ハイスクールD×D 嫉妬の蛇   作:雑魚王

39 / 47
 魔王でさえ踏み入ることを躊躇する魔境に聳え立つ白亜の巨城。
 難攻不落の魔城を落とさんと侵入したとき、その実態が明らかとなり、黄金の修羅が真価を見せる。
 在りし日の幸福を思い出した堕天使の時計が動き出し、かつての少年と再会(・・)する。
 彼らが抱くのは感動か、悔恨か、あるいは愛情か――――

 ハイスクールD×D 嫉妬の蛇 第四章難攻不落魔城 イモータル ~追憶の堕天使~



第四章 難攻不落魔城 イモータル ~追憶の堕天使~
1話 魔性の女と平凡堕天使


 

「はぁ~、疲れた………。マジで何なんだよ、あの命令。意味分からんっつーか、もっと現場のことも考えてくれって言いたいぜ」

 

 頭を掻きながらため息交じりにぼやく男の名はギルバート・アルケンシュタイン。旧魔王派に属する上級悪魔の一人で、現場指揮官のような役割を任されている。

 現場の指揮の仕事は本来、中級悪魔の仕事である。上級悪魔は、その現場の指揮官に指示を与える存在だ。つまるところ、上級悪魔でありながら、中級悪魔の仕事を押し付けられているギルバートの株は非常に低く、周囲から軽んじられていることの証左だった。

 

「何か良いことないとやってられねえ……」

 

 しかし、彼は決して落ちこぼれという訳ではない。むしろその反対。かなり優秀な部類に入る。

 天才、と呼ぶには足りないものの、頭の回転はかなり早く、更には先入観を持たずに物事に当たることも出来る。上級の生まれでありながら中級・下級の悪魔を見下すこともなく、気配り出来るために部下からの信頼も篤い。駄目押しとばかりに戦闘能力も非常に高く、ピンキリとは言え最上級悪魔の下位ほどの実力まで持っている。

 一つの分野で突出した天才ではないが、いくつもの方面で高い能力を発揮する得難い秀才。それがギルバート・アルケンシュタインという男だ。

 

 そんな彼が周囲から―――より正確には彼と同等以上の位を持つ悪魔から―――軽んじられている理由は様々だ。

 第一に、身分を振りかざすことのないギルバートを、上級悪魔は「誇りが無い」と侮蔑する。ギルバートからすれば、しっかりとした信頼関係と上下関係を築くことが肝要であり、無駄に威張っても組織に軋轢を生むばかりだと思うのだが、そのことに理解を示す者は少ない。

 第二に、頭の回転がいくら早くとも、その意見を同格以上の悪魔が聞き入れてくれないために成果を上げることが出来ないでいる。彼らからすれば、ギルバートのような変わり者の意見など聞く価値もないということだ。実際にそう一笑に付された経験がある。

 第三に、ギルバートの考え、思想が異端ということがある。派閥内の大半の悪魔は、『真』魔王派を自称し現魔王政権に批判的だが、ギルバートはその真逆。自分たちは敗者だと達観し、派閥の考えも旧時代的――――故に『旧』魔王派と呼ばれることに、呼ぶことに違和感を抱いたことさえない。

 第四に、これはギルバートの自業自得とも言えるものだが、自身の実力を隠している。普段から魔力を抑え込み、争いを徹底して避けることで本来の実力より遥か下だと思わせているのだ。周囲に腰抜けだと鼻で笑われても、テキトウにやり過ごし続けて来た彼には、それを続けるだけの大きな理由がある。

 

 その理由がなければ、とっくに本来の実力を解放し、今よりも上の地位に着いていたはず。地位や名声を諦めてまで貫くほどの重みを、彼はその理由に感じていた。

 

 ずばり、恋である。

 

 彼が指揮する部隊の一員の女悪魔に、ギルバートは惚れていたのだ。十年前に出会った時から、一切薄れることがなく日に日に増していくばかりの純情である。

 彼は、惚れた女と密接に関わり続けるために出世の可能性を放り捨て、直属の上司と部下の関係に拘ったのだ。

 

