【本編完結】影とうたわれるもの~二人の白皇再構成~   作:しとしと

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クオンとのデート回。


第五十一話 繋がるもの

 謁見の間に取り残された後、廊下を歩く衛兵に自分の部屋を訪ね、不審に思われながらも案内されて暫くである。

 トゥスクル皇女は、じきクオンが帰ってくると言っていたのでウルゥルとサラァナと共に部屋で何をするでもなく待っていると、別の騒がしい来客があった。

 

「なんでよりにもよってここに来るんだよ」

「え~、なんか面白そうなものが見れそうだと思って」

「ん」

 

 カミュとアルルゥが皆の案内を終えて暇なのか、自分が横になるよりも先に自分の布団を広げて本など読み始めている。

 二人を探す衛兵の声が廊下より響く。

 

「カミュ様とアルルゥ様はいらっしゃったか?」

「いえ、それが……」

「全く、また悪い癖が出たか……」

 

 悪戯が成功したかのような笑みを二人揃って浮かべているので、きっと日常的にこの二人は逃走を図っているのだろう。

 しーと口元に指を当てる二人であるが、ここは自分の憩いの場である。廊下に出て教えてやろうか迷ったが、二人には聞きたかったこともあるし黙ることにした。

 

「あ、そうだ。さっきオボロが泣き崩れてたけど、ハクちゃん何か言ったの?」

「オボロ?」

 

 思いついたというように聞いてきたカミュであるが、オボロという名が誰なのか判らず首を傾げた。

 

「えーっと、トゥスクル皇だよ」

「ああ、あのおっさんか……」

 

 皆がいなくなった後、謁見の間でのことだろう。何を言ったと言われても、クオンのことについて聞かれただけである。

 あの問答で泣き崩れる理由がわからん。どっちかと言えばこっちの方が泣きたいくらい雰囲気が悪かったのだ。

 

「クオンのことだが」

「クーの?」

「ああ」

「何て言ったの?」

「いや、クオンは恩人だって言っただけだ」

「それだけ?」

「ああ。その恩をクオンに返したいとか何とか、言ったな」

「……なるほど~、それでツンツンするところが無くて泣いてたんだねぇ」

 

 ふむふむとカミュが面白そうに呟く。

 

「結局あのおっさんにとってクオンは何なんだ?」

「教えてあげたいけど、私の口からは……ねー、アルちゃん」

「ねー、カミュちー」

 

 顔を見合せて笑う二人に、情報源として当てにならないと感じる。

 そしてアルルゥを見やれば、話よりも興味のあるものに惹かれたようで、客人用に置いてあった菓子類に手を付け始めている。

 

「もふもふもふもふ」

「あ、アルちゃん、それ私も食べる」

「ん」

「あの……もう帰ってくれんか」

 

 やりたい放題しすぎである。

 一応自分はヤマトの客人である。いくらトゥスクルが彼らの国であるとしても客人の前でする態度ではない。やはり先ほどの衛兵に突き出すべきだったかと今更ながらに後悔し始めた。

 

「え~でも将来義理の弟になるかもだし! ハクちゃんもここでお姉ちゃんに可愛げのあるところ見せとかないと!」

「お前も私達を姉さまと慕う」

「姉さま? あんたら、そんな歳──」

 

 どちらかと言えば妹だろうと年齢について言及しようとしたが、そういえば、デコイは長寿種。

 少女のように若い容姿であるが、もしかしたら自分より年上の可能性もあるのだ。

 

「あ、なんか失礼なこと考えてる顔してる」

「い、いや、そんなことはないぞ」

「弟は初めて」

「あ、確かにアルちゃんの言う通りだね! フーちゃんとか義妹はいるけど、弟って無かったよね!」

 

 自分を置いて盛り上がる二人。

 クオンがこの二人を苦手とする理由が何となくわかる。会話が好き勝手にころころ転がり、話の主導権を常に握られてしまうのだ。

 ウルゥルとサラァナは、オンカミヤリューであるカミュを苦手としているのか口を開かずじっとしているし。

 

 まあ、自分の安寧の部屋を荒らすだけ荒らしてくれたのだ。

 多少はこっちから質問をさせてもらおうと、先ほどの謁見の際に見せたある反応について聞いた。

 

「カミュさんアルルゥさんよ、菓子はもう全部食べていいから……今度はこっちから質問してもいいか?」

「? ハクちゃんから? 個人的なこと以外ならいいよ!」

「女の秘密」

 

 ダメー、とお道化た様に互いの体を守る仕草をする二人。

 

「いやいや、あんたらの個人的な隠し事には興味ないから」

「ふむふむ、じゃあ何?」

「あんたらは、マスターキーと呼ばれる物が何なのか知っているのか?」

「……」

 

 カミュとアルルゥは一瞬言ってもいいかどうか迷う素振りを見せた後、二人して頷き合ってその答えを誤魔化した。

 

「うーん、私達からは言えないかなあ」

「そうか」

 

