人と光の“絆”   作:フルセイバー上手くなりたい

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……ハンカチの用意は、万全ですか?


Episode114 決断-レゾリューション-

「酷い雨だな…」

モロボシ・ダンはグラスを磨きながら、どんどん強くなる雨にため息をつく。

この店【サン・アロハ】は地球での拠点として開いたが、そろそろ閉める時が近づいていた…

 

彼が、ウルトラの星に帰る時が。

 

「こんな天気じゃ、お客も来ないだろ…ちょっと早いが、閉めるかな…」

グラスを置き、店じまいの準備を始めようとした、その時だった。

 

カランカラン

 

「ん?お客さんかな?」

扉が開いたベルが鳴ったので、ダンは席に案内しようとする…

「いらっしゃい。何名様でしょう…って一樹君!?どうしたんだそんなずぶ濡れで!!?」

入ってきたのは、服から水が垂れるほどずぶ濡れな一樹だった。

「…すいません、タオルを貸して____」

一樹の言葉は、最後まで続かなかった。

 

バチャンッッ!!!!!!!!

 

意識を失った一樹が倒れる。その衝撃で、ずぶ濡れだった服から水が跳ねる。

「一樹君!!?!!?」

そんな一樹に慌てて駆け寄るダン。

そして、その首を見て驚愕する。

 

普通の人なら…首の骨が折れている程、強く握られた痕が残っていたのだから…

 

「とにかく、治療を!」

ダンは、店内を走り回った。

 

 

「…ご迷惑をおかけしました」

ダンの治療と、全身を毛布に包まれたおかげで、何とか意識を取り戻した一樹。その首には、固定用のカラーが巻かれている。

「ああ、それは良いんだが…何があったんだい?」

「……」

急に表情が暗くなる一樹。

ダンは無理に聞き出そうとはせず、温かいコーヒーを差し出す。

「…とりあえず、体を温めなさい。後、そのカラーはしばらく外すなよ。幾ら君でも、数日はそのままだ」

「…分かりました」

一樹が黙々とコーヒーを飲み始めると、ダンは厨房に入って軽食を作り始める。

 

 

「…俺は、どうすれば良いんですかね」

「ん?」

ボソボソ、と一樹が呟き始めた。

ダンは一言も聞き漏らすまいと、全神経を集中させる。

「…ダンさん、親友の恋人から『私を消して』って言われたら、どうしますか?」

「…詳しく話してくれるか?」

一樹はポツポツと話し始めた。

死んだ筈の親友の恋人が、自分を憎む人物によって利用されていること。

その女の子の意識が、自分に『私を消して』と言ってきたこと…

「…世界を救う事だけを考えるなら、その子を倒せば良い。けど、その子の意識を取り戻す事が出来るんじゃないかと思うと…トドメが刺せないんですよ…」

窓の外をボーッと眺めながら、一樹は話す。雨は、まだ激しく降っている。

「……」

ダンは無言のままだった。一樹も答えが帰ってくるとは思ってないので、気にせず窓の外を眺めていた…

 

 

「ふう…いつの間にか、こんなに溜まってたんだ」

簪は放課後、自室のコレクションを整理していた。

その中に、とても懐かしい物が入っていた。

「あ…コレは」

父親が初めてくれたこのオモチャ。赤いメガネの様なアイテムは、簪の大のお気に入りだった。

「(よく遊んだな…こうやって)デュワ」

父の話によると…父が子供の頃地球にいたヒーローが、メガネ状のアイテムで変身していたとかなかったとか。

子供の頃に聞いた話なので、多分作り話だとは思うが…その頃の簪は、目を輝かせてその話を聞いたものだ…

「あ、そういえば今日は予約してたアニメのBlu-rayBoxが届く日…」

しかし外は雨が強く降っている。しかし傘がさせない程ではない。

簪は防水のしっかりしているバックを掴むと、外へと向かった。

 

 

