ハイスクールD×D 嫉妬の蛇   作:雑魚王

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 深夜テンションと昼寝の後のボーっとした頭で書き上げた話なので、どこか抜けている部分があるかもしれません。まあ、ぶっちゃけ今日は居ろ位rともう疲れて面倒なので確認とかは後日やります。

 さて、キング・クリムゾン! 

 一気に時間をすっ飛ばすッッ!!!


2話 三大勢力会談 開幕……の前に小話

 緊張、不安、期待が高まる中、遂に三大勢力の和平会談が行われる日がやってきた。

会場は駒王学園、一般の者が関わることがないようにとの配慮から時刻は深夜だ。この学園は悪魔が支配しているので、今回の会談のホストは当然、悪魔の役割となる。

 悪魔側からの参加者は魔王サーゼクス・ルシファーと同じく魔王のセラフォルー・レヴィアタン。ホスト役と言うこともあって会場の準備やその他の雑務を一手に担う、サーゼクスの『女王』グレイフィア・ルキフグス。そして護衛役のグラナ・レヴィアタンとエレイン・ツェペシュがすでに会場入りしている。

 天界からの参加者は代表として天使長ミカエル。彼の背後には『最強のエクソシスト』として名高い神滅具(ロンギヌス)使い、デュリオ・ジェズアルドが護衛の任を担って控えている。

 堕天使組織『神の子を見張るもの(グリゴリ)』からは総督のアザゼルが席に着き、彼の秘蔵っ子兼問題児でもある白龍皇が護衛を務めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アザゼル、大事な話があるから会談の前に集まるようにと言っていたが……その話とは和平に関するものなのかい? わざわざソーナやリアスには会談の開始時刻だけを伝えてこの場には来ないようにする理由も気になるね」

 

「あ~、いや直接的には関係ないと言っていいものだ……。ソーナ・シトリーやリアス・グレモリーとその眷属を遠ざけたのは、まあ、若いのに聞かせて気分のいい話じゃないってだけのことだ。……護衛にも若いのがいるが、これに関しちゃ仕方ないわな。まさか護衛を外して俺たちトップだけで会うわけにはいかねえんだから。

 ……まず質問だが、サーゼクスとセラフォルー、お前らの後ろにいる二人のうち、金髪金眼の男のほうがあのグラナ・レヴィアタンってことでいいんだよな?」

 

 魔王ルシファーの首肯を受け、堕天使の総督は両目を細め、剣呑ささえ漂わせながら問うた。

 

「なあ、グラナよ。お前さん、どうしてバラキエルのやつを徹底的に痛めつけた?」

 

 バラキエルとは現在では堕天使の幹部であり、かつては『神の雷光』とまで称された戦士だ。それほどの戦士を相手に、自分たちの知らぬ間に暴行を働いていたという事実を唐突に知らされた魔王の二人は目を剥いて事の真偽をグラナに訊く。

 

「グラナくん、今の話は……」

 

「本当ですよ。数年前の、政府に保護される前のことですがね。人間界に来ていたバラキエルに不意打ちをかまして罠に嵌めて、徹底的に拷問しました」

 

 グラナは後悔も反省もしていないとばかり開き直り、己の所業を語る。身動き一つ取れないバラキエルの爪を剥ぎ、指を折り、体の末端部から徐々に焼いていき……等々。湯水の如く、趣向を凝らした拷問の数々が詳らかにされていく。

 無駄に鮮明な説明であるために、それを聞く者たちは当時の情景を事細かに思い描くことができてしまい、中には思わず吐き気を覚え者もいるほどだ。

 二人の魔王は事の大きさゆえに、これまでどうして言わなかったのだと問い質すも、当のグラナ本人はあっけらかんとして言い放つ。

 

「聞かれなかったので」

 

 質問されなければ回答を提示することはない。理屈としては間違っていないが、それで済ませて良い問題でもあるまい。会談が始まる前からすでに頭と胃が痛くなりそうな二人の魔王を遮り、アザゼルが再度詰問した。

