ハイスクールD×D 嫉妬の蛇   作:雑魚王

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 すいません! 三章に入る前にもう一話残ってました!
 それと前回の感想はすごかったですね、中尉殿の人気ぶりにはビビりましたわ。


12話 もう一つの決着

「ハァ、ハァ、ハァ……」

 

 ズリ、ズリ、ズリ……と塀に体重を預けながら、歩く男がいた。白髪赤目で神父服を着ており、しかも胴部の大きな傷からは止めどなく出血している。

彼の名前はフリード・セルゼン。コカビエルの協力者としてグレモリー眷属と戦い、敗北したはぐれ神父である。

 傷口は深く、いくら手で押さえようとも次から次へと血が溢れてくる。大量に血を失ったためか、視界がぼやけ始めているほどだ。だが、それでも歩き続ける。駒王町は悪魔の管理する土地であるため、フリードにとっては安全な場所とはならないのだ。治療は後回し、まずは出来るだけ早く町を出なければならない。そういう意味では、深夜で人通りがないというのは僥倖だ。少なくとも、一般人に目撃されて騒がれるリスクが減るのだから。

 

「……チッ、ここまでボロカスにやられといて幸福もクソもあるかよ。俺っちも焼きが回ったな。………って、誰だテメエ」

 

 路地を曲がって出た通りに一人の女が立っていた。髪は金、瞳は血のように赤く、口の端から覗く鋭く尖った牙が、女は吸血鬼であると告げている。ビスクドールのように整った肉体を赤一色のドレスで包み、更には履いているハイヒールまで赤だ。派手な趣味をしているか、もしくはポリシーの問題だろう、とあたりを付けるがそれは然程重要なことではない。元より女は外見にあれやこれやと金を賭けるものだ。センチメンタリストでもあるまいし、そこに一々意味を求めても無駄に終わるだけだ。

 

「エレイン。エレイン・ツェペシュという。よろしく頼むよ―――君が死ぬまでの短い間だがね」

 

「てめえが死ぬまでの間違いだろ!!」

 

 傷口を抑えていた手を滑らせ、服の内側から銃を抜き取る。流れのままに拳銃を構えるまでに要した時間はまさに一瞬。自分の負傷具合、相手の言葉、そして夜という吸血鬼が本領を発揮する時間帯まで考慮すれば、目の前の女は力押しで目的を完遂すればいいだけなのだから、交渉の選択肢は残されていない。

降伏勧告も脅迫も必要ない。フリードに残されるのは先手必勝、それだけだ。戦闘時間が延びれば傷口が悪化するし、そも逃亡中の身なので時間を賭けられない。

 

 ドドドドン!!

 

 続けざまに放たれる四つの光の弾丸。狙いは頭部、頸部、胸部、腹部と急所の四か所だ。一か所に攻撃を集中しないのは、相手の防御と回避の難易度を上げるためである。フリードと手、これで勝負が決まるとは思っていない。ただ四つの内の一発でも当たって手傷を負わせることが出来ればいい。

 

 しかし、そんなフリードの思惑など知ったことかとばかりに、吸血鬼の姫君は力を奮う。

 

「――ふむ、何だ、こんなものなのか。エクソシストとはぐれエクソシストの扱う光の銃は天使や堕天使の加護あってのものだが、この威力から見るに君の銃に加護を与えたのはあまり高位の存在ではなさそうだ」

 

 彼女は回避も防御もしていない。ただ、その場で突っ立っていただけだ。一発どころか、四発全てが急所に直撃している。しかし如何なる手段を用いたのか、無防備な女の柔肌に傷の一つさえつける事は叶わない。

 

「なに、しやがった……ッ!?」

 

「うん? 君は吸血鬼と戦ったことがないのか? 変身能力を使い、体表の硬度と光耐性を引き上げただけさ。身近に馬鹿げた肉体を持つ男がいてね、彼の体を参考にすればこの程度のこと造作もない」

 

 吸血鬼と戦った経験なら何度もある。上級と呼ばれる者さえ屠ったことさえある。だが、その中には目の前の女程に変身能力を使いこなせる者はいなかった。

 吸血鬼は強大な夜の種族として知られるが、同時に多くの弱点を持つことでも有名だ。身体能力等で劣る人間が勝利するためにはその弱点を突くしかない。しかし、目の前の女はその弱点を消せるという。人間の唯一の勝機を塞ぐことができるという。まさに理不尽と呼ぶに相応しい存在だ。

 

「このバケモンが!」

 

「ああ、そうだとも。天に輝く星に届きたいと願うのだから、化物となるしかない。生まれも育ちも真面ではないんだ。始まりから劣る故に、他者を喰らって喰らって喰らいつくして、その力の限りを奪い、糧として天に向かって飛翔するのさ」

