ハイスクールD×D 嫉妬の蛇   作:雑魚王

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 絶望に沈む聖女。義憤に駆られる少年。悪辣なる堕天使。
 幾人もの思惑が交錯し、爆ぜる時、嫉妬の蛇が現れる。

 ハイスクールD×D嫉妬の蛇 第一章一女守護事変~救済の乙女~

「俺はあの時、お前を助けられなかった。だから、今度こそは救ってみせる」




FGO信者なのでそれっぽい宣伝にしてみました。
文体やらなにやらはこれから調整していくので、自最初の内はブレることもあると思いますが、暖かい目で見守ってください。……作者は豆腐メンタルなのでマジでお願いします!!


第一章 一女守護事変 影の国 ~救済の乙女~
1話 彼女を救うのは———


 兵藤一誠。それはつい先日までただの高校生であった、そして現在は悪魔としてリアス・グレモリーの眷属『兵士』を務める少年の名だ。男子高校生に相応しい身長と健康に恵まれた、茶髪のどこにでもいるような少年でしかない彼だが、その身に『神器』と呼ばれる特殊な存在を宿していたことを切っ掛けに堕天使に殺され、その後に悪魔に転生した。

 

「一誠くん、助けて! お願い、あなたを殺したのも上からの命令で嫌々やったことでしかないの!!」

 

 涙目の上目遣いで必死に訴えるこの黒髪の女こそが、兵藤一誠を殺した堕天使レイナーレである。彼女は天野夕麻という偽名を使い一誠に近づき殺した。

そんな彼女を恨んでいないと言えば嘘になる。彼女が一誠に近づいてきた方法は彼に好意を持っていると装うという、一誠の心を馬鹿にするような方法だったことも、そして殺されたことにも当然憤りはある。だが、それでも、一誠はレイナーレを見つけ出して復讐するつもりなど毛頭なかった。結果論になってしまうが、レイナーレに殺されたことで一誠は憧れのリアス・グレモリーの眷属となることができたのだし、容易く騙された自分にも非があると思う部分も少なからずあるのだ。

 

「一誠くん、私たちならきっとやり直せるわ! だから早くあの女を止めてよ!?」

 

 しかし、この女は一誠の大切な『友達』――アーシア・アルジェントを殺したのだ。他人のためにその身を投げ出せる、誰よりも優しい少女を殺したレイナーレを許してはアーシアが報われないではないか。

 

「リアス部長……お願いします」

 

 思っていたよりも遥かに重い声音だった。恨みと憎しみと怒りと悔恨に身を焼かれそうになっても尚、初めての恋人だった天野夕麻との思い出が一誠の決断に待ったをかけようとしていた。が、それを捻じ伏せ、過去と決別するために、そしてせめてアーシアの仇を取るために主たるリアスに処刑することを願い出る。

 

「ええ。任せない、イッセー」

 

 リアスは一切の慈悲を感じさせない冷たい眼差しをレイナーレに向け、両手に母方のバアル家の特色『滅び』の魔力を纏わせる。彼女の性格を示すように荒々しく脈打ちながらも、その本質は全てを消滅させ得る冷たさを持つ。

 

 

「滅びなさい!!」

 

「や、やめ――」

 

 命乞いをみっともなく続ける女堕天使に一切の躊躇なく極大の魔力塊をリアスは放った。リアスの管理する土地で問題を起こしたことはリアスを舐めているとも言えるし、一誠が悪魔に転生したあともこの堕天使の一派に襲われているのだ。情愛に深いと言われるグレモリーとして、上級悪魔の一人として慈悲をかけることはない。

 加えて言うならば、プライドの高いリアスにとって、今回のアーシア・アルジェントの神器を抜き取って己の力とするレイナーレの計画は好くものではなかった。神器は所有者の魂と密接なかかわりを持つ特性があるために、強引に引き剥がせば、所有者は死んでしまう。アーシアの命を省みず、己の欲望を優先したレイナーレは、グレモリーの次期当主でも上級悪魔の令嬢としてでもなく、一人のリアスとして裁くべき対象だった。

 

 端的に言って、気にいらない。できることならすぐにでも視界から消してやる。そう思っていただけに可愛い下僕からレイナーレの処刑を頼まれてすぐに行動に移せた。

 最強にして最高の一撃で、レイナーレの痕跡一つ残すことなくこの世から消し去ってみせよう。

 それだけの意気込みで放った魔力であったが、しかし結果は予想とは大きくかけ離れていた。

 

「そう怒るなよ、グレモリー」

 

 一瞬の内に滅びの魔力が爆散してしまったのだ。開けた視界には、いまだ床に蹲ったままのレイナーレとどこからか乱入してきた褐色肌の男。外見は百八十代後半ほどの長身で、身に纏った外套の上からでも、よく鍛え込まれた戦士の肉体であることが察せる。髪と瞳は一切の陰りを許さない黄金色。

