【本編完結】影とうたわれるもの~二人の白皇再構成~   作:しとしと

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第四十一話 叙任するもの

 帝都執務室、妙日。

 もはや何度目かわからぬ報告書を眺めながら、呟く。

 

「シチーリヤは喋らず、か……」

 

 帝都奥深く、オシュトルも囚われていた牢屋にシチーリヤは未だ囚われの身となっている。

 ライコウはシチーリヤと同じく虜囚としての立場でありながらも改めて皇女さんに忠誠を誓い、全ての情報を提供、またオシュトル以下幹部が空白の状況を憂い、ヤマトの執務等も担ってくれている。まあ、自分がライコウを監視するという名目を含んでのことではあるが。

 その執務の一つとして、ライコウが以前よりの部下であるシチーリヤの尋問を行っているが、シチーリヤは未だ喋らない。

 

「どう思う、ライコウ」

「シチーリヤは、あくまで関与を否定し、俺への忠誠故であると。ミルージュの件も知らぬと言う。今裁くことはできまい」

「そうか……」

 

 シチーリヤはそう言うが、行動としてはかなり怪しいものである。

 それにオウギ率いる隠密衆より連絡があったが、牢をうろつく見覚えのない衛兵がいたため声をかけたところ、すぐさま逃走を図ったらしい。彼の者がシチーリヤを狙った刺客であれば、関与を決定付ける証拠となったのだが、もはやそれも敵わない。

 シチーリヤのことは後回しにして、とりあえず今はヤマトの政情を盤石にするため奔走することが大事なのだった。

 

「まあいい。とりあえずオシュトルが目覚めるまではやることが多い。今日も頼んだぞ」

「ああ」

 

 机の周囲を見れば、出口を塞ぐかの如く堆く積みあげられ固められた書簡の山。

 エンナカムイで処理していた仕事量を遥かに超える職務に溜息をつきながらも向かっていると、急ぎ駆けてくる伝令兵の足音が近づいてきた。

 

「で、伝令! オシュトル様、マロロ様、ミカヅチ様の三名が目覚められました!」

「やっとか!」

 

 思わず歓喜の声が出る。

 その歓喜に含まれているのは友を心配したものでもあるが、漸く自分が仕事から解放されるという安堵も勿論含まれていた。

 ライコウに残りの職務を任せ、医務室へと足を運ぶ。すると、クオンが部屋の出口で自分を待ってくれていたようだ。状況を説明してくれる。

 

「あっ、ハク! マロロは、今朝には目覚めていたんだけどね、眠っていた期間も長いからちょっとぼんやりしていたかな。覚醒を待っていたらオシュトルとミカヅチの二人も目覚めて……」

「体調は? 話はできそうか?」

「今、お粥で胃を慣らしているところかな。まあ、三人ならすぐに良くなると思う」

 

 クオンからの言伝を得て、すぐさま医務室へと駆けこむ。

 すると、三人は寝台からそれぞれ上体を起こしながら、粥を口に含んでいる様子であった。

 

「オシュトル、マロ、ミカヅチ!」

「ハク殿! マロのことが心配で来てくれたでおじゃ!?」

「ふ……苦労をかけたな、ハク」

「ハクか。兄者を仲間にしたと聞いたぞ、やるではないか」

 

 三者三様との久々の会話。友との邂逅に各々の表情には笑みが見える。

 

 生きてくれていた。そして話もできる。よし、自分はもう逃げていいな。

 そんなことを考えながらも、粥をゆっくり口に含ませる彼らと話を続ける。

 

 まず現状のヤマトを伝え、叙任式が未だできず自分が仕事を抱えていることなどを話す。

 

「そうか、クオン殿やネコネから聞き及んでいたが、代理の総大将としてよく働いてくれた」

「ああ。もうこれ以上はこりごりだ」

「ハク殿のおかげで、帝都の政情も安定していると聞いているでおじゃ。後は叙任式を行い、より指令形態を統一させればハク殿も暫く休んでいいと思うでおじゃ」

「ああ、頼むぜ。ライコウも片っ端から仕事を持ってくるし、うとうとしてたら自分の作った茶で誤魔化そうとしてくるんだぞ」

「茶? 兄者が……ハクに?」

「? ああ、そうだが」

「……ふ、兄者手ずから茶を……そうか」

 

