ハイスクールD×D 嫉妬の蛇   作:雑魚王

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 東方vocalにハマる今日この頃。新たな趣味の開拓に喜ぶことで勉強から目を逸らすと言うスタイル!!

 東方vocalは最近聞き始めたばかりなので、にわか君ですが、おすすめの曲とかあったら教えてください! ちなみに私の一押しは「愛き夜道」「忘れじの故郷」「嘘のすゝめ」です……かね。他にも良いなと思った曲はありますが、割愛することとしましょう。

 あっ、東方以外の曲でもおすすめの曲があれば教えてくださると嬉しいです!!


15話 婚約パーティーと嫉妬の蛇

「よう、サイラオーグ。久しぶりだな」

 

 右手を上げながら、黒い髪を短く刈り上げた男に声をかける。高い身長とバランス良く着いた筋肉は、彼が長年厳しい鍛錬に身を捧げたことを如実に物語っており、その実力もかなりのものだ。

 男の名前はサイラオーグ・バアル。大王バアル家の次期当主であり、俺と並んで若手悪魔最強と呼ばれる上級悪魔である。

 

「ああ、グラナ。包帯を巻いてはいるが……元気そうでなによりだ。―――それにしても意外だな。お前はてっきりこの式典には来ないものだとばかり思っていたんだが」

 

 サイラオーグの疑問に、肩を竦めて答えた。

 

「さすがに魔王様から招待状を受け取っておきながら、ボイコットはできねえよ」

 

「違いない」

 

 冗談めかした言い方が気に入ったのか、サイラオーグは破顔する。俺もつられるようにして笑い、互いの気のおけない関係が変わっていないことに安堵した。

 周囲では俺たち以外の上級悪魔たちも談笑し、中には俺とサイラオーグを見つけて声を上げる者すらすらいた。旧レヴィアタンの末裔の俺と、バアル家次期当主のサイラオーグにとってはその反応は慣れたものであり、いつも通り風のように受け流す。その代わりと言ってはなんだが、眷属の様子を観察してみても問題はなく、それぞれがバアル眷属との談笑や食事を楽しんでいる。

 眷属の中で唯一レイナーレだけは今も修業中の身なのでこの場に来ていないが、それでよかったかもしれない。堕天使の下っ端でしかなかった彼女には、まだこういった場は早すぎるだろう。雰囲気にも慣れていないだろうし、何分実力が低すぎる。他者に見下されて悪い影響を受けるだけだ。

 

「――グラナ」

 

 俺と同様に眷属の様子を見ていたサイラオーグは、視線を俺に向け直すと神妙な顔つきで口火を切った。その目の色から、ただの世間話ではないと察し、一度グラスを置いて聞く姿勢を取ってから先を促す。

 

「お前は今回の話をどう思ってる?」

 

 ぐるり、と会場全体へと目を向けながらサイラオーグは問いかけた。

 幾人も集まった上級悪魔とその眷属たち。中には冥界のテレビ番組でもよく見かける有名な悪魔や、現四大魔王までいるこの会場は、とある上級悪魔の婚約パーティーの会場である。

 

「ま、いいんじゃないか?」

 

 そして、とある上級悪魔というのはフェニックス家の才児ことライザー・フェニックスと『紅髪の滅殺姫』リアス・グレモリーだ。

 この上級悪魔同士の婚約は、今も純血主義が色濃く残る悪魔社会にとっては記念すべきことである、このパーティーの参加者の多さは、そう思う悪魔が多いことの証明だろう。それにリアス・グレモリーの兄は現魔王の一角であるサーゼクス・ルシファーだ。魔王の妹の婚約パーティーに参加しないほうが不自然かもしれない。

 

「ほう? それはなぜ?」

 

「もともと学校を卒業するまでは自由だって話が急に変わったタイミングは赤龍帝がグレモリーの眷属に収まったのとほぼ同時期だ。ただの偶然で片付けるのは無理があるよな?」

 

 一度確認を取り、サイラオーグが頷くのを見てから話を続ける。

 

「今も『僧侶』の一人が封印指定されているし、明らかにグレモリーじゃ赤龍帝の主として力不足。最悪、暴走した赤龍帝が街を吹っ飛ばすか、トラブルを引き寄せて全滅するかのどちらかの結末を迎えかねない」

 

