ハイスクールD×D 嫉妬の蛇   作:雑魚王

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長らくお待たせしました! 今回も巻きで行くぜぇ!!


9話 グレモリー眷属の死闘 Final

 デュランダルを開放したゼノヴィアと聖魔剣に覚醒した佑斗は、瞬く間にフリードを攻め倒した。異端者を処断したエクソシストと因縁の聖剣を打倒した悪魔の少年は、フリードの背後に控えていた研究者へと剣を向ける。

 

「『皆殺しの大司教』バルパー・ガリレイ。主の名の下に貴様を断罪する」

 

「僕たちの想いは聖剣を超えた。あとは、あなたを斬ることで聖剣計画に幕を引いてみせる」

 

 バルパーは倫理観の欠如した、非人道的な研究を行ったことで協会を追われたが、聖剣計画の成果が今も教会で利用されていることからも、研究者としての能力は一級品であることが窺える。しかし研究に没頭していたために先頭の心得はまるでなく、戦闘能力は皆無だ。

 そんなバルパーが、ボディーガードが倒れてその身を守る者がいなくなり、さらには相対する二人の剣士に剣を向けられながらも恐怖を表に出さないのは奇妙な話だ。顔面を手で覆いながら、ブツブツと小言を繰り返す姿は不気味ですらある。

 

「ありえん。聖魔剣、聖と魔の両方の性質を併せ持つだと? 聖と魔の融合だと? そんなことができるはずが………いや、待てよ。…………そうか、そういうことか! 先の大戦では魔王が没したという話だったが、もう一方も――――アッ!?」

 

 誰に聴かせるつもりもないのだろう。バッ、と顔を上げたどり着いた答えを自分のペースで語りだすバルパーだったが、その声が唐突に止まる。ドスッ、と無造作に思える程に前触れ無く、光の槍がバルパーの体を貫いていた。位置は胸の中央、完全に急所であり助かる見込みはない。

 血反吐をぶち撒けたバルパーは尚も何かを言おうとしているようだったが、次から次へと喉元にまで登ってくる血のせいで遺言を残すこともなく、その両目から光が失われる。

 

「バルパー、その考えに独力で至ることができたのだから、お前は優秀な研究者に違いない」

 

 バルパーを殺した凶器は光の槍。この場でそれを扱える者は、堕天使幹部たる彼しかいない。

 コカビエルは賞賛を声音に滲ませながらも、己の行為に後悔を微塵も抱いていなかった。リアスや朱乃から一旦距離を空け、交戦を中断するコカビエルは戦場全体を見下ろしながら愉快そうに笑う。

 

「くくくく。あの脆弱な剣士たちがまさかフリードを打倒するとは思わなんだ。俺の予想は裏切られたわけだが、だからこそ余興として楽しめたと言うべきかな」

 

 予想外の事態と表現しているものの、しかし微塵も動揺は感じさせない。片方は自信が殺したとは言え配下の二人が死に、残りはコカビエル一人。状況のみを見れば、追い詰められていると思える。だが、追い詰められていようが、配下が全滅し王一人になろうが、チェックメイトを決められようが、盤面を丸ごとひっくり返すだけの力があれば、窮地は窮地とならないのだ。

 

 だからこそ、コカビエルは悠然と笑っていられる。愚かな者たちを嗤うことができる。

 

「しかし、なぁ。お前たちエクソシストは本当に滑稽だよ。敗色濃厚の戦いに挑み、傷だらけになりながら勝利を掴み取っても……その原動力たる信仰にはすでに罅が入っているのだからな」

 

「何を言ってる……?」

 

「罅って何のことよ!? 私たちは一切の疑いなく主を信じているわ!!」

 

 ゼノヴィアは剣を構えながら訝しみ、イリナは分かり易すぎるほどに憤慨を露にして問い質す。

 

「お前たちが崇める主、聖書に記されし神はすでに死んでいるのだよ」

 

