人と光の“絆”   作:フルセイバー上手くなりたい

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お待たせしました!

言い訳をさせてもらうのならば、ドラマCDの話を書いてはみたものの、良いストーリーが浮かばなかったのです…申し訳ない。

言い訳はこの辺で本編をどうぞ!


Episode139 幼馴染み-オールド・プレイメント-

「う〜ん!買い物楽しかった〜!」

「それは何より」

 

久々の休日、一樹と雪恵の2人(ミオは例外)きりのショッピング。たんまりと買った雪恵はご満悦だ。

 

「…ん?」

 

IS学園に帰っている途中、一樹が急に立ち止まった。

 

「かーくん?どうしたの?」

 

雪恵が尋ねるも、一樹は目を閉じて集中しているのか答えない。

数秒経つと、帰り道から逸れて歩き出した。

 

「ちょっ!かーくん!?」

 

淡々と歩く一樹に驚きながらもそこは雪恵。すぐさま千冬に連絡を入れて一樹の後を追う。

 

 

「かーくん!急に歩き出してどうしたの?」

「…アレ」

「ん?」

 

一樹が指す方向を見ると、そこは…

 

「…イジメ、だね」

「だろうな」

 

1人の少年を、複数人で囲んでいる。

しかも暴行も受けているようだ。助けに行こうとする雪恵を、一樹が止めた。

 

「なんで!?」

「…今俺たちが助けても、悪化させるだけだ。俺たちが助けられるのはこの後だ」

「この後?」

「ああ…」

 

一樹も雪恵の件でイジメられていた人間だ。だから、雪恵以上に助けに行きたい気持ちは強い。拳を硬く握りしめて耐える姿に、雪恵は何も言えなかった。

 

 

暴行は、その後も数分で続いた。それ以上続きかけたが、我慢の限界が来た一樹が強烈な殺気を放ち出した途端、囲んでいた少年たちが怯えながら帰っていった。本能で一樹の殺気を感じたのだろう。

少年たちが完全に見えなくなると、一樹が囲まれていた少年に駆け寄った。

 

「大丈夫か?」

「……あんまり」

 

小さな声で返事をする少年。一樹は懐から医療ナノマシンが入っているデバイスを取り出すと、少年の腕に当てた。

すぅーっと傷が消えていく様子に、少年は驚く。

 

「あれ?もうそんなに痛くない」

「そいつは良かった」

 

テキパキ傷の手当てをする一樹を、少年は不思議そうに見上げる。

 

「…何でお兄さんは僕を助けてくれるの?」

「経験者だから…と言えば分かるか?」

「そっか…」

「俺の方も聞きたい。何で俺の治療を受けれる?」

「…目かな」

「…お前、昔の俺とよく似てるわ」

 

一樹の目を見て、信頼出来るかどうか判断した少年。一樹もこの頃は目の()で敵か味方か判断していた。

まあ…彼の場合は気配もだが。

 

「…あれだけ殴られたのに、よく喋れるな」

「武道の守りの型を覚えたから。でないと命がいくつあっても足りない」

「なるほど…なぁ、名前聞いても良いか?ちなみに俺は櫻井一樹だ」

「…夏風和明(なつかぜかずあき)

「良い名前だね」

 

ずっと黙って様子を見ていた雪恵が、視線を和明に合わせた。

一種ビクッとした和明だが、雪恵の目を見て敵では無いと分かると、全身の力を抜いた。

 

「…ねえ一樹さん。もしかして一樹さんが言ってた経験者って言うのは、お姉さんが理由?」

「ああ。そう聞くって事は、和明もか?」

「まあね」

 

肩をすくめる和明。雪恵が詳しく聞こうとすると、「かずちゃ〜ん!!」と呼ぶ声が。

 

「…春?」

「春?じゃないよ!何でまた怪我してんの!?」

「(デジャビュ?)」

「(デジャビュかな?)」

 

和明に詰め寄る少女。その姿は、過去の一樹と雪恵によく似ていた。

 

「あ、お兄さんお姉さんありがとうございます!私、かずちゃんの幼馴染みの高本春香(たかもとはるか)です!」

「お、おう。俺は櫻井一樹」

「私はその幼馴染みの田中雪恵!よろしくね春香ちゃん!」

「はい!」

 

笑顔で話す春香の姿に、雪恵と同じものを感じた一樹。

 

「…なあ高本さん」

「春香で大丈夫です!」

「…春香。少しの間、和明と話しても良いか?」

「え?私は良いですよ?」

「ありがとな。和明」

 

