ハイスクールD×D 嫉妬の蛇   作:雑魚王

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 例によって更新が遅いけれど、怒らないでください! ゲームや他の小説が面白くてそっちに時間を費やしていただけなんです! ………普通にダメな感じの言い訳だなこれ。


10話 石頭なんだよ

「くはははは! 堅い守りだな」

 

「我が身は主を守る一つの盾。ならば、これも当然のことです」

 

 コカビエルは惜しみない賞賛を送るが、当のレイラはそれを躊躇なく当然だと切り捨てる。言葉を交わしながらも両者は戦いの手を一切止めることがない。

 速度と攻撃力に手数など多くの点で上回るコカビエルが終始攻め立てているが、それは決して彼の優位を示してはいなかった。レイラがコカビエルに勝る防御力、そのただ一つの要素をコカビエルには決して超えることができていないからだ。

 互いが校庭を駆け回りながら、槍と盾を打ち合わせるたびに轟音が鳴る。コカビエルの踏み込みで地面が割れる。上段中段下段へと三連続の突きを見舞い、振り戻す勢いをそのまま回転に使い、側面から槍を叩き付ける。

その全てがフェイントでも何でもない全力のものだ。並の上級悪魔であればミンチになるどころか、光力に耐え切れず灰も残らず消滅しているだろう。

 

 ――だが、レイラ・ガードナーは倒れない。

 

 いや、その言い方さえ不適当だ。コカビエルの渾身の連撃を、無傷で捌き切ったのだから。

 最初の三連突は一撃ごとに盾の位置と向きを微調整することで、正面から受け止めるのではなく、盾の表面を穂先が滑るようにして全て受け流した。続く側面からの叩き付けだが、装甲に覆われた腕で穂先を下からかち上げる(・・・・・)ことでまたしても軌道を逸らした。

 前者の対応はまだ理解できる。ひたすら盾術を学び、実戦経験を積んだ歴戦の猛者ならば、自身の視界さえ塞ぐ大盾を手足のように扱い、その程度のことは可能とするだろう。しかし、後者の対応は流石のコカビエルとて瞠目した。何せ、僅かに受ける位置を間違えれば腕を切断されかねず、タイミングを誤ればほぼ無防備な状態で攻撃を受けることになるのだ。それほどのハイリスクを侵して得られるリターンはたった一つの攻撃を捌けるというだけのこと。まるでリスクとリターンが釣り合っておらず、ならば後方に跳躍するなりして回避したほうが遥かに無難のはずだ。

 しかし、レイラはそれだけのことをしておきながら冷や汗一つかいていない。彼女にとって、先ほどのやり取りが何でもないことだという証である。

 余人が絶技と呼ぶだろうそれが、レイラにとっては何でもないものなのである。

 

 ――リスク? 失敗しなければそんなものは無いのと変わらない。

 

 達成感も疲労も感じさせない、冷たい面貌は、まるでコカビエルにそう語り掛けているかのようだ。

 

 その不敵なる自信を見て取り、コカビエルは戦士の笑みを作った。侮っていたつもりはない。だが、想定を超えていたことは事実。その力量を称賛し、認めるがゆえに己の全力を見せねばなるまいと奮起するのだ。

 

「では、これならばどうだ!」

 

 レイラは悪魔、コカビエルは堕天使。互いに翼を持つ種族。その戦場は地上に限定されることがなく、空中も含めた三次元的なものとなる。

 上空に陣取ったコカビエルは、その全身から光力を放出し、僅か数瞬の内に数十本もの槍の葬列を生み出した。

 

 

 

 

 

 

 

(すげ)え」

 

 コカビエルとレイラの攻防。コカビエルの速度は目で追えるものではなく、レイラの技巧は常識の範疇の外。両者の鬩ぎあいは『理解できないほどに凄まじい』ということを、一誠は感覚で理解し、知らず知らずのうちに声に出していた。

 そして、その思いを抱いたのは一誠だけではない。一度は吹き飛ばされバラバラになった仲間たちも、再び一誠の元に集まり、食い入るように戦いに見入っていた。

 

 イリナは己たちが挑もうとした堕天使幹部の強さに恐れを抱き――

 

 小猫はレイラの防御に、同じ『戦車』として尊敬を向け――

 

 アーシアは戦況の把握がままならなくとも、戦場の猛々しい空気に呑まれまいと気合を入れ――

 

 そんな思いなど知ったことがないとばかりに、無遠慮に投げかけられる声に四人の意識を戻る。

 

「おい、届けものだ」

 

