ハイスクールD×D 嫉妬の蛇   作:雑魚王

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13話 襲撃

『紫藤イリナ、ゼノヴィア・クァルタの両名を本日この時をもって破門する』

 

 教会へと戻った二人のエクソシストに下された処分は追放だった。理由は語られなかったが、神の不在について知ってしまったためだと容易に推測できるだけに驚きはなかった。

 教会から追放された二人が一番初めに直面した問題は、ずばり宿だ。イリナは父親が教会の関係者であるため己の実家に戻ることはできない。ゼノヴィアは教会の施設で育ったために猶更だ。二人はエクソシストとして訓練と任務ばかりの日々を過ごしていたために、教会の外におけるパイプがまるでない。このままでは餓死する未来が現実になりかねない、と危機感を覚えていた頃に思い出した。

 

 グレモリー眷属。

 

 聖剣騒動の折に協力した彼らならば、宿を貸してくれるかもしれない。共に戦う中でその人格に信用がおけることが分かっているのだから、頼んでみるだけの価値はある。

 

 

 

 

「もう夜も深いな。……今から訪ねるのも迷惑になるだろうし、今夜は野宿でもするか?」

 

 飛行機やバス、電車の乗り継ぎに時間を食ったため、ゼノヴィアとイリナが駒王町に辿りついたのは、深夜と言って良い時間だった。天気は快晴、夜空には星々と月が輝いており、二人の不安残る未来とは正反対である。

 

「そうね。季節的にもそれほど寒くないし、雨も降ってないんだから野宿でも凍死するなんてことはないでしょ」

 

 十代後半の、花の乙女たちの会話としては非常に世知辛いが、本人たちはそう感じていない。エクソシストとしての教育を幼いころから受けた二人には一般的な常識、感性に疎い部分がある。

 

「んー、でもどこにするの? 人目に付くところだと、お巡りさんに補導されちゃうわよ?」

 

「野山でいいんじゃないか? 食べ物も取れるし」

 

「え? ゼノヴィアってそういうのにも詳しかったんだ。なんかちょっと意外かも」

 

「これくらい誰にでもできるさ。口に入れて大丈夫そうなら食べられる、駄目っぽいなら食べられない。それだけのことだろう?」

 

「言われてみればそうね! それなら私にもできそう!」

 

 常識と感性に疎いが故の、頭の痛くないそうな会話を続ける二人。毒のあるものは口に入れただけでも危ない等と指摘してくれる常識的な人間はこの場にいない。

 

 とりあえずは、今日の寝床の確保に向かおう。未来に不安はあるが、一人ではないのだ。隣には誰よりも信頼できる相棒がいる。ならばきっと、この程度の苦難も乗り越えることが出来るはず。

 すでに主がいないこと、そして教会から異端者として追放されてしまったことは辛い。けれど未来への展望が全く無いわけではないのだ。僅かな光であろうとも必ず掴み取ってみせる。

 

「グレモリー眷属との交渉は明日になるだろう。エクスカリバーは教会へ返還したが、幸いにも私の手元にはデュランダルがある。この力を交渉材料とすれば、そう悪い結果にはならないはずさ」

 

「うん、ありがとねゼノヴィア! ……私はエクスカリバーが無くなって力になれないけど、戦闘以外の面でアピールするか―――」

 

 とある男がイリナの声を遮った。百八十を優に超える長身と、金髪近眼に褐色の肌が特徴的な男だ。

 

「――いや、その必要はねえよ」

 

 彼の名をゼノヴィアは知っている。グラナ・レヴィアタン。旧魔王の系譜に連なる者である、何度も大事件を起こし、教会のブラックリストにも乗っている悪魔である。

 

「お前ら二人、ここで死ぬんだからな」

 

 グラナはイリナの真後ろに立っていた。いつからそこに居たのかは分からない。ただ、声をかけられた時にはすでにそこに居た。

 

「がっ、あ、あぁ、ゼノ、ヴィア……」

 

 褐色肌の右腕が背後からイリナの腹部を貫いている。イリナの腹部からは血が溢れ、着衣を瞬く間に赤く染め上げる。口からも血が零れ、その目からは意識の光が消えた。

 

 ズッ、とグラナが右腕を引き抜くと、イリナは力なくその場に倒れ込む。まだ生きているのか、それとも死んでしまったのか、ゼノヴィアには判断が付かなかった。ただ一つだけ分かるのは、目の前の男が自身の相棒を害したということだ。

 

「貴様ぁあああああああ! よくもイリナをッ!!」

 

 展開した魔法陣からデュランダルを引き抜き構える。ゼノヴィアの殺意に呼応して、聖なるオーラが暴力的と言って良い程に吹き荒れる。

 

