【本編完結】影とうたわれるもの~二人の白皇再構成~ 作:しとしと
場所をクリックすると、好きなヒロインのところへ行けます。
帝都宮廷内、自室にて。
自分は怒声が漏れ聞こえるたびにびくりと身を震わせながら、外の様子に意識を向けていた。
「──ええい、ハク様はまだ見つからんのか!」
「はっ、宮廷内にはいない様子であります!」
「捜索範囲を広げよ! 何としても今日中に聖上の元まで御連れするのだ!」
「はっ!」
そも、なぜこのように隠れているのか。
全ては、早朝に双子の誘いを受け、生き延びていたホノカさんや兄貴と会ったことに起因する。死んだと思っていた兄貴と再会したことは喜ばしいが、そのために叙任式をすっぽかした。帰ったら言い訳と謝罪をしないとなあと思っていたところ、自室に帰れば皇女さんが血眼になって自分を探しているという状況に遭遇したのである。
皇女さんの怒りの度合いは知らないが、暴力も厭わないと発令されており、見つかれば碌なことにならないのは確定である。故にこうして隠れているのだが──と、外から再び誰かの気配がする。
この声は、キウルとオウギ、それにヤクトワルトとシノノンか。
「──ハクさん、どこに行ったんでしょうね」
「さあ……僕の抱える隠密衆でも、一度ハクさんが逃げに回ったら、捉えるのは難しいでしょうね」
「へ? 何故ですか?」
「隠密衆の巡回体制に精通している彼のことですから、身を隠しながら逃亡できるところは知っているのでしょう」
「なるほどねぇ……まあでも、姉御や巫女の嬢ちゃん達も式にはいなかった。巫女の嬢ちゃんの力を使って逃げた可能性もあるじゃない」
「確かにそうですね」
「クオンさん、それにウルゥルさんやサラァナさんもどこに行ったんでしょうか……」
「旦那もここ最近働き詰めだったからねぇ……四人でトゥスクルに観光でも行っているんじゃない」
「おお、かんこうか。シノノンもいきたいぞ」
四人の予想は的外れであるが、彼らがそう予想しているということは街道などを張っている頃だろうか。
「しかし、港はソヤンケクル様が抑えていますからね……」
「ああ、深夜まで仕事させていたってライコウの旦那は言うしなあ。案外、まだ帝都内にいると思うじゃない」
帝都内どころか、宮廷内の自室に隠れているぞ。
双子も我関せずと言ったように目を瞑って静かにしている。今朝兄貴と会うために行使した呪術、それによって失った体力を回復させているのだ。
このまま誰かに見つからなければ、双子の力で白楼郭あたりまで術を使って移動し、匿ってもらうつもりだ。兄貴のところに行きたかったが、ホノカさんが術を受け入れない限りは道は作れないそうだからな。
「とりあえず、聖上の命通り動かないといけませんね」
「くっくっく……叙任して最初の指令がこれとはね。うちの姫さまらしいじゃない」
「だな!」
「ふふ、まあ……帝都が平和である証拠ですね」
わいわいとこちらの危機感も知らずに呑気に喋る四人。
やがて、四人の声や気配が自室前から消えると、ほっと息をついた。
振り返り、未だ体力を回復させようと目を瞑る二人を見る。
「ウルゥル、サラァナ、どうだ?」
「まだ」
「術の行使にはまだかかります。白楼郭までは届かないかと」
「そうか……」
双子の体力が戻るまでは、ここを動けない。
それまでは、どうか見つかりませんように──しかし、その淡い期待は目の前の襖に小柄な少女の姿が映ったことで、露と消えた。
「……」
息を潜めて何卒開けないでくれと念じるも──
襖に貼られた薄紙越しに見える姿は、人がいないかどうか周囲を確認した後、すっと無遠慮に開いてその存在を現した。
「あ、やっぱりここにいたですか」
「ひいいいい……か、勘弁してくれ、ネコネ……!」
したり顔で自分を見つけるネコネ。
聡いネコネに見つかっては、もはや後はない。自分にできることは命乞いだけである。しかし、ネコネは自分の命乞いを聞いて仕方がないというように息を吐いた。
「はあ、全く……ハクさんは後先考えないからこうなるのですよ」
「……? ひ、人を呼ばないのか?」
怯える自分に、ネコネはふるふると首を振り、襖を後ろ手に閉めた。
黙っていてくれるのだろうか。ネコネはとことこと自分の傍に近づいて正座したかと思えば、首を傾げて聞いてくる。
「ハクさんだけなのです?」
「え? あ、いや……」
ネコネの言におかしいなと思って振り返れば、既に双子の姿は無かった。
──術使えるじゃん!
