ポケットモンスター~カラフル~   作:高宮 新太

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49話「進まない停滞感」

「よし、次はジョウトのジムリーダーたちに話を聞こう」

 

 カントーのジムリーダーたちとの話が終わり、クリスと共に次はジョウトのジムリーダーたちに話を聞く番だった。

 カントーとジョウトの面々で情報に差があるとも思えないし、奴さんがそう簡単にぼろを出すとも思えないけれど。

 やれることはやっておかなくっちゃあね。

 

「じゃあ私はまたコソ泥みたいなことをするんだね」

 

 多少辟易としていたクリスだがやらないという選択肢は残念ながらない。

 ほら、よく言うじゃん?人生好きなことだけやってればいいなんて甘いものじゃないってありがたーい先人からの嫉妬の言葉がさ。

 

「だからまあ、頑張ってコソ泥みたいな真似をしてくれたまえよ」

 

「うん・・・頑張るね」

 

 嫌なことをさせている自覚はある。けれどそれでも頑張ると言ってくれたクリスに対して僕もまあ、頑張るかなんて柄にもないことを思ったりもする。

 さて、そんなことをしていると差し迫った具体的な締切、ならぬ時間があるのでそう悠長にもしてられない。

 クリスを黙って見送って、僕はジョウト側の大部屋の扉の前に立つ。

 正直、カントーはほとんど知り合いみたいなものだったから一種のやりやすさはあった。

 端から除外できる人間がままいたからね。

 でも、このジョウトとなると話は別だ。

 除外できる人物なんていない。唯一ミカンちゃんくらいは知り合いと呼んでも差し支えはないけど。

 それだって除外できるほどミカンちゃんの何かを知っているわけではない。

 

「本番はここからってわけだ」

 

 前座は終了、余興はない。

 ここがこの演目のクライマックス。

 

「ほーんと、やんなっちゃうよね」

 

 そう呟きながらも僕は、重くのしかかってくる扉を全開に開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、え?か、カラー君?」

 

「やあ、久しぶりだねミカンちゃん」

 

 カントーの時でも思ったけど、やっぱりジムリーダーが全員集まると荘厳だなあ。寒気がするよ。

 ほとんど初対面だからだろうかやや冷ややかな目線で僕を迎えてくれる皆さんに、僕はいつものように貼り付けた笑顔で返す。

 

「どうしたの?」

 

 ここには探偵がくる。とだけ伝えられて集まっているジムリーダーたちだ。ミカンちゃんはまさか僕がその探偵だとは思いもしなかったのだろう。驚いた声でそう尋ねる。

 

「どうしたもこうしたも、僕がここにいる理由は一つだ」

 

「まさか、君がポケモン協会が派遣した探偵とでもいうのかい?」

 

「ええ、そのまさかですよマツバさん」

 

 ジョウトの中でも比較的顔見知り程度には見知っている二人からの積極的なアプローチどうもありがとうございます。

 多少あったアウェーの雰囲気がなくなったわけではないけれど、敵対心が下がったのは僥倖だ。

 特に裏表のなさそうないかにも善人ですって感じのミカンちゃんが親しげに話してくれたのはでかいね。

 

「改めまして自己紹介を、探偵やってるカラーです。ここにきた理由は、大体知ってます?」

 

「今ジョウト全域にはびこっている悪の親玉を探し出すためだろう?話は聞いている」

 

「なるほど、話が早くて助かりますよ。イブキさん」

 

 フスベの里のドラゴン使い。年上美人だったのでいち早く名前を覚えた。

 そのイブキさんは名前を知られていたのが不服だったのか、一瞥してから目線を外す。

 その行為の意味を頭の片隅で考えながらも僕は話を進めた。

 

「さて、じゃあ早速ですけど皆さんはぶっちゃけ誰だと思います?悪の親玉について」

 

 こういう時はいつものように回りくどい言い方をしたってしょうがない。

 悪いけどオールストレート勝負でいかせてもらうぜ。

 

「・・・いきなりですね」

 

 どこか元気がないのはヒワダジムジムリーダーのツクシ。可愛い見た目をしているが男の子だ。もう一度言おう男の子だ。

 遺跡調査の研究員という話だったかな、確か。

 記憶があやふやなのはしょうがないだろう?なにせあの短い時間でジョウトカントー全員分の情報を頭に叩き込まなくちゃならなかったんだから。

 

「何か都合悪いかい?」

 

「いえ、まるで僕らの中にその・・・犯人がいるような言い方だったので」

 

「ああ、ごめんごめん。探偵の癖でね、つい」

 

 ツクシとは反対にカラカラ笑う僕に彼はやや不審がっているようでそれ以上会話は続かなかった。

 ま、しょうがない。いきなり探偵ですなんてやってきてこのエキビションマッチの直前に集められたんだ。ナーバスにもなるか。

 それは自然な反応だと思う。仮面の男だからってわけじゃあなくても。

 

「そうやで、なんもせんと疑われてんのは気分悪いわ。なあミカン」

 

「あ、でも、カラー君はいい人だよ?エンジュの焼けた塔が火事になった時も消火するのに手伝ってくれたし」

 

「ふーん、って、ああ、ミカンが言いよったのってコイツのことか」

 

「ちょ、ちょっとアカネちゃん!」

 

 なーにを関係ないところで盛り上がってるんでしょうかこの二人は。

 コガネシティジムリーダーのアカネちゃんはダイナマイトプリティギャルと呼ばれてるらしいが、ミカンちゃんをからかっている今はただの大阪のおばちゃんにしか見えない。

 ま!可愛いから許す!

