欠陥勇者(タイトル未定)   作:高橋くるる

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なんとかここまでは書けたかな。
何度も読み直し、書き直し、修正したりで、相当に自分は書くのが苦手なようです。
その為、投稿スパンは想定以上にかかりそうですね。



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3ヵ月後

 

「おはよう隼人。」

「おはようアトラ」

 

朝も早くからアトラはいつも通りミールの世話をしながら声を掛けてくれる。

こちらの世界に来て以来毎日みている見慣れた光景だ。

 

「今日も一人で行くの?」

「そうなるな。」

 

あれから3ヵ月も経過しているため、やはり学校で習うのとは違いそれなりにまともな会話ができるようになっていた。

最近では現地の言葉で考え、現地の言葉で話すようになっている。

TVで言っていた事はこういう事かと日々体感できている。

 

「あんまり無茶をしないでね。食べ物よりも命の方が大事なんだから。」

「…………」

 

虎の件があってから、ちょくちょく同じような事を言われアトラからは釘を刺されている。

その言葉に対して無謀な事はしないが無茶はするだろうという考えから、すぐに返事ができなかった。

 

「返事は?」

「わかってる。一応陽が暮れるまでには帰ってくると思うけど、必要な物はあるか?」

 

こちらの内心を見透かしたようなアトラは叱るようにして返事を催促してくるのが、すまないと思いながらもごまかすようにして話題をすり替えた。

 

「そうね~。そろそろベリーの実とアセロの実が欲しいかな。」

「ベリーの実はわかるが、アセロってどんな実だ?」

「ちょっと待ってて。どんな実かわかるように今から本を持ってくる。」

 

唇に人差し指を添えて考えるような素振りを見せ、希望の物を教えてくれた。

しかし自分にはわかるものとわからないもの、どちらかと言えば後者の方がまだまだ多い。逆に知っている物を教えてくれと言われた方がすぐに答えれるだろう。

そんな答えをきいたアトラは、俺に待つように言い残し足早に家の中へと戻って行った。

 

それにしても3ヵ月か。月日が流れるのは早いな。

仕事やあいつらはどうなっているんだろうな。

 

住めば都という言葉がある通り、ここはここで悪くはない生活を送っているが、元の世界を思い出して多少寂しい気持ちに襲われる。

 

月日や時間の流れとしてはミリュードから聞いてみた感じでは元の世界と同じ作りのようだ。

どうやら過去の勇者、まぁあの冊子を書いたであろうふざけた勇者達が使っていた暦をそのままこの世界では流用しているらしかった。

 

なぜそのような暦を使っているのかミリュードに聞いてみた事があった。

答えとしてはそれなりの功績を彼らは残したらしい。

それもあって、彼らが使っていた暦を国が認めたという形みたいだ。

 

そんな事を考えているとアトラが戻ってきた。

 

「あんまり走ってコケるなよ。怪我しても知らないぞ。」

「大丈夫。もう子供じゃないわ。」

 

この世界での大人と子供の境界など不明だが、この村では働けるようになれば大人という風習がある。

だからアトラは子供じゃないと否定するが、どう見てもまだ高校生に入って少しというぐらいの感じしかしない。

要するにまだ自身からすると子供という事だ。

しかしそれを言えばアトラは怒るので今では言わないようにしている。

 

「あった。これよこれ。この実の事。風邪の予防や健康維持の為にいつもは置いてあるんだけど、そろそろ無くなりそうなの。」

「ふ~ん。どれどれ?」

 

アトラが栞のようなものを挟んでいる目的のページを開いた後、指で示して実の絵を見せてくれた。

文字を読む事はアトラもできないが、図鑑に近いもののためにそれが何かというのは見てわかる。

手書きのような物の本だが、ハッキリ言ってこれを書いた人物は画力が相当高い。

元の世界でマスコットを書こうとして化け物を生み出したお姉さんも居たが、それとは真逆だ。

見て一発でどのような物か理解できる代物だった。

 

「なるほど、赤い実か。サクランボのような物だな。」

「サクランボ?」

「いやいや、俺の居た世界の果物の事だ。」

 

この村の人達は既に自分が他の世界から来たというのを知っている。

言葉を覚えていくにあたって、少しずつ話して理解してくれていたのだ。

それを邪険にしたり、蔑んだりもせず、他の村人と同じように接してくれていた。

だからこそアトラやミリュードだけじゃなく、この村は居心地が良かった。

 

「そうなんだ。それって美味しいの?」

「ああ。多少酸味があるが、さっぱりとした糖分とのバランスが絶妙なんだ。

他にもジャムという物に利用したりもする。あ、ジャムってのはこちらの世界での蜜の事な。」

「へぇ~。美味しそう~。食べてみたいな~。」

 

流石に3ヵ月も一緒に居ると、アトラの性格もかなりわかるようになる。

この子は優しい心の持ち主というだけじゃなく、純粋で食いしん坊だという事だ。

今のアトラも想像に夢膨らませている屈託のない表情なのだ。

それに比べ、元の世界での10代半ばの女子高生など純粋とは程遠いスレまくった子が非常に多い。

それは世間が他人への干渉を良しとしない風潮があったのもあるせいだろう。

何かをすれば叩かれ、すぐに警察沙汰にもなる。

 

まぁそんな事はこの村では関係ないんだがな。

むしろ他人へと干渉しまくりで、お隣さんに拳骨を食らうお向かいの子供とか日常茶飯事だ。

 

「もし向こうの世界から持ってこれたりするなら、アトラに食べさせてやるよ。」

「本当?楽しみにしてるね。」

 

アトラからのキラキラした目を向けられ、多少背中がむずがゆくなる。

まっ、俺も男って事だな。

 

「ああ。それじゃあ行って――」

「ここの場所を取り仕切る者は居るか?」

 

言葉を遮られるようにして、村の入り口から急に女の大きな声が聞こえてきた。

アトラから視線を外し、声の主へと流すようにして向ける。

前に出会ったあの女騎士のような恰好をしているような人物が、馬に乗りながら村の中心部へと向かって叫んでいたのだ。

頭部以外は全身を鉄のような鎧で覆っている。

実際はそうでもないのだろうが、ガチャガチャして非常に動きづらそうな恰好だ。

それでも胸元は当時の女騎士よりは大きい。多分CかDだろう。

しかし意外だ。何が意外なんだというと、馬は馬のまま存在していたからだ。

 