和明を連れて少し離れたベンチに向かう一樹。雪恵も、春香と共にすぐ近くのベンチに座った。

 

 

「話がしたいって、何を?」

「和明がやられてる理由。あの子だろ?」

「…うん」

「あのレベルの子が、異性では和明としか話さないから、もしくはさっきの奴らのリーダー格がフラれたかってとこだな」

「両方ともだよ。それに、僕には両親がいないから」

「(そんなとこまで一緒かよ…)」

「リーダー格の親はPTAのお偉いさんだし…」

「屑なのも一緒かい!」

 

思わず叫んだ一樹に、和明は驚く。

コホン、と咳払いすると、自分の事情を話せるところだけ話す。

話し終えると、和明は大爆笑。

 

「あはは!ここまで一緒だともう笑うしかないね!」

「だろ?というか、和明強いな」

「強い?何言ってんの。僕は弱いよ。弱いからアイツらにいいようにされてるんだよ」

 

自嘲気味に呟く和明。

しかし、一樹はそれを否定する。

 

「強えよ。そんなにやられてて、それでもなお笑っていられるんだからな」

「…それはきっと、春のおかげだよ。春とは幼稚園から一緒でさ、ずっと僕の側にいてくれてる。だからだね」

「…お前、あの子の事どう思ってるんだ?」

「う〜ん…隣にいるのが当たり前だったから

な…改めて聞かれると分かんないや。でも…」

「でも…?」

「春には…幸せになってほしいとは思ってるよ」

 

和明の顔は、歳不相応な枯れた笑みを浮かべていた。

 

 

「かずちゃんとは、幼稚園から一緒なんです!他の男の子と違って、すごく大人っぽくて、女子のみんなに大人気なんです!」

「凄い子なんだね」

「はい!それにすごく優しいんですよ?私が重い教材を持って移動してたら何も言わずにほとんど持ってくれたり、一緒に歩いてたらさりげなく車道側を歩いてくれたり!」

「…春香ちゃんは、本当に和明君が好きなんだね」

 

雪恵が優しく言った瞬間、ボフンと春香の顔が真っ赤になり、湯気が吹き出る。

年頃の女の子らしい反応に、雪恵の笑みが深くなる。

 

「あ、あのその!それはもちろん友達として好きですけど!そういう意味じゃなくて!」

「あれぇ?私は別に【男の子として】なんて言ってないけど?」

「ッ〜〜!」

 

意地悪く言う雪恵に、春香は自分が墓穴を掘った事を理解した。

 

「そ、そういう雪恵さんこそ!一樹さんの事どう思ってるんですか!?」

 

せめてもの仕返しにと、雪恵にも同じ返しをする春香だが、相手は雪恵だ。

 

「好きだよ?もちろん、男の子として。結婚したいくらいに」

「ふぇっ!?」

 

何せ、春香と同じくらいの頃には、周りから【夫婦みたい】とからかわれても褒め言葉と受け取る雪恵だ。春香からしたら、相手が悪すぎる。

しばらく春香の反応を楽しんだ後、真面目な顔で雪恵は聞いた。

 

「春香ちゃんはさ」

「…はい?」

「今の和明君の状況って知ってる?」

 

その言葉に、先程までアワアワしていた春香が、静かになった。

 

「知ってますよ…それは」

「そうなんだ…」

「でも…かずちゃんは『なんでもないよ』としか言ってくれなくて…」

 

雪恵は思う。小学生の頃、一樹がイジメを受けていた時に自分の意識があれば、目の前の少女と同じだったろうと。

 

「和明君は男の子だから、女の子の春香ちゃんに助けてもらうのがカッコ悪いって思ってるんじゃないのかな?」

 

和明の性格が一樹によく似ている事を考慮した上で、間違ってるであろう答えを言う雪恵。

雪恵と似ている春香なら、和明が何故助けを拒否するのか分かる筈だ。分からないなら、彼女にこの問題に向き合う資格はない。

 

「かずちゃんは、そんなくだらない理由で断ったりしません!他の男の子みたいに自分をカッコ良く映すような事しないし、出来ない事は出来ないってはっきり言えるんです!だからかずちゃんは、【カッコ悪いから】って理由で私を遠ざけるはずが無いんです!」

「…良かった。ちゃんと和明君を見てるね」

「…え?」

「ごめんね試すみたいな事して。でも、春香ちゃんが『イジメを止めたいという自分』になりたいだけなんじゃないかと思ってね…イジメってさ、確かに何も出来ないと自分も同じなんだけど、かと言って変に手を出すと、もっと酷い状況になるからさ…和明君のがまさにそれで、下手に助けると…」