ならばなぜ自分を置いていったのかはわからないが、ネコネに見つかっては駄目だと判断したのかもしれない。
「あ、ああ、まあ。自分だけだ」
「そうですか。ウルゥルさんや、サラァナさんもいるかと思ったのですが」
さっきまでいたんだけどね。おかしいね。
しかし、自分を報告しないなら、ネコネはなぜここに来たのだろうか。
「皇女さんにばらさないのか?」
「え? まあ……最近ハクさんが働き詰めだったことは知っているのです。聖上の気持ちもわからなくはないですが……ハクさんもたまには休んでいいと思うのです」
「ネコネ……お前いい奴だな」
「んなっ……ま、まあ、たまたまなのです。たまたま……そ、そういう気分になっただけなのです!」
オシュトルやマロロがいない間、人生で一番仕事をしたと言っても過言ではない。
自分の性格をよく知るネコネだからこそ、逃げても仕方ないとでも思ってくれたのかもしれない。
働け働けとよく言ってたネコネがまさか自分を庇ってくれるなんてな。いつもなら逃げるところだが、今のネコネは大神様に見えるほど、後光が刺している気がした。
「ネコネが味方なら心強い。暫くここに隠れて、ほとぼりが冷めるのを待つことにするか」
「それがいいと思うのです。ここにハクさんが隠れているなんて、私以外に気付かないと思うですから」
「……そういえば、そうだな。なんで気づいたんだ?」
そうだ、そもそも何故自分がここに隠れているとわかったのだろうか。自室なんて既にいるわけがないと思うのが普通だ。
「犯罪者は、罪を犯した場所に戻ってくるといいますから。ハクさんなら絶対戻ってくると思っていたのです」
「失礼な奴だな」
えっへんと無い胸を張るネコネに抗議したい気持ちであったが、実際自室に籠っていたのだから弁解の余地なしである。
叙任式をすっぽかした理由として兄貴のことを言う訳にもいかず、不満でも甘んじて犯罪者扱いを享受するしかない。
というか、そうだ。叙任式だ。
「そもそも、なぜ皇女さんはあんなに怒っているんだ?」
「……知らなかったのですか?」
「ああ」
「ハクさんの功績を称えて、ハクさんを大宮司にしたのですよ」
「大宮司!?」
確かに、オシュトルに厳命した通り将官でもなければ八柱将でもないが、ホノカさんがやっていた役職って、それめちゃ権力者じゃないか。
──オシュトルの奴め、自分をトゥスクルに逃さないために、一計を案じたな。
親友の腹黒さが増していることに頭痛を覚えながら、聞き覚えのある囁き声が耳元から聞こえてくる。
「おめ」
「お母さまに代わり主様が職務についていただけるなど、私達も誇らしいです」
「ん!?」
「? どうしたのですか?」
ネコネは気づかなかったようだが、双子は確実にまだここにいる。
周囲を見回すも双子の姿は掻き消えたように薄れているが、ここにいるぞ。なんで姿を隠しているんだ、ウルゥル、サラァナ。自分も連れてってくれよ。
理由のわからない双子の行為に考える間も無く、ネコネは事のあらましを話始めた。
「叙任式の最後、聖上よりハクさんに大宮司の任を賜ったと思えば、ハクさんは既に逃げおおせた後だったのです」
「あまり……考えたくない光景だな。自分がいないってどうしてわかったんだ?」
「? 書置きなのです。ハクさんが書いたのではないのですか?」
「……何て書いてた?」
「えーと……ライコウに任せる、探さないでと」
家出かよ。
確かに自分の書きそうな言葉ではあり、ウルゥルサラァナが自分に対してとても深い理解のもと書き置きしてくれたことはわかる。しかし、これでは火に油を注いだようなものだ。
もしかして、ウルゥルもサラァナも最近の自分の態度が不満だったのだろうか。自分に対してここまで尽くしてくれた礼を、双子には未だ返せていない。ホノカさんと話したことからも、双子は自分の寵愛を待っているように思ったし、自分もはやくウルゥルサラァナの気持ちに応えないといけないのかもな。
「聖上はそれを聞いてからというもの、恥をかかされたと大層お怒りなのです。今出ていったら顔面がぼこぼこに腫れあがると思うのです」
「……」
双子の件はいずれ考える。とりあえず、今はまず生き残ることが優先である。
ナコクで帰還した後、皇女さんから天誅を賜った心の傷はまだ癒えない。とりあえず隠れて、時間が経ったら自首しよう。
ネコネがいれば、もし衛兵が来たとしてもとりあえずは安全である。
「まあ、匿ってくれて助かるよ。ネコネ」
「い、いいのです。それに……」
「それに?」
自分の問いかけに対し、ネコネは言おうかどうか迷っている様子であった。