ファンタジーもクソもなく元世界まんまかよ。

そんなツッコミをいれながらもすぐに流す。

 

そんな事より別に言いたい事があるからだ。

それは常識を考えない程大きな声を出した赤いチンチクリンヘアーの女に苦情を伝えるためだ。

一応チンチクリンと言ってもショートのツンツンヘアーというだけだが。

 

いくら早起きの村の連中と言っても村の中にはまだ寝ている幼子だっている。

なら文句の一つくらい言ってもいいはずだ。

 

「おい。朝っぱらからうるせぇだろ。まだ寝てる子供もいるんだ。少しは声量を考えろ。」

「ん?少年、あの時の?」

 

声を発した女の隣に居た人物がこちらに聞こえる程度の声量で喋った。

周囲の家からはチンチクリン女のせいで起きていた村人が何事かと外に出て来ている。

 

「あんた、あの時の女騎士か。その節は世話になった。おかげで今がある。」

「いや、それは構わない。あれは我々の不手際でもあったしな。

それより少年。お前は言葉がわかるのか?

前は意志の疎通さえ難しかったと思っているのだが。」

「ん?今はこのアトラやみんなのおかげでそれなりに言葉はわかるぞ。

それがどうかしたか?

というより俺は少年じゃない。立派なアラサー男子だ。」

「アラサー男子?意味はわからないが、丁度良い。少年を探していたのだ。」

 

俺を探していた?

 

心当たりが全くない事に対して思考を当時へと巻き戻す。

 

うん。言った。言ったな。

 

心当たりで言えば、虎を倒した時にBカップかと言った。

 

もしかしてそれか?セクハラか何かの報復か?

いや、流石にそれはないだろう。ただ、試してみる価値はある。

 

「なぁアトラ。お前Bカップよりデカイよな?」

「え?Bカップ?デカイ?どういう意味?」

「いや、アトラ。お前は意味を知らなくていい。」

 

アトラのキョトンとした顔をみて理解した。やはり意味は伝わらない。

意味を知っていたら多少なりとも他の反応を示すはずだ。

となればこれが原因じゃないだろう。

なら原因は一体なんだ?

 

セクハラ反対という声が聞こえて来そうだが、決してセクハラではなく真面目に聞いている為異論は受け付けない。

 

「貴様を王都まで連行する。」

 

最初に声を出したチンチクリン女が、有無も言わさない高圧的な上から目線の言葉を放つ。

隣ではその言葉を聞いたアトラが驚いた表情を見せている。

その光景を見て聞いた村人も似たような顔をしているのが目に入る。

 

「大丈夫だアトラ。安心しろ。」

 

アトラへと声をかけ安心させる。

しかし、いきなり上から目線で言葉を放つチンチクリン女に対しては別だ。

そんな態度で言われてはいそうですかと言えるような人間ではないことぐらい自分の性格は理解している。

 

「おい女。お前が偉いさんだろ。俺に一体何の用だ?」

「貴様!リーシャ様に向かってその口の利き方――」

 

なるほど、リーシャって名前か。

というよりこのチンチクリンは後先考えない女なのか?

名前を知られるって事は後から聞き込みを行い、張り込みして家まで普通に調べる事ができるんだぞ。

ただ、頭が軽い奴は扱いやすい。

どうせそんな部類だろうと勝手に自分の頭の中でカテゴリ分けを行った。

 

「黙れよ。チンチクリン女。そんなんじゃ彼氏もできねぇぞ。」

「貴様ぁぁぁぁ!!」

 

あ、地雷だったか?

どうやら本気で怒ったな。

 

リーシャの隣に居る大きな声を上げたチンチクリン女は、まるで口が裂けんばかりに広げて馬の手綱を引き千切りそうな勢いで怒りだした。

 

うん。チンチクリンは長いからヒス子でいいや。

 

村の青年達によって、それなりに汚い言葉も教えてもらっていた。

こんなとこで役に立つとは思ってもみなかったが……

 

「おい、リーシャっつったか?テメェんとこは礼儀も知らねぇ馬鹿を飼っているのか?

見たところ騎士っぽいが、外見だけ騎士で中身は頭スカスカのボンクラか?

俺の世界の騎士はそれなりに礼儀を重んじる部類だったと記憶しているがな。」

 

あくまで言った内容の騎士は、アニメや漫画から引っ張っている知識なだけだ。

現実の騎士など人間である。

絶対に騎士道とか言いながらも、裏ではだらしない人間も多いと確信している。

理想と現実はむなしい程かけ離れているのが世の常だろう。

 

それに友達は

「武士道とは、死ぬことと見つけたり!ならば騎士道とは?ヤる事と見つけたり!」

など意味不明な事を口走っていた。

多分紳士を拗らせていきついた先だと思う。

 

「これは少年の言う通りだ。すまない事をした。」

「リーシャ様!」

「いいんだ。こちらも理由を説明してなかったのが悪い。

リーシャ・レオリウスだ。レイス王女の近衛騎士団団長を務めている。」

 

リーシャという女は馬から降りて深々と頭を下げた。

若いのに出来た人間だと感心できる行動だ。

 

恐らく団長と言うからにはそれなりに人格者としても通っていないと務まらないのだろう。

 

「悪いが今はここで理由を説明できない。できれば無理やりというのはこちらも避けたいのが本音だ。

王都に来てくれたら必ず説明すると誓う。だから一緒に来てくれないだろうか。」

 

隣のヒス子と違ってリーシャは真摯な態度で話してくれた。

しかし、王都というからには国の中心部分だろう。

しかも様と呼ばれるようなお偉いさんが、こんな村の外れまでやってきてピンポイントでご指名だ。

おおよそ考えられるのはあれしかない。

 

勇者関連――

 

しかし、自分からするとそんなもの知ったこっちゃない。

恨みはあれども恩は無い。知らない人間より見知った仲間だ。

 

「勇者関連について。」

 

頭を上げたリーシャの表情が微かに動いた。

図星だったのだろう。

伊達にこちらに来て観察の日々を送ってはいない。

人の顔色を見て生きるような事はしないが、自然と身に付いた特技だ。

 

「生憎、俺は勇者になんて興味が無い。

それに自分を勇者なんて思ってもいない。

どこか無職で暇な奴でも探すんだな。

何なら俺が勇者(無職)を探すのを手伝ってやろうか?

