ハイスクールD×D 嫉妬の蛇   作:雑魚王

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 一万字超え!!!
 更新が遅れたことは多めにみてつかぁさい。

 レポートが、レポートがマジできついんだ。一つ終えたのに、七月の初めまでにあと三つ仕上げないといけない。しかも、フィールドワークを複数回こなした上で……。
 


4話 堕天使幹部コカビエル

「―――で、彼らは神父に変装することで敵を誘き出そうとしている、と」

 

「みたいだな。最近、この町に入った神父――聖剣関係で教会から派遣されたエクソシストが次々に殺される事件が起きてるから、囮捜査を選んだんだろ」

 

「効果的かもしれないが、かなり危険だね。彼らの実力を敵側が上回ったのなら、自殺行為に等しいよ」

 

「だから、俺たちがこうして監視してるんだろ」

 

 エレインとパーカー姿の俺はとある雑居ビルの屋上に並んで座っている。向ける視線はお互いではなく、数百メートル先。双眼鏡を介して、『神父姿の六人組』を観察していた。

丁度、餌に釣られてやってきた馬鹿丸出しのはぐれエクソシストが六人組へと襲いかかる。

 

「あの白髪頭、なんか見覚えあるな。エレイン、わかるか?」

 

「…………確か、フリード・セルゼンだったかな? 十代前半でエクソシストになったという天才。まあ、今では追放処分を受けて堕天使陣営に下ったようだが」

 

 変わらずに戦闘する彼らへと向けられる視線が胡乱気なものとなったことを自覚する。

 

「あれで天才ねぇ。教会も人材不足だな」

 

 グレモリー眷属の三人とシトリー眷属の『兵士』一名、そこに武器頼りのエクソシスト二名を加えた六人組相手に一人で立ち回るはぐれエクソシスト。六対一で食い下がれる、と言えば聞こえはいいが、相手の六人組は連携も個々の質も低い集団だ。俺やエレイン、ルルならば十秒以内に皆殺しにできる。

 

「ああ、あの程度で『天才』とは聞いて呆れるよ」

 

「なんちゃって天才のはぐれも大概だが、それに勝てないあいつらもアレだよなぁ」

 

 シトリー眷属の『兵士』匙元士郎に関しては仕方ないだろう。なにせ、ついこの間までは争いとは無縁の生活を送り、悪魔になってからの実戦経験が浅いのだから。最初から強くないことを責めるのは理不尽だ。

 

「匙元士郎、だっけか、シトリー眷属の新入り『兵士(ポーン)』。あいつの神器、見た目はダセえけど応用力高そうだな」

 

 『黒い龍脈(アブソープション・ライン)』。龍王の一角にして邪龍でもあるヴリトラは、魂を幾重にも分割されて封じられた。そのうちの一つが、匙元士郎の神器に宿っている。

 

「能力はラインでつないだ相手から力を吸い取ること。白龍皇の『吸収』に近しいものがあるね。鍛錬次第では、ラインを切り離して自分以外のものに力を流すこともできるそうだが、そうしたら赤龍帝の『譲渡』に近い。そう考えると相当に優秀な神器だよ」

 

「ああ。それに、ラインを縄代わりにして相手を拘束したりもできる。もしくはラインをくっつけた相手を引き寄せて殴り続けるとかな」

 

「それをするには相手を遥かに上回る身体能力が必須だがね。でなければ、逆に殴られるハメになるか、そもそも引き寄せることができない。あの神器は応用力が高い分、地力と技量を研鑽しなければならないね」

 

「それに頭も鍛えねえとな。戦局を見極める、相手の手の内を読む、そういったことは戦闘の基本だが、テクニックタイプはそれができるかできないかで、戦闘力が相当変わってくるからな」

 

 

 と、話しているうちに戦闘は推移していき、次の出番はエクソシストの二人組だ。

 何度か、はぐれエクソシストと剣を交える彼女らを見ているうちに、眉が顰められ、呆れ声が漏れる。

 

「……なんだ、ありゃ」

 

「………随分、お粗末な戦い方だね」

 

