて?出来れば辛さ抑えめの」

「え?良いけど…何で?しかも辛さ抑えめ?」

「かーくんが食べたいらしいんだけど、かーくんあまり辛いの好きじゃないから」

 

その瞬間、一樹をイジるネタが出来たと悪い顔を浮かべる者が若干名。しかし…

 

箒の場合。

 

「何だ櫻井。お前意外とお子様なんだな」

「うんそうだよーきみのせいかくみたいだねー」

「アベシッ!?」

 

大根を頬張りながら言われ、箒ダウン。

 

鈴の場合

「ププッ、辛い物ダメじゃ薬味系必要ないわね」

「そうですねーところできみのはじめてのりょうりはぼくもやくみないとたべれなかったよー」

「ひでぶッ!?」

 

白滝を食べながら言われ、鈴ダウン。

 

楯無の場合

 

「あらあら。意外と可愛いとこあるじゃない」

「そーでしょーところできみがはるからやってきたことなんだけどさー」

「誠に申し訳ございませんでした!!」

 

ちくわぶを食べながら言われ、楯無土下座。

 

そんな光景を見ながら、一樹に具を取ってやる苦笑気味の一夏。

千冬以上に一夏の料理の腕を知ってる一樹。つまりそれだけ一樹に料理を作ってるので、好みは何なのか分かる。

 

「ほい。シュウマイ巻とちくわぶの追加だ」

「ありがと。やっぱ一夏のおでん、というか料理は好きだ。舞の次にな」

「流石に家庭の味には勝てねえよ」

 

 

 

宇宙のある寂れた星。

バルキー星人は右手にバルキーリングを持って周囲を見回していた。

今、バルキー星人が地球人と同じ体だったら、冷や汗が流れていただろう。

それだけ、辺りには濃密な殺気が漂っていた。

そして____

 

スパッ

 

____バルキー星人は声を発する事も無く、また自分がどうなったのかも分からぬまま絶命した。

 

《…フン》

 

バルキー星人の体が首から下だけになったのを、つまらなそうに見る異星人が1人。

全身を青の鎧に包んだ、地球人でいう戦国武将の様な姿の異星人。

宇宙剣豪、ザムシャー。

強い者と戦い、更なる強さへと至る事だけを求める戦闘狂だ。

いや、()()()()()()

 

《ここの者も大した事無かったな…》

 

エコーがかかったような声が響く。愛刀である【星斬丸】を血振りしてから鞘に納めると、砂埃が舞う空を見上げる。

 

《そろそろ行くか…地球へ》

 

 

「めぇぇんッ!!」

「遅い」

 

剣道場の一角。防具を纏った箒が竹刀を全力で振り下ろす。相手は制服姿の一樹だ。箒の一撃をスポーツチャンバラの柔らかい剣で横に流すと、隙だらけの面を叩いた。

 

「一本!勝者櫻井一樹!…で良いの?」

「上出来だよ雪」

 

審判をしていた雪恵が不安そうな顔で一樹に聞く。セリーから受け取ったタオルで汗を拭きながら答える一樹。そして、タオルのひとつをいまだダウンしている箒に投げ渡す。

 

「ほら篠ノ之。さっさと起きろ」

「少し…待ってくれ…かれこれ2時間はやりっぱなしなんだぞ?」

「お前が相手しろって言ったんだろうが。防具を付けないなんて舐めるなとか言ってたが、1回も当たる様子は無いし、何より俺はスポーツの剣道で相手するつもりは無いからな」

「くっ…休憩したらもう一回だ!」

「えぇ…せめて弾に一撃当ててから言えよ」

「勝負だ五反田!

