人と光の“絆”   作:フルセイバー上手くなりたい

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一応言わせて下さい。

サブタイは決してふざけてないです!!




Episode112 願い-ウイッシュ-

「沙織を、消す…?」

 

もう私は…静かに眠りたいの。

酷い事を頼んでるのは分かってる!けど、それをやれるのは櫻井君しかいないの…

 

「……」

尚も苦しそうに胸元を掴む一樹。

沙織の言う事は理解出来るし、それをやれるのが自分だけなのも分かっている。

分かっているからこそ、苦しい…

「他に…他に方法は無いのかよ!沙織が死なないで済む方法は!!」

 

無いよ…それに織斑君、私はもう人間として死んでるの。

2年も前に…

 

「ッ…」

沙織の言葉に、一夏は泣きそうになる。

沙織を救えない事と…何も出来ない、自分に対して。

 

もう限界、かな…織斑君、こんな形だけど、また話せて嬉しかったよ…

 

沙織の体から、光が飛んでいく…

「沙織!」

無駄だと分かっていても、その手を沙織に向かって伸ばす一夏。

「逝かないでくれ!沙織!!」

 

ねえ織斑君…

 

沙織も、その目に涙を浮かべ、一夏との別れを悲しむ。

 

どうして…こんな事になっちゃったんだろうね…?

 

「ッ…!?」

それは一夏に向けて発せられた言葉。

しかし、一樹の心を深く抉った。

一樹が雪恵を救えなかったから藤原は闇の力を手に入れ、一樹を憎しみに任せて攻撃した。

しかし一樹はそれを【償い】として受け入れ続けた。

業を煮やした藤原は、一樹の精神を壊すため()()に、一夏と出会った沙織をその力で殺した。

更には人形として利用し、2人を絶望のどん底に落とした…

つまり、こんな事になってしまった理由の一因は、一樹にもあるのだ…

それを知ってるから、知ってしまったから。

沙織を、今度こそ安らかに眠らせてやらなければならない。

分かっている。分かっていても、出来ない。

「沙織!諦めちゃ駄目だ!まだきっと、何か方法がある筈だ!!」

 

織斑君…

 

「俺は…絶対に諦めない!今度こそ、沙織を普通の女の子に戻してみせる!」

 

出来ないよ…私は、もう人間じゃないの。いつまで経っても成仏出来ない、幽霊と同じようなものなんだよ…?

 

「沙織の体を取り戻せれば!ファウストとして利用されてるファウストの体を取り戻せれば良い筈だ!」

「…いい加減にしろ一夏」

ずっと黙っていた一樹が、一夏の肩を掴んで止める。

「…沙織さんだって、本当はお前から離れたくなんて無いさ。けど、そうしなきゃいけないのも分かってるから…沙織さんだって苦しいんだよ。分かってやれ」

「じゃあ!お前は本当に沙織を消すって言うのかよ!!?」

「………」

明言する事が出来ない一樹。

だが、彼は櫻井一樹であると同時に【ウルトラマン】だ。

彼個人の感情で戦える事もあれば、逆に彼の感情を殺して戦わなければならないこともある。

前者が2度のセリー戦で…後者が今回の場合だ。

「答えろよ!!」

一樹の胸倉を掴んで叫ぶ一夏。

 

織斑君、櫻井君を責めないで…私が、望んだ事なんだから…

 

「けど!けど!!」

「………」

一樹は胸倉を掴まれたまま動かない。動けない…

 

ねえ織斑君…

 

「…何だ?沙織」

 

人として生きるのって……難しいね……

 

その言葉を最後に、沙織は涙を浮かべながらも、笑って消えていった…

「沙織ィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!」

一樹の胸倉を離し、沙織の立っていた場所に駆け寄る一夏。支えが無くなった事で、元々ボロボロだった一樹は力なく座り込み、近くの木に寄りかかる。

「(俺…やっぱり、彼女を倒さなきゃいけないのか?人々を守るためにあるこの光で、彼女を?)」

ぼんやりと一夏を見ると、蹲って泣き叫んでいた。

僅かに残った光が、一夏の胸元に吸い込まれている事には、一夏も…一樹も、気付けなかった。

 

 

泣きじゃくりながら、一夏は学園に戻っていった。

あまりのショックに、一樹がいることも忘れて…

雪恵の携帯にメールを送り、無事を知らせてからも、一樹はしばらくその場を動けなかった。

どれだけそうしていただろうか。辺りが暗くなり、空を見上げれば満天の星空。

…一樹の心とは裏腹に、空はとても透き通っていた。

 

PiPiPiPiPiPiPiPiPi!!

