ポケットモンスター~カラフル~   作:高宮 新太

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7話 「伝説って言っても所詮この程度さ」

「いやはやまさか、こんなところに伝説のポケモンがいるなんて。灯台下暗しとはよく言うね」

 

 僕がただ今いる場所。そこはチャンピオンロードの真っ只中だ。

 チャンピオンロード。名前からも分かるようにチャンピオンになるための道だ。ジムリーダーからバッジを頂き、八個集めた猛者だけがそこに挑戦することができる。

 勿論、僕はバッジを八個も集めてないし、集める気もない。

 

「ホントにこんなとこにいんのかよ・・・・」

 

「いいじゃねえか。どうせいなくたってアイツの首が飛ぶだけだ」

 

「それもそうか」

 

 おいおいおーい、後ろの団員が訝しげに僕に視線を送っていることに気づかないほど、僕はバカじゃないぞ。

 まったく、これだから僕はリーダーなんてのに向いてないんだけど。

 話を戻そう。チャンピオンロードは洞窟となっていて僕らは今そこを懸命に捜索している最中だ。

 チャンピオンロードという名前に相応しく、出てくるポケモン出てくるポケモンがやたら強い。

 洞窟という閉鎖空間。僕へのヘイト。そして野生のポケモンに対応して溜まっていく疲労。

 不幸中の幸いと言えば、そんなチャンピオンロードに人が大勢いるはずもなく捜索は地道だが順調に進んでいる点だろうか。

 

「カラカラ」

 

 後ろから襲い掛かってきたゴローニャを打ち取りながら僕らは進んでいく。

 

「隊長!A班見つかりませんでした!」

 

「同じく!B班影も形も見当たりません!」

 

「C班!二階への梯子を見つけたものの、やはりいません!」

 

 うーん、やたらと嬉しそうなのが気がかりだけどそうか。一階にはいなかったか。

 このチャンピオンロード、構造はそう広くはない。階数だって全部で二階までしかない。

 となると一階にいなかったのだから、必然的に上の階ということになるが。

 

(これでいなかったら、マジで首が飛ぶかもなあ)

 

 絶対にいる、なんて言えない不安と闘いながら僕らは進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな伝説のポケモンを探しに行く数日後前。

 

「昇進おめでとう」

 

「ありがとうございます、これも日頃の行いですかね」

 

 暗い研究室でカツラさんはお祝いの言葉を僕にくれる。

 そう、僕はこれまでの数々の貢献により異例のスピード出世を手に入れた。

 具体的に言えば伝説のポケモン捜索隊、隊長の座を手に入れたのだ。

 これまでの労働が正当に評価されるというのは気持ちのいいものでやる気も上がるというまさにいいこと尽くし。

 

「まずはどこから行くんだ?」

 

「いやー、決めてないですけど。一番近いのはふたご島かな?」

 

 ふたご島のフリーザー。無人発電所のサンダー、そしてチャンピオンロードにいるファイヤー。

 これが一週間ほどクチバで情報収集した成果だった。

 いやー、案外楽に事が運んでくれているのはやっぱ日頃の行いってやつ?いいことはするもんだよね。

 

「ふふ、そうか・・・・」

 

 なんだか僕の昇進を祝ってくれているはずなのに、カツラさんはあまり元気がない。

 

「なんです?研究が上手くいってないんですか?」

 

 それとも単純にカツラさんも僕の昇進を実は気に入らないとか?そうだったら泣けるなー。

 

「・・・・そんなところだ」

 

 そう言ったカツラさんの表情は暗い部屋でより一層暗く見えるけど、僕に慰めの言葉は見つからない。

 何の研究をしているのか、昇進した今なら教えてくれそうなものだけど。

 ほら、人って弱ってるとポロッと口が滑ることあるもんね。

 

「————————————、」

 

 と、思ったんだけど。案外言葉が出てこない。

 これでも一応は気を使ってるということなのだろうか?自分でもよくわからない。

 僕が黙っていると、カツラさんは思い出したように口を開く。 

 

「そうだ。フリーザーと戦うというならコイツを連れていくといい」

 

 そう言って手渡されたのは一つのスーパーボール。手に持った感触からどうやらポケモンを渡されたらしい。

 

「私のガーディだ。君は炎タイプは持っていなかったろう?きっと、戦力になってくれる」

 

 おお、確かにカツラさんはこう見えて元ジムリーダーだ。そのジムリーダーのお墨付きというなら確かに戦力になってくれそうだ。

 手持ちを増やす気は一ミリもないんだけど、確かにズバットとカラカラだけじゃあ心配だったのも事実で。

 