 何か知っているという言葉ではあるが、言うつもりはない。つまり、トゥスクルにとって秘匿すべきことなのだろう。

 クオンに会ってマスターキーの所在を探る必要があるな、と考えていたが、でもとカミュは言葉を続けた。

 

「お姉さまなら判断できるかも」

「お姉さま?」

「オンカミヤムカイ賢大僧正」

 

 アルルゥが補完するようにその役職を言う。

 沈黙を守っていたウルゥルとサラァナが警戒するように呟いた。

 

「ウィツァルネミテアの総本山」

「かの眷属達の宗教国家、その頂点に立つ者ですね」

「そうなのか」

 

 トゥスクルにおける一大宗教の頂点。

 カミュのお姉さまとやらは、とんでもないお偉いさんみたいだ。ん、しかし、ということは──

 

「お姉さまはウルトリィって言って──」

「何? ってことは……あんた、オンカミヤムカイの姫様なのか」

「そうだよー、えへへ、驚いた?」

 

 そりゃ衛兵が探すわけである。

 とんでもないお偉いさんだ。全然感じないが。

 

 衛兵に密告するか迷っているとその心根が透けて見えたのだろう。自分の口元に指を当てて阻止した。

 

「あ、密告したりしたら駄目だよ。もしバラしたら……」

「布団が蜂蜜まみれになる」

 

 何だよその子どもっぽい復讐の仕方は。

 とりあえず、バラすバラさないを話していても仕方がない。マスターキーについて再び問う。

 

「その、ウルトリィってヒトなら知っていると?」

「うん。多分、近日中にここに使いが来ると思うよ。オボロが伝令を出したし」

「そうか……」

 

 であれば、そのウルトリィ、もしくは使いの者が来たときに、色々聞くのがいいのかもしれない。

 マスターキーについては、ウォシスを阻むだけではなく、兄貴の為に自分が手に入れる必要もあるのだ。ただ、そんな総本山にもし保管されているのであれば、手に入れるのは困難そうだ。

 

 そこはクオンと相談だなと、待ち人を待とうとふと音のする方へ視線を向けた。

 そこには、既に目の前の菓子を平らげ、奥から新たな菓子を取りだすアルルゥの姿であった。

 

「もふもふもふ」

「あ~、お茶が欲しくなってきたね」

「ん、弟のお前が出す」

「あの……やっぱり、帰ってくれんか」

 

 客人なら茶を出すのはあんたらの役目だろうが。

 聞きたいことも聞き終わったし、この独特の空気感から逃れたいがクオンが来るまではここを離れられない。

 誰か助け舟に来んかなと悩んでいると、目的の人物が襖の前に現れた。

 

「ハク? この部屋にいるって聞いたんだけど……」

「ああ、クオンか。入ってくれ」

「よかった、やっぱりここ……だ、った……?」

 

 クオンは襖を開き自分の顔を見て喜色を浮かべるも、布団に寝転んで菓子を食べ散らかす二人の存在に気付き、その表情を歪めた。

 

「な、な、何で姉さま達がここに……!」

「お帰りークーちゃん。ふっふっふ、お早い御着替えでしたな」

「カミュちー、言ったらだめ。クーは義弟になったハクに会いたかっただけ」

「あ、そうだね。野暮なこと言ってごめんね、クーちゃん」

「ち、違うから! というか、ハクが義弟ってどういうことかな!」

「どうって……」

 

 ねえ、と言ったように二人が顔を見合せる。

 だってクーちゃんは、と言い切る前に、クオンは嫌な予感がしたのだろう。真っ赤になった表情で慌てて二人の口を塞ごうと飛び込んできた。

 

「わ、わーわーわー!!」

「あははっ、照れ屋さんなんだから」

「クーは分かり易い」

「そうだね、なのに弟のハクちゃんと来たら……」

 

 じとーっとカミュとアルルゥより不躾な目線を送られる。

 何かはわからんが、かなり馬鹿にされているようである。

 

 ただ、このわちゃわちゃ感から早く逃れたかったのと、皇女から言われたクオンを誘えと言う言葉が頭に過ったため、これ以上荒らされる前にクオンに声をかけることにした。

 

「とりあえず、待ってたぞ。クオン」

「あ、うん……ごめんね、待たせて」

「いいんだ。とりあえず、夕刻の宴まで時間があるし……その辺の案内をしてくれると嬉しいんだが……」

「えっ? で、でも……」

「駄目か? できればクオンと──二人で行きたい」

 

 マスターキーについて話したいこともある。

 カミュとアルルゥが一緒だとそれこそ落ち着かないので、それとなく二人でというのを強調して誘ったその時である。

 

 きゃあああと黄色い悲鳴を上げて、アルルゥとカミュが互いの手を握って盛り上がった。

 

「二人だって! ハクちゃんとクーちゃんで逢引だ!」

「ふんふん」

「ち、違うから! ハクも、皆のいる前でそんな……というか、そもそも何で姉さま達がここにいるの!」

「えー? なんか面白そうな予感がしたから」

「朴念仁の観察」

 