 声の主は金髪金眼と褐色の肌が特徴的な美丈夫、グラナ・レヴィアタン。彼は脇に抱えていた、リアス、朱乃、佑斗、ゼノヴィアの四名を一誠たちに向けて投げ渡した。

 

「部長さん、朱乃さん、木場さん、ゼノヴィアさん!」

 

 意識を失い、荒い呼吸を繰り返す三人にアーシアが縋りつき、安否を確かめる。すぐさま両手を当てて神器を発動させ治療を始める。

四人をここまで運んできたグラナは、そのことに何も感じ入るところがないらしく肩をグルグルと回して調子を確かめながら、まだ間に合うのだと告げる。

 

「四人とも重傷だが………傷を塞いでおけばとりあえず死ぬことはないはずだ」

 

「なあ、おい」

 

 一誠の声は、わざとでなくとも、険のあるものだった。睨むような目で問い詰める。

 全滅の危機に直面した瞬間に乱入したレイラの存在。そして、現在も眼前で行われているコカビエルとレイラの激闘。そこで披露される歴戦の技の数々。

 それらに驚愕し、目を惹き付けられていたのは事実。それこそ、僅か一時とはいえ、負傷した仲間の存在を忘れてしまうほどに、見入ってしまっていた。ただし、それほど鮮烈な印象をのこされる出来事が連続していただけであり、仲間への思いが希薄ということを意味しない。こうして苦痛に呻く仲間の姿を見れば悔恨と憤怒が沸き上がる。

 

「お前は……いや、あの女のヒトも入れたらお前たちか。お前たちはずっと前から、この戦いを見ていたんじゃないのか?」

 

「そうだ、と言ったらどうする?」

 

「どうしてだよ。木場も部長も朱乃さんもゼノヴィアも傷ついてる。それも擦り傷やかすり傷なんかじゃない! 重傷だ!」

 

「見ればわかる」

 

 抑揚のない声音。若干ずれた返答の内容。それはグラナが、リアスたちが傷ついたことを本当に何とも思っていない証拠であり、より一層、一誠の語気を強くする。

 

「どうして!? どうしてもっと早く介入してくれなかったんだ!? あの女のヒトだけでもコカビエルと互角じゃねえか!? それこそお前があのヒトと組んで早く戦ってくれてたら、皆こんなに傷つかなくて済んだはずなのに!?」

 

 前にも言ったはずなんだがなぁ、とため息を吐いてから、グラナは答えた。

 

「ルシファー様、レヴィアタン様から受けた依頼は『グレモリー眷属とシトリー眷属で対処できない問題が起きた場合の対処』だ。しかし、最初から丸ごと俺が解決しちまったらお前らが経験を積めなくなる。それじゃあ、わざわざ人間界にまで上級悪魔の令嬢が留学しに来てる意味がねえだろう? 

 だから出方を見ていたんだよ。

それと、まるで自分たちに全く非がないとでも言いたげな被害者面をしてるがな……。仮にグレモリー眷属(お前ら)が俺に救援要請をもっと早い段階で出していれば、そりゃ介入もしたさ。だが、お前らはそれを選ばなかった。神父姿の囮作戦もこの場所に来ての決戦もあくまでお前らが勝手に選んだことだ。その四人が倒れてんのはその結果だ、自分たちの無能を棚に上げて俺に責任を擦り付けるなよクソガキ。

まあ、あれだな。痛い目を見るのも経験の内っつうことで受け入れろ」

 

 ここで何か口にしても、それはただの感情からくる癇癪だ。グラナは、反論できずに手を固く握りしめるだけの一誠に一瞥もしない。興味がない。ここまで会話に付き合っていたのも、準備運動を終えるまでの暇つぶしに近かったのだろう。

 沈鬱なグレモリー眷属とイリナの様子に構うことなく、グラナは戦場へと歩みを進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レイラァ! 交代だ! お前はグレモリー眷属とエクソシストどもを守ってろ!」

 

 盾と槍の打ちあう音に混じって、男の声がどこかから届く。その出所をコカビエルが探るよりも早くに跳躍して下がるレイラの反応は最早脊髄反射の域である。

 

「オラァッ!」

 

 後方に下がるレイラと入れ替わるように、コカビエルの眼前へと飛び出した人影こそが声の正体。褐色肌の拳を魔力で強化して殴りかかる男が己の名を告げる。

 

「グラナ・レヴィアタンだ。魔王サマからの依頼でてめえをぶちのめしてやるから感謝しろ」

 

