ポケットモンスター~カラフル~   作:高宮 新太

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6話 「伝説って言っても案外大したことないね」

 

「いやー、そうなんですよ。まだこっち来たばかりであんまり町のことわからなくって。え?案内してくれる?それはそれは、この町の人は親切だなあ」

 

「え?いや、ちょっと忙しいんですけど」

 

「まあまあまあまあ」

  

 クチバの町は港町。町に闊歩している人のほとんどがこの町の人間じゃない。

 だから、こうやって旅人を装うのも難しくないのだ。

 そして僕が旅人としてトレーナーの注意を引き付けているうちに。

 

(ほら、今だよ。ズバット)

 

 予めボールから出していたズバットに目配せで指示を出して、遠くからズバットはポケモンに”あやしいひかり”をかける。

 ロケット団に入団した時に団員は全員このズバットやコラッタなどを支給されるんだけど。

 僕はいらないって断った、カラカラがいれば十分だと思ったし、手持ちを増やす気はなかったのさ。

 それが原因で下っ端の分際で組織を乱すなと怒られたのはいい記憶にはならないんだろうなー。

 そんで半ば無理やりてきにもらったこのズバット。中々どうして使い勝手がいい。なにより従順だ。

 うん、流石に手持ちが一匹ってのはつらいもんね。

 普通人からもらったポケモンは結構上から目線になったり、元のご主人の言うことしか聞かない。みたいな理由で手懐けるのが一苦労なわけだが。

 

「ああー、なるほど。へえー。ここがああなってそうなってここになるんだー。ふーん。あ、どうもありがとうございました」

 

 ズバットの仕込みが終わったのを見計らって僕はトレーナーを解放する。

 

「一体なんだったんだ・・・・」

 

 一瞬ポカンとなっているトレーナーだったが、変な人に絡まれたとでも思ったのだろう。すぐに自分の日常へと戻っていく。

 

「これで十人目。ま、そろそろ仕事はいいでしょ。よくやったねズバット」

 

 僕は近くを飛んでいたズバットを褒め称える。

 僕にポケモンの気持ちはわからないけれど、なんだか誇らしげには見えた。

 まったく、人懐っこすぎだぜ君は。

 だからこうやって悪の組織なんかに使われるんだ。

 

「さて、それじゃ本題に入りますか」

 

 そんなズバットをボールにしまいながら僕はそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クチバの港町にはもう一つ特色がある。

 特色、といえるほどその町に根付いているわけでも観光の目的となるわけでもないが。

 それでも僕にとっては十分行く価値のある場所だ。

 

「あ、ご老人、ご老人。少し道を尋ねたいんですけれど」

 

 先ほどよりも強引さを引っ込めて自分の中の優しい声色で老人に声をかける。

 一つ、その町を詳しく知りたいなら原住民と思しき人物に声をかけるべし。それが一人でいる老人なら尚更よし。 

 なぜなら。

 

「おお、おお!」

 

 ほら、老人ってのは会話に飢えているからね。結構すんなり話をしてくれるのさ。

 今だって、僕の教訓が当たったようで紳士的な小さな老人はサングラスの奥の目を光らせて見るからに喜んでいた。

 

「あの、ポケモンだいすきクラブって——————」「えいえい!」

 

 僕が楽勝ムードで頼みごとをする前に、それを遮って老人は勝手に僕のモンスターボールを投げる。

 当然開閉スイッチは押されており、僕のズバットとカラカラは意味もなく外に出されてしまった。

 

「おおー!!これは素晴らしい!」

 

 勝手にボールから出されて困惑している二匹を見て、老人は目を輝かせながら賞賛を送っている。

 おいおい、なんだいこのクレイジーなお爺さんは。これは僕の見立てが失敗したと言っているようなものじゃないか。

 まったくこれだからボケたじいさんは。

 当の僕だって困惑している。だというのに、空気を読まずにその老人は続けざまにこう言った。

 

「ふむ!君をポケモンだいすきクラブの名誉会員に認定する!!」

 

 と、そう言った老人の言葉で僕の中の不快感は一気に消滅したけど。

 人生の先輩には尊敬と優しさをもって接しないとネ! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、本当に運がいい!まさか探していたポケモンだいすきクラブの会長があなただったなんて!」

 

「それはこちらのセリフじゃよ!こんなに若い立派なトレーナーがウチに入りたいと言ってくれるなんて願ったり叶ったりじゃ!」

 