「そうなんですか…」

「何より和明君は春香ちゃんを巻き込みたくないっていうのもあるだろうけどね」

 

かーくんが、そうだったから…

 

どこか悲しげに語る雪恵に、春香は何も言えなかった。

 

 

「…この辺か」

 

夜中のとある無人島に、風景に合わないスーツを着こなした青年が音も無く現れた。

青年…前原はビースト細胞の入っているシリンダーを右手で遊ばせながら、島を歩き回る。

 

「…藤原(アイツ)から貰ったコレを試すのに、丁度良いのがここらにいると思うんだが」

 

彼の種族、メフィラス星人の持つIQ1万の頭脳が高速回転する。

 

「奴の出現パターンから予測するに、後数キロ先に…」

 

その言葉の通り、前原がしばらく歩くと、そこに大きな洞窟があった。

不適な笑みを浮かべて進む前原。

洞窟の奥で眠っていた巨大な生物にシリンダーを押し当てると、ビースト細胞を注入していく。

 

《グオアァァァァ!!?》

「元気があって結構」

 

体に異物が入り、苦しむ生物…古代怪獣【ゴモラ】を見て、笑みを深める前原。

目の前でゴモラの姿が変わっていくのを、嬉々とした目で見つめている。

 

「さぁ、遊んでもらおうか。ウルトラマン」

 

 

和明に春香と出会った数日後、一樹は日常品の買い出しにあるショッピングモールに来ていた。

 

「さてと、一夏に頼まれた物はこれで終わったな」

 

外出許可を取るのに時間のかかる一夏や弾に頼まれていた洗濯洗剤をカゴに入れると、自分の目的である歯ブラシのコーナーに移動する。

 

「今回のセール品は…コイツか」

 

特にこだわりの無い一樹は一直線に安物コーナー(ちなみに1本29円だそうな)のを取り、更に歯磨き粉(1本75円)も購入。

 

「あとは…ミオ、雪に何頼まれてたっけ?」

『え〜と…雪恵さんとセリーちゃんも歯ブラシだったと思うよ』

「歯磨き粉は?」

『大丈夫だった筈。まあ最悪、学園内の売店で買えるでしょ。割高だけど』

「…電話してみよう」

『マスターって、本当に倹約家だよね…世界最大級の企業のトップなのに』

「贅沢三昧より良くね?」

『まあね』

 

結果、雪恵とセリーの歯ブラシ(1本250円超え)と歯磨き粉(1本300円程)も購入。

きっちりレシートも貰った所で帰ろうとしたら…

 

「…ん?」

『マスター?』

 

違和感を感じた一樹。感じた本人も上手く説明出来ないが、どこか嫌な感覚だ。

一樹が辺りを警戒していると…

 

「久しぶりだな…あの燃え盛る船以来か?」

 

背後からいきなり声をかけられた。急いで振り向くと、そこには上質なスーツを着こなしている青年、前原がいた。

 

「…何の用だ」

「再会を喜んでくれても良いと思うんだが?」

()()()()()()が共闘した事が漫画以外であったか?」

「マニアックすぎるだろ…一応怪獣使いを助けた事はあるぞ」

「いやお前もだろ…ちなみに俺は某無料動画の解説で知った」

「右に同じく…だ。Wi-Fiとはかなり便利だな」

「随分地球に馴染んでんなこの野郎」

 

*2人は敵同士です。

 

「娯楽に関して、地球はやはりずば抜けている。宇宙でも地球のチェスや将棋、アイドルは大人気だ」

「最後。最後おかしいぞIQ1万宇宙人」

「某ちゃぶ台宇宙人なんだが、最近では大人数アイドルにハマってて、イベント皆勤賞らしい。ファンの中でも、さらにはそのグループメンバーにも有名らしいぞ」

「侵略より全然良いけど、それで良いのか夕焼けちゃぶ台星人」

「ちなみに最近、総合プロデューサーと飲みに行く事が増えたとか」

「もはやそれ関係者じゃねえか。しかも結構上の方の」

 

*繰り返しますが2人は敵同士です。

 

「俺も、最近では某通販サイトの会員で見れる作品にハマってな。シーズン2は涙無しに見れなかった」

「お前名前的にはシーズン1の方だろうが」

「どちらも好きだぞ。だが、完結編の映画まで救いが無かったのが辛かった。好きなのに辛いとはどういう事だ?」

「俺に聞くな。そしてそれには同意だ」

 

*何度も言いますが2人は敵同士です。

 

「おっと、お前とのアマゾンズ談議も楽しいが目的を忘れる所だった」

「お前名前言っちゃってる!隠してた意味!」

「芸人ばりにツッコミを入れてるところ悪いが、お前に挑戦状だ」

「…何?」

「ま、せいぜい頑張ってくれ」

 

パチンッ!!

