ハイスクールD×D 嫉妬の蛇   作:雑魚王

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 和平に向けて進んでいく三大勢力

 されど、平和を尊ぶ者がいれば、争いを求める者がいることもまた事実

 水面下より顔を覗かせた蛇ともう一匹の蛇が激突する――――!

 ハイスクールD×D嫉妬の蛇 第三章聖書和平会談~二人のレヴィアタン~



 全ては黄金の掌の内にある


第三章 聖書和平会談 駒王学園 ~新旧レヴィアタン~
1話 月下の夜会


 アルフォンスという男がいる。旧魔王派に属する貴族の家系に生まれ、長男ではなかったために家督を継ぐことはできなかったものの、平均を上回る力を有していたために派閥の中ではそれなりの地位を有している成熟した悪魔だ。

 

 彼は真なる魔王に忠誠を捧げており、派閥の主たちの行動には以前から全面的に賛同してきた。その意思を、主からの命令を忠実にこなすことで示すことも出来ており、真なる魔王からの信用を得ていると自他ともに認めている。

 

 そんな彼ではあるが、近年、とある仕事を任されることとなった。その内容は敵対陣営に潜んだ、スパイとの情報伝達の役割を担うというものだ。

策の素晴らしさはアルフォンスも同意するところではあるが、しかしスパイのような下賤な者と密会するなど、上級悪魔のすることではない。己の役割を聞いた当初、彼が派閥のトップに珍しくも直訴し、役割の変更を願うのも無理はない。少なくとも、彼自身はそう考えていた。

 

「ええ、あなたの言い分は尤もです。しかし、この任務の重要性もまた理解しているのでしょう? 信用のおけない者には任せられない。実力の無い者では、やつの手先に囚われて、情報を抜き出される可能性さえある。故にこそあなたなのですよ、アルフォンス。真なる魔王に付き従う、忠臣たるあなただからこそ任せることができるのです」

 

 そう、真なるレヴィアタンに告げられ、アルフォンスは歓喜した。己の忠義はこうして認められたことが、見てもらえていたことが何よりも嬉しかったのだ。

 そして歓喜の次に彼に訪れたのは自戒の念である。己は偉大なる主に付き従う下僕であるのに、何故仕事を選ぶような傲慢さを持ってしまったのか。真に忠義に生きると誓ったのならば、どのような種別の任務であれ、身命を賭して臨むべきだというのに、彼は下らない考えから主へと抗議までしてしまった。寛大なる主は咎めこそしなかったが、アルフォンス自身が、己の傲慢と怠慢を許すことが出来なった。

 

 今の彼に出来ることはたった一つ。主から与えられた任務に全力で取り組み、過去の失敗を上回る成果を上げる事だけだ。

 

 

 

 遊具がいくつも設置されているものの、その多くに錆が目立ち、人気の無さを物語る公園。満月が輝く深夜という時刻のため、より一層物寂しさが目立つ。

 

その公園の中央には一人の女が立っていた。黒髪黒目、そして雪のように白い肌が特徴だが、最も目を引くのはまるで変化のない表情だ。なまじ美人なだけに、表情が無くなると、女はヒトではなく人形のように見える。

 

「ほう、待ち合わせの時刻までだいぶ余裕があるが、すでに来ているとは……殊勝なことだな」

 

 目の前の女は悪魔ではある。けれど、それ以上のことは分からない。本人が言うには、生まれた頃から貧民街に住んでいた孤児らしい。親の顔はもちろん、自身の生まれた場所さえ知らない女は下級悪魔や転生悪魔よりも身分が低いと言っても過言ではない。

 

「アルフォンス様、私は時間に余裕を持てないのは心に余裕がないからだと思っています。ですから、毎回、私は早く来ているのですよ。それに……今後のことを考えれば少しでも心象を良くしておきたいとも思いますから」

 

「ふ、はははははは! そんなに明け透けに言っては意味がないのではないか?」

 

「さて……あなた方に寝返りスパイをすることを承諾した際の条件は利益。それを知られている以上、打算を隠して外面を取り繕うことに然したる意味があるとは思えませんが」

 

「やれやれ本当に打算的、そして欲望に忠実な女だ。主を裏切ることを何とも思っていないのか?」

 

「悪魔とは言葉で他者を騙す者でしょう。ならば、悪魔であ(・・・・)りな(・・)がら騙されるほうが(・・・・・・・・・)間抜けというだけの話ではないですか」

 

「ふふっ、言い得て妙だな」

 

 アルフォンスは、女の言に思わず笑いを漏らす。対して、何を言っても、女の表情は鉄仮面のように変わらない。そのいつもと変わらない様子に鼻を鳴らしつつも、アルフォンスは早速本題へと入った。

