ハイスクールD×D 嫉妬の蛇   作:雑魚王

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 話が進まねええええええええええええ!!! え? 他の作者さんはどうやってテンポよく進めてるのかマジで疑問なんですけど!?

 さて、本日は盛大なツッコミ回です!


4話 違う。俺じゃない

「さて、会談はひと段落ついたことですし……兵藤一誠くん、先日のお話の続きを聞かせてもらってもよろしいかな」

 

 会談の主目的が果たされ、着地点が見いだされたタイミングで、天使長ミカエルが一誠へと水を向けた。

 アザゼルやサーゼクス、セラフォルーもどのような話なのかと興味を示す中で赤龍帝の口から語られたものは彼の仲間に関することだった。

 

「どうしてアーシアを追放したんですか?」

 

 悪魔をも癒す力を持っていたために、教会から追放された悲劇の少女。一誠が知りたいのは悲劇の理由だ。

 

「それに関しては申し訳ないとしか言えません。神が消滅した後、奇跡などを司る『システム』だけが我ら天使の元には残されたのです。しかし、私たちだけでは『システム』の力を十全に発揮させることは、大戦から数百年経過した現在でも叶っていません。そのため、どうしても救うことのできる信徒の数には限りが出てしまうのです」

 

 ただでさえ、満足に『システム』を稼働させることが出来ない状況下では、『システム』に僅かでも悪影響を及ぼす可能性を持つ存在を許すわけにはいかない。信仰心を動力とする『システム』にとって、『悪魔をも癒す治癒能力』というのは好ましい存在ではない。故にアーシア・アルジェントを追放する他なかったのだ。

 また、『神の不在を知った者』も『システム』に悪影響を与えかねないことから、ゼノヴィアとイリナは追放されたのだとミカエルは語った。

 

 ミカエルの語るやり方は、『小を切り捨て、大を救う』というものだ。その言葉に一誠は反論することが出来ない。彼の貧弱な脳味噌では、少数をも救いたいと願っても肝心の救う方法を考えることができないのだ。

 そして、それ以上に、当の被害者とも言えるアーシアがミカエルのやり口を批判していないことが大きい。教会から追放されたことは辛かったけれど、そのおかげで今の仲間たちの出会えたなどと言われてしまうと、一誠の胸中は瞬く間に喜悦に満たされてしまった。

 

「兵藤一誠くん、君の話はそれだけでいいのかな?」

 

「えっと、ミカエルさんにする話はそれだけです」

 

「私にする話は、ですか」

 

「俺が次に訊きたいことがある相手は、グラナ・レヴィアタンお前だ」

 

 一誠の視線は、魔王二名の後ろに控える金眼の男へと向けられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 唐突に自身が話題の中心に放り込まれたグラナではあるが、その心中は平静そのものだった。ふむ、と予想を立ててから、まずは一言だけ返す。

 

「とりあえず口の利き方から直せ馬鹿。てめえ、誰に向かってタメ口きいてやがる」

 

 グラナの身分は上級悪魔、しかも元王族と言える名家の出だ。対する一誠は、人間界の一般的な家庭に生まれた学生であり、悪魔社会には今年の四月に入ったばかりの新参者。両者の立場には、大きな隔たりがあることは言うまでもない。

 

「まあ、礼儀だのなんだのをグチグチと言う場でもないか。この場に限っては不問としよう。で? 質問は何だ?」

 

 傲岸不遜と言って良い態度は、立場の違いであり、身分の違いであり、そして実力の違いによるものだ。そのことを理解する頭が一誠に備わっているかどうかは全くの別の話だが。

 

「ッゼノヴィアとイリナをどうして襲った!?」

 

 一誠の叫びに、ゼノヴィアとイリナの元同僚であったデュリオと元上司のミカエルが瞠目した。サーゼクスとセラフォルーはまた問題事かと意気消沈し、アザゼルは警戒を強めるかのように目を鋭くさせる。彼らのように大きな反応を見せないシトリー眷属とグレモリー眷属はすでに事の次第を聞いているのだろう。

 

「そんなことも分からないのか? その頭は飾りかよ」

 

「はぐらかすんじゃねえよ! 早く答えろ!」

 

 馬鹿と常識は対極に位置するものだ。まして、馬鹿が感情的になった時に道理を説くほど無駄なものはない。しかし、状況が逃避を許さないのだから、答えるしかあるまい。

 グラナは溜息を一つ溢して、仕方ないと言わんばかりに始めから語り出す。

 