 エクソシスト達は二人ともが完全に武器に頼りきりで、技量が未熟すぎる。

青髪メッシュことゼノヴィア・クアルタは破壊力を周りに撒き散らすだけでコントロールが出来ているかも怪しく、しかも無駄な破壊が多いせいで味方の連携にまで支障を来たす。

 

「あのメッシュ頭、チーム戦ってこと忘れてんのか」

 

「聖剣の能力を撒き散らす。おまけに大振りすぎて、一度に複数人で近接戦を仕掛けることもできないだろう、あれでは。物の見事に数の利を潰しているな」

 

 茶髪ツインテールこと紫藤イリナは変形能力を持つ聖剣の使い手なのに、なぜか形態を日本刀に限定して戦っている。

 

「あの茶髪ツインテ、どうして剣の形を変えねえんだ? 普通に能力を使って戦えよ。相手は天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)の能力をガンガン使ってるのに……」

 

「正規の聖剣使いより、異端とされたはぐれの方が聖剣をより上手く使えるとは……」

 

 エレインは頭が痛いとばかりにため息を吐いた。俺も同感だ。片やチーム戦のチの字も知らずに破壊を撒き散らす脳筋と、聖剣をただの名剣として使う馬鹿。

 あの程度の剣士が使い手になってしまうことができるというのだから、伝説の聖剣エクスカリバーも堕ちたものだ。

 

 

「次は金髪ナイトか……」

 

 破壊の聖剣(エクスカリバー)の撒き散らす破壊の暴流から、はぐれエクソシストは聖剣の能力を用いて得た速度で即座に退避する。距離の開けた奴に、次に攻撃を仕掛けたのはグレモリー眷属の『騎士』木場佑斗だった。

 

「流石は『騎士(ナイト)』と言ったところかな? あのメンバーの中では最速だ」

 

「しかも、その速度が上手い事剣術とマッチしてるな。」

 

木場佑斗は、その動きからかなり剣術の才能を感じさせる。しかし、実戦経験が少ないのか、剣筋が正直すぎて『何でもアリ』を心情にしていそうなはぐれエクソシストとは相性が悪いようだ。

 

「……ただ、アレだ。神器を使いこなせていないな」

 

 あの『騎士(ナイト)』の神器は『魔剣創造(ソード・ヴァース)』。あらゆる属性、効果を持つ魔剣を作り出すことができるという、使い勝手の良い代物だ。この神器を使いこなすことができれば、苦手な相手など存在しないだろう。なにせ、自分の手札を好きなように作ることができるのだから、相手の手を見てからでも十分に対応できる。

 

「それは仕方ないんじゃないか? 彼の師匠はルシファー眷属の沖田総司だ。神器を扱えない男が、神器の指導をできるはずもない」

 

「それもそうなんだけどなぁ……。剣術特化の沖田じゃなくて、神器の扱いと剣術の両方にそこそこ長けたやつのほうが、あいつの師に向いてると思うんだよ。それか沖田には剣術、別のやつに神器について教わるとかな。そこらへんが、人選ミスっぽい感じがするわ」

 

 沖田総司が師についたのは、魔王パワーか何かのおかげだろう。ならば、その魔王パワーを使ってもう少し、手広く師に相応しい人材を探すべきだったのではないか。

 

(いや、まあ、そもそも、眷属の師匠探しは『(キング)』の役割だけど……)

 

 

 グレモリーの怠慢はさておき、次は期待のトラブルメーカーにして、無関係の他所の眷属を引き込むという暴挙をみせてくれた、赤龍帝の『兵士(ポーン)』だ。

 

「経験の浅さ、鍛錬不足がよくわかる戦いぶりだな」

 

 戦況の読みが甘く、体捌きはぎこちない。構えは大雑把で隙が大きく、身体能力も低い。

 シトリー眷属の『兵士(ポーン)』と同じく、未熟、その一言で表せる戦いぶりだ。

 

「『譲渡』に専念して味方を援護するなり、弱いなら弱いなりにやりようもあるだろうに。ライザーとのレーティング・ゲームで連携やらチーム戦の基本についてまるで学ばなかったのか、あいつ」

 