 

不適に笑いながら、前原は指を鳴らした。

次の瞬間…

 

ドックン

 

エボルトラスターが鼓動を打ち…

 

ドドドドドドドドッ!!

 

「ッ!?」

()()()()()()お前の力、じっくり見させてもらうぞ」

 

一樹が膝をつく程強い揺れが起こった。

そしてこの揺れは、地震ではない。

 

 

《ギャオォォォォ!!!!》

 

大地から、全身が刺々しく改造されたゴモラが出現。ビースト細胞の影響か、目まで鋭い。

近くの高層ビルの上階を、伸縮自在となった尾で破壊したのを皮切りに、破壊活動を開始した。

人々が逃げ回る中に、たまたま友達と遊んでいた春香の姿があった。

 

「みんなこっちだよ!!」

 

友達の手を引き、懸命に走る春香。

その視界の隅に…

 

「お母さ〜ん!!」

 

この状況で、母親とはぐれてしまった小さな女の子が。

春香は友達を先に避難させると、その子に駆け寄った。

 

「大丈夫!?お姉ちゃんと一緒に逃げよ?」

 

 

改造ゴモラを呼び出した前原は既に消えた。

一樹はゴモラの気を引くためにショッピングモールを飛び出すと、ゴモラの背中にバレルをスライドしてからブラストショットを撃った。

 

《グル?》

 

そこそこの威力があったためか、ゴモラが一樹に目を向けた。

 

「そうだ…こっちに来い」

 

もう一度ブラストショットを撃つと、避難してる市民から離れる様に走り出した。

変身してメタ・フィールドを張ろうにも、市民との距離が近すぎる。

 

《オォォォォ!》

 

ゴモラも一樹を狙う事にしたのか、その後を追う。獲物を狙う獣の如く、じわじわと。

一樹にとって、それは好都合だ。

 

『一樹!無事か!?』

『かーくん!今どこ!?』

 

学園から急ぎ出撃してきたチェスター隊が現場に到着した様だ。

 

「ナイスタイミングだお前ら。コイツをポイントOS928に誘導してくれ。そこでケリを付ける」

『『『『了解!』』』』

 

誘導をチェスター隊に任せると、一樹は一旦ビルの影に隠れた。

デュナミストの力で、辺りを見回したその時。

 

「春香ちゃん!!!!どこ!!!?」

 

そう叫びながら走り回る少年を見つけた。

【春香】という少女を探しているらしいが…

 

「…チッ」

 

探す気持ちも分かるが、あの少年の動き方ではゴモラの視界に入り危ない。

 

「一夏悪い。ちょっと悪ガキの面倒を見てくる。そこ任せて良いか?」

『合点!!』

 

ゴモラの気を引く程度に攻撃するチェスター隊を横目に、一樹はその少年のところへ走り出した。

 

 

時は少し遡る…

和明がそのショッピングモールにいたのは、本当に偶然だった。

施設の職員に頼まれた買い物がそのモールに行かなければ買えなかったので、態々足を伸ばしたのだ。

 

「ついてないなぁ…」

 

滅多に来ないショッピングモールに来たら、滅多に現れない(現れても困るが)怪獣が暴れ始めたなど、不幸以外の何物でもない。

不幸中の幸いなのは、買い物を素早く終わらせてモールから出ていた事だろうか。

和明は避難誘導に従ってその場から離れようとしていたが…

 

「和明君!」

「ん?」

 

どこからか自分を呼ぶ声が聞こえた。

足を止めて辺りを見回していると、春香の友人たちが駆け寄って来た。

 

「春香ちゃん知らない!?」

「…見てないけど」

 

彼の本能が警鐘を鳴らしていた。

【急げ】と…

 

「春香ちゃん、迷子を助けに行ってから全然戻ってこないの!!」

「それは、どこら辺で?」

「モールのインフォメーション辺り!」

 

その言葉を聞いた瞬間、和明は避難誘導とは逆に走り出した。

それに、ひとつの影が追従している事に気付かずに。

 

 

「ありがとうございます!!」

「お姉ちゃんありがとう!!」

「どういたしまして。早く逃げて!」

 

何とか少女と母親を会わせる事が出来た春香。

 

「さて、私も逃げないと…」

 

《ギャオォォォォ!!》

 

ゴモラが吠えたのを聞き、春香の動きが止まってしまった。

ゴモラがその伸縮自在の尾を伸ばして1回転し、春香の近くの高層ビルを破壊。

破壊された上階部分が春香に迫るが、春香は腰が抜けて動けない…

 

ドォォォォォォォォン!!

