【本編完結】影とうたわれるもの~二人の白皇再構成~   作:しとしと

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エントゥア回。
レタルモシリ編。


第十三話 暗躍するもの

 執務室で、オシュトル、オウギ、マロロ、そして自分の四人があることについて相談している。

 

「帝都から来る草の入り口を何とかせねばな」

「今のところ目星を付けた者に張り着いてはいますが、やはり商人に紛れて来るものまでは難しいですね」

 

 そう、このエンナカムイが帝都からの間者だらけということである。

 その理由としては、クジュウリの支援を受けられることとなっても、完全にクジュウリにおんぶに抱っこという訳にはいかない。であるならば、商人を招き、経済の活性化を目指すわけだが、それに紛れて草が入り込んでいる。

 しかし、ルモイの関を通して数多く来る商人ごと追い返してしまえば、経済の停滞を招いてしまう。クジュウリの支援が途切れた瞬間に、両国は干上がってしまうだろう。

 だからこそ、こちらも草と警備を増やし、警戒を強めているわけだが。

 

「ハク殿は何か考えはあるでおじゃるか?」

 

 マロロから振られて、少し考える。

 

「……手っ取り早いのは、定住住民は選ぶことと、外来商人区を作り、他国からの商人はそこから出られないようにするとかか。そうすれば、商人として紛れ込んでも、機密を自分で探りには来れないだろう」

 

 危険を冒して捕まる前に、まずは商人区で情報を集めようとするはずだ。

 

「そして、囮がいるかもな」

「囮、ですか?」

「草を引きつけられるような囮の情報をこちらから流すんだ」

「ふむ、なるほど」

 

 入り口が無理なら、出口を固めればいい。

 草が欲しい情報を手に入れようとする場所や、刺客が狙うであろう人物の情報をあえてこちらから流す。

 それに引っかかった草を刈り取っていくという寸法だ。

 

「ハクの案を採用する。まずは商人区を作り、その区の中で偽情報を流すこととしよう」

「流す情報はいかがなさいますか?」

「デコポンポの居場所とかかな。使者に対する反応からして、ライコウは交渉したくないんだろうから、暗殺しにくる可能性も否めない」

「そして、このオシュトルの場所、聖上の居場所だな」

「それは危険が過ぎるのでは?」

「いや、大事なものほど、逆に沢山の情報を流すことで、攪乱したほうがいいと思うでおじゃる。草にとって一番嫌なのは、情報の精査でおじゃる」

 

 オウギは得心がいったというように、頷く。

 

「まあ、そうですね。情報が少なければ行動に移せますが、多ければ多いほど精査に時間を取られますから」

「決まりだ。流す情報の内容については、ハクに考えてもらう」

「また自分か?」

「ふむ、草を刈り取る役を任せてもよいが……」

「わ、わかったよ。でも書簡で書いてばらまくなら、字は自分じゃないほうがいいぞ。自分の字は癖が強いから偽情報の判断になっちまう」

「ふむ、であれば、マロロと共に書いてもらうとしよう」

「ハ、ハク殿と一緒にお仕事ができるでおじゃるか!?」

「……そんなに喜ぶことか?」

「感無量でおじゃる! 帝都では近くにいながらも同じ仕事はできなかったでおじゃるから……」

 

 ぐいぐい引っ付こうとするマロロから離れ、そこでお開きとした。

 

 ライコウとの情報戦は序章、これから暗躍する者の全盛期となっていくのだろう。

 これからの仕事量に、ため息をついたのだった。

 

 しかし、情報を流し始めて数日。

 オウギから新たな問題が浮上したことを伝えられた。

 

「変な奴がいる?」

「ええ、明らかに」

 

 何でもウズールッシャの服装や言葉遣いをした者達が、何かを聞き回っているそうだ。

 考えられるのは、ウズールッシャに扮して罪をなすりつけるためか、それともヤマトによる征伐の報復か。グンドゥルア追討の際に、オシュトルが打ち取ったエントゥアの父ゼグニは慕われていたようだから、矛先をこちらに向けた可能性もある。

 

「何を聞いているんだ」

「ヤクトワルトを知っているか、と」

「……あいつの故郷だったな、そういえば。ヤクトワルトを呼んでくれ」

「お任せください」

「そうだ。あと、エントゥアを呼んでくれ」

「エントゥアさんですか? ああ、彼女もそういえばそうでしたね」

 

 エントゥアはウズールッシャ出身だ。何か有益な話が聞けるかもしれない。

 そして暫くして、オウギに連れられてヤクトワルトとエントゥアが自室に顔を出す。

 