 何が可笑しいのかミカヅチがにやにやと笑みを浮かべている。

 兄弟にしかわからん何かがあるのだろう。

 

 そして、話はいつしか以前ミルージュに襲われた際の話になる。

 

「ヤムマキリは、ウズールッシャ以外の伏兵がいたと言っていたが、そうなのか?」

「ああ、背丈はミルージュと同等、しかし顔を隠していたため正体はわからぬ。小柄なれど、その肉体能力は仮面の者に僅かに劣る程度であった」

「連携も恐ろしく機敏、一度斬られた程度では悠々と立ちあがる耐久性を持つ者もいたな」

 

 そんなに強い相手のことだ。ミルージュも決闘後で手負いの双璧であれば討てると思ったんだろうな。

 

「数はどれくらいいたんだ?」

「某は……七は討ったな」

「俺は八だ」

「……いや、あれを入れれば某は九討ったか」

「そうだ、俺もあのことを入れれば……十は討ったな」

 

 双璧による意地の張り合いが始まる。

 いや、別に優劣なんてつけるつもりはないから。結局どれだけいたのかわかんないし。

 オシュトルがそこで思い出したように言及した。

 

「……そういえば、鉄扇はどうなったのだ」

「ああ、ヒビが入っていたからクオンに修理を頼んだ。ライコウから鍛冶屋も紹介されたし、もう綺麗に元通りさ」

 

 ほれ、と胸元から鉄扇を取りだす。

 それを見て、オシュトルは感慨深げに頷いた。

 

「そうか、良かった。ハク、其方の鉄扇がミカヅチの刃を防いだ。良き御守りであったぞ」

「ふん、それさえなければ俺が勝っていた」

「ふ……どうかな、ミカヅチよ」

 

 ばちばちと再び火花を散らす双璧。

 しかし、そこには以前のような命の取り合い前提のものは見えない。友としてじゃれているだけのようにも見えた。

 

「マロにも何か御守りを渡しておけば良かったな。自分の身代わりでこんなことになっちまって」

「ハク殿……いいのでおじゃ。マロはハク殿を守れただけで十分でおじゃ」

 

 マロはいつもの白化粧もしていなかったが、その表情は光に照らされたように明るい。

 何か憑き物が落ちたかのような様子であった。自分が人質に囚われた原因を作ったこと、やっぱり気にしていたようだ。

 

「うむ、ハクが討たれていれば、凱旋も空虚なものになっていただろう」

「そうでおじゃ。皆がこうして生き残ったからこそ、笑っていられるのでおじゃ」

「……そうだな」

 

 そこで、ミカヅチはシチーリヤの行動について考えこむように呻いた。

 

「ふむ……シチーリヤが、ハクをな……そうか」

「ミルージュとやっぱり関わり深いのか?」

「よくは知らん。だが、今回の件に関与はあると見ていいだろう」

 

 ライコウと同じ考察を述べるミカヅチ。

 やはり、ライコウと違いシチーリヤを出すわけにはいかないか。ライコウと自分たちとの決戦の裏に、何か闇に蠢く暗部がある。

 それがいつ明らかになるのかはわからないが、未だ戦乱は終わってないのかもしれない。

 

「ああ、そうだ。ミカヅチ、お前はこれからどうするんだ?」

「む? どうする、とは」

「一応敵だったろう。今の皇女さんに恭順するのか?」

「勿論だ。負けた以上今更乱世に戻すつもりもない。兄者も改めて忠誠を誓ったと聞く。それに……」

「それに?」

「貴様によって立派に成長した、今の姫殿下に仕えてみたく思う」

「……そうか」

 

 自分のおかげで成長したかはともかく、暗部と闘うことになるやもしれない今後を思えばミカヅチを味方にしておきたかった。無理矢理でもなく快く今の皇女さんについてくれるのなら尚更頼りになるだろう。