 振り抜かれたままの右拳から、裏拳で先ほどの魔力を防いだのだろうと察することが出来るが、『滅び』と称される魔力を生身で受けておきながら僅かな傷さえ見えない。その防御力たるや、グレモリー眷属の想像の及ぶ領域ではなかった。

 

「グラナ!? あなたがどうしてここに!?」

 

 新手の出現かと戦闘態勢に入ろうとしたグレモリー眷属に動揺がはしる。堕天使を庇った男がリアスの知り合いという、摩訶不思議な関係にどう動くべきか判然としないのだ。

 

「部長、あいつはいったい……?」

 

 新参の一誠が知らないのも無理はない。いや、最古参の朱乃ですら知らないのだから、むしろ当然とさえ言えた。

 

「彼はグラナ。グラナ・レヴィアタン。旧レヴィアタンの末裔よ」

 

 旧レヴィアタンとはすなわち、旧四大魔王の一角である。その子孫は現在の冥界でも大物と言えるだろうし、『グラナ・レヴィアタン』という個人の名前は殊更に有名だった。

 曰く、使用人と眷属に片っ端から手を出す色狂い。

 曰く、魔王陛下の子飼いの戦士。

 曰く、異常な場所に居を構える変人。

 曰く、曰く、曰く……。良い意味でも悪い意味でも有名な若手悪魔、それがグラナ・レヴィアタンに抱かれる大衆の印象だ。

 一誠を除くグレモリー眷属の面々も大よそそのような印象を持っていたと言って良いが、しかし、まさかこうして唐突に対面することなど予見できるはずもなく、驚愕に身を固めてしまう。学の浅い一誠でさえ、レヴィアタンという大悪魔の名を前にして驚きを隠せずにいた。

 

 そして驚愕だけでなく、なぜここに、という疑問も主と共有する。次期公爵家当主のリアスですら、グラナと会ったことは片手の指で足りるほどに彼はグレモリー家と距離を取っている。そんな彼が、こうして姿を現し、堕天使を庇うのか。リアスには皆目見当もつかなかった。

 

「……一応、訊いておくけれど、あなたがそこの堕天使に篭絡されたってわけじゃないのよね?」

 

「ああ。俺がここにいるのは完全に俺一人の意思だ。この女も俺のことは一切知らないはずだぜ」

 

 リアスもほとんど知らないこの男のことを下っ端堕天使が知っていたら、ある意味感心するほどだ。ゆえにこの答えは予想できていた。

 

「ならなぜここに? 困っているヒトがいれば誰彼構わず助けるお人好しでもないでしょ?」

 

「わざわざ命を救ったことと、こうして人間界まで足を運んでいることを考えればわかりそうなもんだけどな」

 

 予想は一つだけだがついている。ただそれが外れてほしいだけだ。

 

「答えはこれだよ」

 

 グラナが虚空に展開した魔方陣から取り出したのはチェスの『騎士』の駒。ただの騎士の駒でないことはこの距離からでもわかる。なにせ、リアスも全く同じものを持っているのだから。

 

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)! やっぱり、あなたはそこの堕天使――レイナーレを眷属に加えるつもりなのね……!」

 

 それはかつての戦争において数を激減させた悪魔が、再び力を取り戻すために作った特殊なアイテムだ。上級悪魔に与えられる、計十五個の駒を眼鏡に適った相手に与えることで眷属にすることができ、与える相手が他種族の者だった場合は悪魔に転生させるというものだ。

 

「でも、レイナーレは私の可愛い下僕を傷つけたの。はい、そうですかって見逃すと思う?」

 

 上級悪魔の中には下僕を省みない者もいるが、反対に下僕を庇護下に置く者もいる。前者が旧時代の思想を引き継ぐものであり、後者は現魔王を筆頭とした一部の上級悪魔たちだ。ここで重要なのは、リアスはグラナと交流が少ないために彼がどういった思想を持っているのかがさっぱりわからないことである。下僕を省みないのならば、レイナーレに対する罰ともなるが、逆だった場合はまんまと逃げられるも同然だ。そんなことを許せるはずが無い。

 

「別にお前の許可なんかいらねえよ。冥界の法にも『よその上級悪魔の眷属を傷つけた者を配下にしてはならない』なんて記されてないんだからな」

 

「そんなの……!」

 

 当たり前だ。と言えたら、どんなに気分が良い事か。確かにグラナの言う通り、冥界の法において、今の状況に陥ったレイナーレを下僕にすることを禁止する条文はどこにも記されていない。だが、それは記すまでもない当然のことだからだ。『犯罪者を配下にしたいと思う者がいるはずもない』という前提があるために、記されなかったにすぎないのである。配下にした後も信用できるか甚だ怪しいうえに、他所の上級悪魔とその眷属との関係の悪化も懸念されるというハイリスク・ローリターンの決断をする者がいないという考えが根底にある。

 

「文句もないようだし、この話は終わりだ。――レイナーレ、俺の眷属になれ」

 

