ハイスクールD×D 嫉妬の蛇   作:雑魚王

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8話 グレモリー眷属の死闘 Third

「つまらん」

 

 宙に浮かぶ玉座に悠然と座す堕天使は誰に向けるわけでもなく呟いた。彼の視線の先にいるのは、魔剣使いの少年とエクスカリバーの担い手たる少女、そして二人に相対する白髪の己が配下。

単純なスペックだけならば、前者の二人組はフリードに勝るとも劣らない。数の利を得ている現状ならば常に優勢のままに勝利してもおかしくないのだ。しかし、現実にはむしろフリードが押している。教会の保有する正規の聖剣使いが、よもや異端として追放されたはぐれエクソシストに同種の武器の扱いで負けるとは思わなんだ。魔剣使いの小僧は小手先の技ばかりで、基礎的な身体能力が足りない上に神器の扱いも未熟に過ぎる。

 

 

「見どころがまるでない勝負だ」

 

 大戦を生き残った歴戦の強者だと、正しく自覚するコカビエルは失望を禁じえなかった。教会は無論のこと、この土地を支配する悪魔たちも、聖剣を強奪した主犯は堕天使幹部だと知っていたはずなのに、刺客が三流以下の雑魚では興醒めだ。

 

「消し飛びなさいッ!!」

 

 同様のことが、たった今、魔力をコカビエルに向けて放ったリアス・グレモリーにも言える。

 

「たわけが。その程度で消せるのは、ゴミを漁ることしかできないはぐれ悪魔くらいのものだろう。この俺に通じるはずがない」

 

 組んでいた足を解き、魔力塊を無造作に蹴りつける。光力を纏ったわけでも、身体能力を高めたわけでもない蹴り。ただそれだけで、滅びの魔力で構成された砲弾は霧散する。

 

「滅びの魔力。大王バアルの家に伝わる特色だな。物質的な破壊に留まらず、魂まで無に還すその力は絶対攻撃能力と言っても過言ではない。………が、お前はそれを全く使いこなせていない」

 

 さしものコカビエルとて、絶対的な攻撃力の特性を有する魔力を真正面から生身で触れれば、無傷ではいられない。しかし、それも相手が一流だった場合に限られる。

例えば、魔力量が雀の涙ほどしかない相手が滅びの魔力を放ったところで、痛くも痒くもない。あるいは魔力を十分にその身に宿していても、正確に制御できていないのなら『滅び』の特性が存分に発揮されることもない。

リアスは典型的な後者のタイプだ。おそらくは、生まれながらに豊富な魔力に恵まれたのだろう。おまけにその特性は高い攻撃力を有する『滅び』である。大抵の相手はテキトウに魔力を放つだけで塵も残さずに消滅する。そのために魔力の操作技術を磨こうとしなかったのだ。

 

「大戦時には、それこそ初代バアルとも幾度となく戦った。奴の魔力に比べれば、お前の魔力なぞ綿毛も同然だ」

 

 ただの力押しで苦労もなく勝てるのなら、技術を磨こうと努力する理由も気概も湧くまい。無論、己の魔力ならばあらゆる敵を討ち滅ぼせるという考えなぞ傲慢そのものだ。

 

 ――故にこれはツケの清算だ。

 

 指をパチン! と鳴らし、小型の槍を数本創り出す。射出された槍の群れは、そのどれもがリアスに向かって飛んでいる。リアスは滅びの魔力を使って撃墜しようとするものの、槍は巧みに宙を舞って掻い潜る。

 

「それならッ!」

 

 迎撃が不可能ならば回避。翼を広げ、槍の軌道上から逃れようとするが、それは無駄だ。魔力による迎撃をものともしない機動力と操作性を有するのだから、鈍間を追い立てることなど造作もないのである。

 

 右に左に、上に下にと逃げ回るリアスを幾本もの光の槍が追尾する。それはさながら、獲物を追い詰める狼の群れと哀れな被捕食者の様相だ。

 

(身のこなしは粗雑、魔力の扱いは稚拙、身体能力は半端。唯一マトモだと言えるのは魔力の量くらいなものか)

 