まぁ俺はこれから仕事だから冗談だが。」

「少年。できれば私は手荒な事はしたくないのだ。」

 

冗談の一つも通じないリーシャという女。

何と生真面目な性格なのだろうか。

しかしそれは融通が利かない女ではなく、どういう手段を持ってしても連れていくという脅しとも取れるような、はっきりとした意志表示だった。

下手に言葉が無い分横に居るヒス子よりも凄味がある。

緊張した空気が周囲に張り詰める。

 

どうするべきか――

 

「行ってみたらいいんじゃないかな。話すだけでしょ?

もし嫌になったらいつでも帰ってきたらいいんだし。ね?」

「アトラ……」

「その時はおみやげでも買ってきて。おばあちゃんと楽しみにしてるからさ。」

 

隣に居たあまりにも毒気の抜けるようなアトラの発言によって、張り詰めた空気は一気に萎んでいく。

 

多分アトラはわかっていて発言したんだと思う。

初めて出会った時から彼女は言葉を話せなくてもなんとなく空気を読んだように気持ちを汲み取ってくれていたからだ。

穏便に済むようにしてくれたのだろう。

 

「はぁ~、しゃあねぇ。おい。リーシャっつったよな。

とりあえず話だけは聞いてやる。

ただ、まだ仕事が残ってるから行くなら仕事を片付けてからだ。」

「わかった。手間をかけさせてすまない。」

「俺に謝らなくていい。感謝するならアトラにしておけ。

じゃなきゃ俺はお前らの態度からして行くつもりなんてなかったんだからな。」

 

★★

 

いつも通りにベリーウッドの森へと到着した。

今では森の最深部まで行けるようになっている。

ちなみに今日は金魚のフンが2個ぶら下がっている状態だ。

それは何か?

答えは簡単。リーシャ達だ。

何故こいつらが居るかというと、村を出発しようとした所でリーシャ達が付いて行ってもいいかと言うので、下手に村に置いて何かをされるのを心配するよりは目の届く範囲に置いておいた方がいいと判断して連れてきたのだ。

 

「しかし驚いたものだな。毎日あの距離を走っているのか?」

 

リーシャ達は森の入り口に馬を置いて、今は歩いて同行している。

背後に居た彼女は感心したように口を開いた。

 

「そうだ。あんたに助けてもらってわかったんだ。

俺はたまたま助かったが、あの時死んだ子も居た……」

「…………」

「別にあんたらを責めているんじゃない。

あの時に俺に力があればあの男の子達は今も元気に生きていたはずだ。」

「そうか。だから鍛えるついでという形か?」

 

そう言われて頷いて返す。

虎の件があってから、言葉を覚えると同時に自分で倒せるモンスターは自分一人で処理をしていった。

最初こそ言葉がわからないものの、親父が怒って頬を殴られた。

やりすぎだとも言わないし、横暴だとも思わない。

輪を乱せば皆に危険が及ぶのは自分も理解しているし、リーダー格だった親父はみんなを守る責任もあるのだろう。

それにそれだけが理由じゃない。

自分の事を心配して叱ってくれていたのだ。

言葉がわからなくとも、世界が違うと言っても、それは人として当然の行為だと思う。

それでも自身の無理を押し通した。

すると親父達は半ば諦めたようにして言葉がわからなくとも色々教えてくれた。

自分も必死になって覚えた。

食べ物用のビークだけではなく、害獣と呼べるものなども村の人達から教えてもらい倒す。自分一人で厳しい場合は親父達からもサポートしてもらい、どう立ち回ればいいのかも聞いていった。

その甲斐あって、今では一人でベリーウッドの森程度なら立ち回れる。

 

ただ、どうやら親父はレベルとしては10程らしい。

もっと高いものだと思っていたのだが、レベルは個々の強さでも技術は入っておらず

、総合力にはなり得ないという話だった。

親父はそれを理解していて、自分達にとって本来不利なモンスター。

それに対して攻撃の方法や村人を使って上手く戦っていたという事だ。

それが理由で自分より低いレベルなのに、親父の方が比較した際に強く感じたのだろう。

 

要するに、自分にレベルが足りなくて厳しい敵でも、地形、武器、立ち回りを工夫すれば戦い方次第で自分よりも強い敵はいくらでも倒せる事も教えてもらえた。

しかし、いくら戦い方と言っても虎のようにあまりにステータス差が開きすぎるとどうにもならないらしい。

それを理解した為、こうやって鍛えているのだ。

ただ、親父や村人達は特定のレベルまで行くと理由はわからないが、強制的にレベルが打ち止めになるようでそれ以上は強くなるのが不可能なようだった。

おそらく勇者の冊子に書いていた物に沿っているのだろう。

 

自分自身は違うようで、レベルの上限というものに今の所は当たってない。

モンスターを倒すとレベルは上がっていく。

これが召喚された者の特殊な力なのか。

こればっかりは勇者の冊子以外に教えてくれる人が居ない為、知る事ができない。

 

ただ、ステータスのおかげなのか、若干人間の枠からはみ出している動きができるようになってきているのも理解している。

レベルを上げて物理で殴る。弱肉強食に対して、これをやるのだ。

勿論ただ殴るだけじゃなく、技術も加える。

これは遊びではないというのも理由だ。

 

それとステータスについてわかった事もあった。

レベルが上昇するにつれ、視力や聴覚、嗅覚、触覚も強化されるようだ。

超感覚と言えばいいのか。

意識しない場合は普通の村人達と変わらないが、意識すれば数キロ程度先までなら障害物が無い場合は見えるし、森のモンスターの事はかなり理解できたので何が居てどう動いているか音で判断できる。

例え擬態をして隠れていようとも、臭いや微かな気配で判断をすることも可能だ。

村で見た冊子に書いていなかった事から、これが俺の欠陥についてきた能力だろう。

イメージするならば潜水艦のソナーや航空管制塔のレーダー、蛇のピット器官のようにサーモグラフィで相手が何をしているのか理解できるのだ。

 

