ハイスクールD×D 嫉妬の蛇   作:雑魚王

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車の仮免許取れたぜ! あー、試験めっちゃ緊張したぜよ……。合格発表の後も緊張しっぱなしで、その後の講義の教室を間違えちまったくらいですからね!!


5話 水底の吸血鬼

 西棟に突入した部隊が最初に狙った場所は大図書館だった。正確に言えば、大図書館にいる女が標的だ。

 名をエレイン・ツェペシュ。グラナ・レヴィアタンの配下の中でもかなりの古参の女傑、戦闘力は勿論として知略にも優れることからグラナの右腕と看做されることもしばしばある。吸血の多様な能力によって万能とも言えるエレインは、グラナを討伐する上で避けては通れない障害だ。なればこそ、最初の段階で、戦力が潤沢な段階で仕留めようと画策することは戦略的に理に適っている。

 

 そんな思惑の下に魔城を掛ける数十名の悪魔。途上で遭遇するメイドや執事との戦闘のためにいくらかの人員を割きながらも、部隊の大部分は当初の目的通りに突き進む。

 

「見えたぞ、あれがエレイン・ツェペシュの領域――図書館の入り口だ!」

 

 角を曲がり、廊下の突き当りに見える巨大な木製の扉を発見した男が喜悦を滲ませながら叫ぶ。目的がすぐ近くにまで迫ったこともあり彼に続く悪魔たちの歩みは速くなる。

 そして、勢いのままに扉を開け放ち、雪崩れ込んだ彼らの視界を埋め尽くしたのは本、本、本、本。まさにほんの森と呼ぶに相応しい、膨大な書物の数々。右を見ても、左を見ても、前を見ても本棚のみ。上部へと視線を向けると吹き抜け構造となっていることもあり、この図書館が何階層にも及んで構築されていることが見て取れた。上階までもが本で満たされていると仮定するのならば、この図書館に収められている蔵書は優に万を超し、あるいは億に届くことさえあるかもしれない。

 

「やあ、お客人方。歓迎しよう。諸君らも(・・・・)知っていると(・・・・・・)思うが(・・・)、ここの管理を任されているエレイン・ツェペシュだ」

 

 静謐さを讃える本の森に、鈴の音のような美しい声が響く。声の主は、標的たる吸血鬼。その身に纏う、鮮烈なまでの真紅のドレスは、その配色は勿論として造形も見事なことから着る者を非常に選ぶ。それを当然のように気為すというだけでもエレインの美貌と肢体がずば抜けたものだと評する他ない。

 

「――――」

 

 この場には戦いに来た。エレインを殺しに来た。そんなことは重々承知しているにも関わらず、男女の区別なしに襲撃者たちは吸血姫の美しさに見惚れる。

 無論、いつまでも呆けているわけにもいかない。コツ、とエレインの歩みに伴って発せられる、ヒールが床を叩く音によって意識を引き戻された襲撃者たちは、それを皮切りにして戦闘態勢を取る。

 

「総員構えッ! この場で確実に打ち取るぞ!」

 

 応ッ、と返されるいくつもの雄々しい声。立ち昇る気炎。この場に集った者の中で、強敵を前にしたからと言って臆病風に吹かれる者など誰一人として居ない。

 それは、エレインにも同様のことが言えた。

 真正面から熱波の如き戦意を浴びせられても、口元に浮かんだ微笑は微動だにせず、自然体のままの態度は緊張を微塵も感じさせない。

 

「やれやれ、ここは図書館だよ? こういう場では静かにするのがマナーだと知らないのか?」

 

 肩を竦め、どこか揶揄するような言葉に、襲撃者の一人が即座に返す。

 

「逆であろうが。ここは既に戦場。戦士たちが雄々しく叫び、武を奮うことこそが常道であり作法だ」

 

 両者の言葉の違いは、すなわち認識の違い。この場を日常とするか非日常とするか、図書館と看做すか戦場と看做すか。

 襲撃者側はすでに戦端が開かれたものと考えているのに対し、エレインはそんな考えなど露ほども抱いていない。

 

「その愚鈍な思考が命とりとなるぞエレイン・ツェペシュ」

 

「はっ」

 