「……」

ダンは治療道具一式と、追加の食材を買って帰路についていた。

宗介達S.M.Sか、雪恵に連絡するべきかとも思ったが、今の一樹をあまり動かす訳にはいかないので、しばらく自分が面倒を見る事にした。

「(あんな状態でなければ、()()()を呼んでやれたんだが…)」

 

『○○、修行は進んでるか?』

『ん…?お、一樹!丁度良いところに来てくれたな!』

『あん?何だよ?』

『お前からも師匠に言ってくれよ…テクターギアを付けているのに加えて、更に両手両足に重しをつけて修行は幾ら何でも無茶だって』

『…お前、その修行は地球人もやってるぞ?地球人に負けて良いのか?』

『ま、マジで!?』

『負担の割合で言えばお前よりキツイので修行してるけど…そうか、お前がそう言うならゲンじゃなかったレオさんに言いに『地球人に俺が負けるだあ?2万年早いぜ!!』…お前が修行内容に文句を言うのは30万年早えよ』

『それは言い過ぎじゃねえか!!?キングの爺さんの歳じゃねえかよ!!!!俺はそこまで弱くねえ!!!!』

『レオさーん、○○がレオさんにアストラさんと限りなく実戦に近い模擬戦したいってー』

『悪かった一樹!俺が悪かったからそれは勘弁して!!?』

 

一樹と○○は実の兄弟の様に仲が良かった。それを、ダンやゲンは微笑ましく見ていた程だ。

「しかし…今の彼はそれどころでは無いしな」

早く戻ろう、とダンは少し近道をする事にした。

 

ドンッ!!!!

 

「おっと」

「きゃっ⁉︎」

曲がり角で人とぶつかってしまった。ダンは()()()()()ため大した事は無かったが、相手は違った。

衝撃を殺しきれず、尻餅をついてしまった。

「すまない…怪我は無いかな?」

ぶつかってしまった相手に手を差し伸べるダン。

「ご、ごめんなさい!急いでて…」

「いや、俺もあまり前を見てなかったから…」

ダンの手を借りて、その人…簪は立ち上がる。

僅か数十秒傘から出てただけなのに、既にその服はずぶ濡れだった。

「…その格好では風邪を引いてしまう。俺の店はすぐそこだから、服を乾かしなさい」

サン・アロハを指差しながら言うダン。

普通のハワイアンレストランである事が分かると、簪はお言葉に甘える事にした。

「すいません…お世話になります」

 

 

サン・アロハに着いたダンが扉を開ける。

 

カランカラン

 

「さあ、入って入って」

「お邪魔します…」

どこか警戒しながら、ゆっくりと店に入る簪。

「…え?櫻井君?」

毛布に包まれた状態で眠る一樹を見て、簪の体から力が抜ける。

「…ん?さらしきさんか?」

寝起きだからか、舌ったらずな口調で話す一樹。

「…櫻井君、その首はどうしたの?」

一樹の首に巻かれているカラーを見て、簪は聞く。

「ん、ちょっとな…」

明言を避ける一樹を不思議に思う簪だが、すぐに気にしなくなる。

「さて、一応新品のジャージだ。これを使ってくれ」

「すみません、お借りします…」

乙女にとって、ずぶ濡れの格好である事の方が問題だ。

 

 

「…お世話になりました」

簪がシャワーを浴びに行ってすぐ、一樹は立ち上がった。

いつまでも、ここで休んでる訳にはいかない…

「…行くのか?」

「ええ…俺は結局、【人殺し】のレッテルから逃れる事は出来なさそうです」

力無い笑みを見せる一樹。沙織を救うためには、ファウストを倒すしかない。そして…それが出来るのは一樹しかいない。世界を救うため、沙織を闇から解放するために、一樹は()()()()()()()()()()を背負う覚悟だ。

