【本編完結】影とうたわれるもの~二人の白皇再構成~   作:しとしと

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イズルハ編、二話連続投稿、後編です。


第二十九話 志あるもの

「──出て来い! ゲンホウ!!」

 

 未だ屋敷外から聞こえるトキフサの声に、皆で顔を見合せる。

 決戦といえども、里の中には非戦闘員も多い。どの程度の戦力差であるかはわからないが、彼らを守りながらこれだけの人数で勝てるだろうか。いや、今勝たねばイズルハの混乱を抑え、氏族を纏めあげることはできない。勝つしかないのだ。

 

 武装して屋敷から外に出ると、まず目に入ったのは里を取り囲む弓兵だった。陽動に割いたのであろう、数はそれほどでもないがトキフサに従う兵だ。それなりの練度は誇っているだろう。

 そして次に目に入るのは、怯えた里の民。震えるようにして地面に這いつくばっている者が数名いた。家に逃げ込めた者は良いが、弓の射程に入り動くなと命じられたのだろう。足の弱いものも多い、すぐには身を隠せなかった筈だ。

 

「トキフサ……」

「ゲンホウ! やはりここにいたか!」

 

 弓兵の誰よりも遠くに位置するトキフサは、身の丈程もある巨大な弓を構えていた。

 屋敷から出てきた自分達の中にゲンホウを見つけ、狂気に満ちた瞳で喜びの言葉を口にした。

 

「素晴らしい……これで、貴様を滅ぼせば、我はまた帰り咲く!」

「ふん……何年経っても、性根の方はまるで変わってないらしい」

「な、何だと!? 帝への献上品に不手際を打った貴様が、この我に意見しようというのか!」

 

 そんなことがあったのか。

 しかし、ゲンホウは呆れたように真実を告げた。

 

「トキフサ、俺が気づいて無いとでも思っているのか? あの日は妙な事故が多かった。落石、出火、賊まで湧いた。それでも何とか荷を城まで持ち帰って、一晩休んでさてこれから帝都だってとこで──お前が大事な遺物が壊れてるって言いだしたんだろう?」

「し、しかし、あの道中ならどこかで壊れていても不思議はなかった!」

「そいつは在り得ねえ。何故なら、俺が運んでいた荷は偽物だったからだ。万一のことを考えて、別の奴に運ばせていた。城に持ち込んだ時に傷がなかったのも確認している」

「ぐっ……!?」

「……つまり、献上品は城に運び込んでから壊された、と?」

「あの男……そこまで卑劣な真似を!」

 

 家名を貶められた真実を明かされ、ノスリとオウギが憤慨する。

 トキフサに従う兵たちにも同じように動揺が走った。彼らもゲンホウに従っていた時代もあったのだろう。イズルハの英雄がそんな裏工作によって立場を追われたとなれば、トキフサにこれまで通り仕えていて良いか迷うところだ。

 トキフサはまずい雰囲気を悟ったのだろう。かき消すように大声を出した。

 

「五月蠅い! 今となっては何とでも嘯けるわ!」

「そりゃお互い様だがな」

「違う! 貴様があの時、事実を言わなかったのが証拠だ!」

 

 確かに、何故言わなかったのだろうか。そうすれば、家名を貶めることも立場を追われることも無かったろうに。

 ゲンホウはさしたる動揺も見せず、諦観のような表情を浮かべて理由を述べた。

 

「トキフサ、俺は思っちまったのよ。この程度のことで追われるような地位なんて、何の意味もねえんじゃないかってな」

「し、しかし、父上……!」

「ノスリ、この程度の足の引っ張り合いは何処にでもある。それこそ身内の中にすらな。どいつもこいつも、手前の利益の為に平気で人を騙す。長になるってのは、こういう柵や権謀術数の中に身を置くってことだ」

 

 ノスリは父の言葉に戸惑いを見せる。

 毎度のように父上のような長になるのだと言っていたノスリのことだ。ノスリは今、悩んでいるのだろう。父からこうも長としての厳しさを伝えられ、父はその厳しさに折れたことを知り、なお長を目指すことの意味を。

 ノスリは俯き考え、しかしその答えを出すには今は時間が足りなかった。

 

「な、我が求め止まない地位を……意味が無いだと?」

「ああそうだ、トキフサ。だからお前にくれてやったんだぜ?」

 

 相も変わらず飄々と受け答えし、自らの執着する地位にまるで固執していないゲンホウの姿に、トキフサは怒り狂う。

 

「ッ……そうやって、いつも高みから我を見下ろす……その態度が気に喰わんのだ! 我に這い蹲れ! 羨め! 跪け! 命乞いをしろ!」

「……」

「確かにそうであった……貴様を追い落としこの地位に立ったとて、我に従う者などおらん! 八柱将になったとて、イズルハに我は必要とされていない。必要とされているのは、八柱将という地位だけ……」

「……トキフサ、もう諦めろ。そう考えている内は、お前さんに長は務まらねえ」

「き、貴様が生きている限り、我には誰もついて来ぬ……貴様が憎い……貴様さえいなければ……!」

 