 

春香のいた辺りに、上階部分が落ちた。

 

 

「春香ちゃ…フガッ!?」

 

無警戒に大声を上げて春香という少女を探していた少年を、一樹は黙らせながら確保した。

 

「な、何しやがる!?」

 

一樹が呼吸の為に口元を開けると、少年が文句を言いながら肘打ちをしようとしてきた。

その肘打ちを左手で止めると、右手で頭を鷲掴みにして睨む一樹。

 

「何してるはこっちのセリフだクソガキ。今どんな状況か分かってんのか?」

 

一樹の冷たい視線に、やたら強気でいた少年が一瞬黙る。

が、すぐに立て直して食ってかかってきた。

 

「うるせえ!あんなのに俺が殺される訳無いだろ!なんたって俺は▽▽建設会社社長の息子、鹿浜馬之助様だからな!」

 

自信満々に言う少年。父親の会社名と役職を聞き、和明を標的にしていた阿保である事が分かった一樹。

しかし、今そんな事を言ってられる場合ではない。

 

「どこの息子だろうが関係ねえよ。今この場においてお前がいる事がどんだけ迷惑か考えろって言ってんの」

「はぁ?迷惑ぅ?俺は春香ちゃんを助けるヒーローだぞ?」

 

ここで漸く、この馬之助とか言う馬鹿者の言う【春香】が先日出会ったあの少女の事である事が分かった一樹。

 

「春香って奴を助けたいなら、尚更早く避難しろ。あの怪獣の誘導がしにくくなる」

「嫌だね。俺に命令出来るのは父さんだけだ」

 

あまりにくどいこの馬鹿に、一樹はジョーカーを切る。

 

「…お前の親父さん、▽▽建設の社長だったっけ?」

「そうだって言ったろ」

「▽▽建設が、どこの会社の傘下か知ってるか?そもそも傘下って言葉分かるか?」

「は?S.M.Sだろ?それくらい知ってらあ」

「この上着、何だか分かる?クソガキ」

 

一樹の言葉に、馬鹿が一樹の上着を見る。

その胸元にある、【S.M.S】のロゴに、馬鹿の顔が青ざめていく。

 

「こういうの、俺らの仕事でもあるんだ。それを邪魔したって俺が報告すれば、親父さんの会社はどうなるのかね?」

 

無論その程度で一樹が傘下から外す事は無いが、子供心には効いたらしい。

 

「そ、そんなのお前がなんとかしろよ!」

 

効いたが、まだ自分が絶対だと言うなんとも迷惑な思考をお持ちの様だ。

堪忍袋の尾が切れた一樹は、力ずくで行く事にした。

 

「邪魔だって言ってんだよクソガキ」

「イダダダダダ!?」

 

アイアンクローをしながら強制的に連行していたその時。

 

けて…

 

「ッ!?」

 

一樹の優れた聴覚が、僅かに声を捉えた。

 

「な、何だよ」

 

いまだアイアンクローをされているが、急に歩みを止めた一樹を不審に思う馬鹿。

しかし一樹はそれに構わず、全神経を耳に集中させる。

 

たす……て

 

「近いな…」

 

声が聞こえる方向を何気なく見た一樹。

 

「夏風!」

「あ、おい!」

 

一瞬拘束が弱まったのを見逃さず、馬之助が一樹のアイアンクローから逃れて走り出した。

 

「夏風!」

「鹿浜…」

 

駆け寄ってきて早々に胸倉を掴んできた馬之助に、和明は呆然とする。

 

「お前、春香ちゃんをどこへやった!」

「…は?」

「とぼけんな!この怪獣だって、お前が呼んだんだろ!自作自演の救出劇のために!」

 

あまりに頓珍漢な事を言う馬之助に、和明は開いた口が塞がらない。

尚も和明に詰め寄る馬之助。

興奮のあまり、どんどん声が大きくなっている。

それは、一夏たちが必死に食い止めていたゴモラの耳に入るくらいに…

 

《グルルル…》

 