 逃げまわるリアスを評する。隠し玉も無いようなので、これ(・・)が底なのだろう。何とも浅い底である。

 槍とリアスの逃走劇に楽しさを見いだせるほどの質はなく、戦力分析も終えたことでコカビエルは詰みにかかる。

 

「なっ!? まだ速度が上がるというの!?」

 

「馬鹿が。俺は堕天使幹部が一角コカビエルだぞ。これしきのことができずして何とする」

 

 リアスを追いかける光の速度は倍以上にまで跳ね上がるが、コカビエルにとっては児戯と言って良い。そして、この程度の事態に瞠目するのだから、リアス・グレモリーがどれほど堕天使の幹部を侮っていたかを露呈している。

 

「その愚かしさのツケを今、支払わせてやる」

 

 速度の増した槍から逃れることは難しく、防御のための障壁を張る時間もない。リアスが全身に傷を負い惨めに地面へと墜落する未来を確信し、口元に残虐な笑みを浮かべるコカビエル。

 

 しかし、その確信を邪魔する者が現れる。

 

「リアスは私が守ります!!」

 

 そう叫びながら、巫女装束に身を包んだ少女が横合いから雷撃を放ち、コカビエルの光の槍を消し去った。小型にしていたために耐久力が落ちていたか、と考察しつつ雷撃の主へと目を向ける。

 

「その雷撃、容姿ともに見覚えがある。バラキエルの娘だろう? よくよく母親に似ているが………。どうした、父親譲りの『雷光』は使わないのか?」

 

「私の前であの者の名を口にするなッ!!」

 

 ―――青いな。

 

 威勢良く啖呵を切って、主を守るために割って入った癖に、早々に己の感情に呑み込まれる。主が未熟ならば、眷属も未熟。この有様で堕天使幹部に挑もうというのだから笑わせる。

 

「さて――」

 

 朱乃とリアスから放たれる、雷撃と滅びの魔力を手の甲で弾く。

数時間前に戦った二人組こそがコカビエルの狙いなのだが、戦場に姿を現したのはグレモリー眷属。本命が来るまでの準備運動とばかりに遊んでやっているが、しかし本命が来ないのでは準備運動の意味もない。

 

「グレモリー眷属を半殺しにでもすれば来るか……?」

 

 自問するが、答えは何だってよかった。件の二人が現れないのであれば、グレモリー眷属を皆殺しにして戦争を巻き起こし、魔王たちとの戦いでも楽しめばいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グラウンドには四人の人影があった。

 グレモリー眷属の『僧侶』アーシア・アルジェント、『戦車』の塔上小猫、『兵士』の兵藤一誠、そしてエクスカリバーの担い手を務める紫藤イリナ。彼女たちが戦闘に参加しないのには、相応の理由がある。

 戦闘力が無い反面、回復能力に秀でたアーシアが下がるのは当然のこととして、残りの三人はアーシアの護衛なのだ。三人の戦闘員を護衛に費やすほどの価値がアーシアにはある。

 

 しかし、当の護衛の一人である一誠は忸怩たる思いで、二つの戦場を見ていた。

 一つは、リアスと朱乃がコカビエルと戦う上空。

 二つ目は、佑斗とゼノヴィアがフリードと戦う剣士勝負。

 そのどちらの戦いも、仲間と主が劣勢となり追い込まれているのだから、自然と拳を握る力が強くなる。

 

「クソっ、俺は何もできねえのかよ……」

 

「イッセーさん、ごめんなさい。私のせいで」

 

 背後に庇う少女の謝罪の声を聞き、慌てて前言を修正する。

 

「いや、アーシアのせいじゃないよ。勘違いさせるような言い方して悪かった」

 

アーシアの回復能力はそれこそ重傷でさえ治せてしまう。つまり、今、戦っている面々が大きな傷を負っても、再度立ち上がることができる。

そうしたアーシアの、ひいてはアーシアを守ることの重要性を理解しているがために一誠は飛び出していくことができない。

仲間を守るために共に戦いたい、しかし、仲間を癒すことのできるアーシアを放置するわけにもいかないというジレンマは、つい数ヶ月ほど前までは一般人に過ぎなかった一誠にとって難題そのものだった。

 