 

「で? どうしてあんな真似をした?」

 

 虚言、誤魔化しの類は一切許さないし見逃さない。普段は自堕落でも、今この時のアザゼルは堕天使の長としての凄みを両目に宿している。

 グラナはその威圧感を前に騙すことも不可能だと悟る。そも真実を隠す理由もないのだからと、平然と、まるで今日の天気を答えるかのような調子で口を開く。

 

「三大勢力の戦争を起こすためです」

 

 この場に三大勢力が集まった目的は和平を結ぶことである。まだ会談が始まる前の私的な話だとはいえ、この場で和平とは対極にある戦争を唱えることが一体どれほど異常かつ危険なことか分からない者はいないだろう。

 

 ――グラナがその程度のことは理解していないはずがない。

 

 ――つまり、理解した上で臆することなく述べたのだ。

 

 その事実をいち早く察したのはグラナと何度も戦ったことのある二人だ。

戦闘狂たるヴァーリは面白いと言わんばかりに獰猛な笑みを浮かべ、デュリオは早速仕事が来たのかと戦闘態勢を取った。

 

「おい、ヴァーリ楽しそうにするな。俺はお前と違って楽しむために戦争を起こそうとしたわけじゃねえ。デュリオもそう力を入れんな。ここで戦っても意味ねえからな」

 

 二人の反応を予想していたグラナは、焦るまでもなく宥めるための言葉をかけた。それが効果を発揮しようとしまいと関係ないと言わんばかりの真剣みの欠けた声だ。

 けれど、この場で即開戦というわけにはいかないことを理解しているため、デュリオが最初に戦意の矛を下げた。続けて、ヴァーリが肩透かしを食らったとでも言いたげに鼻を鳴らす。

 

(勝手に期待して勝手に落胆してんじゃねえよ、馬鹿野郎)

 

 心の内では罵倒しつつも、やはり表情にはまるで出さないグラナ。無駄に演技派である。

 

「では、戦争を起こそうとした理由を教えてもらっても構いませんか?」

 

 ハリウッドも真っ青な演技力を有するグラナに、次なる問いを投げかけたのはミカエルだった。

 戦争ともなれば、それは己が陣営の幹部を拷問されたという堕天使だけの問題には留まらず、三大勢力全体にまで波及し得るものだ。まさか自分たちトップ陣が望む和平を阻む可能性のある者がこの場にいることに驚愕しつつも、即座に精神の均衡を持ち直して警戒心を強める意志の強さは、伊達に現在の天界のトップを張っているわけではないことの証左だろう。

 

「それを話すとなると当時の俺とツレたちの状況から説明することになりますが構いませんか?」

 

 グラナは質問者のミカエルだけでなく、アザゼル、セラフォルー、サーゼクスにまで視線を巡らせて前置きし、反対が無いことを確認してから語り出す。

 

「昔の俺には庇護者ってやつがいなかった。けれど、敵はアホじゃねえのかってくらいにいた。

 俺自身、生まれはクソでね……物心ついた頃には虐待ばっかされてた。日がな一日殴られ蹴られ、メシはパンと味の薄いスープだけって生活でしたよ。生まれがクソなら育ちは畜生だ。当然、親子の情なんてものは無いし、味方なんてあの家には一人だっていなかった。

 で、俺は家から脱走したんです。まあ、連中にとってみれば『道具』かそれ以下に思っていた存在に歯向かわれたのが癪だったんでしょうね。俺をぶっ殺すための刺客をこれでもかと送り込んでくれましたよ。

 さらには行く先々でエクソシストや天使、堕天使からも敵意を向けられる。まさに四面楚歌だ」

 