和明達の存在が、ゴモラに気付かれた。

いち早くそれに気付いた和明が、馬之助の腕を掴んで走り出す。

 

「おい!何すんだよ!」

「お前のバカ声のせいでアレに気付かれたんだよ!お前みたいなクズ野郎でも目の前で死なれたら目覚めが悪いからな!」

「は?お前がアレを止めれば良いじゃねえか」

「どうやってだよ!?」

「止まれー!って言えば?」

「お前の頭が飾りだって事はようく分かった」

「え?じゃあアレは…」

「俺は何も知らない。死にたいなら勝手にしろ」

「…嫌だァァァァ死にたく無いよォォォォ!!お母さァァァァァァァァん!!!!」

「テンプレにも程があるだろ!?」

 

先程まで強気だった馬之助が、現実を知って泣き叫んだ。

これでも小5である。かなり甘やかされて育ってきたのだろう。

見捨てるのも後味が悪いので、やむを得ず腕を引いて建物の影に隠れる和明。

騒がれる前に、馬之助の口を頭蓋骨が浮かび上がる程強く掴んで黙らせる。

 

「…オイ。死にたくないだろ?」

「…!…!」コクコク!

「春も死なせたく無いだろ?」

「!…!…」コクコク!

「じゃあ俺の言う事が聞けるか?」

 

それに躊躇う馬之助。和明は自分でも驚く程の腕力で馬之助を持ち上げると、ゴモラ目掛けて投げようとする和明。

 

「ま、待て!待ってくれ!聞く!聞くから!」

「上から目線が気になるけどしょうがねえ。言う事はひとつだ。お前が居ても邪魔だからさっさと逃げろ。でないと…春が死ぬぞ」

「そ、それは…」

「往生際が悪いんだよクソガキ」

 

渋る馬之助は、背後からの当て身によって気絶させられた。

当て身を放った人物、一樹は馬之助を小脇に抱えると、和明に視線を向ける。

 

「…よお、また会ったな」

「一樹さん…」

「一応仕事だから言うぞ。ここから逃げろ」

 

帰ってくる答えが分かってるのだろう。淡々という一樹から目線を逸らさずに和明はいう。

 

「嫌です」

「…」

「春がまだ避難出来てない…俺だけ逃げる訳にはいかない」

「……」

 

無言で和明を見ていた一樹だが、不意に馬之助を担ぐ。

和明に背を向けて歩き出すと、振り向くことなく和明にアドバイスを送る。

 

「…覚悟を決めるのは構わないが、決める覚悟が違うぞ」

「…え?」

「お前は今、『()()()()()()()()()()()()』って思ってるだろ?」

「……」

「経験者だからな。それくらい分かる。だから言えるんだけどな…その認識を改めろ。『自分も春も生きる』にな」

 

それだけ告げると、一樹は馬之助を連れて歩き出した。

 

「俺、生きたいって思って良いのかな…?」

「駄目な()()はいねえよ」

「ッ!?」

 

ボソリと呟いた和明の言葉に、一樹は背を向けたまま応えた。

驚く和明を他所に、一樹は馬之助を運んで行った。

 

 

『マスターが一般人を現場に残すなんてね』

「…本当に、同じなんだよ。俺と」

 

馬之助をレスキュー隊に引き渡した後、誘導ポイントに急ぐ一樹。

先の行動を珍しく思ったミオの言葉に、感慨深気に答える。

一夏からの連絡で、あと少しでゴモラは誘導ポイントに到達するらしい。

そこからは、彼の出番だ。

 

「それに…さっきあの馬鹿を気絶させた時、アイツの襟に発信器を付けといた。場所はすぐ分かる」

『流石マスター!置いていくのはプロとしてどうかと思うけど!』

「お前が俺に喧嘩を売ってるのはよくわかった。覚悟しておけ」

『理不尽!?』

 

身軽になったとはいえ、フリーダムを使える状況では無い。瓦礫を飛び越えたり、時にビルの壁を走ったりして移動していく。

ゴモラがポイントに着くまで、あと少し…

 

 

一方の和明。

ゴモラの位置を常に警戒しながら春香を探す。

先程すれ違った親子の話によると、逸れていたところを和明くらいの女の子に助けられたらしい。

こんな状況でそんな行動が取れるのは、和明は春香しか知らない。

 

「あの人の話の通りなら、この辺りに…!」

 

和明の目にまず入ったのは、崩れて落ちてきた瓦礫だ。

そしてその下に…

 

「春!!」

 