 ガッチリと固い握手を交わす僕らはまるで無二の親友を見つけたかのように盛り上がる。

 ポケモンだいすきクラブ。そのクラブは知名度こそ薄いが全国各地に点々とあるその名の通りのクラブだ。

 小さいクラブハウスにポケモンだいすきクラブと書かれた看板がなければ、わからないようなそんな場所。

 ポケモンを愛し、ポケモンに愛される人たちがただ自分たちの愛を語り合う。そんな居場所となっている。

 

「オホホ、うちのコラッタちゃんが」「いやいや、僕のキャタピーのほうが」

 

 といった具合に。

 本当にただそれだけのクラブだ。

 

「いやー、しかし本当に可愛いですな。このズバットとカラカラは」

 

 会長がわちゃわちゃと触っているのを、ズバットは照れ臭そうに、カラカラは鬱陶しそうに振り払っている。

 

「あはー、このツンデレ具合がまたたまりませんの!」

 

 そんな仕草に萌え萌えしている会長の姿はどう頑張っても引いてしまう。

 

「あれ?新会員?」

 

「会長が連れてきたんですって」

 

 そんな会長の騒ぎを他の会員が無視するはずもなく、わらわらと集まってきては僕のポケモンを撫でまわしていく。

 めちゃくちゃ不満そうにこちらを見るのはカラカラ。

 ごめん。と片手で謝ってから僕は会長だけを引っぺがす。

 

「ムム、どうしたのかね。ええと・・・」

 

 そういえば、自己紹介をしていなかった。

 

「アラです。アラ」

 

 普通になんの迷いもなく、僕は息を吐くように嘘をついた。

 当然、僕の名前はカラーですよ?だけどほら、こういう時ってなんか本名を名乗りたくないじゃない?

 

「よろしくアラ君!」

 

 当然会長だって、ここで偽名を使われるとは思っていないだろうし素直に信じる姿は見ていて心が・・・。

 あり?別に痛まなーい。

 

「それでですね。会長」

 

 挨拶もそこそこに、僕はようやっと本題を切り出す。

 

「僕、あるポケモンを探すために旅をしているんです。そのポケモンに一目会いたくて、遥々マサラタウンからここまで来ました」

 

「マサラ!?それはそれは大変な旅じゃったろう」

 

「ええ、お金もなく色々な(主に悪事)仕事をしながら今日ここまできました。このポケモンだいすきクラブなら、なにか情報が得られるんじゃないかって」

 

 いつの間にか、会長だけに話していたつもりが、会員全員が聞き入っていた。

 まあ、そうしてくれないと困るわけですけど。 

 

「ナントエライ!して、そのポケモンの名前は!?」

 

 ハンカチで目を抑える会長が僕の望み通りに食いついてくれる。

 

 

 

 

 

「そのポケモンは伝説のポケモン。名をファイヤー、サンダー、フリーザー」

 

 

 

 

 

「で、伝説・・・・」

 

 ちょっとばかりその名前に気おされたのか、会長はわざわざ家の中で後ずさりをする。

 

「・・・・やっぱり、無理ですよね。いくらポケモンを愛しているポケモンだいすきクラブとはいえ、流石に伝説のポケモンまでは好きじゃないですよね。一目でもいいから、ポケモンを愛すものとしてみたいだけなんですけど」

 

 しおらしい態度、残念さを匂わせながら、ほんの少しスパイスのように悔しさを仄めかす。

 はい、これでシチュエーションは完璧。

 

「そんなことはないぞ!うちのクラブはポケモンを愛し、差別などないのじゃ!」

 

 そうだそうだ、と勝手に盛り上がってくれる皆に僕は。

 

「本当ですか!ありがとうございます!この人数がいれば誰か一人くらい知ってますよね!?」

 

 僕の言葉に、皆、顔を見合わせる。

 

「誰か!誰か知っておるものはおらぬのか!」

 

 必死に声を荒げる会長に、答える者はおらず。

 それもそうだろう。なんせ相手は伝説だ。こんなしがないクラブに知っているものがいるとは思えない。

 が、何度も言っているがここは港町だ。情報の数は他の追随を許さない。

 それ故に、一人じゃあ情報を集めると言っても限度がある。

 このクラブ、人の多さだけは評価できるからね。利用しない手はない。

 

「って、言われてもなあ」

 

「伝説なんて、僕らには縁がないよぉ」

 

 困ったように頭を悩ませている会員たち。

 おいおい、こんだけいて一人も知らないの?