 剛拳を光の槍で受け止めたコカビエルの腕に、ビリビリと衝撃が走る。己に殴りかかったグラナと名乗る男から感じられる魔力の強大さ、光の槍に触れても焼けない拳を見て、歓喜に打ち震える。

 

「成程、成程! お前は旧レヴィアタンの末裔なのだな!! 金髪金眼に褐色肌の外見的特徴だけでなく、その特異な体質までも受け継いでいると見える!!」

 

 旧レヴィアタン、嫉妬の蛇とも呼ばれた悪魔が、魔王という悪魔の頂点に立てた理由の一つが全悪魔の中で唯一保持する特異体質である。

 

「初代レヴィアタンには苦戦させられたものだ! なにせ悪魔でありながら悪魔祓いが通用しないのだからな!」

 

「だろうな。この体質の前じゃあ、聖水は飲料水、十字架は妙なオブジェ、光の槍はただの槍に成り下がる。悪魔としての弱点(・・・・・・・・)をゼロにできる体質(これ)は中々便利だぜ?」

 

 不敵に笑いながら宣うグラナは、コカビエルの槍を拳一つで迎撃していく。グラナの拳は槍の側面を捉えて軌道を逸らすのではなく、真正面から穂先にぶち当たっているのだ。しかも、その褐色の拳には傷一つ付かないときた。その光景は、一般的な悪魔と光の相性を知る者が見れば唖然とするものだっただろうが、コカビエルには見覚えのあるものであり、同時に納得するものでもあった。

 

「ちぃ! 『不死身』の特性まで持っているとは、増々初代レヴィアタン(あの女)を思い出す!」

 

 初代レヴィアタンが有した特異体質は、なにも悪魔祓いが効かないというものだけではない。元々、初代レヴィアタンは巨大な海の怪物であり、その鱗はあらゆる攻撃を通すことがないことから『不死身』と称された。

 悪魔に堕ちてからも初代のその防御力は健在であり、その肉体こそが最強の鎧であったほどだ。

 

 グラナは、その防御力まで発現させているのだ。悪魔祓いが効かない体質により特攻を失った光の槍は、桁違いの頑強さを有する肉体を貫けないでいた。

 

「くくっ。おいおい、どうしたよコカビエル。まさかその程度じゃねえだろ? 堕天使幹部の、最上位堕天使の底力を見せてみろよ」

 

 そして、肉体が頑強ということはそれだけ攻撃力が高いということにもなる。拳を振るえば槌となり、指先は短剣、蹴りは文字通りの足刀だ。全身が凶器と言っても過言ではないだろう。

 しかもグラナの体技は凄まじい冴えを見せる。攻撃に依らず、防御にも依らず、回避に依ることもない。攻撃、防御、回避、その全ての錬度が達人の域にあるために隙が無いのだ。

 貫手を槍の如く突き出し、拳は破城槌にも似た迫力がある。側頭部を狙う上段蹴りに続いて繰り出されるのは、膝を真横から潰す下段蹴り。顔面、胸部、腹部に続けて放たれる三連続の直蹴りは槍術の如き鋭さと速さを有していた。

 腰に差した一振りの刀を抜くことなく、防御はその身一つでこなす。時に槍を真正面から殴りつけ、時には踏みつけてコカビエルの動きを止めることさえしてみせる。

 回避は身体能力と技術に任せたものだ。そこに蝶の舞うような優雅さは皆無であったが、無駄のない洗練された武の輝きに見る者の目を奪わせる。

 

 正しく千変万化。清流の如き美しさと、荒波の如き力強さを同居させている。

 

 ―――しかし、コカビエルは倒れない。

 

「ォオオオッ!」

 

 成程、速度で劣っているのだろう。攻撃力で劣っているのだろう。防御力でも劣っているのだろう。だから、どうしたと言うのだ。その身はかつて創造主たる神や、破壊の化身たる二天龍に挑んでも生き延びた堕天使幹部。スペックが上の相手など今までにごまんと見てきたのである。その程度のことで臆するほど、(やわ)な生涯を歩んできたつもりはない。

 歴戦の経験とその中で培われた技巧を駆使してコカビエルは立ち回る。

 剛拳を受け止めたことで罅割れた槍には即座に力を注いで一秒にも満たないうちに修復し、槍を絡めたられれば取り戻そうとするのではなく新たに作り出す。攻撃を続けざまに躱されても前のめりにならずに、己のペースを維持して好機を窺った。

 

 ――そして、チャンスが到来した。

 