 

「………」

虚ろな目で空を見ていた一樹の携帯が、着信を告げる。

ゆっくりとした動きで操作し、電話に出る一樹。

「…もしもし」

『もしもし、じゃないよかーくん!やっぱり怪我が酷いんだね!?すぐに場所教えて!セリーちゃんと迎えに行くから!』

自分を心配してくれる雪恵の存在をありがたく思うも…今、一樹はその暖かさに甘えてはいけない気がしていた。

「迎えはいらねえよ…今からそっちに行く」

甘えてはいけないと思いつつも…一樹は暖かさを、その温もりを求めてしまう。

「…なあ雪、一緒に星を見ないか?」

『えっ?きゅ、急にどうしたの?』

「…そんな気分なんだよ。俺が帰るまでに、考えておいてくれな」

一樹は電話を切ると、ゆっくりブラストショットを天空に向かって伸ばす。

ストーンフリューゲルは一樹を回収すると、いつもとは違い、ゆっくりと学園へと向かった。

 

 

「…どうしたんだろ、かーくん」

いつもと雰囲気が違った想い人を心配する雪恵。

彼がいつも何かを背負っているのは知っている。

人々の未来を。

人々の想いを。

彼はその背中に乗せている。

今の彼は、その背負っている物の何かに迷ってるのではないか、と雪恵は思った。

ただ、具体的に何なのかと聞かれると答えられないのだが。

「ユキエ、カズキとは連絡取れた?」

雪恵の指示で先にシャワーを浴びていたセリーが、頭を拭きながら出てきた。

その格好は一樹の黒色の半袖シャツに、雪恵とお揃いの明るい色の半ズボンだ。

…一時期は涼しいからという理由でホットパンツを履いていたが、流石に雪恵が止めた。

「うん、取れたよ。今こっちに向かってるって」

「良かった…」

ちなみに、今日雪恵は一樹やセリーの部屋に泊まる事になっている。

…一夏が1人になりたがっているを感じ、急遽千冬に許可を取りにいったのは消灯時間ギリギリだったが。

「ねえセリーちゃん。1人で留守番出来る?」

「え?出来るけど…どうしたの?」

「かーくんから星を見に行かないかって誘われたの…」

「じ…」

じゃあ、私も行きたい。

そう言いかけたセリーだが、途中で止まった。

雪恵の雰囲気が違ったから。

普段の雪恵なら、一樹に誘われたと言うとき、とても幸せそうに笑う。

しかし今の雪恵の顔は、とても悲しげだ。

きっと、一樹に何かあったのだろう。

セリーでは理解する事の出来ない、何かが。

「…ん、分かった。留守番してる」

それに、セリーが最近ずっと一樹に引っ付いていて、雪恵との2人きりの時間が無かった。たまには、2人きりにさせてあげなければならないだろう。

「…あ、ユキエ」

「どうしたの?セリーちゃん」

「カズキが帰ってきたら、ミオは私が預かる」

「…ありがと」

 

 

学園に戻ってきた一樹から、屋上で待っているというメールを受け取った雪恵は、セリーの協力でテレポート。そしてセリーは一樹からミオを預かり、部屋に戻った。

「…かーくん、お帰りなさい」

「…ただいま」

屋上のベンチに座っている一樹の頬に触れる雪恵。

「やっぱり…」

「ん?どした?」

「かーくん…何に苦しんでるの?」

「……」

声音はいつもと変わらない。

また、表情もいつもと変わっているようには見えない。

しかし…理屈ではない【何か】が違うと、雪恵は感じた。

「かーくん、話してくれない?話したら気が楽に…きゃっ!!?」

突然、一樹は雪恵を抱き寄せた。

まるで母親に縋る子供の様に…その手は、その体は、震えていた…

「かーくん…?」

「悪い…しばらく、このまま…」

「…分かった」

「…ごめん」

雪恵には、ただ一樹の腕の中にいる事しか出来ない…

 

情けなくてごめん。

弱くてごめん。

助けられなくてごめん。

 

雪恵には、彼の言葉の意味が分からない。

ただただ、彼の頭を優しく撫で続けた。

それしか、出来なかったから。

 

 

「そん、な…」

部屋では、セリーがミオから話を聞いていた。

ファウストの事や、沙織の願いを…

『…一夏さんの前でこそ、何とかマスターは耐えてたけど…雪恵さんの声を聞いて、ダムが決壊したみたい…ストーンフリューゲルの中で、ずっと泣いてた』

声でしか判断出来ないが…ミオも泣いているのである事は、セリーにも分かった。

『多分、マスターはしばらく学園を離れると思う』

「…どうして?」

『一夏さんに悪いから…救えない自分が、雪恵さんに甘えちゃいけないって、マスターはずっと頭の中で言ってた』

 

 

「…落ち着いた?かーくん」

「ああ…ありがとう」

腕の震えは止まった。

雪恵は明日…いや、今日も授業がある。

これ以上、雪恵に甘える訳にはいかない…

「…俺、しばらく学園離れなきゃいけないんだ」

「……」

「なるべく夜には帰ってくるようにはするけど…帰れない時は、連絡する」

「……」

「雪?」

「また…そうやって1人で背負うの?」

「……」

黙る一樹。

何も答えられない一樹を、今度は雪恵が強く抱きしめる。

「…雪?」

「かーくんが今、何を悩んでるのか分からないけど…私は、かーくんの味方だから。世界の全てがかーくんの敵になったとしても、私はかーくんの味方であり続けるから…」

「………」

「だから…どんなに情けなくても、どんなにみっともなくても良いから…私の所に帰ってきてね…?」

「…ああ」

雪恵の【願い】。

一樹はそれを胸に、しっかりと刻んだ…




彼の心は、いつまで保つのか。

それは、誰にも分からない。

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