ポケットモンスター~カラフル~   作:高宮 新太

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9話 「辛さを乗り越えてこそ」

 

「黒いポケモン・・・あれが、貴様の見たかった光景か?」

 

 ナツメ様のその質問に、僕は答えることができない。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

 先程見た光景に、心臓が飛び出るのではないかと錯覚するくらいには動揺していたからだ。

 言葉はおろか、呼吸をするので精一杯で考える余裕すらない。

 ひどいなあ。今の自分を人に見られていると思うと寒気がするね。黒歴史確定だよ。

 でも、それでも。この年で黒歴史を作った甲斐ってやつくらいはあったかな。

 

「・・・ええ、そうですよ。あれが、僕が欲していた情報であり、あれこそが僕がこの組織に入った理由だ」

  

 呼吸を整えるまで待ってもらって、ようやく僕は口を開くことができた。

 あの光景。家が火事になって、僕だけが助かって、そしてその中心にいたポケモンのこと。

 それが僕は知りたかった。この十余年ほどずっと。

 

「まだわからないな」

 

 ナツメ様の声からとげとげしさはなくなったけど、それでもまだ聞きたいことがあるらしい。

 

「あの火事は確かにお前のトラウマだろう。だが、それとあのポケモンに因果関係があると、どうして断言できる?」

 

「ああ、そうですね」

 

 ナツメ様の指摘はもっともだ。確かに、あの光景だけじゃあ断言はできない。

 偶々、偶然、何かの拍子で見知らぬポケモンが迷いこんできた時に火事が起こった可能性だってゼロじゃない。

 天文学的確率だけど、なにせ僕は知らない。真実を知らない。

 真実を知らないということは、どんな可能性だってあり得るということで。

 とはいえ。 

 無論、僕だって最初からあのポケモンを犯人だと思っていたわけじゃあない。

 

「二階がね。燃えてないんですよ」

 

 僕の家は火事で燃えた。

 でも、跡形もなく全焼したわけではない。

 一戸建ての二階、つまり僕と妹のレインの部屋だけはなんの火も移っていなかったんだ。

 それっておかしい話だろう?

 

「勿論、確実に100%あの黒いポケモンが僕の家を焼いて、僕の家族を奪った。とは言えません。でも、何か関係がある。そう思うには状況証拠が揃いすぎでしょう?」 

 

 なぜ突然火事が起きたのか、なぜあの場所に、炎のど真ん中に見知らぬポケモンが立っていたのか。そもそもどこから入ってきたのか。

 これらの疑問を解決するにはあのポケモンに会うしかない。

 まあ、会ったら何するかわからないけど。

 

「だから、それを知るためにも僕は会いたいんです。あのポケモンに」

  

 そして、もし犯人だったら。

 

 きっと僕は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 殺してしまうんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だが、問題が一つある」

 

「お、奇遇ですね。僕もです」

  

 ナツメ様、やけに親身になってくれるなあ。同情でもしてくれたのかしらん?

 まあでも、僕よりもよっぽどつらい目に合ってるのはナツメ様のほうだろう。勘だけど。

 人と違うというのは、それだけでもう茨の道なのだということを僕は知っている。

  

「「あのポケモンの、姿形がわからない」」

 

 おお、ハモった。

 なんてどうでもいいことに喜んでいると、そんな顔が気に食わなかったのだろう。お腹にキックを食らった。

 

「いやー、まさか自分の視界があそこまでぼやけているとは思いませんでしたよ」

 

 てっきり、そのポケモンの姿がくっきりはっきりきっちりと、映し出されるものとばかり思っていたが。

 

「もう~、ちゃんと精度上げといて下さいよー」

 

「なぜ私のせいにしている?殺されたいのか?」

 

 冗談が通じないんだこの人。

 虎でも狩るのかと言わんばかりの眼光に僕は首をすぼめる。

 

「いいか、言ったはずだがこれは知らないことを知るような便利な代物じゃない。あくまで忘れていることを思い出させるだけだ。強制的にな。だから、お前が知らないことまで知れるわけではない」

 

 よっぽど自分のユンゲラーを馬鹿にされたのが悔しかったのか、事細かに説明してくれる。

 なるほど、つまりは幼いころの僕はちゃんとあのポケモンを視認していなかったわけだ。

 まあ、ちっちゃかったしなあ。ああいう年頃ってなんか世界の境界線が曖昧じゃん?僕も多分にもれずそうだったわけだ。

 余りの高熱とショックで直ぐに気絶したってのもあるかな。にしては、家族の死体だけはきっちり見えたけど。

 ・・・・・・・・。

 

「そっか、それじゃあ僕の用事もうないんで。帰してもらっていいです?」

 

 さあ帰ろ帰ろ。帰ってお風呂入って寝よう。あ、ここで寝たから寝なくていいかな?