 クオンは二人の言葉に頭を抱えてよろよろと座り込んでしまう。

 何事か計画していた予定がお釈迦になったような反応である。助け舟となってくれるかと思ったが、矛先がクオンに向いただけで場は未だ二人の主導権。

 

 少し強引に行かねば、皇女の指示通りクオンと二人きりになるのは難しいか。

 

「クオン、とりあえず行こう」

「えっ、あ、ちょ、ちょっと、ハク!?」

「あーっ! 手繋いでる!」

「ふんふん」

 

 ウルゥルとサラァナには悪いが、ここは強引にクオンの手を引っ張って外に出ることにする。

 いつまでも付き合っていると一向に動けなさそうだし、夕方の宴まで彼らに翻弄されるのも癪である。

 

 そうして、クオンの手を取って城の廊下を二人で走る。

 擦れ違う衛兵たちには不審な顔をされるも、後ろに追従するクオンの姿を見て警戒を解いてくれた。

 顔認証で警戒が緩むくらいだ。トゥスクル宮廷の中でもクオンはかなりの重鎮なのだろう。

 

「おや……?」

「おっと……へえ、若い奴さん方がお盛んなことで」

 

 城の入り口辺りまで差し掛かった時、通りがけにベナウィとクロウとすれ違ったが、何やら二人して薄く笑みを浮かべた程度で特に引き止められることも無かった。

 

「思わず羨んじまいやすねえ。ねっ、大将」

「おや? 貴方もカムチャタールとああいったことをしていたではないですか」

「あ、あれはあっちが強引に……勘弁してくださいよ、大将」

 

 何やらこっちを話題に何事か話をしているが、好都合だとそのままクオンと共に門まで突き進む。

 

「追っ手は無しか……」

 

 城下への門まで辿り着き、後ろを振り向くも誰かが追ってくる様子も無い。安心して繋いでいた手を離し、二人して息を整えた。

 

「はあ、はあ……もう、どうしたの、ハク……こんな強引に」

 

 クオンが自分の歩幅で走れなかったため思ったよりも呼吸を乱したのだろう、息を切らして抗議してくる。

 

「すまんな。とりあえず、小腹も減ったし出掛けたくてな」

「それにしたって……も~、姉さま達だけじゃなく、ベナウィとクロウにも絶対後で揶揄われるかな……」

 

 自分の菓子は粗方カミュとアルルゥに持ってかれたからな。

 トゥスクル皇女に色々言われたのもあるが、クオンとは二人で過ごした記憶が久しく無い。いい機会だとも思っていたのだ。

 

 先の展開を思って照れたように頭を抱えているクオンに近づき、声をかける。

 

「──ほら、トゥスクルを案内してくれるんだろう?」

「う、うん……」

 

 呼気の落ち着いたクオンに再び手を差し出す。

 すると、クオンは最初その手を取ろうか迷うように照れたり戸惑ったりしていたが、やがてゆっくりと自分の手を握った。

 

「そんで、どこに行く?」

「えっと……どこでもいい?」

「ああ、自分にはわからんからな」

「じゃ、じゃあ、帰ったら絶対に顔を出すところがあるんだけど……まず、そこに行こっ!」

 

 もう思考は切り替えたのだろう。クオンはさっきとは逆に、声も弾む様子で自分の手を引き何処かへと足を踏み出す。

 どこに行くかはわからんが、道中笑顔のままクオンに連れられ、あっちは何々、こっちはどれどれ、心底楽しげに案内してくれた。

 

「でね、このお店の御菓子がとっても美味しくて!」

「へえ……なら買おうかね」

「おや? クー様ではありませんか。ん、そちらの方は……」

 

 店の者にもクオンはクー様と呼ばれ慕われているようである。

 

 ただ、そんな慕われているクオンと手を繋いだ自分がいるのが不思議なのだろう。店の爺さんは自分の顔をじろじろと不審な顔で見て来た。

 

「あ、えと……彼はハクで、私のこ、友人かな!」

「そうでございましたか……クー様のご友人で在らせられましたら、お代は結構ですよ」

「そんな訳にはいかんだろ。ほら」

 

 大宮司となって以前より給金も多いのだ。

 出すもんはしっかり出すとクオンと二人分購入し、棒に刺さった飴のような菓子をクオンに手渡す。

 

「あ、ありがとう……」

「おう。たまにはな」

 

 クオンはその流れるような奢りの動作に戸惑っていたが、静々と受け取ってくれた。

 まあ、あんまり自分がこういうことはしたこと無かったからな。

 

「ふふ……ハクがいつもこうなら、もっと恰好良いのにね!」

「それは無理だ。誰かさんに財布を握られていたせいで貧乏性なんでな」

 

 賭場や走犬場ですった後、ひもじい想いを何度してきたか。

 そんなやりとりを見て何か感じ入るところがあったのだろう。店の主人がぽつりと呟いた。

 