 しかし、ミカヅチによって戦死した者も多く、ナコクの面々もミカヅチとの戦は記憶に新しい。ライコウと同じく隷従の身として左近衛大将の任は降ろされるであろうが、それにもミカヅチは頷いてみせた。

 

「いいのか? オシュトルと双璧じゃなくて」

「ああ。役職などどうでもよい。このヤマトの民のため、亡き帝のため、愛しき姫殿下のために命を使えるのであれば、一兵卒でも、奴隷でも構わぬ。兄者と同じく使ってくれ」

 

 この志こそが、兄貴がミカヅチを左近衛大将として任命した理由なのだろう。

 相変わらず、気持ちのよい漢であった。

 

「それにだ、ハク」

「ん?」

「俺ですら超えられぬと思っていた兄者に、お前は勝ったのだ。聖上の傍が信用ならんというのであれば……兄者と同じくお前に仕えてみるのも悪くはないかもしれん」

「いや、まあ、マロロの献策もあったから自分だけの功績じゃないぞ」

「それでも、だ……それに、オシュトルだけでなく貴様とも、もう一度刃を交えてみたい。味方であれば気軽に手合せできるからな」

 

 にい、とネコネが見れば泣きだしそうな邪悪な笑みを浮かべるミカヅチ。

 それは、今の書簡地獄よりもお断りしたい案件であったが、オシュトルもマロロも止めてくれる様子は無さそうだ。

 

「おいおい、勘弁してくれ」

「ふ、ハクも日々成長している。某を超える日も近い」

「オシュトル、それずっと言ってるからな? お前らも日々強くなってるんだから鼬ごっこみたいなもんだ」

「マロはハク殿が勝つと思うでおじゃ!」

 

 マロ、それ援護になってないぞ。火に油を注いでいるだけだ。

 酒は無かったが、久々の友らが一同に介して話すことは存外楽しい。政務を一人ライコウに押し付けていたことも忘れ、穏やかな時間は過ぎ去っていく。

 彼らと長時間話したのち執務室に帰ってきたが、一人指示通り政務に励むライコウの表情は仏頂面で変わっていなかった。

 しかし、いつもより尚苦い茶を飲まされ、寝ようとしても眠れぬ程に脳が覚醒し、叙任式まで仕事漬けの夜を過ごすことになったのだった。

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 叙任式当日。

 聖上と、ヤマト総大将である某の前で皆が平伏したのを確認したのち、聖上は開会を宣言する。

 

「皆の者、よくぞ集まってくれたのじゃ。これより、余を支えた忠臣達に新たな役職を命ずる!」

 

 この戦乱の勝利を齎し、貢献した国々を代表する幹部全員が、ここヤマト謁見の間にて一堂に会していた。

 その様は正しく壮観である。凱旋する日に某は目覚めていなかったが、仲間と共に生きてこの光景を見ることが出来たと、胸に深い想いが刻まれていく。

 

 重症のためハクを代理の総大将として仕事を任せていたが、ライコウとうまくこなしてくれていたようだ。

 こういった政権交代は最初の基盤作りこそが最も厄介である。その厄介な仕事について文句を言いながらも各代替幹部に仕事を分担し土台を作り上げたハクの能力は、やはり高い。

 報告書の字は汚いが、清書さえすればそのまま使える案も多岐に渡る。

 

 ──ハクをトゥスクルに渡すわけにはいかぬ。

 

 政情が落ち着けば、トゥスクルより使者が訪れ、ハクの人質の件について言及するだろう。

 そのために、今日の叙任式ではハクを逃がさぬ役職につけるつもりである。

 ヤマト総大将オシュトルの全力を以ってして、ヤマトのため、妹ネコネのために、ハクを逃がさぬ包囲網を作り上げる必要がある。

 

「まずは、シャッホロがソヤンケクル、前へ」

「はっ」

「其方は海運、ナコクとシャッホロの橋渡し、船での奇襲、決戦での左翼での活躍等数多の功績を残した。よって左近衛大将の任を命ずるのじゃ!」

 