「……なるほど、そういうことか」

 

 すでに答えがわかったように呟くサイラーグ。見た目は筋肉ゴリゴリで頭が切れるタイプには見えないが、実はそれなり以上に頭脳も優秀だったりするのだ。過去には魔力を継げなかったことで一族と揉めていたが、次期当主の座に着いてからは上級悪魔の家系に生まれた者に相応しい高水準の教育を受けてきた結果だ。

 

「血縁関係は、一種の契約だからな。しかも、かなり強力な。こうして婚約を結んじまえば、いざというときにフェニックス家の力を借りることができる」

 

 フェニックスは『不死』の特性を持ち、炎と風を司る悪魔の一族だ。『不死』で耐え、火炎で焼き尽くす。七十二柱の上級悪魔の家系の中でも、かなり戦闘向きの一族だと言える。実際、フェニックス家次期当主のルヴァル・フェニックスは近々、最上級悪魔に昇格するとの話もあるので、その実力は折り紙付きだ。しかも、回復アイテムの『フェニックスの涙』もあるので荒事を引き寄せるドラゴンのそばには是非付いていてほしいだろう。

 

「サーゼクス様からグレモリー眷属のフォローに回るように依頼されてる身としちゃ、フェニックス家のサポートがあったほうが仕事も楽になる。そういう意味で、今回の話はいいんだよ」

 

「……結局は自分が楽をするためか」

 

 サイラオーグは呆れているが、俺としてはかなり重要な問題であり、彼の反応は心外としか言い様がない。

 

「こちとらサーゼクス様だけじゃなく、セラフォルー様からも妹の眷属のフォローに回るように依頼されてんだぜ? 赤龍帝の厄介体質はかなりのもんらしいから、妥当な判断なんだろうけどよ」

 

 厄介体質の最たるものといえば、赤龍帝と白龍皇の対決だ。周りの被害度外視でドンパチやり始めるせいで、今までに島や山がいくつも消し飛んだという。あの駒王町で赤白対決が始まれば、町全体に影響が出かねないので、グレモリー眷属だけでなくシトリー眷属のフォローに回る必要は確実に出てくる。だから、セラフォルーの判断も間違ってはいないのだろうが、何分あのヒトは極度のシスコンである。ついでに言えば依頼の大元であるサーゼクスもシスコンだ。万が一にも妹たちに被害が及べば、どうなるかなんて想像したくもない。

 

「あー、嫌な仕事だ。あの町に戻りたくねえ」

 

 俺が引いたのは絶対に貧乏くじだ。今からでも依頼をキャンセルできないかと、割と真剣に悩む。

 

「配下を養っていくためには、どうにかするしかないのだろう? 何か困ったことがあれば俺に相談しろ。話くらいは聞いてやれるし、時間が空いていれば手も貸せるだろうからな」

 

 サイラオーグの気遣いが、本当にありがたい。俺の気も知らずに、婚約を破断しようとするグレモリーに苛立たされた精神がいくらか癒されるようだった。

 

「冥界に名だたる貴族の皆様! ご参集くださりフェニックス家を代表して御礼を申し上げます」

 

 ドウン! という派手な音を上げて噴き上がった火炎の中から現れた金髪の男の口上に合わせて、俺とサイラオーグを含め、会場中の悪魔は口を塞いで耳を傾ける。

 

「本日皆様にお出で願ったのは、この私ライザー・フェニックスと名門グレモリー家次期当主リアス・グレモリーの婚約という歴史的瞬間を共有していただきたく願ったからであります―――それではご紹介します、我が妃リアス・グレモリー!」

 

 展開された紅の魔方陣から、白のウェディングドレスに身を包んだリアス・グレモリーが現れる。姫と讃えられるだけあって、その美貌に質の良いドレスが似合っている。俺のように彼女を嫌うごく一部の悪魔を除いて、参加者たちがグレモリーのドレス姿に見惚れ、そして感嘆のため息を吐こうとしたその時―――

 

「部長!!!」

 

 ―――リアス・グレモリーの『兵士』兵藤一誠(赤龍帝)がドアを突き破って乱入した。息を切らせているところと、彼の足元に転がる数人の衛兵から、部屋の外で戦闘が行われていたことがわかる。

 

「部長、リアス・グレモリーさまの処女は俺のものだ!!」

 