「おお……クー様にもついに良き人が……」

 

 目の前の爺さんはまるで自分のことのように喜んでいたが、クオンはその言葉が恥ずかしかったのだろう。

 

「つ、次! 次、行こっ!」

 

 クオンは店の爺さんに礼を言うと、再び強引に自分の手を引っ張って店の前から遠ざかってしまう。

 

 お釣り、もらってないんだがなあ。

 気前がいい時はいいが、そういったところは気になるくらいには貧乏性なのだ。

 かなり多めに払ってしまったと店を振り返るくらいには気にはなるものの、頬を染めたまま己の手を引きずんずん進むクオンに戻ろうとも言えない。

 

 貧乏性と同じくらい諦め癖もあるので、まあいいかとクオンの後をついて行ったのだった。

 

 そして、街の中から逸れ、辿り着いたのは──

 

「──寺子屋?」

「うん、お昼ご飯はさっき食べたみたいだから、遊びに来ただけなんだけど」

 

 庭を元気に走り回る子供達が十数人。和気藹々とした雰囲気はどこかエンナカムイの子ども達を想起させた。

 

 クオンの話によればここは元々孤児院だったそうだ。

 それが教育を受ける場へと徐々に代わり、親のいない子だけでなく、親が居ても通学可能となったそうだ。クオンやフミルィルもかつてはここに通っていたそうである。

 

 故に──

 

「あ、クーさまだ!」

「クーさま! あそびにきてくれたの?」

 

 はしゃいだように駆け寄る子ども達。

 クオンはそれを慈愛の笑みで迎えていた。

 

「うん。それに、今日は新しい遊び相手も連れてきたかな!」

「え、もしかして、この変な仮面をつけたおじさん?」

 

 変な仮面は余計だ。

 ヴライの仮面は未だ外れないので、子ども達から興味深そうにじろじろ遠慮ない視線に晒される。

 

「ね、ハク。皆と遊んであげて」

 

 小さな子どもは嫌いではない。それどころか好きである。変な意味でなくてな。

 チィちゃんと遊んでいた手前、こうした子どもの心を掴む技は多いのだ。

 

「仕方がないな。よし坊主共、自分のびっくりどっきり技を見せてやろう」

 

 自分に興味を持って近づいて来た者に、手始めに己の手技を見せつける。

 

「ほれ、親指が取れちゃった」

「うぎゃー! 呪術でおじさんの指が!」

「クーさま、治療してあげて!」

 

 大いなる父界隈では視線誘導や錯覚を利用した有名な手品であるが、予想以上に半狂乱となった子ども達にクオンが笑う。

 

「あははっ、ほら、ハク手を出して。はい、治療」

「ああ~治っていくぅ……ほら、大丈夫だ」

「うわ、本当だ、クーさますげえ!」

「おじさん、クーさまにありがとうって言わないと!」

 

 はやくはやくと急かされクオンを見る。ふふん、と言ったように胸を張るクオン。

 おかしい、自分が手品で脚光を浴びる筈であったのにクオンに注目が行ってしまったようだ。

 

「あのね、治して貰ったらお礼を言わないとなんだよ!」

「わかったわかった、ありがとう。クオン」

「いいよ! ハクの指すぐ取れちゃうもんね」

「そんな訳ないだろう……うわ! また取れた!」

「ぎゃあああ」

 

 爆笑して地に転がる子ども達を見て、思わず笑みが浮かぶ。

 トゥスクルは戦乱を繰り返していたと聞く。きっと、その戦乱の最中で生まれた施設なのだろう。しかし、今ここの子ども達には一様に笑顔が灯っている。

 クオンは、平和の象徴であるここを大事にしているんだなあと感慨深かった。

 

「ねえねえ、おじちゃん、ハクって言うの?」

「? ああ」

 

 先程クオンが自分のことをハクと言ったからだろう。

 耳聡い子どもが質問して来た。

 

「ねえねえ、誰に名前をつけてもらったの? お母さん?」

「……いや、クオンに名付けてもらった」

 

 自分の保護者を自称しているから、母ちゃんみたいなものなんだろうがな。

 

「クーさまに?」

「ああ」

「じゃあ、私と一緒だね! 私もくーさまに名前つけてもらったの!」

 

 人形を抱えた女の子がにっこりと微笑む。

 親を亡くした子なのだろう。それでも、クオンやここにいる他の子を軸に日々を生きている。

 クオンも女の子の姿を見て、いつもとは違う慈愛の笑みを浮かべている。その横顔に一瞬──

 

「ん? どうしたの、ハク」

「あ、ああ、いや……何でも無いさ。よし、じゃあ次のどっきりびっくり技だ」

 

 その後も、袖に物を隠す手品を披露し、どこに隠した出せと子ども達によって遠慮ない殴打が己の背中や腹部を襲う。

 

 他にもいくつか披露したが、手品には飽きた者達もいたので、男の子に相撲を教え、足で書いた砂の円の中で取っ組み合いをする。

 