「来たぜ、旦那」

「どうも、ハク様」

「ああ、ヤクトワルト、エントゥア。二人ともオウギから話は聞いているか?」

「道中に少しは聞いたじゃない。何でも俺を嗅ぎまわってる連中がいるとか」

「はい、それでウズールッシャ出身の私を呼んだとか」

「ああ、その話だ。オシュトルに話を通すべき案件かは自分の裁量の内だから、ここで止めることだってできるが、どうだ? 心当たりがあるなら話してくれるか」

「ん……ま、旦那になら恩もあるし話しても構わねえと思ってるじゃない。だが、俺に恨み言呟く連中なら山ほど心当たりがあるからねえ。どこのどいつか見せてくれなきゃ、何を話せばいいかすらわからないじゃない」

「そりゃそうか。オウギ、どういう特徴だった?」

「そうですね……」

 

 オウギは少し思案すると、草の特徴を挙げ始める。

 その特徴を聞くたび、ヤクトワルトの目が険しくなっていった。

 

「それなら……もし俺の心当たりが的中しているなら、シノノンも危険に晒しちまうかもしれないじゃない」

「そうか、なら早々に手を打たにゃならんな」

 

 それまでぐっと何かを堪えて黙っているエントゥアにも、話を聞いてみる。

 

「エントゥアは何か心当たりはあるか?」

 

 その時だった。

 キウルがシノノンを連れ、青ざめた表情で部屋に飛び込んできた。

 

「ヤクトワルトさんはいますか!?」

「おう、ここじゃない」

「ウズールッシャの何者かが、私に文を……」

 

 すると、キウルは荒れた呼吸を整えながらも、先程シノノンと自分に対して接触してきた草の話をした。

 何でも、文を取り次いでくれなければ、無辜の民を殺すと宣ったらしい。キウルはそれでも断ろうかどうか迷ったようだが、シノノンがキウルを止めたそうだ。シノノンがいる前で事を荒立てる訳にはいかなかったから、それが正しい。あの幼さでその判断ができるのは、将来有望というべきか。

 

「その男、オウギから聞いた風貌としては一致しているが……」

「一体、何者でしょう?」

「その文は?」

「こ、これです……」

 

 おずおずと、固く結ばれた文を、ヤクトワルトに手渡す。

 

「何て書いてあるヤクトワルト」

「……大丈夫だぜ旦那。遠い親戚だ」

「駄目だ。見せろ」

「旦那……」

 

 何でもないと笑うヤクトワルトに何か嫌なものを感じて、そのまま行かせるわけにはいかないと思った。

 

「悪いが、見せないならオシュトルに話を通して、お前の見張りを強化する。内々に解決したいなら、今見せるほうがいいぞ」

「……わかったぜ。ったく、旦那は相変わらずお節介じゃない」

 

 嘆息しながら渡された文。そこには、こう書かれていた。

 

 ――レタルモシリのヤムマキリ、エンナカムイ外れにある西の森で夜半待つ。我が弟ヤクトワルトよ、一人で来い。

 

「これは……」

「罠なのは、わかってるじゃない。だが、ケジメは……俺自身がつけたかった」

「……レタルモシリ、ウズールッシャによって併合された一部族ですね」

「――俺の故郷だ」

 

 エントゥアの解説の後続いたヤクトワルトの言葉に、皆が沈痛な表情となる。

 ヤクトワルトは、何のことはないと笑い飛ばした。

 

「ま、もう国は捨てて久しいから気にしないで欲しいじゃない。それに、どうせ俺を思ってきてくれた訳じゃない筈だぜ」

「そうか。どちらにしても、オシュトルに話を通したほうが……」

「オシュトルの旦那は忙しいようだから、あんまり迷惑かけたくないじゃない」

 

 まあ、今クジュウリ軍の編入でえらいことになってるからな。

 軍備管理も大変だ。まあ、本来自分の仕事だったところもあって、自分としてもオシュトルに申し訳ないんだが。

 

「そうか……なら、今いるこの人数で対処できそうか?」

「ま、旦那に、オウギ、キウルがいてくれるなら、楽勝じゃない。だが、エントゥアの嬢ちゃんは、控えてほしいじゃない」

「な、何故ですか? 私も戦えます!」

「エントゥア、わざわざ呼び出してすまないが、ヤクトワルトの条件だ。後で役割を言うから、それで我慢してくれ」

「……はい」

「よし、なら今夜決行する。自分たちは近くで隠れておくことにしよう。必要になったら呼んでくれ」

「応さ」

 

 オウギにそれとなく草を動かして貰いながら、日中に隠れられる場所を探して貰うことにする。

 

 そして、当日夜半。

 

「集まったな」

「ちょっと待つじゃない。旦那」

 

 自分、ヤクトワルト、オウギ、キウルの四人が集まった中、ヤクトワルトが茂みに何かしらの気配を感じたのだろう。刀を構えた。

 

「……そこの奴、出てきな」

「……」

 

 暫くして、逃げられないと諦めたのだろう。がさがさと物音がして、見知った女性が出てくる。

 その正体に、自分以外が大きな疑問符を頭に浮かべた。

 