「イッセーくん」

 

 唇を血が流れるほどに噛み締める一誠に語り掛ける者がいた。名前を紫藤イリナ。ゼノヴィアと共にこの町にやってきたエクソシストでもあり、一誠の幼馴染でもある少女は、今や一誠とともにアーシアの護衛役を務めていた。

 

「イッセーくんの辛い気持ちは私もわかるよ。私だって仲間(ゼノヴィア)が戦っているのに、私は戦えていないんだもの」

 

 高い回復能力を有する反面、自衛や戦闘の手段を持たないアーシアを守るための二重の守り。赤龍帝とエクスカリバー使いを護衛役に押し込むほどの戦略的価値がアーシアにはある、それが指揮官たるリアスの判断だった。

 

「でもね、辛いからこそ信じるのよ。一緒に戦うことはできなくても、心が共に在ることはできるんだから! 私はゼノヴィアを、イッセーくんは木場くんを、これまで一緒に過ごしてきた仲間を信じましょ!!」

 

「彼女の言う通りです。佑斗先輩も伊達にリアス様の『騎士』を名乗ってはいません」

 

 イリナと小猫の言葉を聞き、一誠は己を恥じた。心配し、今にでも駆けだそうとする考えは仲間への信頼の裏切りに他ならない。それに、自分が参戦すれば戦況を好転させられるなど、傲慢にも程がある考えだ。

 そして何より、こうした考えが態度として表に出てしまうことで、護衛対象のアーシアに責任を感じさせてしまった。

 

 あまりにも考えが足りなかった。しかし、そのことで落ち込んでいる暇はない。

 

 ――バチン!

 

 両頬を引っ叩き気合を入れ直す一誠。心の内から迷いと焦燥を追い出し、目を覚まさせてくれた幼馴染へと礼を言う。

 

「ありがとな、イリナ、小猫ちゃん。俺が間違ってたよ」

 

「気にしないで、イッセーくん。イッセーくんも私の仲間なんだから 」

 

「歳はイッセー先輩のほうが上ですけど、悪魔歴では私のほうが先輩ですから。後輩を導くのは先輩の義務です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッはぁ、はぁ……」

 

 佑斗は、もはや右手に握る魔剣を杖代わりにしてようやく立っているような状態だった。袈裟斬りにされた胸の傷からは絶えず肉を焼く煙と血液が噴出し、左手を当てても指の隙間から溢れるそれらの勢いは留まるところを知らない。

 端的に言って、重傷。傷の深さはもちろんのこと、毒のように苛む聖剣の力が全身に回り、強烈な倦怠感や目眩まで引き起こす始末。どうやっても戦えるような体ではない。

 

「ひゃっはぁあああ!!! 死んでおくんなせえよぉ、悪魔くん!!」

 

 そして、そんなことを気にしないのが白髪のはぐれ神父だった。相手が傷ついて動けないのならぶった斬る。傷を付けた攻撃が誇りも糞もない不意打ちであろうが何のその。むしろ、手段を選ばずに悪魔を殺すのは強い正義の顕れだ。

 神などまるで信じる気のないフリードだが、しかし、自分が高揚し愉悦するためだけに都合よく引っ張り出してきて、テキトウ極まりない理論武装を展開する。

 

「どこかのお空にいる神様ちゃん、今から悪魔をコロコロする俺っちの活躍を見ててちょいな! 褒美に金と金と金と金を空から落としてくれるとなお良し!! 信仰が倍プッシュとなりますぜぇぇえええええええええ!!!!!」

 

 俗な欲望に塗れ切った信仰に宿る価値などゼロに違いない。倍にしたところでゼロはゼロだ。いや、信仰を汚すという意味で、フリードの言葉はマイナス値に突入していると言ってもいい。

 ならば、フリードの凶刃を、青髪のエクソシストが止めるのも道理である。

 

「信仰を汚す貴様を私が見逃すはずがないだろう!!」

 

 「おろろろん? 悪魔くんを庇うなんていけないんだー。背信者の君は、俺っちがちゃああああんと断罪してあげるから感謝してね!!」

 

「誰がお前なぞに感謝するか! そんなことをするくらいなら死んだほうがマシだ!」

 

