何でだ?
「あ、かーくんに織斑君おかえり。遅かったね」
「…ちょっとニンニク臭い?」
門限ギリギリに帰ってきた2人を、雪恵とセリーが迎えた。
「ああ、久々にラーメン食べてきた」
「せっかく外に出たしな」
気分転換に、久々にニンニクが効いたラーメンを食べた2人。
IS学園の食堂にもラーメンはあるが、女子校という事もあって、とてもあっさりしている。
やはり男子としては、たまには分厚いチャーシューの乗ったこってりラーメンを食べたいものである。
「…ズルイ」
以前、宗介にこってりラーメンを奢ってもらってから、セリーもその味の虜になってしまっていた。
「カズキだけズルイ…」
頬をぷくっと膨らませて拗ねるセリー。
「ん?何だったら今から食いに行くか?」
「行く!!」
「いやいや!かーくん何言ってるの!?もう門限過ぎてるんだよ!?」
「それは生徒の門限だ…俺とセリーに門限は通用しねえ!」
「どこのメルヘンホスト!!?」
「分かった分かった。雪も行きたいんだろ?それならそうと早く言えよ…」
「否定はしないけど!そうじゃなくて…」
「セリー、雪も一緒にテレポート頼む」
「いえっさー」
尚もツッコミ続ける雪恵と一樹の腕を掴むセリー。
「ちょ!かーくんにセリーちゃん⁉︎まだ話の途中…」
雪恵のツッコミ虚しく、セリーはテレポートを使った。
その後、ヤケクソとばかりに雪恵はラーメンをすすったそうな。
「…なあ雪、機嫌直せって」
「ユキエ、機嫌直して」
「つーん」
翌日の1組教室、一樹(&セリー)と雪恵が喧嘩してるという、珍しすぎる光景があった。
「お、織斑君。一体何があったの⁉︎」
あまりの珍しさに、クラス中の女子生徒が一夏に問う。
「あー…ざっくり言うとな」
「「「「うんうん」」」」
「門限過ぎた時間に一樹とセリーがラーメン食べに行こうとして、止めようとした雪恵も一緒に連れていかれた」
「「「「…はい?」」」」
ツッコミどころが満載の内容に、女子達が呆然とする。
「門限過ぎた時間に食べに行こうとするって…」
「命知らずな…」
「雪恵ちゃんは良いとばっちりなんじゃ…」
「しかもラーメンって…こってりしたタイプのでしょ?雪恵ちゃん、可哀想」
「おっと、それに関しては大丈夫じゃないか?雪恵、昔っから結構食べて「オリムラクン?ナニヲイオウトシテルノカナカナ?」何でもありません!!」
雪恵が昔から一樹と一緒に色々食べ歩いていた事を知っている一夏。それを言おうとした瞬間、雪恵から背筋が凍る程冷たい声を出されてすぐに止めた。
「あ、あの織斑君が震えてる…」
「ターゲットにされてないのに、私達まで寒気がしたよ…」
「櫻井君と言い、雪恵ちゃんと言い…怒ると怖すぎるよ…」
「雪恵ちゃんを怒らせちゃダメ、ゼッタイ」
クラスの人間がガタガタ震えてるのを見て、一樹はため息を吐く。
未だに頬を膨らませてそっぽを向く雪恵の頭に、そっと手を置く。
「…何?私これでも怒ってるんだけど?」
「知ってる」
答えながら、優しく頭を撫で続ける一樹。雪恵はそっぽを向きつつも、その手を払いのけようとはしなかった。むしろ、半歩一樹に近付いた。
「大体かーくんはさぁ…」
いつの間にか一樹の膝に座り、ブツブツ文句を言う雪恵。
「自分はとても危ない事をしてるくせに、私や舞ちゃんがちょっとふざけただけで止めてきてさぁ…」
「うん」
「説得力無いったらありゃしないのに、『わざわざそんな危ない事をするな!』って怒ってくるのはズルイよ。しかも本気で凄んでくるから、私達が何も言えないのを良い事にさぁ」
「…俺の頑丈さと、お前らを一緒に出来るわきゃねえだろ?」