 しかし、エクソシストたちの意気をコカビエルの一言は容易く打ち砕いた。

 

「な……に!?」

 

「そんなことあるわけない!!」

 

 驚愕し、そして反発する。それはエクソシスト、いや聖書の教えを信仰する者ならば当然するだろう反応をコカビエルは嗤い、そして嘲る。

 

「先の三大勢力の大戦で四大魔王が没したとされているが、やつらは神と相討ったのだ。故に、今も聖と魔のバランスが崩れており、そんなものが生まれる」

 

 コカビエルは佑斗の持つ聖魔剣を指しながら述べた。

 

「……とは言え、ミカエルを筆頭とする熾天使どもはよくやっているさ。長い間、その情報を漏らすことなく信徒たちから信仰を集め続け、『システム』を動かしているのだからな。………だから、神器システムのバグとされる『神滅具』が出現するのだろうよ。本来のシステム管理者がいるのなら、バグなど発生するまい。ましてや、神器の意義についていくつもの考えが横行することなど有り得ない」

 

 少し考えればわかることだろうに。コカビエルの語り口はまるでそう言いたげだった。

 

「そんな……」

 

「嘘よ、嘘……嘘嘘嘘嘘!?」

 

 絶望に暮れる二人のエクソシスト。その醜態を楽しみながらも、しかし、このあとに控えるメインディッシュに期待を抱く堕天使は、徐々に高度を落としながら本気を出すか前を取った。

 

「お前たちがどれだけ()つかは知らんが―――せめて、準備運動の相手くらいは務めてみせろよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くぞッ!!」

 

 地に足を着けたコカビエルは光の槍を一本作り出し、それを軽く握って構える。降下する最中につけていた狙いに向かって一息の間に肉薄する。

 

「最初の狙いは僕か!?」

 

 エクソシストの二人は精神的なショックから立ち直っていないため警戒する必要がなく、リアス・グレモリーと姫島朱乃は攻撃力不足であり脅威には成りえず、残りの面子は後方で待機を決め込むようなのでこれも後回し。

 故に、初めに狙うのは聖魔剣使いの木場佑斗となる。選択した理由は単なる消去法だが、しかし斬りかかるコカビエルの胸には心躍るものがあった。

 

「ああ、そうだとも。正直、聖魔剣という未知のものに興味がある」

 

 神器の研究を積極的に行う組織に属するだけあって、神器への造形も深いコカビエルだったが、その彼をして聖魔剣などという代物は初めて見る。しかも、その性能は統合されたエクスカリバーを超えることがつい先ほど証明されているのだ。どこまで出来るのか(・・・・・)、それを知りたくて戦士の血が疼いていた。

 振り下ろされる光の槍を、ドガンッ! と爆音染みた音を響かせて佑斗と呼ばれていた聖魔剣の担い手は受け止めた。しかしながら、フリードとの戦いで重傷を負っている身だ。受け止めた衝撃により、傷口が悪化し、血が大量に噴出する。

 

「ぐ、ぬぅ……!!」

 

 好調とは言い難いコンディションであり、しかも地面がひび割れるほどの衝撃を受けてもなお、屈することなく槍を押し返そうとする剣士の覚悟は見事なものだろう。しかし、精神論だけで勝てるほど戦いは甘くはないし、それを理由にコカビエルが手加減することなどあり得なかった。

 

「そら、脇腹がガラ空きだぞ!」

 

 ボキボキベキィ、と骨の砕ける音が、蹴りを入れた佑斗の脇腹から鳴る。十数メートルは軽く吹っ飛んでおきながら、しかし闘志を失わずに立とうとする。

 だが、骨が何本も砕け、十メートル以上も吹き飛ばされるほどの攻撃を受ければ、内蔵や筋肉にまでダメージがいくのは当然のことであり、聖魔剣を支えにして立ち上がった佑斗は吐血しながら再度倒れ込んでしまった。

 

「木場ぁ!」

 