「……彼が突っ走るのは責任や焦燥もあるのかもしれないね。眷属仲間や友人まで巻き込み、ようやく到来したチャンスを逃すわけにもいかないだろう。それに、ライザー・フェニックスとの戦いは最終的には己の力で勝利できたんだ。知らず知らずのうちに付いた自信が行動に現れているのだろうさ」

 

 一度は完膚なきまでに敗北した相手に、代償を支払いながらも勝利する。成程、それなりに達成感のあることだろう。自分の努力と決断が身を結んだと感じ入ることもあるだろう。

 

 ――しかし、それは紛い物だ

 

 ライザーを打ち倒した『赤龍帝の鎧』は急ごしらえの仮初の力。更には、終盤の展開もライザーの慢心と運に助けられ、偶然に勝利を引き寄せただけに過ぎない。

 

 ライザー・フェニックス(有望な上級悪魔)に勝利したから自信を持つ? 違うだろう。一生抱えていくほどの重い代償を払わねば勝てなかったのだと己を戒めなければならない。

 戦う相手が、どいつもこいつも慢心と油断をする輩だとは限らない。故に、知恵を振り絞り、策を編み、工夫を重ねる必要があるのだ。偶然の勝利の価値などたかが知れている。真に価値があるのは、必然の勝利だ。

 

 

「――で、最後はあの白髪ロリか」

 

「戦闘スタイルは、殴って殴られての典型的なパワーファイターか。………普通に無理があるね」

 

 パワーファイターの戦いとは、特に身体能力や体格の差が出やすい。あの『戦車(ルーク)』の種族は猫又の中でも上位のものだが、その特長は術方面にある。猫ゆえに俊敏ではあるが、耐久性とパワーは心許ない。現状、駒の特性でゴリ押ししているだけだ。

 

「レーティング・ゲームなら、ドラゴンとか、身体能力の高い種族の『戦車(ルーク)』を相手にしたら確実に負けるな。……まあ、種族を抜きにしても、女の身で、しかもあの体格じゃ、今の戦い方はまるで合ってねえだろ」

 

 怪力を特性として持つ種族ならば、女であろうと真正面から難敵と殴り合うこともできるだろう。しかし、彼女はそういった種族の出身ではないのだ。ならば、術なり道具なり技巧なりといった工夫が必要となることは自明の理。そのことに気づけないようでは、あの『戦車(ルーク)』の成長も遠くないうちに止まることとなるだろう。

 

 

 

グレモリーはそのあたりのことについて気づいていないのだろうか。『(キング)』は眷属の人生を預かる立場なのだから、真剣に眷属のことについて考えを巡らせなければならない。このままでは、冗談抜きで眷属が死ぬ。

 

(まあ、今回は依頼もあるし守ってやるが………はてさて、いつまで生きていられるかね、あいつらは)

 

「―――おっと? 動きがあったな」

 

「ふむ。撤退するはぐれエクソシストを追う心算の者もいるようだが、どうする?」

 

 追跡を選択したのは、エクソシスト二人とグレモリー眷属の『騎士』だ。残りの三名は、事に気づいたグレモリーとソーナに捕まって折檻され、動きが止まっている。

 

「こりゃまずいな、追うぞ」

 

 逃げ出したはぐれエクソシストが向かう先はどこか知らない。拠点に戻るつもりかもしれないし、あるいは拠点を掴ませないために町中を走り回ることもあり得る。前者なら、敵の拠点にて大将たるコカビエルと接敵するだろう。女エクソシストどもがどうなろうと構わないが、グレモリー眷属の『騎士(ナイト)』は依頼上死なせるわけにはいかない。後者の場合では、フリードがご丁寧に人払いの結界を張りながら逃走するとも思えず、民間人にも被害が出かねない。まあ、どちらにせよフォローが必要になるということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 佑斗、ゼノヴィア、イリナの三名は、白髪頭が特徴的なはぐれエクソシスト――フリード・セルゼンを追いかけ続ける。フリードはその手に持つ『天閃の聖剣(セクスカリバー・ラピッドリィ)』のチカラで高めた速度で追跡を逃れようとするものの、そこは速度自慢の『騎士』と聖剣使いに選ばれたエクソシストたちである。決して視界から逃れることを許さない。