側から見たら、娘の文句を聞く父親だ。しかし、そのおかげで雪恵のオーラは収まり、女子達はホッとしている。
一夏に箒が微笑ましく見てることから、昔からこれが2人の仲直りの仕方なのだろう。
「…だから、今度からかーくんも無茶をしないこと!良い!?」
「善処する」
「約束しなさい!」
「善処する」
「や・く・そ・く!!!!」
「善処する」
「カズキ、約束して?」
『マスター、約束してね?』
「…善処する」
「「『約束!』」」
「…………善処する」
無茶をするなと言われても…一樹には約束出来ない。
何せ、無茶をしなければ、今まで生きてこれなかったのだから…
尚も詰め寄る雪恵、セリーにミオを流していると、千冬と麻耶が教室に入ってきた。
「お?SHRが始まるぞ?戻りなよ雪、セリー、ミオ」
ここぞとばかりに話を逸らす一樹。
「むう…かーくん、逃げられると思わないでよね」
「カズキ、逃さないからね?」
『ふふふ…マスター?雪恵さんやセリーちゃんならともかく、この私から逃れるなんて思わ…あ、待ってやめて!無言で首飾りを外そうとしないで!』
ミオを物理的?に黙らせると、自らも一夏の隣に座る。
「…昨日、門限過ぎに外に出た奴がいるそうだ。知ってる奴はいるか?自白でも良いぞ?」
明らかに一樹を見ながら言う千冬。それに対し一樹は涼しい顔だ。
「…ふむ。知ってて隠してる奴には特別補習を「一樹です」「櫻井です」「櫻井さんですわ」「櫻井君です」「教官、櫻井です」「織斑先生、かーくんです」…だ、そうだが?」
代表候補生’sにバラされるも、一樹は涼しい顔を崩さない。
「この学園の食堂のラーメンがあっさりしか無いのが悪い!!」
むしろ食堂のメニューに対して訴えていた。
「「それには同感!!」」
一夏とセリーも同意している事に、千冬はため息を吐く。
「確かに、お前は生徒ではないがな…あまりバレる様に動くなよ?後始末が大変なんだ」
「部屋の中からテレポートしたんだから、普通バレる筈ないんだけど?」
「…ウチには今、天災がいるのを忘れてないか?アイツにプライバシーを守る頭は無いぞ?」
『ふっふっふ…その通りだよかずくん!特に対策がない部屋は、全てこの束さんの監視下にあるのだぁ〜!』
1組の教室に響く束の声。妹である箒は頭を抱えている。
『この束さんにかかれば、全女子のスリーサイズを知る事だってお茶の子さいさい!』
「おい千冬。アレはいくら何でも酷すぎないか?」
「…言うな」
『ちなみに雪ちゃんは〜「わー!わー!束さん何言おうとしてるんですか⁉︎」え〜?良いじゃん別に〜』
顔を真っ赤にして叫ぶ雪恵。
『最近、また大きくなったみたいじゃん!何が、とは言わないけど!』
「おい千冬、ちょっと席外すぞ。あのクソ兎の生体電気を逆流させに行ってくるから」
「うむ、行ってこい」
先ほどの雪恵を大きく上回るオーラを発しながら立ち上がる一樹とセリー。
「ねえカズキ?どれくらいの温度が良い?」
「5555度くらいなら耐えられるだろう。あの兎なら」
『束さんはタングステンじゃないよ⁉︎』
「それは調整が難しいから1兆度で良い?」
「空に向かって撃ち出すなら良いぞ」
『良くないよ!!?全く良くないよ!!?』
スピーカーでうるさい束をスルーして、一樹は満面の笑み(例の如く目が怖い)で箒を見る。
「殺って良い?」
そんな顔で見られた箒は、震えながらブンブン首を振る。
『妹に裏切られた!!?』
今にも教室を出ようとする一樹とセリーを、千冬が止める。
「落ち着け櫻井」
『ありがとうちーちゃん。流石私の親ゆ「連絡事項が終わってから殺りに行け」この世に神はいないのか!!?』