「君は…もう少し【自分】を出した方が良い」

「【自分】を出す?俺に、そんな資格は無いですよ…」

悲しげな顔を見せると、一樹は店を出ようとする。

「一樹君」

そんな一樹を呼び止めるダン。一樹が足を止めたのを確認すると、その背中に向けて言う。

「君は自分だけが不幸になれば良いと思っているようだが…1人で全部背負い込む事はない。それに、君は()()()の規則に従いすぎだ。君は、俺たちの集団に属してないだろ?だから…自分の感情を、もっと出すんだ」

「……」

今度こそ、一樹は店から出る。

雨は、まだ強く降っている…

 

 

「沙織…」

ガンバルクイナを胸ポケットに入れた一夏も、ざんざん降りの雨の中、歩き回っていた。

彼の歩く場所は沙織との思い出の場所…

「やあ、久しぶりだね織斑」

「…誰だ?」

そんな一夏に話しかける青年…

「あれ?覚えてない?ショックだな〜。僕だよ、藤原修斗」

藤原が名乗ると、一夏の顔が険しくなる。

「藤原…」

藤原の凶暴性を知っている一夏。

一樹を裏でイジメていた元凶…

「実は、君に言わなきゃいけない事があってさ」

「…何だ?」

「ま、コレを見てよ」

 

パチンッッッ!!!!

 

藤原が指を鳴らす。

その隣に、虚ろな目をした沙織が現れた…

「お、まえ…」

「不思議に思わなかったかい?溝呂木が闇の力を得たのはおよそ1年前。この【人形】が死んだのはおよそ2年前だ。闇の力を得る前に溝呂木が殺したって線も無くはないけど、それも不自然だ。何せ溝呂木は、ドイツ軍の教官をしてたんだからね。それは君ご自慢のブリュンヒルデか、あの銀髪のおチビに聞いてるんじゃないか?」

淡々と語る藤原。

一夏は怒りのあまり、口元から血が出る程歯をくいしばっていた。

「よって、溝呂木が()()を殺したと考えるのは不自然だ。なら誰がコレを殺したかなんだけど…不思議な事に、君のすぐ側には【人殺し】と呼ばれる人物がいるんじゃないかな?」

「ッ!?」

藤原の言う通り、溝呂木が沙織を殺したとは考えにくい…

なら誰が沙織を殺したのか。

藤原は一夏の周りに、【人殺し】と呼ばれる人物がいると言う。

それは誰か。

該当する人物は、1人しかいない…

「一樹が…沙織を?」

「と考えるのが自然じゃないかな?自分を慕ってくれていた雪恵さんを殺しかけるような奴だ。おかしくはないと思うけど?」

 

一樹が…沙織を殺した?

でも、アイツは…ウルトラマンで、俺を救ってくれて…

 

それが自作自演だったなら?

 

けど、雪恵が起きた時、アイツは泣いてて…

 

それがただの笑い泣きだったら?

 

嘘だ。

ウソだ。

ウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだ…

 

「君にとって、奴は親友だったんだろうけど…奴に、人としての感性なんて無いさ。あるのは、ただの殺戮衝動だけ」

薄ら笑いを浮かべて、一夏に話す藤原。

一夏は、藤原が薄ら笑いを浮かべている事すら気付いていない。

…自分が、騙されている事に気付いていない。

「…まあ、信じるか信じないかは君の勝手だけどね」

沙織をファウストに変身させ、街を破壊させる藤原。

「さ…おり…」

虚ろな目で、ファウストを追う一夏。

すれ違う藤原の顔が、狂気の笑みを浮かべている事にも気付かず…

「…アハ」

ついに堪えられなくなったのか、藤原は声をあげて嗤う。

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」

端正な顔など、どこにもない。

そこにあるのは、雪恵に対する歪んだ愛。

「もう少しだ…もう少しで、迎えに行くよ雪恵さん…君の居場所は、僕の隣こそ相応しいんだ…クズ2人を片付けたら、すぐに行くからね…アヒャ、アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!」

 

 

「……」

街全体を見渡せる高台から、ファウストが現れた事を視認した一樹。

「……」

ぐっ、と手のひらに力を入れると、覚悟を決める…

「…恨まれるのは、慣れてるしな」

そう呟くと、首のカラーを外してからエボルトラスターを引き抜いた。

 

 

「シュッ!」

『来たか』

ファウストの前に立つウルトラマン。

「フッ!シェアッ‼︎」

ジュネッスにチェンジし、ファウストと対峙する…

『……』

「……」

両者睨み合って動かない。

ただ、雨と雷の音が響くだけだ…

 

ピシャンッ!!!!