 左腕に赤龍帝の籠手を付け、事態を後方から見守っていた茶髪の少年が声を上げた。

 コカビエルは、赤龍帝と戦えるのなら良いと、かかってこいとばかりに手を招いて挑発するが、少年の主に邪魔される。

 

「イッセー、駄目よ! あなたは自分の役割を全うしなさい!! アーシアさえいれば佑斗の傷も癒すことができるのだから! コカビエルは私と朱乃が倒す!!」

 

(口ぶりから察するに………後方で数人に守られたあの金髪の少女―――アーシアとやらが回復系の能力を持つのか)

 

 聖剣で深々と斬られ、たった今コカビエルの打撃で骨をいくつも粉砕された少年さえ癒すことができる、と断言されるほどの回復能力。それ程のレベルの回復能力者は、数千年の時を生きるコカビエルから見ても珍しいものだ。

 

「まあ、しかし見込みが甘いな。甘すぎる」

 

 目前でわざわざ敵の治癒を見逃す阿呆はいないし、リアスは『女王』とともにまるで自分を倒せる風なことを宣っていたが、つい先刻まで良い様にあしらわれていたのは誰だったか、そんなこともさえ忘れてしまっているらしい。

 

「消し飛びなさい!!」

 

「雷よ!!」

 

 馬鹿の一つ覚えそのものである。全力での魔力攻撃、それが通用しないことはすでに証明されている。あまりの愚劣さに意気を削がれたコカビエルは、ため息を零しながらその場から飛翔して二人の攻撃を回避する。

 中で旋回し、二人と自分の位置関係を確認し、より近いリアスを標的に定めて突貫した。

 

「くっ、もう一度!!」

 

 もう一度と言っているが、すでにもう一度どころではない。何度も破られた全力魔力攻撃を再度放つリアス。

 

「だから無駄だと言っているだろう」

 

 極大の魔力塊を前にして、あえてコカビエルは進路を変えずに真正面から攻める。荒々しい魔力制御故に密度の薄い場所を見極め、そこに槍を突き立て一息に穿った穴を通り抜け、リアスの眼前に姿を現す。

 

「なんですって!?」

 

 驚愕するリアスに、もはやコカビエルは呆れることさえ億劫だと、槍を無造作に振るった。血潮が夜空を舞い、紅髪の上級悪魔は地上へと落下していく。

 

「これで一人……味気ない」

 

「部長を! よくもッ!!」

 

 背後から怒声と共に放たれた雷を軽く回避して振り返れば、指先をコカビエルへ突き付け表情を大きく歪めた巫女姿の女王が雷を纏って漂っていた。

 

「……………それほど激昂するのなら、『雷光』を使えばいいだろうに」

 

「うるさいッ!! 私はあのヒトの力になんて頼らない!!」

 

「事ここに至ってもそれか……まあ、いい。手早く終わらせるぞ」

 

 準備運動にもならない、茶番など早々に終わらせるに限る。

 聖剣に斬られても尚、闘志を失うことのなかった『騎士』と比べてなんと脆く、愚劣な『王』と『女王』だろうか。片や格上相手に無策で真正面からの突進を決断する低能、もう一方は仲間と主の危機だというのに己の下らない拘りを捨てることのできない自己中心的女。

 

(どちらも他者の上に立てる器ではないな)

 

 自身に向かう雷撃の波を前にコカビエルは槍を逆手に持ち替えて構えた。身体は半身に、足を前後に開いて槍を担ぐ。大きく広がった雷によって視界の多くが塞がれているものの、馬鹿のように術者がその気配を垂れ流しているので目で確認するまでもなく狙いをつけることが可能だ。

 

「……悪魔に下っているとはいえ、戦友の娘だ。死なん程度に加減してやろう」

 

「ッ!?」

 

 投擲された槍は空気を斬り裂き、紙のように雷を貫いた。僅か一瞬さえ拮抗することができなかったことに驚愕し、身を固める朱乃の腹部に光の槍が突き刺さる。

 