「ふざけんな一樹!」

 

あっさり弾を切り捨てて、剣道場から出る。

テテテと一樹に着いてくる雪恵。その腕を取ると、笑顔を浮かべる。

それに笑みを返していた一樹だが、ふと思った事を聞いてみた。

 

「なあ雪。何で篠ノ之の対戦してる時防具を着てなかったことを怒らなかったんだ?」

 

その一樹の問いに、雪恵は苦笑気味に答える。

 

「織斑君と前やってた時に文句を言って、箒ちゃんとの時に言わなかったのは…実力かな」

「納得したわ」

 

煉獄で一樹と共に戦えた一夏と、花澤1人に対し8人で挑んでも勝てなかった箒が同じ実力の筈が無い。更に一夏より強い一樹が、箒の攻撃を喰らう訳もない、というのが雪恵の考えだった。

 

「…ん?」

「どうしたのかーくん」

「なんて言うかな…気配が騒がしい」

「へ?」

 

一樹が妙な感覚を感じてた頃、麒麟のメンテナンスをしていた一夏、日課のトレーニングをこなしていた千冬、弾にボコボコにやられていた箒…そして、剣道部一同。つまり、剣に関わっている者たちが大小の差はあれど、()()を感じていた。

それは、宇宙から飛来してくる剣豪の襲来を示していた。

 

 

「こちらSS。謎の隕石が飛来するとされているポイントに到着した。これより迎撃準備に入る」

『本部了解。何が起きるか分かりません。充分注意してください』

「了解」

 

コードネーム代わりのSSを名乗る青年、櫻井宗介。コードネームを考えるのが面倒だからとは言え、イニシャルの頭文字そのままはプロとしてどうなのだろうか。ちなみに、今回のオペレーターはクロエだ。

…余談だが、TOP7が成果を上げると、『まさにエース級の活躍です!』とはしゃいだ声で喜んでくれるとのこと。一体どこのあ○ねるなんだ…

しかし、仕事自体におふざけはしない。Ex-アーマー【インフィニットジャスティス】を纏って浮上。ビームライフルと背中のファトゥムに搭載されているビーム砲を構え、隕石に対応する準備を整える。

 

「SS、迎撃準備完了」

『了解。予測コースを送ります』

 

宗介の視界に、予測コースが表示された。表示によると、あと10秒程でジャスティスの超長距離射程圏内に入るらしい。

 

「(予想より早いな…質量はそこまで大きくないからジャスティスのビームで問題無く破壊出来るけど…嫌な予感がする)」

 

一樹と共に、数えきれないほどの修羅場を経験しているTOP7の中で、一樹に次ぐ実力を持つ(とはいえ、他との実力差は僅かなものだが)宗介。

そんな宗介なら大抵の事は1人で対処出来る。だが、今回はそうはいかなかった。

 

『!?SSさん!緊急事態です!隕石が予測コースを離れました!!』

 

クロエの焦りの声が聞こえる。宗介はクロエに聞こえないよう小さく舌打ちすると、すぐにいつもの声で返した。

 

「ん、分かった。急ぎ移動する。新しい予測コースを教えてくれ」

『そ、それが…』

「クロエ、流石の俺も教えて貰えないと行けないんだけど…」

 

落ち着かせるために、いつもの様におどけた様子で話す宗介。だが、次の報告によってそれが崩れる事になる。

 

『予測コースは…IS学園です!!』

「すぐに一樹たちに連絡しろ!!俺もすぐに向かうが、間に合わない可能性が高い!!」

『は、はい!!』

 

 

「ん。分かったメイリン。ミオに隕石の質量と予測コースを送ってくれ。こっちでぶっ壊す」

『はい、すぐに送ります』

 

視界の片隅に次々送られてくるデータを流し見しながら、万が一に備えて部屋で待機しているセリーに連絡を取る。

 

「(弾に返してもらったノワールをセリーに持っててもらって正解だったな)セリー、聞こえるか?」

『ん、聞こえる。どうしたの?』

「宇宙から面倒な落とし物が来るっぽくてな。俺とミオで壊すつもりだけど、()()()()()()があるから…その時は学園を頼む」

『ん、了解』

 

セリーに連絡を取れた所で、隣にいた雪恵を見る。アイコンタクトでその意を理解した雪恵は千冬の所へ駆け出した。

それを見送ると、手近な窓から飛び降りる一樹。

 

「んじゃ、仕事だミオ。フルパワー使うつもりで頼むぜ」

『合点!!』

 

フリーダムを展開、予測コース上に移動する。

そして、フリーダムの装備でもっとも高火力なスキュラにエネルギーを充填させる。

 

