【本編完結】影とうたわれるもの~二人の白皇再構成~ 作:しとしと
やっぱり、この人で締めないとね。原作では、ぼろぼろ泣いたシーン。超えらんねえ。
夕刻である。オシュトルやマロロ、並びに数多の幹部を集め、軍議を行っていた。明日に向けた、最後の確認というやつだ。
そう、明日である。
十分な数の兵糧、そして兵が揃った。明日は決戦における策を集った各皇と確認し、任命式を行う手筈である。その後、ついに数多の軍を従え帝都に進軍するのだ。
軍議が終わり、皆が明日の為に早々に夕食を食べ寝静まろう、といった頃であった。
自分も部屋に帰り、さてどこで食べようか思案していると、襖越しに声をかけられた。
「ハク」
「ん? オシュトルか? どうした」
「母上のところに共に行かぬか?」
「トリコリさんのところに?」
「ああ、明日からは暫く会えぬ。ハクと共に夕食を取るのも良いかと思ってな」
まあ、どこで食べるかは予定していなかったので、別にいいかと提案に乗ることにした。
トリコリさんのところによく行くとはいえ、オシュトルと行くのは珍しいな。
「ああ、いいぞ」
「そうか、では歩こう」
身支度をした後、二人、共にトリコリさんの家まで歩く。
夕闇の中、民は既に家路についているため人通りは少なかったが、擦れ違えば皆挨拶をしてくれる。まあ、オシュトルが横にいる分、いつもよりかなり緊張しているようだったが。
そして、擦れ違う人もいなくなり、真に二人きりとなった時、オシュトルはウコンの口調で切り出した。
「……なあ、アンちゃんよ」
「ん、どうした?」
「俺は、ミカヅチに勝てると思うか?」
それは、決戦に向けて抱く、オシュトルの最も懸念することであったのだろう。
「そうだな……わからん」
「はっ、そうかい」
嘘は言えんからな。
というよりも、二人の実力が上過ぎて判断が付かないのだ。
オシュトルは自分の言葉に自虐的な笑みを浮かべると、不安げに溜息をついた。
「策とは言え、俺がミカヅチと決闘するとはな……」
「……」
そう、これまでの軍議で幾度となく相談し決まったこと。
それは、仮面の力を使うミカヅチを引きつけるため、オシュトルはミカヅチとの決闘に臨むのである。
もし決戦の場でミカヅチに仮面の力を解放させてしまえば、その余波は凄まじい。策の実行どころか、ヤマトの兵は巻き込まれただけで死に絶えるであろう。
故に、オシュトルはミカヅチを遠くに引きつける策を用い、決戦が終わるその時まで戦う役目を担ったのである。危険な任であるが、正しくオシュトル以外にできるものではない。
「心配すんな。さっさとライコウを討って、戦わなくてもいいようにするからよ」
「はっ、ったく頼りになるアンちゃんだぜ」
「だから──」
「ん?」
「──死に急ぐなよ」
死相の見えるオシュトルに、そう言う。
この顔は、今までも何度も見た。決意の籠った表情である。
「……そうだな」
「時間さえ稼いでくれりゃ、こっちが何とかする。教えた口八丁手八丁だけにして、仮面の力を使ったりするなよ」
「ああ……わかっているさ」
本当にわかっているのかね。
もう一度念押ししようかと思い、口を開いたところだった。
目の前にはもうトリコリさんの家の門構えが見えた。この言葉は帰り際に伝えることにする。
警備の者に頭を下げてオシュトルと共に中に入り、家の中の者へと声をかけた。
「母上、オシュトルが帰りました」
暫くすると、玄関の戸がトリコリさんの手によって開けられ、息子に見せる暖かな笑みで中に招き入れられた。
「オシュトル、お帰りなさい……あら? 誰かいらっしゃるのかしら」
「トリコリさん、自分もですが、いいですか?」
「ハクさん! ええ、勿論構いませんよ」
居間に二人通され、腹の減る旨そうな香りが漂って来た。