 淡々とした口調ではあるが、語られる内容は凄絶そのものだ。

幼少期に父親から虐待されていたヴァーリでさえ、母親からは愛情を受けていたし、その母親という寄る辺があった。

 神滅具という極大の力を有するがゆえに、エクソシストとしての訓練を受けてきたデュリオにも、共に高め合う仲間や、導いてくれる先達がいた。

 グラナには、そういったものが何一つとしてなかったのだ。物心つく頃から奈落の底に居て、そこから這い上がってきたのである。

 その異常性に、幼い子供が成し遂げたという精神力の強さに三大勢力のトップ陣は恐怖さえ覚えた。何よりも、今こうして語るグラナの淡々とした口調が恐ろしい。彼にとっては、己自身を取り巻くこの程度の不遇など、気にするほどのことでもないと痛いほどに伝わってくるからだ。それは転じて言えば、グラナはこれ以上の地獄を駆け抜けてきたということであり、それが今から語られる。

 

「そんなクソッタレな状況の中でも希望ってやつはあるらしく、俺は仲間と出会った。今は主従関係を結び配下となっている女たちです。この場にいるエレイン・ツェペシュもその一人。

 ところで、類は友を呼ぶって諺をご存知ですか? まあ、知らなくてもそのままの意味なので構わないんですけど……。

 先ほど、俺は自分の生まれをクソ、育ちを畜生だと表現しましたが、行く先々で出会う女たちも似たようなのが多かった。ある女は実の姉を喰らい国を脱走した。ある女は人間には過ぎた才能を持っていたがために排斥された。ある女は持って生まれた力を、同性を守るために使おうとしていたのに、その力を目当てとした者たちに追い回された。ある女は同族とは違う姿を持って生まれたせいで、疎まれ迫害され追い出された。

 もちろん、真っ当な生まれと育ちをしたやつと出会うこともあったが、碌でもない境遇にある女との出会いのほうが圧倒的に多かったのは事実です」

 

 地獄の底を這いずるグラナと出会う者もまた地獄の住人だったのだ。地獄で誰かと出会うということは、その者も地獄に居るということだ。不遇な者同士が出会ったというのも道理である。

 

「で、そんな連中が一塊になって行動していたらどうなるかくらい想像が付きますよね?」

 

 子供とはいえ、嫉妬の蛇(レヴィアタン)の末裔や吸血がいるというのなら、教会のエクソシストや天界の天使が動かないはずがない。例え、一行に人間の少女が紛れていようとも、悪しき者どもと行動を共にするのであればその少女を断罪するのが神の使徒だ。

 古き悪魔、純潔の悪魔としての誇りとやらを重んじた種族を見下す傾向にある旧魔王派が、偉大なる旧魔王の血を引きながらも多種族と馴れ合う恥知らずを見逃すはずが無い。多種族の女諸共に消し去ろうと考えるのも、ある意味自然だった。

 様々な神器所有者が揃っているのだから、神器の研究機関として神の子を見張る者(グリゴリ)が動かないはずが無い。神器を手に入れることが出来なくても、一種の武装集団と化した者たちを放置することなど一組織、一国家として許されるものではなく、排除しようと考えるのは間違いではない。

 

「結果として、敵の数は俺一人だった頃の数十倍にまで跳ね上がった。来る日も来る日も戦いだ。血反吐をぶち撒けようが、裂けた腹から内臓が飛び出そうが、五感がまともに機能しなくなろうが、そんなもんは戦いをやめる理由にはならない。眼前の敵はチャンスとばかりに攻め立ててくるんですから。

 だから俺も抗った。魔力が尽きれば殴り殺し、両腕が潰れたのなら足を使って蹴り殺す。足さえ使えなくなったら、相手の首筋を嚙み千切る。

 手段を選ぶ余裕なんて無い。どれだけ不格好でも、無様でも、戦い続けることだけが俺たちの生きる道だったんです」

 

 戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い続ける。

 

 果ての無い、戦いの日々。どれだけ苦しくとも、どれだけ辛くとも、決して終わることのない戦いこそが日常となったそれはまさしく地獄。無限の闘争に縛られた修羅道だ。

 

「……誰かに、誰かに救いを求めることはできなかったのですか?」

 

