【本編完結】影とうたわれるもの~二人の白皇再構成~ 作:しとしと
何故かそうしなければならないと感じた。
ヴライに嬲られるオシュトルを見ていられなかったのだろう。ネコネは耐えきれず飛び出してしまう。
それを止めるのではなく、オシュトル達がこちらに注意を向くようにするべきだと考えた。
「ヴライ!!」
「!?」
自分の発した大声によってヴライの注意がこちらに向く。
ほぼ同時に、ネコネによって形成された巨大な火の玉がヴライへと放たれるも、ヴライは炎弾をハエでも追い払うかの如く消し飛ばした。
「邪魔ヲスルカ、小娘ェ!」
激昂するヴライ。
怒りに呼応するかのように火の粉を散らし、その注意をネコネへと向けたときだった。
「オ主ガ余所見ヲスルトハナ……ヴライ!」
「ナニ……ッ!?」
オシュトルの渾身の一撃がヴライの腹部を貫き、尚漏れた威力が青い光線を走らせ空を抉る。
「ガッ……!!」
「オ主ノ、負ケダ……ヴライ……! 我ガ妹ヲ……小娘ト蔑ミ、顧ミナカッタ……ソレガ、オ主ノ敗因ダ!」
ヴライは自分が何をされたのか分からなかったのだろう。
空洞化した腹部を隠すように手で抑え、自らの命が風前の灯であることを遅ればせながら理解する。
しかし死なば諸共、ヴライは瀕死を感じさせない動作でその手を大きく振り上げ──
「──させないのです!!」
オシュトルに振り下ろされる寸前、ネコネによる炎弾が再びヴライを襲う。
その僅かな怯みを見逃すオシュトルではない。
ヴライの顔面目掛けてオシュトルが殴打し、殴った手でそのままヴライの顔を掴み上げ、仰向けに地面へと叩きつけた。
「グウッ……!! 瀕死ト見セカケテ、マダ、コレ程ノ……ソレデコソ、我ガ宿敵オシュトル!!」
ヴライには既に大穴が空いているにも関わらず、立ちあがり再び距離をとる。
「ドウセ生キ永ラエルコト叶ワヌナラ、最後マデ命ヲ燃ヤシ尽クスノモ悪クナイ……! グオオオオオオオオオッ!!」
咆哮。
周囲の地面が抉れるほどの叫びにも、オシュトルは動じることなくヴライの正面に構えた。
お互いに最後の一撃だろう。しかし、明らかにヴライの様子がおかしい。穴の開いた腹部から、血ではなく塩のようなものが溢れだしてきている。
「最後ダ、オシュトルゥゥゥゥゥッ!!」
「ヴライィィッ!!」
ヴライの命を燃やし尽くす最後の一撃、それはオシュトルに届くことはなかった。
交差するようにオシュトルの打撃がヴライの胸を打つ。
「……スマヌ、ヴライ。オ主ト道連レニハナレヌ。某ニハ……未ダ、護ルベキモノガアルノデナ!」
ヴライはオシュトルの叫びを聞くと、ひたすら豪胆な笑い声をあげ、やがてその身を崩れさせていった。
「ディネポクシリデ、マッテイルゾ! オシュトル……!!」
その言葉を最後に、体は粉塵となり地面に降り積もる。
ヴライが被っていた
「兄さまぁ!」
「ネコネ……!」
オシュトルは泣きそうなネコネの頭を撫でながら、諭すように言う。
「来てはならぬと言っただろう……」
「ごめんなさい、ごめんなさいなのです、兄さま……でも」
「どっちも無事に生きているんだ。いいっこなしだぜ、オシュトル。ネコネの一撃がなけりゃ、死んでいたかもしれないんだからな」
残されたヴライの仮面を持ち、そうオシュトルに呼びかける。
「ああ……確かにそうであったな……ありがとう、ネコネ」
「いいのです……兄さまが生きてくれていただけで……」
オシュトルは微笑むと、縋り付くネコネの頭を撫でる。
ネコネは泣きはらした目を瞑り、その大きな掌を気持ちよさそうに享受していた。
「ところで、体は大丈夫なのか?」
「すまぬが、立っているだけで精一杯なのだ」
「何?」
「ハク、暫く後を、頼んでも良いか──」
「兄さま!? 兄様!!」
オシュトルは、気絶してもネコネにはぐったりと寄りかからず、後ろにいた俺に体重を預けてきた。
「ハクさん! 兄さまは……!!」
「心配するな。寝ているだけだ」
実際、息はしている。だが、確かに傷は深い。
急ぎエンナカムイに連れていかなければならないだろう。
「ネコネ、歩きながらでいい、簡単な治癒術を頼む。自分が負ぶっていく」
オシュトルを背負い、足場の悪い崖路を駆ける。
しかし、普段の二倍の体重を伴っているからか、ふとした拍子に転びそうになった。
「は、ハクさん! 気をつけてくださいです!」
「悪い悪い、だがまあ、心配すんな。こいつの体ひとつ背負うくらいなら、軽いもんさ。急ぐぞ」
「心配しているのはハクさんじゃなくて兄さまなのです!」
「はは、そりゃそうだ──こいつの身代わりになれる漢はいないんだ。何としてでも、生きてもらうさ」
本来、亡きものとなるはずだった命。
しかし、オシュトルは生き永らえたのだ。
紡がれなかった歴史が、動き始める。
再構成ものはいかにして原作コピーを免れるかが難しいところで。
でも書きたかった。原作は最高だったけれども、やっぱりハクにもオシュトルにも、そのままで幸せになってほしかったんや。
なので、拙いながらも頑張って書きます。