【本編完結】影とうたわれるもの~二人の白皇再構成~   作:しとしと

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偽りの仮面ラスト、ヴライとオシュトルの死闘にて、ネコネが飛び出したところから。


第一話 生き永らえるもの

 何故かそうしなければならないと感じた。

 ヴライに嬲られるオシュトルを見ていられなかったのだろう。ネコネは耐えきれず飛び出してしまう。

 それを止めるのではなく、オシュトル達がこちらに注意を向くようにするべきだと考えた。

 

「ヴライ!!」

「!?」

 

 自分の発した大声によってヴライの注意がこちらに向く。

 ほぼ同時に、ネコネによって形成された巨大な火の玉がヴライへと放たれるも、ヴライは炎弾をハエでも追い払うかの如く消し飛ばした。

 

「邪魔ヲスルカ、小娘ェ!」

 

 激昂するヴライ。

 怒りに呼応するかのように火の粉を散らし、その注意をネコネへと向けたときだった。

 

「オ主ガ余所見ヲスルトハナ……ヴライ!」

「ナニ……ッ!?」

 

 オシュトルの渾身の一撃がヴライの腹部を貫き、尚漏れた威力が青い光線を走らせ空を抉る。

 

「ガッ……!!」

「オ主ノ、負ケダ……ヴライ……! 我ガ妹ヲ……小娘ト蔑ミ、顧ミナカッタ……ソレガ、オ主ノ敗因ダ!」

 

 ヴライは自分が何をされたのか分からなかったのだろう。

 空洞化した腹部を隠すように手で抑え、自らの命が風前の灯であることを遅ればせながら理解する。

 しかし死なば諸共、ヴライは瀕死を感じさせない動作でその手を大きく振り上げ──

 

「──させないのです!!」

 

 オシュトルに振り下ろされる寸前、ネコネによる炎弾が再びヴライを襲う。

 その僅かな怯みを見逃すオシュトルではない。

 ヴライの顔面目掛けてオシュトルが殴打し、殴った手でそのままヴライの顔を掴み上げ、仰向けに地面へと叩きつけた。

 

「グウッ……!! 瀕死ト見セカケテ、マダ、コレ程ノ……ソレデコソ、我ガ宿敵オシュトル!!」

 

 ヴライには既に大穴が空いているにも関わらず、立ちあがり再び距離をとる。

 

「ドウセ生キ永ラエルコト叶ワヌナラ、最後マデ命ヲ燃ヤシ尽クスノモ悪クナイ……! グオオオオオオオオオッ!!」

 

 咆哮。

 周囲の地面が抉れるほどの叫びにも、オシュトルは動じることなくヴライの正面に構えた。

 お互いに最後の一撃だろう。しかし、明らかにヴライの様子がおかしい。穴の開いた腹部から、血ではなく塩のようなものが溢れだしてきている。

 

「最後ダ、オシュトルゥゥゥゥゥッ!!」

「ヴライィィッ!!」

 

 ヴライの命を燃やし尽くす最後の一撃、それはオシュトルに届くことはなかった。

 交差するようにオシュトルの打撃がヴライの胸を打つ。

 

「……スマヌ、ヴライ。オ主ト道連レニハナレヌ。某ニハ……未ダ、護ルベキモノガアルノデナ!」

 

 ヴライはオシュトルの叫びを聞くと、ひたすら豪胆な笑い声をあげ、やがてその身を崩れさせていった。

 

「ディネポクシリデ、マッテイルゾ! オシュトル……!!」

 

 その言葉を最後に、体は粉塵となり地面に降り積もる。

 ヴライが被っていた仮面(アクルカ)だけが、墓標のように落ちていた。

 

「兄さまぁ!」

「ネコネ……!」

 

 仮面の者(アクルトゥルカ)の姿から元の人の形へと戻ったオシュトルに、ネコネが涙を堪えて飛びついた。

 オシュトルは泣きそうなネコネの頭を撫でながら、諭すように言う。

 

「来てはならぬと言っただろう……」

「ごめんなさい、ごめんなさいなのです、兄さま……でも」

「どっちも無事に生きているんだ。いいっこなしだぜ、オシュトル。ネコネの一撃がなけりゃ、死んでいたかもしれないんだからな」

 

 残されたヴライの仮面を持ち、そうオシュトルに呼びかける。

 

「ああ……確かにそうであったな……ありがとう、ネコネ」

「いいのです……兄さまが生きてくれていただけで……」

 

 オシュトルは微笑むと、縋り付くネコネの頭を撫でる。

 ネコネは泣きはらした目を瞑り、その大きな掌を気持ちよさそうに享受していた。

 

「ところで、体は大丈夫なのか?」

「すまぬが、立っているだけで精一杯なのだ」

「何?」

「ハク、暫く後を、頼んでも良いか──」

「兄さま!? 兄様!!」

 

 オシュトルは、気絶してもネコネにはぐったりと寄りかからず、後ろにいた俺に体重を預けてきた。

 

「ハクさん! 兄さまは……!!」

「心配するな。寝ているだけだ」

 

 実際、息はしている。だが、確かに傷は深い。

 急ぎエンナカムイに連れていかなければならないだろう。

 

「ネコネ、歩きながらでいい、簡単な治癒術を頼む。自分が負ぶっていく」

 

 オシュトルを背負い、足場の悪い崖路を駆ける。

 しかし、普段の二倍の体重を伴っているからか、ふとした拍子に転びそうになった。

 

「は、ハクさん! 気をつけてくださいです!」

「悪い悪い、だがまあ、心配すんな。こいつの体ひとつ背負うくらいなら、軽いもんさ。急ぐぞ」

「心配しているのはハクさんじゃなくて兄さまなのです!」

「はは、そりゃそうだ──こいつの身代わりになれる漢はいないんだ。何としてでも、生きてもらうさ」

 

 本来、亡きものとなるはずだった命。

 しかし、オシュトルは生き永らえたのだ。

 

 

 紡がれなかった歴史が、動き始める。




再構成ものはいかにして原作コピーを免れるかが難しいところで。
でも書きたかった。原作は最高だったけれども、やっぱりハクにもオシュトルにも、そのままで幸せになってほしかったんや。
なので、拙いながらも頑張って書きます。

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