 常に聖剣の能力を使っているためにフリードの体力は、追手の三人よりも早く消耗されていく。

 徐々に詰まる距離に三人は一層奮起して足に力を入れる。しばしば飛んでくる、フリードの鬱陶しい罵詈雑言は完全に無視だ。

 

『おい、この万年処女二人組。ふたり揃って刃物持ちながら男を追手恥ずかしくないんですかー!?』

 

『男日照り! 男日照り! 男日照り! 男日照りこじらせて刃物を持ち出すヤンデレさぁん! そんなんだから彼氏の一人もできないんだぜぇ?』

 

『ヒュー、ヒュー! この金髪色男ぉ! 両サイドに可愛い娘ちゃん連れて夜のランデブーなんて羨ましいねぇ! 教会のエクソシストまで誑かすなんて流石の悪魔くんだなぁ!!』

 

―――うざい

 

 追手の三名の心を満たしたのは、ただその一念のみだ。言葉だけでなく、仕草や表情まで動員された挑発は、無視しようと思っていても尚、精神を逆撫でする。

 

そして、殺意が数割増した三名がたどり着いたのは、町の隅にある廃墟。壁の劣化具合などを見るに持ち主の手から離れて久しいようだが、その一方で窓ガラスが一枚たりとも割れていない等、所々に最近修繕された痕跡もある。フリード・セルゼンのバックに控えるコカビエルの指示によるものだろう。

 

「二人共、覚悟はいいか?」

 

 問うまでもない問いを発したゼノヴィアに、しかし、イリナと佑斗は憤激しない。二人も、この廃墟から漂う圧倒的強者の気配を感じ取っているからだ。

 相手は太古から生きる堕天使幹部。たった三人だけの戦力では心許なく、勝算も低い。敗北すれば死ぬだろう。つまりゼノヴィアの問いは、今ならば生きて引き返せるという最終勧告なのだ。

 

「任務を受けたときから決まってるわよ」

 

「チェックまでかけておいて引き下がれるはずないだろう?」

 

 イリナは任務を受けたときから、死ぬ危険性を受け入れていた。佑斗は自身の復讐が何の障害もなく負えられるものと思ったことなど一度としてない。二人共、すでに覚悟は終えていたのである。

 

「愚問だったな。行くぞ!」

 

 

 

「ふん、フリードが助けを求めるから何かと思えば……ただの鼠か」

 

 踏み込んだ建物の中にいたのは、黒髪の男ただ一人。佑斗たちがここまで追ってきたフリードはすでにどこか別の場所へ避難しているようだ。体力を消耗させた今こそが仕留める好機だったので惜しく思うが、すぐさまその念を捨てた。

 眼前にて悠然と佇むのは歴戦の雄コカビエルだ。フリードにかまけて集中を乱せば、数少ない初期を逃すことになる。フリードを仕留め損なったのではなく、コカビエルに集中できるようになったのだと、佑斗は己を鼓舞した。

 

「あなたが堕天使コカビエルね?」

 

「いかにも。そういう諸君らは、エクソシストと悪魔が共闘するとは随分と愉快な面子のようだな」

 

 イリナの問いかけに隠すこともなく、威風堂々とした佇まいで答えるコカビエルから立ち上えるオーラは間違いなく強者のそれだ。コカビエルは一瞬の内に作り出した二振りの光の剣を両手に構える。

 それに応じ、ゼノヴィアは背中に『破壊の聖剣』を、イリナは『擬態の聖剣』を、そして佑斗は『神器』で生み出した魔剣を握る手に力を込めた。

 

「ほう! そこのエクソシストどもは聖剣使いか。俺が教会から奪い取ったのも聖剣、こうして派遣されてきた者の獲物も聖剣。俺はどうやら聖剣とよほど縁があるらしい。堕ちた天使が聖なる剣と縁があるとは、中々気の利いた皮肉だと思わないか?」

 

「ああ―――そうだ、な!」

 

 気合一閃。臆することもなく、距離を詰めたゼノヴィアは渾身の一撃を見舞うが、コカビエルは左手に握った光の剣一本で軽く受け止める。至近距離で睨みつけながら、ゼノヴィアが叫んだ。