それとは別に

体を鍛えてレベルが上がると、その分ステータスの伸びしろが大きくなるのだ。

逆に鍛えずにレベルが上がるとステータスの伸びしろが少なくなっている。

だからこそ自分の肉体へと適度に負荷を与え毎日トレーニングを積んでいるというのもある。

ただ、疲れすぎるとHPは減っていくし、回復も遅い。

逆に疲れてなければ回復も早い。

どうやらEPもそうのようで、体調によって変化が出るようだった。

MPに関しては制限中だけあって増減をした事が今まで一度も見たことがない。

魔法に関しても村の者に聞いてみたが、普通の人との修得方法と違うようで修得は一つもできていなかった。

 

ステータス

如月隼人

LV 38

HP 978/978

EP 380/380

MP 3825/3825 制限中

攻撃力 175

防御力 184

精神力 328

速さ 98

賢さ 35

 

称号 元特攻隊長 野生を知る者 仲間想い

 

パッシブスキル なし

 

アクティブスキル 

豪破内衝拳20(CT120s)砕蹴脚30(CT180s)金剛鎧20(CT180s)神脚速移40(CT240s)

鬼神進軍190(CT7200s)

 

魔法 制限中

 

一応スキルについてはそれなりに色々と確かめてみた。

CTというのは次に使えるまでの秒数のようで、例えば金剛鎧を発動させれば、次に発動させるまで180秒かかるという具合だ。

レベルの上昇過程で、スキルが変わった時は驚いたが、多少効果が変わっただけだった。

また、効果時間も確かめてみた。

攻撃系は1撃の発動のみで、連打で打っても意味がなかった。

逆に防御である金剛鎧は30秒だった。

過去の剛の鎧の時は15秒だったので、それから考えると15秒伸びた事になる。

それに、効果も見れる。

今はステータスに防御力が184とあるが、これで金剛鎧を使えば防御力の横に+100が付く。

表記で言えば184(+100)という具合だ。

このプラスがどれくらい影響するのかは不明だが、虎の件を考えるに1でそれなりに影響されてくるだろう。

そう考えないと木々をへし折るくらいの衝撃を受けて立ち上がる事など出来ないと考えるべきだ。

また改めてどこかで試す必要があるが、既にベリーウッドの森ではHPがまともに減るような攻撃を受けないし、そもそも攻撃を当たらないように動いている。

 

次は神脚速移について。これは速さの上昇だった。

金剛鎧と同じで30秒しか効果が続かないが、使ってみて驚いた。

常人とはかけ離れた速度を出す。

その脚力をもって森の中で試すと、元々身体を動かすのは嫌いではないが、映画やアニメなどで見る三角跳びのような事が簡単にできた。

縦横無尽。この言葉がぴったりだろう。

これをもって人間の枠からはみ出し始めたという認識が出来た。

 

最後の鬼神進軍についてだが、レベル35になって覚えた。

2時間のCTがある分恐る恐る使ってみたが、全身から黒いオーラが揺らめくように立ち昇り始め、総EPの半分を消費する変わりに身体能力が2倍に上昇した。

それだけなのかと思い、更にこの状態でスキルを使用してみたが、EPが減らない事を確認している。

その上スキルのCTを気にせずに連打が可能になっていた。

 

念のためにステータスの比較をするために、これを使用して砕蹴脚を試しに地面に放ってみたが、自身を中心にして地面に直径20m程、深さ5m程度のクレーターが出来た。

普通の砕蹴脚自体がその半分程度だったので、ステータスの威力は恐らく比率で強くなるのだろう。

勿論中心部が5m程なだけであって、端の方に従って緩やかな皿のような状態での穴だが。

今では雨によって綺麗な瓢箪型の池となっている。

 

ただ、これは二度と使いたくないと思っている。

初めて使用した日は激痛に見舞われたのだ。

副作用とでも言うのだろうか。

全身を締め付けられる激痛に襲われ、まともに動けなくなった事に起因している。

 

その際、ステータスを確認すると全てのステータスが1/3になっていた。

幸い効果が切れる前に神脚速移を使って森を出ていた為何事も無かったが、

その日は激痛で動けない体のせいもあって、森の外で野宿を覚悟したのだ。

一応夜になって村の人達の捜索によって見つけられ、無事に家には帰れた事は記憶に新しい。

 

もし森の中で動けなくなっていた場合、危険な状態になっていた可能性さえあった。

それに、言葉がわからなかったらそこまでならなかっただろうが、理解できる分帰ったらアトラの本気のお説教を受けたのも理由だ。

 

その時に初めてアトラが泣いて怒っていた事もあって、次からは危険な場所での使用はやめておこうと考えた。

ミリュードはというと、やれやれ仕方ないというような感じで肩を落として首を左右に振っていたのを記憶している。

今思えば昔の勇者もこんなぶっ飛んだ力を使っていたんだろう。

山を吹き飛ばしたような事も書いてあったし、それに比べればまだまだ可愛いものだとは思っているが。

 

ただ、ステータスが戻るか不安だったが翌日には鬼神進軍でステータスが減っていたのは全て戻っていた。

いつ戻ったのかはハッキリは不明だ。

寝ている間かもしれないし、起きてからかもしれない。

ただ、目が覚めると痛みが無かった事から、就寝中に戻っていた可能性が高い。

 

しかしこの世界、虎のような出来事もある。

自分の想像ではできない事に遭遇する可能性も十分にあるのだ。

最悪は鬼神進軍を使うだろう。

ただ、それを使って虎のように倒せなかったらと思うと、今の強さに満足する事はできない。

例え倒せてもアトラやミリュード、村の気のいい奴らが犠牲になったらと考えるとまた後悔してしまうだろう。

そう考えるとまだまだ邁進するべきだ。

もし後悔をするような出来事が起こる可能性があるならば、後悔しないように今できる事をやってからだろう。

ただそれだけしか今の自分にはできないのだから。

 

ちなみにこのスキルを覚えてからというもの、二日程かけて鬼神進軍を村の近くで使ってみた。

最悪すぐに帰れるだろうという考えもあってだ。

いくらステータスが2倍と言っても、具体的な効果がわからない場合は後の反動のようなステータス減少というデメリットは洒落にならない。

 

その為、必要な行為だと割り切って使用した。

わかった事はこの鬼神進軍の効果は3分という事だ。

どれくらい効果があるのか神脚速移を連発使用してみて、調べてみたのだ。

すると6回の使用にて黒いモノが消滅して反動が返って来た。

 