 ……何を言っているのだろうか、あの変態は。そしてそのセリフを受けて、照れるグレモリーの感覚は本当におかしいと思う。

 

「何を考えているんですの、あの男は!?」

 

 ライザーの妹のレイヴェル・フェニックスの呟きには全面的に同意する。レイヴェルも頬を赤く染めているが、グレモリーのそれとは違い、性的なことに対する気恥ずかしさゆえだろう。どうして同じ貴族の令嬢で、これほどまでに違いが出るのだろうか。

 

「貴様、何を!? ――衛兵、そいつを捕らえろ!!」

 

 さすがのライザーもここまで正々堂々としたセクハラには度肝を抜かれたらしく、驚愕を隠せていない。だが、レーティング・ゲームのプロ選手として踏んだ場数のおかげか、すぐに状況に適した指示を出す。

 

「お前は出て行かないのか?」

 

 全身鎧を装備した衛兵が何人も赤龍帝に向かって行くが、矛を交えることは叶わない。『女王』の黒髪と『騎士』の金髪、『戦車』の白髪が赤龍帝と衛兵の間に割って入ったからだ。

 黒髪は雷撃を広範囲に放って数人の衛兵をまとめて昏倒させ、金髪は槍を『神器』で作り出した剣で受け止める。白髪は小柄な体格を生かして攻撃を躱しながら衛兵の懐に潜り込み、『戦車』の力を生かして殴り飛ばしていく。

 

「冗談やめろよ、サイラオーグ。魔王様がなにも言わないで見てるってことはそういうこと(・・・・・・)なんだろ」

 

 これは初めから予定されていたこと。でなければ、今も衛兵相手に眷属仲間が大立ち回りをしていることや額に血管を浮かび上がらせたライザーに啖呵を切って無事でいることに説明がつかない。

 わざわざ、こんなことをするのは、やはり妹のリアス・グレモリーのためだろう。しかし、仮に破談できたとしても、婚約が確定した状態からそれでは、多くの貴族や商人の受ける被害も馬鹿にできない。サーゼクス・ルシファーは今後、かなり苦労することになるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後は、予定調和だった。この場に来ていた多くの悪魔にとっては予想外の事態だったのだろうが、魔王にとっては予定調和だったに違いない。

 赤龍帝とフェニックスの決闘。グレモリー眷属とフェニックス眷属のレーティング・ゲームの結果に納得していない者がいることや、記念すべき日の余興にもなるということで伝説に語られる怪物同士の決闘が執り行われることとなった。しかも、赤龍帝が勝った場合は今回の婚約を破談にするという条件付きだ。サーゼクス曰く『悪魔なのだから対価を払うのは当然のことだろう』らしい。妹に過保護すぎると思ったのは俺だけではあるまい。

 

『部長、十秒でケリをつけます!』

 

 決闘用のフィールドに降り立った赤龍帝が、左腕に『神器』の籠手を装着しながら宣言する。俺もビデオで見たが、レーィング・ゲームではライザー相手にあの赤龍帝はボロクソにやられていた。いくら馬鹿でも実力に大きな差があることくらい理解できたはず。そのうえで勝負を挑んだのは、何かしらの勝算があってのことだろう。

 

『俺には木場みたいな剣の才能はありません。朱乃さんのような魔力の天才でもありません。小猫ちゃんのような馬鹿力もないし、アーシアが持っているような素晴らしい治癒の力も持ってません。――――それでも俺は最強の『兵士』になってみせます!!』

 

 叫びながら走る赤龍帝は『兵士』の特性たるプロモーションを発動させ、『女王』へと昇格する。『女王』は『戦車』の攻防力、『僧侶』の魔力、『騎士』の速度、三種の駒の特徴全てを兼ね備えた最強の駒である。

 その能力の上昇はモニター越しでも明らかになるほどだが、元が低いだけにライザーには到底及ばない。

 

 これだけでは勝てない。たったこれだけの手札でここに現れるはずがない。

 確信を胸に見続けるモニターの中で、赤龍帝は動きを止めない。

 

『輝きやがれ! オーバーブーストォォォオオオオオオ!!』

 

 掲げた『神器』から眩いばかりの鮮烈な光が迸る。フィールド全体を覆いつくし、何が起きているのか、モニター越しにはさっぱりわからない時間が数秒過ぎ、光が止んだ先では赤龍帝がドラゴンを思わせる赤い全身鎧に身を包んでいた。

