ハイスクールD×D 嫉妬の蛇   作:雑魚王

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14話 新たなグレモリー眷属と蛇の次なる行動

「これ以上の勝手ってのはこいつをぶっ殺すことか?」

 

「当然でしょ。ここは私の領地なんだから従ってもらうわよ」

 

 グレモリーは魔力を滾らせ、一歩も引かずに宣言する。自分が正しいと信じて疑わないいつも通りの姿である。彼我の実力差や襲撃の理由についてはまるで考えが及ばないという点もいつもどおりだ。

 

(この女はとびっきりの馬鹿だが……まさか魔王の妹をぶっ殺すわけにもいかねえしなぁ。従うしかねえか)

 

「リ、リアス・グレモリー! イリナを治療してやってくれ!!」

 

 俺が思慮に意識を割いていると、動けぬようにと踏みつけていた青髪の元エクソシスト―—―ゼノヴィアが助けを求めた。

 それに持ち前の正義感(笑)で応じるのがリアス・グレモリーという脳足りん女の誇り(埃)である。これまで一切、倒れていたもう一人の元エクソシストに意識を向けていなかったというのに、さながら正義の味方のように俺を睨みつけ、配下へと連絡を取る。

 

「アーシア、魔方陣を用意するから家から急いでジャンプしてきてちょうだい。重傷者がいて、あなたの力を必要としているの」

 

 言うやいなや、手際よくグレモリーの用意した魔方陣が淡く輝き、癒し系元聖女アーシア・アルジェントが登場する。状況を確認するためか、周囲をきょろきょろ見回す内に腹部に穴の開いた紫藤イリナと、俺に踏みつけられるゼノヴィアの状態を見て小さく悲鳴を漏らす。

 だが一度呼吸を整えただけである程度の冷静さを取り戻し、「ゼノヴィアさんのことをお願いします」とグレモリーに小さく言伝して己は重傷者の治療に入る迅速さは称賛されるものだろう。見た目にそぐわないメンタルの強さを持っているようだ。

 

「アーシア・アルジェント! 君しか彼女を助けられる者はいないんだ!!」

 

 グレモリーが難易度の高い治療魔術を習得しているとは思えないし、クァルタも以下同文。俺は長年の研究や必要性からそれなりに精通しているが、そのことについてクァルタは知っているはずもない。無論、頼まれたところで治療は断る。

 

「おいおいマジかよ、お前。事情も聞かずに一方的に魔女だなんだと蔑んで、首を落とそうとした相手に対して懇願するのか……。そりゃ都合が良すぎるだろ」

 

 最初は聖女として利用して、都合が悪くなれば魔女としてポイ捨て。また必要となれば、力の提供を求める。傲慢ここに極まれり、とでも言えばいいのか。

 罪を忌避する教えを受けていた者が、罪に染まり切っているのだからお笑い草だ。この手の存在は世の中にはいくらでもいる。自分は正義だと抜かし、積極的に正義に反することをしながらも詭弁を弄して正当化する屑。生きる価値さえ無い分際で、生きるべき者の幸福と安寧を邪魔する、これまでに幾度となく殺した手合いだ。

 

「……ッ」

 

 ゼノヴィアは図星を突かれて、わずかな間呆然とする。反論できないことを悟り、悔し気に唇を噛み締めながらも未練がましく、治療を行うアルジェントの背中を見つめていた。

 

「グラナ、足をゼノヴィアから退けなさい!」

 

 屑の癖にしおらしく後悔しているらしいゼノヴィアを、内心で嘲笑していた俺を怒鳴りつけるのはお馴染みのグレモリー。空気をまるで読まない行動ではあるが、それも仕方のないことだ。この女はじゃじゃ馬なのだから。畜生なのだから、ヒトの道理を弁えていないのである。

 

「なぜ? つーか、さっきのこの女を殺すなってやつもだが、俺が従う理由ないぜ。だって、この女ははぐれなんだぞ。一悪魔として、一上級悪魔としてはぐれエクソシストは狩らないといけないだろう?」

 

 現在、ゼノヴィアと紫藤はどこの組織にも所属していないし、裏の事情を表に出さないという不文律もある。つまり、二人を殺しても裏の組織や表の国が騒ぐことは無い。早い話、俺の行動を妨げる問題はないということだ。