炊事場の方から慌てた声が聞こえてくる。
「は、母さま! お鍋の水が湧きだしてきたのです!」
「あ、あらあら、ちょっと待ってね……」
ネコネが料理をしていたようだ。
トリコリさんは足取りしっかりと炊事場の方へ向かっていく。むさい男連中に今できることは無いか。
居間に座ってじっと待つことにした。
同じく黙って座っているオシュトルに目線をやる。
「良かったのか? 家族団欒を邪魔して」
「ふ、ハクがいれば母上も喜ぶ」
「そんなら、いいが」
料理があまりうまくいってないのだろう。炊事場から聞こえるネコネの動揺した声を楽しみながら、二人他愛ない話をして過ごす。
暫くすると、ネコネとトリコリさんがほかほかと湯気の漂う料理を運んできた。その際に、自分の部屋以上に寛いでいる自分を見てネコネは眉を潜めた。
「ハ、ハクさん? 懲りずにまた来ていたのですか?」
「ああ。オシュトルの誘いでな。懲りずにお邪魔してるぞー」
ネコネは些か驚いた表情を取りながら小言を言うも、後ろに閊えているトリコリさんを思って、慌てて机の上に料理を置いた。
「ふむ、美味そうであるな」
「ええ、ネコネが作ったのよ」
「母さまに助言をいただきながらなのです……」
ネコネの料理か。以前一度食べたことがあるが、トリコリさんの味には遠く及ばなかった。
目の前の一品一品は形もしっかりしているし、純粋に美味そうだ。
皆でいただきますの挨拶をし、箸を進める。
ほくほくの煮っ転がしや、塩分の効いた鳥出汁の味噌汁などを口に入れ咀嚼する。具材は不出来な形も多かったが──
「──う、うまい!」
「本当ですか?」
「ああ、本当だ。おいおい、ネコネ、お前料理上手くなったなあ……」
「ま、まあ、これだけ練習すれば当然なのです。それに、今日は、母さまの助言のおかげなのです」
ネコネが何やらぶつぶつ照れくさげにつぶやいているが、気にせず目の前の料理に舌鼓をうつ。
母の味というのだろうか、体に染みていくような旨みがある。しかし、ネコネもこのまま研鑽を積めば、エントゥア──いや、ルルティエが作る料理に匹敵するやもしれん。
ルルティエは自分好みの味付けを知り尽くしているから、今のところ不動の一位であるが。エントゥアはよく酒のつまみを作って持ってきてくれるので不動の二位だ。とりあえず、大雑把な男の料理しか作らないクオンは既に越えているだろう。
「うむ、これであればルルティエ殿とも渡り合えるやもしれぬ」
「本当ですか、兄さま」
「ああ、よくやったな、ネコネ」
「えへへ……はいです」
オシュトルに褒められ、露骨に嬉しそうにするネコネ。
何だよ、全然自分と反応違うじゃないか。
トリコリさんは、そんな皆の様子を微笑みながら見つめていた。目が悪くとも、楽し気な雰囲気を察しているのだろう。
和やかなまま進む団欒の中、食事の早いオシュトルと自分が全ての品を平らげた頃だった。トリコリさんはぽつりと爆弾を落とした。
「そういえば……ハクさん、ネコネとの婚姻はどうなったのかしら?」
「な……母さま!」
「ふむ、あれは……有耶無耶になり、そのままかと」
「兄さまも答えないでくださいなのです! 有耶無耶のままでいいのです!」
「そうかしら……残念ね。ハクさん、どうかしら、もし戦乱が終わったら……ネコネを嫁に貰ってくれると嬉しいのだけれど……」
「みっ!? は、母さま!?」
慌てたようにわたわたと悲鳴をあげるネコネを見ながら、冷静な頭がその危険性を指摘した。
トリコリさん、それ、大丈夫な約束ですか。
戦争に赴く前にそういう婚約的なことするって、もう死ぬ可能性爆上がりじゃないか。
ネコネのためにもどう断ってやるのが正解だろうか。冗談で誤魔化すのがいいかと思って告げる。
「まあ……ネコネがルルティエより料理上手になったら考えますよ」
「んなっ!?」