束の叫びをスルーして、一樹とセリーは舌打ちしながら席に座った。
「…さて、急遽このクラスに2人増える事になった。入れ」
千冬の指示に、入ってきたのは…
「やっほー、一夏」
「い、一夏…よろしく」
鈴と簪だった。
「…山田先生、説明を」
もう既に一樹の顔が引きつっている事から目を逸らし、千冬は麻耶に説明を促した。
元々根が臆病な麻耶は、一樹の顔に恐怖を感じながら説明を始めた。
「は、はい…このたび、1年生の専用機持ちは全て1組に集める事にしました。それもこれも先日の大運動会での結果を、生徒会長なりに判断した、結果と…」
説明が進むごとに一樹のオーラが大きくなり、麻耶は涙目だ。
ある意味、一夏の隣争奪戦をしている雪恵以外の代表候補生’sは幸せ者だ。
「あ、アハハハハハハハハハハハハハハハハ…そっかそっか、まぁたアイツか…ブ・チ・コ・ロ・シ・カ・ク・テ・イだなァ…」
色々ありすぎてキャラ崩壊が起こった一樹。ゆらり、と立ち上がり、まずは一夏の隣争奪戦をしている代表候補生達に近づく。
「……アイテルセキニスワレ」
「「「「Yes.sir‼︎」」」」
片言で喋って終わらせると、ゆっくり扉を開け…全力で駆け出した。
「あぁぁぁぁのクソアマぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
数秒後、IS学園に絶叫が響いたのは言うまでもない。
「…で、言い訳は?」
「「誠に申し訳ございません」」
生徒会室で一樹に土下座している束と楯無。
「クソ兎、今すぐ全女子のプライベートなデータを消せ」
「か、かずくんは雪ちゃんがどれだけのサイズか気になら「消せ」はい」
「おい馬鹿、こんな事をした理由を話せ」
「お、面白そうだったから「後始末もお前がやるんだな?」誠に申し訳ございませんでした」
…とても天災と暗部の家の当主とは思えない光景だ。
「…次は無いからな?」
「「Yes.sir‼︎」」
ズビシッ!と敬礼をする2人を見て、一樹はとりあえず怒りのオーラをしまう。
「…ハア、2人に頼みごとしようと思ったらコレだよ」
「「頼みごと?」」
「そ。まずは報告からだな」
昨日、亡国機業に動力炉の設計図が運ばれてしまった事を2人に説明する一樹。
「…束、動力炉に使うパーツはコレに書いてある通りだ。アンタなら昨日からどれだけ減ったか調べられるのに加え、亡国機業に渡す事も阻止できるだろ?」
「それくらいお茶の子さいさいだよ!この天災にまっかせなさーい!」
意気揚々と部屋を出た束。
今度は楯無の方を向く。
「…多分、既にかなりの動力炉が作られてる筈だ。だから誰が動力炉付きのISを操るのか、調べてくれないか?勿論俺たちS.M.Sも調べてるけど…今は少しでも、情報が欲しいんだ」
「ええ、分かった。なるべく人手をそれに回しましょう」
事の大きさを理解した楯無も、いつものおちゃらけ顔をやめ、真剣な表情で頷いたのだった…
ある闇の中、フードを深く被った人物は1枚の写真を見つめていた。
そこに写っていたのは、小学4年の時の雪恵だった。
「もうすぐだ…もうすぐで、あなたを助け出せる』
そして、雪恵の隣に写る幼い頃の一樹の顔に向かって…
ドスッ!ドスッ!ドスッ!!
何度も、何度もナイフを突き刺す。
「…待っててね、雪恵さん』
そして後ろを向き、手をかざす。
その手から放たれた闇が、人の形となっていく…
「…お前も使ってやるよ。精々働けよ』
その闇が作ったものは…
ふざけてたところから、かなり怖い場面に。
…そろそろ、奴のフードを剥がす時かな?