ハイスクールD×D 嫉妬の蛇   作:雑魚王

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 あ~、最近は本当に暑いですね。朝なんて寝苦しくて無駄に早起きしちゃって、睡眠不足に陥るくらいですよ。おかげで大学の講義で居眠り連発……期末試験近いから、これはヤバい。



6話 グレモリー眷属の死闘 First

 場所は駒王学園前。日はすでに沈み、辺りは夜の帳に閉ざされている。昼間とは一風変わった雰囲気を醸し出す学園は、巨大な結界で覆われていた。それもその筈、今日これから、グレモリー眷属は堕天使幹部が一角たるコカビエルと交戦するのだから、その被害を出さないためにシトリー眷属が結界を張り、サポートに徹しているのだ。

 

 理解していたこととはいえ、こうして”戦う準備”の整った学園を見ると緊張を抑えきれない。グレモリー眷属の『兵士』兵藤一誠は顔が強張るのを自覚する。

 

 先刻、兵藤家にまで宣戦布告をしに来たコカビエルを見た際のプレッシャーには圧倒された。これまで堕天使幹部と聞いても、どうにもピンとこなかった強さをようやく察したのだ。

 自身は最強の赤龍帝を宿している転生悪魔であり、つい先日にも上級悪魔の一人であるライザー・フェニックスを打倒した。そのせいで、我知らずのうちに調子に乗っていたのかもしれない。

 早い話が慢心していた。油断していた。レイナーレのときのように、ライザーのときのように、心のどこかでは”どうにかなるだろう”と楽観視してしまっていた。

 

 死線を前にして、そのことをどうしようもない程に理解させられる。

どうして、もっと努力してこなかったのだと後悔する。

ここで死ぬのかもしれないと恐怖を覚える。

絶望的な戦いを前にして緊張は増すばかりだ。

頼りになる仲間たちを見回してみても、それは変わらない。むしろ、尊敬する先輩方までもが、緊張を隠せていないことを感じ取り、己の中の不安が肥大化していった。

 

「部長、あいつに――コカビエルに勝てるんですか……?」

 

「イッセー、勝てるかどうかじゃないの。私はこの町を治めるリアス・グレモリー、あなたはその眷属。勝たなければいけないのよ、この町の平穏を守るためにね」

 

 そう言ってリアスは微笑む。その笑みは、常日頃彼女が浮かべている自身に溢れたものではなく、不安と緊張に彩られた歪なものだった。

 それを見て、一誠は後悔に囚われる。

公爵家次期当主であろうと、魔王の妹であろうと、上級悪魔の一人であろうとも、リアス・グレモリーは一人の少女なのだ。神話に記される、遥か格上の敵との戦いを前に恐怖を覚えないわけがない。そんなことにも気づけずに、あまつさえ甘えてしまうなど、男として恰好悪すぎるではないか。

 

 

「部長、魔王様に連絡を入れましたわ。援軍は一時間後に到着するそうです」

 

 一誠が陰鬱とした気分に沈む中、鈴の音のような声が響く。

声の聞こえてきた方向へと目を向けると、そこに立っていたのは予想に違わない女性だ。夜空のように深い黑髪を頭の後ろで一つに束ね、男を誘惑するような凹凸に富んだ肢体を学園の制服に包んだ『女王』。彼女のトレードマークとも言える優し気な笑みは影を潜め、その顔つきは真剣そのもの、『女王』の名に相応しいものだった。

 

「朱乃! あなた、どうしてそんな勝手なことを!?」

 

「リアス、事態はもう私たち若手悪魔の手に負える段階じゃないわ。魔王様に迷惑をかけたくないあなたの気持ちもわかるけど、応援を要請すべきよ」

 

 目をきつく閉じ、唇を固く引き結んだ『(キング)』の心境は如何なるものか。

 そのままの状態で数秒経ち、目を再度開いたリアスが大きく息をついた。

 

「………ありがとう、朱乃。冷静じゃなくなっていたわ」

 

「はい、部長」

 

 誇り高い『(キング)』と、それを支える『女王(クイーン)』。上級悪魔となり眷属を持つことを夢見る身として、一誠はその光景に憧れた。忘れるまいと目に焼き付ける。

 

「敵は堕天使幹部コカビエル。その力は強力無比、けれど全く抵抗できないわけじゃないわ。魔王様が来るまで持ちこたえてあげましょう、私の可愛い下僕たち!!」

 

『はいっ!!』

 

 『女王』姫島朱乃、『戦車』塔上小猫、『僧侶』アーシア・アルジェント、そして『兵士』兵藤一誠。この場に集った、リアス・グレモリーの眷属は声をそろえて返事をして気合を入れる。

 