ぼんっと破裂するかのように頬が赤くなるネコネ。
──あ、これ冗談で済まないやつだ。
案の定、怒り狂ったネコネは食事中にも関わらず机の下でげしげし自分に蹴りをくれ始めた。
「い、いてえって! ネコネ」
「あらあら、ネコネ。そのルルティエさんという方を越えられるよう、これからもお料理頑張らないといけないわね」
「は、はい──って! 違うのです、ハクさんも何偉そうに条件だ何だと……!」
「ふ、まあネコネ、ハクも冗談で言っておるのだ」
かーっと火山噴火のように激昂するネコネを、どうどうとオシュトルが宥めている。
まあ、ルルティエを越えるのは条件が厳しかったか。ネコネは妹分というか、歳の差がな──それにもう少し凹凸が無いとな。
「ふふ、ハクさんの気が変わったらネコネを娶ってあげてね」
「はあ……」
自分の、というかネコネの気が変わらない限り、再婚は不可能な気もするが。
ネコネは自分の生返事に顔を真っ赤にして怒ったり戸惑ったり、オシュトルはそれを見てにやにやと笑みを浮かべている。阿鼻叫喚であった。
トリコリさんはそんな周囲の様子に苦笑しながらも、伝えたいことは別にあったのだろう。表情を正して言葉を紡いだ。
「そして、もし気が変わらないのだとしても……ハクさん、あなたはもう──私達の家族よ」
「……」
家族、か。
周囲を見れば、オシュトルはいつもの微笑のまま頷き、ネコネは少し頬を赤く染め視線を反らしているものの、僅かに頷いていた。
「ありがとう……ございます」
「ええ……オシュトル、ネコネ、ハクさん……私の自慢の息子達……きっと、帰って来て」
トリコリさんに決戦があることは伝えていない筈だ。
しかし、こうして三人が集まったことに何かを感じたのだろう。涙を堪えて言う言葉に先ほどまでの空気は霧散し、三者三様しっかと返答する。
──必ず、ここへ帰ってくる。
トリコリさんにここまで言わせたのだ。帝都を奪還し、ただのハクとして再びここに来よう。そう決意させてくれたのだった。
見送りに来ようとするトリコリさんとネコネを、オシュトルと話があるからと制し、食事の後片付けを終わらせた早々に別れを告げた。
オシュトルと二人、夜風を浴びながら話をする。
「ハク、話とは何だ?」
「ああ……」
オシュトルは、家族にすら弱みを見せない。さっきの団欒も無理に明るく振る舞っているように見えた。
それでも、ぽつりと思わず出てしまった不安。オシュトルは、きっと自分にだけ明かしたのだろう。自分だけにしか、明かせないと思ったのだろう。
であれば、自分に伝えられることは──
「──なあ、オシュトル」
「なんだ?」
「自分は、どっちが勝つかはわからん。けどな、この世で最も強い漢は──オシュトル、お前だと思っているぞ」
「……」
「自分がこんだけ負けたのは、後にも先にもお前だけだしな」
「……ふ、そういえば……結局一度も俺に勝ったことは無かったな」
「当たり前だ。自分が勝っていたら、ミカヅチとやり合うのは自分になってただろ」
「くく、違いない」
一頻り二人で笑った後、オシュトルは感慨深げに溜息をついた。
「強い、か……」
その表情は先ほどまでの暗いものではない。幾分血色が戻ったように思った。
「ありがとう、アンちゃん。覚悟ができたぜ」
「おいおい、死ぬ覚悟か?」
「……いーや、アンちゃんと共に──生き残る覚悟を、な」
「はっ、そりゃいい!」
不敵な笑みを浮かべ、そう言うオシュトル。
どうやら、不安を払拭することは成功したらしい。
「応、心配かけたな」
「……オシュトルが死んじまったら、戦乱後も忙しすぎて死んじまうからな。頼むから生き残ってくれよ」
「くく……まあ俺が生きていても、アンちゃんが忙しいのは変わんねえさ」
「おいおい、勘弁してくれ」