 

禁 手(バランス・ブレイカー)か? ……いや、いくら赤龍帝でもたった一ヶ月で元一般人の変態が至れるはずねえな」

 

 『神器』は所有者の思いに答えて成長する性質を持つために、使い手によっては元来の姿からかけ離れた外見を持つ『神器』も存在する。いわゆる亜種と呼ばれるものだ。しかし、籠手の亜種が全身鎧というのも無理があるし、最初に『神器』を出した時には確かに籠手の外見をしていた。そこから外見が変化し、力が跳ね上がったので禁手に思えるが、最初の結論に戻る。変態がたかだか一ヶ月で禁手に至れるはずがない。

 

「だが、あの能力の上昇幅は禁 手(バランス・ブレイカー)の他にあるまい?」

 

「そうなんだよなぁ。何か無茶して一時的に至ったとかそんな感じかね」

 

「一時的に至る? そんなことが可能なのか?」

 

「いや、知らんけど。ただ、あの『赤龍帝の籠手』には赤龍帝ドライグの意思が封印されてるって話だし、そのドラゴンの協力があればワンチャンあるんじゃねえの」

 

 モニターに移されたフェニックスと赤龍帝の戦いを見物しながら、サイラオーグと意見を交わす。サイラオーグは力の出所が気になっているようだが、それ以上に有望な若手が現れたことを喜んでいるらしい。その口元には笑みを浮かべて、戦いの前のように全身から覇気を飛ばしている。

 遠巻きに俺たちを眺めていた悪魔の多くは、その覇気を前に委縮して距離を取る。招かれた側として礼を失するかもしれないと、サイラオーグを諫めようと思ったが、それも今更だと思いなおす。あの変態の乱入とセリフは礼を失するどころではなく、それを魔王は見逃しているのだから、サイラオーグのこれを追求できるはずもない。

 

『フェニックスの炎はドラゴンの鱗さえ砕く! 貴様のような『神器』がなければただのクズに負けられるかぁ!!』

 

 ライザーの拳が赤龍帝の顔面に、赤龍帝の拳がライザーの顔面に突き刺さる。ライザー少なくないダメージを負っているが、そこはすでにレーティング・ゲームを何度も経験しているためか、痛みを平然と耐えている。

 対する赤龍帝は、ライザーに殴り飛ばされたことで地面に叩き付けられ巨大なクレーターを作り上げた。クレーターの中心で倒れ込む赤龍帝の兜には罅が入り、吐血したらしく兜の隙間からぼたぼたと血が零れている。

 

 鎧を纏った状態なら、赤龍帝はライザーとほぼ互角の力量だろう。ただし、それはパワーやスピードといったスペック面のみの話であり、経験で勝るライザーが依然有利なままだ。

 

『ぐはっ!』

 

 ライザーが唐突に吐血する。唐突過ぎて俺とサイラオーグはもちろん、当のライザーでさえ何が起きたのかわからないが、赤龍帝が調子に乗ったのか懇切丁寧に説明する。

 

『ドラゴンの腕なら十字架も効かないだろう?』

 

 グレモリー眷属の癒やし手を務める『僧侶』は元教会のシスターであり、今も手元に残していた十字架を彼女から借りてきたのだという。そして左腕をドラゴンに捧げることで一時的なバランス・ブレイカーを可能としたらしい。

 フェニックスも精神が不滅というわけではないから効果的な手段ではあるが、一時的に禁手に至る代償として左腕をドラゴンに捧げたからこそできる暴挙だ。ただの十字架では悪魔に与えるダメージもたかが知れているが、赤龍帝の力で倍加すれば、いくらライザーと言えども無視できないダメージになる。

 

「勝つためとはいえ無茶しすぎだろ……」

 

「それだけ覚悟がある。そう見れば評価もできるだろう」

 

 サイラオーグは赤龍帝のことがよほど気に入ったらしく弁護するが、俺は同意できない。サイラオーグの期待に満ちた目とは対照的な、失望しきった目をしていることが自分でもわかる。

 

「あいつ、悪魔に転生して一ヶ月なんだぜ。たったの一ヶ月で腕一本捧げるなんてやりすぎだろ。……ありゃ確実に早死にするタイプだな」

 