 人外の膂力を持つ戦士たちが攻防を繰り返す中で、校庭には無数の穴と罅が生じていた。いくら馬鹿力をもっていようとも、躓くときは躓く。一目見てはわからないほど小さな隆起に足を取られるグラナ。姿勢の崩れを最小限に止める技術は称賛物だが、その僅かな隙さえコカビエルは見逃さない。

 

「ちぃッ!」

 

 槍が防御を貫けないのならば、それを弁えた上で攻撃すれば良いだけのこと。槍の穂先で貫くこと、斬り裂くことを諦め、柄頭での打撃へと変更。顎を打てば脳震盪を引き起こせるし、足に絡ませて転ばせることも可能だ。そこに防御力如何など関係する余地がない。

 

 僅かな隙を突いて繰り出される技の数々。態勢を立て直す暇を与えなどしないとばかりの攻撃はその一つ一つがコカビエルに出せる最速であり、最高のものだった。一撃たりとてフェイントを混ぜることなく全てが全力。

それを捌くグラナの技量は凄まじい。その一言に尽きるが、徐々に遅れが出始める。一手の遅れが二手の遅れへと繋がり、二手の遅れが三手の遅れと化す。

 

 その連鎖が何度も何度も続けば、いずれは取り返しの付かない致命的な遅れとなるのが道理だろう。

 

 僅かな罅でも、叩き続ければ巨大な亀裂と化すように、遂にグラナの態勢が完全に崩れた。駄目押しとばかりに足払いを仕掛けられた体が宙を舞う。地面に落ちるまで、あるいは翼を展開するまでの数瞬。その間に決着をつける算段が、コカビエルにはあった。

 

 グラナの防御力は、コカビエルの槍でも貫けない。その事実はすでに証明されている。何度も何度も、素手で真正面から槍を掴まれ、弾かれ、殴り返されれば馬鹿でも理解できることだ。

 

 では、拳以外の部位ならばどうか?

 

 そもグラナが拳に魔力を纏って強化している。筋力、速度、そして防御力・耐久性等を引き上げる身体強化。魔力の使い方としては非常にメジャーなものだ。

 この戦いにおいて、グラナは終始、攻防でコカビエルを圧倒している。が、槍に触れるのはほとんどが拳だ。足で槍を踏みつけることもあったが、拳のように真正面から打つ合うことは決してない。

 

 嫉妬の蛇(レヴィアタン)の防御力は確かに高いのだろう。しかし、グラナの防御力は、若さゆえか、本人の才覚不足が原因かは知らないが、あらゆる攻撃を無効化できるほどではないのだ。故に、魔力で強化した拳だけが、槍と真っ向からぶつかっても負けることがない。

 

 ――それはつまり、魔力で強化していない部位ならば、コカビエルの槍が貫ける可能性が存在することを意味している。

 

「これでッッ! チェックメイトだぁああああああああああ!!」

 

 足払いをかけ、宙に浮かんでいるために、この数瞬の間だけは回避行動がとれない。さらに言えば、グラナの両腕は宙に浮かぶ前の攻防により大きく後ろに流されてしまっており、防御に使うことは不可能だ。

 完全なる無防備。狙いは魔力を纏っていない額。柄頭から光力を噴射し加速する槍が、グラナの額へと突き立てられた。

 

 コカビエルが抱いた勝利の確信と喜悦。しかしそれは、一瞬の後に驚愕へと変わる。

 

「残ァーー念!」

 

 三日月に歪んだ、グラナの口から、心底楽しそうな声が飛び出す。何故、額に槍を突き立てられて平然としているのか。答えは単純だ。

 槍は突き立てられているだけで、突き刺さっていないのだ。ただの皮膚の一枚すら貫くこともできずに、コカビエルの渾身の一撃は無防備な額に受け止められていたのである。

 

「な、にぃ!?」

 

「石頭なんだよ、悪かったなァ……!!」

 

 そしてお返しとばかりに放たれる拳が、渾身の一撃を放った直後であるが故に、無防備であったコカビエルに深々と突き刺さる。拳がめり込み、骨が折れる音が鳴り、筋肉と内臓が軋む感触がグラナの拳へと伝わった。

 

 




 はいはい、最後の攻防。いやーコカビーさんはグラナ君の素の防御力なら敗れると考えていたようですけど、それは間違いだったようですねー。まあ、そのあたりの解説は次回にしたいなぁと思っています
 さて、今回の話でも、作者の好きなキャラのセリフをぶち込んであります。気付いた方は感想にて答え合わせをしましょうか?

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