人と光の“絆”   作:フルセイバー上手くなりたい

136 / 150
戦闘描写があまり無いと比較的早く終わりますね(汗)

今回、IS学園サイドもお楽しみください!


Episode131 奥義−シークレット−

一晩明け、どしゃ降りの竹林の中で一樹と比古は対峙した。

「…来たか。どうだ?自分に欠けているものを見出す事は出来たのか?」

「…いえ」

一晩考えても、一樹には己に欠けているものが見出す事は出来なかった…

「所詮お前は、ここが限界だったか」

ため息をつく比古。そして、羽織っていた白いマントを外し始める。

「…欠けているものが見出せぬ中途半端なままでは奥義の会得はもちろん、藤原一派に勝つこともまず無理だろう。仮に勝てたとしても、お前の中に確実に存在する【狂気】には、打ち勝つ事など出来ぬ」

持っていた2本の刀の内、1本を一樹に投げ渡す。

「……」

渡された刀の刀身を見つめる一樹を横目に、比古は続ける。

「お前は生涯苦しみ、悩み、孤独に苛まれ、いずれ人を殺す様になる…ならばいっそ、奥義の代わりに引導を渡してやるのが、師匠としての最後の務め…」

 

ゴウッ!!!!!!!!

 

「ッ!!?!!?!!?」

比古から放たれる殺気に、一瞬気圧され、持っていた刀を落とす一樹。

「(初めて見る…これが、真の比古清十郎の殺気か…!!?)」

「…覚悟は良いな?一樹…」

 

 

一樹が指名手配されてから、IS学園ではある動きがあった。

「絶対絶対、ずぅぇったい!おかしいですよ!何ですかこの手配書は!!?」

「「「「そうだそうだ!!!!」」」」

新聞部副部長の黛を筆頭に、一樹と関わりのあった生徒達が生徒会室に突撃していた。

「ちょっ、ちょっと落ち着いて下さい!」

「まぁまぁ〜落ち着こうよ〜」

それに対応するのは、学園に残った生徒会役員である布仏姉妹なのだが…2人も、この手配書には思うことがあるので、あまり強く出れないのが現状だ。

「櫻井君が人殺しっていうのもありえないし!このご時世に晒し首ってなんですか!?しかもこの学園に!!」

興奮気味に抗議する黛に、流石の虚もタジタジだ。

「い、いや…この手配書には櫻井君だとは一言も…」

見苦しいとは思いつつも、手配書には【左頬に十字傷がある男】としか書かれてない点を指摘した虚。それに、黛は淡々と懐から写真を取り出した。

「…これ、この騒ぎが起こる前にプリントアウトしたものです。アッチで楯無(たっちゃん)が撮ったものを、ね」

そこに写っていたのは、和装の一樹。その左頬の十字傷が、手配書の人物が一樹である事を示していた。

「…こんな所に傷がある人が、そう何人もいると思いますか?こんな哀しい雰囲気を出せる人が、何人も?」

「ごめんなさい」

虚はすぐ謝罪した。

 

 

「ところで〜」

重い雰囲気の中でも、決してその口調を崩さない(一樹が壊れた場合を除く)という、ある意味大物な本音が話し出す。

「黛先輩はともかく〜他の1年1組以外の人がいるのは何で〜?」

そうなのだ。今生徒会室に詰め寄って来ている生徒達は黛+1年1組+その他の生徒なのだ。

ちなみに、黛以外の新聞部員も来ているが、それは1組しかいない時に夏休みの事を説明していた。

「えっと…」

そして、その他の生徒の内の1人である【西田奈緒】がおずおずと話し出した。

「実は私…去年櫻井君に助けられてるの」

「「「「何ィィィィ!!?!!?」」」」

「ちょっとその話!詳しく聞かせて!!」

1組の生徒達は驚愕し、一樹の(撮った写真&人柄の)大ファンである黛はメモ帳を手に、奈緒に詰め寄る。

「えっと、正確には櫻井君や織斑君達って事を前提でお願いしますね」

 

 

中学3年生時の奈緒は、IS学園の受験のために、最終下校時刻ギリギリまで居残りで勉強していた。

『IS学園の倍率は高いから、もっと頑張らなきゃ!』

家に帰って勉強しようと、急ぎ足で帰っていた時だった。

 

ドンッ!