 負傷した佑斗を背に庇いながら、ゼノヴィアはフリードと斬り結ぶ。しかし、それは先の剣戟の焼き直しでしかない。

 ゼノヴィアの持つ破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)では、三つのエクスカリバーを統合したフリードの操る聖剣には勝てないのだ。

 二度躱し、三度弾き、一度反撃する。その間にゼノヴィアはいくつもの傷を負う。対して、フリードは全ての攻撃を見事に捌ききっていた。彼我の差は一目瞭然、フリードは余裕の笑みを浮かべているが、ゼノヴィアは眉根を寄せ苦しんでいることが明らかだ。

 

「無理だって。無理無理。どうやったら君の聖剣ちゃんで俺の聖剣ちゃんに勝てんのさ。そもそもの性能が段違いだってさっきも言ったし見せたじゃん。それがまだわかんないの? あ、そっか! 君、いかにも馬鹿そうだしねぇ、脳みそ筋肉って感じで。理解するだけの頭がないのか、メスゴリラちゃん」

 

 ふー、やれやれ。そう言いたげに嘆息するフルード。元からあまり気が長い性質ではないゼノヴィアは眉の谷の上に、青筋の山脈を浮き上がらせる。

 

「人を馬鹿にするのもいい加減にしろ!! そして我々エクソシストは勝算があるから戦場に立つのではない!! 人を守り、救済する。その理念の実現のために戦場に立っている。例え勝算がなかろうとも、それが諦める理由にはならない!!」

 

 猛りに応じて更なるオーラを発する聖剣を一閃するゼノヴィア。その一撃は余波だけでも大地を抉るほどの一撃であり、武器の性能で勝るフリードをして回避を選択させるものだった。

 武器の性能はフリードの持つ聖剣が勝る。つまり、フリードが感じた驚異の理由を武器の性能だと言い訳することはできない。単純な才能の差、聖剣因子の結晶を取り込んだのは同じであっても、元からあった剣士としての、戦士としての才能ではゼノヴィアが勝ることの証左であった。

 そのことがフリードを苛立たせる。聖剣使いのエリートとして持て囃され、甘やかされてきたエクソシスト如きに、己が劣ることを認められない。

 

「ハッ! ぶっ殺してやんぜ!!」

 

 ――故に殺す。

 

 ありったけの殺意を込めた一撃。それは歴戦のフリードをして、過去最高の一撃と呼べるものだ。鋭く、速く、故に強い。身体能力と技術が揃い、振るわれる獲物は伝説の聖剣。

 

「舐めるなッ!!」

 

 必勝を確信するフリードの一撃を、ゼノヴィは裂帛の気合を以て弾く。フリードが剣に載せる想いが殺意ならば、ゼノヴィアは信念を載せている。その想いの強さは勝るとも劣らないものだ。

 大きく態勢を崩すフリード。好機とばかりに間合いを詰めたゼノヴィアは、フリードと剣を交えながらも佑斗に向かって檄を飛ばす。

 

「何を惚けている、木場佑斗! お前にも譲れない想いがあるはずだろう! 長年追い続けていた聖剣を前にしながらも、たった一度斬られた程度で足を止める程度のものだったのか、その想いは!?」

 

「そんなわけッ、ないだろう……!!」

 

 悪魔にとって聖剣の一撃は猛毒にも等しい。それを受けた痛みがどれほどかわかっていないゼノヴィアの言葉は、勝手な物言いだ。しかし、そこまで言われて奮起できないほど、グレモリー眷属の『騎士』は腰抜けではない。

 激痛に苛まれながらも、戦意を滾らせ剣を握る手の力を強める。支えを失い傷の痛みが増すことも厭わずに剣を引き抜いた。向ける先は、フリードの背後に佇む怨敵、バルパーガルレイ。

 

「僕は、あなたが行った聖剣計画の生き残りだ。

失敗作として処分されそうになったあの日のことは今でも昨日のことのように思い出せる。毒ガスを吸った苦しみ、次々と倒れていく同胞たちの姿、助けの声に耳を傾けずにガスを撒き続ける大人たち。………何年経とうとも消えてはくれなかったこの恨み、今日ここで晴らさせてもらう!!」