 弓を構えたまま憤怒の表情でゲンホウに罵声を浴びせる。もはや長としての姿はそこには無い。ただ劣等感に塗れた小さな子供に見えた。

 

「聞いたのじゃ……トキフサ!」

「な、ひ、姫殿下……!」

「其方などもはや八柱将の資格はない! 大人しく余らに投降するのじゃ!」

 

 皇女さんが、今までの話を聞き憤慨したように前に出る。思わず出てしまったんだろうが、ここでトキフサの前に出るのは余り得策じゃない気がするぞ。

 案の定、トキフサは激昂していた様子は鳴りを潜め、皇女を捕えれば復権が可能と判断したのだろう。薄い笑みが浮かんだ。

 

「まさか、ここに姫殿下がおわすとは……何たる幸運! イズルハを再建することも容易いわ!」

「ほう、聞き捨てならぬ。姫殿下を害するというのであれば、小生が相手になろう」

「む、ムネチカ、だと……!? ゲンホウ、貴様、小娘を引きこみよったか!」

 

 しかし一転して恐怖に塗れるトキフサ。そうか、以前の戦でムネチカにこてんぱんにやられたそうだから、精神的外傷になっているのかもしれない。

 しかし、こちらは歴戦の兵ばかり、相手の伏兵含めても思ったより戦力差は少ないかもしれない。これであれば、トキフサを逃がさず討つことができるやもしれん。もはや会話は不毛か。

 

「ノスリ、わかっているな?」

「ああ……私がトキフサを、あの外道を討つ!」

 

 トキフサは、こちらが武器を構えて戦闘態勢に入ったことを理解したのだろう。

 邪悪な笑みを浮かべ、弓の矢先を非戦闘員である爺さんに向けた。

 

「貴様ら、武器を捨てろ!」

「何……?」

「人質が見えんのか!? そこで這いつくばっている老人の命が惜しければ、武器を捨てろ!」

「ど、どこまで外道に落ちれば気が済むのだ!」

 

 ノスリはトキフサの長としての態度に憤慨する。

 しかし、これだけの戦力を見せられれば、トキフサが自分可愛さに人質をとってしまうこともわかる。多分ゲンホウと少数の兵だけだと思って来ただろうからな。皇女さんだけでなく、まさかムネチカみたいな武闘派もついてきたとは思うまい。

 それでも、トキフサの戦略には大きな効果があった。己の武器に手を伸ばしていた者達は軒並みその手を止めたからだ。

 

「長である我は、勝たねばならんのだ! 勝てば良かろうなのだ! 貴様らが死に姫殿下を手に入れれば、イズルハは我の物。後はどうとでもなる!」

 

 トキフサの言は既に狂人の域である。しかし、狂人であるからこそ、ゲンホウも、ノスリも、動けない。村民を護るため、命を差しだす覚悟なのだろう。

 今ここで彼らを失えば、イズルハは滅びる。

 天秤はどちらに傾くか思考にそれほど時間はかからなかった。一歩前に出て、トキフサのゲンホウに向けられた視線を遮る──汚れ役を担うのは自分の役目か。

 

「──いいだろう、殺せ」

「な、何だと!? 村民がどうなっても良いと言うのか!」

「ああ……だが、その瞬間お前の人生は終わる。命も、名誉も、お前には何も残らない。お前の指が、お前自身を終わらせるんだ──それだけの覚悟があるなら、その矢を放ってみやがれ」

「ぬ……ぐっ……!」

「そうだ、トキフサ! 私はゲンホウが氏族ノスリ! 貴様のような外道に、私達は従わない! 今ここでお前を討つ!」

「くっ、ゲンホウの娘か! 貴様らの一族は、真忌々しい……ッ!」

 

 ノスリの口上を受け、トキフサは怒りに塗れながらも逡巡しているのだろう。

 異常な程に張りつめられた弦、震える矢先からも動揺が伝わってくる。選ぶ時間は与えない。

 

「どうした、トキフサ! お前にもなけなしの誇りがあるなら、自分を討ってみろ!」

「ぐ……我を……我を愚弄するなああッ!」

 

 その矢は、村民では無く自分へと向けられた。

 トキフサだけでなく、周囲の兵達も余りの命令に動揺している。今こそ好機か。

 

「散開! ノスリとオウギは自分に続け! 他は伏兵の排除と村民の護衛だ!」

「っあ、あいわかった!」

「ッ了解です!」

 

 自分に向かって矢を構えているトキフサに向かって体勢低く地面を駆ける。村民は未だ害されていない。トキフサの護衛といえども、真にトキフサに恭順している訳ではないのだろう。悪行の肩棒を担がされている彼らに同情はするが、情けはかけられん。

 

「っ! 我が一矢で死ねえいッ!」

 