もじもじと照れたように指を絡め、視線を下げている。暫くして、埒があかんと改めてネコネに問うと、渋々といったように言葉を発した。
「何だ、どうしたんだ?」
「か……匿う代わりに、ハクさんには約束をして欲しいのです」
「約束?」
「はい……ヤマトが落ち着いたら、遺跡を一緒に見て回りたいのです」
「遺跡を?」
「はい……折角教えてもらった神代文字、全然活かせていないですから」
視線を合わしたり、合わさなかったりと、ちらちらこちらを上目遣いして言うネコネ。
そういえば、と思う。戦乱が佳境に入った辺りから、ネコネとは軍法学ばかりで神代文字の勉強はできていなかったな。
それでも、平仮名と片仮名の文字列を記した画板は未だに大切に持っているらしく、暇があれば覚えたり文を作っていたりしたそうだ。
確かにそれだけ頑張っているんだから、報われる機会もあっていいよな。ただ──
「──自分とネコネの二人で行きたいのか?」
「ふ、ふた……あ、姉様と一緒なのです! 二人っきりなんて、求めてないです!」
「ああ、そういうことか」
「……う、ぅ」
こちらの反応に猫みたいに低く唸り始めたネコネ。
その表情は随分照れているようで、唇を噛んで目も少し潤んでいる。何が不満なんだろうか。
「まあ、クオンとも行きたいなら、クオンにも聞いてみないとな」
「……あ、あの」
「ん?」
「あ、姉さまも忙しいですから……そ、そういう時は、仕方がないので二人でもいいのです」
そっぽを向いて、そう言うネコネ。
であれば、クオンに了承を取る必要も無い。
──遺跡巡り、か。
まあ、でも神代文字か、そうだな。マスターキーを手に入れれば、兄貴の意志を継いで各遺跡を回ることもあるだろう。それにネコネを連れていくだけか。
「いいぞ。約束だ」
「……本当ですか?」
「ああ」
一転、安心したように花のような笑顔を浮かべるネコネ。
その笑みに、トリコリさんの姿が重なり、思わず──
「……」
「? どうしたのですか?」
「ん? い、いや……何でも無い」
将来、トリコリさんみたいな美人になるだろうな。
その言葉は、苦笑して誤魔化した。言えば部屋から蹴りだされそうだと思ったのかもしれない。それとも、ただの妹みたいな存在だと思っていたネコネに、トリコリさんの姿を重ねるなんて自分らしくないなと思ったのかもしれない。
とりあえず、双子に多分ずっと見られているだろうことも思い出し、さてこれからどう過ごすかと思っていたところだった。
「話声がしましたが、誰かいらっしゃるのですか?」
びくりと、ネコネと二人その体を震わせる。
衛兵が無人の筈の部屋から声が聞こえてくるのに気付いたのだろう。襖越しに声をかけられた。
「あ、私です。ネコネなのです」
「おお、ネコネ様でしたか。ハク様はいらっしゃいましたか?」
「い、いえ……でも、何やら隠し扉のようなものを見つけたのです」
ネコネの目線で意図を確認し、襖の奥へと身を隠す。
すると、二人の衛兵はネコネの了承を得た後、自分の部屋へと入ってきた。
「なんと、ネコネ様、してそれはどこに?」
「ここに、隠し扉のようなものがあるです」
「ふむ……」
ネコネが衛兵の視線を誤魔化すように、部屋の一角を指さす。
あ、それは自分の酒を隠すために作った地下戸だぞ、なんでネコネが知っているんだ、と聞きたかったが、今は注意を反らしてくれている間に部屋から出るしかない。
衛兵が背を向けている間に、物音無く襖から廊下へと躍り出る。
双子を置いてきてしまったが、彼女たちだけなら隠れるのも容易い。とりあえず自分が見つかって皇女さんに血祭にあげらないようにこっそり動かねば。
逃がしてくれたネコネには感謝しないとな。
○ ○ ○ ○ ○
自室から離れて周囲をうろうろするも、廊下を堂々と歩いていればすぐに誰かに見つかってしまう。
いくら宮廷内の捜索を諦め、帝都への捜索隊を派遣しているとはいっても、未だ衛兵の数は多い。さてどうするかと抜き足差し足で移動していると──突如後ろから誰かに口と腕を抑えられた。
「──うひひっ! おにーさん、みーっけ!」
「……あ、アトゥイ」
すわ刺客かと思えば、アトゥイだったようだ。
いつもの悪戯好きな表情で、自分の存在を誰かに呼びかける様子はない。
アトゥイは心底楽しそうに笑みを浮かべると、耳元である提案をしてきた。
「おにーさん……今見つかったら八つ裂きにされると思うんよ」
「……み、見逃してくれ」
「だからぁ、ウチが匿ってあげるぇ?」
「お、本当か?」
「うん、こっちやぇ!」
そう手を引かれ連れられたのは、アトゥイの部屋である。