 ふい、と何事もなかったかのように視線を外すと、グラナはレイナーレに『騎士』の駒を差し出した。

 レイナーレは何度もグラナの顔とその手の内の駒を見比べ、百面相を演じていく。なぜ自分を眷属にするのかという疑問、これで助かるという期待、罠の可能性もあるのではないかとの猜疑、いくつもの感情をその顔に描き、しかし最後には『騎士』の駒を取る以外に生き残る術がないために結局駒を受け取ることにした。

 が、駒を掴み取る寸前にグラナは手をひょいと動かして、レイナーレの手から逃れた。

 

「何を……?」

 

 やはり罠だったのか。レイナーレの目は、彼女の口以上にその心情を吐露している。

 

「俺のほうから誘っておいてなんだけどな……この駒を受け取るってことは俺の眷属になるってことだ。かつての仲間の堕天使とも戦うこともあるかもしれない」

 

 アザゼルやシェムハザといった堕天使のリーダーを尊敬するレイナーレには酷なことだろう。尊敬する相手に直接槍を向けることは無くとも、裏切ったという事実だけで傷心には充分過ぎる。それにレイナーレにはこの地に連れてきた部下以外にも、堕天使陣営に親しい相手がいるはずだ。親しいのならば階級が近い可能性も高く、ならば実際に槍を交える未来が来たとしてもおかしくない。

 

「今の悪魔の世界は数が減ってもなお、純潔悪魔を至上としていて転生悪魔や混血悪魔を差別しているからお前にとっちゃ居心地の悪い場所かもしれない」

 

 現四大魔王は差別や迫害をなくそうと尽力しているが、上層部の悪魔の多くは大戦以前から生きている老獪な者ばかりであるために、なかなか結果が出せないでいる。元龍王のタンニーンは最上級悪魔となり、冥界最強と謳われるルシファー眷属の大半が転生悪魔であってもなお、それなのだ。これから先、何十年も何百年も、きっと差別と迫害は続くのだろう。彼女が産んだ子供も悪意に晒されるかもしれない。子供の幸福を願う、ありふれた母としての想いさえ成就されないことがあり得る。それが今の悪魔の世界なのだ。

 

「俺自身、冥界の老害どもにしょっちゅう喧嘩を売りまくってるから、あちこちから敵意と悪意を向けられてる。眷属になればお前の身にも危険が及ぶこともあるかもしれない」

 

 愛した女を差別し迫害する連中に愛想よく接することができるわけがない。愛した女との間に子供を作ったとしても、子供が幸福な未来を歩めないだろう世界を慈しめるはずがない。ゆえに、グラナはそんな連中のことが、そんな世界を作る連中のことが殺意を抱くほどに大嫌いなのだ。

 

「俺の眷属になればこの場を生きて切り抜けることができる。でもな、これから先の生活は決して希望と幸福に満ちた、順風満帆なものじゃない。ここで死んでいたほうが良かったと思うこともあるかもしれない――それでもお前は俺の『騎士』になってくれるか?」

 

 これは選択であり、決断だ。レイナーレにとって己の全てを決め得る、最大のターニング・ポイント。あくまで、グラナは情報を開示し、選択肢を提示したにすぎない。ここで死ぬか、グラナの眷属となって生き永らえるか。それを決定するのは、単にレイナーレの意思である。それゆえに、この決定の結果がどうなろうと、今後何が起ころうともレイナーレはその責任を自身で追わなければならず、言い訳の余地が一切存在しない。

 

「私は……」

 

 ここで死ぬか、生き永らえるか。その二択なら、断然後者を選びたいとレイナーレは思う。しかし、生き永らえる場合は今後、悪魔として生活しなければならず、グラナの挙げたいくつもの弊害に困らされることもあるだろう。

では、この場では眷属になることを了承してこの場を切り抜け、その後で逃げ出して神の子を見張る者(グリゴリ)へと帰還するか。絶対に無理である。魔王の妹と事を構えてしまった下っ端を組織が庇うはずもなく、蜥蜴の尻尾のように切り落とされるのが目に見えている。それに一時とはいえ、主従関係を結んだグラナが裏切りを許すとも思えず、闘争を開始した途端に死ぬ可能性が高い。

 

「――あなたの『騎士』になる」

 

 それでも生きたい。まだ何も残せていない。まだ何も成せていない。ここで死んでしまったら、『レイナーレ』という女が何のために生まれてきたのかすらわからなくなってしまう。それがレイナーレは怖かった。アーシアの神器を狙ったのも、上位の堕天使の気を惹こうとしたのも、自身を誰かに見てもらいたかったからだ。誰かにとって必要だと言われ、存在を認めてほしかったからだ。

 そして、グラナはレイナーレを必要としてくれている。貴重な眷属の枠を使ってまで、レイナーレを手に入れようとしている。グラナの与えてくれるものが、レイナーレの欲するものだという保証はどこにもないけれど、ここで死んでしまうよりは一か八かに賭けてみたい。

 

「そうか、よかった。これからよろしく頼むな、レイナーレ」

 

 

 

 

 


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