「……旦那、なぜエントゥアがいるのか、教えてほしいじゃない」

「いや、あの後どうしてもって着いてきたがったから……もっと後ろからついてくるなら構わんって言った。もしかすれば、オシュトルを呼びに行く役が必要になるかもしれないからな」

「……旦那」

 

 ヤクトワルトは警戒をすっと解き、溜息をつきながらエントゥアを眺めた。

 エントゥアは強い眼差しをヤクトワルトに返す。

 

「邪魔はしません」

「もう邪魔だ」

「……私も、シノノンを護りたいのです」

「む……」

「駄目……ですか?」

「……シノノンはあんたに懐いてるからな。ただ、気づかれるのは困るじゃない」

「任せてください。ヤマトの追っ手から隠れ通したこともあります」

「……」

 

 ――いや、自分とヤクトワルトが、岩戸の隠れ場所にいるエントゥアを見つけてなかったっけ。

 

 そのことに一々突っ込みはしなかったが、後にエントゥアが二人の表情を見て気づいたのだろう。あっ、と小さい声とともに、頬を染めた。

 

「ま、いいじゃない。今度は見つからないように頼むぜ。旦那も正直簡単に見つかりそうだし、エントゥアのこと言えないじゃない」

「そうですね。僕たちがしっかりしませんと」

「了解です。ヤクトワルトさん」

「……」

 

 ま、確かにチイちゃんとのかくれんぼでは勝てた試しがないが、自分としても隠密業は長いんだから、もっと信用してくれてもいいだろうに。

 

 光が届きにくい森に入る前に、ヤクトワルトが振り返る。

 

「よし、この辺りからは一人で行く。音が聞こえなくなったら、旦那は俺の後を追ってほしいじゃない」

「任せろ」

「そっちは音を立てないように……任せたぜ、旦那」

 

 そう言った後、がさがさと、獣道を進んでいくヤクトワルト。

 暫くすれば、開けた場所に出る筈だ。

 

「エントゥアは、打ち合わせ通りに」

「はい、お任せください」

 

 男三人が先に入り、エントゥアがさらに後ろをついてくる。

 暫くして開けたところに入ると、ヤクトワルトとヤムマキリであろう男が二人して対峙していた。

 

「なんか、緊迫してないか?」

「それに……伏兵がいますね」

「ええ、二……四でしょうか」

「……なんでそんな感じられるんだよ」

「まあ、その数は少ないようですから」

「ですね。気配を探られてしまう時点で、大した者ではないはずです」

 

 なんでこっちを向いて言う。自分のことを言ってるのか?

 とりあえず、伏兵の存在に気付きながらも、二人の会話を聞き取れる位置まで移動する。ところどころ聞こえないが、これ以上は近づけないだろう。

 

「俺が兄者と呼ぶのは、長兄ムカルただ一人。ヤムマキリ、あんたを兄と呼ぶつもりはない」

 

 オウギによると、ヤクトワルトには兄のように慕っていた者が二人いたという。

 あのヤムマキリが、ヤクトワルトの二番目の兄。しかし家族話をするには、そこに流れる空気は変わらず緊迫したものだった。

 

「なぜ俺を呼び出した?」

「愚問だ。全ては我が祖国レタルモシリのためよ」

「そう言って、あんたは族長だった兄者から家臣団を離反させ、全ての実権を奪い殺したじゃない」

「……俺が直接手を下したわけではないのだがな」

「同じことだ。面目を保つためには死を選ぶしかないじゃない……シノノンも、あんたのせいで兄者が……父親が死んで、一人ぼっちになった。俺は祖国に愛想をつかして、シノノンを連れて出たんじゃない」

 

 何、ということは、シノノンはヤクトワルトの実娘ではなく、その長兄の娘だった、ということか。

 

「ふん、大局を見極められぬ者が悪いのだ。兄者に反してウズールッシャに恭順しなければ、我が祖国は滅んでいた。俺が救ったのだ」

「シノノンをさらい、俺をウズールッシャに売った。あんたはただの卑怯者じゃない」

「何のことか……俺は初耳だがな」

「抜かせ。そのウズールッシャも滅んだ。あんたのやったことは何の意味もない」

「……まあ、落ち延びたグンドゥルアは、屈辱と怒りのあまり憤死したと聞いた。もしかすれば、ヤマトの手の物にやられた可能性も否めぬが……馬鹿な男よ。ヤマトに牙を剥くとは」

 

 グンドゥルアが、死んだだって?