 麗しの吸血鬼の表情が変わる。口元の歪みはそのままに笑みの形を保っていても、確実に今までの『微笑』とは違っていた。

 塵の分際で何を囀るのか。身の程を知らぬ無知蒙昧、それこそが罪である。遥か高みより見下ろしながら、エレインは『嘲笑』していた。

 

「君たちが私に勝つと? ふふっ、面白い冗談だな。戦士としては駄目だが、道化の才はある」

 

 戦いとはある程度実力が拮抗している者同士の争いのことだ。蟻を踏み潰すことを戦いと呼ぶことは無いし、銃を片手に熊や鹿を仕留めることは戦いではなく狩りと言う。

 故にエレインは戦意を持たない。数十倍の数の悪魔を前にしようとも、それは蟻の群れと変わらなず、それらから戦意や殺意をぶつけられようとも、同じような意思を返そうとは思わない。

 戦力差が大きすぎるから、そもそも戦いが成立しない。これより始まるのは、益荒男たちによる雄々しい戦ではない。居城に踏み入った羽虫どもを一人の女が駆除する、ただの作業だ。

 

「勝てると思ったか? 戦いになると思ったか? 一矢報いることが出来ると思ったか? ——下らない、寝言は寝て言いたまえよ。君らごときが私たちに勝てるはずはないし、まして彼に挑む権利など持ってすらいない」

 

 エレイン・ツェペシュは強い。それこそ、この女一人を足すために旧魔王派は、こうして何十人も動員しているのだ。夜の支配者に個では勝てないから、群れを形成する。納得は出来ない者が多くとも、格の違いなど当の昔に理解していた。

 だが、それでも言われっぱなしでは居られない。この場に来た悪魔たちにも夢や理想があるのだから。遥か高みから見下ろされ、胸に抱いた想いや希望の全てを無価値だと断じられて唯々諾々と従うことなどどうして出来る?

 

「ッ! ふざけ――」

 

 激情と共に返そうとした啖呵は唐突に止まる。身体を支配したのは、吸血鬼の物言いに対する怒りではなく、生命の本能に由来する寒気。背筋に氷柱が刺さったような感覚に全身から噴き出す冷や汗が止まらない。

 少しでも距離を取ることが出来ればどんなに幸福か。けれど、まるで足が動かない。

 目を塞いで、耳を閉じて、呼吸を止めて、外界から己を切り離したい。しかし、その願いはまるで体に反映されなかった。

 彼らに出来ることは歯をガチガチと鳴らすことのみ。蛇に睨まれた蛙のように、悪魔たちは僅かな身動ぎをすることさえ許されない。

 

「ものみさ眠るさ夜中に」

 

 エレインだけが自然体を保ち続ける。その姿はやはり絶世と呼ぶに相応しいものであり、戦場には似つかわしくないほどに美しい。形の整った唇より奏でられる歌は壮麗にして優美。その姿は万人を見惚れさせ、その美声は万人を魅了するだろう。

 

 けれど、それは時と場所が普通だったらの話だ。

 

 現在、彼女が立っている場所は戦場のど真ん中で、周囲の共演者は顔を真っ青にして震えるばかり。BGMとして奏でられているのは、恐怖による歯のぶつかる音だけ。

 そういった背景を加味すれば、齎される印象は正反対となるに違いない。

 

「水底を離るることぞうれしけれ」

 

 失禁する者さえ現れる空間の中で、ただ一人変わらぬ美しさを保つ吸血鬼。その姿は一輪の花の様。他者の生命を喰らって咲き誇る、おぞましくも美しい食人花だ。

 エレインの影がまるで生き物のように蠢き、そこから幾つもの呻き声が聞こえてくる。それはきっと、これまでに彼女に食べられた犠牲者たちの悲鳴。数にして優に数百を超えるだろう、狂奏曲まで加わり、場の悍ましさは加速する。

 

「水のおもてを頭もて、波立て遊ぶぞたのしけれ」

 

 水中に放り込まれたかのように、身動きが難しくなる空間。大気はどろりとした粘性を帯び、背筋を凍らす空寒さまで生じる。

 

「澄める大気をふるわせて、互に高く呼びかわし」

 