「よう一樹」

「俺たちも手伝わせてけれ」

 

その両隣に、白式とバンシィが並ぶ。

2人ともマグナムモードで主武装を構えており、準備万端だ。

今回は火力が高ければ高いほど確実なので、2人の助けはありがたい。

 

『マスター、そろそろだよ』

「あいよ」

 

ミオからの報告を聞き、超長距離射撃のために望遠のリミッターを少し外す。

 

ドックン

 

隕石を視認した途端、懐のエボルトラスターが反応した。

それが意味する事は色々あるが、確実に言えるのは近付いてくる隕石に生命体がいる事だ。

 

「…おいミオ。コレ本当に隕石か?」

『というと?』

「アレが反応した。つまり、近付いて来てるのは隕石じゃなくて、宇宙船かなんかだ」

『…マジで?』

「マジで」

『ふぅ…どうすんのマスター!!!?』

「近付く」

『嘘でしょ!?』

 

ミオの叫びを他所に、一樹は宣言通りフリーダムを隕石に向かって飛ばす。

慌てて追う一夏と弾。

隕石が肉眼で捉えられる程近付いた時、隕石が消えた。

いや、()()()()()()と言った方が正しいか。

 

《その剣気…お前も剣士か?》

 

隕石を切り刻んだと思われる者の声。ほんの少し声を発しただけで、一夏と弾は心臓掴まれた様な圧迫感を感じた。

そして、その者が3人の前に現れる。

 

「…ザムシャー、か?」

 

その者の姿を見た一樹が、小さく呟く。

しかし、それは考えにくかった。

なぜなら、ザムシャーは…かつてメビウスとその仲間を庇って死んだ筈なのだ。

しかし、それはザムシャー本人に否定される事になる。

 

《私がザムシャーだと知っているという事は…メビウスや【ヒカリ】の関係者か?》

「(メビウスとヒカリを知ってる!?でも、何か違和感が…)」

 

違和感が拭えぬまま、目の前のザムシャーと対峙する一樹。

ザムシャーもまた、一樹のみに集中する様だ。

一夏と弾を学園に戻し、ザムシャーに声をかける。

 

「…何故地球に来たのか、教えてもらえるか?」

《私を知ってるのなら分かるだろ?強い者と戦う事だ》

「…生憎、地球(ここ)にはもう、あんたの相手が出来る程の強者はいないぞ」

《よく言う…お前の事だ。今この星を守っているウルトラマン》

「(やっぱバレてるかぁ…けど、ゼラ(この間の暗殺者)みたいな情報収集のプロにバレてなかったのに、なんでバレてるんだ?勘か?勘なのか?だとしたらどう隠しゃ良いんだよ…)まあ、お察しの通り俺は今地球をあの人たちに託されてる。けど、俺は剣を使ってないんだが?」

 

最後の抵抗に、変身した状態では剣を使ってない事を言う一樹。だが、ザムシャーは誤魔化されなかった。

 

《さっき聞いたろ?【お前も剣士か?】とな。お前は確かに肯定しなかったが、逆に否定もしなかった。それに、剣の心得が無ければ、たとえ強者であっても剣気を纏う事は出来ん。いくら気配を消そうとも、面と向かえば分かる》

「マジか…今度からあんたの様な猛者と対峙する時は気配を消すんじゃなくて、気配を誤魔化す事にするわ」

《認めたな?ならば分かるだろ?私と決闘しろ》

「断る。たとえ腰抜けと言われようとも、俺にはあんたと戦う理由が無いし、先に言った通り()()姿()では武器を持ってない」

 

あくまで決闘を受ける気は無い一樹。すると、ザムシャーは地球人程の大きさになって校庭に着地。

 

《…これなら良いか?》

「…しゃあねえか。セリー、逆刃刀を持って校庭に来てくれ」

『…分かった』

 

セリーに部屋から相棒を持ってきてもらうよう頼んむと、ザムシャーから15mほど離れた所へ移動。フリーダムを解除して着地すると同時に現れたセリーから逆刃刀を受け取ると、腰に挿す。

 