 

「……ツヴァイ。近々、三大勢力のトップが集まり、和平会談を行うことを知っているか?」

 

 女――ツヴァイ・ペイルドークはやはり表情を変えずに答えた。

 

「ええ、勿論。グラナ・レヴィアタンが偽りの魔王から、会談中の護衛を請け負ったと聞いています」

 

「そうか、あの裏切り者まで出てくるのか……それは僥倖だな」

 

 アルフォンスは己の頭の中で未来を幻視し喜悦を浮かべるが、肝心の話の内容がほとんど語られていない。目線だけで問うツヴァイに、アルフォンスは自慢げに説明した。

 

「我らに通じている者は何も貴様一人だけではない。そして連中は間抜けなことにそのスパイを会談の護衛にするのだそうだ。我らはスパイの手引きで会談に乱入し、そのままトップ陣を殺すのだよ」

 

「成程。天使長、堕天使総督、現四大魔王の首を掲げながら『禍の団(カオス・ブリゲード)』はその存在を叫ぶわけですか」

 

 アルフォンスの所属する派閥を取り込んだテロ組織『禍の団(カオス・ブリゲード)』。一つの神話勢力のトップを皆殺しにした組織が、名乗りを高らかに上げれば誰も無視はできまい。禍の団(カオス・ブリゲード)、ひいてはその一勢力である旧魔王派はたった一日にして、世界中から強大な組織だと認知されるに違いない。

 

 アルフォンスが本心からそう信じており、その日を今か今かと待ち望んでいることが傍目からも察せる。

 しかし、目の前にいる女はいついかなる時も表情を崩さない鉄仮面だ。今、この時も喜びを露にするアルフォンスの目の前で無表情を披露していた。

 ツヴァイの反応が皆無であることは常だが、まるで喜びに水を差されたような気になったアルフォンスは僅かに機嫌を崩す。

 

「ふんっ。まあ、そういうことだ。そのついでにグラナ・レヴィアタンも殺してやるがな」

 

 三大勢力のトップ陣を殺せるだけの戦力があるのなら、いくら名を馳せていようと所詮は若輩者に過ぎないグラナなど取るに足らない。アルフォンスはそのように確信しているし、他の旧魔王派の者も誰一人として否定していなかった。

 

 しかし、目の前のツヴァイは否定する。

 

「それは些か厳しいかと。多大な戦力を用意して突撃すれば、グラナ・レヴィアタンは恐らくすぐさま逃走を選択するので」

 

「やつは護衛としてその場に来るのだろう。なのに逃げ出すのか?」

 

「彼は魔王に対して一切の忠誠心を持ち合わせておりませんし、仕事に命を懸けるようなタイプでもありません。魔王の護衛任務も、彼にとっては大金を手っ取り早く稼ぐチャンスとしか映らないのでしょう」

 

「納得はしたが……生き汚いやつだな。仮にも真なる魔王の血を継ぐ者としての誇りはないのか」

 

 一時は旧魔王派の期待を一身に背負いながらも、結局は逃げ出した愚か者という訳か。どれだけの才能を有していようと、誇りを持たない愚図に魔王を名乗る資格はない。

アルフォンスは己が主に捧げる忠義のために、確実にグラナを殺すことを決意する。

 

「訊くが……、会談の場でグラナ・レヴィアタンを逃がした場合、次の殺すチャンスはいつだ?」

 

「若手悪魔の顔合わせが行われる八月かと。魔王が弑されれば、例年通りにその催しが開催されない可能性もありますが、その逆もあり得ます。仮に開催されるとすれば、グラナ・レヴィアタンとて己が居城に戻ることでしょう」

 

「己の領域に戻り安堵した隙を突いて殺す……そういうわけか」

 

「はい」

 

 グラナは魔王からの依頼を受けてあちこちを飛び回っていることが多く、その動きを予測することは困難を極める。そのため、そもそも襲撃を仕掛けること自体難しいのだが、ツヴァイの提案ならば、その難題をクリアできる。

 それに、拠点に襲撃を仕掛けるというのも良い。現政府側の悪魔の中にもグラナを嫌う者は多く、グラナを殺すために旧魔王派と結託するほどだ。多くの外敵から身を護る、城という唯一にして最大の防壁を失うわけにはいかないために、不意の襲撃を仕掛けられても逃走することは決してできない。

 

(それに、この女(・・・)もそうだが、やつの部下には美女が多い。城を落とした暁には愉しめそうだ……)

 