 

「――――おっ、あれは」

 

 つい数秒前まで眉間に深い谷間を作っていた男の声とは思えない、喜色に富んだ声が漏れる。視線の先に居るのは、絶賛片思い中の美女だ。

 この場所は旧魔王派が人間界に保有する拠点の一つ、プライドの高い上級の悪魔が暮らせるようにと僻地にあるにも関わらずかなり豪勢な造りとなっている。中庭は噴水や花壇の並ぶ庭園となっており、そこに設置されたベンチで読書をする女の姿は芸術的でさえあった。

 雲の切れ間より差し込む日の光はさながらスポットライトのように女を照らし、生き生きと花弁を開く花々が女の魅力を更に高める。噴水の水がきらきらと陽光を反射して煌めき、花々の間を飛ぶ蝶々が女の下へと向かって行く姿にはどうしようもなく目を引かれる。

 

 すぐさま駆け寄りたい衝動に襲われるが、それは傍目から見て非常に格好が悪い。恋愛初心者の子どもと同レベルの真似など出来るはずもない。そんなことはギルバート自身のプライドが許さないし、成人女性に好かれると到底思えないからだ。

 浮足立つ精神を必死に制御し、『余裕のある男』を演出しゆっくりと近寄る。相手が異性ということに気を配り、面と向かって話すには少し遠い程度の距離で足を止めてから声を掛けた。

 

「レベッカ、一体何の本を読んでいるんだ?」

 

 レベッカ・アプライトムーン。それが中級悪魔の出身でありながらも、秀才の心を捕えて離さない女の名前だ。

 レベッカは本に向けていた顔を上げて、ギルバートへと目を寄越す。視線を交えただけでもドキリ、と胸の鼓動が高鳴るのだから男とは単純なもので、恋の病とは本当に厄介だ。 

 レベッカの容姿は、『包容力のある女性』とでも言えばいいのだろうか。

 長い桃色の髪をシニョンにして纏め、露となった(うなじ)から大人の色香が放出されている。眼鏡の奥に覗く、垂れ目がちな双眸と泣き黒子が母性にも似たものを感じさせ、更にはスタイルも大胆の一言。露出度の少ないゆったりとした服の上からでも分かる胸の大きな膨らみ、折れそうな程に細く括れた腰、そして旨と同じく大胆にも肉の付いた臀部。

 蠱惑的な肢体に、男であれば誰であっても情欲を覚えてしまうことは間違いなく、そして母性的な雰囲気が背徳的な喜悦を齎す。

 一度魅了されてしまったら抜け出すことの出来ない魔性の美だ。

 現にギルバートが知る限りでも、レベッカに魅了された男悪魔の数はかなりのもの。恋に落ちたギルバートもその一人であり、彼女への想いは増すばかり。

 性質(タチ)の悪い麻薬に引っかかった中毒者のような有様だが、本人たちは自覚した後もレベッカという女から離れることが出来ないのだから尚更性質(タチ)が悪い。

 

「前から読んでるシリーズ物の小説。今月に新刊が出たことを機に読み直してるの」

 

 余程その小説が気に入っているのだろう、楽し気に愛おし気にレベッカは小説へと視線を落とす。その僅かな動作にも色気が漂い見惚れてしまうギルバートを余所に、レベッカは小説をパタンと閉じた。

 ヒトと話すときに本を開いていては失礼。僅かな気遣いであっても、それが惚れた女からのものだとすれば嬉しいことこの上ない。

 ギルバートは内心では小躍りしつつ、しかし表情に出すことは無く会話を続けていく。

 

「その本にも興味がないわけじゃないが……、ちっと伝えたいことがあってな」

 

 ん? と首を傾げて疑問を露にするレベッカ。その一動作に鼻血を吹き出しそうになるギルバート。

 