《よし…いざ、参る!!》

「ッ!!」

 

両者同時に駆け出す。間合いに入った瞬間、ガギンッ!と刀がぶつかり、火花が散る。

 

《…斬れない刀か。噂は本当だった様だな》

 

鍔迫り合いの中、逆刃刀を見たザムシャーが呟く。

 

「…コレは人間と戦う用の得物だからな。文句は言うなよ」

《言わんさ。そっちも、愛刀が斬られても文句を言うなよ!》

 

鍔迫り合いの状態から敢えて一歩下がり、一樹を狙って星斬丸を薙ぐ。

一樹はそれを逆刃刀を瞬時に逆手持ちに変え、自分も飛び上がる事で受け流す。

受け流した星斬丸の斬撃を利用して1回転、ザムシャーの後頭部を蹴る事で距離を取る。

 

《素晴らしい身のこなしだ。だが!》

 

重たい鎧を着てるとは思えない、素早い踏み込みで一樹の着地の隙を狙うザムシャー。

普通の剣士なら、この一撃で勝負は決していただろう。だが、一樹は違う。

 

「ふっ!」

《何ッ!?》

 

旋風の様に体を連続回転させ、ザムシャーの斬撃を弾いた後、ボレーキックでザムシャーの姿勢を崩す。流石のザムシャーも生身の人間が空中で連続して技を出すなど予想出来ず、動揺を隠せない。

無事着地すると、今度はこちらの番とばかりにザムシャーに踏み込む。

 

《くっ…》

 

一旦一樹から距離を取ろうとしたザムシャー。一樹はそれを気にせず、斬撃を()()()放った。

 

《がっ!?》

 

その影響で複数の、それなりの大きさの土塊がザムシャーを襲う。

 

「(コイツ…やっぱり()()な)」

 

ここまで戦ってきて、思った事がある。

今、一樹の目の前にいるザムシャーは、メビウス達と面識のあるザムシャーでは無い。

あのザムシャーの動きを、一樹は映像でタロウに見せてもらっているし、現場にいたメビウスとヒカリにも話を聞いている。

だから言える。

 

あの2人と共闘したザムシャーは、こんなに()()()()

 

今一樹が戦っているザムシャーも剣士としては優秀だ。だが、あのザムシャーとは頭二つほど下と言わざるを得ない。

 

「(いや…実際に会ったあの2人が見たとしたらもっとだろうな)」

 

あのザムシャーを、一樹は映像でしか知らない。

それでもそう思うのだから、実際に対面していた2人は尚更だろう。

 

《戦いに集中しろ!》

 

土塊の襲撃を何とか捌いたザムシャーが星斬丸を構えて踏み込んで来る。

だが、一樹から見ればその動きは遅すぎる。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思うほどに。

 

「集中してほしいなら…」

 

ザムシャーの突進を弧を描く様に移動して避けると、素早く飛び上がる。

ザムシャーが振り返った時には、既に空中で逆刃刀を上段に構えて降下してきている。

 

「お前本来の戦い方で来い!!」

《グッ!?》

 

落下+重量+腕力の一撃をザムシャーの兜に叩き込む。

その一撃は、ザムシャーの兜にヒビを入れ、そして…砕けた。

 

「「「「へ?」」」」

 

兜が割れた事で、その下の素顔が現れる。

それを見た一樹達、人間の時が一瞬止まる。

金色に輝くさらさらした長い髪が、海風によって美しく靡き、空の様に澄んだ蒼色の大きな瞳は、呆然とした一樹の顔を映していた。

 

「「「「はァァァァ!!?女の子ぉぉぉぉ!!?」」」」

 

「…マジか」

 

叫ぶ一夏を始めとするIS学園生徒達。流石の一樹もこれは予想外だったのか、珍しく戦闘中に表情が変わっていた。

そして、漸く違和感の正体が分かった。かつて現れたザムシャーの一人称は『俺』だった。

しかし、一樹が対面していた彼…いや、()()の一人称は『私』。

過去のザムシャーとは違うのは分かっていたが、まさか女性だなんて誰が思うだろうか。

 

「…女が刀を握ったら悪いか?」

 