 

「ほう、一人逃げ出した実験体がいたとは聞いていたが……まさか悪魔に転生して生き延びていようとはな」

 

 それは予想外、とバルパーは顎を摩りながら感心するように声を出した。

 

「これでも私はお前たちに感謝しているのだぞ? あの実験があったからこそ、人工的に聖剣使いを生み出すことが可能となったのだからな」

 

「……? どういうことだ? あなたは僕たちを失敗作として処分しようとしたじゃないか」

 

「私と部下の研究チームは、研究を進める中で、聖剣を扱うにはある因子が必要だということに気づいた。お前たち実験体にもその因子はあったが、残念なことに聖剣を扱うに足る量ではない。では、どうするか? 答えは簡単だよ。足りないのなら他所から持ってきて合わせればいい」

 

「……それでは、僕たちを殺そうとしたのは……?」

 

「お前が脳裏に描いている通りだとも。因子を取り出すために殺したのだ。まあ、あの甘いミカエルのことだ。今では殺さずに因子を取り出す方法を編み出しているのだろうが……、その大元の功績を築いた私を追放しおって。まったく忌々しい」

 

 バルパーの熾天使への恨み言はもはや佑斗の耳には届いていなかった。彼の心中を支配するのは、あまりにも身勝手なバルパーたち実験関係者への怒りのみだ。

 

(自分たちの都合で集めておいて、今度は自分たちの都合で殺す? ヒトの命を何だと思ってるんだ!?)

 

 施設での暮らしは辛いこともあったし、苦しいこともあった。しかし、仲間と励ましあい、毎日を必死に生きていたのだ。そこにはただの数値や文字では表せない、『命』があった。

 それを目の前の男とその部下は、まるで何の価値もないかのように、中身(因子)を取り出すためだけに放り捨てたのだ。

 

 ――許せるはずがない。

 

 一体、いつから剣を交わすのを止めていたのか。バルパーと佑斗の話に、ゼノヴィアとフリードも耳を傾けていた。

 

「私たちの受けた祝福が、まさか、そんな!?」

 

 ゼノヴィアは、自分がかつて受け入れた因子の由来に愕然としつつも、バルパーの外道そのものの行いに憤慨し、構えた聖剣が震えるほどの怒りを放っている。

 

「ほほ~ん。因子がどうやってできるのかとか初めて聞いたけど、そういう感じだったのねん。ま、あれっすわな、世の中そう美味い話はない的な?

そういや、俺っちも因子を入れちゃてるわけだけど、これってあれじゃん? 彼らの魂は俺が継ぐ!!って主人公ぽいじゃん!! さすが俺!!!」

 

 対してフリードの反応は、佑斗やゼノヴィアのそれとは正反対と言えるものだった。特殊な出生を持つためか、聖剣に妙な幻想を抱くこともなく、ある種達観したような視点を持っている。しかし、ネジの外れた思考がその全てを台無し似している辺りが、フリードがフリードたる所以だろう。

 

「ってか、あれじゃん? 天使サマだか教皇サマだか知んねーけど、どこぞの誰かが自分の体の中に入れてくる物を全く疑わずに何年も過ごすとか………教会の聖剣使いってアホなん?」

 

 斯く言うフリードは因子を体に取り込む前に、何重にも渡ってバルパーと魔術契約を結び、保険に保険を重ねている。これによって、フリードはバルパーに意図的に害されることがなくなり、万が一、害が及べば馬車馬の如く働いて害を取り除くことを強制することを可能とする。

 体内に取り込む物に、爆弾のような妙な仕掛けでもされたら堪ったものではない。ならばむしろこの程度の用心は当然である、というのがフリードの考えだ。

 

「くっ……」

 

 唇を噛み締めるばかりのゼノヴィアを、フリードは腹を抱えて笑い、バルパーまでもが失笑を漏らす。

 

「聖剣使いだのエリートだのと呼ばれても所詮は世間知らずの小娘か。いや、その方が教会の上層部や天界にとっては都合が良いのか。象徴(シンボル)たる聖剣を担う者は必然人々の憧憬を集め易いから、妙な知恵でも付けられたら厄介極まりない存在になるものな」