「ひがーしーハクの山! ハッケヨイのこった? こんな感じでいいの?」

「ああ、そんな感じだ。よしお前らやるぞ! どすこい!」

 

 行司役にはクオンにお願いをした。

 まあ、自分の時代には歴史のみ残っていた行事でもあるので、自分もあやふやなルールで遊んではいた。しかし、後半はそのルールすら無用の複数人対自分でとても疲れる。

 

 次には女の子も参加できる水鉄砲で水をかけあう遊びをした。

 そして諸々飽きては次の遊びを繰り返すうちに、辺りが夕闇に包まれ、寺子屋の子ども達が帰る時間になった頃、自分達もその場を離れることにしたのだ。

 

「また来てね! クーさま、ハクおじちゃん!」

「ああ」

 

 子どもはすぐ覚えるがすぐ忘れる。

 クオンのように何度も足を運ばんと直ぐに忘れられるだろう。トゥスクルにいる間は、何度か通うのもいいかもしれないな。

 

「しかし、自分のことを誰もお兄さんと呼ばんな」

「あははっ、仮面のせいじゃないかな」

「くそー……こんなに外したい気持ちになったのは初めてだぞ」

 

 仮面のせいで自分の年齢が高めに見られるなら、兄貴のところで仮面を外すための研究をするのもいいかもしれない。

 二人並んで城への帰り道を歩く中、クオンは夕日の中でぐーっと背伸びをし、こちらに微笑んだ。

 

「は~、楽しかったね」

「自分は疲れたよ」

「あんなに遊んでたのに、子供は嫌いなの?」

「そんなことないぞ、ただ体力の違いがね……」

「あはは、おじさんみたいなこと言ってる」

 

 うるさい。

 チイちゃんもそうだが、幼い心を持った者は何故か自分に対して遠慮が無くなるのだ。

 自分は絶対に怒らないと思っているような節もある。

 

 だからあいつらも調子に乗るんだろうなと、子どもっぽい表情を浮かべるアルルゥとカミュの顔も浮かんできた。

 クオンが懐かしむように、離れた寺子屋へ振り向く。

 

「さっきの場所も、ウルお母さまが開いた場所なんだよ。私達にとって凄く大事な場所……」

「へえ、そうなのか。ん、ウルお母さま……」

 

 先程聞いた名と似通っている点があるので、聞いた。

 

「もしかして、ウルトリィってヒトか?」

「うん、そうだよ。何で名前を知っているの?」

 

 クオンの疑問の表情に応えられるよう、クオンを待っている間カミュ達と話した内容を伝えた。

 

「そっか、カミュ姉さまが……」

「ああ、マスターキーについて知っているとも言ってたな」

「確かに、ウルお母さまなら何か言ってくれるかも……」

「クオンから他の誰かに聞いても答えてくれないのか?」

「うん……それは私達からは教えられない、って」

 

 そうか。

 あれだけクオン信者の集まりであっても教えられないのであれば、ウルトリィを待つ他無さそうである。

 しかし、クオンには何か心当たりがあるのか不敵な笑みを浮かべた。

 

「でも、隠されているかもしれない怪しい場所は知っているかな!」

「本当か?」

「うん、城まで戻らないといけないけど……行ってみる?」

 

 城まで戻るのか。

 そういえば、宴が夕刻だと言っていたことを思い出す。早く行かなければ間に合わないだろう。

 

「おいおい、宴はどうするんだ?」

「皆が宴に出ている間だったら、こっそり行けるかな」

「……なるほど」

 

 しかし、突然自分が宴に出ないとなると捜索隊が組まれるだろう。

 無断で式関連を抜け出すと痛い目に合うのは叙任式で経験済みである。

 

「しかし、誰にも何も言わず……」

「大丈夫かな。多分、マスターキーを探すことになると思っていたから……時間になっても戻らなかったら始めておいてって置手紙で伝えてあるし」

「そうなのか?」

「うん」

 

 用意のいいことである。

 まるで、自分とどこか出掛けることが決まっていたようでもあるが、クオンもそのつもりで来訪したのかもしれない。であれば都合がいい。

 

「なら、行くか」

「うん!」

 

 城に戻ってカミュやアルルゥに見つかっても面倒だと思っていた頃である。宴も始まっている時間であるが、クオンと相談して見つからないようこっそり行くことにした。

 

 そして、城下の正倉院と呼ばれる場所へ二人して警戒網を潜りながら忍び込む。

 

「暗いな……」

「ハク、離れないでね」

「ああ」

 

 火も無いため手探りで壁を伝いながら、闇の中はぐれないよう手を繋いで進んでいく。

 

「本当にここなのか?」

「うん……私だけなら、ここまでだったんだけど……」

 

 成程、大いなる父である自分が一緒であれば何か見つかるかもと思って来たのだろう。

 