 

「うぉっほん!えーっと、話を戻すけど、僕は何も君達を疑ってるわけじゃない。むしろ敵はむこう、カントー側にいるんじゃないかなって考えてる」

 

 カントーのジムリーダーたちに言ったことと違う、というか真逆なのは百も承知だ。けど今は警戒心を解くことが最優先事項なのでそんな整合性なんぞは気にしない。

 

「なぜそう思う?」

 

 短く、しかし重々しく聞いてきたのはタンバジムのジムリーダ-、シジマ。

 そこらのポケモンよりもムッキムキなその肉体には正直引くけど、今は質問に答えることが優先だ。

 

「だぁって、ロケット団って元々カントーのものでしょ?それが復活したんだ。カントーが関わってるって思ってもなんも不思議じゃあないと思いますけどね」

 

 切っ先の鋭い視線を向けられて真っ向から対峙する。

 

「なるほどな」

 

 先に視線を外したのはシジマだった。本当に納得したのか、それともただ僕の力量を図りたかっただけなのかは定かではないけどその視線には純粋さを感じた。

 ま、純粋におっかないってだけなんだけど。

 

「少しいいかな」

 

「どうぞ、ハヤトさん」

 

 キキョウジム、ジムリーダーにはなったばかりのハヤトは正直そこまで情報はない。

  

「俺はジムリーダーであると同時に警察官だ。その巨悪、仮面の男のことについて警察だって対応しているが、ジムリーダーにいると決めつけるものは少ない」

 

 ・・・なるほど、これは少々厄介だ。

 確かにハヤトが警察だという情報はあったけれど、割と下っ端の方だと勝手に思っていた。いかんね、決めつけってのは自分の首を絞めるだけだ。

 警察の情報と、一探偵、それも胡散臭いというマイナス的付加価値がくっついた者の意見なら圧倒的に前者のほうが信憑性がでてしまう。

 早々にこの会議はお開きになって、クリスが見つかってしまう可能性がでてくるのは一番最悪なシナリオだ。

 

「むしろ、ジムリーダーが悪党のボスだという意見の方が少ない、というか聞いたことがない。だというのに君はなぜ、そこまで強くジムリーダーの中に犯人がいると決定づけることができるんだい?」

 

 さっすが現役の警察様、詰め方が取り調べのそれだわ。

 ま、ここまで言われたら躱す方が不自然だな。

 

「・・・別に隠してたわけじゃあないんですけどね。仮面の男がジムリーダーってのは確定した事実なんですよ」

 

 ゴールドたちの存在を仮面の男には知られたくはない。

 だから少しだけ事実を捻じ曲げることにした。

 

「カントーのジムリーダーにマチスさんってのがいるんですけどね。彼、一度実際に仮面の男に会って戦ってるんですよ」

 

「なんと・・・!」

 

 イブキさんはその大きな瞳を広げて驚嘆の声を上げる。

 

「そのときに、ジムリーダーのバッジと同じ成分の粉末を手に入れてたんです。それが僕がジムリーダーの中に犯人がいると決めつける理由です」

  

「・・・ジムリーダーのバッジには特殊な金属が使われている。その事実は確かにジムリーダーしか知らない。君みたいな一般人が付ける嘘ではないか」

 

 ふむ、と自身で納得したのかハヤトは多少考えこむ様子を見せた後。

 

「うん、君の言葉を信じよう。加えて僕も同じジョウトのジムリーダーの中にそんな人がいるとは思いたくはないな」

 

 と、僕に寄り添う形で発言する。

 

「そやそや!ロケット団なんてわけわからんカントーのいざこざを持ち込まんでほしいわ。ま、いざとなったらこのアカネちゃんがキュートに撃退してやるさかい安心しぃ。な、おじいちゃん」

 

「いやはや、若い人は気概に満ちていていい。私なんかはもう怖くて」

 

「大丈夫やって、おじいちゃん相当強いんやから。このアカネちゃんの次くらいには」

 

 今回のジョウトのジムリーダーの棟梁。チョウジジムのジムリーダーであるヤナギは車椅子に乗っているごく普通のおじいちゃんだ。 

 

「わ、頼もしいなあ。流石はジムリーダー様だ」

 

「ふふん、そやろそやろ」

 

 アカネちゃんは得意げに鼻を鳴らすと、だから、と言葉を続けた。

 

「うちらに話を聞いても無駄やで。時間が」

 

「とはいえ、形だけでも聞き取りしないと。不公平だって言われたらたまんないですよ」

 

「む、それもそうか」

 

「・・・正直、俺としてはスイクンの方が気になるがな」

 

