「犯罪者にしか見えませんでしたよ!」
またもや作戦は失敗に終わってしまったので部屋に戦略的撤退を図った。笑いを堪えようともしないこいつを見ていると、あの時信用した自分が馬鹿だったと思わずにはいられない。
ムラムラと殺意が湧いてくる。
「ごめんなさい、調子に乗りました。では真面目に行きましょう」
キリッと顔を引き締める青葉。次はどんな作戦を考えるのかは知らないが、そろそろ私は諦めムードである。でもなんとかしないといけないのも事実で、ため息が出るばかりだ。
「食べ物路線は変更する必要がありそうですね」
「そうだな」
「では一緒に遊んでみるというのはいかがです?」
「……っぽい?」
「夕立さんは、駆逐艦娘の皆さんが広場でよく遊んでいるのはご存知で?」
知ってるよ。私をのけ者にしてきゃいきゃいやってるやつだろう。時々、金剛とか陸奥とか天龍とか神通とかが一緒になってはしゃいでるのも知ってるよ。
混ざって遊んだことないのって、性格的にそういうことをしない加賀ぐらいなもんじゃないの。でもあの人は誘われても断る人ってだけで、誘われてすらいない私と一緒には出来ないけど。
というか駆逐艦娘をうざいって公言してる北上ですら誘われてるのに、何で私だけ。
「今も誰かが遊んでいるでしょうし、乱入してきてはどうですか?」
「ふむぅ……気が乗らんな」
「今度は私も隣に立って仲介役をしますから」
「それしか手はないっぽい?」
「パッと思いつけそうなのはこれぐらいです」
「ではその手で行こう」
私は重くなった腰をあげて駆逐艦娘が遊んでいるだろう広場へと足を運ぶ。
行っている途中に私はおかしいことに気付く。遊んでいる時の声がまったく聞こえず静かなのである。普段はうるさいぐらい聞こえてくるのに。今は誰も遊んでいないのか。
広場へと到着する。
そこで目にしたのは閑散としているけど気配は感じる広場だった。そして広場のど真ん中に女性が一人ニコニコ顔で立っていた。
金髪でご立派な胸部装甲をお持ちの重巡洋艦愛宕だ。あそこまでデカいと逆に不自然を感じざるを得ない。ていうかあんなところで何をやっているんだか。
「こんにちわ~」
私たちの姿を認識した愛宕はふわふわっと挨拶してきた。
「ああ」
「こんにちわです」
私は軽く一礼して、青葉は右手を大きく振ってから挨拶を返す。
「愛宕、少し尋ねたいことがあるのだが」
「何かしら」
ここで何をやっているのかは知らないが、この閑散としている原因を知っているかもしれない。尋ねてみると、愛宕は言い難そうに苦笑いしてから周囲を見回した。
愛宕に倣って周囲を見回してみると、こそこそと人影が多数動くのが見える。隠れてこちらの様子を見ているらしかった。
「これは?」
「夕立ちゃんは人気者ね」
それが言葉通りの意味でないことは分かった。
つまり私の気配を悟ったあるいは感知した駆逐艦娘たちが……ここまで私のことが怖いのか。
「夕立さん……」
青葉が男泣きならぬ女泣き? 私の居た堪れなさに同情の涙を流してくれている。嬉しくないけどな、そんな涙流されても。
「青葉……今日はこのぐらいで終わりにしよう」
今日のところは私の心が限界に近づいて来た様なのでおしまいにしたい。その意思を青葉に告げたらゆっくりと頷いた。
よし、部屋に戻るか……。
数日後、私の姿は提督の執務室にあった。
あれから駆逐艦娘との仲が改善されることはまったくなかった。奇跡なんてものは起きなかったよ。そんなわけでいつも通りの数日間を過ごしていたら、今日、部屋にいた私は急遽提督に呼ばれてしまったわけだ。
私はこの提督を閣下と呼んでいる。提督とは艦娘を指揮して深海棲艦と戦う人間のことだ。艦娘は提督がいないとろくに戦えない面があったりするので、その存在は重要だ。
ここの鎮守府の提督はだいたい五十代ぐらいの見た目で、スキンヘッドに髭面と私の尊敬する方が尊敬する人物にそっくりだった。そのため私は好き好んで閣下と呼んでいる。
「閣下。我々を呼び寄せた理由をご説明願いたいっぽい」
決して広くはない執務室には私の他に提督と秘書艦、そして五人の艦娘の姿があった。
秘書艦とは提督のありとあらゆることをサポートする存在。提督の健康管理までやるって言うんだからほとんど奥さんみたいなもんで、この秘書艦は長門が務めている。
私の他に呼び集められた艦娘はそれぞれ、主力戦艦の金剛と比叡、私の理解者にして大親友の空母赤城とその相棒加賀、私に怯えているのが丸分かりな駆逐艦吹雪。余談だが、駆逐艦娘の中で一番怯えが少ないのがこの吹雪である。これらの艦娘たちは鎮守府内ではそうそうたる面子と言ってもよく、ただ事ではないみたいだ。
「うむ、先ほど天龍を旗艦とした水雷戦隊から救援の要請があった」
確か資材集めのために遠征に向かっていた筈だが、どうやら予想外の敵に遭遇したらしい。彼女たちはこれまでに何度も自分たちで困難を乗り越えて来た猛者たちであるが、どうもそんな彼女たちが救援を要請するほどの困難が降りかかっている、と。
変にプライドが高い天龍がねぇ。
「諸君には至急彼女らの救援を頼みたい」
「テイトーク! 頼むまでもありまセーン。仲間が助けを求めるならそれに応えるのは当たり前ネ」
白い歯をきらめかせて笑う金剛。それに賛同して声をあげるのは比叡だ。
「お姉さまの言う通りです。私たちが仲間を見捨てることなどあり得ません。こうしている時間すら惜しいです」
確かにその通りだ。
仲間たちが今なお苦しんでいる。一分一秒でも時間を争うのだから早急に出撃したい。
呼び出された艦娘全員が同じ気持ちだった。
「よし。総員出撃だ。何としても同胞たちを救い出すのだ」
提督の言葉に、私たち六人全員の声が揃った。
よし、直ぐに行くから待ってろよ。仲間も救えないとあってはソロモンの悪夢の名折れだからな。絶対に助け出してみせる。