すごいぞつよいぞキラー・クイーン   作:ざび

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更新が遅れに遅れてはや三ヶ月。
何とか一話分形になったので初投稿です。


前回のあらすじ

黒子「吉良ってヤツ怪しくね?」


七月十八日①

 

 

 学園都市の街中に舗装されているアスファルトには強い日差しが差し込み、そこかしこに光が乱反射していた。地面に吸収された光は熱を孕み、それは当然とばかりにその上を歩く人々にも伝導する。靴越しではあるが熱いものは熱い。これから通っている中学校に向かおうとしていた学生が一人、佐天涙子は気怠げに眉を顰める。学校に行く前から彼女のテンションはダダ下がりだった。

 

 「あっつー……」

 

 たった今歩いている道の上空には今日の天気を知らせる飛行船が飛んでいる。それによれば今日の学園都市は概ね晴れ。気持ちのいい風が吹き快適な一日です、などと連ねてあるが涙子にはとてもそうとは思えなかった。

 今の第七学区は正しく無風だ。強風で自身のスカートが悪戯にめくれ上がるよりかは幾分マシだが、体感温度が上がってしまうせいで制服によってどうにも蒸れてしまうのはいただけない。樹形図の設計者が嘘を吐かないことは涙子も知っていることできっと数刻もしない内にこの暑さも和らぐのだろうが、それはそれ。今暑いことに変わりはないので、さっさと教室まで辿り着いてしまおう。そう考え、足を速める。

 

 目的地である柵川中学校に近づけば見知った制服に身を包んだ学生も増えてきて、その中には知り合いの顔もちらほら。だが涙子の足は止まらない。今の目的地はあくまで彼女の席があるエアコンの効いた教室だ。そこへと辿り着くまではこの足は止まることはない――――とそう思った矢先、見知った顔ぶれの中でも特に見知った顔を見つけて涙子の早足は簡単に止まった。

 

 「あれ、初春だ」

 

 目指していた中学校から視線を目の前へとずらし、その反動で涙子の黒髪が揺れる。

 視線の先には同じクラスでそして何より涙子がよく話す少女、初春飾利が通学路の途中で立ち止まっていた。彼女のトレードマークとでも言うべき花でできた冠は自宅に置きっ放しにされることもなく、今日も彼女の頭上にて綺麗に咲き誇っていることから寝ぼけてあの場所に突っ立っている訳では無いのだろう。言うまでもなく、あれは造花だが。

 涙子の勝手な評価だが初春飾利という少女は結構、いやかなり頭が良い分類に入る。授業中に質問されても(涙子の邪魔がなければ)淀みなく答えるし、実際に見たわけではないが放課後は風紀委員でオペレーター紛いのこともやっていると聞く。能力は定温保存という触れたものの温度を一定に保つ程度のもので、それがもっと強力なものであれば頭の良さも相まってもっと良い学校に通っていたのではないか、とも思う。最も正真正銘の無能力者である涙子からすればそんな能力でも羨ましいし、何より便利だ。前に「家からずっとお弁当片手に持っていればいつでもホカホカのご飯食べられるじゃん」と提案したこともあったが、何故か涙子は飾利に非常に残念なものを見るような目をされた。以降その話題は振っていないが、今度また提案してみるべきだろうか。お弁当がダメなら、次は夏らしくアイスでも提案してみようか。何にせよ夏や冬には彼女の能力は滅法役に立つのだ。

 

 と、ここまでで分かる通り佐天涙子という少女は面白いことが好きで様々なことに首を突っ込みたがる――というのがいつぞやの飾利の論だ。

 実際のところオカルトや都市伝説、面白い噂に目の無い涙子はかなりの頻度で調査と銘打って学園都市を探索していたりする。流石に危険区域に立ち入ったりはしないが多少周囲に迷惑がかかろうとも意地を曲げない部分もあるし、それでいて正義感も持ち合わせている。纏めてしまえば面白いことが好きな好奇心旺盛の少女なのだが……何故か初春飾利が絡んだ時の佐天涙子は、思考がちょっとばかり凶暴になって。

 この場に関して言うのなら何で彼女が往来で突っ立っているのかとか、彼女は何を悩んだように呟いているのかとか。

 そういう発想に至るよりも早く、

 

 「うーいっはるッ!」

 

 思いっきり、初春飾利のスカートをめくり上げた。

 何の躊躇いもなく。それも、沢山の学生が行き交う往来の通学路で。

 

 「でも、やっぱりあの人が犯人とは――――ぁっ!?」

 

 案の定、被害者の表情にはすぐに変化が訪れた。

 それまで何かを呟いていた飾利だったが、涙子が見事な手際でスカート捲りを披露したことで生じた体感温度の違いに気付いたのだろう。

 何かすーすーするなぁ、なんて思考で意識を現実へと戻した彼女の前にあった現実はあまりに残酷で、みるみる内に顔は茹で蛸の様に赤く染め上がった。

 