出迎えてくれたのはクラりん。自分との再会にいつも以上に震えている。
「ぷるぷるぷる」
「おお、クラりん、ご無沙汰だな」
襖が閉まり、とりあえず安全圏に移動することができたと一息つく。
アトゥイは、はあ、と大きなため息をついて乙女らしくない座り方でどすんと部屋に寝転んだ。
「助かったよ、アトゥイ」
「うひひっ、ええんよ、おにーさんにはその代わりに色々してもらうけ?」
「……な、何をだ」
身の危険を感じる。
寝転ぶアトゥイは悪戯娘の笑みでこちらを見ながら、ぽんぽんと自分の隣を掌で叩いて促す。
「……隣に寝ろと?」
「おにーさん、最近忙しいぇ。ウチが癒してあげるんよ」
「……なるほどな」
アトゥイの悪戯ではなく、自分に対する気遣いだったようだ。
そういえば、ここ最近アトゥイにもクラりんにも会っていなかった。
忙しすぎて顔を合わす暇も無かったからな。アトゥイもそういった気遣いができる女になったんだなあ。
「んじゃ、遠慮なく」
アトゥイのいる隣に、体一つ分開けて寝転び、暫く柔らかい畳の上でふうと大きく息をついた。
すると、アトゥイはずりずりと摩擦音を立てながらこちらに近づき、大きな瞳で覗きこむように自分と目を合わせた。
「? なんだ」
「おにーさん、疲れてるやろ? ウチに按摩してほしいけ?」
「んー、そうだな……」
アトゥイがそんな提案をしてくれるとは驚きである。
仕事疲れもある、兄貴やクオンと話して少し疲れたこともある。ここは遠慮なく甘えるのがいいかもしれない。
「じゃあ、頼もうかな」
「うひひっ、任せてーな。実は、二人に教わったんよ」
そう言って、自分がうつ伏せになる間も無く、自分の体に馬乗りになるアトゥイ。
「こ、この体勢でやるのか?」
「そうやぇ?」
何を今更というように応えるアトゥイ。
アトゥイの太腿ががっしり自分の腹部に絡まり、その体重を乗せて来る。そういえば、アトゥイにこのような行為をしてもらったことはない。本当に按摩を知っているのか不安だ。
「動いちゃ……ダメやぇ?」
威圧するかのように真剣な表情で、自分の顔に自らの手を置くアトゥイ。
腹部を締める太腿もがっちり固定され、自由に動くのは手くらいだ。アトゥイの口元が自分の口元にどんどん近づき──
「──ぐりぐり~」
「ッ……いたぁっ!?」
色っぽい展開が来るのかと思えば、頬、眉、鼻筋、顎、リンパ節、耳裏、顔面に至るところに、アトゥイの強靭な指先が突っ込まれ、揉み込まれる。
特に目蓋への刺激はとんでもなく、棒を目元に突っ込まれるかのように遠慮ない刺激が襲う。
痛みに耐えられず、伸し掛かっていたアトゥイを押しのけるように飛び起きた。
「痛い痛い!!」
「きゃっ! あややぁ……気にいらんかったぇ?」
「いやいや、気にいるいらん以前に……痛い」
「うひひっ、おにーさん、それはな? 疲れが溜まってるってやつやぇ!」
「いやいや、お前のは物理的に痛い!」
提案は嬉しいものであるが、ウルゥルサラァナの按摩を普段より受けている身としてはアトゥイの力加減の間違った指圧はただただ痛い。熊に抱きしめられて気持ちいいと思う者がいるだろうか、否。
諦めずに取り組もうとするアトゥイを押しとどめながら、否定したり断れば尚更躍起になることを理解しているので、話題を変えることにした。
「指圧はもういいから。というか、アトゥイはなぜあそこにいたんだ? 自分を探しに行かなかったのか?」
「ううん、とりあえず一通りは見て回ったんよ。でもおにーさんのことやから、またふら~っと戻ってくるかなって思ってな?」
「……」
ふらっと戻ってきたのは兄貴のところからだが、それも言えないので口を噤む。
まあ、アトゥイの予想通り、あの辺りをぶらぶらしていたことは本当なので、自分に言えることは少ないのだが。
「それで、お前に見つかっちまったわけか」
「あ~、おにーさん、ウチに見つかって良かったんよ? 他の人ならバラバラやぇ」
「流石にそこまでは……」
目を細めて言うアトゥイにそう否定しようとするも、時折聞こえてくる皇女さんの激昂に身を竦ませる。
そうかもしれんね。
「まあ、もう指圧は満足だ。ここにいれば安全なんだろ?」
「そやなぁ……多分」
「そうか。じゃ、とりあえず疲れているのは本当だし、寝るか」
「添い寝して欲しいんけ?」
ここでして欲しくないなんて言えば、またへそを曲げるかもしれない。かといって指圧を受けるのも嫌である。クオンとは違う意味で顔面が破裂する。
「ああ、まあ、そうだな」
「うひひっ、じゃあ、一緒に寝てあげるぇ。クラりんもおいでーな」
クラりんを自分とアトゥイの間に入れ、三人で川の字になる。川といっても真ん中は小さいが。