 

「そんな……まさか私が裏切るかもしれないと上層部や天使様は考えておられたと言うのか!?」

 

「でなければ、知恵を与えない理由が他にあるのか? まあ、教会の連中や天界が何を考えているかなど私には瑣末なことだ。どうでもいい。それよりな、魔剣使いの少年よ。君と仲間のおかげで聖剣の研究が進んだことに礼を言いたい」

 

 バルパーは懐から手のひら大の結晶を取り出すと、佑斗に向かって放り投げた。決勝は地面に落ち、コロコロと転がり佑斗の足元にまで辿り着く。

 結晶を拾い上げた佑斗は呆然としながらも、その正体が何であるのかを瞬時に看破していた。全身を震わせ、嗚咽を漏らしながら、答えを口にする。

 

「これが……仲間たちから、取り出した因子なのか」

 

「ああ、正確にはその最後の一つだよ。他のものはフリードに使ってしまったからな」

 

 無感動な声は、声の主が因子のことを何とも思っていない証左だ。しかし、今の佑斗はその程度のことで怒りを燃やさなかった。

 かつて失ってしまった同胞。彼ら彼女らは佑斗の身を庇ってくれたが、当の佑斗は彼らを見捨てたのではないか、という猜疑をいつの間にか抱え込んでいた。日に日に増していく後悔と罪悪感、それらが復讐心を萎えさせることがなかった一因であることは言うまでもない。

 そして、後悔と罪悪感の大きさは、亡き同胞たちへの想いの大きさとも言える。もはや会えないと思っていた、その同胞たちと再会できたのだ。胸中を満たすどころか溢れ出すほどの歓喜に、佑斗は涙を流した。

 

「ああッ、みんながここにいるんだ……ッ!!」

 

 すると、胸に抱きしめた、因子の結晶から光の珠がいくつも溢れ出し、人型となって佑斗を取り囲む。彼ら彼女らは外見年齢こそ同程度であるが、肌の色や顔の堀の深さは別々であり、様々な人種であることが察せられた。彼らこそが、佑斗と同じく世界中から実験のために集められた、聖剣計画の被害者だ。

 

『――――』

 

 お世辞にも幸福な生涯を送ったとは言えない同胞たち。しかし、彼らの口から出るのは恨み言ではなかった。

 

『――――』

 

 それは祈りであり、唄だ。

 

『――――』

 

 彼らが紡ぐのは、どこまでいこうと言葉でしかない。しかし、そこに込められた真摯なる想いが聞く者の心を揺さぶる。

 その影響が最も大きいのはもちろん、彼らと過去を共有し、彼らへの想いを積み重ねていた佑斗だ。

 

「ああ、そうか」

 

 佑斗の周囲で歌っていた人影が空へと上り、一つの塊となって佑斗目掛けて落ちていく。光の中、佑斗の声が校庭に響く。

 

「僕は剣

になる 部長、そして仲間たちの剣になる! 今こそ僕の想いに答えてくれ、魔剣創造(ソード・ヴァース)ッッ!!」

 

 掲げた右腕へと集まっていく力の奔流。やがて、それは一つの剣として形を成した。

 

「―――禁手、『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビストレイヤー)』。聖と魔を有する剣の力、その身で受けるといい」

 

 そう告げると、剣を止めていたフリードに向かって佑斗は駆け出した。

 それを横目で確かめるゼノヴィアは切り札を使うことを決意し、呪文の詠唱を開始した。

 

「ペテロ、パシレウス、ディオニュシウス、そして聖母マリアよ。我が声に耳を傾けてくれ――――この刃に宿りしセイントの御名において我は解放する。デュランダル!!」

 

 破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)を手放し、本来の獲物を手にしたゼノヴィア。その実力は先ほどまでの比ではない。

 

「木場佑斗、あまり動くと傷が開くぞ?」

 

「お生憎様、悪魔は頑丈でね。この程度の傷で倒れることなんてないさ!」

 

 ゼノヴィアは挑発するように語りかけ、佑斗は笑みを返す。最高の武器を手にし、戦意の高まった二人の剣士を相手に、フリードは徐々に押されていく。

 