互いににやりと笑った後、オシュトルはトリコリさんの家に泊まると言うので別れる。
挨拶もせず別れたが気にしない。明日もこうしていつも通り会うのだから。
もうオシュトルの表情に死相はない。きっと、生き残るであろう。自分もオシュトルも、そしてみんなも。
既に闇夜に包まれ冷ややかな風が通る道の中を、熱の籠った心が体を火照らせる。
──この高揚感は何だろうな。
自分は彼らとは違う存在である。つまりこの世界の余所者だ。
どうしたって交わることはない。それは、長く一人苦しんでいた兄貴を見ていてもそう思っていた。
──あなたはもう私達の家族よ。
しかし、トリコリさんは、オシュトルは、ネコネは、家族だと言ってくれた。
──生き残ろう。
皆で生き残るためには、何だってする。そう思えた。
さ、明日に備えて早く寝ようと思い自室に帰ると、もう一人この決戦に懸念を感じている人物に出会った。
「おー、ハク。なんじゃ遅かったがどこかへ行っとったのかの?」
「皇女さん……」
また勝手に寝所を抜けだしてきたな。
決戦前のこの日にムネチカに怒られても知らんぞ。
「ムネチカの許可は取ったのか?」
「うむ、ハクのところへ行くと言ったら、了承してくれたぞ」
「……まじかよ」
ムネチカは一体どういうつもりだ。珍しい。
「ハクが護衛であれば心配ないと言っておったな」
「……そういうことか」
つまり皇女さん、このままここに居座るつもりだな。
自分は明日も仕事は多い。普段のんべんだらりの皇女さんと違って早く寝たいのだ。
「暇つぶしなら付き合わんぞ」
「ったく……聖上である余にそのような態度が取れるのはお主とクオンだけじゃぞ」
やれやれと小馬鹿にするように笑う皇女さん。
さっさと話を聞いて、早々に追いだそう。そう決めた。
「で、結局何しに来たんだ」
「む……まあ、話を、とな」
「?」
「……だめかの」
「いや、別に構わんが。で、何の話だ」
「……」
すると、今度は気まずそうに視線を反らす。
先ほどまでの元気な様子とは一転、何か憂いを見せるような表情である。
──ムネチカが言っていたことは、ある意味本当だったのかもな。
よくわからん夫婦ごっこなどしてしまったが、皇女さんのこの様子に気付けたのはその一件があったからかもしれない。
今日ここに来たということは、やはり──
「もしかして……決戦が怖いのか?」
「む……そう、なのかもしれぬ、な」
「かもしれない?」
「……わからんのじゃ。こうして、其方らを危険に晒してまで、得ることなのかと」
「……」
それは確かに、今さら誰にも相談できないことではあるな。
今更やっぱやーめたが通用する程、今の情勢はもう後戻りできないところまで来ているのだ。
「今更ながらに、余は震えておる……次の決戦は正しく死地。数多の者が余の為に死ぬ。余に近い其方らは死なずに済んでおるが、もし誰かが……オシュトルや、お主が死んでしまえば、そう考えると余は──」
唇を噛んで震える皇女さん。ムネチカと一緒にいた時は照れてあのような返しをしたのかもしれない。
皇女さんは、正しく聖上としての悩みを抱えていたんだな。兄貴の後継者として、相応しいじゃないか。
ならば、聖上である皇女さんにしかできないことを、教えてやることにする。
「……皇女さんの仕事を教えてやろうか」
「? な、なんじゃ。余の、仕事……?」
「簡単だ。決戦の前に死ぬなって命じればいい」
「……」
「そうすれば、皆皇女さんのために生き残ろうと、必死になって戦うさ」
特に心酔しているノスリとか、死なないために決死の覚悟で戦うなんて矛盾現象が起こるだろうな。
ノスリみたいな奴はのせればのせるほど力を発揮する傾向がある。まあ、足元が疎かになることもあるが。
皇女さんは暫く自分の言葉をかみしめるように理解した後、微笑んだ。