 歌が進むたびに、影から発せられる悲鳴は強くなっていく。その根底にあるのは、助けて、助けて、助けて、生きたいという何よりも純朴な願いだ。しかし、聴衆が拒絶しようとも、一方的に語られ続ける無数の呻き声は精神をガリガリと削る不協和音と言う他なく、本来の願いを欠片として見出すことが出来ない。

 

 そもエレインは犠牲者のことをヒトと思っていないのだ。だから、家畜を占める際に豚や牛の上げる悲鳴に取り合う者がいないように、犠牲者の願いを踏み躙りながら、艶やかに軽やかに歌を紡いでいくことが出来る。

 

「緑なす濡れ髪うちふるい」

 

 ボコボコボコボコボコッ! 影の動きが激しくなり、いくつもの気泡が上がる。それに伴い、影から聞こえる悲鳴の"色"も変わっていく。助けて、助けて、助けてと自身が生きたいという被害者の祈りが歪んでいく。

 

 ―—何故私が、僕が、こんな目に遭わなければいけないのか。

 

 理不尽に遭えば、誰もが抱くであろう当たり前の文句。けれど、殺され食われ、同じように貪られた者たちと何年も逃れることの出来ぬ牢獄に繋がれ続けた結果、文句とは間違っても言えない呪詛と化す。

 

 ——私が、僕がこんな目に遭っているのに、どうしてお前たちは生きている? なぜ自分の足で立っている、口で呼吸している!? 私たちは己の体さえ失って、今やただの奴隷となっているのに!?

 

 羨ましく、恨めしく、疎ましい。故に憎むのだ。エレイン・ツェペシュという名の釜の中で、ぐつぐつと掻き混ぜられ醸造された犠牲者たちの魂。

 肉体を失い、ただの怨念と化した彼らの現状は、恨みという形に純化されたとも言える。足は無く、腕もなく、目も鼻もない。彼らに残されたものは怨念のみ。

 

「乾かし遊ぶぞたのしけれ!」

 

 麗しの吸血鬼の影が幾つもの柱となって屹立し、更にその形を無数の魔獣へと変えて顕現する。その数、勢いは波濤と称するに相応しく、あっという間に周囲を埋め尽くしてしまった。

 左右対称の肉体を持つものは一体としておらず、瞳は歪んだ光を宿し、手足の長さや形さえも不揃いだ。白痴か何かのように開けっ放しとなった口腔からは常に涎が零れている。これほどに悍ましく、醜い生命は存在しないと稚児でも断言出来る、汚泥の魔獣。その名は―――

 

拷問城の食人形(チェイテ・ハンガリア・ナハツェーラー)!」

 

 生命を冒涜するかのようなその姿を目視しただけで、幾人もの戦士たちが発狂した。

 ある者はケタケタと笑い出しながら股を濡らす。誇り高い戦士だったかつての姿が嘘だったかのように、その場に膝を付いて糞便を垂れ流した。

 ある者は、自身の頭を何度も何度も床に叩き付ける。額が割れようとも、周囲の制止を振り切って、頭蓋が完全に砕けるまで床への頭突きを繰り返した。

 ある者は、喉が裂けて血を吐いても尚叫び続けた。血反吐をぶち撒け、それでも尚足りぬとばかりに一層増す声量。更には、爪が剥がれることを厭わずに己の胸を掻き毟る。十指の爪が剥がれる痛みにも頓着しない。爪が剥がれるほどの力で引っ掻き続けるのだから、当然のように胸にもいくつもの傷が出来、血が滲んで服を朱に染める。

 ある者は自身の眼球を抉り出し、眼孔に指を突っ込んでがりがりと骨を削り、終いには己の脳髄まで引っかき回して顔面の二つの穴から撒き散らす。

 

「誰一人として生きて帰すものか。滅尽滅相、この場で死に絶えるがいい」

 

 発狂出来た者は、それが救いだったのかもしれない。精神の均衡を保ってしまえば、汚泥の魔獣に吐き気を催すような殺意を向けられながら、貪り食われる末路を真っ当に認識してしまうのだから。