「くっ、あ……わた、しは」

 

 最後まで言う前に意識を失い、落下していく黒髪の『女王』。その様を見るコカビエルが呟く。

 

「『王』と『女王』がまったく同じタイプというのはあまり賢い選択ではないだろう」

 

 リアスにしろ、朱乃にしろ、その戦闘力は魔力に依存している。攻撃は魔力による遠距離のものがメインであり、制御技術を不得手とする反面で力押しになりがちという点まで共通しているのだ。これでは、『王』と『女王』が同じ戦術で破られてしまう。

 最強の駒であり、側近としても『王』を支える『女王』ならば、『王』の手が届かないところで働く必要があるのに、これでは右腕には決してなり得ない。

 堕天使であれ、悪魔であれ、個体差の激しい異形の集団をまとめるトップには相応の実力が求められる。であるならば、『女王』と同一の戦術で破られる『王』など落第も良い所だ。

 

「魔王の妹、公爵家次期当主と言ってもこの程度か………悪魔も随分と腑抜けたらしい」

 

 平和な世。成程、それは素晴らしいものなのだろう。いくつもの悲劇を内包した戦乱の世に比べれば、楽園のように思う者もいるに違いない。しかし、危機意識が薄くなり、己を錬磨することがなくなる、それは平和が抱える大きな問題だ。

 

 どれだけ取り繕ったところで世の中の本質は弱肉強食である。戦う本能を忘れ、爪牙を失った獣など食われるのみ。

 

 現在の三大勢力などまさにそれだ。天界はシステムの維持だの何だのと言って軍事を疎かにしている。神が消えたことで残された上位天使たちの負担が増えたことは確かなのだろうが、それは力を蓄えることを怠っていい理由にはならない。ましてや、天界は全盛期において他神話の領域で散々聖書を広げて領土侵犯を行い、恨みを買っているのだから、報復されないためにも戦力の拡充は必須のはずだ。

悪魔は戦いを忘れないためと宣いレーティング・ゲームなどという遊戯に現を抜かす始末。命の保証がされた遊戯と生死を賭けた戦場はまるで別物だ、ルールを取り決め、指定された日時に、多くても数十人程度の規模で、囲われたフィールドの中で行われるスポーツが一体どれだけ軍事教練となるのか、甚だ疑問である。

そして、堕天使。グリゴリは元々研究機関であり、戦闘員が三大勢力の中でも最も少なかったが大戦で、それがより顕著となった。ならばこそ、戦士の質の向上と量の確保が急務であるというのに、幹部の大半が日和見主義であるために勢力の拡大を行う気がないのだ。『神の如き強者』として創造された、堕天使総督アザゼルに至っては、神器の研究に没頭するあまり実力が大いに下がるほどだ。

 

 大戦で大きく消耗した、三大勢力は全盛期ほどの力を持たない。このままでは過去の遺恨から、諸神話に戦いを挑まれれば容易く滅ぼされてしまう。三大勢力が生き残るためには、戦うための力を取り戻さなければならないのだ。

 

「……聖魔剣使いもここで脱落か」

 

 空中戦を制し、地に降りたコカビエルは佑斗に歩み寄り、その状態を確認する。

 手足が微かに動いていることから、依然意識を失っていないようだが、立ち上がるだけの体力は残っていないことが見て取れる。コカビエルが空中で戦っている間に、悪魔にとっては毒にも等しい聖剣の力が全身に回ったのだろう。時間を置いたところで、回復するどころか増々悪化していくのみだ。

 

(と、なれば態々止めを刺すまでもないか………残るは赤龍帝とその他のみ。……準備運動にさえならなかったな)

 

「ぜああああああああ!!」

 

 戦意を叫びに乗せて、デュランダル使いのゼノヴィアがコカビエルに斬りかかる。その潔さと戦意は、彼女がショックから立ち直ったかのように思えるが、それは的外れだ。

 今も尚、彼女の心には『主の死』という杭が突き刺さったままである。彼女を突き動かすのは、『エクソシストとしての使命』や『共闘した者を救うため』といった言い訳でいくら脚色されようとただの意地だ。いわば空元気に過ぎない。