「そう怒るな。すぐにお前も同じところに送ってやるからよ」

 

 

 輝ける月の下で、嫉妬の蛇と元エクソシストの戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 駒王町にやってきた元エクソシストの二人。彼女らを待ち伏せできた理由は単純だ。まず神の不在を知ったことで教会から追放されることは確定的。悪魔や堕天使、異端者を悪だと決めつける視野の狭さからくる傲慢の言動によって教会以外に居場所がないことには予想が付く。となれば、紫藤イリナの幼馴染が所属し、更に聖剣騒動の際に共同戦線を張ったグレモリー眷属が寄る辺の第一候補として挙がる。

 そこまで考えが及べば、後は簡単だ。数百匹の管狐から構築される警戒網を用いて、件の二人が町に入ってきた瞬間に察知できるようにする。報せが入れば二人が行動するうちに人気のない場所に入った途端に、人払いの結界を張り襲撃する。

相手の思考回路が単純だったおかげで、大した苦労もない作戦で功を得ることができるというわけだ。

 

 

 ピッ、と右腕を振り払い、血を落とす。その動作が癪に触ったのか、更に眉を吊り上げる、青髪の元エクソシストに向けて拳を構える――わけでもなく、両腕を広げて無防備を晒す。

 

 さあ、斬ってみせろと、言葉よりも雄弁に態度で示せば、面白いくらいに猪武者は勇んで突っ込んできた。

 

「なん……だと!?」

 

 結果は当然、俺の体に傷一つ付かない。斬れぬものは無い絶世の名剣とまで謳われるデュランダルも、使い手が糞では本領をまるで発揮できないのだ。(なまくら)と化した聖剣の刃を素手で掴み、そのまま膂力に任せて奪い取る。

 

「同僚かグレモリー眷属から聞いていなかったのか? 俺の体はコカビエルでさえ傷つけられなかったんだぞ。お前程度の雑魚の攻撃が通用するわけねーだろ」

 

 青髪の元エクソシストは渾身の一撃がまるで通じず、更には無造作に聖剣を奪われたことに動揺し、隙を晒す。剣士が無手の状態で敵の眼前において無防備でいるとは、阿呆にも程がある。

 腹部に直蹴りをプレゼントすると、彼女は血を吐きながら野良犬のように吹き飛んだ。塀に背中から強くぶつかったことで更に内臓へのダメージがあったのだろう。崩れ落ちてからより一層強く咳き込み、血を吐いていく。

 その首を飛ばすために近づきながら、手元でくるりと回転させたデュランダルの柄を掴み取る。戦意を込めて握った途端に溢れ出す聖なるオーラは予想を超えて戦闘意欲に富んでいた。俺の求めよりも遥かに多く、さながら間欠泉のごとく次々と湧いて出てくるオーラだが、俺とて伊達に王様をやっているわけではない。この手の武器の収集は趣味の一環と言って良いレベルであり、扱いにも精通している。

 

 力のある武具は所有者を選ぶ。バルパー・ガリレイの見つけた因子以外にも、剣士としての才能などを見極めることも少数ながら過去の事例として存在する。

 つまり、格の高い武器には因子を探すセンサーのようなものが搭載されているのではなく、己の使い手に相応しい者を探すだけの知恵があるのだ。

 

 それは言葉による意思の疎通が可能ということでもある。

 

「はしゃぐな」

 

 声に僅かに覇気を込めただけ。一時的に使うだけなら、それで十分だ。小動物のように震える聖剣を振り上げる。刃に纏うオーラは最小限、かつ最大効率。この剣ならば大地を、空を、時間を、空間を、世界を、あらゆるものを斬り裂けると、そう直感できてしまうほどの力だ。

神聖さと危うさを同居させるこの姿こそが、絶世の名剣の本来のものなのだろう。恐らくは先代の使い手が行使しえただろう力を前に、馬鹿が阿呆面を晒して叫ぶ。

 

「なぜ、なぜお前がデュランダルを使える!? なぜ力を引き出せるんだ!?」

 

「努力、経験、知識……、『聖剣に選ばれた私超スゲー』で思考停止してる馬鹿どもが持っていないものを俺が持ってるってだけの話だ。

 さあ、その傲慢に塗れた生涯の幕をここで下してやる。聖職者は聖剣で断罪されるのなら本望だか名誉なことなんだろ? 泣いて喜びながら感謝しろよ」

 

「クソぉおおおお!」

 

 馬鹿は顔を歪めて、涙を流す。死への恐怖か、仲間の仇を取れないことか、あるいは誰にも看取られずに一人で逝くことの虚しさゆえか。

 しかし、その思いの全ては無価値だ。畜生以下の存在が何を考えていようと、世界に何かを残せるわけでも為せるわけでもないのだから。

 