 背後から息を呑む気配がした。エントゥアの動揺は、当然のことだろう。亡き父が、命をもって逃がしたというのに。その意味が、薄れたのだから。

 

「だが、もはや他人事ではない。ウズールッシャが滅び、再び国の箍が外れた。ウズールッシャの後ろ盾に頼り国をまとめてきたのだからな。地方の豪族共は、我が地位を、族長の地位を耽々と狙っている。勿論、そのような輩は我が精兵で対処できる。俺の唯一の懸念は……お前たちの存在だ」

「なに?」

「ウズールッシャの属国となることを良しとせず、国を出たお前たちは我が国にとって独立の証。つまり、お前達を引きこんだ勢力が最も支持を集めることになる。だからこそ――」

 

 話が読めてきたぞ。

 つまり、長兄ムカルの娘であるシノノンを――

 

「先代族長の娘シノノンを、正統な後継者として立てようとは思わぬか。娘の後見にお前も来れば、祖国の安寧は確実なものとなる。こうなれば、邪魔な俺はすぐにでも隠居することとしよう」

「どこまでも身勝手な……兄を殺し、今度はその娘すら影で操ろうってのかい」

「お前がうまくやるなら、口も手も出さぬ。兵もただで貸してやる……信じられぬか?」

「わかってるさ……今は嘘じゃないんだろうってな。だが、状況は変わればあんたは平然と裏切る。そう言うやつには、ついていけないじゃない。ましてや、シノノンを巻き込むなんてもっての他」

「……そう答えると思ったわ。致し方あるまい……味方にならぬなら、他の豪族に利用されぬよう殺すしかない」

「相変わらずだねぇ。こんなことだろうと思ってたじゃない」

 

 ヤムマキリの背後から、武装した複数人の兵士が現れる。

 キウルの言う伏兵の数よりは多かったが、数えて六人。これならまだ勝てるか。

 

「ふん、そちらも備えをしてきたのだろう」

「勿論じゃない。あんたと違って、俺の仲間は信用できるからな。旦那! もう出てきてもいいじゃない」

 

 身を隠すことをやめ、自分を含めた三人はすぐさまヤクトワルトの元へと急ぐ。

 

「聞いていたかい、旦那?」

「ああ、シノノンを辛い目に遭わすわけにはいかないからな」

「シノノンちゃんには手を出させません!」

「非道を見逃すわけには参りませんからね」

「……すまねえ、結局こうなっちまったじゃない」

「ま、首を突っ込んだこっちもお互いさまだが……悪いと思ってるなら、ヤクトワルトの奢りで酒盛りといこうぜ」

「ふっ……それじゃあ、ちゃっちゃと片付けて、晩酌といくじゃない!」

 

 ヤクトワルトは、ヤムマキリの相手を。

 オウギとキウルはそれぞれ二人を相手にしている。自分も二人相手にしなければならないのかと思えば、ヤクトワルトが背中を預けてきた。

 

「旦那は俺と一緒じゃない」

「……助かる。いくぞ!」

「応さ!」

 

 ヤクトワルトは眼前の敵に切りかかると同時に、自分もヤクトワルトの背後を取ろうとするものと接敵する。

 

「お前の相手は自分だ!」

「――ぶゥッ!」

 

 ――毒霧か!?

 

 顔を鉄扇で隠し、息を止める。

 そして、すぐさま鉄扇で霧を吹き飛ばした。

 

 目の前には既に敵の姿はない。

 しかし、視界の端にゆらめく武器の影。

 

「おっと!!」

「チィ……ッ」

 

 聞こえる舌打ち。

 間一髪で剣を鉄扇で防げたようだ。

 鍔迫り合いが続くかに見えたが、相手の力は弱い。これなら押し勝てる。

 

「りゃぁッ!」

「ぐッ!?」

 

 剣を弾き飛ばし、そのまま空いたどてっ腹に膝蹴りを打ち込む。敵の体勢を崩せればいいという程度の威力だった筈だが、敵の体が面白いように吹っ飛んだ。悲鳴もなく、敵は地に臥して起き上がることもなかった。

 

「おお旦那、やるじゃない!」

「病み上がりとは思えません、ね!」

「あ、ああ……」

 

 シスと手合せした時にも感じた違和感が、自分の中で大きくなっている。

 

 ――なぜ非力なはずの自分にこんな力が。

 

 ぎしり、と顔に食い込んだ仮面が主張し、ウルゥルサラァナの言葉がよみがえる。

 そういえば、元々は、大いなる父用に開発されたものだ。身体能力のブーストも考えられない話ではない。実際、今の力は明らかに自分のものだけではないのだから。

 

「ハクさん!」

「っ……!?」

 

 そうだ、戦闘中だった。

 自分の背後から近づいてきていた敵にキウルの矢が放たれ、不意を打たれることはなかったが、気づくのがあと少し遅かったら危うかった。

 

「すまん、キウル、助かった!」

「……それはどうかな?」

「う……ッ、ヤムマキリ、か」

 

 首筋にあたる冷たい感触。安心した瞬間を狙われたか。

 

 周囲を見れば、オウギは既に二人敵を切り伏せており、キウルもまたオウギとの連携で二人射抜いている。ヤクトワルトは、ヤムマキリの執拗な追撃があったが一人切り伏せ、自分は一人倒した。

 ヤムマキリの部下六人全員を討ち果たしていたが、ヤムマキリだけは実力不足を悟り、人質をとるチャンスをずっと窺っていたのだろう。

 