「む?あれは……」

 

色々考えていると、リーシャが訝しむように声を上げた事によって意識を戻された。

見ればリーシャの視線の先にはフォレストウルフの群れが居た。

向こうも気づいているようで、明らかにこちらを取り囲むようにして回り込もうとしている。

フォレストウルフは1メートル前後の狼のような外見だが、耳が異常に大きく発達しており全身緑色の毛に覆われているモンスターだ。

恐らくこちらの足音を聞いて待ち伏せしていたのだろう。

全身緑色の毛というのは、周囲に擬態して茂みから獲物を狙いやすくするためだと親父は言っていた。

また、肉食の為、肉に臭みがあり食用には適さないモンスターらしい。

 

「1.2.3.全部で9匹か。」

「厳しい数だな。今は退いた方がいい。」

「リーシャ。あんたが強いのは知っているが、これは俺の仕事だ。

手を出さないでほしい。俺が全て片付ける。」

「本気で言っているのか?武器も持たずに一人でとは無茶だ。我々でも――」

「ああ。問題ない。」

 

遊びに来ているわけじゃない。それに元から無茶は承知の上。

ただ、今のフォレストウルフ相手では無茶でもなんでもない。

何かを言おうとしたリーシャの言葉を無視して行動に移す。

 

「待てっ!危険だ!」

 

飛び出した事によってリーシャは手を掴もうとして伸ばしてきたが、動きが遅い。

難なく伸びた手を躱してフォレストウルフとの距離を詰めにかかる。

 

リーシャを擁護するならばこちらに来た当初なら危険だった。

心配も当たり前だろう。

初めて遭遇した際はその素早さに翻弄され、連携に対して手も足も出なかった。

体は至る所に爪による裂傷を負い、噛みつきによって肉が抉られた。

一言で表すならボコボコにされた。

ただ、一瞬の隙を突いて神脚速移にて逃走し大事に至らずに済んだ。

 

しかし、レベルの上がった今ではどうとでもなる。

既に何度も戦っている相手だ。

こいつらのレベル自体は知らないが、強さは知っている。

今では朝飯前だ。

 

「今日はお前らを狩るのは目的じゃないから去ってほしいんだがな。」

「グルルルル!ヴォウ!ヴォウ!」

 

距離を詰めたくせに言っている事が矛盾しているのは仕方ない。

あのまま一緒に居れば彼女達まで巻き込んでしまうからだ。

それに涎を垂らすその顔に威嚇の鳴き声。完全にやる気なのだろう。

やはりアクティブモンスターという奴だろうか。

何とかならないものかと不本意ながらも戦う為に構えを取る。

 

「しかたない。さっさと終わらせる。こっちからいくぞ!」

 

まずは一番近くにいるフォレストウルフへと駆けだす。

それと同時に狙っているウルフが雄叫びを上げた。

これはフォレストウルフ達の攻撃の合図だ。

自分が狙われているから他のウルフ達よ。攻撃しろという具合だろう。

案の定左右から2体のウルフが大きな口を開け、首を狙って飛び掛かってきた。

その2体に対してアイアンクローの要領で両手で1体ずつ口を掴む。

そのまま2体を合掌のようにして頭同士を胸元で衝突させて頭蓋を潰す。

周囲には脳漿が飛び散るが、一々こんな程度で気にしてはいられない。

回り込んだウルフが背後の頭上から更に1体が飛び掛かってきており、前方からは2体が足元目掛けて噛みつこうとしているのが目に入る。

流石群れというだけあって相変わらず連携が取れている。

それでも――

 

「残念。それは通用しない。」

 

襲い掛かるウルフの攻撃に合わせて前宙をかける。

後ろから飛び掛かるウルフの両脇を両手で掴み、足元に襲い掛かった2体のウルフの顔を踏みつぶす。

 

「これで4匹。残るは5匹!」

 

数を言葉に出しながら掴んだウルフの腹を両手で引き裂き、前方に居る2体のウルフの内、右手に持って最初に叫んだウルフへと投げつける。

言葉に出すのは数を間違えないようにするためだ。

 

「これで5!残り4!」

 

腸をぶちまけるように投げつけられたウルフは、左へ回避の為に軽く飛ぶ。

フォレストウルフの相手が村の親父達ならそれで射程圏外へと逃げ切れただろう。

しかし、こちらは既にレベルが38で村人とは速度が大きく異なる。

ダッシュで追いつき、間合いに収める。制空権の方が適切か。

空いた右脇腹へとしなるようにして蹴りを打ち込む。

苦しそうに血を吐き空中へと打ち上げられようとするウルフ。

そのウルフの首根っこを両手で掴んで背後から飛び掛かって来たウルフへと回転するようにして叩きつけた。

首の骨が折れるような音と感触を空気へと乗せて、手と耳に伝えてくる。

恐らくそれが原因で死んだのか、叩きつけたウルフは掴んだまま動かなくなった。

 

「3!」

 

今にも食いつこうとしていたウルフは、衝突した事によって苦痛の叫びをあげながら逃走しようとするが、そうはさせない。

手負いの獣は厄介だ。その為確実に仕留める。

手に持ったウルフの死体を投げ捨て、急いで走って追いかける。

距離はぐんぐんと縮められ、回り込んで逃走しようとしたウルフの背骨へとかかと落としを決める。

攻撃を受けたウルフはそのまま背骨が砕け、白い泡を吹いて痙攣の後絶命する。

 

「残り2!――」

「きゃあっ!」

 

悲鳴が聞こえて振り返るとこちらを襲うのは無理と悟ったのか、ヒス子へと2体が襲い掛かっていた。

リーシャが剣を抜こうと鞘へと手をかける途中だ。

しかしリーシャの動きからすると1体は間に合い倒せても、残り1体がヒス子へと襲い掛かるのがわかった。

 

あれじゃあ、遅い!