アトゥイは暫くくりくりとした瞳をこちらに向けて静かにしていたが、思いついたかのようにぽつりと呟いた。
「……そうやぇ」
「ん?」
「おにーさん、ヤマトが落ち着いたら、どうするん?」
「そうだな……まあ、トゥスクルをぶらぶらしたり、全国行脚するんじゃないか?」
「へぇ……なら、ウチと一緒に、船で色んなところに行くけ?」
「船でか?」
まあ、トゥスクルに行くにも、他の国に行くにも、船は便利である。
飛行船などに発展していない現在では、馬車か船が最も移動手段として速い。そりゃいい提案だと受け入れた。
「そうだな、ソヤンケクルに頼むか」
「ととさまに? ととさまに頼らんでも、大丈夫やぇ。ウチ専用の船を作るから、おにーさんはそれに乗ればいいんよ」
「アトゥイの船?」
「? いやけ?」
「いや……直ぐに沈没しそうだなと思って」
「あー! 失礼やぇ!」
ぐりぐりと遠慮のない指圧が体を襲う。
呼吸できないほどの圧力に思わずすまんすまんと謝ると、アトゥイは夢を語るかのようにその瞳を輝かせた。
「それでな? 船に乗って見る……海の神様が見せる景色……とっても綺麗なんよ?」
「ほお、アトゥイがそんな乙女趣味をね」
「……怒るぇ?」
「すいません」
乙女趣味は元からだったな。
しかし、その言葉は飲みこむ。殺人按摩をこれ以上受けると明日に響く。
そんな自分の気持ちを知ってか知らずか、アトゥイは寝転ぶ自分に寄り添うように頬を寄せると、あることを聞いた。
「やからな……おにーさん」
「ん?」
「一緒に、見に行けたらなあって、思うんやけど……どうやぇ?」
「ん、そうだな……」
海の神様が見せる景色か。この辺りだと、オーロラとかかな。地下生活の長い自分にとっては、見てみたい景色ではある。
アトゥイは今までの様子はどうしたのか、少し緊張したような面持ちだった。故に安心させるよう、その提案に乗ることにした。
「ああ、いいぞ」
「ほんとけ?」
「ああ」
「うひひっ、なら、約束やぇ! おにーさん」
にこにこと、毒の無い笑みを見せるアトゥイ。
マスターキーを取れば、遺跡巡り。ネコネも二人っきりは嫌だと言うので、クオンとアトゥイも連れれば文句無いだろう。
自分の中でそう結論つけ、話は終わったと大きく伸びをした。
「っふう~……寝転んでいたら眠くなったな。ああ、久々に昼寝がしたくなった」
「なら、今から一緒にするぇ?」
そうだな、と相槌をうった後は話すことも無くなり、天井を見つめて静かな空気を楽しむ。執務に追われて最近は睡眠時間すらほぼ無かった。寝ようと思えばすぐに眠気が襲う。
しかし、先に寝たのはアトゥイだったようだ。暫くすると、すうすうと気持ちよさそうな寝息が聞こえてきた。
さて、自分もこの安全な場所で寝ようと瞳を閉じた時であった。
「ううん……やっ」
「ごはっ!?」
アトゥイのとんでもない寝返りにより、その鋭い蹴りが己の腹部を襲う。
全く想定していなかった衝撃に自分の体は易々と吹っ飛び、廊下と部屋を隔てる襖に音を立ててぶつかった。
後頭部を襲う痛みと、蹴られた腹部を抑え、思わず口から空気を漏らしながらも、立ちあがる。
「ご、ごほっ……な、なんちゅう、寝相だ……」
「すかー……うひひ、おにーさん……」
アトゥイは寝入っているのか、気にした風も無い。
こりゃ、アトゥイの隣に寝るのは命がいくつあっても足りんな。クラりんが衝撃を吸収する体を持っている理由がわかった。
「──向こうで音がしたぞ!」
「! ま、まずい……」
襖にぶつかった物音を聞かれたのだろう。アトゥイの部屋に踏み込まれれば、自分の存在がばれる。
アトゥイはもう寝入ってしまっていて使い物にならない。であれば──
「またな! クラりん!」
「ぷるぷるぷるぷる」
アトゥイに抱きしめられているクラりんに別れの挨拶を告げると、応じるように震える。
未だ寝ているアトゥイを尻目に、その襖を空け放ち、衛兵の目を盗んで目の前の庭園へと隠れた。
「この辺りですかね……ん? アトゥイ様?」
「ふむ……またアトゥイ様の寝相か。仮にも八柱将、シャッホロの姫だ。襖を閉めてやれ」
「はっ」
衛兵が二人、アトゥイの存在を見て物音の正体に納得したのだろう。
アトゥイの名誉が少し落ちたものの、自分の存在は露見しなかった。ありがとうアトゥイ。
しかし、これからどうするか。音の確認をしようとしているのだろう。衛兵はまだアトゥイの部屋の近辺をうろうろしている。
衛兵の二名巡回態勢は自分が考案したもの。一名襲われてももう一名が鐘を鳴らして周囲に呼びかける。この巡回制度を作ってからは鉄壁の草対策を誇るも、緊急時であるからして、その動向は不規則である。故に警戒の穴をつく道はある。
