うざさこそがメルクリウス。メルクリウスこそがウザさだと思いますがね、ウザくないメルクリウスなんてメルクリウスではないと思いますがね、それでも言いたかった……!!
最強のエクソシスト、デュリオ・ジェズアルドの保有する神器は神滅具の一つにも数えられる『
その能力を上手く使い、今回の下手人と疑われるグラナを凍らせていく。足元から徐々に凍らされ、体が動かなくなっていくのはかなりの恐怖であろうに、まるで抵抗することなく自然体であり続ける男へ、デュリオは軽く手を挙げて謝意を示す。
「いやーごめんね。流石に何もしないってわけにはいかないよね」
「はぁ、まあ疑う気持ちは分かるから捕まってやるがな……。それ以上のことをやったらマジで許さんからな」
ちらり、とグラナが流し目を送った先には、彼の腹心とも言えるエレインがいる。ただし、すでに氷の棺に閉じ込められているのだが。
グラナの言いたいことが、彼と何度も戦ったことのあるデュリオには良く分かった。封印以上の真似を、具体的にはエレインを傷つけるような真似をするのなら殺す、要はそういうことだ。
「わーかってるって。容疑が晴れれば、ちゃんと解凍するし、後遺症も残らないから安心してよ」
「あと、一つ訊きたいんだが、俺の冤罪が晴れた際の賠償金の請求ってどこにやればいいんだ?」
「う~ん、それはちょっと答えかねるなぁ」
下手に答えた挙句、封印を行ったデュリオ当人に請求が来たら、正直困る。グラナの性格的に、大義名分が立つ状況であれば遠慮などするはずもないからだ。冤罪が証明されたとなれば、これ幸いとばかりに目玉が飛び出るような金額を吹っ掛けてくるに違いない。
「じゃあ、とりあえず三大勢力のトップに請求書を叩き付けてやるかぁ」
それがグラナ・レヴィアタンの最後の言葉だった。最初から最後まで決して己のペースを崩すことのない悪魔であったが、全身を凍り付かされた今となっては流石に動きを止めている。
教会の誇る最強のエクソシスト、デュリオ・ジェズアルドをして決して勝てないと思わせた男の幕切れにしては、拍子抜けしてしまう程にに呆気ない。
しかし、終わりとは元来そういうものであるのかもしれない。世界中で毎日多くの人々が死んでいるが、その大半の終わりは実に呆気ないものだ。グラナ・レヴィアタンの終わりも、それらとは変わらないということなのだろう。
第一部、完ッッ!
――となることもなく、物語は、この世界は動き続ける。
この場に集った面々の中で時間停止を免れた者たちは、氷に覆われた悪魔と吸血鬼の主従を前にして疑惑についての意見を語り合う。
「で、実際のところどう思うよ?」
「私は正直、怪しいと思います。彼が過去に起こした事件などを考えれば、裏切りを企てることに躊躇するような性格ではないことは明白です」
アザゼルの問いに、ミカエルは黒だと返答しながらも、しかし疑問があるのだと続けた。
「仮に彼がこの件における下手人だとするのなら、抵抗せずに捕まることを選ぶでしょうか?」
「常識的に考えればあり得ねえな。まあ、そうして俺たちを油断させる作戦って線もあるかもだが………しかし、わざわざ過去の事件について隠し立てせずに話し、俺たちを相手にあれだけの啖呵を切った男がそんなショボい真似するかっつう疑問が出てくるな」
と、アザゼルは次に視線を魔王の二人へと移す。
「私の知る彼ならば、言い訳だとか誤魔化しを用いることなどせずに即座に行動を移すはずだ。今回の場合で言えば、時間が止まった瞬間に首脳陣に攻撃を仕掛けるか、リアスたちを人質に取るだろうね。余計なことを話して時間を浪費すれば、せっかくの奇襲で意表を突いた意味が無くなってしまう。グラナ君がそんな愚行を犯すとは思えない」
「私は、う~ん、ちょっとまだ保留かな。怪しいのは確かだけど、証拠はないしね。もう少し様子を見るってことで意見は控えさせて」
ミカエル、サーゼクス、セラフォルーの意見にはそれぞれの理がある。一概にどれが正しく、どれが間違っているとも言えない。アザゼルは唸りながら意見を纏めた。
「つまりだ。ミカエルは黒寄り、サーゼクスは白、セラフォルーは判断待ちってことか」
「アザゼル、あなたはどう思うのですか?」
問われ、アザゼルは窓の外へと目を移す。そこには校庭が広がり、天に輝く魔方陣から次々と魔法使いたちが現れる光景があった。幾人殺そうともともすぐに補充される魔法使いの一団は、新校舎を守るために張られた結界へと攻撃を続けている。