 グラナは色狂い、女好きとして知られているが、それと同時に彼の配下の女の容姿が整っていることも有名である。表に出てきたことがあるのは二十名もいないが、そのタイプは様々だ。未だ顔の知れない他の女たちも含めた、数十名を順繰りに使い回せば飽きることもないだろう。

 

 憎い裏切り者を打ったことによる栄誉を受け取り、更にはおまけのお愉しみまで手に入れる未来を前に愉悦を禁じ得ずにはいられない。

 

「ふ、ふふふふ。いいぞ。お前の案に乗ってやろう。ただ、やつの城は魔境に存在する。お前は魔方陣の設置を行い、我らを城の内部へと招き入れるのだぞ?」

 

「ええ、了解しました。それと成功した暁には報酬に色を付けてくださいませ」

 

 ああ、そうだなと返事をする中でアルフォンスはツヴァイを嘲笑う。城が落ちたその日には、己も凌辱される運命にあるのだと気づかない間抜けのことが可愛く思えた。鉄仮面のような無表情も無理矢理に押し倒せば、あるいは媚薬の類でも使えば崩せるのかもしれない。今から想像するだけで、未来への期待に呑み込こまれそうだ。

 

「ああ、たっぷりとな」

 

 そう言い捨て、アルフォンスは踵を返した。背後ではツヴァイが礼をしたまま動きを止めていることが気配でわかる。

 礼儀は弁えているし、身分の差も理解している。けれど、欲望を隠すことはせず、表情がまるで変わらないことから慇懃無礼なように思えるツヴァイ。これまで何度も苛立たしく思うことはあったが、近いうちにその全てを手に入れ汚すことができるのだと思うと、唇の端が釣り上がる。

 

(ツヴァイ、その時を楽しみにしていろよ?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………薄汚い蛆虫もようやく行きましたか」

 

 完全にアルフォンスの気配が消えてから数十秒経ってから、主より授かった魔法道具で周囲に悪魔がいないことを念入りに確認してから、ツヴァイはようやく意識を緩める。

 その表情をアルフォンスが目撃すれば、大いに驚愕したことだろう。現在の彼女は明らかな表情を浮かべているのだから。

 

(所詮は害虫。身の程を弁えるだけの能さえないとは……。主は『三下の負け犬』と呼称していますが、強者に尻尾を振る能さえ持たない者を犬と呼んでいいものか悩みますね)

 

 その瞳は侮蔑の色で染まっている。歪んだ口元は笑顔と言うには歪で、まさしく嘲笑と呼べるものだ。

 

(あぁ、いえ、未来の潰れた愚図どものことなどどうでもいいです。それより情報の整理をしなければ)

 

 不滅の城(イモータル)への襲撃は八月。正確な時期は未定であり、今後、その詳しいところも決定されていくのだろう。襲撃にはツヴァイの手引きが必須であることから、襲撃前に連絡がされることだろう。

 裏切りの報酬として多額の金銭を提示されてはいるが、旧魔王派にはその約定を守るつもりは欠片もない。古臭い考えに染まった連中からすれば、純血の悪魔かどうかさえ判然としない女との約定など守る価値もないという考えなのだろう。報酬を踏み倒すどころか、むしろツヴァイたちから毟り取るつもりである。その程度のことは、アルフォンスの下卑た視線から容易に察することができた。

 

(あれで内心を隠しているつもりだったのでしょうか。表情にも僅かながらに出ていましたし、視線や声にも欲望が乗っていました。……その全てがフェイクということなら厄介な相手なのですが……まあ、そのようなことはあり得ませんね)

 

 旧魔王派が栄光だと信じて向かう先は、王による断頭台だ。きっと死ぬ時まで、あるいは死んだ後さえも利用されていたことに気づかないのかもしれない。

 

「本当に愚かで惰弱。その程度で世界を変えられるのなら誰も苦労などしませんよ」

 

 

 

 

 




 予告がいろいろとはっちゃけてんなぁと思いますね。まあ、いいか。いいよね? 予告についてめっちゃツッコミとか入れられても困るから、若干ノリで決めてたりするんですよ。ただの前書きだし、ただの予告だし、そんな激しいツッコミはしないでね?

 閑話休題
 本編では、う~ん、色々と策謀が蠢いていますねぇ。
 政府内にテロリストと通じる者がいて、テロリストは色々と調子に乗っている。更にはグラナさんの城にまでスパイが紛れ込んでいる!! さあ、いったい誰が己の思惑を果たすことが出来るのか……乞うご期待!!
 


  追伸
 ゼノヴィアってこの時点だとまだクァルタ姓じゃなかったんですね。指摘されて気づきました。一応修正はしたつもりですが、漏れもあるかもしれません。クァルタ表記を見つけたら、教えてくれると助かります

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