 トキフサは慌てたように矢を放つが、集中力の途切れた矢は僅かに頬を掠めて地面に激突する。

 矢自体は大きく速いが、これでは普段よく見る正確無比と手数の多いノスリの矢の方が怖い。

 後背からノスリの射撃、オウギは大きく回って横合いから襲うつもりなのだろう。正面である自分はトキフサの護衛による無数の矢を受けるが、鉄扇と手甲で弾き飛ばす。その間に、ノスリの正確な射撃が敵の護衛を刈り取っていく。

 

「まだまだッ!」

 

 トキフサが第二第三と斉射する。体を掠める矢も増えてきた。このままでは──

 

「──がら空きですよ!」

「ぎゃああああッ!」

 

 オウギが間に合ったか。横合いから弓兵部隊を容易く刈り取っていく。

 トキフサは敵との間合が近づき、矢を番えるよりも後退した方が良いと判断したのだろう。

 

「くっ! 忌まわしきゲンホウの氏族共め!」

「トキフサ様! 退避を!」

 

 後退するトキフサを守るように前に進み出る二人の剣兵。進路を阻む彼らに向かって、長巻を手に取り進み様に渾身の薙ぎ払いを行う。

 

「ッ、そこを退け!」

「──ぎゃっ!?」

 

 オシュトルの時には感じなかった手応え。敵兵は避けることもなく、二人とも一振りで容易に吹き飛ばすことができた。

 

「な、何ッ!? き、貴様がオシュトルの影か! 貴様さえいなければ──!」

 

 慌てて矢を番えるトキフサであるが、もう遅い。

 後背よりノスリの矢がトキフサの膝を射抜いた。膝に矢を受けてしまっては、もはや立てまい。戦士としても引退である。

 

「ぐっ……!」

「投降しろ、トキフサ! イズルハの長はお前では成り立たん!」

「くそ……我も、ここまでか……!」

 

 諦めたように項垂れるトキフサ。

 オウギと視線を交わし、共に戦は終わったことを確認する。後は村民他に被害が出ていないかだが──

 そう思考しながら拘束しようと近づいた時だった。

 

「ぐっ──!?」

「ハクさん?」

 

 オウギが心配そうにこちらを見る。

 仮面が火のように熱い。まただ、これは──

 

 ──殺セ。敵ヲ屠レ。

 

 頭の中に声が響く。仮面の奥に眠るどす黒い憤怒の炎が、トキフサを殺せと叫ぶ。

 平常心、平常心──自分は、ハク。ぐうたらなだけの大いなる父。戦いは嫌いなのだ。自分の心を塗り替えないでくれ。

 そう心で念じる。その激情が治まり始めたその時だった。

 

「──しかし、ゲンホウ! 貴様だけはあああっ!」

 

 トキフサは自分の僅かな隙を見逃さなかった。降伏する振りを見せたのも束の間、村民を護衛するため背を見せていたゲンホウに向かって咄嗟に矢を放つ。

 巨大な矢ではない通常の矢を使った今までにない早撃ち、腐ってもエヴェンクルガ、こんな技を隠し持っていたとは。体勢も何もかも出鱈目に放たれようとしているが、しかし偶然であってもこの角度と軌道は──

 

「くっ──父上ぇッ!」

 

 ノスリは弓を構えるトキフサを射るのでは間に合わないと思ったのだろう。

 トキフサに照準を合わせていた矢先を、僅かに擦らした。

 

「むっ……!?」

 

 ゲンホウの足元に矢が刺さる。ゲンホウは確かめるようにその矢を見て、その瞳を大きく見開き驚愕した──矢の半ばから、別の矢が生えていたのだ。

 オウギによってトドメを差され血をまき散らしながらも、トキフサは矢が失速する様を眺めて、その現実を受け入れられず愕然としていた。

 

「がはっ……わ、我の……矢の軌道を、矢で逸らしたというのか……!?」

 

 何たる神業。

 ノスリは頭であれこれ考える者ではない。本能で分かったのだろう。既に構えたトキフサに矢を射ったとしても、止められない。では、その発射された後の矢を撃ち抜く。

 ノスリの技量は百発百中それができるわけではない、勿論偶然であるかもしれない。しかし、その偶然を引き寄せるだけの判断力、集中力、気概、それは長に相応しき能力であるとも言えた。

 

「く……忌まわしき、ゲンホウ……我は結局、何も成せ……」

 

 オウギの剣がトキフサから引き抜かれる。

 怨嗟の声をまき散らしていたトキフサであったが、どさりと自らの血だまりの中に沈んでいく瞳は、やがて色を失っていった。

 その中に、きらりと煌く金色の印。これが長の証というやつだろうか。オウギが丁寧にそれを回収して、後は未だ戦っている兵に喧伝するだけだ。

 

「兵は投降せよ! イズルハ皇トキフサ、ゲンホウが氏族ノスリが討ち取ったり!」

 

 狭い里だ。大声で叫べば未だ戦闘中の兵も武器を捨てるだろう。

 案の定、トキフサが討たれればもはや戦う理由も無いのであろう。潔く武器を下ろした。

 村民に被害は出ていないようだ。流石の兵も、トキフサの悪行にまでついていくつもりは無かったようだな。

 