「ヤクトワルト……お前は、こんな簡単に懐に潜り込まれるような弱い男の下についているのか」

「弱い? あんたのほうが弱いじゃない。そうやって人質に取ってから吠えること自体が、弱さの証明だ」

「ふん、何とでも言え。これで形勢逆転だ」

「ヤムマキリ……悪いが、自分の弱さを知っているお前が保険をかけるように、自分も弱いなりに保険をかけているんでな」

「何……?」

 

 ヤムマキリの疑いの眼差しが驚愕に見開かれる。

 ヤムマキリの人質をとったと油断したその瞬間を狙ったのだろう。エントゥアが短刀をヤムマキリの首元に当てていた。

 

「そっちの伏兵に対して、こっちの伏兵は二段構えだったってわけだ」

「なるほど、前にいる貴様らが必要以上に気を放っていたのは、女の気を隠すためか……してやられたわ」

「エントゥア、助かった」

 

 エントゥアという名前を聞き、更なる驚愕の表情を浮かべるヤムマキリ。

 

「な、に……エントゥア、だと」

「お久しぶりですね。ヤムマキリ殿」

 

 顔見知りだったのか。

 

「貴様……ゼグニの娘だな?」

「はい」

「……ふん、なるほどな。しかし解せぬ。なぜお前がここに?」

「……」

「ゼグニは良き漢だった。グンドゥルアなどの下に着くのが勿体無い程のな。しかし、そのゼグニはオシュトルに討たれたと聞く。なぜ、そのオシュトルの元にいる」

「……私は、オシュトル様の元にいるわけではありません。ホノカさまより拾って頂いた命、そして父と彼らに救って頂いた命を使うために、ここにいるのです」

 

 ヤムマキリは、そうかと興味なさげに呟くと、自分の首元から刀を引いた。

 

「武器を捨てなさい」

「……」

 

 武器を落としたのを見てからエントゥアは刀を引き、ヤクトワルトがすぐさまヤムマキリの身柄を抑える。地に押さえつけられたヤムマキリは、苦しそうに呻いた。

 

「さ、約束してもらおうか。ここで見逃す代わりに、ヤクトワルトとシノノンに二度と近づくな。他の豪族とやらにも、近づかせるな」

「……無理な相談だな」

「そうか、どうすれば無理じゃなくなる?」

「……ふん……先代族長の娘シノノンに、ウズールッシャ腹心千人長ゼグニの娘。狙われぬ方が可笑しい勢力だ。たとえ俺が豪族共を抑えたとてこの国を狙う者は多かろう」

「……」

「シノノンの身柄。そしてウズールッシャからの解放の印としてエントゥアの首があれば、瞬く間に族長の座に座れるだろう。であれば、存在するという情報を持ち帰っただけでも功績を認められるだろうな」

「……なら、殺すだけじゃない」

 

 持ち帰られて困る情報なら、それを手に入れたヤムマキリはここで殺すしかない。

 ヤクトワルトの思考は納得できるものだが、簡単に判断していいものではない。なぜなら、シノノンが危険に晒され続けるからだ。

 

「待て、ヤクトワルト」

「しかし、旦那……」

「待てと言ったぞ。ヤムマキリ、お前としてもここで死ぬのはレタルモシリのためにならんだろう。お互いにいい方法を考えないか」

「……ふん、俺に何の約束をさせる気だ」

 

 そう言われ、考える。

 とにかく、シノノンに危害が及ばないようにしなければならない。

 

「……逆に問いたい。お前はどこまでなら約束できる?」

「ヤクトワルトとシノノンに関しては、約束しても構わん。レタルモシリの戦乱が納まるまでは豪族共を抑えてやろう。だが、その女については約束できぬな。ウズールッシャに怨恨を抱える者は多い。元腹心の娘がいるとなれば、先走る者は必ず出てくる」

「……」

「だからこそ、約束をするのならば、エントゥアの首を寄越せ。エントゥアの首があれば反ウズールッシャを叫ぶ連中を味方に、レタルモシリ平定も早まるだろう」

「何だと……?」

 

 エントゥアが息を呑む。

 到底了承できない条件を提示するヤムマキリに、ヤクトワルトが激昂する。

 

「どこまで汚く生きれば気が済むじゃない……!」

「しかし、その女が生きている限りシノノンが安全になることはない。そ奴への怨恨を理由に襲われて、俺が約束を守れぬと勘違いされても困るのでな」

 

 シノノンの安全を考えれば、エントゥアが邪魔になる。エントゥアも、シノノンが大事なのだろう。だからこそ、エントゥアも青ざめた表情をしながら口を引き結んで聞いている。それに、納得してしまっている。

 判決を下すのは、自分か。

 

「悪いが、エントゥアを手放すわけにはいかんな」

「そうだ、ヤムマキリ。あんたと同じことをするつもりはないじゃない」

 