一樹の反応が、目の前の彼女には蔑んでいる様に見えたらしい。強い意志を感じる、合唱ならアルトパートを担当するであろう若干低めの声と鋭い視線で一樹を射抜く。

 

「んにゃ全然。ここにもそんな奴がいるからな。まあ、ちょっと前まで普通に真剣を無防備な人に振り下ろしてた阿保だけど」

 

誰とは言わないが、と言う一樹だが、IS学園の人間なら誰かすぐ分かるだろう。

 

「ただ、兜を被ってた時の声から想像出来なかっただけだ」

「そうか…決闘の途中だ。仕切り直させて頂く」

 

星斬丸を構える目の前の女剣士。

だが、一樹は構える事をせず、ダラリと両手を下ろした。

 

「言った筈だ。集中して相手してほしいなら、お前本来の戦い方で来いってな。お前、本当はそんなパワータイプじゃないだろ?」

「……参る!!」

「無視ですかそうですか。なら…」

 

女剣士が一気に踏み込み、星斬丸を振り下ろしてきた。その刃が一樹に迫るが…

 

「遅い」

 

一瞬で女剣士の背後に回り、呆れ顔で逆刃刀を肩で遊ばせる一樹。

 

「何故攻撃してこない?」

 

怒りに表情を歪ませる剣士。

それに対し、一樹は苦い表情のままだ。

 

「だからさ、お前本来の戦い方で来いよ。その状態じゃ俺に攻撃を当てる事は出来ないし、何より…ザムシャー、あの漢の戦い方が弱いって誤解されるぞ?あの気高く、力強い漢の戦いがな」

「……」

「お前が、ザムシャーを大切に思ってる事は分かる。でなけりゃ、自分には重すぎる鎧を着続ける事なんて出来る訳無い。そして、鎧を着た状態である程度でも戦える様になる事もわざわざしない」

「……」

「今までお前が相手してた奴はそんなハンデを持ってても楽勝だったんだろうけど、生憎俺はそうじゃないらしい。だから…お前が大切に思ってる漢のために、お前の全力で来い」

 

真剣な表情の一樹に、女剣士は鎧を脱ぎ捨て、襦袢(じゅばん)姿になる。

地球でいう欧米人に近い容姿をしている剣士だが、妙に襦袢が似合っていた。

それだけ長い期間着ているという事だろう。

余談だが、呼吸と同時に揺れる物に一部の生徒が発狂していた事を補足する。

 

「…名を教えて、くれませんか?」

「(あるぇ?キャラまで変わるのは予想外!)櫻井、一樹」

「ありがとうございます。(わたくし)は、ザムシャー様から【琴】の名をいただいています。ここからはご進言の通り、私本来の戦い方でお相手させていただきます」

優雅に一礼すると、星斬丸を持ち直して踏み込んできた。

 

轟ッ!!!!

 

「ッ!」

 

ガギンッ!!!!

ガギンッ!!!!

ギャリンッ!!!!

 

「(速えッ!!)」

 

連続で星斬丸を振るってくる琴と名乗った剣士。スピードかテクニックタイプだとは思ったが、ここまで極端なスピードタイプとは思わなかった。

飛天御剣流の【読み】が無かったら、今までの経験が無かったら、一樹も対応出来なかっただろう。

そう思わせる程、琴の斬撃は速く、鋭かった。

 

「ザムシャー様以来です…私の剣を防げたのは!」

「そりゃ光栄だね!」

 

満面の笑みを浮かべる琴に、一樹は苦笑する。

何度も何度も斬撃を受け流す一樹に、琴は心底楽しいと笑う。

 

「最高です!久方ぶりに私の剣を振るえるのに加えて、それを何度も受け止められる方と出会えるなんて!」

「あー…やっぱり戦闘狂のとこは同じなのね。ならさ…」

 

ゾッ!と琴は背後に寒気を感じた。本能的に星斬丸をそこに振るうと、そこには逆刃刀が。

 

「(私より速い!?)」

「俺の本気も、笑って相手しろよ?」

 