衛兵から離れるようにして、自らの体を闇へと消すのだった。
○ ○ ○ ○ ○
アトゥイの部屋より離れ、再び抜き足差し足でどこか隠れられるところは無いかと探していると、ある部屋が目に入った。
「あそこは……エントゥアの部屋か」
賭けになるが、エントゥアであれば自分を突きだすようなことはしないだろう。
であれば、匿ってもらうしかない。
襖の傍により、中にいるであろう人物に声をかけた。
「……エントゥア?」
「きゃっ……は、ハク様?」
恐る恐るであったが、エントゥアは中にいてくれたようだ。それに直ぐに自分に気付いてくれたようだし、エントゥアを呼んで良かった。
エントゥアは少し驚いていたものの、事情を察して直ぐに中に引き入れてくれた。
「ハク様、どうぞ中へ」
「ああ、ありがとう、エントゥア」
さっと襖が閉められ、ひとまずの無事を祝う。
そういえば、エントゥアの部屋に入ったのは初めてである。女性らしい家具や香りにきょろきょろと辺りを見回しているとエントゥアが恥ずかしそうにその視線を塞いだ。
「あ、あの……そんなに見られると」
「ああ、そうだな。すまん」
ホノカさんに言わせれば、デリカシーが無いというやつか。無遠慮だったな。
促されるままに座布団に座り、エントゥアと対面する。
そういえば、仕事続きでこうして相対するのも久々である。ウズールッシャ関連も改心したヤムマキリと人質返還で連絡が取れたことで落ち着いたことだし、エントゥアを慕うもの達もヤムマキリと交渉しながら纏めていくという話だ。エントゥアとヤクトワルトも肩の荷が降りただろう。
しかし、エントゥアの部屋といえば、とある人物を思い出す。
「そういえば、ボコイナンテはどこにいるんだ?」
「あ、今はお使いに行って頂いています」
普段、エントゥアの部屋の前で警護を務めあげているボコイナンテだ。
ライコウやオシュトルには良くない感情を持っているが、エントゥアにはべた惚れである。牢にいるデコポンポ他数多の囚人の世話もしているという。変われば変わるもんだね。
「帰ってくるかな」
「まあ、帰って来ても部屋には入りませんから、大丈夫ですよ」
「そうか、なら安心だな」
エントゥアが隠してくれても、ボコイナンテがそうとは限らんからな。
特に最近は仇のような目で見られることもあるのだ。
エントゥアはそこで何かに思い至ったように、立ちあがる。
「あ、すいませんお茶も出せず……少しお湯を取ってきますね」
「いや、ここにもう一人いると思われたら……」
「そ、そうですね」
気遣いは嬉しいが、今は身を隠すことが最優先である。
喉は乾いているが仕方がないのだ。すると、エントゥアは何を思ったのか、自分の傍にある湯呑を取った。
「あの……では、これを」
「? それはエントゥアのじゃないのか?」
「い、いえ、淹れたばかりですので……」
その割には少し量が減っているように思うが。しかし歩き回り、逃げ回り、蹴られ、とんだめにあっていながら茶の一つも飲めていなかった。喉も乾いていたし、ありがたくいただくことにする。
「ああ、じゃあ、遠慮なく」
「あ……」
自分が茶を飲んでいるところを、エントゥアは頬を染めてじっと見つめており、それだけでなく唇を噛んで頬に手を当てて、照れを隠すような仕草をしている。
何だ、何か茶に入れていたんだろうか。気になるも、善意で自分のものを差しだしてくれたんだ。とりあえず礼は言わねば。
「ふう……ありがとう、生き返ったよ」
「は、はい……」
それからは他愛ない話をする。
エントゥアから余り話題が振られることはないが、エントゥアは相槌が上手いので、ついつい話しすぎるんだよな。
しかし、話題の途切れ目に沈黙が降りた時、意外にもエントゥアからある話を振ってきた。
「あの……」
「ん?」
「ハク様に、私の気持ちに応えてほしいと言ったことを、覚えていますか?」
「……ああ、覚えている」
決戦前、ウズールッシャの件で、別れる時の話である。
こうして再び会った時、気持ちに応えてくださいと、確かそう言われた。しばしの沈黙が場を支配し、エントゥアが願いを込めるように話を始めた。
「ハク様は……忙しい身ですから、中々時間が取れないのもわかります」
「ん、ま、まあ、そうだな」
まあ、代理がしんどかっただけで、大宮司はそんなに仕事はないと思うが、皇女さん関連で仕事は増えそうだよな。
「なので、無理は言いません。ただ……」
「ただ……?」
「ハク様が帰る場所で、あなたを待っていたいと思います」