「ま、くれるってんならもらっておきましょうか」

 

 なんでもタダより高いものはないらしいけど、大丈夫。僕お金だけは持ってるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 そして現在、チャンピオンロード。

 

「うわああああああ!!!」

 

「逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ!!」

 

 いやいや本当もう笑っちゃうくらいピンチに直面していた。過去の回想してる場合じゃあないよ本当に。

 端的に言えばファイヤーはいた。本当に伝説かってくらい普通にそこにいた。

 が、放つオーラは凄まじくとりあえず偽物ではないことは確定だ。

 

「ガアアアアアア!!」

 

「うわああああああ!!!」

 

 そのファイヤーの戦闘力は流石の一言で。繰り出すかえんほうしゃも、つばさでうつもそこらの野生のポケモンとはワンランクもツーランクも上であることがわかる。

 

「おいおいおい!なーんの為にこんな大勢でぞろぞろ来たと思ってるんだよ!」

 

 後ろを振り向くと、既に隊員の半分以上が逃げ出しており残っているのは気絶しているものやら、逃げることすらできない下っ端オンリー。

 詰んだ、二重の意味で詰んだ。

 

「ああ、もう。どうせなら華々しく散ってやろうじゃんか。ねえ、ガーディ」

 

 最後の抵抗と、なし崩し的に僕はガーディをスーパーボールから出す。

 ふたご島のフリーザー用にもらったものだが、ここまで出番がなかったもんね。

 どういうことかって?そりゃ簡単、ふたご島にも、ましてや無人発電所にもフリーザーとサンダーはいなかったから。

 だからここでファイヤーを見つけられたのは救いだったけど、どうせここで倒されるのなら詰みだ。

 二重の意味とはそういうこと。

 

「・・・・」

 

 ファイヤーはこちらが戦闘態勢に入ったとみるや、出方を伺うように睨みつけている。

 

「ふむふむ、慎重なのはいいことだ」

 

 だけど、そうしてくれるのは好都合。力押しでこられたらどうしようもないからね。

 様子見してくれるならまだ勝算はあるってもんだ。

 

「かげぶんしん!」

 

 その間に僕はガーディに指示をする。まだまだ何回か戦闘をこなしただけで、扱いなれていないのはご愛嬌。

 それでも流石はジムリーダーのポケモンだ。よく訓練されているのか、僕の指示をちゃんとこなしている。

 

「これで、とりあえず時間稼ぎくらいはできるかな」

 

 ”かげぶんしん”で数体に増えたガーディはファイヤーを取り囲んでいる。

 ふはは。これでどれが本物かわかるまい!

 

「くぅーん」

 

 と、高笑いも束の間。僕の足元から鳴き声が聞こえる。

 

「あれ?なんでここにガーディが?」

 

 こんなところに隠れていたらこの一体が本物だと言っているようなものじゃないか。

 

「ああ!?」

 

 案の定、ファイヤーはこちらに照準を合わせてかえんほうしゃで焼き尽くそうとしてくる。

 

「あっつっつっつ!!」

 

 お尻が丸焦げになりそうになりながら僕は岩陰に隠れた。

 

「もう!なにやってるんだい?君がここにいちゃ意味ないでしょ?」

 

「くうーん!!」

 

 甘い声を出してもだめだよ。少しくらい戦力になってくれなくちゃ。

 まったくとんだ臆病者を掴まされたもんだぜ。さてはカツラさん、厄介払いをしたかっただけだったりして。

 

「・・・・・・」

 

 チラとガーディを見ると、明らかに落ち込んでいる。

 自覚しているんだろう。自分が役に立っていないことに。そしてそれはどんな攻撃よりも自らをえぐる。

 

「はぁ」

 

 大きくため息をついて、僕はガーディを抱き寄せた。

 

「まったく、君は臆病者なんだから。臆病者には、臆病者らしい戦い方ってもんがあるってこと君は知ったほうがいいよ」

 

 どんな経緯であれ、もう君は僕のポケモンなのだから。嫌だといっても従ってもらうぜ。

 

「よし!いまだ!」

 

 コソコソとガーディに耳打ちしてから、僕は合図を出した。

 岩陰から勢いよく飛び出したガーディは全部で七体。

 ニヤリと、ファイヤーは思わずその口角が上がった。また性懲りもなく”かげぶんしん”で惑わそうと言うのか。僕にポケモンの言葉はわからないけど、そう言っている気がした。

 