 

こんなとこで怪我をされても後味が悪い。

それに後の呼び出しで何を言われるかわかったものじゃない。

そんな考えから助ける事を選択する。

 

「ちっ。≪神脚速移≫!」

 

スキルを唱える。

全身に羽が生えたように体が軽くなる感覚に捉われる。

 

しかし若干距離があった。

これでは走ったとしても間に合わない。

 

「伏せろ!」

 

大声で伝えるだけ伝え、地面を蹴って跳ぶ。

そのまま続けて木を蹴るようにして跳ぶ。

ケンカと同じで、戦いというのも村の親父が言うように場数という経験と工夫だ。

普通にやってできない事があれば、知恵を使って思考錯誤するのが人間だ。

その経験を活かす。

 

力を入れすぎた事によって木々が蹴りの当たったところから折れていくが、走るより跳ぶ方が速いから仕方ない。

すぐに追いついてリーシャ達二人の前に立ち、フォレストウルフとの間に割り込んだ。

 

1体が左太ももへと食いつくが、それを無視してもう一体へとスキルを放つ。

 

「≪豪破内衝拳≫!」

 

襲い掛かろうとしていた2体の内の1体の脇腹へとフックの要領で腰を入れたスキルを叩き込んだ。

スキルを受けたウルフは拳の触れた先から大きく凹む。

続いて反対側の脇腹から、臓物をぶちまけて太ももへ噛みついていたウルフへと浴びせる。

難しい理屈など不明だが、多分このスキルは外傷になる攻撃の威力をそのまま内部から破壊する力に変換しているのだろう。

その攻撃によって腹部を四散させたウルフは即死したのか白目を剥いてそのまま足元へと身体は落ちた。

残ったのは最後の1体。

目の前の光景に驚いたのか最後のウルフは噛みついていた攻撃を止めて、そのまま背を向けるように森の奥へと走って逃走していった。

 

「追いかける!――ぶっ!?」

 

走り出そうとした瞬間何かに引っ掛かるようにして腹部を四散させたウルフの身体の上にダイレクトにダイブした。

何が起こったのか理解できずに引っ掛かった方へと倒れたまま顔を向ける。

 

「なにしてんの?」

 

見てみるとヒス子が俺のパンツを掴んで顔を左右に振りながら泣きながら腰を抜かしていた。

その光景を前にして素の言葉が出たのは仕方ないだろう。

 

★★

 

あれからいくらか食用モンスターを狩って、アトラに言われた実を取ってから帰路に付いているところだった。

 

「だっはっはっは。おいヒス子!」

「だ、誰がヒス子だ!私にはきちんとリリアンという名がある!」

「アッハッハッハ。お前あんだけ強気な言葉のくせに顔も可愛ければ名前も可愛いなおい。」

「なっ!?か、可愛っ!?お前!私を馬鹿にしているのか!?」

「アッハッハッハ。悪い悪い。イメージとは逆に、可愛いとこがあるんだなと思っただけだ。」

「リーシャ様!こいつ!連行しましょう!今すぐ王都に連れ帰って拷問して牢獄にでも繋いでしまいましょう!」

「はぁ……リリアン。諦めろ。お前が悪い。」

 

予想外のギャップに一人爆笑してしまう。

あれだけ高圧的な態度の女が実は泣き虫でしたとは誰が聞いても愛嬌があって笑ってしまうだろう。

その上で子供としてあしらわれたのが気に食わないのかリリアンは物騒な事を言い始める。

しかし先程の出来事から鑑みれば、ママに泣きつく子供のようでそれがまた楽しい。

リーシャは相手をするのが面倒なのか、やれやれといった感じでリリアンを宥める。

 

「それより、その、なんだ、お前の太ももは大丈夫なのか?」

「ん?太ももがどうしたって?というか貴様とお前、呼び方が変わっているがどういう心境の変化だ?」

「貴様っ!いや……それは……私のせいで貴様の――」

「彼女は言っているのだ。私のせいで少年が怪我を負ってないのかと。」

 

モゴモゴと言い籠るリリアンの代弁をするように意味を教えてくれた。

その言葉を言い終えるとリリアンはバツの悪そうな顔をしていた。

 

「も、もし貴、お、お前がキツイというならば、私の後ろに乗せてやる。」

 

恥ずかしそうにリリアンは言った後、馬の騎乗スペースを前にずらして一人分あけてくれた。

 

「あ~、大丈夫大丈夫。これくらい慣れてる。むしろ気にするな。というかお前、ツンデレ?マジかよ。あっはっはっは。」

「つんでれ?」

「意味はよくわからんが、貴様!人が心配してやってるというのに完全にバカにしているな!」

 

リリアンのモジモジする仕草を見て言葉が浮かんだままに口にしてさらに爆笑した。

まぁ外見がツンツン頭の口が悪く気が強い女なら先入観を持っても仕方ないだろう。

 

隣でリーシャが完全に頭の中にクエスチョンマークを浮かべたような疑問形の言葉を口にした後、わなわなと震えたリリアンが腰にかけた剣の留め具を外してこちらへと向け激昂した。

 

いや、本当こいつ面白い奴だ。

しかしこれ以上は完全に嫌がらせになるので、空気を読んで軽口はやめる。

 

「悪いな。冗談だ。そんな事より、二人とも怪我ないか?」

 

真剣な表情で二人に怪我がないか確認の言葉を投げかける。

リリアンの仮面が剥がれた事によって嫌いな奴から幾らか好感度が上がった。

 

「あ、う、こ、これでも騎士だ!私に怪我はない!」

「ふむ。男に心配されるというのは久しぶりだな。悪くない気分だ。」

 

リリアンは未だテンパったような状態で、リーシャに関しては何か達観したような物言いだ。

 

どちらも癖が強すぎるだろう。

もっと女の子っぽい姿を見せてもいいんじゃなかろうか。

 

「まぁ、二人とも怪我が無いならそれでいい。」

「しかし驚いたものだ。センスはあると思っていたが前に見た時とは動きが全然違う。

それによくあの距離から我々の間に入り込めたな。動きが全く見えなかったぞ。」

「へぇ~、他人からすると動きが見えてないもんなんだな。

自分の感覚だとわからないもんだ。」

「1体は逃がしてしまったが、それでもあの8体のフォレストウルフ達を一人で倒したのも驚きだ。

しかも素手というのだから、どれだけ前に出会った時より強くなっているのだ?