 「さっ、さて、佐天さん……?」

 「おー今日は淡いピンクの水玉かぁ、初春ももうちょっと大胆なものにしたらいいのに」

 「佐天さぁぁぁん!?」

 

 飾利が叫んだ先には、冷静な表情で飾利の下着を品評する犯人。

 ボーっとしていただけなのにも関わらず、朝っぱらから公衆の面前で下着を晒されるというこの仕打ち。あまりの不憫さに、つい見てしまった男子の脳内でも申し訳なさの方が勝ってしまう。

 この二人のやり取りが後々になって柵川中学の正門近くでよく見られる名物漫才のようになってしまうのは、また別の話。

 

 

 

 

 

 

 「ん――終わったぁ!これで明日の終業式が終わればついに夏休みだねぇ」

 「そうですねぇ、といっても私は夏休みでも風紀委員の仕事があるので―――って、あ!!」

 

 同日。一日の授業が終わり明日の就業式を残すのみとなった涙子と飾利の両名は、中学校を背に第七学区の都市部へと歩き始めていた。

 朝に見かけた天気予報はやはり今日も予言だったらしい。相変わらずの快晴ではあるが今は風もそよいでおり、幾分過ごしやすい気候だ。「ようやく夏休みかぁ」と涙子は背筋を伸ばして待ちかねたように言うと飾利もそれに同調し、そして何かを見つけたように声を上げた。

 一体何を見つけたのだろう。気になった涙子が尋ねるよりも早く、飾利は更に見つけた対象へと声をかけて手を振った。

 

 「御坂さーん!」

 「ん?」

 

 普段の飾利からはあまり聞くことのない大声に気付いたのか、声をかけられた少女――御坂美琴は何事だとばかりにその声に振り向くと、得心が行ったのか同じように手を振り返す。

 

 「おっすー初春さん、そっちはお友達?」

 「はい、私達これから洋服を見に行くところで――」

 「ちょいちょいちょいちょーい」

 

 そのままの流れで美琴と飾利が歓談を始めるが、そうは問屋が下ろさない。突然始まった会話についていけないかもしれないと察した涙子は、ちょっと強引に飾利を美琴から若干引き離した。 

 

 「初春知り合い?それにあの人常盤台の制服着てるけど」

 「ええと、風紀委員の仕事をしていたら間接的に知り合いまして」

 

 いきなり飾利が引きづられていったことに当惑している美琴をよそに涙子が思ったことを聞く。

 柵川中学に通う涙子からしてみれば常盤台中学という場所はもはや別世界という認識だ。何せ常盤台中学は学園都市でも数本の指に入るお嬢様学校。更に入学するためには最低でもレベル3以上でなければならないとも聞く。何にせよ相当に狭き門であることは確かだ。

 そんな学校に通っている人と知り合いなんて―――と探る目で飾利を見る涙子だったが、飾利の弁解でその疑問は解消した。飾利が風紀委員で忙しい身であることは重々承知だ。それに常盤台中学に同期の風紀委員がいるといっていたし、それ関係なのだろう。

 涙子が納得したのを確認すると飾利は言葉を続け、

 

 「それに、御坂さんはただのお嬢様じゃないんです!超能力者、あの常盤台の超電磁砲(レールガン)なんですよ!」

 「レベル5!?って、あの超電磁砲…!」

 

 ババーン、と盛大に紹介された美琴をよそに飾利と涙子の両名が盛り上がる。

 

 「え、どんな感じだった?どうだった?」

 「それはもう、アレです!バリバリドン、チュドンチュドーン!って感じで!」

 

 どうやら飾利は先日たまたま美琴たちが遭遇した銀行強盗のことを話しているらしい。…が、どう聞いても美琴の活躍が誇張されているようだ。バリバリチュドーンなんて勢いで撃ったら犯人が感電死するのではないだろうか。

 噂って、こうやって広まっていくのね……と思いつつ、若干手持無沙汰になった美琴は空を見上げながら飾利の話す銀行強盗事件について思い起こす。

 といっても、一昨日の事件は能力者が犯行に関与していたということ以外、そう奇をてらった内容でもない。物騒ではあるが、能力を悪用する学生なんてごまんといるのだ。同時に、それを防ぐための風紀委員や警備員でもある。現に、件の銀行強盗事件では現場に居合わせた黒子と飾利が対応に当たり、その結果。

 

 (逃げた犯人は私と黒子が確保。銀行内にいた強盗犯は――)

 

 初春飾利を人質に取り、とある少年によって()()()()()()()。一瞬のことだったらしい。人質となっていた飾利ですら助かったことに理解が追いつかなかったのだとか。

 現場に居合わせた美琴としては被害者がいなくて何よりだとは思う。しかし、気になるのは飾利を助けたという少年だ。

 昨夜のこと。美琴のことを「お姉様」と呼ぶルームメイトの黒子が言っていた内容がふと美琴の脳内で反芻される。

 