 

「だが、お前がどう思っていようと関係ない! ただ聖剣を奪還するのみだ!!」

 

「良い剣だ。迷いがない。が、実力差を弁えない行いは寿命を縮めるぞ?」

 

 左手は防御に塞がっている。しかし、コカビエルは両手に光の剣を握っているのだ。もう一本の剣が、ゼノヴィアの首を断つべく迫る。危険な輝きを放つそれは、あと少しで柔肌を斬り裂けるというところで日本刀の形をした聖剣に受け止められた。

 

「あなたを倒そうとしているのはゼノヴィアだけじゃないの!」

 

 見た目こそ何の変哲もないただの日本刀だが、その実、姿を変えた『擬態の聖剣』である。堕天使幹部の作り出した光の剣は相当な業物なのだろうが、二人のエクソシストが持つ獲物も質では負けていない。

 

「僕のことも忘れてもらっては困る!!」

 

 そこに切り込んで行くのはグレモリー眷属の『騎士』木場佑斗だ。両手で構えた魔剣の特殊能力を発動させた。

 

「魔剣よ! 光を喰らえ!!」

 

 コカビエルの光の剣からは、淡い輝きを持つ珠が一つ、二つと溢れて佑斗の魔剣へと吸い込まれていく。この珠の一つ一つが、剣を構成する光そのもの。光の剣と聖剣が互角だったのは、両者が万全の状態だった時の話だ。こうして、片方の力が落ちていけば、その均衡は容易く崩れる。

 

「ぬぅッ!」

 

 二振りの聖剣が徐々に光の剣にめり込んでいく。しかし、聖剣が切断するよりも早く、分の悪さを見て取ったコカビエルは大きく後方に飛んで一旦距離を取った。

 

「やれやれ……『魔剣創造(ソード・ヴァース)』だったか? 特殊能力・属性を付与した魔剣を自在に生み出す『神 器(セイクリッド・ギア)』。バルパーから話には聞いていたが、予想よりも厄介な代物のようだ」

 

「僕としては、バルパーについて教えて欲しいんだけどね」

 

「ふん。あいつを引き入れたのはただの余興のためだ。重要度は低いが、あいつがいなくてはその余興さえ楽しめん。お前たちがその余興の代わりとして楽しませてくれるのなら、教えてやっても構わないが?」

 

 戦意を新たに、コカビエルは光の剣を再構築する。光を喰らう魔剣が有効打に成りうることはわかったが、それはコカビエルも同様のはずだ。歴戦の烈士を相手に二度も三度も同じ手が通用するとは思えない。

 

(ならば!)

 

「ほう」

 

 これで正しいのか。湧き上がる疑問を押し殺して佑斗は手に持つ魔剣を、闇を喰らう魔剣から風を操る魔剣へと作り替えた。火や氷を操る魔剣で攻撃力を重視する選択もあったが、佑斗の防御力は皆無であり、一度でもコカビエルの剣で斬りつけられればリタイアしてしまう。だからこその回避重視、速度重視の魔剣の選択だ。

 それを見たコカビエルの感嘆の息はフェイクか、それとも本心からのものか。前者ならば、佑斗たちを上回る力を持ちながらも策を巡らす侮りがたい相手だ。後者ならば、悠長に相対する剣士を評価するだけの余裕があることになる。

 どちらにせよ、難敵であることに変わりはない。佑斗が気を一層引き締め対峙するコカビエルのその背後から、二人のエクソシストが斬りかかる。

 

「呑気に話しているところ悪いけど!」

 

「戦いの最中だ! まさか卑怯とは言うまいな!!」

 

 コカビエルは聖剣の振り返ることもなく受け止める。光の剣でではない。その背中から生える漆黒の翼でだ。「ふんっ!」とコカビエルは気合の篭った声を漏らし、黒翼が激しく動き聖剣と共にその持ち主までをも弾き飛ばす。

 

「そんなことは言わんさ。なぜならば、お前たちごときが何をしたところで、俺に傷一つつけることさえできんのだからなぁ……!」

 

「……ッ!」

 