 歴代の赤龍帝も碌な死に方をしなかったらしいから、その点ではあの変態も赤龍帝ということなのだろう。

 

「魚の切り身じゃあるまいし、自分の体をほいほい犠牲にするなんて何を考えてんのかね……。悪魔の生は一万年だってのによ」

 

 

 

 

 

 

 

 結果は俺としては全く嬉しくないことに、そして魔王にとっては嬉しいことに赤龍帝の勝利だ。

 十字架を付けた左腕での殴打がライザーに着実なダメージを与えたものの、あと一歩というところで赤龍帝の禁手が溶けたときはライザーの勝利かと会場中の誰もが思ったことだろう。しかし、赤龍帝は十字架だけでなく聖水まで用意しており、止めを刺そうと近寄ったライザーの顔面に、赤龍帝の倍化を譲渡して効果を高めた聖水をぶっかけた。悪魔にとって聖水は弱点、しかも火を司るフェニックスにとって属性的に水も弱点。つまり聖水はフェニックスにとって鬼門である。

 効果を高めた十字架でもダメージを受けていたが、それとは比較にならないほどの威力を聖水は発揮し、ライザーは戦意喪失。最後に赤龍帝が拳を叩き込んで勝負を終わらせた。

 

「囚われの姫君を王子様が助けて一件落着ってか? 物語の筋書としちゃ、ありがち過ぎてつまらねえな」

 

 一見、幾多の叙事詩で語られる王道のように思える。だが、仕組まれていた結果だとすれば、王道も陳腐に落ちるというものだ。フェニックスも悪魔もドラゴンも、最初から最後まで魔王様の掌の上で踊っていただけ。これでは誰が主役なのかさえわかったものではない。

 

「穿った見方をするな、お前は……。もっと単純に、有望な男が悪魔に転生したとでも思えばいいだろうに」

 

「いくら有望でも早死にするんじゃ大成のしようもないしな。……そもそも今の勝負だって、ライザーが舐めプしてたから勝てただけだろ」

 

 あの一時的な禁手はやはり、相当の無理をしていたらしく、たった十秒の間でさえ保つことができずに鎧が解除された。鎧を纏った状態でようやく互角なら、鎧が消えるまでライザーが逃げに徹していれば、赤龍帝に勝ち目はまるでなかった。最後の聖水にしても、ライザーがわざわざ近づかずに遠距離から炎を放っていれば聖水をかけることもできなかっただろう。

 要は運頼りだ。しかも、肝心な場面になって運に任せるという、かなり性質(タチ)が悪いタイプである。

 

「ぱっと見、あの熱血を好むやつもいるかもしれんけど……、格上相手にあそこまで突っかかるやつが今の冥界で生きていけるわけないしな」

 

 純血主義。そう呼ばれる考え方が、今の悪魔の間では主流である。例えば、貴族の家に生まれた悪魔は頭脳や力量如何に問わずに眷属を持つことができるのに対して、中級下級・転生悪魔は上級にまで昇進しなければ眷属を持つことができない。しかも、その昇格試験を受けることができるのはほんの一握りだ。実力があろうと、軍略に秀でていようと、階級がなければ冷遇されるだけ、それが悪魔の現状である。

 自分の地位を奪われるのではないかと恐れる上級悪魔たちにとって、将来強力になるであろう赤龍帝は目のたんこぶのように思えるだろうし、赤龍帝の性格からして階級を気にせずに目上の者に突っかかることもあるだろう。上層部に目を付けられることは確定だ。

 

「五年か十年か。どんなに長くても百年も生きられないだろうよ」

 

 

 

 

 




 第一章、完!!

 いやぁ、なんだかんだで長かった第一章。後半はグラナ君の独壇場で、皆さんオリヒロインの眷属たちのことを忘れたりしてませんか?? 彼女たちは『知られざる英雄(ミスター・アンノウン)』ではありませんよ?
 どうにも絡みが少なかったと実感があるので次章からは触れ合いも増やしていくつもりです。レイナーレは修行中なので次章では出ませんが、その分オリヒロインたちの魅力を伝えることができればなぁ。

 ストックが尽きかけているので、次の投稿がいつになるかはわかりませんが応援のほど、引き続きよろしくお願いします!!!!

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