 聖上より賜れた言葉に、おお、と帝都幹部一同より声があがる。

 ソヤンケクル殿は恐縮していたが、聖上と某からの熱望もあり、やがてその任を受け入れた。

 

 以下、このような役職の叙任となる。

 

 右近衛大将──イズルハより、ゲンホウ。

 左近衛大将──シャッホロより、ソヤンケクル。

 

 そして、八柱将。

 八柱将の長を務めるは、クジュウリよりオーゼン。

 八柱将の参謀、連絡役として──マロロ。

 聖上側付きとして──ムネチカ。

 シャッホロより──アトゥイ。

 イズルハより──ノスリ。

 エンナカムイより──キウル。

 ナコクより──イタク。

 クジュウリより──シス。

 

 ゲンホウは、隠居したいと幾分渋っていたものの、最後には了承してくれた。

 他の者もその任につくことに対して些か恐縮しながらも、快諾。

 

 そして──

 

「エンナカムイがイラワジ、前へ」

「はっ」

「うむ、味方のいない余を匿い、皆を支え続けてくれた……其方には本当に世話になったのじゃ。よって、其方を大老とする!」

 

 ざわめきが大きくなる。

 大老の役職は実権が無くとも、聖上の相談役である。その影響力は計り知れないものである。

 しかし、某を受け入れ、常に縁の下で動いてくれていたイラワジ殿には多大な恩がある。これでは軽いくらいだ。

 イラワジ殿は殊更に恐縮していたが、やがてその任を了承する。これで政情は盤石である。

 そして──

 

「謀反者、ライコウ、ミカヅチ、両名、前へ」

「「はっ」」

 

 隷従の首輪をはめられながらも、二人は言葉通り前へ進み出る。

 彼らがいくらヤマトを想い行動していたとしても、謀反の張本人であるのだ。伝えなければならないことはある。

 聖上は暫く言葉を選ぶように目を瞑っていたが、やがて決心したかのように口を開いた。

 

「ライコウ、ミカヅチ──其方らにまずは謝罪をしたい……すまなかったのじゃ」

「! ……っ、聖上」

「言わせてほしいのじゃ、オシュトル」

 

 聖上に頼んでいた台詞は、彼らの解任と新たな協力だけである。

 ヤマトの象徴たる聖上が、まさか謝罪するとは思っていなかったのだろう。二人も某と同じく、目を見開き驚いていた。

 

「其方らはヤマトを継ぐ余の不甲斐なさを感じ、その剣を余に向けたのじゃろう?」

「……」

「其方らの感じる通り、正しく余は何も知らぬ子どもであった……しかし、こうして再びこの場より其方らを見つめて思う。余は、変わらず不甲斐なきままであると。余は余の力でここまで来たのではない。今叙任した者の他にも……全ての者達が余の為に動いてくれたからこそ、余はこうしてここに座ることができたのじゃ」

「……姫殿下」

「ライコウ、そしてミカヅチよ。余は、尽くしてくれた皆に報いるためにも、不甲斐なき帝として立ち止まるつもりはない。故に、再び余の忠臣となってはくれぬか。そして、余がヤマトを統べる者として相応しくないと思えば、再びその剣を取れ」

「……!」

 

 その言葉に、再び起こるざわめきの連鎖。

 しかし、そんな周囲の様子に反し、某の口元には薄く笑みが浮かんでいた。

 配下の全てを受け入れ、配下に期待し、配下のために自らを成長させる。その決意を聖上は表明したのだ。

 亡き帝は完成した存在であったが、今の聖上はそうではない。しかし、それであるが故に停滞することなく、日々成長し続ける。その姿を間近で見たいと思わぬ者が、果たしているだろうか。

 

「ライコウ、ミカヅチ、どうじゃ、余に……再び仕えてくれるかの」

「……このライコウ、聖上に真なる忠誠を」

「同じくミカヅチ……一兵卒として心新たに聖上に仕えたく思いまする。何卒、謀反をお許しいただきたい」

 