 ホノカさんを思い出す。

 エントゥアがいなければ、オシュトルを救うことはできなかった。ウズールッシャでの時のことについて、エントゥアが恩を感じているかは知らないが、こっちもオシュトルについての恩がある。

 

「ふん、だがその女はそうは思っておらぬようだぞ」

「……私が死ねば、シノノンは安全になるのですか?」

 

 震える唇で、そう告げるエントゥア。

 だめだ、動揺してしまっている。

 

「違う。惑わしているだけだ。ヤムマキリの頭の中にはレタルモシリしかない。そのためにはどんなものでも利用しようとしている。エントゥア、お前の命をもだ」

「しかし……シノノンについては、それが正しいとも思っているのでしょう?」

「な……」

 

 少し動揺した自分を見てエントゥアは諦観の表情を浮かべると、自らの首元に刀を押しあてた。

 

「――やめろッ!」

 

 咄嗟にエントゥアの刀を素手で握り、強引に奪い取る。

 刃を掴んだ自分の手から鮮血が溢れ出て、エントゥアが青ざめた。

 

「は、ハク様……!?」

「エントゥア、お前は、父に何て言われたんだ? 自分に聞かせてくれた、あの最後の言葉を思い出せ。奴の戯言は関係ない」

「そ、それは……女としての幸せを掴めと」

「はっ、貴様がゼグニの娘である時点で、それは敵わぬ――」

「黙っとけ」

 

 ヤムマキリを黙らせ、エントゥアに向き直る。

 

「自分が言うことじゃないかもしれんが、あんたは恩人なんだ。親友と、大切な姪みたいな存在を救いだすにはあんたがいたからできたことだ」

「……」

「それに、シノノンが必要とする存在にはエントゥアも入ってるんだぞ。なあ、ヤクトワルト」

「ああ、旦那の言葉に嘘はないじゃない」

「そうです。シノノンちゃんも、エントゥアさんと遊ぶのを楽しみにしていました!」

「目の前で仲間に死なれるほど後味の悪いものはありませんからね」

「しかし、私がいれば火種に……」

 

 まだ言うか。

 まあ、思い詰めてもしょうがないことが多すぎたからな。特に、グンドゥルアの犬死はゼグニの死様があるだけにやるせないものがあったんだろう。そこに、大事にしているシノノンを護るために不必要な存在だと言われれば、心も乱れて当然か。

 

「エンナカムイに来たばかりの頃、あんたは自分に言ったよな。父が死を賭して守ってくれた命を、軽々しく捨てるつもりはありません、って」

 

 懐かしい話だ。

 オシュトルが未だ昏睡状態であり、自分が影武者をしていた頃。

 ネコネがエントゥアに看病を完全に任せられるようになるまで、随分時間がかかった。しかし、エントゥアは信頼を勝ち取ってきたのだ。仲間としての、信頼を。

 

「だから、簡単に捨てないでくれ。もうあんたは部外者じゃない。オシュトルの元に集う仲間なんだ」

「生きていても……良いのですか?」

「応さ。シノノンの姉代わりになってくれると嬉しいじゃない」

 

 口々に肯定の言葉をエントゥアに返すと、エントゥアはほろほろと涙を流した。

 そして、ヤムマキリに向き直ると、強く言い放つ。

 

「ヤムマキリ殿、お約束していただきたいことがあります」

「何だ」

「私の首は渡せません」

「そうか。だが、貴様がここにいるとわかってしまえば、我らでなくとも貴様をつけ狙うものが現れよう。その点はどうする」

「構いません。シノノンに危害が及ぶくらいなら、私が受ける方がマシです。だから、こう伝えなさい。先代族長の娘シノノンとヤクトワルト、そして――」

 

 エントゥアは、自分の血に塗れた刀を拾うと、自らの髪を少しばかり切り裂いた。

 

「――この血と髪を以って、エントゥアはヤムマキリが殺したという証明にしなさい。必要ならば、ヤクトワルト様の髪は今渡します。シノノンの髪も後で届けさせましょう」

「ほォ……なるほど。諸侯が納得するかはわからぬが、考えぬ手でなかったわけではない……いいだろう。しかし、約束の条件を満たしていないのだ。俺の言葉を信じぬ者に関しては知らぬぞ」

「その時は、戦います。私の恩人をこれ以上傷つけるおつもりなら、容赦致しません。私は……私たちはここで生きていきます」

 

 その言葉に、もう迷いは見られなかった。

 レタルモシリ対策は多分自分の仕事になるんだろうなあ、と少し憂鬱になるが、必要なことだと覚悟を改めた。ここまで来たら、皆で大事なものを護るしかないのだ。

 

「は……女が吠えよるわ。その覚悟がどれほど続くか、見ものだな。ヤクトワルト、貴様に決闘を申し込もうと思っていたが、興が冷めたわ。併合の際に世話になったゼグニには恩もある。その娘に免じて、ここは引く」

「約束は守ってくれるんだろうな」

 