 そして、闇の中、違和感のある形の壁に手を添えた時である。自分の存在に呼応してぼんやりと光る扉がその先の通路を現した。

 

「……行こっ、ハク!」

「おいおい、気を付けて進まんと……って」

 

 興味津々の様子で自分の手を強引に引っ張ってその先の通路へと足を運ぶ。

 しかし、ただの空き部屋だったようだ。

 

「む~」

 

 探求心が擽られたのだろう。熱心にクオンがあちこちを捜索していると、壁ががらりと崩れて思わぬ通路が生まれた。

 明らかに狭い道であるし、警戒して引き返そうと言ったのだが、クオンは歴史的発見だとはしゃいでぐんぐん先へ進む。

 

 嫌な予感がするも手を離して逸れる訳にもいかない。

 そうしてクオンに連れられるままどこを通ったかもわからぬうちに奥へ奥へと進んでいくと、道なき道を無理に通ったせいであろうか。

 

「うわっ……おいおい、崩れたぞ」

「え……あ、明かりが……」

 

 きっと先程狭い場所を通った時の衝撃で地盤が崩れたのだろう。

 周囲に明かりも無い。施設の一角に二人閉じ込められてしまったかもしれない。

 

「ど、どうしよう……」

「とりあえず、ばたばたしても仕方が無いな。歩きっぱなしで疲れた。マスターキーも無さそうだし、座って考えよう」

 

 一瞬見えた部屋の構造的に、袋小路である。これ以上何かして地盤を崩すのも危険だ。マスターキーもこんな危険なところに置くことはないだろう。

 不審に思った者によって助けが来るまではここで過ごすしかないと、暗闇の中二人肩を寄せて座り、壁に背を預ける。

 少しはしゃいでいた自覚はあるのだろう。クオンが申し訳なさそうに謝って来た。

 

「ご、ごめんね。ハク、巻きこんじゃって」

「慣れてる」

「えーっ、そんなことないかな!」

 

 そんなことある。

 クオンはこういう考古学的なものを見つけると直ぐにはしゃぐのだ。まあ、だからこそ兄貴ですら長年見つけられなかった自分が見つかったともいうのだが。

 

 多分遺跡をいじくりまわして冬眠装置の中に入った自分を解放したとかそんなとこだろう。

 

「自分を見つけた時も、こうやって後先考えずに遺跡探索していた結果なんだろ?」

「う……! そ、そんなことは、ないと、おもう、けど」

「やっぱりか」

「あっ……」

 

 もにょもにょと痛いところを突かれたというように黙るクオン。

 鎌をかけたつもりだったが、やはりクオンが自分の第一発見者であったようだ。クオンの顔には悪戯がばれてしまった子どものような表情が浮かんでいる。

 

 クオンは自分の保護者だなんだと大人のフリをする割には、やはり心はまだまだ未熟な少女でもあるのだ。

 トゥスクルの皆に黙ってあちこちを冒険しているくらいだ。こういう展開はある程度仕方ない。

 

「……」

 

 繋いだ手の体温と呼吸だけが互いを感じられる闇の中で、クオンは気になることがあるのと前置きして一つ質問して来た。

 

「ねえ……ハク」

「ん?」

「私が、ハクを遺跡で見つけたこと……後悔、してる?」

「? 何故そう思うんだ」

「だって……偶然とは言え、眠っていたハクを一方的に、私が起こしちゃったから……」

 

 クオンの表情は見えないが、声色からクオンがその後悔をずっと背負っていることがわかった。

 

 以前、自分をどこで見つけたのか誤魔化していたが、その後悔故に黙っていたことなのかもしれない。

 それとも、自分を見つけたことについて言及したから、ついでの良い機会だと思ったのかもしれない。

 

 ただ今は、クオンの独白を黙って聞かねばならないことはわかった。

 

「本当はね。ずっと、大いなる父と呼ばれる、うたわれるものに……会ってみたかったの、話してみたかった、聞いてみたかった……この人が目を覚ませば、私の知りたいことを教えてくれるんだって、勝手にハクを──」

「……」

「だけど、ハクは衰弱していて、目を覚まさなかった。それで、私はすぐに外に運んで看病したの」

 

 そういえばと思い出す。

 天幕の中、何も覚えてない自分が、赤子のようにクオンの姿を見た記憶。

 

 自分がハクとして生きる最初の出来事──真っ新な自分が、クオンに見惚れた。あの時の記憶は、今でも鮮明に瞼に映っていた。

 

「そうだったのか……」

「うん。失われた歴史の生き証人が目の前にいるって、嬉しかった。ときめいた……でも」

「でも?」

「ハクが目覚めて、私は後悔したの。あの時のハクは弱弱しくて、とても一人で生きていくことが出来そうになかったから。何より、この人は独りぼっちだって……私が独りぼっちにさせたんだって、気付いちゃったから……だから」

 

 クオンの声は、己の一番の暗部、自分に対する懺悔を表していたように思えた。

 独りぼっち──孤独、兄貴も抱えてきたこの想いは、仮面の暴走によって引き出されたように今も自分の中にある。だが、それ以上に──

 