 また、組織に縛られないがゆえにはぐれエクソシストがどのような行動を起こすかを完璧に予測することは困難を極め、どこかで敵対的な行動を起こさないという保証もない。

 危険度は未知数、殺しても咎められることは無い。ならば殺すべきだろう。それが無難な対応だ。

 

「そうね、はぐれエクソシストは狩らないといけないわ。でも、だったら彼女がはぐれでなくなれば、彼女を殺す理由はなくなるでしょう?」

 

「おい、まさかてめえ」

 

 その手法を俺は以前、グレモリーを相手に使っている。兄や実家に泣きつかず、同じ手段を取るのは意趣返しのつもりか。

 

「ねえ、ゼノヴィア。あなた、私の眷属にならない? できればイリナも一緒に。彼女は気絶しているから、彼女の分はあなたが代理で決めてくれるとありがたいわね」

 

「それは……でも」

 

 ゼノヴィアの生死が懸かった状況であるにも関わらず、笑顔で勧誘するグレモリー。それを他者の心を読めない能天気と取るか、確実に眷属にできる自信を持つ楽天家と取るかは迷うところだ。

 そして、肝心のゼノヴィアは判断に迷っているようで、グレモリーに問い返した。

 

「私たちなんかでいいのか? あなたたちに酷いことをかなり言ってしまったし、アーシア・アルジェントには死ぬべきだとまで言ったんだぞ」

 

「あなた達だから良いのよ。コカビエルとの戦いで一緒に戦って、あなたたちのことを知っての決断だから後悔しないわ。それと間違いは誰にでもあるものよ。あなたに負い目があるのなら、反省しているのなら、謝って再スタートすればいいじゃない」

 

 ある日突然、初対面の相手に死ねと本気で言われ、本気の殺意を向けられた。もしかすれば、その場で殺されていたかもしれない。それを一言の謝罪で許せる者は極稀だろう。

 これでアルジェントが謝罪を受け入れなかったら、これから先の一万年もの間ずっと気まずい思いをし続けるのだろうか。そう考えると、この謝罪は元エクソシスト組ではなく、アルジェントにとってプレッシャーとなりかねなない。何と言うか、不幸属性が滲み出ているかのようだ。

 

「大丈夫。私は『情愛』を司るグレモリー家次期当主のリアス・グレモリーよ。配下のケアは怠らないわ」

 

「……ッ」

 

(どの口で言ってるんだこの女!? 思わず吹き出しそうになったぞ!)

 

 シリアスな場面で唐突にギャグをぶち込まないでほしい。咄嗟に笑いが漏れるのは我慢できたが、表情筋がピクピクと痙攣を起こして今にも崩壊しそうだ。

 ゼノヴィアから足を退けて、勧誘の邪魔とならないように彼女らの視界の外へとフェードアウト。出来るだけ自然に、空気を読んだかのように実行したが、内心は全く別。

 笑いを堪えているのを隠すためだ。ここで爆笑してしまうと、グレモリーが無駄に怒りだして興味のない話が伸びる恐れがある。すでにこの先の展開が読めていることもあり、そんな事態はただの時間の無駄遣いでしかない。

 

「私は、私たちはこれまで多くの悪魔を殺していた。それでも配下として信用してくれるのか?」

 

「ええ、もちろん。あなたたちの行動は信念に従った故のものだと思うから」

 

(信念と書いて独善と読むんだな、よく分かる)

 

「私たちは小さい頃からエクソシストとしての教育を受けていた。普通の学校には通っていないから、一般常識とかにも疎い面があるだろう。色々と迷惑をかけてしまうぞ?」

 

「フォローするわよ。私は眷属のことを家族のように愛することを誓っているんですもの」

 

(フォローできてないから、聖剣騒動のときには『騎士』が暴走したんじゃねえのか?)

 

「悪魔に転生しても、私たちはきっと信仰を完全に捨てることはできないと思う。正直、そんな眷属は主からみても鬱陶しいんじゃないか?」

 

「そんなことないわよ。ヒトにはそれぞれ信じるものがあり、あなたの場合は偶々『聖書に記されし神』だったってだけのことでしょ」

 

(上級悪魔の眷属が、死んでいるとはいえ敵対組織のトップを信仰しているのは普通にまずいだろ)

 

 等々。グレモリーとゼノヴィアの問答は随所に突っ込み所があるので、色々と大変だった。主に笑いを堪える俺の腹筋と表情筋が瀕死の重傷を負う羽目となった。

 

 見ているだけだった俺が大きな犠牲を払うこととなったものの、二人の話し合いの結論は予想通りのものとなり、ゼノヴィアはその場で『戦車』として眷属入り。紫藤は今も治療中のため、後日『騎士』として眷属入りする次第となった。

 

「グラナ、これであなたも納得したかしら?」

 

「あー、うん、そうだな。そういうことで」

 

 ――突っ込み所が多すぎて納得するしない以前の問題だったけどな!