 各々の兵を拘束し、それぞれ傷の手当をする。その途中、オシュトルの元へ陽動の軍を下げるよう伝令を出す。トキフサがいなくなったのに、これ以上被害を拡大するのは良くないからな。

 伝令が森の中へと消えていき、さて次はノスリとイズルハの件だと思考を切り替えたところ、誰かが自分を呼び止めた。

 

「ハク」

「ん? ノスリか、どうした?」

「相談があるのだ」

 

 ノスリは沈痛な表情で自分にそう言うと、川の近くまで連れ立った。

 二人、何も言わずとも川の淵に腰を下ろす。暫く沈黙が支配していたが、やがてノスリがぽつりと胸の内を明かした。

 

「……なあ、ハク。私は、長の資格があるのだろうか?」

「何故そう思うんだ?」

「……選ぶべき時に、私は迷ってしまった。いつもそうだ。お前のように冷徹な判断も下せぬ。日々こうした選択を迫られるのであれば、私は……」

 

 トキフサに人質を取られ動けなかったことを考えているのだろう。

 それで自信を無くしたか。いや、自信などそもそも持っていないのだ、ノスリは。不安で押しつぶされそうな中、それでも胸を張ってここまで来たのだ。安心させるのは、自分の役目か。

 

「……別に、それでいいんじゃないか?」

「何?」

「自分があそこでああ言えたのは、汚れ役は溝攫いしている頃から慣れているってだけの理由だ」

「しかし……それは長となる自分が!」

「はあ……」

 

 何か勘違いをしているようだ。頭は皆汚れ役を買って出ているとでも思っているのだろうか。

 今回は自分の言が上手く働き民草に被害は出なかったが、そうでない場合もある。その責任を全て負っていては頭ばっかり挿げ変わって何も変わらない。頭には頭のやるべきことがあるのだ。

 ノスリは、自分の魅力がいまいちわかっていないからこそ悩むのだろう。オウギがあれ程慕うのにも、ただ姉弟だからと勘違いしてそうだ。だからこそ、自分が教えてやらねば。

 

「……あのな、お前のために自分は汚れ役をやってもいい、って思える仲間がいるってのは、それは凄いことなんだぞ?」

「……どういうことだ?」

「自分は、ノスリの高潔さが好きだ」

「なあっ!? ハ、ハク、何を、好きって……」

「ああ、真っ直ぐで曲がったことが嫌いで、外道を許さず天誅を下す。はは、ある意味オシュトルに似ているかもな」

 

 あいつも正道を歩まんとする者。汚れ仕事は別にしなければ、オシュトルの名声が揺らぐ。だからこそ、自分みたいなのが必要なのだ。

 オシュトルに似ていると言われても余り実感が無いのだろう。ノスリは戸惑うように首を傾げた。

 

「む……私がオシュトルに?」

「ああ、そんな真っ直ぐで綺麗な奴だからこそ、部下は尽くしてやりたくなるんだ。お前が父ゲンホウに憧れた理由──人徳ってやつだ」

「人徳……」

「色々言われたみたいだが、長に一番必要なのは、そういったもんじゃないのかね……このままじゃまずいと、お前の為に何かしてやりたくなる。色々考えて動いてくれる奴がいる。トキフサの周りにそんなもんはない。だが、お前にはある」

「私には、ある……」

「ああ、それだけで資格は十分だと思うがね」

 

 ノスリは噛み締めるように胸に手を置き、自分の言葉を聞き入れる。

 暫くして決心がついたのだろう。顔を上げた時には、ノスリの表情から迷いは消えていた。

 

「……ありがとう、ハク。お前はいい漢だな」

「ほう、今頃気づいたのか? いい女であるノスリさんは」

 

 揶揄い混じりにノスリを見ると、その瞳は潤むように輝き、頬は木々から零れる夕日のように赤く染まっていた。

 

「はは、そうだな。今頃……だ」

「ん、どうし──」

「──な、ななな、なんでもない! さ、さて! 父上のところに行くか! ハク!」

 

 ノスリは吹けぬ口笛で強引に話を打ち切った後、幾分か緊張解れた様子でゲンホウのいる屋敷へと再び足を運んだ。

 未だ険しい表情を浮かべるゲンホウの前に、ノスリは座すと伏して頼んだ。

 

「父上、私は良き長となる! 家督を譲って欲しい!」

「……ノスリ、お前の思う良き長とは何だ?」

「今までは、ただ父上のように威風堂々とした長になりたいと……思っていました」

「ほお、俺のようにと言うがね……トキフサの野郎に途中で引き摺り下ろされた。そういう権謀術数にはどう立ち向かう?」

 

 ゲンホウの底意地の悪い質問に対しても、ノスリの瞳にはもはや動揺は無い。

 決意の籠った視線を真っ向からゲンホウにぶつけ、己の心を曝け出した。

 