「グラナ・レヴィアタンの拠点への襲撃日が決まった。突入部隊はいくつかあるが、そのうちの一つ俺たちの部隊だ。………どうせならもっと早い段階で教えてくれりゃあ準備も色々と出来たってのに、って文句は無しだぜ? 俺ら以外の部隊の連中も多かれ少なかれ思っていても、黙って上に従ってんだからな」

 

「そう。まあ、文句は言わないわよ。これまでの活動で上層部がそういうものだってことくらい理解しているんだから。

 上の目的はグラナ・レヴィアタンの抹殺。本拠地への襲撃にいくつもの部隊を動かすってことは今回ばかりは本気の本気ってわけね」

 

 旧魔王派がグラナ・レヴィアタンへと向ける敵意はかなり大きい。しかし、そのことにギルバートは疑問を抱いている。

 元々、グラナの出生は旧魔王派全体が祝福していたもので、成長具合にも一喜一憂していたというのが初めの頃の話だ。だが、いつの頃からかグラナの情報が市井に流されることは無くなり、数年後に久々に流されたかと思えば旧魔王派を裏切り脱走したという。

 不自然で、違和感があり、怪しい経緯だ。

 それに、派閥のトップたちが連日グラナのことを「我らを裏切った愚か者」として糾弾し続けていた点も不可解だ。連日、そのテの言葉を発し続ける姿には奇妙な必死さ(・・・)があった。まるで、そうでなければらならない、そう思い込ませたい、そういった狙いがあるかのように。

 

 実際のところ、トップたちの言葉に疑念を覚えた者はギルバートだけではないだろう。しかし、上司に問い質した者はいない。当然と言えば当然の話で、隠された真相があるのなら『真相を隠したい理由』もあるはずで、それが上層部にとって都合の悪いものだと推測出来たからだ。

 わざわざ藪をつついて蛇を出したくもないし、猫のように好奇心に殺されたいと願う者もいない。

 小狡い、小賢しいと言われようともそれが処世術というものだ。

 

 対して、トップたちの言葉に疑念を覚えなかった者たちは、単純にグラナに興味がなかったのだと思われる。誕生した当初はそれこそ毎日祝福していたものでも、数年間に渡り情報が遮断されていたのだ。過ぎ去る年月の中で興味が摩耗するのも無理はなく、それ故にトップたちの言葉をすんなりと受け入れてしまったのだろう。

 

「ああ、奴さんのところにいるスパイに内部への道を用意させて急襲するそうだ。戦闘員三百名以上を動員した大規模作戦だよ」

 

「へえ、三百名も動かすなんて随分と剛毅なことね」

 

 たった一人の悪魔の首を取るためだけに、百を超える人員を動かすなど異例なことだ。グラナは何人もの配下を従えているとは言っても、年若い二十前後の悪魔に付き従う配下の数など高が知れる。にも関わらず、これだけの人員を動かす理由などただ一つ。

 

「まあ、上の連中もビビってんだろうさ。いくら罵倒しようと、内心では相手の力を認めてる」

 

 グラナ・レヴィアタンは最も嫉妬の蛇(レヴィアタン)()を濃く継いだ男だ。そしてその力を、何度も旧魔王派の刺客を退けると言う形で証明もしている。

 旧魔王を信奉する派閥であるからこそ、旧魔王の力を振るう男の脅威を認めざるを得ない。

 

「そう、ね。先日の会談襲撃を率いたカテレア様も、グラナ・レヴィアタンに殺されてしまったらしいし……。はぁ、憂鬱ね。そんな強い相手に私たちみたいな下っ端が勝てるのかしら」

 

「やるしかないだろ、それが上からのお達しなんだからな。俺たち下っ端はそれに従うのみだ」

 

 ただ勝算はかなり低いとギルバートは見ている。スパイから情報を得ているだとか、奇襲を掛けるのだとか、人数はこちらが上だとかで盛り上がっている連中もいるようだが、余裕を通り越して油断に至っている者が多すぎるのだ。戦う前からこれでは、勝てるものも勝てない。

 

 ――――いざとなれば全力を出すか。

 