頭から血を流している春香の姿が。

急いで駆け寄る和明。

 

「(良かった…脈はある)」

 

かじった程度の知識だが、春香の脈があるのを確認すると、自らのシャツの袖を引きちぎり、止血を行う。

 

「春…絶対助けるから」

 

幸い、足が挟まれていたりはしておらず、ゆっくりと引けば瓦礫の下から救出出来そうだ。

問題はぐったりしている春香を、和明1人の力で引き出せるかどうか。

 

「(意識の無い人は重いって知ってたけど、こんなにだなんて…!)」

 

春香に余計な傷が付かないように、出来るだけ破片を退かす和明。

己の手が血だらけになっている事は気にせずに、とにかく春香を助ける事に集中する。

 

「かず…ちゃん…?」

 

ここで、春香の意識が戻った。

ホッとする和明。

傷が痛まない、そして和明の血でなるべく汚れないよう気をつけながらそっと頭を撫でる。

 

「ごめん、お待たせ」

「…遅いよぉ」

「だからごめんって。出れる?」

「…うん」

 

何とか自力で瓦礫から這い出た春香。そして、和明の手を見て愕然とする。

 

「かずちゃん…その手」

「大丈夫。かすり傷だから。何なら春の方が重傷だよ」

「でも…」

「うだうだ言ってる場合じゃないよ。とにかく今は逃げなきゃ」

 

春香の手を握って立たせようとするが…

 

「痛っ…」

 

足を痛めているのか、春香が蹲る。

素早く春香の前に屈む和明。

 

「乗って!」

「え?私重いよ?」

「意識がある人はそんなに重くないから大丈夫!」

「何その理屈!?」

 

 

『誘導ポイントに到達!いつでも行けるぜ一樹!』

「ありがとな!んじゃ、()()()でも頼むな!」

『合点!』

 

一夏との通信を終えると、懐からエボルトラスターを取り出す。

 

『それじゃマスター!2年と数ヶ月振りにいきましょう!』

「ちょっと何言ってるか分かんねえ」

 

ミオのメタ発言をスルーし、一樹はエボルトラスターを引き抜いた。

 

 

「デェアァァァァ!!」

《グルアァァァァ!?》

 

変身の勢いを利用した飛び蹴りを放ち、改造ゴモラを怯ませた。

 

 

「見てかずちゃん!ウルトラマンだよ!」

「…あれが、ウルトラマン」

 

ウルトラマンを指差す春香と、その姿にどこか既視感を感じる和明。

 

 

「シェアッ!」

《キシャアァァァァ!》

 

改造ゴモラに向かって、力強く構えるウルトラマン。対するゴモラも、敵と認識したウルトラマンに吠える。

 

「フッ!」

 

不意打ち気味に地面から飛び出てきた改造ゴモラの尾をバック転で避けると、素早くジュネッスにチェンジした。

 

「フッ!シェアッ!」

 

改造ゴモラの尾の被害を食い止めるため、ウルトラマンはメタ・フィールドを展開する。

 

「シュウッ!フアァァァァ…フッ!デェアァァァァ!!」

 

 

メタ・フィールドが広がっていくのを、前原は少し離れたところで見ていた。

その手には、前原お手製の機械が。

 

「…なるほど。これが噂のメタ・フィールドか。メフィラス星のデータに無いということは、今まで闘り合ってきたウルトラマン達とは特に違うようだな」

 

メタ・フィールドのデータを正確に取りながら、前原は不敵に笑っていた。

 

 

一方、メタ・フィールド内ではウルトラマンが優位に戦闘を進めていた。

チェスター達の援護が効果的という事もあるが、ゴモラが尾以外の遠距離攻撃をしてこれないのに加え、メタ・フィールドに入ってから異常に動きが遅くなっているのが大きい。

ウルトラマンを串刺しにしようとその鋭い尾を伸ばしてくるが、軌道が直線的なためウルトラマンは簡単に避ける。続けて横薙ぎに振るってくるのを前転で避け、起き上がりと同時にゴモラの顎にアッパーパンチを叩き込む。

 

「デェア!」

《グルアァ!?》

 

アッパーパンチがよっぽど効いたのか、ゴモラは大きく吹き飛ぶ。

 

「シュッ!」

 

油断なくウルトラマンが構えていると、ゴモラはゆっくり立ち上がり…

 

《グオォォォォ…》

「フッ?」

 

どこか哀しげな声を出した。

先程までの鋭い目も、若干丸くなっている様にも見える。

 

「この感じ…セリーちゃんと同じ?」

 