 

『イタッ!』

『イテッ!』

曲がり角で、人にぶつかってしまった奈緒。その表紙で、持っていた教材が散らばってしまった。

『す、すみません!』

教材を拾いながら謝罪する奈緒。しかし、すぐにその顔が蒼白する。

『イッテェな!どこ見て歩いてんだよ!』

奈緒がぶつかったのは、よりによって街で悪い意味で有名な6人の不良集団だった。

『あ、ああ…』

恐怖のあまり、腰が抜けた奈緒。

『ん?お姉ちゃんよく見るとイイ体してんじゃん。ちょっと付き合えよ』

ジロジロと奈緒の体を見る男。

奈緒の体は確かに中学3年生にしては発育が良かった。それが奈緒にとって良いことなのかどうかは分からないが、少なくとも今は良くない。

『い、イヤです』

弱々しく抵抗するも、男達には通用しない。

『まあそう言うなって。イロイロと楽しませてやるからさ』

ずんずんと近づく男達に、奈緒が絶望していた時だった。

『ガッ!!?』

集団の後ろにいた男が、呻き声をあげて倒れた。

『な、何だ!?』

男達が一斉に後ろを向いた瞬間、奈緒の前に1人の青年が現れ、ガラ空きの背中に蹴りを放った。

『オラァ!』

『ウガッ!?』

背中への一撃だったからか、気絶することは無かったが、大きなダメージを与えた事には変わりなかった。

『何しやがるクソガキ!』

蹴られた男が忿怒の形相で睨むが、青年は涼しい顔だ。

『ん?女の子に自分の欲望をぶつけようとしてるゴミの掃除だけど』

『…ぶっ殺す!』

『悪いがもう遅い』

『なっ!?』

目の前の青年に殴りかかろうとする男は、背後からの一撃で沈んだ。

『…ったく、真島おじさんが見つけられないっておかしいと思ったんだ。わざわざ2つ先の街に逃げてたなんてな』

最後の1人を沈めた…実質的1人で6人全員を沈めた背中がため息をつく。沈んだ6人の両親指を結束バンドで拘束すると、奈緒に近付こうとする。

『ヒッ…!?』

が、奈緒の反応を見て数歩下がった。

『…怪我はありませんか?』

離れた状態で話しかけてくる青年の顔には、長い間背負っている様な、深い哀しみを奈緒に感じさせた。

『あ、あの…ごめんなさい』

『いえ…自分が無神経でした。一夏、後は頼む』

『おい一樹。お前女子関係全部押し付けるつもりかよ』

『…俺に怯えてる子に、俺が手当てしろと?』

『あー…悪かった』

『何よりお前の方がそういう役が似合う』

『結局ソレかよ!』

一夏と呼ばれた青年の渾身のツッコミを、一樹と呼ばれた青年は肩をすくめるだけで流すと、背を向けて去ろうとする。

『あ、あの!』

その背中に呼びかける奈緒。一夏が『一樹、呼ばれてるぜ』と言ってくれたおかげで、一樹は止まってくれた。

『…どうしました?』

『わ、私!西田奈緒って言います。そこの三日月女学院に通う3年生です!あなたのお名前を聞かせてくれませんか?』

奈緒の言葉に、一樹は驚く。一夏ではなく、自分の名前を聞いてきた事に。

『…櫻井一樹。2つ先の街にある第6中の3年生です…もう夜遅いので、そこの一夏に送ってもらうと良いですよ』

『おいコラぁ!!!!』

『あ、あの!ありがとうございました!!』

その後、不良集団を真島組に引き渡すために残った一樹。奈緒は一夏に無事家に送ってもらったのだった。

 

 

「分かってたけど!櫻井君の行動がイケメン過ぎるわ!」

興奮気味に感想を言う黛に、奈緒は同意する。

「その後、その学校に通ってる友達に聞いたんですけど、あまり良い噂は聞かなくて…『あなたの体目当てだったんじゃないの?』って言われちゃって、中々お礼をする事が出来なかったんです…それに、織斑君がこの学園にいたのは知ってたんですけど、櫻井君までいるっていうのはこの騒ぎが起こるまで知らなかったんです」

確かに、1組以外の生徒達にとって一樹は【織斑一夏の護衛役】でしか無かったので、名前を知らない生徒の方が大半だった。雪恵と感動の再会を果たした時ですら、『【護衛役】の人と1組の転校生が再会を果たした』という程度だったのだから。