 最上級悪魔クラスの実力を秘めていると判明してしまえば面倒事は避けられないが、背に腹は代えられない。死んでしまっては元も子もないのである。

 それに今回の作戦では、その死地に想い人のレベッカまで向かうこととなる。彼女を生き残らせるためならば、いかなる代償を払う覚悟もとうの昔に済ませていた。

 その決意が気配や表情にも出ていたのだろう、レベッカは小首を傾げて尋ねてくる。

 

「どうかしたの? いつもと雰囲気が違うみたいだけど」

 

「……いんや、何でもない。ただちょいとばかし大事なものを再確認しただけだ。気にするな」

 

「ふぅん、あなたがそう言うのならそれで良いけれど」

 

 その顔には若干の疑問の念が残っていたが、レベッカは信用の下に取り下げた。

 そのことに有難いと感じる。

 好きなヒトには余計な心配を掛けたくないのだ。常に笑顔で居て欲しいと願ってしまう。

 馬鹿な男の馬鹿な意地だと余人は笑うだろうけれど、しかしそれを譲ることが出来ないのが男という馬鹿な生き物だ。

 馬鹿な考え、馬鹿な生き方だと自覚している。だが、そのことに躊躇はないし、後悔を抱くこともないだろう。

 

 ―――――――なぜならば、この想いに偽りなど欠片もないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイナーレ。元神の子を見張るもの(グリゴリ)の構成員、現在では悪魔に転生し、グラナ・レヴィアタンの眷属となった女だ。

 とある事件の折、あわやグレモリー眷属に抹殺される寸前で助けられ、眷属入りしたはいいものの、それからの日々は中々に辛いものがあった。眷属仲間との模擬戦では一方的に敗北し、影の国の女王に師事してからは死亡一歩手前の鬼畜な修行に身を投じる羽目になったのだ。それらの経験が身になったことは事実だが、辛く厳しかったという事実に変わりはない。

 

 そして今日、遂にレイナーレは影の国の女王から解放された。

 レイナーレが成長し、免許皆伝を認められたというわけではない。というか、戦女神からそう簡単に認められるほどに才能に溢れているのであれば、これまでの生涯で苦労することもなく、中級堕天使という半端な地位に燻ぶってもいなかっただろう。

 修行終了を認められた理由は、期限が終了したからだ。冥界の八月には若手悪魔が眷属を連れて集結するイベントがあり、元々それまでの期間がレイナーレに設けられた修行の期間だったのだ。

 

『ちっ、こんな半端なところで終わることになるとはな。………お前のような半人前に我が弟子を名乗られては不愉快だ。時間があるときにまたここへ来い、特別に稽古を付けてやろう』

 

 これが眉間に皺を寄せながら、影の国の女王が告げた別れ文句だ。初見であれば、うっかり殺意でも抱かれているのではと思う程に不機嫌そうなオーラを垂れ流しながら、槍をクルクルと手の中で弄ぶ戦女神の姿はちょっとしたホラーである。

 とは言え、よくよく話の内容―――特に後半部分―――を咀嚼してみると、そう悪いものでもないと理解できる。ただし、もう少し言い方というものがあるだろうとはレイナーレは内心で突っ込んだ。口に出さないのは、女王には暴君気質があり「口答えをするな」と投槍を食らいかねなかったためだ。ツンデレ乙とか言った日には、凄惨かつ悲惨かつ無残な死体が一つ生まれるに違いない。

 

 就寝中にどこかから槍が降ってくるとか、食事に毒が盛られているとか、女神の魔術により夢野中でさえも戦闘訓練をすることになったりとか、色々とあったもののレイナーレ自身、それらが己の糧となったことを自覚している。

 当時は散々恨み言を吐いたし、現在でもアレはないだろうとは本気で思っているが、凡才の己をここまで伸ばしてくれたことには感謝してもしきれない。

 結構な恐怖と畏怖の念を向けてはいても、修行を付けてくれた恩を忘れることはなく、女王に礼を言ってから影の国を脱したレイナーレは、魔城イモータルへと帰参した、というのがつい数時間前の出来事である。