α機の雪恵の言葉がウルトラマンの耳に入ったのだろうか。ウルトラマンは構えを解くとゴモラとテレパシーで会話を試みる。

 

【……けて】

【た……て】

【…すけ…】

 

た す け て

 

「…」

《グ、グオォォォォ!》

 

ウルトラマンに助けを求めるゴモラ。鋭かった目は完全に丸くなっている。

その鳴き声は、どこか苦しそうだ。

 

ピコン、ピコン、ピコン

 

コアゲージも鳴り始め、メタ・フィールドの維持限界が近づいている事を知らせてくる。

ウルトラマンはゴモラを注意深く観察し…

ゴモラの腹部に、ビースト細胞を発見した。

すぐさま両手を胸の前でクロス。大きく弧を描く様に広げて構えた後、右拳に金色の光を集め、ゴモラに向かって突き出した。

 

「フッ!ハアァァァァ…デェアァァァァ!!」

 

金色の光、ゴルドレイ・シュトロームがゴモラの腹部に命中。

ゴモラからビースト細胞を追い出す。

 

「シュウッ!フアァァァァ…テェアッ!!」

 

追い出したビースト細胞の軍団に、コアインパルスを放ち、完全に消滅させた。

 

《クアァァァァ…》

 

ペコリ、とビースト細胞が抜けて元の姿に戻ったゴモラが頭を下げる。ウルトラマンはそれに頷いて返すと、メタ・フィールドを解除しながら消えていった。

 

 

「さて…お前はこれからどうする?」

 

変身を解いた一樹の目の前には、膝くらいの大きさに縮んだゴモラの姿が。

メタ・フィールドを解除したら自然に帰ると思っていたのだが、ゴモラは一樹を気に入ったらしい。

すりすり、と一樹に懐くゴモラの頭を撫でていると、人の気配が近づいてきた。

 

「…やべ。とりあえずパーカーのフードに隠れてじっとしててくれ。いいな?」

 

一樹の言葉に頷くと、ゴモラは素早く一樹の体をよじ登り、フードの中へと隠れた。

 

「おーい一樹ー!」

「かーくん!帰ろ〜!」

 

しかしそれが仲間だと分かると、一樹はゴモラを肩に移動させた。

 

「…また懐かれたの?」

「まあ、な」

「どうするんだ?」

「流石に学園じゃ飼えないからなぁ…」

 

少しの間考えた一樹の出した結論は…

 

 

「という訳で、ゴモラを【アサガオ】の番犬にしてくんね?」

「あのですね義兄さん。ここは一応養護施設なんですよ?義兄さんの仕送りで運営してるので大きな事は言えませんが「あ、もう子供達に懐いてる」順応性が高いのは誰のせいでしょうかねぇ!!」

 

舞の説教の間に、ミニゴモラは子供達とアサガオの庭で遊び始めた。

きちんと力加減を考えているあたり、それなりに賢そうだ。

一樹は舞を宥めると、指笛でミニゴモラを呼び寄せる。

そして、膝をついてゴモラの目を真っ直ぐ見ながら話し出した。

 

「…俺がいない間、ここの子供達も守ってくれないか?ここは、俺の家なんだ」

《クアァァ》

「…ありがとな。あと、舞の言う事は絶対に聞く事。出来るな?」

《クアッ!》

 

任せろ、と鳴くゴモラの頭を軽く撫でると、一樹はアサガオを後にして、もう一つの目的地に向かう。

 

 

「よお、調子はどうだ?」

「あ、一樹さん。俺たちは大丈夫だよ」

 

アサガオを後にした一樹が向かったのは、和明と春香が検査を受けていたS.M.S総合病院だ。

特に異常が見つからなかったため、軽い治療だけで済んだようだ。

 

「守れて良かったな」

「うん。一樹さんのおかげだよ」

「どうだこの後。雪と春香を呼んで焼肉でも行かないか?」

「良いの?」

「もちろんだ。財布を呼ぶ」

「誰?」

「世界で最初に見つかったIS操縦者」

 

その後、呼ばれた一夏では払いきれない金額になったために、結局宗介と一馬が呼ばれたのは別の話。

 

 

「面白いデータが取れた。次は細胞を植え付ける対象を変えてみるか」

 

前原は満足げに端末に映るデータを見る。

その前原が不気味な笑みを浮かべていたのは、誰も知らない…




ちなみに…今回出てきた改造ゴモラに関しては、【ウルトラマンFER 改造ゴモラ】でググってください⇦オイ


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