「俺がそこの元エクソシスト二人をぶっ殺そうとしたのにはいくつか理由がある。お前が納得するかどうかは知らんが、一つずつ順序良く教えてやるよ。

 ――第一に、その二人が真性の下種だからだ」

 

『……は?』

 

 疑問の声を出したのは誰だったのか。ミカエルか、デュリオか、一誠か、リアスか、あるいはイリナかもしれないし、ゼノヴィアかもしれない。一人や二人ではない数の声が重なって響いた。

 

「ある時、教会に『聖女』として利用されていた少女はちっとした失敗から『魔女』の烙印を押されて教会から追放されてしまった。……ああ、言いたいことは分かってる。どうして唐突にアーシア・アルジェントの話をするのかってことだろう? 本題に関係があるからだ。まあ聞けよ。

 組織に利用された者が、組織の都合で捨てられる……悲劇的だが、よくある話とも言える。ただ、これの続きが二人の元エクソシストが下種だって話に通じている」

 

 話の前提を共有し、グラナは室内の面々を見渡す。誰も彼もが疑問を浮かべるか、約一名の戦闘狂は興味がないと我関せずを決め込むだけ。その反応に侮蔑を抱かずにはいられない。事情を知らない者が答えを思いつかないのは当然だとしても、当事者が、加害者が気づかないことは間違っている。

 

「悲劇の少女はあれこれを経てとある上級悪魔の眷属となった。で、悪魔としてそれなりの生活を楽しんでいたわけだが、そこにかつてのお仲間が現れてこう言ったんだ。

 ――『信仰のために死ね』

 魔女に堕ちて尚信仰を失わぬのなら、死を主に捧げる事こそが信徒の本懐だとか理屈を捏ねてな」

 

 答えを告げられることで漸く思い至ったゼノヴィアとイリナの二人が体を震わせて、顔を俯かせた。

 しかし、その程度のことに同情して口撃を緩めるグラナではない。

 

「勝手な理屈だ。ああ、反吐が出るよ。各地を巡っていた頃、いきなり襲ってくる屑どもの中にもお前らと似たような連中がいたよ。街中で人払いの結界も張らずに戦端を開き、一般人の巻き添えが出ようとも、信仰のために死ねるのなら本望だろうとかほざいたりしてな……。

 視界に入るなよ、殺意が湧くから。

 近づくなよ、腐臭で鼻が曲がるじゃねえか。

 声を上げるなよ、この世の数少ない花が汚れるだろうが」

 

 演技ではない。冗談ではない。挑発でもない。

 グラナの全身から、一点の曇りもない、純粋な侮蔑と嫌悪の念が放射される。

 

 それを色で例えるのなら黒だろう。混じりけの無い純黒だ。

 

 ヒトはここまで悪感情を他者に向けることが出来るのかとトップたちがある種の驚愕を抱く一方で、グラナに睨まれた二人は蛇に睨まれた蛙よりも哀れなほどに震えてしまう。

 

「しかも、だ。この二人は任務用の費用を私的に使い果たし、街頭での募金を行っていたんだがな……。なあ、おい赤龍帝。お前も知っているだろう、その時の会話が本当にクソだってことをよ。

 曰く、募金が進まないから、これだから信仰の匂いがしない国は嫌だ。

 曰く、聖剣で異教徒を脅して金をふんだくればいい。

 発想がチンピラだ。自分たちの馬鹿さ加減で金を失ったくせに、金が集まらないことを他者のせいにして貶し始める。それどころか凶器を使って脅し取ろうなんてのは、モロ強盗だしな」

 

 ――魔性の殺し方よりも先に、常識を知れ。

 

 ただの屑が理想だの正義だのを語り、善人面をすることが心底気に食わないのだ。こうした屑のせいで、過去のグラナたちが一体どれだけの苦労したことか。こうした屑が居なければ、真っ当に生きている者たちがどれだけ救われることか。

 

「こいつらの性質(タチ)が悪い所は、自分たちを悪だと認識していないことだ。信仰のために、理想のために、正義のためにとお題目を並べていくらでも蛮行を働く。

 独善を振りかざし、暴力に酔う。まさしく下種じゃねえか。それ以外に何と言えばいい?」

 

 一切の躊躇のない断定に、しかし一誠が否と申し立てる。

 

「違う! そんなことはない! 俺はあの聖剣を巡る事件の中で二人と一緒に戦って、二人の良い所をいくつも見てきた。この二人は、ゼノヴィアとイリナを絶対に下種なんて呼ばせねえ!」

 

「そう言うと思ったぜ。その意見を撤回させるのは面倒だし、そもそも撤回させる必要もないから次の理由を話すとするか。

 第二に二人が教会から追放され、はぐれエクソシストと化したからだ」

 