 

「はぁ~、これからどうしよう………」

 

 レイナーレが悪魔になった経緯は成り行きだ。それ以外に生き残ることの出来る道が無かったから選択したに過ぎず、『悪魔として何を為したいか』が全く定まっていない。悪魔の悠久とも言える長い生を目的もなく惰性のままに過ごすというのはただの拷問だ。

 生きる屍になるのは御免、ならば夢なり目標なりを見つけたいところ。レイナーレがそう考えるには然程の時間もいらなかった。

 

「でも、その夢や目標を決めるための材料がないし」

 

 悪魔の子どもは、レーティング・ゲームの選手になることや上級悪魔へと昇進することを志す者も多いらしい。しかし、レイナーレはそれらの職業と階級についてほとんど知らない。精々が、レーティング・ゲームのトップランカーはかなりの実力者で、上級悪魔は貴族階級だと認識している程度である。それらについての苦労や魅力についても把握できない、こんなあやふやな知識で将来を決めるなぞ愚の骨頂としか言い様がない。

 

 しかし、この将来の目標が無いことについてはそれほど問題ではないのだ。

 なぜなら悪魔の生は長いのだから。悪魔の生が長いから夢も目標もなしに生きるのは辛いという考えと矛盾するようだが、よくよく考えてみると矛盾などしない。

 『将来の夢や目標を見つけること』。それを直近の目標として掲げてしまえばいいだけだ。

 十年でも二十年でも、主や仲間とともに過ごす中で探していけばいい。夢を見つけるためだけに数十年の歳月を捧げることが出来るのも、悠久の時を生きる種族であるが故だ。 であるならば、将来の夢や目標が無い程度で恐れを抱くはずもない。

 

 レイナーレが本当に悩んでいることは全くの別物。将来のことに関して思案していたのは、本当の悩みから目を逸らすための大義名分―――時間稼ぎのようなものだった。

 

「……………あのこと、どうやって訊けばいいの……?」

 

 ――――グラナはどうしてただの中級堕天使でしかないレイナーレに気を遣ってくれるのか。

 

 その疑問は前々から抱いていた。声や視線に籠もった温かな愛情と慈しみの念、それらの根源はどこにあるのかを知りたい。

 影の国では修行の他にやることもなかったために、空き時間には色々と思索に耽り、その疑問もグラナ本人に問い質してやろうと一応の結論を出すまでに至った。

 

 しかし、いざ影の国より帰参し、いつでもグラナへと疑問を投げかけることの出来る状況になってみると、新たな問題が生まれたのである。いや、正確には気づいたと言うべきか。

 

 ―――――訊き方が分かんない。

 

 前述しておくが、レイナーレは決してコミュニケーションを苦手としているわけではない。仮にも少数とは言え部下を率いる立場にあった経験から、平均以上の意思疎通能力を有している。

 訊き方が分からないというのは、質問の形式に迷っているという意味だ。これまでに思いついたものをいくつか例として挙げてみる。

 

 ――――どうしてあなたは私にあんな熱い視線を送ってるの?

 

「どこの自意識過剰女よ。とりあえず死ね」

 

 ――――どうしてあなたはそんなに私に構ってくれるの?

 

「だから自意識過剰はいらないって!」

 

 ――――ねえ、もしかして私たちって以前にも会ったことある?

 

「どこのナンパ野郎よ!?」

 

 と、このようにどの質問形式にも問題があり、実行に移すには気恥ずかしい。(弱い)百を数えてもその心は純情乙女、人並の羞恥心程度は持ち合わせているのだ。

 結果、レイナーレは城に戻ってから数時間経った現在に至るまで、自室のベッドの上で悩み、悶え苦しんでいた。むむむむ、と唸り続けるレイナーレだが、部屋の扉をノックする音を聞いて思考を一時中断する。

 

「んん、誰? 今、ちょっと考え事で忙しいんだけど」

 

「私だ、エレインだよ」

 