 不安はある。恐怖もある。けれど、仲間がいれば前に進めるのだ。

 

「リアス、任せましたよ」

 

「ソーナ、お互いに頑張りましょう」

 

 協力し合う『(キング)』同士が激励を交わす。それは配下たちも同様だった。

 

「兵藤、一発かましてやれよ!」

 

「おう! 匙、任せとけ!!」

 

 一誠はほぼ同時期にシトリー眷属入りを果たした匙と、朱乃、小猫、アーシアもそれぞれが交友のあるシトリー眷属と言葉を交わし、固めた決意を胸に、コカビエルの待つ戦場(校庭)へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふはははは! よく来たな、グレモリー眷属の諸君。リアス・グレモリー嬢、貴様の紅髪は忌々しい兄君を思い出させてくれるよ」

 

 遥か上空にて、椅子に座って悠然とグレモリー眷属を見下ろす黒髪の男。彼が発する圧は、一誠が左腕を犠牲してようやく勝利できたライザーを軽く超えていた。

 その威圧を一誠だけでなく、リアスも感じていたはずだ。けれど、彼女は臆することなく、コカビエルを睨みつけて宣言する。

 

「御機嫌よう、堕天使幹部の一人コカビエル。私たちが来たからには、あなたの悪事もこれまでよ。――グレモリー公爵家の名において、消し飛ばしてあげるわ!!」

 

「ふふん、それができるかどうか、まずは試してやるとしようか」

 

 パチン、とコカビエルが指を鳴らすと校庭にいくつもの魔方陣が展開され、そこから三つ首の魔犬が這い出してきた。

 

「俺のペットたちだ。可愛がってくれ」

 

「ケルベロス! なんてものを人間界に持ち込むの!?」

 

 三つ首の魔犬――ケルベロスは有名だ。昨今ではゲームや漫画などにも頻繁に取り上げられ、一誠も何度か耳にしたことがある。

 召喚されたケルベロスは五頭。この場にいるグレモリー眷属は、リアス、朱乃、小猫、アーシア、一誠の五名で、数ならば互角ではあるのだが、アーシアは回復専門の非戦闘員だ。よって数で劣ると考えても良いだろう。

 そしてこのケルベロスたちを打倒した先にこそ、本来の目的たるコカビエルがいるのだ。ケルベロスとの戦闘で消耗した状態で、圧倒的強者たるコカビエルに勝てるのか、不安は尽きない。

 

「ぅわっと!? 危ねえ!?」

 

 ファイティングポーズを取り、出方を窺っていた一誠を目がけて放たれる火炎ブレス。前もって警戒していたために躱せたが、消し炭になっていただろう熱量である。熱せられたことと、死の危険を感じたことで額には汗が浮かぶ一誠に、主からの指示が届く。

 

「イッセー、あなたは一旦下がってアーシアを守っていて頂戴! その間に力を倍加して譲渡の準備もお願い!」

 

「――了解です!!」

 

 敵の脅威に怯えている暇はない。回復役のアーシアは戦闘において重要な反面、本人に戦闘能力がないことから狙われやすい。ならば、誰かが守らねばならない。その使命を、リアスは一斉に託したのだ。その期待に背きたくない、応えたい。

 

 アーシアを手振りで下がらせ、すぐに一誠も追いつく。一旦下がったことで戦場全体を見渡せるようになり、すかさず状況を確認していった。

 

 まず唯一の前衛となった小猫。彼女はその身に宿した『戦車(ルーク)』の駒の特性をフルに発揮して、ケルベロスと真っ向から肉弾戦を演じている。

 火炎を躱し、爪牙を受け止め、お返しとばかりに殴りつける。小猫の拳は、体格差を覆してケルベロスを大きくのけぞらせていた。一発一発のダメージが大きく、高い防御力と合わさって直に決着はつくはずだ。

 

 次に『雷の巫女』の二つ名を与えられる朱乃。彼女はその二つ名の通りに、幾条もの雷を操っている。生体によく通る雷は、毛皮、筋肉、骨に至るまで損傷させる。痺れて動きの鈍ったケルベロスに、サディスト全開の笑みを浮かべた朱乃は追撃を繰り返す。朱乃の笑顔が怖いことを除けば何の問題もない。

 

 最後に、オカルト研究部の部長にして『(キング)』のリアスだ。彼女の戦闘スタイルは『滅び』の魔力をぶっ放すという、雷で遠距離攻撃する朱乃と似通ったものがある。スタイルが近く、実力もほぼ同等ならば、結果も同じようになるのが道理だ。リアスも朱乃同様に、ケルベロスの爪牙の届かない一から攻撃を仕掛けて終始、有利に戦いを進めていく。

 