 思わず、と言った風に声を上げたミカエルを責めることは出来まい。長い時を生きたトップ陣から見れば、グラナはまだ二十前後だということが感じられる。年若い魔王でさえ数百歳、アザゼルやミカエルならば一万歳近いのだから、二十のグラナなど幼い子供と言えるほどだ。

 子供が、それほどの地獄を彷徨っていたことを哀しみ、嘆く。それは至って善良な感性によるものであり、美徳と言って良かった。サーゼクスとセラフォルーも顔を沈痛に歪めており、グラナに敵意に近いものを抱いていたアザゼルでさえ同情を禁じ得ない。

 

 しかし、それは彼らの理屈である。グラナに通じるかどうかは全くの別問題だ。

 

「誰かに救いを求めれば何か変わったんですかね?」

 

 責めているわけではない。純粋な疑問を淡々と口にしているだけだが、そこには反論を許さない強さにも似たものがあった。

 

「教会に駆け込んだら、エクソシストにぶっ殺されて終わりでしょう? グリゴリにしたって同じようなもんだ。同族の悪魔だって信用できたもんじゃあない。何せ、脱走した俺にすぐさま追手を放ったんだから。一番初めに殺し合いを演じたんだから。………それまで殺し合いを散々やってきた相手に保護を求めて何になる?」

 

 教会や天界、グリゴリは『悪魔だから』と言って、出会った瞬間には殺しに掛かってくる相手なのだ。そうした者たちが組織の末端の構成員に過ぎないのだとしても、何の根拠も無しに上層部が守ってくれると考えるのは愚かだろう。そこに保護を求めるなど、自ら絞首台に上ることと同義と言っても過言ではない。

 グラナに追手を放っていた悪魔の勢力は旧魔王派だ。当然のことながら、グラナはその旧魔王派から脱走してきたので、そこに戻るという選択肢はあり得ない。では、現魔王政府に保護を頼めば良いのかと言うとそれも否だろう。彼にとって物心つく頃から散々虐待してきた相手が『悪魔』なのだから。幼き日からの常識が、派閥の違いに関わらず、悪魔そのものを信用しないという結果に繋がったのは仕方ないことだ。

 

「先ほども言ったでしょう、戦い続けることだけが俺たちの生きる道だったと。

 だが、限界はある。俺自身、いつまでも無理をしていられるわけじゃないし、仲間に無理を強いるのも本位じゃない。後ろには戦うことのできないやつらだっていた。

 対して、前方には戦いたくもねえのにうじゃうじゃうじゃうじゃと湧き続けるクソどもがいる。すでに相手は武器を抜いている。殺す気で武器を向けてきている。おまけに戦力差は百倍どころの話じゃあない。

 ならば、遠慮はいらないし、躊躇は必要ない。一秒の遅れが地獄の底で出会った花の死へと繋がりかねないんだ。ありとあらゆる手段を取るほかないでしょう? 妊婦の腹は蹴り飛ばせ、ガキの頭蓋は踏み潰せってね、あの頃は戦場のど真ん中で叫んでいたもんですよ。非道? 外道? ああ、そうだろうとも。だが、それが何だと言うんだ。よってたかってガキの背中を追い回す分際で、何をマトモなことを言ってやがる。そんなにも聖人面したいのかよ」

 

「………それが、バラキエルを拷問することで戦争を起こそうとした理由か?」

 

アザゼルの確認に、グラナは首肯を以って肯定した。

 

「ええ。俺が国から脱走しているとか、そんな事情までは堕天使側も知らないはずでしょう? 堕天使側から見れば、自分たちの尊敬する大幹部がある日突然『悪魔』に襲撃されたと映る。そして『悪魔』への報復を考える」

 

「だが、魔王政府は原因となったバラキエルへの襲撃に関しては知らない。正直にそう告げても俺たちからはシラを切っているようにしか見えず、フラストレーションが溜まっていき、悪魔と堕天使間の戦争が勃発、更に事の規模の大きさから天界も参戦って寸法かよ。性格悪すぎるなおい」

 