普通の兵士なら1匹でも手に余るような相手だぞ?」

「あ~、俺も最初は鉈や斧、剣や弓を使ってみたんだけどな。

生憎と武器を持つより生身の方が性に合ってるらしい。」

「身を守る為の武器や防具を捨て素手の方が強いなど、他の兵士達が聞いたら呆れてしまいそうだ。」

「だっはっはっは。」

 

感心したような顔でリーシャが言うが、色々試してみていきついた答えが素手だ。

おそらくケンカしていた経験からくるもんなのだろう。

自分は頭で考えるより身体を動かす方が得意なのだ。

 

それに、あの時よりレベルは25も上がっている。

しかもレベルが上昇するまでに鍛えていたら、その分ステータスに上乗せされるのだ。

同じだと思う方がどうかしている。

 

「リーシャ様がこんな奴より弱いなんて絶対ありません!」

「悪いな少年。リリアンはこの任務が騎士になって初めての任務なのだ。許してやってくれ。」

「なははは。そうなのか?

まぁ初めてなら失敗して当たり前だ。それを糧にして成長していけば問題ないだろ。」

「お前に言われたくない!――」

「感謝する。」

 

喚くようなリリアンの言葉を遮るようにしてリーシャが感謝の言葉を口にした。

 

なんというか、最初のイメージから本当に一気に変わったな。

背伸びしていたという事か。

ヒステリーのかけらもなく、見方を変えればいじられキャラなんじゃなかろうかこのリリアンは。

 

「それに強さについてだが、そこらへんは俺にはわからねぇな。

比較する相手が周りには俺らのリーダーをやってる親父しかいない。

それに既に親父達とは人間的に動きのレベルそのものが今では違うしな。

比較するならモンスター達と比較した方が早い。

それに、強くなければ守れないだろ。それがわかったのはリーシャのおかげだ。」

「人間と比べる方が難しいとは恐ろしい少年だな――」

「俺の名前は如月隼人だ。隼人でいい。それに言ってるだろ?

俺はアラサー男子で少年じゃないって。」

「そうか。やはりアラサー男子の意味はわからないが、隼人という名前か。では隼人。申し訳ないが、その、よければだが……」

「どうした?デートのお誘いか?別に構わないが、リリアンが怒るぞ?」

 

何気ない会話の中に冗談を混ぜただけで、今にも襲い掛かってきそうなリリアンの威圧に晒される。

 

まぁ、威圧されたところで死ぬわけじゃない。

リーシャにぞっこんなのを承知の上で、からかうのが地味におもしろいから試しただけだしな。

 

「そ、そうではない!一度ステータスを見せてくれないかという事だ!」

 

リーシャは照れているというよりは驚いたように目を丸くして、慌てて言葉の続きを言い切った。

 

それにしても、この世界の騎士みたいな奴というのは男慣れをしていないのか?

リーシャにしてもリリアンにしても初心な反応を見せてくれて久しぶりに面白いぞ。

 

「ははは。ステータスぐらい構わないが、お前ら二人とも男慣れしてなさすぎだな。

俺が居た世界のお前らぐらいの女の子達はもっとそうだな。

軽く男を掌で転がすように上手く操るぞ?」

「そ、そうなのか?覚えておこう。」

 

言葉こそ畏まっているが、外見的には二人とも20前後に見える。

男というのには興味があってもおかしくないだろう。

こういう初心な反応を見せられるのを傍から見ると心が和むが、やはり二人ともそれなりな恰好をしているように見える為、所属的に恋愛規則には厳しいのだろうか。

まぁ、どうでもいいな。

 

ちなみにあんたのステータスなんか私は気にしてないというような形でそっぽを向いたリリアンだが、無理してそっぽを向いている感じが滲み出ていた。

それを見て更にリリアンに親近感が湧いた。

 

絶対扱いやすいわ。このリリアン。

というよりも、リーシャも人のステータスを見たいなんて物好きなやつもいるもんだな。

村の奴らは特に気にするような奴らじゃなかったし、やっぱり騎士団長という役職様は気にするもんなのかね~。

別に隠すようなものじゃないからいいが。

まぁついでに参考にできるならしたいし聞いてみるか。

 

「なぁリーシャ。俺のステータスも見せるから、お前のステータスも見せてくれないか?」

 

リーシャからわかったという返答と共に、一度立ち止まり二人のステータスを同時に表示した。

 

ステータス

如月隼人

LV 38

HP 968/978

EP 320/380

MP 3825/3825 制限中

攻撃力 175

防御力 184

精神力 328

速さ 98

賢さ 35

 

称号 元特攻隊長 野生を知る者 仲間想い 軟派する者

 

パッシブスキル なし

 

アクティブスキル 

豪破内衝拳20(CT120s)砕蹴脚30(CT180s)金剛鎧20(CT180s)神脚速移40(CT240s)

鬼神進軍190(CT7200s)

 

魔法 制限中

 

 

 

リーシャ・レオリウス

LV 43

HP 534/534

EP 280/280

MP 350/350

攻撃力 125

防御力 114

精神力 236

速さ 48

賢さ 72

 

称号 近衛騎士団団長 幼馴染 ハートキャッチャー

 

パッシブスキル 清浄なる加護

 

アクティブスキル 

爆炎剣25(CT120s)音速剣30(CT120s) 五月雨50(CT240s)

 

魔法 ヒール30(CT240s) アンチポイズン25(CT240s) フィジカルアクティビティ70(CT240s)

 

「「なっ!?」」

 

リーシャとリリアンが同時に驚きの声を上げる。

アトラとミリュードに初めて見られた時も同様に驚かれたが、何に驚いているのかわからなかった。

一応ドラゴン○○ストとファイナル○○ンタジーや、スター○○シャンとロマ○○ングサガ並にはステータスに差があるのは理解している。

というより、一つ変な称号が増えている。

むしろそっちの方が気になって仕方がない。

 

あれか?先程のやりとりで追加されたのか?

そんなつもりは一切なかったが。

 

「ん?どした?何か凄いのか?

てか初めて他人のステータスを見たが、お前らのステータスが日本語で読めるんだが?

これはこれで違和感を覚えるな。

本じゃないからか?それともこれがファンタジーってやつか?

てかリリアン。お前興味無いんじゃなかったっけ?」

 

バレないように目だけで見ていたリリアン。

ステータスを隠れ見て確認したのだろう。

それが今は完全に固まって凝視している

それを見て意地悪な表情を浮かべてからかいにかかった。

するとリリアンはステータスから視線を外し、ジト目でこちらを見た後に大きく息を吸い込んだ。

 

「なんでこんな奴がこんなステータス!?ありえない!絶対に私は認めない!