「私は……引き摺り下ろされない! そのような企みには負けたりしない! トキフサのような卑劣な輩は許さない!」

「……今回みたいに、誰かが犠牲になる危険もある。それでもか?」

「犠牲など出さない! 仲間と共に──私が持つ力の限り、全て倒し、全て救う志を持つのです! それだけは父上とは違う! だから、私は父上のようにではない──父上以上の長になるのだ!」

「……ふふっ、それでこそ姉上」

 

 オウギがいつもの言葉を口にする。

 しかし、その言葉には、いつもの姉の姿に漸く戻ったという喜色が込められているように感じた。

 ゲンホウはそんな二人の様子を見て取り、額に手を当てて笑いだした。

 

「ふふふ……はーはっはっはっ!!」

「ち、父上?」

「オウギ! やはりこいつはアホウすぎて、お前でもままならんようだな」

「とんでもない。僕如きが姉上を御するなど」

「しかし、それこそ長の資質よ。確固たる自分──志を持っているか。聞くべき意見に耳を傾けるのは当然だが、周りの思惑で揺れるのは釣り竿と浮きだけで十分だ」

「父上……」

 

 ゲンホウはようやくノスリが氏族の長として、イズルハの皇として立つことを認めてくれたようだ。今は、ノスリが長として皆から認められたことが純粋に嬉しい。

 さて、トキフサは討った。後のごたごたや、これが計画上のことだと氏族をどう納得させていくかについてはこれから話し合って決めよう。

 ノスリが認められたことについて皆から祝いの言葉が送られ賑わっている中、ゲンホウから言葉をかけられた。

 

「ハク殿」

「ん?」

「ちょいと相談がある。三つ目の案について、な」

 

 それはこちらにとっても今まさに相談したいことであった。

 ゲンホウから、各氏族にトキフサの討ち死にとノスリへの家督継承について伝令を送ることが決められた後、各自自由行動となる。

 その間、ゲンホウと二人で今後のことを検討することとなった。

 ただ、伝令を出すと決まった筈のゲンホウが全く素振りも見せず、そのまま自分と話を始めようとしたので、つい疑問が口を出た。

 

「ん? 伝令はいつ出したんだ?」

「ノスリからあれこれ言われる前に出している。足の早い奴らは数日中には集まる筈さ」

 

 相も変わらず喰えない親父だ。ノスリにあれだけ意地悪しながら、継ぐことを確信していたようだ。

 

「……家督は譲る気だったんだな。あの話をする前から既に文を飛ばしていたってことは」

「勿論さ……ああも神業を見せられちゃ、な」

 

 神業、ノスリの矢落としのことか。エヴェンクルガの歴戦の戦士であるゲンホウですら難しい行為なのだろう。素直に感嘆していた。

 しかし──

 

「それだけか?」

「……ふ、いいや。俺も娘の志に惚れちまったってことだ。人徳だね」

「はは、父親譲りで何よりだ」

 

 和やかな空気はそこまで、一転して真剣なものに変わる。

 

「……トキフサは討たれた。もはや聖上につくしか氏族の道は残されてねえ」

「そうだな」

「であれば、後はどれだけノスリが聖上からの信望厚く、またイズルハの民を害さないか示すことが求められる」

「ああ、今のところノスリの功績は、トキフサを討ったことだな」

「しかし、それだけじゃイズルハの裏切りの汚名は消せねえ」

 

 その通りだ。イズルハの氏族を全て取り込むためには、三つ目の案を完遂する必要がある。そのためには、自分だけでなく、皇女さん、ノスリ、オウギ、ゲンホウ、そして各氏族の長に話を合わせねばならない。そのためには──

 

「だからこそ、あんた以下氏族の長達には一芝居打ってもらう必要がある。ノスリが聖上の忠臣となり、トキフサを討つことができたのは、ゲンホウやその他氏族の長を介してイズルハや朝廷の情報を流していたからだと。これまで裏切りの汚名と粛清の危険に身を晒しながらも、反トキフサを掲げゲンホウを支持していた氏族のおかげで、それは成せたと」

「ふむ……」

「そして、エンナカムイは喧伝する。イズルハが態と敵に回ってくれていたからこそ、朝廷の内部情報を得ることができた、裏切り者ではなく、獅子身中の虫であると」

「納得するかな?」

「あんた次第だ。ノスリのため、最後の権謀術数に駆けまわってはくれないか?」

「……いいぜ。だが、約束だ」

「ん?」

「……ノスリの奴を、頼んだぜ。ハク殿」

「あん? 自分がか?」

「ああ、ノスリの奴もそうだが……あんたの人徳も、底知れねえ。あんたの傍なら、ノスリは間違うことはねえだろう」

「おいおい、買い被り過ぎだ」

 

 それに、ノスリの面倒だ何だと言うが、戦乱が終われば自分はヤマトを夜逃げするつもりだぞ。面倒な役職に就きたくないからな。

 