「──楽しかったよ」

「え?」

「クオンが傍にいてくれたおかげで、色んな仲間ができた。親友もできたし、自分を好いてくれる奴もできた。生き別れの兄にも会えたし、孤独とは無縁の生活さ」

 

 毎日毎日誰かが自分と共に過ごす時間をくれる。

 研究と寝転がるばかりの土竜生活をしていた頃の静かな生活に比べればわちゃわちゃ煩くてたまらんが、もうあの時のような生活には戻れない程、毎日が楽しいんだ。

 

「それに……クオンが見つけてくれたからこそ、いつも支えて助けてくれたからこそ、今がある」

「……」

「だから──ありがとう」

 

 いくら闇に目が慣れても、互いの表情は未だ見えない。

 しかし、自分の言葉が真実であることは、クオンに伝わったようだ。

 

「うん……そう、思ってくれたんだ」

「ああ、だから小遣い上げてくれ」

「ふふ……もう大宮司だから、いらないかな」

 

 闇の中、自分の肩に誰かの頬が乗る感覚がする。

 手指は腕を抱くように繋ぎ直され、寄り添い、互いの距離が大きく近づいたことを理解した。

 

「……」

 

 体の片側より感じる互いの熱に心を奪われながら、心地よい沈黙の時を過ごす。

 ぽつり、と無言になった二人の空間に投じられたのは、気になるといったクオンの声だった。

 

「そうだ……ハクは何度も自分を助けてくれたから、その恩返しがしたいって言ってたよね」

「ああ。クオンには随分助けられたと思ってるよ」

「もし……私が危ない目にあったら、ハクは助けに来てくれる?」

「当たり前だろう」

「あ、当たり前、なんだ」

 

 即答した自分の声色に驚いたようなクオンの声が耳元に届く。

 暗闇で表情は見えないが、こちらを向く疑問の視線は感じていた。安心させるように理由を伝えた。

 

「ああ、勿論。クオンは自分にとって──大事な人だからな」

「え……? は、ハク、それって」

「ん? ちょっと待て──」

 

 クオンの動揺の声が響く前に、先程クオンが言った言葉が気にかかった。

 

「──その恩返し云々を何故クオンが知っているんだ?」

「……あ」

 

 クオンはしまったという声を上げる。

 感謝云々の話はしているが、恩返し云々の言葉はあの謁見の間にいた者しか知らないことである。

 

「え、えっと……その、あの……お、お父様に聞いて、あっ」

「お父様? ああ、そういうことか……」

 

 察した。

 嘘をつこうとしたのだろうが、謁見の間においてお父様と呼ばれそうな面子はあのオボロだけである。皇女もオボロのことをお父様と呼んでいた。

 彼はクオンのことについてやたら執着していたのはクオンが娘、もしくは娘に近い扱いしているからだったということか。

 クオンを誘えといった皇女、そして置手紙の件など、妙に用意がいいと思っていたんだ。

 

「水臭いぞ」

「え……?」

「トゥスクルの皇女なんだろう? 自分も帝の弟のこと隠して貰っているし、お互い様だ」

「……うぅ、そうです。隠していて、ごめんね」

「しかし、皇女が家出ねえ……」

「言わないでー!」

 

 クオンはぐいぐいと腕を引っ張って体を揺さぶるが、感想は感想である。

 そりゃお仕置きされるわけだ。

 

「まあ、皆には秘密にしとくよ」

「うん、特にアンジュには……」

「ああ、そりゃそうだな」

 

 殴り合いの喧嘩してたしな。

 今思えば、クオンにとって自分を取られるとでも思っていたのかもしれない。そんなことないのにな。

 

「まあ、秘密だ」

「うん、秘密ね」

 

 クオンが皇女であるからといって、別に態度が変わる訳でもない。

 大いなる父だからといってクオンの態度が変わらんように、こっちも特に変わらん。クオンはクオンだからな。

 

「ねえねえ、この際だし聞いてもいいかな。大いなる父ってどんな歴史を持ってたの?」

「歴史と言われてもな……」

「じゃあじゃあ、ご飯は何を食べていたのかな」

 

 先程よりぐいぐい密着して聞いてくるクオン。

 まあ、クオンと二人過ごすのは楽しい。助けに来るまで暇なこともある。クオンの質問に適当に相槌をうつように大いなる父としての単語や知識を披露していると──

 

「──パスワード受理、起動します」

「えっ!? 何々!?」

 

 じゃらりと鎖の外れる音、そしてぶうぅんと何かの起動音がした。もしかして、自分の言葉の何かに反応したのだろうか。

 そして、起動音と共に何かの機械が光り、その周囲をぼんやりと照らす。

 

 部屋の隅に隠れるように配置されていた、それは──

 

「──こいつ……アベルカムルか?」

「アベルカムル? アヴ=カムゥじゃなくて?」

 