「くっ、土壇場で覚醒と切り札開放て、どんなご都合主義展開だ、コラァ! エクスカリバーちゃんも悲鳴あげちゃってるじゃねえか!?」

 

 防戦一方となったフリードの抗議に、耳を傾けることはなく、佑斗たちはさらに攻め立てていく。

 

「それが真のエクスカリバーならば勝てなかっただろうね。―――でも、そのエクスカリバーでは、僕と同志たちの想いは断てない!!!」

 

 フリードの持つ聖剣は三つのエクスカリバーを統合したものだ。その性能は折り紙付きだが、今回は相手が悪かった。

 デュランダルは本来のエクスカリバーと同等の性能を持つため、デュランダル一本の相手でさえ難しい。そこに聖魔剣の加勢まであるのだ。単純に質と量でフリードとその獲物は負けている。

 すでに勝負は決まったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――と、聖剣使いや堕天使幹部の戦いを眺める二人組がいた。

 場所は駒王学園の屋上。上空で戦うコカビエルやリアスたちからは丸見えの位置でありながらも、二人を認識する者はいない(・・・・・・・・・)

 

「聖魔剣、ねぇ……前例がねえから、性能は何とも言い難いな」

 

 一人は二十歳前後の青年だ。短く切り揃えた金髪と鋭利な金眼が夜の闇の中でも輝きを放つ。服の上からでも察せるほどに鍛えられた肉体と、まるでブレることのない重心が、彼が相当な武を嗜む者であることを告げていた。

 

「現状見る限りでは、統合された聖剣ともそれなりに打ち合えていますし、鈍らというわけではなさそうですが……」

 

 二人目は青年と同じほどの年頃に見える美女だ。銀色の髪を一つにまとめ、主の意に沿わんとする立ち振る舞いは、まさに騎士のそれ。

目を引くのは、左腕に構えられた巨大な十字盾。持ち主の女の全身を覆えるほどの大きさとそれに見合うだけの厚さがあり、重量も相当なものだと窺える。それだけに、彼女が左腕一つでその巨大な盾を構える姿は異常と言えた。

 

「ありゃ剣士の腕がどっちも一流ってほどじゃねえしなぁ、ちっとばかし判断材料としちゃ弱い。それに神器は所有者の想いによって変化する特性がある。どれだけ伸びるのか、上限はどれくらいなのかは、今後の活躍を見るしかないだろうな」

 

 青年の名はグラナ・レヴィアタン。腰に下げた刀剣の柄を指先でコツコツと叩きながら、グレモリー眷属の『騎士』が至った禁手を分析する。

 

「成程。確かにそうですね」

 

 聖魔剣についてはこれまで、とばかりに視線を青髪の剣士へと向けたグラナの顔に呆れが滲み出る。

 

「しかし………教会のエクソシストが使ってんのはデュランダル、と。発現したばかりの力と同程度の性能しか発揮させることができないって、使い手としてヤバくないか……?」

 

 デュランダルは数多ある聖剣の中でもトップクラスの知名度と性能を誇る代物だ。それがまさか、聖書の神が作った神器の禁手とはいえ、発現したばかりの力と張り合える程度の能力しか発揮していないのだ。使い手の技量不足が際立っていた。武器の性能に使い手がまるで追いついていないことの証左である。

 

「魔性から恐れられる教会の斬り姫とやらの化けの皮が剥がれましたね。所詮は武器だよりの小娘ということでしょう」

 

「だな。あれじゃあ斬り姫っつうより、力任せに武器を振り回すだけのメスゴリラだ。……いや、それも過大評価か。振り回すどころか振り回されてるしな」

 

 剣士とは剣を使いこなす者のことだ。剣を使いこなす、使う、扱う、振る、振り回す、その段階に至ることなく、武器の性能に振り回されるだけでは剣士としてのスタートラインにも立てていない。

 

「まあ、そんな有様であれだけドヤ顔できるんだ。その面の皮の厚さだけは一人前だろうよ」

 

「悪く言えば単なる馬鹿ですが、良く言えば自信家。メンタルが実力に与える影響は馬鹿にできませんし、経験を積んでいけば大成する可能性もありますか……」

 