「いいや。俺は人を見る目はある。そうだなあ……ノスリと一度、どうだ?」

「どう、とは?」

「ん……いや、これは初心娘に言わなゃならんことか。まあ、忘れてくんな」

「? ああ」

 

 何を一度か知らんが、喰えないオウギの父のことだ。何か企んでいるのだろう。

 

「まあ、これが終われば悠々自適の生活が待っていると思えば……悪かねえさ」

「頼んだぜ」

「おう、任せな」

 

 数日後、隠れ里を離れゲンホウの故郷へと足を運び、約束の日程まで打ち合わせを行う。

 ゲンホウが場所を変更した理由は、いくら内々の継承式とは言え、形はある程度必要だろうとのことからだ。ゲンホウの故郷の屋敷の方が、広く綺麗であり、儀の後の宴の準備にも入り易いからとの理由もある。

 

 そして、約束の日。多くの氏族長が集まる中、皇女さんとノスリ、ゲンホウによる家督継承とイズルハ皇認定の儀が始まった。

 

「ノスリよ。これより貴公がゲンホウ殿に成り代わり、聖上の臣として、また良き長として同胞を導いていくことを誓うか」

「誓おう! このノスリ、我が命をイズルハに、そしてヤマト帝アンジュ様に捧げん!」

「ならば、アンジュが名において命ずる。ノスリ、今日から其方がイズルハを背負うが良い」

「はぁーっ!」

 

 化粧をした皇女さんとノスリが堅苦しいやりとりを行う。これで、一つやるべきことは終わった。

 

「堅苦しい事はこれで仕舞いだ。今日は新たな長の門出。昼からは宴を行う、大いに飲んで喰ってくれ!」

 

 皆がゲンホウの言葉より宴の準備に取り掛かる中、今後の話を名目にと、自分と皇女さん、ノスリ、オウギ、ゲンホウ、そして各氏族長による密会が行われた。

 自らの扱いについて怯えているのだろう。ゲンホウがいくらか事前に話を通している筈であるが、やはり不安なものは不安か。一族郎党死兵と化せなんて言われたらどう裏切ろうか考えるだろうし、この案はやはり通しておいて良かった。

 氏族長であるノスリが一同を代表するようにして、話を始める。

 

「儀の後にこうして集まってくれたのは他でもない。我らの今後を左右することについて相談するためだ。では聖上、まずはお言葉を頂きたく……」

「うむ、余はこれまで忠臣として尽くしてきた氏族長ノスリの嘆願により、其方らを厚く重用することを約束するのじゃ。今後とも余のためにその忠義を果たすが良い」

 

 当たり障りのない皇女さんの言葉。ははー、と平伏する氏族長の中に疑問符を浮かべるものもいる。その中から一つ手が上がった。

 

「……遅ればせながら意見をお許しください、聖上」

「うむ、許す」

「はっ、我らは聖上に一度は刃を向けた者共であります。我らを厚く用していただくこと真歓喜の念に堪えませぬ。しかし他の国が我らを認めるとは思えぬのです……」

「ふむ、イズルハ氏族長皆々の懸念は最もであるのじゃ。故に、ハクより提案がある。ハク、話すのじゃ」

 

 そこからは、自分が喋った。

 イズルハ氏族は金印を実行力として無理にトキフサに従わされていたことにすること。

 しかしそのことを利用し、各氏族の長が秘密裏に連携を取り、以前よりエンナカムイに朝廷の情報を流していたことにすること。

 故に、裏切り者ではなく敵の中に身を置いた忠臣として扱うことができることを伝える。

 その案を聞いた氏族長達は、疑念と歓喜の綯交ぜになった表情をした。この案を受ければ、氏族は円満に迎え入れられるという歓喜。しかし、何故異なる事実を作ってまで我らを受け入れるのか、という疑念だ。

 その疑念が良い方向に解消できるように話すことにした。

 

「本来であれば、今後あんたらを死兵として扱うこともできた。しかし、聖上の忠臣ノスリが、イズルハの未来を案じ聖上に何度も嘆願したからこそ、こうして提案に至った」

「おお……」

「ノスリは故郷であるイズルハを憂い、イズルハを滅ぼしかねなかった外道トキフサを討った。また、かつての八柱将ゲンホウの後継者としてイズルハの全てを纏めあげる覚悟がある。そうだな? ノスリ」

「ああ、ハクの言う通りだ。其方らは同じヤマトを──イズルハを憂い戦ってきた仲間だ。このような擦れ違いで、其方らを死兵として扱うことはこのノスリが認めない! 未だ若輩者ではあるが……イズルハのため、ヤマトのため、そして我らの掲げる真の聖上のため、皆に私を長として認め、共に戦って欲しい!」

 

 威風堂々としたノスリの言に、皆の心が決まったようだ。

 氏族長達の顔に、もはや疑念は無い。それどころか、かつてのゲンホウを越える姿をその身に実感したのだろう、皆がノスリの前に平伏すると、口々に生涯仕えるべき長として認める言葉を紡ぐ。

 

 ──終わったな。

 