 ヤクトワルトはヤムマキリに問い掛けながら、自らの髪を一房切ったのち、自分の手から流れ出る血を染み込ませたものをヤムマキリに手渡した。

 

「レタルモシリの争乱が納まるまでは守ってやる」

「その言葉、長兄ムカルに誓えるか」

「誓いなど何の意味もないが、誓ってほしいならば誓おう」

「ああ、それでいいじゃない」

「……ヤクトワルトよ。レタルモシリ平定の暁には貴様らの判断が間違っていたことを確かめに来よう。その時まで……俺のように醜く生き延びるがいい」

 

 呪いを吐きながら、ヤムマキリは倒れた仲間たちを起こすと森の中へと消えていった。

 

「ああ……今度来たときは、遠慮なくぶった切ってやろうじゃない」

「さ、帰るか。これからはレタルモシリ対策も必要になってくるしな」

「あの……」

 

 自分で血の滴る手に包帯を巻きながら帰ろうとした時、ふと服に違和感を感じた。

 振り返ると、自分の袖をつまむエントゥアの姿があった。心なしか、頬が赤い。

 

「あの……止めてくださってありがとうございます」

「いや、まあ、気にしないでくれ」

「……はい。そして、ヤクトワルト様、ありがとうございます」

「いや、シノノンはあんたに懐いてるから、いなくなると悲しむじゃない」

「それでも、お二人に感謝をしなくてはなりません。本当なら、追い出した方がいいはずなのに……グンドゥルアが死んだと聞き、父の死の意味が揺らいでしまった。だから、私自身の命を何らかの形で活かさねばならないと思ってしまいました。しかし、父の死に意味があったと叫ぶために、私は私自身の人生を生きねばならなかったのですね」

 

 自分の袖を掴んだまま、項垂れるエントゥア。その目の端には、少しばかりの涙が浮かんでいた。

 

 重苦しい雰囲気が漂う中、周囲がなんかやたらとぱちぱち目配せしてきたり、顎をエントゥアに向かってくいくい動かしている。

 

 ――なんか言えってか?

 

 自分が泣かせたわけじゃないのに、自分が悪いみたいな雰囲気になったので、考えて言葉を探す。

 

「あ~、エントゥア? 女としての幸せを掴めって、言われたんだろ? ここにいるのは、過去に縛られたエントゥアじゃないし、自分たちもそうは思ってない。だから、今ここにいるのは、ただの女としてのエントゥアだ。だから、もっと好きに生きたらどうだ」

「好きに、生きる……そう、ですね。あなたがそうした方が良いと言うのなら……」

 

 再び顔を上げたエントゥアの瞳には、もう涙の痕はなかった。

 

「帰ったら私が治療します。ハク様」

「あ? ああ」

 

 優し気な笑みを見せてくれているが、握る力は強いまま。それどころかいつの間にか袖から腕にランクアップしていた。

 そんなに治療したいのかと考えたが、エントゥアの先走り行為で傷がついたわけだから、罪悪感を持って然るべきなのかもしれない。だが、気にしないでくれと言っても決して離さない。

 

 ――もしかして、このままずっと腕組みのような状態でいろと?

 

 困ったように振り返ると、オウギはやれやれまたですかといった表情。ヤクトワルトはにやにやと揶揄う表情。キウルは良かったですね~と安堵の表情を浮かべており、キウルの反応だけが、救いだった。

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 深夜、物音がするので起き上がってみると、双子が一人の草を気絶させていたところだった。

 

「主様」

「殺しておりません。気絶させただけです」

「わかってる。警邏の者を呼ぶ」

 

 また部屋を変えなきゃいけないかもしれない。

 ここにはウルゥルサラァナという別次元に身を隠せる存在がいるので、他の部屋よりは警備の数が少ない。だとしても十分な警備を置いていたはず。しかし、こう何度も襲撃されているとなると、明日にも警備体制を見直した方がいいな。

 

 今のところ、自分に対しての襲撃のみだが、今日で三回目である。しかも、優秀な草なようで、絶対に口を割らないものばかりだ。しかし、なぜオシュトルや皇女さんの部屋ではなく、自分なのだろうか。

 殆どの草はここに辿り着くどころか、城の中にすら入られずに刈り取られるのが普通だ。多くの草は連携しているから、芋づる式に捕まることも多い。しかし、この草は連携もなく完全な独自行動をとっているように思えてならない。

 今日捕えたこいつも、きっと何も言わずに獄中死するだろう。拷問などはしていないのに、いつの間にか死んでいるのだ。まるで、何かの操り人形が糸を切られて事切れるように。何か末恐ろしいものを感じざるを得ない。

 

 警邏の者に声をかけ、草と見られる者を牢屋へ連れていくよう言う。

 部屋の中に再び静寂が訪れると、双子がすっと寄り添ってきた。

 