 悪魔たちの下へと汚泥の魔獣が津波の如く押し寄せる。最初に犠牲になったのは正気を失ってしまった気狂いたち。逃走という考えそのものを捨て去った彼らは、笑いながら獣の抱擁を受け入れ呑まれていった。

 

 それを正気のまま眺めることとなった者たちにとっては、まさしく吐き気を催す光景と言う他あるまい。平衡感覚が曖昧となり、現実と夢の境さえ分からなくなる。戦意など欠片も残らずに消え去った。

 かろうじて精神の均衡を保つことが出来ていた者の大半がその場で何度も嘔吐を繰り返すことで、漸くこれ(・・)が現実なのだと理解する。

 そして理解の次にやってくるのは恐怖だ。僅か一歩踏み出すだけで狂人になってしまう、何をせずとも魔獣に貪り食われる未来が待っている。そのことを認識してしてしまえば、如何に超常の存在たる悪魔であっても怯えずにはいられない。

 

「きゃあああああああああああ!」

 

 生きたまま、手足を貪られる。裂けた腹部から零れた内臓が汚い脚で踏み潰される。いくら悲鳴を上げようとも、魔獣が手心を加えることは決してない。

 過去の犠牲者たちが仲間を欲して、今を生きる者らを自分たちの下に招くために足を引く。エレイン・ツェペシュの体の中で、その力の源として消費されるだけの存在へと引き摺り落とす。

 それは生命の冒涜であり凌辱だ。

 想像し得る"最悪"。汚泥の魔獣に蹂躙されることはその遥か上を行った。 

 

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だァッ! こんな終わり方絶対に認めない!」

 

 戦場に出ると言うことは、誰かを殺すということであり、同時に誰かに殺され得るということ。互いの命をベットし、武勲や褒賞を望むのが戦だ。

 戦闘員たる彼らは、現場の者であるが故に、戦場と戦いの性質についても良く理解していた。けれど、最低最悪の死に方をした挙句、肉体さえ失いただの燃料とされるような末路を一体誰が予想出来るのか。

 

「こんな死に方、あんまり(・・・・)だろう!?」

 

 恐怖によって縛られていた体が自由を取り戻す。恐怖を克服したのではなく、むしろその逆、キャパシティオーバーしただけなのだが、限界以上に追い込まれたが故に、今の彼らは限界以上の力を発揮することが出来ると言う意味では僥倖だ。

 

 しかし、芽生えた幸運が実を結ぶことを敵が許すはずもない。

 

 エレインはその場から動かず、魔獣を操り続ける。恐慌状態に陥った襲撃者たちに、その何十倍もの数の魔獣をけしかけ、片っ端から喰らっていく。更には万に一つの逃走を許さぬようにと、本棚を盾にして襲撃者たちの視覚から逃れた別動隊を図書館の出入り口へと向かわせて逃走経路を潰す。最後に、億に一つの逆転の目を潰すために己と襲撃者との間に魔獣を大量に配置し、即席の壁とした。

 

 結果、大図書館ヴィンダー・カンマーを舞台に、蹂躙劇の幕が上がる。狂人の笑い声、女の悲鳴、男の命乞いが幾重にも反響して重なり合う。骨肉が撒き散らされ、血飛沫が舞い、足元の感触は床を叩く硬質なものからあっという間に変質してしまった。

 断末魔が聴覚を、最後の姿が視覚を、残り香が嗅覚を、屍が触覚を、大気に混じった死が味覚を、刺激し、満たす。どこを向こうと、どこに行こうと、決して狂気の舞台から降りることは出来ない。そのことを理解した者から、自らの正気を手放し堕ちていく。

 

「――私はね、君たちのことが気に入らないんだ」

 

 唐突に、この惨劇を築き上げる吸血鬼が呟いた。躊躇なくこれだけの虐殺を行うような女が、返答を期待していないのは言わずがな。事実として、エレインの瞳は悪魔たちの一人さえ見ることなく、虚空に向けられ、その思いはここではないどこかにある。

 

「襲ってくることは煩わしい。けれど、主張の違いがあれば争いが生まれるし、歩む道と目的の違う君たちと衝突することは仕方ないのだと諦めることは出来る。

 だから、この想いは完全な私情だ。派閥同士の争いから生じる敵意ではなく、私一個人が納得いかないということ。―――なぜ、君たちのような屑が私の上に立つ?」

 