 イズルハの氏族達はノスリに大きな借りを作ることになった。たとえノスリの長としての資質に疑問を持つ者がいたとしても、支えることすれ裏切ることは無いだろう。それに、ノスリを自然見ていれば、彼女の本質的な才能に気付く者も多いはずだ。

 

 後はオシュトルと口裏を合わせ、他国に喧伝するだけだ。

 盛り上がる現場にもう用は無いと一足先に部屋を出ようとすると、ノスリが呼び止めるように声をかけた。

 

「ハク!」

「ん?」

「……ありがとう、な」

 

 そういえば、ノスリは儀のため化粧をしたままだったか。だからだろう、と胸の内に灯る思いを否定する。

 そうでなければ──ノスリの笑顔を見て思わず胸を高鳴らせてしまったなんてこと、ある筈ないだろうからな。

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 ゲンホウは迷っていた。

 ハクより提案された案を実行するため、多くの氏族に声をかけ聖上の味方とすることができた。しかし、未だトキフサに大きく寄っていた氏族からの返答はない。予想としては多分、疑心暗鬼に陥ってしまっているんだろう。これを残せば火種と成り得る。秘密裏に処理するか、それとも味方に引き込むか、悩んでいたのだ。

 ハクに相談するかとも思ったが、任された以上最後までけじめはつけなければならない。オウギとノスリを呼び出し、氏族として相談することにした。

 

「まだ迷っている者がいる?」

「ああ、こう懐の広いところを見せても、疑い癖のついた奴にはいまいち信用ならねえんだろう。話が旨すぎるからな」

「であれば、これを使うのはどうですか?」

 

 オウギが、トキフサの亡骸から奪った八柱将の金印を取りだす。後ろに帝が控えているぞという証拠だ。トキフサが長でいられたのも、こいつの力あってのことだ。

 しかし、トキフサが死に、多くの氏族に認められたノスリがいる今、こいつの扱いについては意見が割れていた。

 

「金印か……確かに、家督を継いだという書状に金印を押してばらまけば、疑心暗鬼に陥っている他の氏族も、遅くとも数日のうちに集まるだろう」

「そうですね。今はイズルハを纏めることこそが急務ですから、使えるものは使うのがよろしいかと」

「いや……これは使わず、聖上にお返しする」

「あ、姉上?」

 

 金印の力についていくら話をしても、ノスリは頑なに金印を使おうとしない。

 その理由は、実にノスリらしいものであった。

 

「トキフサ……父上を陥れ人質すら取る卑劣漢。あいつがこんなモノを後生大事に抱え込んでいるのを見て思ったのだ。こんなモノに大した価値などない!」

「こんなものって……あのなあ、帝から賜った金印だぞ、一応」

「帝の金印に価値無しですか。まあ確かに、所詮は金でできている、というだけの印象に過ぎませんが」

「所詮は印章。結局、過去の権威に縋って威張っているだけではないか。金印を使えば、残りの氏族は私に従ってくれるかもしれない──つまりそれは金印の持ち主であれば誰でも構わないということだ」

「……」

「長としての資格……それは金印などではない。ハクが示してくれたような、己の覚悟──志があることだ。私の志に惹かれれば、自然と他の氏族も私を頼る……そうなりたい!」

「そうですね……それでこそ姉上です」

「……ああ、ったく、頼りになる長だぜ」

 

 そう悪態をつくも、心は変化していた。残りの氏族を纏めることは困難を伴うだろう。あれだけ嫌だった権謀術数にも身を染めるであろう。しかし、そんな困難な道に少し楽しみが混じっているのだ。

 それはハクのおかげだろうか、それとも娘が成長したことを嬉しく思うからだろうか。

 かつてイズルハ一の将とうたわれた者として、俺は日々思考の渦に身を委ねる覚悟をすることにした。

 

 そして、それはそれとして──もう一つ迷いがあった。オウギもいるが、まあいい。ついでに大事な話をすることにした。

 

「なあ、ノスリよ」

「はい? なんでしょうか、父上」

「ハク将軍のことだが……聞いている噂には賛否あったが、ありゃ名将だな」

「父上がそこまで褒めるとは珍しい。だが、それがどうかしたというのですか?」

「何、俺はあの男が気に入った。あの男の血脈が、ってことなんだがな」

「血脈……」

「ふふ……なるほど」

 

 ノスリはちんぷんかんぷんなのだろう。

 オウギは逆に、何かに思い至ったようでその笑みが面白いものを見るような目になる。ったく、こいつがノスリに色々吹き込んでくれりゃ、俺から言う必要も無いんだがな。

 

「やれやれ、お前はまだまだ初心な生娘のままだな」

「なっ!? ききき生娘!? い、いや、私はっ!」

「お前みてえな生娘でも、あの男なら優しく導いてくれるだろう。奴の血が一族に入るってんなら、面白いことになりそうだ」

 