 苦虫を嚙み潰したかのような表情でグラナの策略を先読みしたアザゼルに、しかしそれは満点ではないのだとグラナは補足する。

 

「正確に言えば、バラキエルはあの時にぶっ殺すはずでしたがね。無残な死体をグリゴリの本部に、罵詈雑言を書き記した挑発文と一緒に投げ込む予定だった。それで、戦争が起きなかった時のために、外側から三大勢力を外側から煽りまくる用意もしてあったんですがね………結局は頓挫した。

 バラキエルを殺す寸前で救援が来たことは完全な予想外、また、グリゴリがバラキエルの件をごくごく一部のメンバーの心の内に秘めることとするとは思わなかった。完全な誤算、そして舐めすぎでした。今でも教訓として俺の中に残っていますよ」

 

 悪魔だから、と種族を理由にして出会いがしらに襲い掛かってくるような構成員とばかり戦っていたために、グラナはグリゴリのことを頭の軽い蛮族揃いだと考えていたのだ。ごく一部にはヒトとしての情や考えがあることを知ってはいたが、それは少数派で、大多数は戦闘を好む低能。そして組織というものは多数の意見が尊重される傾向にあるために、容易く戦争を誘発させることができると踏んでいたのは見込み違いだったと言わざるを得ない。

 末端にいくら馬鹿が多くとも、それは上層部まで低能揃いだという証拠にはならないのだ。策を練り、罠を仕掛けるのなら、敵の手足ではなく頭の出来を見ることが重要なのだと思い知らされた一件である。

 

「……以上がバラキエルに襲撃をかまして拷問した理由とその背景になります。過去には教会の高名なエクソシストの部下を皆殺しにしたこともありますが、その理由はバラキエルの一件と同じです」

 

 グラナが何か質問あるかと問えば、アザゼルが口を開いた。

 

「バラキエルの件に関しては理解した。仕方ない事だとも言えるだろう。その件について知る部下には俺のほうから、後日、説明を入れるつもりだし、これ以上の抗議はしないと誓ってもいい。

 ただ、な……これはバラキエルの件とは全くの無関係なんだろうが、一つ訊いておきたい。お前さん、どうして今は冥界に住んでいる? 現魔王政権が人間界に住む上級悪魔の子孫を保護しているって話は聞いちゃいるが、お前は『悪魔』という種族そのものに良い感情を持っていないんだろう?」

 

「一つ見解の相違があります。俺は魔王に保護されたなんて思っちゃいませんよ」

 

 まずアザゼルの勘違いを訂正してから、グラナは言葉を続けた。

 

「人間界の各地を巡る中、ちっとギリシャのクソ骸骨の罠に嵌められたことがあった。まあ、何とかそこから脱出することはできたんですが、仲間共々満身創痍だ。で、その時に何の偶然かルシファー眷属の『兵士』のベオウルフに見つかり、冥界に連れて行かれることになっただけです」

 

 傷が深く消耗していることもあり、当時のグラナたちはかなり警戒心を強めていた。そんなときに出会ったのが、何年も戦い続けている悪魔の一員である。当然、その場で即開戦となり、グラナ一行はベオウルフを殺す気で襲い掛かった。

 しかし、意気がいくら強かろうとも所詮は若造と小娘の集団である。伝説にその名を遺した本物の英雄であるベオウルフとの間には、一対一では決して勝てないだけの実力差があった。だが、グラナの一行はその当時で数十人規模となっていたため、一人で勝てないのなら囲んで殴ればいいとばかりに集団戦に持ち込み、かなり善戦したのだ。

 ただ、結局は、全員が重い傷を負っていたということもあって多対一でも攻め切ることはできずに、ベオウルフが別のルシファー眷属を呼び寄せたことでグラナたちの敗北が決定づけられ、そのまま冥界送りとなったのである。

 