…こんな理由で知れ渡るのは、皮肉としか言いようが無い。

しかし、奈緒のような人が思った以上に学園にいたのは幸運だった。今後、学園に一樹の名と今までの功績が広まっていく事だろう。

「今までの悪名を全部振り切るような、凄い記事を書いてあげるから安心してね櫻井君!」

「やりましょう副部長!」

「あの時のお礼も含めて!歴代最高の記事を書きましょう!」

握り拳を高く掲げた、新聞部員の記事によって。

 

 

どしゃ降りの竹林の中で、刀と刀がぶつかる金属音が鳴り響く。

「はぁ、はぁ、はぁ…」

「……」

荒い息の一樹に対し、比古は呼吸は乱れていない。一樹も普段ならこの程度の動きで呼吸が乱れる事など無いのだが…今は比古の殺気により、体への負担が尋常ではない。

「(震えている…恐れているのか?師匠である比古清十郎を…!?)」

「…ウラァッ!」

一瞬で一樹に踏み込み、全力の右薙ぎを放ってくる比古。 何とか逆刃刀で受け止める一樹だが、続けて放たれた回し蹴りをまともに喰らってしまう。

「グッ…」

受け身も取れずに大地に転がる一樹に、比古は刀を振り下ろした。

「ッ!!?」

逆刃刀と鞘で受け止めるが、比古はその腕力で押し切ろうとする。

逆刃が、一樹の首元に迫る…

「(その先にある、絶対的な【死】を!?)」

「…フンッ」

突如、比古からの圧力が薄まり、一樹から離れた。

「はぁ、はぁ、はぁ…(恐れるな…死への覚悟など、とうの昔に出来ている筈!!)命を捨ててでも…俺は今こそ奥義を!!!!」

「この愚か者が…」

そして比古は構える。トドメの技、【九頭龍閃】の構えを…

「……」

九頭龍閃は回避も防御も、同じ技を使って打ち勝つ事も今の一樹には不可能。ならば…

 

キンッ…

 

逆刃刀を鞘に納め、抜刀術の構えを取る。

回避も防御も不可能ならば…九頭龍閃の神速を超えた、超神速の抜刀術で技の発生より速く斬り込む他に無い…

「この命を捨ててでも…!」

「……行くぞ」

勢いをつけるために、更に後ろに下がった比古。一瞬の静止の後、一樹に向かって踏み込んで来た。

迫り来る九つの斬撃。

迫り来る、絶対の死!!!!

一樹が真の意味で【死】を意識した、その時だった。

 

_____カズキ!!!!

 

_____マスター!!!!

 

_____かーくん!!!!

 

「ッ!!?!!?!!?」

_____【家族】の声が、聞こえたのは。

 

死ねない!!!!!!!!!!!!

 

「うおおおおォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!」

 

俺はまだ!!!!死ぬ訳にはいかない!!!!

 

 

 

ガギンッ!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

両者共、己の得物を振り切った姿勢で固まる。

先にその静寂を破ったのは、比古だった。背を向けあった状態のまま、話し出した。

「そうだ……それで良い」

距離が離れているからか、一樹には比古の言葉が弱々しく聞こえた。

「1度大切なものを失ったお前は……その悔恨と罪悪感のあまり、自分の命の重さから逃れようとする……自分の命もまた、1人の人間の命だと言う事から目を伏せて」

「……」

「それがお前の【強さ】を抑える事になり、時として心に住み着いた【狂気】の自由を許してしまう」

「……」

「それを克服するためには、今お前が生と死の狭間で見出した…【生きようとする意志】が不可欠なんだ」

「師匠…」

「愛しい者や、弱き者を、己を犠牲に守った所で…その者達の中には深い悲しみが残り…本当の幸福は訪れない…」

 

_____生きようとする意志は、何よりも…何よりも強い。

 

「それを…忘れ……るな……」

「…ッ!?」

「気に…するな……これも飛天御剣流の師弟の運命(さだめ)だ…飛天御剣流奥義…【天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)】の伝授は、師の放つ九頭龍閃を打ち破る事によって成し遂げられる……俺自身も先代の命と引き換えに、この天翔龍閃を得た……お前の不殺の誓いの………外の事だと…………思、え………」

 

ドチャッッッ!!!!!!!!

 

水を吸い、ぐちゃぐちゃになった大地に倒れる比古。

「師匠!!!!師匠ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!」

倒れた師に向かって叫ぶ一樹の声が、竹林に響き渡っていた……

 




比古清十郎の運命やいかに!

そして、次回は一樹に、新たな敵が…






















実は、今までに出てきたりするかも…

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。