「そのためには偶然と奇跡が山のように積もる必要があるだろうけどな」

 

 グラナは唇を歪めながら揶揄し、レイラもそれに首肯を返す。戦場を至近で眺めながらも緊張感を滲ませない秘密はレイラにあった。

 レイラ・ガードナーは他者とチームを組んで真価を発揮する、サポートに秀でた女傑だ。その能力は単純で、一言で言い表せる。

 

 即ち、『防御特化』だ。

 

 レイラは攻撃能力の一切を持たない。速度を上昇させる術もなければ、幻術を操ることもできない。彼女にできることは己の神器たる十字盾による防御のみ。

 特化しているためにできることが少ないというのは、彼女に関しては当て嵌らない。むしろ、極めた技術の応用性は非常に高く、特化しているからこそできることが多いのだ。

 

 現在、グラナとレイラの二人が誰にも気づかれずに悠々と観戦することができる理由もそこにある。

 

 そもそも、『防御』とは何であるか。頓智のような回答を出すひねくれ者も中にはいるだろうが、一般的には『攻撃を防ぐこと』と答えるだろう。

 では、『攻撃』とは何か。殴打などの物理攻撃はもちろんとして、神器や魔術による傷害も『攻撃』に含まれるだろう。仮に『他者を障害する手段、及び行為』が『攻撃』だとするならば、魔眼や念動力の発動条件である『視線』や『認識』もまた『攻撃』の範疇に収まるだろう。ならば―――

 

 ―――『視線』や『認識』が『攻撃』なら、『防御』することもできるはず。

 

 今、校舎全体を囲い、コカビエルたちが二人を認識できないようにしている大結界は、そんなこじつけに近い無茶苦茶理論から生まれたものだ。

 視覚で捉えることも、聴覚で捉えることも、嗅覚で捉えることも、認識することも敵わない。

 恐るべきは、それを実現してしまうレイラの才覚か。あるいはそこに至らせる精神力か。はたまた、その精神の影響を受けて、防御に更に特化する方向へと変化を遂げた神器か。

 

 いくつもの偶然が積み重なって生まれた、この言うなれば『認識防御結界』だが、実はかなり有用性がある。

 

 第一に、結界を展開するレイラの神器が防御特化型ということもあり、結界の強度(性能)が非常に高い。裏の世界では、この結界と似て非なる認識阻害結界なるものが出回っているが、その結界と比べると強度、効果の差が非常に大きいことが容易に理解できる。

 

 第二に、『認識防御結界』はレイラの独自技でありかつ主の意向から周囲に広めようとしないため、その存在自体が知られていない。

ヒトは物事に直面した際、対策を立てるが、そのためには情報が必須となる。解毒剤を作るのなら毒の性質を調査する必要があるし、政治を行うのなら国全体に目を向けなければならない。

 しかし、『認識防御結界』は前述したように、その存在そのものが知られていないのだ。これでは対策の施しようもない。

 

 結界の純粋な強度。情報を一切漏らさない周到さ。

 

 その二つの要素により、『認識防御結界』を破ることができた者は過去に一人としていない。無論、校庭と上空で戦闘に集中するコカビエルやグレモリー眷属たちが見破ることなど到底できるはずもなかった。

 

「俺たちの出番はもう少し後になりそうだな」

 

 結界に守られた屋上から、二人は気軽に談笑しながら観戦を続ける。

 グラナたちに気づくことができないコカビエルとグレモリー眷属と、コカビエルとグレモリー眷属を終始掌の上で躍らせる(・・・・・・・・・・)グラナたち。

 

そこには覆しようのない格の差があった。

 




 ぶっちゃけグレモリー眷属の戦いが面倒になってきたので巻きでお送りした今回のお話。さて、実はとっくに現地にインしていたグラナくんたち、眷属の若干頭のおかしい能力から彼らの凄さが伝わってほしいぜ!
 ちなみに次回でグレモリー眷属の死闘(笑)もようやく終わり、本当の意味でのクライマックスになります。この小説は俺TUEEEものです。引くくらい主人公が無双するので、その凄さをうまく伝えられたらなぁと思う今日この頃。

 シーユーアゲインです!!

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