 石畳を砕くほどの力強い踏み込み。振り下ろされる光の剣を魔剣で受け止めるが、一瞬で罅が出来、そのまま広がっていく。力を込めて弾こうとすれば、それよりも早く剣が限界を迎えて砕けることだろう。

 圧倒的な自力の差だ。獲物を同じように『創って』いるというのに、その強度には目に見える差がある。さらに身体能力も隔絶している。技術ではどうにもできないだけの開きが、佑斗とコカビエルの間にはあった。

 

「はあぁッ!!」

 

 魔剣が砕け、胴を切り裂かれる直前に、魔剣の能力を発動。コントロールを完全に度外視し、威力を高めた。一瞬のうちに魔剣を暴風が包み込み、次の瞬間には炸裂させる。上下左右全方向に向かって流れる強風に佑斗は全身を打ち据えられ、後方に大きく距離を取った(吹き飛ばされた)

 あと一歩のところで死んでいた。その事実が巨大なプレッシャーとなってのし掛かり、背中にじっとりとした気持ちの悪い汗をかく。

 あれだけの暴風を、佑斗と同じく間近で受けながらも、佑斗とは違いその場に踏み留まったコカビエル。その判断の成否はともかくとして、佑斗にはできないことを容易くやってのける堕天使の幹部の実力には舌を巻く。

 

「ふははははっ! どうした!? 三人がかりでその程度か? ……俺が多少やる気になった程度で死にかける。拍子抜けもいいところだ」

 

 コカビエルは背中越しに、後方に視線を向ける。二人のエクソシストが聖剣を構えているが、そのどちらもが佑斗と同じように力の差を感じ取っているようだった。

 次にコカビエルがどう動くのか。それに自身は対応することができるのか。そうした不安が佑斗の剣気を鈍らせる。

 新たに創造した魔剣を握る際に感じた手の汗が不安から目を逸らすことを許さないかのようだ。

 

「また魔剣の種類が変わったな。次は何だ。火か水か、それとも雷か。何であろうと掛かってこい、格の違いというものを教え込んでやる」

 

 ただし、とコカビエルは続きを口にする。それを言葉にするのが心底愉しいと言わんばかりの凶悪な笑みを添えながら。

 

「掛かってこれるかは知らないがな?」

 

 コカビエルは黒翼を羽ばたかせて、一瞬のうちに中空へと上昇する。その身から、ゼノヴィアとイリナの持つ聖剣が可愛らしく思える程の光力を発すると、宙に数十にも及ぶ槍を創り出した。穂先を佑斗たちへと向けている、二メートルを優に超す長槍の全てが、コカビエルの号令に従って降り注ぐ。

 

「これに耐えられるものなら、耐えてみせろぉッ!!」

 

 ゼノヴィアは幅広の刃を持つ『破壊の聖剣』を盾のように構え、イリナは槍の数々を迎撃せんと日本刀へと変じた『擬態の聖剣』を握り、佑斗は一瞬のうちに創り上げた無数の魔剣を周囲に展開して即席の壁とした。

 

 三者三様の対応を見せる剣士たちと、彼らを試すように槍を降らせる堕天使の幹部。この四名を監視するかのように赤い瞳を向ける、小さな妖怪に気づく者は誰ひとりとしていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………まずいな」

 

 廃墟へと侵入させた管狐の一匹と視覚を共有するために、両目を閉じているグラナが唸った。

 

「状況は?」

 

「コカビエルがマジになり始めた。今は何とか凌いでるが、遠くない内に死人が出る」

 

 ここまでは三名でも、手加減したコカビエルとぎりぎり戦えるといった具合だったのだ。ならばコカビエルが本気になれば、戦況は悪化の一途を辿るのが自然な流れである。エクソシストたちはどうなっても構わないが、グレモリー眷属の『騎士』を死なせるわけにはいかない。監視はここで中断だ。

 

「エレイン、この距離で俺の指示する場所に正確に撃ち込めるな?」

 

「当然」

 

 心強い返答だった。彼女のことを信頼していなかったわけではないが、やはり応えてもらうと感じ入るものがあった。

 グラナは口元を薄く歪め、右目の視界を自身のものに戻してから開いた。左目は今も閉じたまま、管狐のものと繋がっている。

 