 

「フン、貴様。タダでこのナツメ様を使う度胸があるのか?」

 

 わあ、その凄みっぷりはファイヤーと対峙したときよりも怖い。

 

「はいはい、わかってますよ。ファイヤーですよね。あげますあげます。交換という形ではなく、差し上げます」

 

 縄を解いてもらい、空の、つまりはファイヤーが入っていたスーパーボールを投げてよこす。

 

「フフ、これで私が一番乗り」

 

 その顔は邪悪そのものといった表情で。それでも絵になってしまうのだから凄い。

 

「それで?ナツメ様はどうしてそこまでこの組織に忠誠を誓ってるんです?」

 

 僕だけ過去を暴露するのはなんだか割に合わない。まあ、好きでやったことではあるけど。

 

「決まっている。サカキ様のためだ」

 

 へえ、そこまであの人のこと好きなんだ。

 顔を見ればわかる。恋する乙女の顔になってるもの。

 そのあと延々とサカキ様の魅力について語られそうになったので、僕は早々にその場を後にしようとした。

 のに。

 

「まて」

 

 首根っこをムンズっとつかまれて、僕は借りてきた猫のようだ。

 

「なんです?」

 

「まだ、フリーザーとサンダー。その二匹の情報を渡してないだろうお前は」  

 

 かーっ。めざといなあ。

 低く冷たい声で僕に催促してくるナツメ様に僕は両手を上げることしかできない。

 

「はいはいわかったよわかりましたよー、渡せばいいんでしょう渡せばー」

 

 正直、今日のナツメ様のおかげで一歩前進、とはいかないまでも半歩くらいは前進した。

 一つ、確実に僕が追っかけているポケモンが存在したこと。

 一つ、そのポケモンが黒いということ。

 二つ目はあるかどうかも怪しい小さなものだがおまけとして入れてもいいでしょう。

 少なくとも、手がかりもくそもない今までよりは百億倍マシだ。 

 特に僕が作り出した幻想ではなく、ちゃんと実在していたってところが大きい。

 これがあるのとないのじゃ、モチベーションの差に月とスッポンのウンコくらい違うもんね。

 

「フリーザーはふたご島に、サンダーは無人発電所を根城にしている。らしいっすよ」

 

「らしい?」

 

「ええ、僕が行った時には拝めませんでしたが、運が良ければいるんじゃないですかね?」

 

 少なくとも、ファイヤーはいたのだ。信憑性は割と高いとみていいだろう。

 もう僕は行く気もないし、必要もなくなったから。後はキョウ様の報復に気を付けて早々に組織を抜ければ万事大丈夫。

 

「・・・・そう簡単に抜けられればいいけれどね」

 

 確かになあ。ナツメ様の言う通り、次なる僕の心配事はそれだ。

 その為にも、できればフリーザーとサンダーの情報は取っておきたかったけど。ま、なくてもいいや。そんなに支障はない。

 早々に見切りをつける、これ物事を進める上に重要だから覚えておくように。

   

「いいわ、アナタの事。毛の先っぽほどは気に入ったから。抜けるときのバックアップくらいはしてあ・げ・る」

 

 ほっぺたを撫でられ、いい匂いがする。

 わあ!なんだいなんだい!?いいことはするもんだなあ!もしかしてナツメ様って僕のこと好きなの!?ナツメちゃんって呼んでいい!?

 なーんて、僕これなんていうか知ってるよ。

 強者の余裕。上から目線って言うんだ。僕がこの世の中で嫌いなことベストオブザイヤー堂々とたる一位だね。

 

「ええ!?ホントですか!?いいんですか!?頼んじゃって!僕絶対忘れませんから!拷問とか受けたらいの一番にナツメ様の名前を出しますね!」

 

 でも僕はそんなこと言ってられない状況だってわかってる。嫌いなことでも甘んじて受け入れなきゃね。

 

「やっぱりやめようかしら」

 

 僕の反応をみて、ゲッソリとした顔つきになったナツメ様。

 はは、ざんねーん。もう引き戻せませーン。ここまできたら死ねばもろともデース。

 

「それじゃあナツメちゃん。研究室の件。よろしくね」

 

「なんでちょっと距離を縮めているの?殺すわよ」

 

 アッハッハと大笑いしながら、僕は殺気溢れるその部屋から出ていった。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ・・・・ぐう」

 

 視界が歪む。体がよろける。上手く立てない。

 壁に手をついて、嗚咽する口を無理やり塞ぐ。

 あー、情けない。たがが過去のトラウマを見たくらいでこんなにグロッキーになるだなんて。

 天国の家族に泣いて笑われちまうや。

 

「キュウ?」

 

「はは、心配してるのかい?」

 

 いつの間にかボールからでたズバット達が心配そうに見つめている。

 

「大丈夫、すぐ、元に戻るからさ」

 

 乱れた呼吸は未だ戻らず、崩れた体調は回復の兆しすら見せないけど。

 それでも、心配してくれる。その事実だけ。それだけを今は噛みしめよう。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして僕はようやく念願の、研究室へと配属されることになった。 

 ではまた。次のお話で。 

 

 




どうもけものはいてものけものはいない高宮です。
ついにプロ野球開幕しましたね。今年はWBCもあってどうなるか楽しみにしています。
我らがホークスは順調にスタートダッシュを切ったとことで、僕もあやかって新生活スタートダッシュを決めて、彼女の二人や三人くらい作りたいと思います。
それではまた次回お会いしましょう。 

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