 

「そんな鈍りきった刃で俺を斃せると、本当に思っていたのか?」

 

 振り下ろされる刃に対して、左右の二枚の黒翼を交差させて受け止める。しかしながら、最上級悪魔たるコカビエルには計十枚の翼があるのだ。残り八つの黒翼を操り、ゼノヴィアを上方、左右、正面から攻め立てる。

 

「くぅっ!!」

 

「そうだな。お前の武器は剣一つ。個の数は捌き切れず、躱しきるだけの技量もない。

―――となれば、後方に下がるしかあるまい?」

 

 距離を取ろうとゼノヴィアが跳躍したその時。すでにコカビエルは光の槍を構え、投擲の準備を終えていた。

 そうして放たれた光の槍に対して、ゼノヴィアは滞空しているために回避行動を取ることができない。選択肢は迎撃か、防御か。彼女が選んだのは前者だった。

 

「くっ、あああああああああああッ!」

 

 正真正銘、全力で振るわれたデュランダルが、真っ向から槍と激突する。家事場の馬鹿力と呼べばいいのか、その一閃は今夜彼女が振るった斬撃の中でも屈指の威力を誇るものだったが、なにぶん位置が悪かった。

 彼女が今、居る場所は空中だ。当然、踏みしめるものなど何もない。一瞬、剣と槍が拮抗するも、全力の斬撃がそれと同等以上の威力を持つ高速飛翔物体とぶつかったことで、ゼノヴィアの態勢が崩れてしまう。

 体勢が崩れれば、無論のこと、手で握る剣の向きや位置にも狂いが生じる。デュランダルの刃が滑るように、槍を捉え損なった。

 残るは、空中で回避もできず、迎撃にも失敗した無防備な少女が一人。その腹部を光の槍が無情にも貫き、ゼノヴィアの体躯を校庭の端にまで吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 コカビエルの胸には、ゼノヴィアを下したこと対する感慨はなかった。先代と比べれば、あまりに呆気ない、雑魚と言って差し支えない子供を斃して、むしろどう喜べばいいと言うのか。

倒れ伏したゼノヴィアから視線を切り、一誠、イリナ、小猫、アーシアといった残りの面々と正面から視線を交える。

 

「グレモリー眷属よ、俺は戦争を起こすぞッ!」

 

 三大勢力の戦う本能を呼び起こし、諸神話に滅ぼされることを防ぐために―――

 

「堕天使が三大勢力のトップに立つためにッ!」

 

 天使や悪魔では駄目なのだ。弱点が多すぎるトップなど何時倒れる分かったものではないのだから――――

 

「お前たちはその礎となれッ!!」

 

 回復薬の少女を守るために、逃げることを許されない者たちへ向けて、コカビエルは全力の投擲を見舞う。聖剣使いと赤龍帝が前に出て、相殺しようと力を溜めているが、明らかに実力不足である。幾らかは削られるだろうが、残った力だけでも十分に彼女らを吹き飛ばせる。

 

 勝利と理想への第一歩を踏みしめたことを確信し、笑みを漏らすコカビエル。

 

 敗北を悟り、己の無力さを痛感するグレモリー眷属とエクソシスト。

 

「そこまでです」

 

 勝者と敗者が決定づけられた戦場。そこに突然乱入してきた戦姫に誰もが注目する。

 一つにまとめられた銀色の髪が光を反射する様は、まるで夜空に煌めく星のようだ。蒼天よりも尚澄み渡る、切れ長の瞳は高潔さと意志の強さを示している。

女らしい起伏に富んだ肉体を包む衣服は、シンプルなレディーススーツ。飾り気がないからこそ、女自身の魅力が際立つ装いだった。

 