「目標はあの廃墟の中、正面入り口から右に三メートル、奥に十三メートル、地上約十メートルに滞空するコカビエル。ただし、建物の中には攻撃対象だけじゃなく、保護対象もいる。金髪ナイト(木場佑斗)に当たることを避けるために攻撃の軌道として接地地点は廃墟を貫通した先にしろ」

 

「了解だ―――ブラッド・アロー」

 

 エレインの足元から湧き出した、赤黒い液体がボコボコと気泡を発しながらその形を変えていく。重力に逆らい、柱として屹立したかと思えば、滞空する球体となる。色合いと感じ取れる悍ましい雰囲気を除けば、まるで風船のようなそれがエレインを囲むようにして幾つも出来上がった。

 変化はそこで終わらない。それぞれの球体が内部から爆発するかのように弾け、飛沫がそれぞれ集まり直して百を超える矢と化した。

 矢尻の向けられた先は、グラナが指示し、今も指で示す方向。下手に広範囲に矢を放っては保護対象に直撃するだけでなく、廃墟が倒壊する恐れまである。これだけの矢が殺到すれば、廃墟の壁の一部は確実に崩れるだろう。保護対象がその瓦礫に押しつぶされてしまうことも考えられた。

 

「ならば、瓦礫が粉微塵になるほどの密度で矢を放てばいいだけだ」

 

 ヒュヒュヒュヒュヒュヒュン! 機関銃もかくやと言う連射速度と密度で放たれた矢の群れが小気味の良い風切り音を鳴らして飛翔していく。

 夜目の利く吸血鬼と悪魔あの瞳は、この暗い夜の中であっても正確に矢の軌道を追うことができる。微かに弧を描くような軌道の矢の群れが、狙い通りの一の壁を貫いたことを確認した。

 

「グラナ、結果は?」

 

 この距離からではさすがに内部を目視することは敵わない。エレインは、今も廃墟の中を観察するために左目を閉じたグラナに結果の確認を願う。

 

「さすがだな、成功だぜ。コカビエルにはギリギリで回避されたけど、伏兵の存在を警戒してるみたいだ。―――出てくるぞ!」

 

 次の瞬間、廃墟の壁の一角が吹き飛び、粉塵の中からコカビエルがその姿を現した。両手に持った光の剣で壁面を斬ったのだろうが、もう少しスマートにできなかったのだろうか。正確無比な狙撃の後では、コカビエルの行為は酷くお粗末だ。

 

「エレイン、もう一発攻撃だ。あぁ、矢の本数は減らしていいぞ?」

 

「わかっているさ。あの廃墟から引き剥がすために、私たちの位置を教えることが目的なんだろう?」

 

 グラナは一つ頷き、立ち上がる。すでに廃墟の内部を観察する意義は薄れたが、保護対象が安全圏に非難するまでは油断できない。管狐を佑斗に張り付かせ、その行動を観察する。

 

「そらっ、来たぞ!」

 

 二度目の攻撃で二人の正確な位置を把握したコカビエルは、迷うことなく向かってくる。人払いの結界を張っているからいいいものの、あれほどの殺気と光力を人間の町中の野外で発するとは、あまりに常識外れな行いだ。情報通り(・・・・)、この一件はコカビエルの独断だということを確認できたことは僥倖である。

 

「一旦退くぞ!」

 

 グラナとエレインはコカビエルのいる位置とは逆の方向を目指して走る。グラナは人払いの結界はもちろんとして、光の剣を携えて宙を飛ぶ成人男性の姿や赤黒い矢が見えないように幻術系の結界、音も漏れないように遮音結界まで広範囲に展開。その上、佑斗の行動を監視するために左目の視界を管狐とリンクさせつつ逃走する、五つの作業の同時進行である。

 

 だが、ただ逃げているだけでは、コカビエルの戦意と興味が消えてしまうかもしれない。せめて、佑斗が避難したことを確認するまでは引きつけておく必要がある。

 

 グラナが並列作業へと集中するために、コカビエルの注意を引きつける。それがエレインの役割だ。矢を作り出してはコカビエルに向けて発射する。弾かれようとも、躱されようとも、残弾が無限であるかのように次々に矢を作っては放つことの繰り返しだ。