 はぐれエクソシスト、はぐれ悪魔。種族と職業に違いはあれど、国や組織から追放され、誰の保護下にもいないという点では共通する犯罪者だ。

 

「なあ、おい一度でも考えたか? これまでその二人は聖剣を使って、ドヤ顔で何体もの悪魔を殺してきたんだぜ? それはエクソシストの義務なんだろうが、悪魔側から見ればただの殺戮者だろう。

 そんなやつが組織と言う名の鎖から解き放たれたんだぞ。血に濡れた凶器を握って自由に徘徊しているんだぞ。

 一悪魔として、一上級悪魔としてぶっ殺すのが義務だろう?」

 

「違う! ゼノヴィアもイリナもそんな危ないやつじゃない! 二人とも無器用だけど、優しいところもある普通の女の子だ!」

 

「……さっきからキャンキャンとうるせえやつだな、おい。初めに言っただろ、納得するどうかは知らんが話すって。お前が納得するかどうかなんてそもそも俺の知ったことじゃねえんだよ。

 あーだこーだと言ってるがな、お前の言葉に価値があるとでも思ってんのか? ねえよ、まるで無い。価値はないし重みもない。

 主の言葉を無視して暴走するだけでなく、他所の眷属の統率を乱し死中に連れて行くような馬鹿の言葉が誰に届く」

 

 言霊から作られた言弾の掃射は漸く終焉を迎えた。イリナとゼノヴィアの心は蜂の巣のように滅多撃ちにされ、一誠の心にも巨大な空洞が顔を見せる。

 イリナ、ゼノヴィア、一誠の三名が己の愚行を指摘されたことに意気消沈する中、リアスが数々の暴言を咎めようとする。

 

「ちょっと、グラナ! あなた、いくらなんでも――」

 

 しかし、その言葉を当のグラナは完全に無視し、己も言いたいことがあったのだとサーゼクスへと視線を送った。

 

「いやはや魔王サマ。そういえば先ほど気になることを言っていましたね?」

 

 曖昧な問いかけに、サーゼクスは眉を寄せながら問い返す。

 

「気になることとは一体どれのことかな? この部屋に入ってからそれなりに発言したから見当が付かない」

 

「和平会談が始まってすぐのやつですよ。活躍した妹が~~ってやつ。あなたの妹さんはまるで活躍なんてしていないでしょうが。間違いを正してください」

 

 和平会談が始まる前から、散々、問題発言を繰り出してきたグラナである。二度あることは三度あるとばかりに、躊躇なく紅髪の魔王(シスコン)に向かって、妹贔屓をやめろと言う。

 

「だって普通に活躍なんてしていませんよね? やったことは格上相手へ無策で突貫してボコられただけ……あぁ、眷属も含めれば暴走もありますか。

 マイナスはいくらでも挙げることはできますが、活躍したなんて事実はどこにも無いではありませんか」

 

「それは……」

 

 口籠る魔王にグラナは更に畳みかける。先ほどは三人に向けられた、言弾を放つ銃口が今度は魔王に向けられた。グラナは当然のように、一切の躊躇なく引き金を引く。

 

「活躍したっつうか失敗を積み重ねただけじゃないですか。え? どこが有能なんですか? むしろ俺にはただの無能以外に見えないんですけど?」

 

 サーゼクス・ルシファーが妹のリアス・グレモリーを溺愛していることは有名の話だ。そのことをグラナが知らないはずが無い。知った上で、堂々と魔王の妹を貶すグラナの発言に室内にいた者のほとんどが呆気に取られる。反論・疑問を述べる暇さえ与えることなく、グラナの言葉だけが続けられていく。

 

「しかもその失敗二度目だし。ライザー・フェニックスとのレーティング・ゲームでも格上相手に突っ込んで負けてるんですけど。格上相手に無策で突っ込むことが愚の骨頂だってことくらい、戦術・戦略に疎いド素人でも分かることなんですが? 