 

「シュッ!」

『フンッ!』

落雷を合図に、両者の戦いが始まった…

上段回し蹴り同士がぶつかるのを皮切りに、攻撃と攻撃がぶつかり合う。

「シュアッ!」

『ハァッ!』

掴みかかるのまで同時だったが、ウルトラマンはファウストの突進力を利用し、巴投げを決める。

『グゥッ!?』

背中を強打するファウスト。それでもすぐに起き上がり、ウルトラマンに殴りかかる。

『フンッ!』

しかし、その攻撃のことごとくをウルトラマンは捌く。

「ハッ!」

『グアッ!?』

カウンターで入ったパンチに、ファウストは数歩下がる。

『フンッ!トゥオッ!』

ファウストはウルトラマンに向かって、連続で波動弾を放つ。

「フッ!シュッ!ヘェアッ!!」

ウルトラマンはそれを、全てアームドネクサスで打ち消す。

「フゥゥゥゥゥゥ…ヘェアッ!!」

最後の1発は両手で受け止め、ファウストに投げ返した。

『グゥアァァァァ!!?』

まさか自分の攻撃が返されるとは思ってもいなかっただろう。その波動弾はファウストに直撃した。

 

ピコン、ピコン、ピコン…

 

「グゥッ…」

ここまで有利に戦闘を進めて来たウルトラマンだが、胸元を抑えて苦しむ。

先の戦闘の傷が、まだ治っていないのだ。その状態でここまで圧倒するとは、もはやウルトラマンとファウストの実力差は歴然だった。

『おの…れ…』

立ち上がるファウストを見て、ウルトラマンも何とか姿勢を正し、交差した両腕を高く上げる…

「シュッ!ハアァァァァァァァァ…フンッ!!デェアァァァァァァ!!!!」

『グオォォォォォォォォッ!!?』

ネオ・ラムダスラッシャーがファウストに直撃。

ファウストがそのエネルギーに苦しんでる隙に、トドメの一撃…

「フンッ!フアァァァァァァァァ…デェアァァァァァァ!!!!」

まるで何かの望みを託すように、ゴルドレイ・シュトロームを放つウルトラマン。

『グアァァァァァァァァ!!?!!?』

ファウストは断末魔の叫びを上げて、金色の粒子となって消えていった…

「……」

悲しげに辺りを舞う粒子を見ながら、ウルトラマンは消えていった…

 

 

「…少しの希望でも、信じたいよな。やっぱり」

変身を解いた一樹の周りを、金色の粒子が飛び回っている。一樹がゆっくりとエボルトラスターを掲げると、金色の粒子は全てエボルトラスターに入っていく。

「…とりあえず、学園に戻るか」

粒子を全て回収すると、一樹はIS学園に向かって歩き出した。

 

 

ずぶ濡れのまま専用モノレールに乗ったが、幸い誰にも会う事なく学園に戻ってこれた。

「……」

そして、校舎に入ろうとしたその瞬間______

 

バキッッッ!!!!!!!!

 

______顔面を、()()に思いっきり殴られた。

「(ああ…やっぱり、こうなったか…)」

近付いて来てるのは分かっていた。しかし躱さなかった。躱したら、誰が()の葛藤を受ければ良いのだろう。他の人物にさせる訳にはいかない。こうなってしまった原因のひとつは、自分にある。ならば死なない程度には、()の怒りを自分が受けなければならない…

「…そういう事だろ?()()

口元の血を拭いながら、肩で息をする一夏と、一樹は向き合うのだった…




まだ、この戦いは終わっていません…

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