「冥界に連れ戻された後は、色々とあった。その時になって初めて知ったんですが、俺ってそもそも戸籍がなかったんですよ。書類上は存在しない、今までは知られていなかった旧レヴィアタンの末裔が現れたことで悪魔の上層部はてんやわんやの大騒ぎ。中には旧魔王の末裔を僭称する紛い物と言う野郎までいやがった。アジュカ・ベルゼブブ様を責任者兼証人とした検査の結果で、その疑いもすぐに晴れましたがね……しかし、それはそれで困る連中がいた」

 

 旧レヴィアタンの末裔とは旧魔王の末裔と言い換えることが出来る。つまり、元王族だ。

 現政権において地位を獲得した悪魔が、自分に取って代わられるのではないかと恐怖を抱くのもある意味自然な成り行きと言えた。

 また、現政権内部には、魔王派と大王派と呼ばれる二つの派閥が存在している。魔王派にとっては大王派にグラナが入れば、大王派にとっては魔王派にグラナが入れば、愉快なことにはならないだろう。それこそ、派閥間のパワーバランスが大きく崩れる要因ともなり得る。

 旧魔王の末裔のほとんどが内戦において僻地に追いやられているからこそ、政府内における旧魔王の末裔(グラナ・レヴィアタン)の価値と重要性は非常に高いのだ。

 

「自分の利益を守るために暗殺を企てるやつなんざ珍しくもない。現に政府に『保護』の名目の元、冥界に連れ戻されてから五年の歳月が経ちましたが、未だに俺のことを疎んで暗殺者を送り込んでくれやがる。まあ、俺が気に食わねえ貴族の顔面にワインをぶっかけたりするのも嫌われる原因にはなっているんだろうが、仮にそういったことをしなかったとしても暗殺者が送り込まれることにはなっていたでしょうよ」

 

 元から貴族にとっては疎ましい存在だったのだ。嫌われるような行動を取ったことで現れる変化など、送り込まれる暗殺者の数が増加する程度のことだろう。

 

「じゃあ、そういった連中と仲良しこよしすることは可能なのか。その問いの答えは正直、無理としか言えない。

 今の俺は魔王派と大王派のどちらにも属さない、中立とも言える状態であり、遠回しに権力に興味はないと伝えているわけですが……、だからといって連中が俺をぶっ殺したい理由がなくなったわけじゃない。俺を殺そうとするやつらにとっちゃ、俺が『旧魔王の末裔』であるだけで殺す理由には充分なんだ。だから、今でもわんさかと暗殺者が送り込まれてくるし、悪魔領にある魔法道具やその他の雑貨を売る俺の店に対して営業妨害をやりまくる」

 

 グラナを殺す者たちを動かす衝動は、本人がどれだけ否定しようとも私利私欲の一言で片付けられるものだ。そんな彼らにとって、権力や利益に興味を示さないグラナの姿は、それはそれで不気味に映ることだろう。ヒトは理解できないものを忌避するし、旧魔王の末裔ということまで含めれば恐怖を抱いているかもしれない。

 故に潰す。そのために彼らは行動する。

 臆病な自尊心を有する彼らにとって、グラナ・レヴィアタンは殺さずにはいられない存在なのだ。そうしなければ、不安で夜も満足に眠れなくなってしまう。

 

「では、例えば、何かの偶然と奇跡が重なって俺が大王派か魔王派に属したとしましょう。しかも、派閥が俺を本当の意味で保護してくれて殺される心配が消えたとしよう。

 では、その代価は? 飴を貰うことによって発生する代金は何になる? まあ、隷属でしょうね。家から脱走した後はずっと戦い漬けの日々だった俺は金銭だとかを持っていない。あるものと言えば、そもそもの原因の『旧魔王の末裔』という称号だけだ。派閥のために、自分の利益のために、俺を利用する。まあ、それが妥当なところでしょう。

 あるいは、俺ではなく、俺の連れている女たちに目を付ける可能性もあるか。多種族を見下しまくるのが、悪魔の中に今も蔓延る多数派の意見ですからね。転生悪魔や中級・下級悪魔といった同胞でさえ見下す彼らが、多種族の女を道具扱いすることに躊躇いを覚える可能性なんざ皆無。使い捨てられて、誰にも看取られることなく死ぬのが落ちでしょう」