 なのにこの短期間に二度もやらかすって……、何なんですかね。賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶって言いますけど、経験から学ぶこともできずに最大級の愚行を繰り返すバカを無能以外に何と言うんですか?」

 

 呆気に取られ言葉を継げないでいた者のうちの何人かが漸く反応を見せ始める。どこかの総督は腹を抱えて笑い、最強のエクソシストは下手な反応を見せるのはまずいと感じてか苦笑い。唯一の女性魔王は、己の隣に座る紅髪の魔王が一体何を思うのか心配そうに何度も窺っていた。

 そして、やはりと言うべきか。主を盛大に、公的な場で侮辱されたことに怒りを見せるグレモリー眷属の言葉を無視してグラナは続ける。

 

「部長だって一生懸命―――」

 

「戦術・戦略について言いましたけど、リアス・グレモリーの場合それ以前に問題があるんですよね。

 ぶっちゃけ行動が遅すぎ。コカビエルが聖剣を持って支配地に入ってきたことに気付くのが、教会の使者に教えられてからなんですよ? いや、お前、土地の支配者を名乗るならもっと早く把握しておけってな。

 しかも、教会側の要求を呑んで不干渉の姿勢を取るし。下手人のコカビエルは格上ってことは分かりきってんのに、どうして後手に回るのかマジで意味不明なんですけど? 実際に被害が出た場合はどうするつもりだったんですかね? つうか有事の際に行動しない支配者とか居る意味あんの?」

 

 グラナの口から語られる、リアス・グレモリーの至らない点の数々。まるで濁流のような勢いで溢れ、山積するそれらは確かな事実に基づいたものであるだけに一切の反論を許さない。

 

「教育や政治のシステムを学びに留学しているソーナ・シトリーは情報収集と眷属の統率をこなしていたのに。まあ、グレモリー眷属の暴走のせいで完璧にとはいかなかったわけですけど。

 ……えっと、何ですかねこの違い? ソーナ・シトリーがこれだけの働きを見せる中、どうして領地の支配を学ぶリアス・グレモリーはマイナスを突っ切るような行動ばかり取ってんの? リアス・グレモリーは活躍してないっつうより、味方の足を引っ張っただけじゃないですか。

 ついでに言うとコカビエルの件だけじゃあないんですよ、リアス・グレモリーの無能っぷりは。領地内に侵入した、はぐれ悪魔への対応も遅すぎる。なんだよ、太公アガレスからの指令を受けてから動き出すって。遠く離れた本国にいるやつのほうが事態を把握するのが早いっておかしくないですか? アガレスからの指令を受けてから動くのなら、わざわざ土地の管理者を置く意味もないですよね。アガレスが私兵を派遣すればいいだけなんだし。

 マジでもっと早く行動しろよ。一々トロいんだよ。自分たちで集めた情報を上に送って判断を仰ぐくらいのことはしろよ。何で上に頼り切り? 魔王派と大王派の間に立って胃薬をベストパートナーにするアガレスの仕事を更に増やすって……、グレモリー家次期当主サマは大公に恨みでもあるんですかね? 大公が割とマジで胃に穴を開けて死にそうなんですけど?」

 

 出るわ出るわ。グラナの口からは次々にリアスへの駄目だしが溢れてくる。リアスへの鬱憤がかなり溜まっていたことが、それだけで良く理解できるというものだ。

 グラナの声には呆れが色濃く出ており、裏方として奔走する中での苦労を連想させる。

 

「さっき部長が一生懸命~~とか言おうとしてた馬鹿がいたような気がしますけど……一生懸命やってたら失敗しても許されるとでも? 失敗には許されるものがあるけど、許されない失敗だってあるだろうに。もしコカビエルが駒王町の破壊を企んでいたらどうする? いやそうでなくてもあれだけの実力者との戦いなら、町に被害が出てもおかしくない。実際、シトリー眷属の張った結界はかなりギリギリのところだったわけだし。

 コカビエルの目的は戦争を引き起こすことだったわけですが、それを防ぐことが出来なかったとしても一生懸命やってれば許されるんですかね? 三大勢力に幾万の屍が積み上がり、そして共倒れすることになったらどうするつもりだったのか……。屍の山に向かって、『私は一生懸命やったけどおつむが足りないせいで失敗を積み上げまくった挙句、戦争を引き起こす原因となってしまいました』とか何とか言って謝罪するんですかね?」

 

 三大勢力の戦争が引き起こされる未来予想図。それは鮮明に思い描けてしまう。

 教会からの使者は常識知らずの下種で、土地の管理者を名乗る悪魔はただの無能。これでは堕天使の幹部の思惑を防ぐことなど不可能だ。堕天使側からは白龍皇のヴァーリが派遣されていたわけだが、当時のリアスたちが知るはずもないし、仮にも敵対関係にある勢力の力を頼りにするわけにもいかないだろう。

 で、あれば、自分たちに対応できる範囲を超えた事態が目の前にあるのなら、上の者に判断を仰ぐか援軍を要請すればいい。しかし、それが出来ないからリアス・グレモリーは無能なのだとグラナは罵った。

 