 扉を開いて入室した者は、吸血鬼の御令嬢。その美貌に陰りはなく、以前と変わらぬ絶世の美女ぶりだ。

 以前との違いと言えば、髪型くらいなものか。影の国にレイナーレが向かう以前のエレインは金色の長髪を三つ編みにして肩から垂らしていたが、現在の彼女の髪は結ぶことのないストレート。

 髪型を変えた理由を訊いてみると、結ぶのが面倒になったのだとか。ちなみに、髪型を『変えた』のではなく、『戻した』というのが正確なところであり、元々エレインの髪型はストレートだったらしい。三つ編みは一時のお洒落だったようだ。

 

「何か用?」

 

「いや、君が城に戻ってきたときに伝えただろう。今日は若手悪魔の集まりがあり、そこには眷属も連れられて行くと。

 まさかその話の後に聞いた、私の髪型云々の話のせいで忘れていたわけではあるまい?」

 

「それこそまさかよ。ちゃんと覚えてるから心配しなくていいって」

 

「出立の時間まであと十分もないが?」

 

「…………ぅえ?」

 

 ドタバタとベッドの上で焦り、時計の下にまで向かおうとするもシーツが滑り、敢え無くベッドより転落。硬質な床と熱烈なキスを交わす独身堕天使。

 割と本気の涙目になりながらもすぐさま立ち上がり、小型の時計を手に取り時刻を確認するとエレインの言葉が嘘ではないことが分かった。

 

 どうやら悩みことに集中していたせいで時間の経過に気付かなかったようだ。

 

 表情の消え失せたレイナーレの脳裏にはいくつもの絶望が渦を巻いている。

 公的な場に着ていくに相応しいだけの服が用意されていたか怪しい。ずっとベッドで蹲っていたせいかボサボサになってしまった髪に櫛を通したいが、その時間が無い。影の国を出る直前まで修行を行っていたので、若干以上に汗臭い。考え事があるからとシャワーを後回しにしたのは完全な失策だったと言う他ない。

 

 ――――え? 時間ないってことはもうこのままで行くしかないってこと……?

 

 汗臭い体を女子力の低そうな服で覆い、女の拘りとも言える髪はボサボサで艶もない。そんな状態で重要な場に出席する? 傍目から見て、完全に『女』として死んでいるではないか。

 

 その日、とある堕天使の悲鳴が城に響き渡ったのだという。

 

 




 ちょくちょく旧魔王派にはオリキャラが登場するなぁ……グラナとの争いのための伏線として仕方ないのだけれど、あまり数が増えすぎるとアレだし……。
 名前を出さないでいると会話パートで苦労しそうだけど、あまり名前を出し過ぎても覚えるのが面倒かつややこしいという二律背反。………悩むなぁ。

 まあ、それはさておき……本日登場のオリキャラ、ギルバート・アルケンシュタインは普通に優秀な男です。派閥全てが愚者と馬鹿というのはちっとあり得ないので、旧魔王派の中にもこういう優秀なのがいるよーって感じですね。
 戦闘力は……初登場時の黒歌くらいですかね、たぶん。知性はソーナと同レベルだけど経験の補正込みでソーナを上回るくらい。外見は普通にイケメン、と。………ぱねえな、こいつ。完全に勝ち組じゃねえか。

 レベッカ・アプライトムーン。超エロい女性ですね。男子中学生が考えた様な、全てのエロを結集したような美人だと思って下さって結構。
 尚外見は超絶エロだけど、内面までそうかは知らん。ってか、外面と内面がエロの塊ってどこの魔性菩薩?

 レイナーレ。皆さん大好きレイナーレ。
 章のタイトルからお気づきでしょうが、レイナーレさんはこの章における重要なポジションですね。ヒロインの輝きを見せつけろ!
 彼女がどんな活躍をするのか、乞うご期待!


 そして本作の主人公ことグラナ・レヴィアタン。
 この章では、彼の強さの一端が明かされる…………はず! 俺tueeeeeeeeeeタグの本領発揮ですな。最強ぶりが上手く伝わるように、描写を頑張りたい!






▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。