 ドガァァアアン! 上空から猛スピードで落下してきた女が着地したことにより、爆音染みた衝撃音が鳴る。その足元を中心に蜘蛛の巣状の亀裂が入るほどの衝撃、それは地面だけでなく女自身にも伝わっているはずだが、眉一つ動かすことなく平然としていた。

 

 女は迫る光の槍を前にして左腕に持った十字盾を構える。その判断に一瞬の躊躇もなく、回避は元より度外視していることが誰の目にも明らかだった。

 堕天使幹部コカビエルの一撃を前にして、その瞳には怯えの色は一切ない。

 

 そして、槍と盾が真っ向からぶつかり合った。

 

 衝撃波が一瞬の内に広がり、校舎の窓ガラスが一斉に割れる。グレモリー眷属と聖剣使いが情けなくも吹き飛ばされる一方で、件の盾使いの女はその場に根を下ろしたかの如く小動(こゆるぎ)もしない。

 

「ふ、ふは、はははははは! まだ余裕があるな? では、これならどうだ!? 壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)!!」

 

 瞬間。十字盾と鬩ぎあう光の槍が炸裂し、女の姿は光と土煙に呑み込まれた。

 一手取った。しかし、コカビエルが油断することはない。相手は、己の投槍を真正面から受け止めても尚、余裕を保つほどの女傑なのだ。不意を打った爆裂一つで打ち取れる、甘い戦士ではあるまい。

 

 推測を超えた確信。それに答えるかの如く、美しい声が煙の中から発せられる。

 

禁手化(バランス・ブレイク)

 

 土煙を引き裂いて現れた女の姿は、一新されていた。左腕の十字盾はそのままに、胸部や腰部、脚部と腕部といった部位にのみ鎧が装着されている。神器の形状から防御系だと考えていただけに、装甲の薄さと部分鎧であることに違和感を覚えるが、神器には使い手の想いに応えて変化する性質がある。あのような禁手(バランス・ブレイカー)となったのも、おそらくは使い手の意思に関してのことだろうと結論付ける。

 

主を守る不壊の盾(アンブロークン・クロス・ガードナー)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 後々この話も手直しすることになるかもですが、とりあえずの投稿でした。バルパンの退場、フリードのいつの間にかのフェードアウト、グレモリー眷属フルボッコ、コカビーの心情など、一気に展開が進みましたね! 

 そしてようやく登場する『戦車』さん。彼女を活躍させるか否か、今の段階に至ってもなお迷い気味というかなり優柔不断な私ですが………まあ、なんとかなるでしょう!(根拠皆無の謎の自信)



 名前:レイラ・ガードナー
 性別:女
 年齢:21
 属性:善
 駒:戦車
 称号:ヒト型城塞、くっ殺系女騎士
 保有する神器:不壊の十字盾(アンブロークン・クロス)

 銀髪をポニーテールにして纏めた北欧系美女。忠義天元突破勢の一角であり、その忠誠心はグラナが赤と言えば、敵兵を皆殺しにして地面を赤く染める程。尚、凶人一歩寸前の忠誠を除けば、真面目で義理堅い良識人でもある。

 保有する神器は、巨大な十字盾の『不壊の十字盾』。耐久力及び防御力の向上に始まり、障壁や結界の展開まで行える防御型神器。能力の応用により、対物理障壁やタイ魔術障壁、認識防御結界などを作ることも可能で防御面に関してはかなり多彩かつ優秀。ただし、それ以外の―――攻撃等に関する能力は一切有していないので、かなり尖った性質と言える。
 禁手は『主を守る不壊の盾』。本来の禁手は重厚な全身鎧を纏うものであり、レイラの部分鎧を纏う禁手は亜種。「重厚な鎧は防御力が向上するが、動きが鈍くなり、その結果として主の危機に間に合わないようでは盾として失格」というレイラの考えが反映されたために身軽な部分鎧を纏う形態となった。
 ちなみにその防御力はグラナの一派の中でも随一であり、全力時のグラナやヴァーリでさえ手間取るほど。

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