 自身の生まれは最低なものだと理解している。それはつまり、自分以外の誰もが、自分よりは上にいるということに他ならない。上位者が、その立場に相応しい人格や実力を有しているのならば、格が違うのだと納得できるし、目標として精進の糧にもなる。

 

 しかし、世の全ての者が、己の立場に相応しいかと問われれば違うはずだ。

 

 親から継いだ地位や権力に溺れるばかりの無能。生まれ持った才能に頼るだけで、努力の一切をしない怠け者。家名や血筋を誇るだけで、個人として自慢できる点を持たぬ七光り。

 そんな屑が一定数いることは、いつの時代でも変わらない事実だろう。そして、そんな者たちでさえ、自身より上の椅子に座っている。

 

「到底許容できるものではない。認められるものか。ああ、ふざけるなよ。

 私は、天上の星に到りたいと願う身の程知らずの愚か者だ。しかし塵屑に劣るほど価値がないと言われて受け入れる軟弱者ではない」

 

 かつて(グラナ)と並ぶために、夜を支配する略奪者となることを決意した。けれど、他者から全てを吸い取り再誕し続ける不死鳥になった程度で、星に追いつけるとは思っていない。星の輝きはそれほどに尊く、見果てぬほどに遠いのだ。

 だからこそ、恋い焦がれる。近づいてしまえば、作り物の翼など溶かされ焼き尽くされてしまうかもしれない。それでも近づきたいから何度でも蘇る、夜の不死鳥となったのだ。

 

 しかし、不死鳥となっただけでは届かないということには変わらないし、届きたいと願う想いが色褪せることもない。

 だから踏み台を作る。階段を用意する。そうすれば、より高く飛べるし、高く跳べる。幼子でも理解できる、至極単純な理屈だ。

 

「私は私よりも上にいる者らの足を引き、その椅子から引きずり落とす。そして、踏み台とする。

 光栄だろう? 塵屑の分際で、天に到るための(きざはし)の一つとなれるのだから。泣いて礼を言い給えよ」

 

 返答の声は一つとして無い。襲撃者として、勝利を信じてこの場にやって来た者の中で、そんな余裕を未だに保っている者など皆無だ。

 彼らは一様に食われることを待つばかりの獲物。口から洩れるのは現実逃避のための文句か、命を燃やし尽くすかのような断末魔のみ。汚泥の魔獣に迫られ、その影を踏んでしまった瞬間から逃れることさえ許されなかった。

 

「逃げることは出来ないだろう? 食人形(ナハツェーラー)の影を踏んだ者はその動きを縛られるからねぇ。存分に己が身を食われる感覚を味わうといいさ」

 

 上位に居る屑を引き摺り落とし、踏み台とする。踏み台には意思はいらないし、ましてや動くことなどあってはならない。道具は道具としての機能だけを備えていれば良い。

 下位であることを理解しながらも、徹底的なまでに上位者を見下し、その尊厳の全てにつばを吐き捨て冒涜し、奪い去ることに躊躇いはない。己が水底に沈む身であることを自覚するが故に、水底の吸血鬼は苛烈に過ぎる叛逆精神を宿していた。

 

 

 




名称:拷問城の食人形(チェイテ・ハンガリア・ナハツェーラー)
出典:Dies irae
原典使用者:ルサルカ・シュヴェーゲリン=マレウス・マレフィカルム
本作使用者:エレイン・ツェペシュ
効果:大量の魔獣を生み出す。この魔獣の影を踏んだ者の動きは拘束され、魔力や魔術の行使まで危うくなる。

足引きババアの聖遺物はカーミラ婦人の物で、DD時空においてはかの婦人は吸血鬼だったようですから、この能力を吸血鬼のものと解釈してもオッケーですよね?
たぶん、この足引きの拘束能力って霊的なものにも作用すると思うのです。大本のエイヴィヒカイトが魔術ですし、霊的な部分まで拘束できなければザミエルのような遠距離タイプ相手には無力すぎる……流石にそれは足引きババアが不憫すぎますからね。

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