「————————!!」

  

 コオオオ、と大気の空気を吸い込んで力をためている。

 くる。大技が。

 一気にカタをつけようと、ファイヤーは自身の一番の大技を放った。

 

「”だいもんじ”か!!」 

 

 炎技の中でもトップクラスの大技でケリをつけようとするファイヤー。

 ガーディにそれに対抗できる技なんてあるわけなく。

 

「きゃうん!」

 

 ”かげぶんしん”はその大技で一気に消されてしまった。

 残った本体は辛うじて逃げることしか出来ずに、逃走した。

 

「ギャアアアアス!」

 

 勝ち誇ったように雄叫びを上げるファイヤー。

 そこに、勝機があった。

 

「確かに君は強いよ。隙なんて全くなかった」

 

 けれど、勝利を確信したその瞬間。少しだけ警戒が緩むのは仕方ないことだ。

 人間の知恵の勝利ってやつだね。

 僕はガーディの現れた逆の岩場からホネこんぼうの先っぽにハイパーボールを括り付けた特性のホネブーメランを投げる。

 この瞬間、この速度、捕らえた!!

 

「ってあれ!?うそん!?」

 

 躱されちゃった!!?なんでえ!?

 フッと、嘲笑うように僕のほうを睨むファイヤー。

 どうやら、勝利の前に油断していたのは僕のほうだったみたい。

 

「・・・うん、降参。諦めようこれは」

 

 両手を挙げてせめて命だけは、と伝わるのかなこれ?

 まあでも別に伝わらなくてもねえ。

 

「後ろに注意が向かなければどうだっていいや」

 

「?・・・・・っ!!」

 

 スコーンと、小気味の良い音が洞窟内に響き渡る。 

 その音の発信源。つまりはファイヤーの後頭部にぶつかったのは。

 

「ブーメランってさ、相手に当たらなかったら帰ってくるってのが楽しいところだよね」

 

 完全に死角、完全に意識の外へ外しておいてその特性ブーメランはハイパーボールをファイヤーに当てるべく弧を描いて旋回してきた。

 ガーディの”かげぶんしん”からの会心の一撃を一度外しておいて何重にも重ねた撒き餌を綺麗に食べてくれたこの瞬間のこの感動は。

 何においても代えがたい代物だろうよ。

 

「—————————!!」

 

 その咆哮はすでに声にならない。ハイパーボールの中に吸い込まれてブーメランは僕の手元へとちゃんと帰ってきた。

 よしよし、いい子だ。

 正直、一度目で本気で捕まえに行っても良かったんだけど、ほら、臆病なガーディに合わせて僕も慎重になった結果がこれだからね。

 

「臆病者も悪くないだろ?ガーディ」

 

「ガウ!」

 

 いつの間にか僕の足元へと隠れていたガーディ。うん、返事だけは立派だ。

 

「さて、これでキョウ様にいい報告ができそうだ」

 

 正直、フリーザーとサンダーを捕まえられなかった時点で僕の立場は相当危ういからね。

 手に持ったハイパーボールがいつもより重く感じられるよ。

 

 

  

  

 

 

 

 

 隊員のみんなが一目散に逃げて行ってしまったから帰りは一人で野生のポケモンと対峙しなければならなかったけれど。

 無事、太陽をもう一度拝むことができた。

 のだが。

 僕のことだ、一筋縄ではいかぬこの人生。

 

「ん?ユンゲラー?」

 

 おかしいな、明らかに今までの野生のポケモンとは毛並みが違う。

 あ、もちろん物理的な意味じゃないよ?

 

「ユンゲラー、”さいみんじゅつ”」

 

「ぐっ!?」

 

 どこからか澄み渡る女の子の声がした。

 

「フフ、ご苦労。見事、ファイヤーを捕まえたみたいね」

 

「あ、あなたは・・・・・」

 

 もろにユンゲラーの”さいみんじゅつ”を食らって意識が朦朧とする中で、後ろから近づいてくる足音に目を向ける。

 

「あう・・・・」

 

 足に力も入らなくなって、無様に地面に伏せる僕。

 対照的に上から見下ろしていたのは。

 

 

「な、ナツメ様・・・・」

 

 

「フフ、ゆっくりおやすみなさい」

 

 こうしてすっきりと終わらないのが僕の性。

 それではまた次の話で。

 

 

 




どうも堕天してネトゲ三昧な生活を送りたい高宮です。
もうすぐ三月も終わるというこの事実にガクブルです。
それではまた次回もよろしくお願いしますです。  

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