 

 しかし、ここで蒸し返してしまうと、今度こそ俺が笑い死ぬことになるので華麗にスル―。全ては心の内に留めておくのが大人の対応というものだ。

 この場での用もたった今消えたので、さて帰ろうかと踵を返す俺だったが、待ったをかけられた。

 

「なにどさくさに紛れてデュランダルを持っていこうとしているのよ。置いていきなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで元エクソシストの二人の抹殺とデュランダルの入手に失敗したというわけか」

 

 借家へと戻った俺は眷属へと事情説明を行い、エレインから帰ってきた感想がこれである。

 

「珍しくしくじったと言うから何だと思えば……ビギナーズラックにしてやられたわけか。流石のグラナも運には勝てなかったようだね」

 

 エレインはソファに座り込んだ俺の隣に陣取り、しなだれかかってくる。対角線上の席に座ったルルは3DSをポチポチと操作し、スマッシュなブラザーズで大乱闘を繰り広げながら大笑い。俺は正面のレイラから、酒を注いだグラスを受け取り、喉を潤した。

 

「ひーっ、ひーっ……ふふっ。あー、うん。何て言うかスゴイね。アレな勧誘もグラナの突っ込みも冴え渡ってるよ!」

 

「おいルル。お前、それ褒めてんのか?」

 

 足をパタパタと動かして大笑いするルルの手元のゲーム機からはドカーン! と景気の良い効果音が鳴り、彼女の敗北を告げる。切りも良くなり、ゲームの電源を落とすも、ルルは笑い続け、話には当分参加できそうもない。

 

「まあ、結局得るものはなかったわけだが……問題はないし、気にしなくていいよな。ルルはちっと笑いすぎだが、笑い話で済ませていい程度のことだ」

 

「ええ。紫藤イリナとゼノヴィアの両名は所詮三流。どこまでいこうとグラナ様の障害にはなり得ません。敵対するようなら、叩いて潰してしまえば良いだけのことです」

 

「それに今回奪い取ろうとしたデュランダルは、私たちの計画に必須というものでもない。入手しても、宝物庫に放り込んで終わりだろう」

 

 今回、行動を起こした理由は、実は特に無かったりする。丁度良く、予想通りに阿呆どもが宝を持ちながら現れ、殺す口実もあったから、奪取しようとしたというだけだ。この機会そのものが偶然の産物なので、得るものがなくてもマイナスにはならないのである。

 

 エレインの腰に手を回して抱き締めて更に密着度を上げると、正面のレイラと彼女の隣のルルの目が期待に濡れる。最近は夜中でも出歩くことも多かったせいでご無沙汰だったために、普段より溜まっているのだろう。

 二人にも、こっちに来いと目線で命令し、さあ今からリビングで始めようというタイミングで邪魔が入る。机に仕込まれた魔方陣が輝き出して、宙に展開されたモニターに見覚えのある紅髪の魔王サマが映し出された。モニターが俺のほうを向いているのをいいことに、ルルとレイラが殺意を向けているとも知らずに、サーゼクスは話し始めた。

 

『やあ、グラナくん。邪魔をしてしまったのなら申し訳ないね』

 

 彼の目線は俺の隣、というか密着しているエレインへと向けられている。人間界の時刻やエレインの赤らんだ顔を見れば、情事の前後だということくらい容易に理解できるだろう。

 少なくとも謝意を三倍にしないと足りないぜ、と訂正を心の中でしつつ、先を促す。この魔王に限って不敬罪で首チョンパされることはないだろうが、一応、エレインとも体を離し誠意らしきものを示してみせる。

 

「いえいえ、気にしないでください。それでこんな時間に連絡を入れるってことは、何か火急の用事でも入ったんですか?」

 

 これまでと打って変わって、いつも通り外用の(・・・・・・・・)猫を被る。それを見たルルが、またもや視界の端で爆笑し始め、俺の額には血管が浮き上がる――ということはない。グレモリーの連発ギャグには敗北しそうになったが、俺はかなり表情を作ることに慣れている。内心でプッツンしながらも、笑顔を浮かべることなど造作もない。