「ここまで言えば馬鹿でも理解できると思うんですけど、リアス・グレモリーが活躍したなんて事実は全くありませんよね。で? しかしルシファー様は先程、彼女が活躍したと仰った。ああ、おかしいな。活躍していないのに活躍したと言う。無いはずのものをあると言う。

 ――その手柄はどっから持ってくる?」

 

 無から有を生み出すことなど誰にも出来ない。ヒトに出来る事は、別の場所から引っ張ってくることだけだ。

 

「困るんですよねぇ、手柄を横取りされるのは。

 会談が始まる前に言ったでしょう。俺たちは今も多くの上級悪魔から目の敵にされていると。城と魔境が物理的な盾ならば、名は形を持たない盾だ。誰だって強いやつに自分から喧嘩を売りたくはないでしょう? 威圧し、そもそも争いが起こらないようにするための道具が名前なんですよ。

 だってのに、ねえ? 手柄を取られちゃ敵いませんよ。俺の名が貶められる。舐められちまう」

 

 サーゼクスにグラナの名前を貶める意図があったかどうかなど、この際些末な問題だ。グラナ・レヴィアタンは、自分がどれだけ侮辱されようと気にも留めない。しかし、結果的にそれが配下の身の危険につながると言うのなら話は別だ。その一点に関してだけは決して譲ることはできない。

 曲解を混ぜた意趣返しと共に線引きを図る。

 

「ああ、いや鼠が増えたのなら殺鼠剤を撒けばいいと考えているのでしょう? あなたは超越者と呼ばれるほどの実力者ですからね、鼠が少し増えた程度で手間は変わらんでしょう。しかし、俺はあなたとは比べるべくもない矮小な身。鼠が増えることで色々と困るんです」

 

「グラナくん、すまなかった。けれど、リアスが活躍したことにしなければグレモリー家の評判が落ち……、下手をすれば貴族間のパワーバランスの崩壊にも繋がりかねないんだ」

 

 魔王のやんわりとした否定の言葉を、しかし、まるで耳に入れないのがこの男。グラナの天秤は1と0の二つのみ。価値観は箱庭の内側へと向ける愛か、それ以外の有象無象だ。蟻の群れが争っているのを見て気に病む人間がいないように、貴族同士の大きな争いが起きようとも頓着しないのである。

 

「は? で? それが何か?」

 

「それが何かって……グラナくん、サーゼクスちゃんも悪気があったわけじゃないの。ただ、大きな争いに発展するかもしれない芽があったのなら摘まなければならないでしょ? グラナくんも分かってるよね?」

 

 魔王少女の同僚を擁護する声。その言葉は理解できるし、賛同する者も多いだろう。悪魔の衰退している現状を考えれば、争いを避けるためにあらゆる手段を取りたくなってしまうだろう。それは間違っていない。悪魔という種のことを第一に考えればこその判断なのだから、むしろ魔王として称賛を集める行いだ。

 しかし、それは為政者の理屈だ。体制のために潰される側の気持ちなど頓着されていない。

 どれだけ加害者が理屈を捏ねようと、それで被害者が納得するとは限らない。

 

「ああ、分かっていますよ。そして逆に問いましょうか、俺がその程度の些事に構うとでも?」

 

 貴族間の争いが起きれば、悪魔は更に衰退することだろう。その隙を突いて天使や堕天使の過激派が争いを仕掛けてくれば、悪魔は滅びてしまうかもしれない。しかし、配下の安寧を第一に考えるグラナにとってはどうでもいい話だ。

 

死を想え(メメント・モリ)。逃れることのできない終末()がいずれは訪れるからこそ、愛する者と出会い過ごすこの刹那を俺は全力で謳歌したい。この刹那を守ることに比べれば、国だの種族だのの存亡は塵芥に等しい」

 

 

 

 ――瞬間、世界が停止した。

 

 最も早く反応したのは三勢力の首脳陣だ。彼らは瞬時に、時間が何者かの手によって停止されたのだと察し、下手人は一体誰なのかと考え、そして一人の男へと視線が集まっていく。その男は、かつて三大勢力の戦争を望み、堕天使の幹部を徹底的に拷問したと言う前科がある。更には、たった今反逆を示すような発言をした直後に世界の流れが停止したのだ。これで疑うなと言うのが無理な話である。

 

 己へと向けられる視線の意味を瞬時に理解して、しかし、グラナはこれだけは言いたかった。

 

「違う。俺じゃない」

 

 




 盛大にツッコミまくりでしたねー。いや、原作を読んだ時に思った作者の気持ちを全てブッ込みました。

 そして最後のオチ。うん、まあ、シリアスからいきなりの急落下ってのもいいかなって思ったのですよ。

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