 仲間たちの状況を把握した、一誠は拳を握る。自身とアーシアの元へと向かってくるケルベロスの姿を見つけたからだ。

 

「アーシア、心配するな。俺が絶対に守ってやるから」

 

「……イッセーさん」

 

 今の一誠は、アーシアの前に背を向けて立っているので、彼女の顔を見ることはできない。だが、か細く震えた声から、不安げな顔をしているだろうが理解できる。

 その曇った顔を晴らすのが一誠の役割だ。仲間たちの奮戦を前にして、滾ることがなければ、それは最早兵藤一誠ではない。

 

『Boost!』

 

 左腕に装着した『赤龍帝の籠手』が倍加を告げる。今、その効果を発揮させたところで、自力の低い一誠では、ケルベロスを打倒できない。

 

 ――だから、躱す。

 

『Boost!』

 

 躱して躱して躱し続け、その中で倍加の効果を溜め続けていく。

 

『Boost!』

 

一度でも攻撃をするか、あるいは当てられてしまえば解除されてしまうだけに精神をすり減らしながらの作戦だが、その実りは大きい。

 

「朱乃さん! 部長! いつでも譲渡いけます!!」

 

『Transfer!』

 

 飛んで近づいてくる二人に、手を触れて『譲渡』の力を行使した。一誠は体から力がごっそりと抜ける感覚に襲われる一方で、朱乃とリアスの纏うオーラは一回り以上も強力な物へと変化する。

 

「これなら――」

 

「いけますわ!」

 

 譲渡を終えた二人から感じられる魔力は、あのライザーを遥かに上回っており、頼もしい。

その信頼に応えるかのように、リアスの放つ滅びの魔力が、ケルベロスの頭の一つを丸ごと消し飛ばす。

 それに続いて朱乃の指先から放たれる、極太の雷はケルベロスの全身を打ち据えて、黒焦げにした。

 

 これで二頭。残り三頭の内の一頭は、今も小猫が相手をしており、朱乃はその援護に向かう。リアスは一誠の正面にいるケルベロスを相手取り、最後の一頭の居場所はどこだと視線を巡らせて気づく。

 

「アーシア!!」

 

 後方に下がらせたアーシアの更に後ろに最後の一頭は立っていた。一誠が正面のケルベロスを相手取り、朱乃とリアスの二人に譲渡する隙に回り込まれていたのだろう。

 今になってようやく気付き、沸き上がる後悔の念を打ち捨てて、アーシアの元へ向かおうとし、新たな頼もしい三つの人影が目に入った。

 

「木場!」

 

「イッセーくん、遅くなって悪かったね」

 

 爽やかに微笑みながらも、グレモリー眷属が誇る『騎士(ナイト)』の剣閃が煌めく。神器の力で作り出した魔剣を以って、佑斗はケルベロスの体を大きく斬りつけ怯ませた。

 

「イッセーくん、私もいるんだからね!」

 

「イリナ!」

 

 二人目は、一誠の幼馴染にして『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』を教会のエクソシスト。彼女は、自身の腕にリボン状にして巻き付けていた聖剣を日本刀へと変じさせて、ケルベロスの脚を斬り裂き動きを止める。

 

 ズガァァァアアアアアアアアアアアアアアン!

 

 三人目の登場は、豪快な破壊音を伴ってのものだった。青髪の中に一房だけ緑色のメッシュを入れた、イリナと同じ教会のエクソシスト。

 

「ふふ、赤龍帝。私のことも忘れてもらっては困るな」

 

「ゼノヴィアも!」

 

 『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』の使い手たる彼女の攻撃力は凄まじく、動きの止まったケルベロスは、たった一撃で仕留められ、地面にまで威力が伝わったらしく大きなクレーターが生まれていた。

 

「数時間前に拠点に来ていた三人組か。貴様らの底は知れている、わざわざ俺が相手をしてやるまでもない。―――フリード!!」

 

 コカビエルが声を張り上げると、近くに待機していたらしいフリードが聖剣を片手に、へらへらと笑いながら歩み出た。

 

「へい、コカビエルの旦那! あの三人は、俺が料理しちゃっていいんですかい?」

 

「ああ。俺には、別の楽しみがあるからな。あの二人組が現れるまでは、お前たちの戦いを見て時間を潰すこととする」

 

 

 

 

 グレモリー眷属には、佑斗、ゼノヴィア、イリナの三名が、コカビエルの戦力にはフリードが追加される。

 第二ラウンドの始まりは互いの戦力の増加、それはここから先の戦いが更に激化していくことを予期させた。

 

 

 

 




 ふええええええん!! 大人数の戦闘描写の書き方がわからないよぉおおおお!!!
 妥協してこんな感じになっちゃったけど、その内改稿して質を高めます!!

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