 なんとなく、緊張感は失われてしまった。もう仮面の男の話ではなくなってしまうほどには。

 ここらが潮時かな。アカネちゃんの発言を一々取り締まるわけにもいかない。僕に対しての変な不信感はできるだけ抱かせたくないからね。

 あの流れを残念ながら今の僕じゃあ止められなかった。と、いうことだろう。

 

「ほう、スイクン」

 

 シジマの発言にマツバも興味を示したようで先を促す。

 

「一度、我がジムにも訪れてな。コテンパンにしてやられたよ」

 

「ふふ、アナタのところにも行っていたのか。どうやらジムリーダーと対戦して回っているという噂は本当だったようだな」

 

「お前の元にも来たのか」

 

「ええ、結果はお察しの通りですけどね」

 

 ほーらもう、スイクン談義に花咲かせちゃって。仮面の男談義に満開の花を咲かせてほしいんですけどねこっちは。

 まあいいさ、カントーだって成果としてはどっこいどっこいだ。

 

「んんっ。皆さんどうやら集中力がなくなってきたらしい。そろそろエキビションマッチも始まる頃ですし。今回はこれで終了ということで」

 

 僕の締めのあいさつめいたものを皮切りにやっと終わったとばかりに各々会議室から退出していく。

 

「やあ、カラー君だったかな」

 

「ええ、なんです?マツバさん。この間の借りだってんなら後にしてください」

 

 そんな中で声をかけてきたマツバは優男らしく爽やかな笑みと共に会話を続ける。

 

「ああ、まあそれもあるが」

 

 あるんかい。

 心の中で僕はそうつっこみマツバの言葉を待つ。

 

「いやなに、俺もこの会場に入った時から妙な違和感を感じている。君の話を聞いてその正体がわかったよ」

 

 俺も気を付けて周囲を探ろう。

 ポンと、肩をたたいてそれだけ言うとマツバは他の皆と同様、部屋を後にしていった。

 

「へっ。キザな野郎だ」

 

 なんとなく気に食わない。人を食ったようなその笑顔が。

 同族嫌悪ってやつかな?

 

「あ、あの。カラー君」

 

「ん?なんだ、ミカンちゃん。君もまだ残ってたのかい?エキビションマッチまでもう時間ないぜ?」

 

「うん、わかってるんだけど。あのね」

 

「?」

 

「無理、しないでね」

 

 少しだけ悲しい笑顔でそう言ったミカンちゃんは小走りで僕の横を抜けてった。

 

「・・・なんじゃそりゃ」

 

 わかったような口で、悟ったような事言わないでほしいなあ。

 

「・・・そろそろクリスと合流するか」

 

 結局収穫はゼロに等しい。何かを見つけたわけでもない。

 時間の無駄と言われればそれまでだが、それがわかるのは事件が終息した後だ。

 後ろ手に誰もいなくなった会議室を閉め、僕は一つため息をつく。

 やれることはやった。後は”奴さんが動いてくれるかどうか”。

 

「で、君の方はどうだったんだい?クリス」

 

「うん。なんにも成果はなかった。結構探したんだけど」

 

「そうかい・・・」

 

 いつの間にか僕の目の前にたっていたクリスと共に二人とも暗い表情になる。ここまで手応えがないとしょうがないか。

 

「あ、一つだけ関係ないことだけど」

 

「いいよ、この際、面白話でもなんでもこの鬱屈とした気分を晴らしてくれんならね」

 

「面白いかどうかはわかんないけど、ヤナギ老人の部屋に二匹のラプラスと若い頃のヤナギ老人が映った写真があって。ヤナギ老人がすっごい若かった」

 

「あー、すっごい。ほーんとにどーでもいい話だわ」

 

 なにをのほほんとしたトークをしてるのかこの子は。肝が据わってると言ってほしいのかな。

 

「もういいよ、クリス。君はゴールドと合流しな。後は自分たちで考えてやってね」

 

「か、カラーはどうするの?」

 

「僕は一人で自由気ままにやらせてもらうさ。どうせここまで後手に回っちゃやることも少ないだろうしね」

 

 まったく気乗りしないったらないぜ。いくらセレビィのためとはいえ、もうちょっと接戦になんないとやる気が出ないってもんだ。

 

 じゃあ、時間もないことだしってんでクリスとはここでお別れした。

 バイバイと手を振って、僕は一人声を張る。

 

「で?さっきから何をこそこそしてるんだい?”ブルー”」

 

「・・・なーんだばれてたのか」

 

 ぺろっと舌を出して悪びれた様子など一切ない彼女は、廊下の陰からすっと覗かせた。

 ブルーがこれからの鍵になるともこの頃の僕は知らずに。

 しかしそれはまた次のお話で。

 

 

 




どうも!狼と香辛料!高宮です。
さて、前回八月が終わると話してたら九月が終わります。どうなってんだこれ。俺だけおかしくない?俺だけ精神と時の部屋に入り損ねてない?
というわけで次回は修行してスーパーゴテンクスになって帰ってくるので待っていてください。
次回もよろしくお願いします。

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