「……それが、余の仕事なのじゃな」
「おう、威厳たっぷりに、誰もが付き従う感じで頼む」
「ふふ……ハクは相変わらず無茶を言う……じゃが、そうじゃな」
皇女さんは、それで吹っ切ることができたのだろう。
感慨深げに頷くその瞳には、もう迷いは無かった。
「さ、話は終わったか? 明日に備えて早く寝たいんだ、自分は」
「なら、一緒に寝るのじゃ!」
「……はい?」
「添い寝じゃ添い寝! 先日に其方、ムネチカと一緒に添い寝すると約束したであろう?」
「いや、それはムネチカが勝手に……」
「ほれ! ハク叔父ちゃんには、余を暖めるという栄誉をくれてやるのじゃ」
「おいおい、暴君かな」
まあ、いいか。
皇女さんも年相応に甘えたい年頃なのかもしれないな。旅行行く前に楽しみで眠れない系のやつだ。ちょっと抱きしめて子守唄でも歌えば、さっさと寝てくれるだろう。
一組の布団に飛び込み、捲ってほれほれと誘う皇女さんに従い、自分も皇女さんの横にすっぽり入った。
「お? おぉ……」
「どうした?」
断られると思っていたのだろうか。
自分も布団に入って寝ようとすると、殊更驚きに満ちた表情をされる。胸元にすっぽり収まる皇女さんは、蝋燭だけが灯る薄闇でもわかる程にみるみる頬を染めた。
「こ、これは、なんじゃ、少し照れるの……」
「……」
今更照れるとかやめてくれよ。やりにくいじゃないか。
「……子守唄でも歌ってやろうか?」
「い、いらぬわ! 子ども扱いするでない……そ、そのまま抱いておれば良いのじゃ」
「そうかい」
抱いているわけじゃないが、狭いので自然そういう体勢になるだけだ。
借りてきた猫のように暫く無言で大人しくしている皇女さんを他所にうとうととしていると、皇女さんがおずおずと言葉を発した。
「な、なあ、ハク……其方は、この戦が終わればどうするつもりなのじゃ?」
「……んぁ? ああ、まあ、トゥスクルの皇女さんに人質として来いって言われているしな……」
「そういえば……あのいけすかない女とそのような約束をしたような」
「おいおい、忘れていたのか?」
「ふん。そんなもの破棄じゃ、破棄」
憤慨する皇女さんの気持ちもわかるが、トゥスクルには恩も多い。国との約束であるし人質案を廃案は難しいだろうな。いくらクオンが間に入ろうとも無理に断れば新たな戦乱が起こっちまうよ。
それに──
「それにの? 其方はずっと余の──」
「まあ、クオンとも約束したからな。人質関係なく、ヤマトが落ち着けば暫く向こうに行こうかと思っている」
すると、胸元で視線を落としていた筈の皇女さんは、不安げにその瞳を自分へと向けた。
「……行ってしまうのか?」
「ん? いやいや、またヤマトにも帰ってくるさ」
「そうか……なら、その時は、余の──」
「皇女さんの?」
「……な、何でもないのじゃ! 気にするでない!」
ぎゅっと目を瞑って眠ろうとする皇女さん。
話は終わったのだろうか。
「……まあ、おやすみ。皇女さん」
追求するか迷うが、トリコリさんのところで腹いっぱい食べた手前、自分も眠い。それに明日も早い。自分の胸の中で未だ反応の無い皇女さんを無理に起こすこともないだろう。子ども体温だからか布団も何だかぬくぬくと温まってきたし。
──そういえば、チィちゃんもこうして、自分の寝台にこっそり入ってきていたな。
自分以外の温もりに連想したのか、おぼろげな記憶を思い出しながら、温度と静けさに負けてウトウトと寝入ってしまったのだった。
原作で泣いたシーン。
色々ありますが、トリコリさんとの決戦前の別れは涙が止まりませんでした。やはり原作は永遠の名作ですね。
この作品では、トリコリさんの傍にオシュトルもネコネもいる。そして、本当のハクもいる。
見たかった光景が一つ書けて、一段落ついた気持ちです。さあ、次はいよいよ決戦だ。