唯一認めるとしたら賢さだけ!」

「何?何なの?君は俺に何か恨みでもあんの?

なんかさらっと酷い事言ってる自覚ある?

なんなら君のステータスを一回俺に見せてみようか?」

「い、嫌よ!なんでそんな物をお前に見せないといけないのよ!一回死んだらどう?」

 

ほほう。この女。いい度胸をしてやがる。

俺を認めるのは賢さだけと……

よし、俺にケンカを売った事後悔させてやろう。

 

「いや、本当に驚いたな。私より強いんじゃないかというよりは、既に超えているのか。レベルこそ私より低いがステータスが賢さ以外全て私より高いとは。

しかもこのMP、桁自体が我々より違う。これが勇者か。」

「ねぇ。君ら本当に驚いてる?むしろ逆に俺のこと乏しめようとしてない?

絶対そうだよな?な?」

「む?悪い悪い。今までの努力が否定されるようなあまりの凄さで、リリアンの悪ふざけに同調してしまった。」

 

絶対にこいつら楽しんでいる節がある。

その証拠にリリアンはしてやったりという表情を出しているし、リーシャは口元を抑えて困ったような表情で軽く笑顔になっているのだ。

悪いと思っているような素振りが見えない。

ただ、変な距離感で堅苦しい感じより今の方が接しやすい。

今の空気の方が個人的にはありがたい部分もあった。

 

アトラが優しさならリーシャは真面目でリリアンはやんちゃという感じか。

 

「まぁそれならいいけどよ。一応MPがあっても俺は魔法を使えないぞ。」

「ん?魔法を使えないのか?」

「ああ。そうだ。それよりも聞きたい。」

「私に答えられる範囲ならな。なんだ?」

「とりあえず進みながら話そう。」

 

二人を促して再度帰路を進みだす。

 

確か勇者の冊子には兵士はLV20くらいと書いていたと記憶している。

それがリーシャという女の子はその倍以上の43だ。

一体どういう事だと疑問が湧くのは仕方ない。

 

「確か兵士、お前らが兵士、か騎士かはわからないが、俺が知った情報よりリーシャは倍以上強いんじゃないか?

俺に狩りを教えてくれた親父も一般的な人間より倍のレベルがあったはずだ。」

「ふむ。騎士も兵士の中の一部だ。問題ない。

それとレベルについてだが、私の家は代々マトリカ王家へと仕える騎士の家系だ。

父も母も騎士の中では優秀な方でな。レベルに関しても一般兵より高かった。

多分だが遺伝的な物もあるのだろう。その上相当鍛えて育てられた。

子供ながら逃げ出したくなるような毎日だったよ。

ただ、普通は隼人の言う認識で問題がない。

隼人に狩りを教えた親父という人物も、いくらか戦いに長けていたのだろうな。

その証拠に、リリアンはレベルで言えば年齢と同じ18しかない。」

「ちょ!リーシャ様!?レベルは我慢しますが、何故こんな奴にプライベート情報を暴露するのですか!?」

「ん?まずかったか?それほど気にするものではないと思ったんだがな。

それなら私の年齢も教えるから許してくれ。私は21歳だ。」

「リーシャ様ぁ~……」

「お、おう。唐突な年齢報告ありがとう。リリアンどんまい。」

「うるさい!お前が言うな!」

 

これはリリアンを擁護するしかない。

リーシャはちょっと普通の女の子よりズレている部分があるのだろう。

 

それにしても遺伝と過程で成長が変わる、か……

 

「なら、例えば兵士をやっている人間が引退して、ただの一般人になるとどうなるんだ?」

 

意図的に設定されたように環境でレベルの限界値も変わる。

ふと疑問に思った事を口にしてみる。

 

「それは、レベルが強制的に下がり5前後で収まるようになる。」

 

は?なんだそれ?

あまりにあからさま仕組みに耳を疑った。

 

「じゃあ逆に聞く。兵士から引退して一般人、そこからまた兵士になればどうなる?」

「そんなの当たり前じゃないか。レベル5から鍛え直しだ。」

 

おおふ。何という理不尽な世の中なんだ。

それに、その仕組みがさも当たり前のように受け入れている世界。

こいつらは疑問に思わないのだろうか。

 

「お前ら、よくそんな理不尽な仕組みに納得しているな。」

「何故だ?」

「だってそうだろ?自分の努力が全て無駄になるんだぞ?」

「仕方ないだろう。そういうものなのだ。」

 

そういうもの。ん~。そういうものねぇ~。

まぁこいつらが受け入れているならいいのだろう。

それに外野がどうこう言ったところで環境が変わるわけじゃないんだ。

しかし、俺なら絶対にそんなのはお断りだな。

 

初めてここで召喚されてよかったという部分を体感できた。

自分なら努力を否定されるような仕組みはごめん被りたいからだ。

 

そんなやりとりをしているとリットン村が見えてきた。

 

「そろそろ村に到着するが、王都ってここからどれくらいの距離なんだ?」

「そうだな。だいたい片道6時間程だ。」

「そうか。それなら急げば明日の朝には帰ってこれるな。」

「何を言っている?多分だが数日はあちらに滞在してもらう事になるぞ。」

 

さも当たり前というようにリーシャは答えてくれた。

しかし冗談じゃない。

 

「は?いやいや、お前わかってる?こっちは暇じゃない。仕事があるの!

今でこそアトラやミリュード達はマシになったが、男手がなければ生活が厳しいんだ。

それをほっぽって滞在とかできるわけねぇだろ!」

「一応何とかできるように進言してみるが……あまり期待しないでもらいたい。」

 

こちらのまくし立てるような言葉によって、リーシャは困ったように考えてから申し訳なさそうに言葉を口にした。

 

確かに彼女は遣いのような者だろう。それなら彼女に言うのは御門違いだ。

それを指示した主にこそ伝えるべき内容である。

 

「ったく、わぁったよ。リーシャを責めても仕方ない。お前らを寄越した主に直接俺が言うよ。」

「すまない。」

「お前らには悪いが、一応交渉決裂なら速攻で帰るのも頭に入れておいてもらえたらいい。」

 

その答えにリーシャは納得したのか頷いて返事を返した。

隣では不服そうにリリアンが態度で示していたが、譲れないものは譲れないのだ。

 


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