「自分が、帰る場所……」
「はい……いけませんか?」
帰る場所、か。
自分は兄貴と同じこの世界の余所者である。少数派と言った方がいいだろうか。それでも、待ってくれると、そう言ってくれるんだな。自分の居場所を作ってくれる存在、か。
「いや……嬉しいよ」
「……良かった」
「エントゥアの作るつまみは美味いからな。旅に出ても、酒飲みに帰ってくるさ」
「はい……」
心底嬉しそうに微笑むエントゥア。和やかで優しい雰囲気が場を支配し、何か良い雰囲気だなとそわそわし始めた頃であった。
自分を探す張本人の、通りの良い声が響いた。
「エントゥア! エントゥアはいるかの?」
「あ、アンジュ様? ちょ、ちょっとお待ちを」
「む? 開けてはならんのか?」
「着替え中で、すいません。ただいま参ります」
「そうか、では少し待つのじゃ」
エントゥアは機転を利かせ、時間稼ぎの嘘をつく。
しかし、目の前には皇女さん。どうすればと思っていると、エントゥアが隠れてほしい場所に視線を向けたので、そちらに身を隠すことにする。
エントゥアの部屋には物が少ない。故に隠れられるところといえば、布団くらいしかないわけで。
「……」
エントゥアが少し恥ずかしそうに俯きながら、自分を隠すように布団を被せる。エントゥアの濃厚な匂いがする。香水でも振りかけているのだろうか。花の蜜のような甘い香りだが、あまり嗅ぐのも失礼だと息を止める。
すると、暗闇の中で皇女さんとエントゥアの会話が聞こえてきた。
「それで、どうなされましたか? アンジュ様」
「実はの……もう昼時であろう? きっとハクも美味そうな匂いを漂わせれば寄ってくると思うのじゃ。それで、エントゥアに何か作って欲しくての……」
「わかりました。では、一緒に食堂に参りましょう」
「うむ! すまんの、エントゥア!」
ぱたぱたと気配が消えていく。
話し方といい、皇女さんの機嫌は最初の頃よりは少し収まったようだ。
ただ、自分を探す方法が獣を引き寄せる方法と変わらんのが嫌な話だな。自分のことを何だと思ってんだ。
ただ、皇女さんが食堂に赴くならば、ここは安全か。しかし、ここにエントゥアと皇女さんが共に帰って来ないという保障はない。
皇女さんが食堂に行っている間に、どこか再び隠れられるところへ、と再び警戒の死角となる場を探し、廊下を進むのであった。
○ ○ ○ ○ ○
抜き足差し足で廊下の角に辿り着き、視線の先に衛兵がいないことを確認する。
そして音を立てないよう瞬時に飛び出し廊下を急ぎ足で渡っていると、上空より何者かの声がした。
「──おおおっ!? ど、どけどけえっ!」
「……ん? ぐあっ!?」
「うわぶっ!?」
奇妙な雄叫びが聞こえてきたかと思い振り返れば、目の前を覆う巨大な二つの塊が屋根から飛びこんでくる様子であった。
巨大な二つの物体は顔面を柔らかく圧迫したのち、全身に衝撃が走る。そのまま押し倒されるように後頭部を地面に強打した。
「い、ってえぇえ!」
「全く、どけというに……うぁっ」
「誰だ……ノスリ?」
「ハク、なぜここに……」
呻いてその柔らかな物体を押し付けてくる誰かを見れば、ノスリであった。
ノスリもノスリでなぜ逃亡中の自分がここにいるのかと疑問符を浮かべていたが、自らが自分を押し倒している体勢に気がつき、身を護るようにして飛び退いた。
「ハ、ハク! お、女の体をべたべた触るのは感心しないぞ!」
「いやいや、触るとかの段階じゃないだろ」
そっちから飛び込んできたんだろうが。
捜索されていることも忘れてぎゃいぎゃい言い合いしていると、衛兵が気づいて近づいてくる気配がした。まずい──
「? ハク?」
「ノスリ、こっちだ!」
「んむっ!?」
ノスリの口を抑え、腕を引き、衛兵の目を誤魔化せるように庭園の影に隠れる。
先ほどまでは押し倒されているような態勢であったが、今度は逆だ。茂みの中に自らの体を隠すよう、埋めるように自分が押し倒しているような形である。
そして、先程いた場所を見れば、既に衛兵が駆け寄り、自分達のいたところとその周囲を警戒している。
「おかしいな……こっちから声がしたんだが」
「まだ周囲にいるかもしれん……探すぞ」
「……」
衛兵が立ち去るのをじっと待つ。
そういえば、無理矢理連れてきてしまったとノスリを見れば、涙目でこちらを見ていた。
「んう……」
「しっ……」
ノスリの口を手で抑え、腕を使えぬように拘束し、暴れられないようにその腰を自分の足で挟むように抑え込む。
しかし、そこまでしてから自らの行動に違和感を覚えた。
──あれ、これ、犯罪じゃないか?