「……俺はセラフォルーに賛成だな。幸い、主従揃って抵抗することなく拘束を受け入れてくれたんだ。結論を急ぐ必然性もない。
それにあれだけ襲撃者がいるんだぜ? ここであれこれ話し合うより、テキトウなやつを捕まえて事の真偽を問い質したほうが手っ取り早い」
「だったら何故、わざわざ話題を振ったのですか」
ジトリとした目を天使の長から向けられても尚、アザゼルは飄々とした態度を崩すことは無い。
「意識の共有ってやつをしておきたかったのさ。後になってから意見の食い違いで揉めたくないだろ? で、おいヴァーリ、表の魔法使いどもをテキトウに相手してやれ」
ヴァーリが選ばれた理由は消去法だ。
悪魔側の護衛であるグラナとエレインの二人は下手人の容疑により凍結されているために戦いようがない
天界側の護衛を務めるデュリオはその封印の担い手であり、グラナたちの様子を見張る義務がある。
トップ陣の誰かなら戦力的には問題ないのだろうが、襲撃者たちの狙いが判然としないままトップが戦陣を切るというのは不用心極まりない。
グレモリー眷属の内の何名かは時間停止から逃れているが実力に些かの不安が残る。彼らを戦わせるのなら、主戦力ではなく補佐として使うしかない。
「やれやれ、正直やる気は出ないが仕方ないな」
自分の選ばれた理由が、戦力を買われたからではなくただの消去法。獲物は小物たちが群れを成しただけの有象無象。これで滾れというほうが無茶な話だ。
覇気に欠けた答えを返しながらも、しかしヴァーリという戦力は超の付く一級品である。窓を開いて飛び出すやいなや、魔法使いの集団相手に単騎で蹂躙を開始する。
禁手状態と化したヴァーリは、『白龍皇の光翼』の有する『半減』と『吸収』の二つの力を用いて片っ端から魔法使いたちを叩きのめしていく。無論と言うべきか、ヴァーリの持つ武器は神器だけではない。単純な格闘術や魔法にも秀でており、遠・中・近と距離を選ばなず、その手練手管はまさに千変万化。
魔法使いの群れを、まるで紙を切り裂くような勢いで、流星と化したヴァーリの姿は強さだけでなく美しさまで感じさせる。
ヴァーリが有象無象の雑魚を相手に無双をしている間に、会議室の中では、一誠が『赤龍帝の籠手』を宿しているおかげで時間停止の拘束から逃れ、初めから時間停止を受けていなかった眷属仲間より事情を聞く。
曰く、唐突に時間停止が発生し、奇襲された。
曰く、その原因はおそらくグレモリー眷属の『僧侶』ギャスパー・ヴラディの神器によるもの。
曰く、ギャスパー・ヴラディはは今もテロリストに拘束されているはず。
ギャスパーは神器を制御できないことを悩み、恐れ、苦しんできた。その心の内を聞き、克服するための特訓も見てきた。故にこそ、彼の努力や葛藤を踏み躙るテロリストの存在がどうしようもないほどに許せない。
テロリストに拘束されているだろうギャスパーを助けに行きたくても、そこまでの道のりには多くの敵がいる。真正面から突っ込んでいっても、ギャスパーを人質に取られて摘んでしまいかねない。
臍を噛む一誠だが、しかし敬愛する主が機転を利かせた。『悪魔の駒』はチェスの駒を模したものであり、その特性はもちろん、その他の機能のいくつかにもチェスのルールに準じたものがある。その一つ、キャスリングを使うと言うのだ。幸いにもギャスパーが囚われているはずの旧校舎には、リアスの未使用の『戦車』の駒が置かれている。キャスリングを用いれば、いきなり本丸への突撃が可能となるのだ。
本来のキャスリングは『王』と『戦車』の駒を入れ替えるだけだが、魔王の『女王』を務めるグレイフィアの協力もあり、リアスだけでなく一誠も転移することができることとなった。
魔法陣が輝きリアスと一誠の姿が消えていった。代わりに二人がいた場所には、旧校舎に安置されていた未使用の『戦車』の駒が現れる。
無事、転移が成功したことに安堵の息を漏らしたサーゼクスは、一人の女へと視線を向けた。
特長的な褐色の肉体を扇情的な衣装で彩る、眼鏡をかけた女悪魔の闖入者。彼女こそが、リアスと一誠の転移を急がせた原因である。
「旧魔王の血族、カテレア・レヴィアタン。どうしてこんな真似をした?」
目の前に現れた現実から目を逸らすことはできない。サーゼクスは振り絞るようにして、問う。
返された答えは、平坦な声だった。それこそ、当たり前のことを、分かりきったことを告げるかのようだ。