琴の攻撃を受け止めたと思えば、また姿を消す一樹。

琴の目では捉える事のできない速さで一樹は動き回り、確実に琴を追い詰めていく。

 

 

「オイオイ…まさか一樹()()()()()()のか?」

「…違う」

 

離れた所で一樹と琴の激闘を見ている一夏達。

琴を圧倒する一樹を見て、【狂気】が戻ってしまったのか疑う一夏。だが、それは雪恵によって否定された。

 

「え?違うの?」

 

弾ですら、一樹が()()()と思っていたらしく、いつでも止められるよう、マグナムを構えていた。

 

「もしかーくんの【狂気】が戻ったとしたら、ここで見てる私達の息も詰まる筈だよ。京都に行く前は実際そうだったんだから」

「「…確かに」」

 

納得する2人に、雪恵は続ける。

 

「だから今は、ワザトそう見えるようにしてるんじゃないかな?」

 

 

雪恵の予想は当たっていた。

最初こそ琴の速さに驚いていたが、今は違う。

何故なら…

 

「(速さは確かにある。けど、斬撃に重さが無いし、何より同等か格上との命がけの戦闘経験が足りてない。だから…)」

 

あえて殺気を強め(具体的には楯無が腰抜かす程度)に放ち、琴に向かって踏み込む。

 

「ッ!?」

「(ちょっと殺気を向けるだけでこうなる。そして、これでチェックメイト)」

 

己の命を追い込む者と戦った事が無い琴は、一樹の殺気により一瞬動きが止まる。

弱い者イジメは趣味じゃない一樹。素早く鞘を腰から抜くと、逆刃刀を逆手持ちし、琴の耳元で神速の速さで納刀した。

 

キィンッ!!!!

 

「あっ…」

 

甲高い音の後、琴がグラッと倒れる。地面に頭を打つ前に、そっと一樹に受け止められた。

 

「…今の、は?」

「飛天御剣流()()()、【龍鳴閃(りゅうめいせん)】だ。通常なら少しの間聴覚を奪うだけの技だが、お前みたいに耳の良い者は、三半規管が狂うくらいには効く技だ」

 

実際、まだ動けないだろう?と聞いてくる一樹に、琴は頷くしかない。

 

「私は…負けたのですね…」

「よく言うぜ。それを望んでた癖に」

「…気付いていたのですね」

「闘気は感じてたが、殺気は感じなかったんでね」

「…なるほど」

 

何度も剣をぶつけ合ったが、殺気を感じなかった故に、一樹は逆刃刀の打撃ではなく、音で動けなくする方法を選んだのだ。

 

「大方、あの漢が護るだけの【強さ】が人間にあったのか確かめに来たとかそんなとこだろ?」

「その通りです。この星の人間に、あのお方が命を賭けた意味があるのか知りたかったのです」

 

龍鳴閃の影響が薄くなってきたのか、ゆっくりと起き上がろうとする琴。

 

「ほれ」

 

そんな琴に手を差し出す一樹。琴は素直にその手を取った。

 

「ありがとうございます…」

「ん、それで?」

 

礼を言う琴に短く返す一樹。そして、琴に続きを促す。

 

「地球人全てとは言いません。ひと握りでも…いえ、たった1人でも良い。あのお方が命をかけて護った、それに見合った人がいるのか…」

「…もしいなかった場合、その刀で地球を斬るつもりだったのか?星斬丸の名の通りに」

「はい」

「まあ怖い」

「よく言いますよ…ずっと手加減してましたよね?私が受け止めれる程度の速さでその刀を振るって来たり、わざわざ殺気で不意打ちをすると教えてきたり」

「…」

 

琴の言葉に、一樹は肯定も否定もしない。

それが、答えだった。

 

「ザムシャーとお前の関係は?」

「師弟…と言うのが一番近いでしょうか」

 

 

『何だお前は?』

『俺は弟子を取るつもりは無い…』

『見稽古でも良い、だと…?フン、勝手にしろ』

 

この広い宇宙で、あのお方に、ザムシャー様に出会えたのはきっと奇跡だ。

メビウスとの出会いの後、修行のためにザムシャー様がたまたま私のいた星にいらっしゃって、たまたま修行中のザムシャー様の剣を私がみて、弟子入りをお願いした。

最初は相手にすらしてくれなかったけど、ずっと纏わりついていたら見稽古だけは許してくれた。

 