 これまで叙任を受けた誰よりも、深々と頭を垂れるライコウ、そしてミカヅチ。

 自らが仕えるべき主であると、成長されたと、敵であった彼らが認めたのだ。これほど嬉しいこともない。聖上は、太陽のような笑みで二人を迎えた。

 

「うむ! 其方らはヤマトに必要不可欠な英傑である。役職は与えられぬが、余を、総大将オシュトルをもこれからも支えて欲しいのじゃ!」

「「はっ」」

 

 ヤマトを二分した戦乱は、今終わった。

 これからは、ヤマトをいかにより豊かにしていくかである。

 闇の先兵の件は気になるが、彼らですら手を出せぬ盤石な国を作る。

 

 そしてその盤石さを確実にするために行う、最後の叙任。それは──

 

「そして、最後に! 数多の国との同盟を齎し、ライコウとの決戦において献策、敵将を自ら討ち取ったこと、その他数多の功績を残し、代理の総大将すら務め上げてみせた……ハクよ! 其方に──大宮司の任を命ずる!」

「「「「おおおおおっ!!」」」」

 

 広がる動揺と歓喜、そして新たな歴史と権力者の誕生に一同が湧いた。

 数多の者が口々に祝辞の言葉を述べ、喝采するかの如く拍手が鳴り響いた。

 

 大宮司──それは亡き帝の傍に常に控えていた、ホノカ殿の役職である。ホノカ殿が行方不明であるからして、その席は空白となっていた。故に、ハクをその席へとつけることにしたのだ。

 

 しかし、その決定に皆が驚くのも無理はない。

 大宮司はヤマトにおける全ての祭事を司ると同時に、帝の御側付きとしてその補佐をする役職である。また非常時には聖上、総大将と同等以下の権限を持ち、そのどちらかが不在であれば軍務、政務、その他全ての決定権すら持つことができるのだ。

 元はただの平民でありながら、大老以上の、ヤマトに誇る最大級の権力者への大出世である。しかし、誰もハクの功績を見れば不満など持つ者は皆無。皆一様に認める声を述べていた。

 

 トゥスクルもこれだけの権力者を相手に、人質にせよとは言いにくいであろう。

 故に、人質の件に関しては相手の激昂も視野に入れながら、別の策を用いる必要もある。しかし、ハクを逃がすよりは余程良い。

 ハクは恨みがましい視線を某に送るであろうが、それも今や楽しみである。ハクが目の前に姿を現し苦言を呈す様を夢想し笑みを浮かべるも、ハクは未だ姿を現さない。

 

「? ハク、前へ」

「どうしたのじゃ? ハク! はよう余の前に姿を見せい! 大宮司じゃぞ、大宮司!」

 

 鳴り止まない拍手の中、一向にハクは皆の影に隠れ姿を見せない。

 どうしたのかと違和感を覚えた者によって拍手の音が収まっていくも、何分ここに集う人数は多い。ハクの姿がないと、皆が疑問符を浮かべ、ヴライの仮面を被った者を探し始めた。

 

「ハク! ハクはどこじゃ!」

「あの……すいません」

 

 そこで、オウギが申し訳なさそうに手を挙げ、皆の前に進み出てきた。

 

「? どうしたのじゃ、オウギ」

「ハクさんの部屋で、このような書置きが……」

「……オウギよ。今ここで正確に読め、許す」

「はい──えー……あとは自分より頭のいいライコウに任せます。探さないでくだたい──何分急いで書いたのでしょうね。走り書きで間違っている個所も見受けられます」

「……」

「な、なにを……ハクは何をしとるんじゃああああああッ!」

 

 再びライコウが剣を取る日は近いかもしれぬ。頭を抱えてライコウとミカヅチを見れば、彼らもまたこの光景に苦笑していた。

 

 叙任式の最後に見せた聖上の激昂は止まることを知らず、かつて見たことも無い程に取り乱したものだったと――ヤマトに新たな歴史が刻まれたのだった。

 

 


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