ハイスクールD×D 嫉妬の蛇   作:雑魚王

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13話 最後の門番

 スカアハと別れた後。これまでと同様に次の門へと向かう道程は、肉体の損耗に反して容易なものだった。

 ヒュドラを倒すために発動した呪詛の代償として、今も呪われ続ける俺の肉体は毒の塊にも等しい。魔獣どもから見れば“弱ったお手頃な獲物”ではなく、“食らえば即死確実の毒肉”。食せば死ぬのは確実な上、触れるだけでも呪いが伝染しかねない厄介者と関わることを、本能で察しているのだろう。俺の視界にただ一匹として魔獣が入ってこないのは、その表れだ。

 

 とは言え、呪いに恐れ戦くのは生物に限った話であり、命を宿さない物はまた別の話となる。

 

 門に近づき、発動する迎撃システム。雨の如き矢の群れに大気を引き裂く魔力砲。第一から第六の門では迎撃システムはどれも同じだったというのに、今回だけはまるで別物。それはもちろん、俺の負傷具合を憐れんだスカアハが難易度を下げたというわけではなく、むしろ殺しにかかっているというレベルの難易度に引き上げられていた。

 魔力砲は石造りの建物を軽々と貫通し、矢を突き立てられた石畳には大きな罅が入る。そんな猛攻の中、魔剣を杖代わりにして歩く俺が無事でいられるはずもない。

 魔力の奔流に右足を焼かれた。膝から下の皮膚はほとんど消えて失せ、生々しい肉を覗かせる。鼻をつく香ばしい肉の匂いの発生源が自らの肉体という現実にはげんなりさせられる。動かない左腕には駄目押しとばかりに十数本の矢が生えており、中には貫通している物さえある始末。

 

 最後に見た、スカアハの背中。そこからは確かに喜びの感情を感じ取ることができたのだが、返答はコレである。照れ隠しか何かが、殺意に繋がるのだから、あの女神は相当に頭がおかしい。

 

 

 

(そして、そんな女に惚れた俺も大概アレってわけだ……)

 

 ちょっとアレな愛情表現と言う名の洗礼を受けてなお、生きていられたのだ。ヒュドラを倒した後の損耗具合から考えれば重畳と言っていい。

 

 はぁ、とため息を一つ吐き、道程の想起から現在の戦闘へと意識を切り替える。

視線の先にいるのは、第七の門番。鋭い瞳は金色に輝き、全身の体毛は美しい群青色。大きな翼を羽搏かせるたびに火の粉が舞い、嘴からはチロチロと炎が覗く。二つの脚は、猛禽類のように強靭に見え、軽々と鉄塊を握りつぶすくらいのことをしそうだ。

 その名は不死鳥、あるいはフェニックスと呼ばれる幻獣。その亜種だ。

 

『ィイイイイイイイ!!』

 

 甲高い、金切り声を響かせながら青い不死鳥は空を舞う。滑るような流麗な動きでありながらも、その速度は凄まじい。瞬き一つの間に、はるか上空まで飛び去ってしまった。

 

「戦意は十分。流石に、雑魚みたいに呪いの残滓にビビることはねえか」

 

(………前回のヒュドラもそうだったが、これ、かなり分が悪いな。俺はスカアハに飛行を禁止されているんだから、機動力に大きな差がある。しかも、負傷と疲労。不死性を持つ幻獣相手にこれはきつい)

 

 ――きついがやるしかない。

 

 試練とはそういうものだ。軽々しく突破できないからこそ、試練を成し遂げた者を、神は優遇する。

 太古から続く理の一つ。

 万に一つの勝機を掴め。不可能を可能にしろ。限界なんてものは超えるためにあるのだから。

 

 

「アンザス!!」

 

 柄から唯一離した、人差し指で宙にルーン文字を描いて魔術を放つ。間隔を短く三連続で飛翔する火球を、不死鳥は軽やかに翼を翻して回避した。

 

(今の回避、かなり余裕があったな。あの速度で放った三連続の魔術がまるで当たらないとなると、虚閃(セロ)はまず当たらないと見ていい。つーか、飛行速度が半端ない上に、あれだけの回避技術まで持っている相手を狙撃するのはかなり難易度が高いよな)

 

 では“点”を攻撃する狙撃ではなく“面”を攻撃する広範囲魔法ならばどうか。これも厳しいだろう。半端な攻撃では幻獣種の肉体には傷をつけることさえ敵わず、高威力の魔法を放とうと思えば発動までの溜め時間に手痛い妨害を受けることは想像するに容易い。

 

(……遠距離攻撃はボツ。飛行を禁止されてるから、上空を飛ぶ不死鳥相手に近づいて斬ることもできない。となると――ッ)

 

 迫る危機を前に思考を打ち切る。フェニックスの口腔からチロチロと火炎が漏れた。

 

『ィイイイイイイッ!!』

 

 そして咆哮と共に放たれるブレス。その熱量は大気を焦がし、大地を焼く。

 当たってしまえば、殺害から火葬までを一瞬のうちに完了させる火炎を、よたよたと回避する。だが、回避がギリギリだったからだろう。熱せられた空気を吸い込んでしまい、体の内側から焼けるような痛みが襲った。

 

「あああああっ! ()っついな!! ヒュドラの火炎ブレスより威力高いんじゃねえか、これ!?」

 

 体内を焼く熱に我慢できず、何度も唾を呑み込み少しでも熱を和らげようと試みる。

 しかし、その行為は焼け石に水。熱気を吸い込んだのは肺であり、呑み込まれたつばの行き着く先は胃なのだから、効果が出るはずもない。

 