「あなた方、偽りの魔王を殺して真なる魔王として君臨するためです。サーゼクス、あなたは良き王ではあったが、最高の王ではなかった。所詮は偽物、紛い物でしかありません。間違いは正さねばならないでしょう?」
「話し合いはできないのか?」
「その段階はとうの昔に過ぎているでしょう。かつての内戦と同じです。話し合いで解決しないから、暴力に訴える。簡単なことではないですか」
「同族同士で争うことを、どうしてそんな簡単に受け入れることができるんだ」
「争いたくないのであれば、あなた方が降伏すればよろしい」
それは出来ない。旧魔王派の思想は、一言で言ってしまえば好戦的なものだ。悪魔こそが至高の種族であり、堕天使と天使は滅ぶべし。一昔前ならばその考えこそが悪魔の世界では主流だったと言っても良いが、現在の衰退した状況でその考えを貫くことは、破滅への道を邁進することと同義である。そのようなこと、一国の主として、悪魔の王たる魔王として許せるはずもない。
「……意志は固いようだね。残念だよ本当に」
悪魔という種族は、血統によって力を受け継ぐ特性がある。中でも強力な特性を有する貴族たちは『家』という一つの共同体の結びつきが非常に強いこともあって、基本的に一族を一つのグループと見る。
であれば、カテレア・レヴィアタンがこうして現魔王たちに反旗を翻したということは即ち、グラナ・レヴィアタンも彼女の仲間である可能性が非常に高くなる。
二重の意味で残念がるサーゼクスだが、しかし彼の確信を崩したのは、こともあろうにその確信を抱かせたカテレアその人だった。
「どういうわけかは知りませんが、グラナとその配下は戦えないようですね。……そんなにも我ら旧魔王の血筋が憎かったのですか?」
「……いったい、何を言って……」
カテレアとの間に、大きなすれ違いのようなものを感じる。彼女の言いぶりでは、グラナとエレインは旧魔王派とは無関係のようではないか。
「とぼける必要はありません。事ここに至り、こうして目に見える証拠があるのですから。
我々を裏切り、旧魔王の血族の中で唯一現魔王派についた者を捕らえたのは、それほどまでに我らを恐れたからでしょう? 疎んだからでしょう? 正統なる血筋が煩わしかったのでしょう、自分の地位を奪われるかもしれないから!」
サーゼクスは旧魔王の血筋を恨んでなどいない。憎んでいなければ、恐れてもいないし、疎んでもいない。悪感情など抱いていないと言って良い。サーゼクスが旧魔王の子孫たちに向けているのは、罪悪感の類である。内戦で勝利した結果とはいえ、栄えある王の系譜たる彼らを辺境へと追いやったのは自分たちだという罪の意識。内戦の終結から何百年経とうと薄れることはなかったものだ。
「おいおい……、こりゃあ、いったいどういうことだ……?」
「この場にいる者全てが、それぞれ思い違いをしているようですが……」
堕天使と天使の長は、二人の悪魔の会話から得られた情報に混乱しつつも整理していく。悪魔たちの会話に割って入ることが無いのは、それが悪魔たちの事情・領分であると弁えているからだ。
「……君は、いや君たちとグラナ君は手を組んでいるじゃなかったのか?」
瞬間、カテレアの全身から憎悪と憤怒が放射される。
そのような可能性を示されただけでも虫唾が走ると言わんばかりだ。
無論、カテレアの言動が演技と言う可能性も捨てきれない。仲間を助けるためにわざと敵対関係にあるかのようなフリをする。ありふれた手法だが、彼女の視線、顔つき、口ぶりに至るまで深い憎悪が滲み出しており、とても演技だとは思えない。
「あり得ない。天地が引っ繰り返ろうとも、私たちがグラナと手を組むことなどあり得ない! ……サーゼクス、いえセラフォルーでもグレイフィアでもいいですが、あなたたちの中でグラナが何をしてきたのか知っている者はいないのですか?」
「何をしてきたのかってどういうこと、カテレアちゃん」
問うたセラフォルーは魔王レヴィアタンの座に座る存在だ。カテレアからすれば、己の玉座を奪い取った憎むべき女であるはずなのに、セラフォルーへ悪感情が向けられることは無い。
なぜなら、この場にはセラフォルー以上に憎い存在がいる。
カテレアの憎悪に染まった目が向かう先氷の棺、正確にはその中身。上位神具の能力によって封じられたグラナだった。
「その男は、我らの同士を何百何千と殺したのですよ。老人も赤子も関係なく、焼いて、斬って、裂いて、貫いて、殴って、蹴って、沈めて、絞めて、撃って、殺して殺して殺し続けたッ!