 『吉良吉陰という男、少し気をつけた方が良いかも知れません』

 『ん?あの、銀行強盗の?』

 『その言い方ですと少々語弊がありますけれど……あの男、どうにも能力が掴めませんの。書庫通りと言われればそれまでなのですけれど……』

 

 そう言って昨夜の黒子はうんうん唸っては頭を抱えていた。

 どうにもここのところ働き詰めなことを知っている美琴はそんな彼女に『今日は早く休むように』と伝えて自身も眠りについたが――実はあれから、授業の合間を縫って美琴は黒子の言う吉良吉陰という少年について調べていた。

 が、美琴の独自の方法で調べられた情報の数々はハッキリ言ってハズレだった。

 高校一年生、男。顔写真のデータに来歴、成績。

 そして、大能力の念動使いと言う情報。

 

 (その能力が怪しいって黒子は言ってたけど……)

 

 能力の詳細を知りたいところではあったが、残念なことに書庫に登録されていたのは能力のランクと名称のみ。名前だけ聞けば念動能力に属する、割と珍しくもない能力だが――つまり、黒子は吉良吉陰という少年が書庫以外の能力を持っているのではないか。更には連続爆破事件のカギを握っているのでは、という疑いを持っている訳である。

 まさかそんな、と笑い飛ばすことも美琴は出来たわけだが――そうせずに、しかも吉良吉陰について調べていたのには理由があった。

 何せ、前例があるのだ。あの、無能力者だと登録されている癖に美琴の電撃を無効化し、更にはこちらを煽る様な真似をする。心底気に食わないあのツンツン頭の少年が。

 

 

 

 

 

 

 

 「へっくしょい!」

 「うおっ、ビックリした。いきなりどうした当麻、風邪か?」

 「おにーちゃん大丈夫?」

 

 同時刻。

 人で賑わう第七学区のファミレスにて、上条当麻から飛び出したのは周囲にも響く盛大なくしゃみだった。

 何の前触れもなく耳元で爆音を鳴らされた吉良は驚くものの、しかし嫌な顔はせずに上条へと鼻を噛むようティッシュを箱ごと渡す。くしゃみが運悪く吉良の顔面に降り注いだものなら、もう少し態度は変わったかもしれないが。

 

 「おう、悪い吉陰。ちょっとエアコンで冷えたかな…」

 「そうか?そんなに寒くは感じないけどな……それならそろそろ出るか」

 

 そう言って、吉良は店内に取り付けられた掛け時計を見た。

 現時刻は三時過ぎ。入店した時間から逆算して三十分ほどにもなるし、エアコンで身体が冷えた可能性も無くはない。誰かに噂されている、なんてことは露ほども考えなかった。

 そうと決まればさっさと荷物を纏めて会計を済ませてくることにしよう。四人掛けのテーブルの端に置かれた伝票を手に取った吉良は財布を片手に、今だ上条の顔をしげしげと見ている少女に声をかける。

 

 「佳茄ちゃん、そろそろお店出るから準備しといてー」

 「うん!わかったー!」

 

 佳茄と呼ばれた少女は元気に返事をすると、上条からバッグへと視線を落としてそれを肩に掛けてテトテトと吉良の方に走ってくる。どうやら準備は既に出来ていたらしい。残すは上条だが――鼻の調子が悪いのだろうか。ティッシュに手をかけては鼻をかんでいた。

 大丈夫かよ、と思いながらも吉良は座席からレジの方へと視線を向ける。パフェやらドリアやらのメニューが並んだ伝票をレジの店員へと渡せば、「二千五百円になります」と少し高めのお値段。そのうち1000円のジャンボパフェはつい先程、佳茄が満面の笑みで完食したものだ。その細い体躯のどこにパフェが収まっているのか、とは思うが――スイーツは別腹と言われるのがオチか。二人に奢るといったのは吉良である上に美味しかったと言われればそれだけで十分なのだが、つくづく女子の胃袋は恐ろしいもののようだ。ふと佳茄の方に視線をやれば、ビッグテールを揺らして満面の笑みを吉良に向けてきた。

 迷子らしかった彼女、硲舎(はざまや)佳茄(かな)と吉良達が出会ったのはつい一時間程前のことだが、どうやら人懐っこい性格の彼女は早速吉良に懐いてくれたらしい。犬みたいだ、という考えがふと脳裏に浮かんだが、それは言わないでおいた。

 そこまで考えて吉良は財布を手に、手持ちからお釣りの無いように支払った。レシートを受け取り、もう一度座席の方を向けばどうやら上条の鼻は一応ながら回復したらしい。鞄を持って丁度こちらへと向かってくる最中だった。

 

 「ようやくくしゃみ地獄から解放された…」

 「よし、それじゃ行くか」

 「しゅっぱーつ!」

 

 吉良と上条に特に用事は無いが、向かう先はセブンスミスト。

 迷子の少女の、そして中学生三人組の目的地である。

 

 


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