 そして、聖剣を振り下ろす。彼女がこれまで己の命を預けてきた刃は、この時を以って断罪の刃(ギロチン)と化したのだ。内臓を損傷し、さらに立ち上がる気概さえ失った女が生き残る術などない。そう確信していたのだが、残り数センチで首に届くといったタイミングで邪魔が入る。

 

「グラナ! 私の領地で一体何のつもり!? これ以上の勝手はリアス・グレモリーの名において許さないわ!」

 

 横合いから放たれる滅びの魔力を、デュランダルで一刀両断。魔力塊が消えて開けた視界に映る、紅髪の馬鹿姫に向けて言えることはただ一つのみ。

 

「お前、何でこういうときばっか無駄にタイミングがいいんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと散歩に行ってくるわね。その間に朱乃たちとエッチなことをしちゃ駄目よイッセー」

 

 その日の夜、リアス・グレモリーは愛する眷属に注意を喚起してから兵藤家を出た。

 理由はない。強いて言うのなら、気分だろうか。何となく、夜風に当たりながら歩きたいと、そう思ったのだ。

 行き当たりばったりの行動ではあるものの、そこに価値はあった。冥界には存在しない美しい星々と心地の良い夜風は、聖剣騒動でなにもできなかった少女の心の傷を優しく包み込む。

 

 公園、河川敷、学園……etc。目的地のない散策は、自分たちが守っているものの大きさ、大切さをしるには充分なものだ。傷心しているのは自分だけではなく、自分は彼らを率いる『王』なのだ。ならば、いつまでもいじけている場合ではなく、前を向かなければならない。

 

 力が足りないのなら、鍛錬しよう。

 

 知識が足りないのなら、本を読もう。

 

 どれだけのことが出来るのかは分からない。ただ、それは足を止める理由にはならないのだ。何が、どれだけ出来るのか分からないのならば、片っ端から挑戦して確かめればいい。

 

 そうして心機を一転させ、晴れやかな心持ちとなったことで、ある異変に気付いた。

 

「あれは……人払いの結界? ソーナがはぐれ悪魔の討伐でもしているのかしら?」

 

 ソーナはリアスとともに、この町の支配者として連名されているが、実質的に支配を行っているのはリアスだ。ソーナは日本の政治や教育システムについて留学しているのに対して、リアスは統治についての予行演習としての側面が大きいためだ。通常なら、はぐれ悪魔の対処はグレモリー眷属の仕事となるが、シトリー眷属とてまるでその手の仕事をしないわけでもない。

 

(う~ん、はぐれ悪魔と偶然出会いでもしたのかしらね……。一応、様子を見に行きましょうか)

 

 

 

 

「なん……だと!?」

 

「同僚かグレモリー眷属から聞いていなかったのか? 俺の体はコカビエルでさえ傷つけられなかったんだぞ。お前程度の雑魚の攻撃が通用するわけねーだろ」

 

「はしゃぐな」

 

「なぜ、なぜお前がデュランダルを使える!? なぜ力を引き出せるんだ!?」

 

「努力、経験、知識……、『聖剣に選ばれた私超スゲー』で思考停止してる馬鹿どもが持っていないものを俺が持ってるってだけの話だ。

 さあ、その傲慢に塗れた生涯の幕をここで下してやる。聖職者は聖剣で断罪されるのなら本望だか名誉なことなんだろ? 泣いて喜びながら感謝しろよ」

 

「クソぉおおおお!」

 

 そこで行われていたのは、最早戦闘とも呼べない一方的な蹂躙劇だった。ゼノヴィアの攻撃は全く通じず、グラナのたった一度の攻撃でゼノヴィアは動けなくなってしまう。

 二人の近くには血溜まりに沈むイリナの姿がある。すでに意識があるようには見えず、遠目からでも失血死が危ぶまれるほどの出血量だ。

 そして、何故かデュランダルはゼノヴィアではなくグラナの手の内にあり、見たこともない程の清浄なオーラを立ち昇らせている。刃の向かう先はゼノヴィアの首。このままでは一秒と経たないうちに彼女の首は寸断されてしまうことに気付き、リアスは場に驚愕し呆けていた体を叱咤する。

 

「グラナ! 私の領地で一体何のつもり!? これ以上の勝手はリアス・グレモリーの名において許さないわ!」

 

 

 

 

 

 

 




 グラナさんがいきなりゼノヴィアたちを襲撃したことについて理由が明かされてないので「は?」って感じですかね? 三章の後半で理由を明かすのでそれまで気長に待っていてください。

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