我がレヴィアタンの系譜からも犠牲者が出たのです。私の妹とその夫も、グラナによって惨殺された。妹と義弟の葬儀を行う際に棺桶へと収められたものは遺体のごく一部だけだった私の気持ちが分かりますか!?
その原因と手を組めるはずないでしょう!?」
グラナとその配下は、悪魔政府に保護される以前は修羅道に居た。その際の敵の一つが旧魔王派だったというだけの話。そして、自分たちの安全を確保するために堕天使の幹部を拷問にかけ戦争を引き起こそうとする程に頭の捻子が飛んだ男ならば、敵と認識すれば同族どころか親族さえ手にかけたとしてもおかしくない。
無論、先に仕掛けたのは旧魔王派なのだから、その結果として友人や親族が殺されたとしても、旧魔王派の自業自得と言える。だが、それは客観的な意見だ。
「グラナは殺す! 必ず殺すッ!!
超越者とまで呼ばれるサーゼクスは勿論として、セラフォルー、ミカエル、アザゼル、三大勢力の首脳陣は一対一の対等な条件でカテレアと百回戦ったとしても勝利できると断言できるほどに実力が高い。
しかし、圧倒的に実力で勝っていても尚、カテレアの気迫に僅かながら押された。カテレアの身から噴き出す、憎悪、憤怒、嫌悪、怨恨、といった様々な感情の奔流は並ではない。
家族を殺された。友人を殺された。成程、恨みを持つに足りる理由だ。ただし、カテレアの抱く激情に届くのかと疑問が残る。が、今はそのことに追及している場合でもないとサーゼクスは思考を切り換えた。
「随分とやる気を漲らせてきたところ悪いが……カテレア、忘れたのかい? 君たち旧魔王派がかつての内戦で敗北したのだということを。しかも現政府は他種族の転生も受け入れている。―――あの頃より力の差は広がっているぞ」
力強い宣言は決して傲慢から来るものではない。過去の事実と現状を鑑みたものだ。
内戦時の英雄は現政府の重役として健在であり、更には龍王タンニーンを始めとする強力な新加入者まで政府内にはいる。冥界最強と名高いルシファー眷属を始め、多くの実力者がいるのだ。
翻って、旧魔王派は内戦での敗軍ということからも察せるように、実力者の多くが斃れた。しかも、純血主義や悪魔至上主義を掲げているために、現政府のように外部から実力者を招き入れるとこともない。純粋な悪魔のみで構成された旧魔王派は、統一感があると言えば聞こえは良いが、たった一つの攻略法で全員が打破される危険性を持つ。サーゼクスと同じく超越者と称される旧ルシファーの遺児が加勢するのなら話も変わってくるかもしれないが、生憎と彼は内戦の頃から行方知れずである。
「ふふふふふ。まさか我々が何の策も用意していないとでも? 我々、旧魔王派は『
「……禍の団? 聞いた覚えのない組織だ」
首を捻り疑問を口に出すサーゼクスに、カテレアは肩を竦めながら言う。
「それはそうでしょうね。なにせこれまでは表立った行動をほとんどしてこなかったのですから。
我らの目的は世界の変革。神と前魔王が亡くなった世界を、あるべき姿にすること。
我らの頭目は
オーフィス。二つ名の通りに無限の力を保有する世界最強のドラゴンである。その戦闘力は凄まじく、三大勢力のトップ陣が一斉に挑みかかったとしてもが鎧袖一触されてしまうほどだ。
それほどの存在が動き出したのなれば大事であることに疑いはない。魔王として強い危機感を抱かされる。
「……あのオーフィスが随分と大胆な動きをするものだね」