 なんてね。元々君たち自身に期待なんてこれっぽっちもしていないから安心してよ。

 君たちにしてほしいことはもっと別のことさ。

 

「そう・・・ですか。いえ、いいんです。今までも町の人たちに聞いて回っても駄目だったし。ああ、でもここは港町だから他よりは情報が集まってくるのかな」

 

 諦めたような声色と少しのヒント。さあ会長、あなたの権力を使う時が来ましたよ。

 

「ムム!そうじゃ!皆、アラ君を手伝うのじゃ!伝説のポケモンについて情報を聞いてこようではないか!!」

 

 明暗を思いついた、そんな表情で告げる快調だが会員たちの顔は渋い。

 あり?会長思ったより人望無い?

 僕の計画が崩れ去ったかと思いきや。

 

「アラ君はこの年でカントー中を探し回るほどポケモンを愛しておるのじゃぞ!ポケモンだいすきクラブの会員として一肌脱きたいと思わんのかね!!」

 

 小さな体をぴょんぴょこと動かして必死に訴えかけるその姿に心を動かされたのか、顔を見合わせて「じゃあ」といった風に会員たちは承諾した。

 名ばかりの会長ではないということに、今は素直に喜んでおこうかな。

 

「それではみなさん!よろしくお願いしますね!」

 

 もう演技の必要はないので、僕は先ほどまでと一転、快活な笑顔でそう言った。 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、と」

 

 クラブの家を出て、一つ大きな伸びをする。

 クラブの皆の協力を取り付けられたのは大きい。なにせ、クチバに訪れる人全員に一人で聞き込みをするなんて不可能なのだから。

 とはいえ、僕が何もしなくていいというわけでもこれまたない。

 先ほどまでにズバットを使って混乱させたポケモンは丁度十匹、仕事をしている風を装うために十匹はちょっとずつ効き目を遅らせてある。 

 僕のズバットは少し特殊でね。というか、そういう風にした。

 何をしたかといえば、混乱の度合いを調整することができる、ということ。

 つまり、ボールに戻しても混乱が解けなくすることだって可能だし、逆にボールから出した瞬間に混乱状態にすることだって可能だ。

 普通はボールに戻せば治っちゃうんだけどね、これをするとポケモンセンターに行かなければ治らない。

 逆に言えばポケモンセンターに行っちゃえば速攻で治っちゃう。

 でもそれで十分。

 先ほどの十匹はボールから出したとたん混乱状態になり、わけもわからず自分からサントアンヌ号に乗り込んでいくだろう。

 これこそ完全犯罪。アシが付かないって最高だね。

 

「だからと言ってのんびりもしてられないんだよね。ま、猶予は一週間てとこか」

 

 それを過ぎると流石にマチス様に怪しまれる。

 

「でも一週間あればなんかの情報くらい手に入るよね?」

 

 傍にいるカラカラに僕は同意を求めたけれど、彼は目も合わせてくれない。

 どうやら先ほどのことをまだ怒っているらしい。まったく、そんなんじゃ女の子にモテないぞ。

 なんていうと、手にしたホネこんぼうが飛んできそうなので僕は情報を聞きに町へと出た。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、ちょうど一週間後。

 

「伝説のポケモンの情報持ってきました!!!」

 

「おお!!」

 

「でかした!!」

 

 チマチマと人海戦術で粘った甲斐あって会員のうちの一人が見事にヒット。

 他の会員はなんだか日に日にやつれていってたし、これで収穫ゼロだったらきっと僕は名誉会員を剥奪されていたことだろう。

 危ない危ない。

 

「それで、情報は?」

 

 走ってきたのか、息が乱れたその男は息を整えてから口を開く。

 

「それは——————————、」

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ハロハロ。キョウ様?ええ、ええ、見つかりましたよ。————急かさないで下さい。ええ、マチス様も、ましてやナツメ様もまだ知りません」

 

 ポケモンセンターのパソコンで通話中の相手は焦るように僕の次の言葉を待つ。

 

「はいはい、わかってますよ。情報の扱いには細心の注意を払います。それじゃあ落ち合いましょ。後で」

 

「ファイアー、サンダー、フリーザーの居場所について、ね」

 

 そしてまた次の話に続いていく。

 

 




どうも!大学全部落ちた高宮です!世界なんて滅べばいいのに!!
それではまた次回までに世界が滅んでなければよろしくお願いします!!!! 

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