「ご褒美」

「労ってください。私たちは主様の体を欲しています」

「……刺客より危険を感じるのは気のせいか?」

「気のせい」

「主様の肉欲を発散できれば、ぐっすり眠れます。お互いに利点があると思いませんか?」

「大丈夫だ。直ぐ眠れるのが特技だから」

 

 そう言って、再び寝所に潜り込む。

 二人ももぞもぞと寝床に入ってきた。

 

「……また腕枕か?」

「はい、せめて主様の体温を感じさせてください」

「労いの言葉と行動」

「……わかった。ありがとう、助かったよ。ほら」

 

 そう言い、ごろんと仰向けになって腕を広げると、そそくさと双子は腕に頭を乗せた。

 これがいつものことになっているから怖いものだ。最近、シスにこの場面を見られて、やっぱり肉奴隷じゃないかと酷く怒られた。ルルティエも少しどころか氷のように冷たい目で、信じてたのにと呟き始める始末。

 本当はやめてほしいのだが、約束は約束だ。しょうがない、うん。

 

「至福」

「主様が墜ちるまであと一歩のところなのですが、今はこれで我慢しますね」

「いや、全然あと一歩とかじゃないから」

 

 眠いからか少し当たりが強いが、感謝はしているんだ。

 双子は自分の耳に吐息があたる寸前まで接近して、目を閉じた。

 

 暗躍する者は、これから更に増えていく。

 オシュトルが光なら、自分は影。影同士の食い合いは自分の担当だ。

 ヤクトワルトとエントゥアの件みたいに、表舞台に出ない苦労がこれから増えると思うと嫌になるが、表舞台で活躍してしまうことのほうが嫌だと気づいて、少し楽になる。

 

 そういえば、最近シスが自分の身の回りのことについてあれこれ言ってくる。

 口癖は、ルルティエに嫌われてもいいの、だ。ルルティエに嫌われるのは勘弁だということでシスのいうことを聞いてはいるが、シスの目的がよくわからない。オシュトルが言うには、自分を表舞台に出したいと思っているのでは、と言われた。なぜそんなお節介をするんだろうか。目立ちたくないさぼりたい。

 

 そうして思考の波に溺れていたのだが、ふと違和感に気付いた。

 

「……お前達、寝ないのか?」

「心配?」

「お気遣いなさらずとも大丈夫です、主様。主様の御顔を見ているだけです」

 

 実は眠っているように見えて、何だかんだ警戒してくれていたのか。

 明日も仕事は沢山ある。二人には昼間寝かせてやろうと、とりあえず自分は思考を中断し、さっさと眠りに落ちていくのだった。

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 暗い地下の簡素な牢獄、そこでは二人の男が複数の看守に見張られている。

 敵の草を収容する施設とは別に、秘密裏に作らせた牢屋だ。

 

「お……調子はどうだい。ハクの旦那」

「ま、ようやく歩けるようになったところだ」

 

 看守は信頼できるものとして、ウコン時代の部下達だ。

 挨拶を返し、鉄格子の中へと足を踏み入れる。

 

「……貴様にゃもか」

「オシュトルはどうしたのでありますか」

「オシュトルは忙しいから来ない」

 

 暫く会わないうちに、片方は変わらず仏頂面で、もう片方は面影があるも随分やせ細っている。しかしどちらも健康状態は前よりよさそうだ。

 

「しかし、随分痩せたなデコポンポ。やっぱりここの食事がいいみたいだな」

「……交渉の件はどうなったのにゃも」

「向こうは沈黙だ。使者を何度も送ってはいるが、その度に門前払いだとか。交渉の席につく気はないらしい」

 

 だとしても、交渉の可能性がある限り、刺客に襲われたり獄中死する可能性を減らすために監視の目は厳しいままだが。

 

「……」

「あんたの軍も接収された。つまり、見捨てられたわけだな」

「ライコウめ……許さんにゃも」

「……帰る方法があるっつったら、どうする?」

「どういうことにゃも」

「自分たちに協力してくれれば、大手を振って帝都に帰れるぞ」

「……協力するにゃも。こんな惨めな場所で終えるなど我慢ならんにゃも」

「デコポンポ様……」

「ボコイナンテもいいんだな?」

「う、うむ……」

 

 牢獄生活で随分参ってるみたいだな。

 さて、だとしても同意は得た。

 あとは、このポンコツをどう生かすかだな。ライコウが手放したくなる理由もわかる。ライコウにとっては、思わぬ動きをする奴は邪魔以外の何物でもないだろうから。

 

「だが、思わぬ動きをするからこそ、裏をかけると言うものだ」

 

 何としても、マロロの家族を取り戻す。

 来月下旬の交渉実現に向け、準備を進めるのだった。

 

 

 




シス回に引き続き、大分難産した回ですね。
原作に余り出てないキャラは、キャラが掴みにくくて困ります。どうしてもイメージで書いちゃうので。

まあでも、巷では関わった男が死ぬなんてひどいことを言われる薄幸エントゥアさんの魅力が出ていれば幸いです。

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