 オウギの笑みよりも殊更深く、にやりと笑う。

 考えただけでも面白い。あれだけの度胸、知恵、武道、そして何者にも縛られぬ心、それがノスリの高潔さと合わさりゃ、いったいどんな子が生まれるというのか。

 しかし、俺とオウギの理解とは裏腹に、ノスリは未だ頭に疑問符を浮かべていた。

 

「いや、父上が何を仰りたいのかイマイチ分かりませんが……」

「はあ、相変わらず鈍いな。つまり、ハク将軍と懇ろになれってこったよ」

「ね……ねねねね懇ろっ! つ、つまり、ハクの前で裸になれと……」

「おや? ハクさんから聞きましたが、既に姉上は彼の前で何度も裸を見せているのでは?」

「お、オウギ! そ、それは今言ってはならんっ!」

 

 ほう、そうだったのか。娘も娘でやることはやっていたか。であれば杞憂だったな。このままいけば、孫の顔は心配せずとも良さそうだ。

 しかしノスリは慌てたように真っ赤な表情で手を振り始めると、大きく自爆した。

 

「ち、ちちち違いますっ! ハクとは賭け事で裸になるだけで……あっ!」

「おいおい……」

 

 まあ、オウギが隠しきれない含み笑いをしていることからも、多分ハク将軍に相手にされてないんだろうな。これは前途多難かもしれん。

 

「ち、違います、父上! 決して氏族の長として恥ずべきような行為は……!」

「ああ、ったく。オウギ、ちゃんと恥じらいは教えとけ」

「そんな、姉上に僕から教えられることなどありませんよ」

「はあ……まあいい。裸になれる度胸があるなら、後は一緒に寝るだけだ」

「ね、寝る!?」

「……言っておくが、添い寝してるだけじゃ、子どもは作れんからな」

「そっそっそっそのぐらいわかっていますっ! 男と女が二人であれしてその結果ああなってそれで……っ!?」

 

 思考が爆発したのだろう。口はぱくぱくと意味の無い言葉を発し、顔は庭に実っている果実のように赤い。

 先ほどの儀ではあれほど逞しい姿を見せたというのに、恋愛にはここまで動揺するとは。オウギと二人、ノスリの狼狽ぶりに苦笑を見せる。

 

 ──やれやれ、こいつは色々と苦労しそうだ。

 

 氏族を仲間にするよりも、ハクをどう血族に入れるか、そちらの方がかなりの難題のような気がするのであった。

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 帝都執務室にて、ライコウは伝令からの報告に冷静に対処した後、地図にあったトキフサを表した駒を手に取りさしたる同情もなく地へと抛った。

 

「トキフサは死んだか。哀れな男よ、己に将たる器も無く、それに気付くことなく大願を求めた結果がこれか」

「デコポンポ様もそうでしたが、なぜ、彼のような者が八柱将に?」

「……何、誰もが感じる事実だ。まあ、奴らも戦以外では少しは使い道もあったのでな。そういう、将として不出来な者達すらも受け入れるだけの器が、帝にはあったのだ。だからこそ──」

 

 我が大義の為、彼らのような愚物は排し、そして決着をつけねばならぬ。

 帝より重用された後継オシュトル、そして我が大義を理解しながらも帝の残した姫殿下についたハクをねじ伏せ、真の意味で帝の揺り籠から巣立つ。そのためには、どんな悪行にも手を染めよう。

 

「イズルハはどうなさいますか?」

「もはやオシュトル陣営につくことは明白だ。ゲンホウの娘を主軸とした軍隊が結成されるだろう。しかし、それで良い……古来より無能な味方は有能な敵を凌ぐとある。奴らがイズルハで時間を持て余していたおかげで、こちらも手筈が済んだ」

 

 闇夜から衛兵に連れられ一人の男が姿を現した。

 かつてこのヤマトに挑み、足を踏み入れることすらできなかった戦士であるが、今はここ帝都の奥深くに通されている。ヤマトの争乱のため利用されるとは、何とも皮肉なものだ。

 

「……俺を呼んだのは貴様か?」

「ああ、ヤムマキリ殿。お初にお目にかかるかな?」

「……そうだな。だが俺はお前を知っているぞ、ライコウ殿。元敵勢力の八柱将を知らぬわけがあるまい」

「光栄だ。さて、来てもらったのは他でもない──」

 

 ウズールッシャに燻ぶる火種。オシュトルの後背を叩くためにも、利用させてもらおう。

 

 

 




イズルハ編はここで一区切りです。
本編はイズルハ→ナコクの順番ですが、こっちはナコク編の後であるからこその違った展開になりました。力量不足でトキフサさんが超小悪党になってしまいましたが、原作を見る限り元からだったかもしれないと思いそのままにしています。ロスフラ要素はすいませんが入れられません。
賛否どちらもでも結構ですのでぜひ感想ください。

次回はウズールッシャ編に入ります。
原作であれば、四つの国を味方にしたオシュトル(ハク)は平原での決戦に臨みますが……この作品ではウズールッシャを絡めた暗躍が間に挟まれます。
お楽しみに。

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