 

 グラナの口から語られる二つの可能性。凡そ最悪と称してもいい醜悪なifだが、彼の歩んできた半生と悪魔という種族の現状を考えれば決して被害妄想とは言えない。

 

「俺が利用されるだけならまだいい。愚図に頭を垂れるのはクソムカつくし、殺意も湧くがまだいいんだ。何せ、碌でもない生まれと育ちなんですからね。そこからクソみてえな扱いをされたって、それまでの延長線上でしかない」

 

 仮面が剝がれていく。そして素顔と共に、覇気が流れ出す。会議室が突如深海に沈んだかのような圧迫感に満たされ、呼吸が苦しくなる。

 グラナは百八十を超える長身だが、この場に居る者からはそれさえ疑問に感じる程に大きく見えた。

 

「けど、エレインたちは別でしょう? 俺のところには悪魔でさえない女も多数いる。何で彼女らが悪魔の理屈に振り回されなければならない。地獄の底でようやく出会えた花をどうして枯らせる。何も待たずに生まれた俺がようやく手に入れたものを、何を理由に奪う。

 許せるものかよ。認められるものかよ。

彼女らを傷つける可能性のある貴族を同胞と看做すことなどあり得ない。彼女らに差別と迫害を押し付ける国を愛せるかよ。その現状を許す魔王サマたちに忠誠だの信頼を向けられるわけないだろう」

 

 グラナが一息ついたことで僅かに空気が緩む。

 

「だから魔境に城を構えたんだ。あの土地は天然の要塞、いくら高名な戦士や暗殺者でもそうそう踏破できるものじゃねえ。大多数は城に辿りつく前に死亡し、城まで来た少数は俺の配下に袋叩きにされて終わりだ。それに、物理的に距離を取ることで政治的にも精神的にも、他の貴族から距離を取ることが出来る。

 もし仮に、俺のことを疎んじた貴族が大部隊を編成したとしても、城に辿りつく前に大半が死ぬのだから数の差はそこまで無く、戦いは防衛側が有利と相場が決まっている。負けることは無いでしょう。俺を殺したいのなら、それこそ魔王サマの承諾でも得て戦争を起こす必要があるが、俺を殺して得られるメリットよりも戦争による人材の消耗などのデメリットがデカすぎる。よって、悪魔総出の戦争を起こすことも叶わない」

 

 それが彼とその配下が漸く辿りつけた仮初の楽園だ。誰に利用されることもなく、城の中で愛する同胞たちと暮らす日々。それはきっと、臭いものから遠ざかっただけの箱庭と呼ばれるものなのだろうが、グラナたちにとっては掛け替えの無いものなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エレインだけが知っている。この場で見せたグラナの姿は本来のそれには遠く及ばないことを。本来のグラナはこの程度ではないのだと。

 

 

 彼らは知らない。

 三大勢力のトップ陣さえ慄かせた黄金色の覇気は、懸命に自己を抑えるグラナから零れたほんの一滴に過ぎないことを。

 この場で見せた顔は、剥がれかかった仮面の隙間から僅かに見えただけのものだということを。

 三大勢力のトップたちは、知る由もなかったのだ。

 

 

 




 グラナさんのこれまでの軌跡が少し明らかになりましたねー。終わりのない修羅道、しかしそれがあったからこそ彼らは絶大な力を得たとも言えるわけで……世知辛いですね。


 さて、グラナさんは百倍以上の戦力差がある中、数年間戦い続けることができたそうです。しかも子供と言って良い時分に。……マジぱねえ。まあ、この小説オリ主最強ものですし? 俺tueeeeeeタグ付いてるから問題ないよね? ね?

 次回で和平会談に入れるかなぁ。何か書こうと思っていた内容があったはずなのにド忘れしてしまう。くっ、昼寝の後の寝ぼけた頭が忌々しい!

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