 

『気遣いありがとう。こうして連絡を入れたのは、大事が入ってのことなんだ。もうすぐ公表することになるだろうけど、それまでは内密にしてほしい』

 

「はぁ、別にいいですけど。話す相手もいませんし」

 

 サーゼクスは他の悪魔たちに話すなと言っているのだろうが、俺はほとんどの上級悪魔と付き合いが薄い。というか、現魔王派、大王派という派閥を問わずに暗殺者を送り込まれる程度には嫌われている。数少ない例外と言えるフェニックス卿とはしばしば話す間柄だが、彼とは商品の取引を頻繁に行っているというだけで、友人のようなものではない。

 

『実はね、近日、三大勢力のトップが駒王町に集まり和平会談を行う予定なんだよ。君には会談に参加する私とセラフォルーの護衛を頼みたい』

 

「返事をする前にいくつか質問をいいですか。なんで俺を護衛に? 他にも実力者はいくらでもいるでしょう」

 

 この魔王の前で俺が見せている程度の実力を有する者なら、魔王眷属にも最上級悪魔にも上級悪魔にもいるだろう。そしてトップに付けられた護衛というのは、その陣営の中でも実力者と相場が決まっている。軍事力を見せつけるという意味では、俺のような若輩者よりも、ネームバリューのある年を食った歴戦の強者を引っ張ってくるべきだ。

 

『和平は前から結ぼうと考えていたが、会談を開く決め手となったのが聖剣騒動だからだよ。君はその渦中にいた。しかも、使い魔の警戒網を張っていたこともあって事件の詳細を説明できる。それが実力以外の、君が選ばれた理由さ』

 

「俺以外にすでに護衛を務めることを決まってるやつっているんですか?」

 

『会場の周囲に展開する者が、私とセラフォルーの部下から百余名ほど。ただし、会談の只中で私たちのすぐ傍に待機する人員は君だけだよ』

 

 会場警備の人員を悪魔だけが負担するとは思えないので、天界とグリゴリからも同等近い人数が周囲に配置されると思われる。単純計算で三百名以上といったところか。

 そして、会談は当たり前のことだが屋内で行われるのだろう。となれば、トップ陣のすぐ傍に待機する者は、多くても十名程度に限定される。まさか会談を講堂や体育館で行うとも思えないし、それ以上だと人口密度が高まりすぎて部屋の中が狭く暑苦しい。

 

「俺を護衛に、って話ですが眷属を連れて行っても構いませんかね?」

 

『眷属の同伴は一名まで許可しよう。あまり多くなると、余計な勘ぐりをされかねない』

 

 天界やグリゴリ側から見れば、自分たちのトップに敵対勢力の実力者が何人も近づくと言うことになるのだから、警戒の一つや二つはするだろう。

 外交では軍事力を誇示することも大切だが、和平を結ぼうというときに火種は生み出したくはない。そういった思惑から、護衛質を求めつつも数を極力減らしたいのだと予想する。

 

「では、そうですね。当日、俺は……」

 

 エレイン、レイラ、ルルの顔を見て、それぞれを連れて行った場合を脳内で思い描く。

単純な戦力ならばエレインかルル、護るということを念頭に置くのなら防御特化のレイラ。護衛の仕事を果たす際には、会談場所には魔王サマを含めて傷つけてはならない存在が複数いるため、広域殲滅系統の能力は使えないと考えて良い。また、戦闘が行われると仮定しても、肝心の相手の能力が現時点では特定のしようがない。

 となれば、求められるのは、図抜けた攻撃力や特化型の能力者ではなく、応用力に秀でた者となる。

 

「エレインを連れて行きますよ」

 

 吸血鬼の特殊能力はいくつもあるが、エレインはその全てにおいて高い才能を発揮する。更に悪魔に転生することで得た魔力と、長年の修行や研究の中で培った魔法まで合わせれば万能と言ってもいい。

 

『依頼は受けてくれる。当日の護衛は君とエレイン・ツェペシュの二人ということでいいんだね?』

 

「はい、そういうことで」

 

 

 

 

 

 




 あぁ、何と言うか色々予告をぶっちぎっちゃってるなぁと思う今日この頃。
 次こそ! 過ぎこそは第三章に入りますから!

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