サーゼクスの知るオーフィスは、他者に一切の関心を寄せることがなく、思考の読めない存在だ。感情を見せることさえ皆無。興味を抱くこともないドラゴンが、今更大きな行動を起こすというのは些か不可解な点がある。
「あの世界最強の龍神が動いたという結果こそが重要なはず。理由なぞ些末なことです。ふふふふ、あの力があれば、敵対する者を全て容易く殺せる。私が、私こそが真なる魔王なのだと! 私こそが真なる
――真なる魔王の血を引き、更にはオーフィスの助力まで得た自分たちが負けるはずが無い。
自信の漲る宣言から、カテレアの心の内が聞こえてくるようだった。あるいは、それはカテレアだけのものではなく、旧魔王派の総意なのかもしれない。
『くくくくく』
オーフィスの力を考えれば、現魔王や天使長、堕天使総督を斃すことも不可能ではないだろう。内戦時に敗北した旧魔王派は兎も角としても、頭目のオーフィスには警戒を以って当たらねばなるまい。
首脳陣がそう考えていると、笑い声が響いた。まるで何かに遮られているかのようにくぐもった声だが、嘲りの念が込められていることは明らかだ。
『おいおい、カテレアぁ。お前、最初から他人の力を当てにしてる癖に、よくもそんなにデカい顔ができるなぁ。恥を知ることのない、面の皮の厚さだけは称賛物だぜ』
会議室に屹立する二つの氷の塊。その一方の表面に、ピキピキと亀裂が走っていく。拘束されているはずの中身の眼球がギョロリと動き、カテレアへと焦点が合わさる。
「まさか……」
ミカエルは知っている。天使長という立場故に、最強のエクソシストがこれまでに挙げた功績を確認し、その実力を正確に看破している。
神や魔王さえ滅ぼすことのできると言えば聞こえは良いが、神滅具を極めることは至難の業だ。元来、神や魔王に歯が立たない人間が、それを可能とする能力を使うことがそもそも無理をしていると言っても過言ではない。 だが、最強のエクソシストはその無理を可能とするだけの潜在能力を秘めていた。幼い頃に『
そして、遂に
では、禁手を使わなければ、デュリオは弱いのか? そんなことはない。禁手は神器の奥の手であり、切り札。それが強力であることに疑いの余地はない。そこに到達するということはそれだけ神器の扱いに長けているということであり、地力の高さの証明にも繋がる。
故にこそ、驚愕する他ない。デュリオの施した拘束がまるで意味を成していないと言う事実に。
「嘘だろ、おい」
アザゼルは理解している。
故にこそ、瞠目せざるを得ない。国をも滅ぼせる力を、その身一つでねじ伏せるという常識外れの事実に。
『世界の変革だの何だのと……何だそりゃあ、新手のギャグのつもりかよ。言ってることが小物臭ぇんだよクソが。しかも、それでさえ
声の主は氷の塊。否、その言い方は正しくない。氷の棺の中のグラナ・レヴィアタンそのヒトだ。
氷の棺に閉じ込められていた? 否である。この男は、今まで、氷の棺に閉じ込められてやっていただけだ。
『かははははは! 小物にすらなれねえカスが粋がってんじゃねえよ!!』
ガッシャアアアアアアアアアアアアアアンッッ!!!!!
木っ端微塵に氷の棺が粉砕された。いくつもの氷の破片が四方八方に飛び散り、その中心では光を反射する小さな氷の粒に囲まれたグラナが不敵な笑みを浮かべて立っている。
「さて……復活――――とでも言やぁ良いのか、この場合はよ」
ヴェェエエエエエアヴォルフゥウウウウウウ!!!