検非違使案件待ったなしの光景である。いや、今も追われているんだけれども。
胸が零れるかの如く衣服は乱れ、ノスリは怒りなのか恥なのかわからないが、涙目でむうむう言葉にならない声を発してこちらに訴えかける。
暴れるようなことはないが、拘束されて戸惑っているのだろう。その体は震えている。思わず弁解の言葉を口にした。
「い、いや、ノスリ、これはだな……」
「むお……」
「ッ……い、てぇ~……っ!」
がりっと掌を噛まれ、その痛みに声が漏れそうになるのを、唇を噛んで耐える。
今声を出せば衛兵に見つかって袋叩きである。叙任式欠席以上に、この姿を見られれば別の罪の元裁かれることになるだろう。
「た、たのむ、ノスリ……なんでも言うこと聞くから」
「む……」
それで納得してくれたのか、ノスリは暴れようとしていた体の節々から力を抜く。
しかし、衛兵は未だ傍に──
「──ん? 何かいい匂いがするな」
「昼時だ。大宮司様を探すのは食べてからにしよう」
「そうだな」
衛兵が二人食堂の方へ歩いて行く。
ありがとうエントゥア、皇女さん。飯の匂いに釣られるのは自分だけじゃなかったようだ。
周囲からヒトの気配が消え、ノスリの拘束を緩める。すると、ノスリはたまった怒りを放つように飛び起きた。
「は、ハク! 貴様~っ!!」
「ま、待て、ノスリ! 話せばわかる!」
「わ、私の体を、い、厭らしく、舐め回すように弄ぶなど、い、いい、いい、いい漢の風上にも置けんぞ!」
真っ赤な顔で声は震え、ノスリの手はもう弓を構えて矢先をこちらに向けるに至っている。
怒りはごもっともだが、勘弁してほしいものだ。
「お、皇女さんに見つかったら何されるかわからんだろ!?」
「だからといって、わ、私の体を触って何が楽しいのだ!」
意味のわからないやりとりを交わしながら、周囲に声がもれぬように、静かにしてくれと拝み倒すと、ノスリは徐々に怒りを収めてくれたようだった。
「ハク、自ら出頭するのだ。我らが聖上は情に厚い……真摯に謝ればきっと許してくれる!」
「いやいや、皇女さんは自分に対しては遠慮なくなるんだって」
皇女さんの成長は嬉しいが、自分に対しては未だ年の離れた叔父ちゃんみたいな扱いだ。何をしても許されると思っている節がある。
それに、あの巨大な愛刀持ち歩いてそうだし、あんなもんでばっさりいかれたら兄貴の願いを叶えられなくなる。
「はあ、全く……不甲斐ない」
「頼むよ、黙っていてくれるなら、何でも言うこと聞くからさ」
「ん? い、今……何でもと言ったか?」
ぴくりと、ノスリが興味を引いたように肩を震わせる。
「ああ、何でもだ」
「む……何でも、そ、そうか……」
ノスリはそう言われ、顎に手を当てて考え込むようにうろうろと周囲をめぐり始める。
うーとかあーとか、今も口を塞がれているわけでもないのに、意味のない言葉が口から漏れている。暫くして決心したのか、決意の籠った視線が自分の目を射抜いた。
「で、であれば……!」
「おう」
「私と、こ……こ、ここ……こづ」
「ここ? こづ?」
「こづ……く──って父上の命令でも言えるかっ! ハク! 私と天下御免の武者修行に行くぞ!」
「む、武者修行?」
「ああ! 武はエヴェンクルガにありと、弓はノスリにありと知らしめてやるのだ!」
「ノスリあり、ねえ……」
もうノスリの名声は、十分ヤマトに轟いているような気もするが。
決戦で用いた騎馬隊でもその活躍は戦時録に刻まれている。数多の矢を用いて敵の防護を尽く打ち崩したと。
実際、弓兵部隊よりかなり憧れの視線を受けているようだし、これ以上はいいと思うんだが。
「ちなみに、どこに行くんだ?」
「そ、それは決めていない!」
「決めてないのかよ」
「ま、まあ、何処でも構わぬ。お……お前がいるのならな」
照れたようにそういうノスリ。
そうか。自分がいればどこでもいいというなら、ネコネやクオン、アトゥイと一緒に遺跡巡りのついでで行くか。それであれば、何でも聞く約束としては軽いもんだ。
「まあ、いいぞ」
「本当か?」
「ああ」
「よし、約束だぞ!」
ノスリは嬉しそうにそう言うと、大きく跳躍して屋根に飛び乗った。
「ハク! 今回は見逃すが、出頭するのが一番罪は軽いのだぞ!」
「ああ、わかってるよ。皇女さんの機嫌が良くなれば自分から行くさ」
ノスリはその回答に満足気に頷いた後、その姿を消した。
というか、なんで屋根の上で移動するんだよ。ぶつかってきた理由も聞けなかったが、今は再び身を隠すことが優先である。
広い庭園を横切りながら、再び隠れられる場所を探すのであった。
今回は、ネコネ、アトゥイ、エントゥア、ノスリでお送りしました。
次は残りの面子の誰かでお送りします。