「ッ! 俺が調子を整えるまで待ってくれるわけもないか!!」

 

 あまりの熱さに沸いた、胸を掻き毟りたい衝動を抑え込む。そうしなければ、次の攻撃を躱せないのだ。

 相変わらず上空を舞う不死鳥から放たれる超高温のブレス。一度目と同じ様に回避、そして一度目の際の失敗から得た教訓として、熱された大気を吸い込まないようにしばらく呼吸を止める。

 

(とりあえずは何とかなったが、このやり方はあまりいいとは言えないな)

 

 戦闘は全身を使った有酸素運動だ。その最中に呼吸を一時とはいえ止めるのは、動きの鈍化などに繋がる危険な行為である。一度や二度ならまだしも、戦闘が長期化し、何度も繰り返せば決して無視できないだけの変化が現れる。

 かといって熱気を吸い込まないだけの距離まで退避することも負傷によって難しい。やってやれないことはないだろうが、何度も繰り返せばなけなしの体力が完全に尽きて攻撃もままならなくなる。それでは完全にチェックメイトだ。

 

「じゃあ、防御? いやいや無理だろ。水の盾なんて張ったら、あの熱量と合わさって水蒸気爆発で爆死だし。ブレスのたびに、その威力に耐えられる障壁を展開することも難しいよな」

 

 防御、回避共に厳しい。嘆いても仕方なしと、魔剣を手放して右手を亜空間に突っ込み、役に立ちそうな道具をごそごそと漁る。

 

(あ、これとか結構いけるんじゃないか?)

 

 虚空から引っ張り出したのはミニガンの名前で知られる、M134の外見をした(・・・・・)銃だ。本家本元のミニガンは、毎分二千~四千発という単銃身機関銃をはるかに超える発射速度を持ち、被弾したときには痛みを感じる前に死んでいることから『Painless gun(無痛ガン)』とも呼ばれる。

 俺が握りしめる銃は、そのミニガンを裏の世界仕様にしたものである。素材はダークエルフの鍛えた金属を使い耐久性と射程を引き上げ、弾丸の一つ一つにはルーン文字を刻み込むことで威力を高めている。銘は『禍ツ風』、殺傷性能は本家のミニガンの十倍以上と断言できる代物だ。

 

「よっこいせ、っと」

 

 右腕だけで長大な銃身を持つガトリングを持ち上げる。片腕ではバランスを取ることが難しいので、腰を落として重心を固定してから、銃口を不死鳥へと向け引き金を引く。

 

「ちぃっ! 反動がデカすぎだろ。こんなことになるんだったら、テキトウなところで試射しとけばよかった」

 

 ドゥルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル!! 猛烈な勢いで放たれる弾丸の嵐。反動はその勢いに見合ったもので、銃身を固定することに集中しなければすぐさま銃口があらぬ方向を向いてしまいそうだ。

始めこそ、弾丸の嵐をアクロバット飛行で巧みにかわしていたフェニックスも、そのたびに狙いを修正していくことでついに捉える。

 

『ィイイイイイイ!?』

 

 ドッドドドォン! ドドドン! 弾丸が一つ着弾するたびに巻き起こる爆発。そして、この魔改造ミニガンの連射速度は、毎分五千~七千だ。あっという間に、フェニックスの姿は爆炎に包まれて見えなくなる。

 

(つっても、爆発は着弾しない限り起きねえんだから、爆発が続く限りはそこにいることはわかってる)

 

 鼓膜が痛みを覚えるほどの轟音と連続する爆発は、見た目こそ派手だが大したダメージを与えることはできていないだろう。そも、魔術的に『火』は生命の象徴とされており、不死の特性を持つフェニックスはその最たるものだと言ってもいい。そんな相手に爆発が効果的であるはずもない。爆発を抜きにした弾丸の威力は、その大半が頑強な幻獣種の対比と体毛に殺されてしまう。よって深部にまで到達することは無く、フェニックスならばその程度の軽傷を癒すことなど朝飯前だ。

 今も尚、フェニックスを爆炎の中に拘束し続けることができているのは、途切れることのない爆風が動きを阻害した結果である。弾薬が尽きれば、あの相手にアドバンテージがありすぎる状況に逆戻りだ。

 

(――決め手はあるんだ。問題はそれをどうやって当てるかってことに尽きる。考えろ考えろ考えろ考えろ! 膠着状態が解けるまでに策を思いつかなければ死ぬだけだ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 今回は短く、戦いも途中で切り上げとなりました。自分の文才的にここから先の展開の描写がきつかったことが最大の要因です。
 これから先、「今なら上手く表現できるかも!」と自信が付いたならば、書き足すことがあるかもしれませんね。


 『禍ツ風』

 一言で言ってしまえば改造ミニガン。半端な結界や障壁ならば容易く削り取り、並の上級悪魔をミンチにすることができるほどの威力を持つ。ただし、試作段階であり、調整と改良が必要になると思われる代物。
 
 なぜグラナがこれまで『禍ツ風』を使わなかったと言うと、街中で使えばその騒音により多くの魔獣を引き寄せる危険があり、これまでの門番との戦いでは使うタイミングが無かったというのが最大の要因ですね。ミノタウロス戦では使わずとも勝てましたし、アーマード・ビーは一体一体が小さいので銃は相性が悪い。ヒュドラ戦では結構早いタイミングで大ダメージを負ったため、余裕がなく、呪詛による短期決着を狙った――――そんな感じです。

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