『ほう、中々良い剣を振るう。面白そうだ。俺に向かって打ち込んでこい』

『…見稽古だけでこれほどの強さを持つとはな。気が変わった。稽古をつけてやる』

 

ある時、素振りをしているとザムシャー様が私の相手をしてくれる事があった。

全力で挑んだ結果、手も足も出なかったけど、ザムシャー様は私の剣を気に入ってくれた。それから、時々稽古をつけてくれるようになった。

余談ですが、【琴】の名をいただいたのもこの時です。

稽古といっても、私が斬りかかって、それをザムシャー様に当てれるかという単純なものですが。

コレが難しい。

命を賭けた戦いに勝ち続けているザムシャー様に、剣を持ってたかだか数ヶ月の私の攻撃が当たるわけが無かった。

そして、負け続けてしばらく経ったあの日。

 

『少し、地球という星に行ってくる』

 

と、ザムシャー様に突然言われた。

 

『地球がどうかしたのですか?』

『地球には俺が斬ると決めた漢、ウルトラマンメビウスがいる。だが、それを横取りされそうなんでな…阻止してくる』

『要するに友達のピンチだから助けに行くって事ですね』

『……すぐに戻ってくる。だから琴、お前はここにいろ』

『え?私も行きますよ?』

『駄目だ』

 

この頃には、ある程度軽口も言えるくらいにはなっていた。

その流れで同行すると言ったら、久々にザムシャー様から殺気を向けられた。

 

『今回の戦、お前では力不足だ。足手まといでしか無いから残っていろ。これは命令だ』

『…分かりました』

『安心しろ。俺はすぐ戻ってくる』

 

この時、ザムシャー様は何となく分かっていたのかもしれない。

なにせ、このときザムシャー様が戦った相手は…

 

『失礼、あなたに聞きたい事があるのですが』

『はい、何でしょうか』

 

ザムシャー様が旅立ってからしばらく、基礎トレーニングをしていた時でした。

青い体のウルトラマンが、私を訪ねてきたのは。

 

『あなたは、ザムシャーという漢をご存知でしょうか?』

『ッ!?ザムシャー様に何か!?』

『…』

 

辛そうに、青いウルトラマン…ヒカリさんは話してくれた。

皇帝を名乗る凶悪宇宙人と戦い、その命を散らせた事を。

残された星斬丸に、私の事が【記憶】として残っていたそうで、わざわざ伝えに来てくれたそうだ。

 

『コレは、貴方が持っていた方が良いと思います』

 

丁寧に差し出してくるヒカリさんから、星斬丸を受け取ると、ヒカリは深く一礼した後、光の国に帰って行った。

 

『すぐ帰ってくるって…言ってたじゃないですか…』

 

 

「これが、私とザムシャー様の話の全てです。その後は貴方の予想通り、地球に向かう事を決めて、寄る星々で決闘を申し込まれ、薙ぎ倒してきたわけです」

「……」

 

琴の話を聞き終えると、一樹は転がっていた星斬丸を鞘に納め、琴に差し出す。

 

「…これからどうするんだ?」

「ザムシャー様の様に、宇宙を流れる事にします。そして、いつか貴方に勝ちます」

「…そうか」

 

星斬丸を受け取り、腰に挿す琴を一樹は穏やかな顔で見つめる。

 

「なので…私が貴方に勝つまで、死ぬ事は許しませんよ?」

「言われなくても死ぬつもりは無いさ。俺は老衰で死ぬと決めてるんでな」

「…素晴らしい目標ですね」

「だろ?」

「それでは、失礼します」

 

一樹達に一礼すると、琴は光に包まれ、大空へと飛び立った。

 

「さて、どう宗介達に説明するかな」

 

残った一樹は琴が飛び立った反対側から飛んでくるマゼンタ色の機体を見ながら、言い訳の内容を考えていた。




*作者はまだ完結編の映画を見れてません。
ネタバレは勘弁願います

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