 

 勝てないことを悟り、即座に逃走を選ぶ。懐に忍ばせていた閃光球を叩き付け、エレインの目を焼いた隙に踵を返した。傷口が痛み、出血が増すが、ここで逃げ切れなければ死ぬしかないのだと、己の生存本能に訴えかけ、限界以上の力を発揮させた。

 

 飛び乗った塀を足場に更なる跳躍を行い、近くの民家の屋根に足を着ける。気配を限りなく消し、俊敏に動く様は狼に近い。跳躍、跳躍、疾走、さらに跳躍。屋根から屋根へと次々に飛び移る。

 

 フリードの身体能力は人間の中ではかなり高い。そのポテンシャルを遺憾なく発揮したこともあり、瞬く間にエレインと遭遇した場所から数百メートルもの距離を取ることが出来た。大小として、傷口が悪化して出血が酷くなったが、あの化物染みた女から逃げられるのだとしたら安い代償である。

 

「はぁ、はぁ、……これで何とか振り切れたか……?」

 

「残念。君はもうこの地で死ぬことが決まっているんだ。逃げることはできないよ」

 

 何処からともなく現れた霧が集まり、ヒトの形を成す。その姿は数十秒前に出会った吸血鬼に相違ない。その表情は変わらず余裕に満ちたもので、つまりフリードは必死になって駆けたが、エレインの掌の上から飛び出すことはできなかったのだ。

 

「さて、これ以上鬼ごっこを続けても展開は変わらず面白味もなさそうだ。幕を引くとしようか」

 

 エレインの両腕がボコボコと内側から膨張、と収縮を繰り返す。そして伸長した。まるで蛸の触腕のように、うねりながらフリードへと迫る異形の両腕。これまでに見たことのないレベルでの変身能力だが、その速度は目で追えないほどのものではない。回避のタイミングを見極め、ここぞという時に足に力を踏み出して気付く。

 

「クソったれぇ!」

 

 両脚にはすでに影が鎖のように纏わりつき、碌に動かすことさえ不可能となっていたのだ。踏み出すまで、そのことに気付かなかったせいで、フリードは足を取られてその場で崩れる。

 つまり、最初に腕をこれ見よがしに変化させ、真正面から伸ばしたのはフェイクだったのだろう。異形の腕に注意を逸らしたうちに、影で縛り、機動力を殺す。後は、動けなくなった獲物を悠々と回収するだけで事足りる。

 そして、異形の腕がフリードへと到達した。両腕と胴体をぐるりと囲って縛り付け、そのまま人外の力で強引にエレインの元へと引き寄せられる。

 

 そうなれば当然、フリードの視線はエレインへと向くわけで。

 

 エレインの姿を見れば、これから自分が何をされるのかを想像できてしまうわけで。

 

 しかし、恐怖をどれだけ感じようとも、人外の膂力による拘束からは逃げられず。

 

 故にこそ、彼にできるのは恨み言を言うことだけだった。

 

「ふざけるなよ……」

 

 どうして、こんな目に遭わねばならないのか。真面な生まれではなかった。育ちも同じだ。教会が宣う、幸福だの救いだのというものに出会えた試しはない。ならば、せめて、最期くらいは真っ当でありたいと思ってもいいだろう。

 

 何故、自分がこのような目に遭うのか。嘆いて、哀しんで、そして恨み、怒る。それは人間として当然の反応であるが、相対するエレインが慈悲を下す理由にはなり得ない。

 

 エレインの腹部に奔った横一文字の亀裂。それがぐちゃぁと開いて、現れたのは巨大な口だ。幼児の腕程の大きさにもなる牙とそこから滴り落ちる唾液、その奥では舌が獲物を今か今かと待ち構えている。

 

「ふざけるなよ!」

 

 フリードの声から出た声は、罵声ではなく、最早絶叫だった。抗えない『死』を前にして、彼は心の底から恐怖していた。何よりも恐ろしいのはグロテスクな巨大な口ではない。エレインの目だ。弱者にむける傲慢なる強者の目ではなく、教会の連中がフリードへ向けた敵意や侮蔑の混じったものでもない。

 彼女の目に宿っていたのは『食欲』だ。敵意、殺意、悪意、侮蔑、憤怒のような人が嫌う思いは欠片もない。ただ、眼前のはぐれエクソシストを喰らいたいという欲求だけが痛いほどに伝わってくる。

 

「イタダキマス」

 

 

 

 捕食者と被捕食者。その絶対的な力関係を、フリードは終ぞ覆すことが出来なかった。

 




 フリードさん、ぱくりんちょエンド!
 いやーDD世界の吸血鬼ってぶっちゃけ普通すぎるので、あえて過激にしました! 不死身の怪物、人間の敵ならこれくらいでもオッケーだよね?

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