 

「グラナ、木場佑斗の動きはどうだ!?」

 

「エクソシスト組共々無事みたいだ。いくらか怪我してるが、体力さえ回復すりゃ戦闘可能だろうな――っと、危ねえ」

 

 グラナは一際強く地面を蹴り、大きく跳躍。一瞬前までいた場所を、コカビエルの放った光の槍が崩す。逃げる二人目掛けて更なる槍が飛んでくるが、グラナはその悉くを躱し、エレインは赤黒い矢を放って宙で衝突させる。

 悪魔の駆ける地上には粉塵が舞い、堕天使の飛翔する空には砕けた槍と矢が破片となって四方へ散っていく。

 

「一応、聞いておくがここでコカビエルを殺しては駄目なんだろう?」

 

「ああ。俺たちがシメるとしたらもっとギリギリの状況になってからだな。ここでは金髪ナイトたちの撤退を稼ぐだけだ」

 

「ッ忌々しいな。この距離では加減が難しいぞ。弱すぎれば槍を防ぐこともできず、強すぎればコカビエルを殺してしまいかねない」

 

 苛立ちを隠そうともしないエレインの物言いを、グラナは責めない。遥か格下相手に気を遣ってちまちまとした攻防を続けるというのはストレスが溜まる作業であるとグラナもわかっているからだ。

 

「そこは、ほら、……なんとかしてくれ」

 

「丸投げなのか」

 

 ジト目で睨まれたグラナは肩を竦めて弁明する。

 

「俺、今も結界やらなにやらを同時展開してるんだから、攻防はお前に任せていいだろ?」

 

「それは理解しているがね……。それでも、丸投げされては文句の一つも言いたくもなる」

 

「コカビエルの飛行速度と金髪ナイトの現在位置から考えて、それもあと二分……いや、一分の辛抱だ。何とか()たせろ」

 

「やれやれ、……眷属使いの荒い王様だ!」

 

 焦らしを切らしたのだろう。コカビエルは光力を複数に分けるのではなく、一つに集中させて巨大な槍を創り、これまで放たれた槍の中での最速をはるかに凌駕する速度で投擲した。

 対するエレインは周囲に展開させていた矢の群れを一箇所に集中。個体から液体に変えて一つの塊にし、そこから再度個体にする中で形状を変化。そうして創りあげられた全長三メートルを超える、禍々しい両刃の大剣を操り、光の大槍を真っ向から迎え撃つ。

 

 拮抗は一瞬。これまでの鬱憤の全てをぶち撒けるように、全力を込められた赤き大剣が光の大槍を斬り裂く。槍の断面から罅が広がっていき、遂には空中で木っ端微塵となった。

 

「はっ! どんなものだ。あの程度、全力を出せば私の敵ではない」

 

「今のでさらにコカビエルの戦意が滾ってきたみてえだけどな」

 

 空を舞う堕天使幹部はさらに光力を撒き散らす。コカビエルは戦争狂として一部では有名だが、戦争狂ならば戦闘を好むのも道理である。未熟なエクソシストと半端な悪魔相手に鬱憤が溜まっていたところに実力者が湧いて出れば、成程、興奮もするだろう。

 

「やれやれ……本当に面倒な手合いだ」

 

 嘆息と苛立ちの入り混じる声にグラナは同感だと首肯を返す。逃走劇はもう少しばかり続きそうだった。

 

 

 




 イッセーたちがフリードと激突。それをグラナとエレインは観戦と解説。
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 木場とゼノヴィアとイリナが逃亡するフリードを追いかける。グラナとエレインも追いかける。
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 三人はコカビエルと接敵、奮戦するも大ピンチ。エレインが遠距離攻撃にて横やりを入れて注意を引き付ける。
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 三人は辛くも撤退に成功する。エレインとグラナは逃走劇に身を投じる。
 

 最後の部分は原作改編でございますね。イリナは大けがを負わずに、コカビエルとの最終決戦に向かう模様。
 どのような結末を迎えるのかは皆さまのご想像にお任せします。

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