「今日、転校生が来るって!」
「へ?」
「…やっぱりか」
翌日の1組教室、クラスの誰かが言ったのに、一夏は戸惑い、一樹はまるで問題の答え合わせが合っていた様な反応を示す。
「しかし一夏、お前はあまり気を取られてる場合では無いぞ」
「クラス別トーナメントも近いですし」
箒、セシリアが言うとクラス中が沸き立つ。
「そうそう!織斑君には勝って貰わないと!」
「勝ってくれたらクラス全員が幸せだよ!」
クラス別トーナメントで優勝すると、そのクラス全員に半年間学食デザートフリーパスが与えられるのだから、女子のやる気が上がるのは当然である。
「今年の専用機持ちって1組と4組だけだから余裕だよ!」
ある女子が興奮して一夏に話す。一樹はその話を聞きながら、窓の外を見ていた。
「(4組にも…専用機持ちはいるけど、《いない》んだよ…)」
いずれ一夏にも話さなければならないと思っていた時。
「その情報、古いよ」
教室の扉に小柄な女子が腕を組んで寄りかかっていた。
「2組のクラス代表も専用機持ちになった訳。そう簡単には勝たせないよ」
一夏はその少女を見て、驚きの声を上げ、一樹は教室からゆっくり出ようとする…が、一夏に腕を掴まれ、逃亡は出来なかった。
「か、一樹。俺の目が悪くなったのか、鈴が見えるんだが…」
「…そう思うなら確認すれば良いだろ?自分で」
「そ、そうだな…なあ、鈴、なのか?」
「そう!私は凰鈴音‼︎今日は宣戦布告に来たって訳‼︎」
一夏の予想通り、中二の終わりに転校…中国に帰った一夏のセカンド(一夏談)幼なじみ、凰鈴音がIS学園に転校して来たのだった。
「…何カッコつけてんだ?スッゲェ似合わねえぞ」
「な!何言ってんのよアンタ!」
一夏の容赦ないツッコミに、すぐに素に戻る鈴。
「…正直な話、俺もそう思ったけどさ」
小声で一夏に同意する一樹。凰は一樹に今気付いた様で…
「あ、櫻井じゃん。なんでいんの?」
一夏とは全然違う接し方だ。まあ、別に凰は一樹のことを嫌ってる訳では無い。元々一夏以外の男子への話し方は割とサバサバしてるのだ。
「…そこのアホがIS起動させたから」
「いやそれじゃ分からないけど…」
鈴が説明を求めるが、一夏が止める。
「なあ鈴。そろそろ戻った方が良いぞ」
「な!冷たくない⁉︎」
「いやだって…」
一夏は途端に無言になる。なぜなら…
「おい」
「何よ⁉︎」
スパンッ
「痛い!って千冬さん⁉︎」
後ろに鬼がいるからだ。
「織斑先生だ。早く自分のクラスへ戻れ」
「は、はい…逃げないでよ!一夏‼︎」
「気のせいかな…この間ほとんど同じ事言われた気がするよ」
昼休み
「待っていたわよ一夏!」
「食券買えないからさっさと退いてくれ」
「う、うるさいわね!分かってるわよ…」
一夏達はそれはそれは楽しい昼休みを過ごしていた。
「あれ?一夏、櫻井は?」
「呼ぼうと思ったら教室から消えてた。ただ、置き手紙で『感動の再会を邪魔する無粋な趣味は無い』って言ってた」
ここに本来は“俺は”の一文を入れたかったのだが、また面倒になると思い、一樹は書かなかった。
「へ、へえ…アイツもなかなか気が効いてるじゃん」
鈴の言葉の後半は小声で呟いたので、一夏には聞こえなかった。
「さーて、何すっかな…寝るか」
そう言って、整備室に入ろうとした一樹。だが、部屋の奥に気配を感じると表情を変え、ブラストショットを取り出す。そっと扉を開けて中を見ると、女生徒が必死で何かを作っているのが見えた。それがISだと分かった為、一樹はブラストショットをしまう。
「…本来の使い方してる人の邪魔は良くないな。別のところにでも行くか」
一樹は整備室から離れようとするが…
「あなたって…櫻井、一樹?」
整備室の中にいた女生徒が振り向いて、声を掛ける。一樹もすぐに顔を出した。
「ごめん。驚かすつもりはなかったんだ」
「…分かってる。気を使って部屋から出ようとしてるのが見えたから」
「…悪いついでに聞かせてくれると嬉しい。君の名前は日本の代表候補の更識さんじゃないかな?あのアホンダラに千冬を除いて1番迷惑被った」
「…それで合ってる。なんで分かったの?」
「気を悪くしないで欲しいんだが、今年の日本の代表候補生だけまだ専用機を持ってないって情報があったから」
「…そう」
更識家には複雑な家訓があるのは知っている為、一樹は苗字だけを調べ、名前は触れない様にした。
「あ、名前は調べて無いから安心してくれ。こんな人でなしと一緒にならなきゃいけなくなるとか無いから。君は、君が望んだ人と結ばれるべきだ」
「…本当?本当に私の名前知らない?」
「姉貴の方も党首の名前として楯無を知ってるけど、それを継ぐ前の名前は知らんよ」
「…よかった…」
「…話は変わるけどさ、それって君の専用機?」
一樹は更識さんの後ろにある機体を見て言う。
「うん。名前は“打鉄弐式”」
女生徒に近づきながら話す一樹。女生徒は驚いていた。
「(私が…人見知りしない?)」
女生徒は重度の人見知りであるが故に、初対面で会話出来ることはほとんど無い。しかし一樹とは初対面にも関わらず、会話が成立している。そんなことは今までなかったのに。
「…ねえ。データ取ったりしないからさ。OS見ても良い?」
「う、うん…」
女生徒から許可を貰った一樹は例の如く、凄まじい速度でキーボードを叩き、武装などには目もくれず、OSを開く。
「…むちゃくちゃだ!こんなOSで、これだけの機体を作ろうなんて。君の体が壊れるよ⁉︎」
「う、うん。私もそれは分かってるんだけど、調整が難しくて…」
「…俺がやろうか?」
「…良いの?」
「おう。このまま操縦して怪我でもされても後悔するし。じゃあちょっとごめんね」
問題部分を削除し、その部分のOSを作り直す。
「電磁流体ソケットへの負担が大きい…駆動系のコードもこのOSの酷さじゃ危ないな。電磁流体の形態を398から1075に変更、コードへの電圧も8759から7058へとシフト…」
一樹の言葉と共にOSがどんどん組み上がっていく。
「(すごい…OSの作成が速い…)」
「新しい粒子サブルーチン構築、訓練時のデータから反応速度を読み取り、イオンポンプの分子構造を再構築…終わり!」
「え?もう終わったの?」
「うん。元が出来てたからあんまり弄るとこは無かったしね。あ、一つ物作りのアドバイス。困った時はその専門の人に頼ると良いよ。後、更識さんの場合はあのバカを殴るなりなんなりしてストレス発散することかな。後は…お家事情に引っかかりそうだから止めよ。とにかく専門の人に頼ることを忘れずにね。頼るのは悪いことじゃないから」
「う、うん」
「じゃあ、また今度」
一樹はそう言って外に出る。ちなみにその夜、一夏の部屋では一夏が鈴と大喧嘩したとか…
「あの唐変木ゥゥゥゥ‼︎仕事増やすなァァァァ‼︎」
一夏の部屋の下、倉庫室の荷物が崩れたことにより、一樹が駆り出されたのは別の話
更識さんって誰?まだ出番が早すぎるって?大丈夫です。当分名前は出ません。