 人型の機械。

 妙な鎧を着ているがアベル重工製の作業用機械アベルカムルで間違いない。大いなる父が外で住めなくなった際に、外での活動を保証するために作られた傑作機である。

 

「操縦できるの?」

「いや、免許がな……」

 

 指令を待つように目の前のアベルカムルは立ちあがってしまったが、動かしたくても動かせない。

 せめて外部操作盤があればと探してみれば、足元に転がる装置に目が行った。

 

「お、これがあれば、もしかすると……」

 

 光る操作盤を手に取り、それっぽいマークのボタンを押す。

 すると──

 

「──うおっ!」

 

 アベルカムルは腕を振りかぶる動作をすると、どごおぉんと壮大な音を響かせ目の前の壁をぶち抜いた。

 

「凄い凄い! ハク操縦できてる! 私にも貸して!」

「ちょ、駄目だって、地盤が……」

 

 聞いちゃいない。

 クオンは新しい玩具を与えられた子どものようにはしゃぎ、アベルカムルを駆って壁や天井をぶち抜き始める。

 

「し、死ぬ! クオンやめてくれ!」

「ど、どうすれば止まるの!?」

「操作盤を渡せって!」

 

 とりあえず、そのしゃっしゃ指で押しまくるのさえやめてくれれば止まるのだ。

 嫌がるクオンから強引に取り上げ、アベルカムルの動きを止める。とりあえず地盤の崩壊に巻き込まれる危険性は無くなった。

 

「あれ、ハク……光が……」

「お、ほんとだ。もしかして、地上の光か?」

「かもしれない……ね、行ってみよ!」

 

 クオンに手を引かれ、アベルカムルによってできた空洞を通る。

 すると、何処かの森の中、満点の星空が自分達を出迎えた。

 

「良かった、出られたな……」

「うん……」

 

 出た場所は、城の見える小高い丘である。

 そう遠く離れた場所に出たわけではないようだ。マスターキーは見つからなかったが、無事出られたことをとりあえず喜ぼう。

 

「……クオン、かえ──」

 

 帰るか、と言おうと思ったが、クオンの顔を見て思わずどきりとする。

 ずっと、闇の中で見えなかった表情が、今は月の光に照らされて見える。頬は少し赤く染まり、全てを魅了する微笑をこちらへと向けていた。

 

「もうちょっと……駄目かな」

「……」

 

 宴も無く、自分の腹には城下で買った菓子とつまみくらいしか残ってない。

 つまり、腹が減っているのだ。しかし──

 

「──腹も減ってるんだ。ちょっとだけだぞ」

「……うん!」

 

 少女らしい可憐な笑みを浮かべ、自分の手を強く握られる。

 二人野原に寝転がり、夜空を見上げて他愛ない話を交わすのだった。

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 時は少し遡る。

 トゥスクル皇都執務室にて、夕闇が外を支配し始めそろそろ宴だという頃に、双子のドリィとグラァよりオボロにある伝令を齎した。

 

「──な、何!? あの男とクオンが二人仲良く手を繋いで城下を駆け抜けたに飽き足らず、夕方の宴にも戻ってこないまま朝帰りだと!?」

「若様、若様」

「まだ朝にはなっていませんよ」

「この時間に帰って来ないならばそういうことだろう! あの男、クオンに恩だ何だと誤魔化しておいてやはり俺の可愛い娘を手籠めに……!!」

 

 オボロは右手に握り拳を作って憤然したまま、執務中にクオンが淹れてくれた茶に手をつける。

 クオンの淹れてくれた茶なのだ、多少冷めていようが関係ない。急須に残っていた分も残すまいと一息に流し込む。

 

 喉を潤し、男の毒牙にかかるであろうクオンの身を案じ身支度を始めた頃であった。

 

「俺はクオンを探しに行くぞ! 検非違使も動かせ! 宴は中止……」

 

 そこまで言って、急に白目を剥く様にどさりとオボロが倒れ、大きな寝息を立て始める。

 

「あーあ、やっぱり底に薬を入れられていましたね……」

「若様、若様! 駄目だ、お布団を用意しないと」

 

 ドリィとグラァは顔を見合せて微笑む。

 

「大切な時間みたいですね」

「僕たちに書置きにもありましたからね、お父様をお願いと」

「僕は……オシュトル様に言伝に行きますね。トゥスクル皇と皇女、ヤマトの大宮司様は別件でいませんが宴を楽しんでくださいと」

「じゃあ、僕は若様の様子を」

 

 手慣れた様子で二人の仕事を分担する。

 その表情には、かつての主上とユズハ様に合わせる際にも、こんな時があったなあと懐かしむ様子が浮かんでいた。

 

 




 流石メインヒロインと言われるくらいの描写ができているといいのですが。
 ウィツアルネミテアが付け入る隙となったとは言え、原作クオンの「気丈ながらも脆い少女感」はやっぱり素晴らしいキャラ付けだなあと、書いていて思いました。

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